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判決言渡平成19年1月30日
平成18年(行ケ)第10266号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年1月25日
判決
原告ビーピーケミカルズリミテッド
訴訟代理人弁理士浜田治雄
被告特許庁長官
中嶋誠
指定代理人井出隆一
同舩岡嘉彦
同唐木以知良
同内山進
主文
1特許庁が不服2002−1660号事件について平成18年1月3
1日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
本件は,原告が後記特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを
不服として審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたので,その取
消しを求めた事案である。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成3年8月28日,名称を「気相重合方法」とする発明につい
て,優先権(優先日1990年[平成2年]8月31日フランス)を主張
して特許出願をし(以下「本願」という。特願平3−216968号。公開
特許公報は特開平4−234406号[甲1]。請求項1∼12),平成1
3年7月16日付けで明細書を補正した(以下「本件補正」という。甲7)
が,平成13年10月30日拒絶査定を受けた。そこで,原告は,平成14
年2月4日付けで不服の審判請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2002−1660号事件として審理した上,
平成18年1月31日,「本件審判の請求は,成り立たない」旨の審決を行
い,その謄本は平成18年2月8日原告に送達された。
(2)発明の内容
本件補正後の特許請求の範囲は,請求項1∼12から成り,そのうち
請求項1(以下,請求項1に記載された発明を「本願発明」という。下
線部は補正部分)は,次のとおりである。
「2∼12の炭素原子を有するα−オレフィンを連続重合するに際し,気
相重合反応器中にて,重合に供するα−オレフィンを含有する気相反応混合
物と,元素の周期表のIV,VまたはVI族に属する遷移金属の少なくとも
1つの化合物からなる固体触媒および周期表のIIまたはIII族に属する
金属の少なくとも1つの有機金属化合物からなる助触媒よりなるチーグラー
・ナッタ型の触媒系とを接触させることによりこれを行い,重合反応器に前
記重合の間一定速度でα−オレフィンを供給することを特徴とする連続重合
方法。」
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別紙審決写しのとおりである。その理由の要点は,
本願発明は,特開平2−55704号公報(公開日平成2年2月2
6日。以下「引用例1」という。)の特許請求の範囲(4)に記載され
た方法(以下「引用方法」という。)と実質的に同一であるから,特許
法29条1項3号により特許を受けることができない,というもので
ある。
イなお,審決は,本願発明と引用方法の一致点と一応の相違点を次のとお
り認定している。
〈一致点〉
「2∼12の炭素原子を有するα−オレフィンを連続重合するに際し,気
相重合反応器中にて,重合に供するα−オレフィンを含有する気相反応混
合物と,元素の周期表のIV,VまたはVI族に属する遷移金属の少なく
とも1つの化合物からなる固体触媒および周期表のIIまたはIII族に
属する金属の少なくとも1つの有機金属化合物からなる助触媒よりなるチ
ーグラー・ナッタ型の触媒系とを接触させる連続重合方法」である点
〈一応の相違点〉
本願発明では「重合反応器に前記重合の間一定速度でα−オレフィンを供
給する」とされているが,引用方法(引用例1)ではそれが明記されてい
ない点
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決の認定判断には,次のとおり誤りがあるから,違法
として取り消されるべきである。
ア取消事由1(一致点・相違点の認定判断の誤り)
(ア)審決は,引用方法の「重合化されるべきオレフィン類から成るガス
状反応混合物」は,本願発明における「α−オレフィンを含有する気相
反応混合物」に相当するものである,と認定判断している(5頁下1行
∼6頁2行)。
しかし,引用方法の「重合化されるべきオレフィン類から成るガス状
反応混合物」は,引用例1の特許請求の範囲(4)のとおり,流動床の
固体粒子を流動化状態に保持し,その後,反応器を介して出て,次いで
循環ラインにより反応器の底部に戻るものであって,「元素の周期表の
第II又はIII族に属する金属の有機金属化合物で,3∼12個の炭
素原子を含む少なくとも一つの液体オレフィン類との混合物又は溶液と
して,循環ライン中において熱交換器の上流に又は熱交換器の少なくと
も一つの上流に導入されたもの」を含んでいると解される。
一方,本願発明における「α−オレフィンを含有する気相反応混合
物」は,気相重合反応器中にて,「元素の周期表のIV,VまたはVI
族に属する遷移金属の少なくとも1つの化合物からなる固体触媒および
周期表のIIまたはIII族に属する金属の少なくとも1つの有機金属
化合物からなる助触媒よりなるチーグラー・ナッタ型の触媒系と接触さ
せる」ものであり,本願の公開特許公報(甲1)段落【0017】のと
おり,α−オレフィン,水素及び不活性ガス(窒素,メタン,エタン,
プロパン,ブタン,イソブタン)からなるものである。
したがって,審決の上記認定判断には誤りがある。
(イ)審決は,「更に,引用方法において重合に用いる『チーグラー−ナ
ッタ型の触媒』は具体的には『本質的にマグネシウム,ハロゲン,及び
チタン及び/又はバナジウムの原子から成る』ものであるから,本願発
明における『元素の周期表のIV,VまたはVI族に属する遷移金属の
少なくとも1つの化合物からなる固体触媒』に相当するものである。そ
して,引用方法においては,『元素の周期表の第II又はIII族に属
する金属の有機金属化合物』が循環ラインを介して反応器に供給されて
反応器中で重合反応に関与するものと解され,これはチーグラー−ナッ
タ型触媒の助触媒として作用するもの(摘示記載(カ))であるから,
本願発明における『周期表のIIまたはIII族に属する金属の少なく
とも1つの有機金属化合物からなる助触媒』に相当するものということ
ができる。」と認定判断している(6頁5行∼16行)。
しかし,引用方法の「元素の周期表の第II又はIII族に属する金
属の有機金属化合物」と本願発明の「周期表のIIまたはIII族に属
する金属の少なくとも1つの有機金属化合物からなる助触媒」とでは,
導入場所が異なり,そのため,α−オレフィンとの接触のタイミングが
大きく異なっている。
したがって,審決の上記認定判断には誤りがある。
(ウ)審決は,「本願発明と引用方法とは,ともに,『2∼12の炭素原
子を有するα−オレフィンを連続重合するに際し,気相重合反応器中に
て,重合に供するα−オレフィンを含有する気相反応混合物と,元素の
周期表のIV,VまたはVI族に属する遷移金属の少なくとも1つの化
合物からなる固体触媒および周期表のIIまたはIII族に属する金属
の少なくとも1つの有機金属化合物からなる助触媒よりなるチーグラー
・ナッタ型の触媒系とを接触させる連続重合方法』である点で一致す
る」と認定判断している(6頁17行∼24行)。
しかし,上記(ア),(イ)のとおり,本願発明と引用方法とは,「2∼
12の炭素原子を有するα−オレフィンを連続重合する連続重合方法」
である点は一致するものの,その他は一致しない。
したがって,審決の上記認定判断には誤りがある。
イ取消事由2(一応の相違点についての認定判断の誤り)
(ア)審決は,「引用例1には,『…有機金属化合物と液体オレフィンと
から成る混合物又は溶液は,有機金属化合物を,重量で0.005%と
5%の間,好適には0.005%と1%の間含むのが良く,かつ実質的
に一定速度で循環ライン中に導入されるのが良く,その速度は,ガス反
応混合物中の前記オレフィンのモルパーセントが時間に関して一定でか
つ望みの重合体品質を与えるように決定される』(摘示記載(オ))と
記載され,炭素数3以上のα−オレフィンを循環ライン中に一定速度で
供給することが開示されている。」と認定判断している(6頁下10行
∼下1行)。
引用例1の「ガス反応混合物中の前記オレフィンのモルパーセントが
時間に関して一定」とは,時間に対して常に一定に保持されなくてはな
らない量が,ガス反応混合物中のオレフィンのモルパーセントであるこ
とを意味している。ガス反応混合物中に存在するオレフィンの量は不純
物や状態変化等が原因で変化に富んだ速度(すなわち,時々速い速度
で,時々ゆっくりとした速度)で消費され得るので,このガス反応混合
物中のオレフィンのモルパーセントを一定に保つためには,供給するオ
レフィンの速度を完全なる一定ではなく変動させる必要がある。したが
って,「ガス反応混合物中の前記オレフィンのモルパーセントが時間に
関して一定」とは,オレフィン供給速度は一定ではないということを意
味している。
以上のとおり,引用例1には「炭素数3以上のα−オレフィンを循環
ライン中に一定速度で供給すること」は何ら開示されていないにもかか
わらず,「開示されている」とする上記認定判断には誤りがある。
(イ)審決は,「また,炭素数2のエチレンについては,引用例1の実施
例1には『ガス反応混合物は,容量で,30%のエチレン,6%の水
素,57%の窒素,6%の4−メチルペンテン−1及び1%のエタンを
含み,これは,2Mpaの総圧力下に,0.5m/sの速度で流動床を
上昇した』(摘示記載(ク))と記載されており,このように流動床を
上昇する速度,言い換えれば反応器への供給速度を『0.5m/s』と
いう具体的数値で示している以上,重合反応の間,この数値が経時的に
維持された状態,即ち,一定の速度が保たれて供給が行われるものと解
するのが相当である。」と認定判断している(7頁1行∼8行)。
しかし,ガス反応混合物中の不純物や状態変化等が原因で変化に富ん
だ速度で重合の間消費され得るエチレンの量を30%と一定に保持する
ために,その供給速度は変動させる必要があるから,ガス反応混合物全
体が流動床を上昇する速度「0.5m/s」を,エチレンの反応器への
供給速度「0.5m/s」と言い換えることは誤っている。
したがって,審決の上記認定判断には誤りがある。
(ウ)審決は,「また,引用例1の『循環ライン(5)中に開口している
ライン(13)は,ガス反応混合物の成分において,このガス混合物の
組成と圧力を一定に保持することを可能にして供給する為のラインであ
る。』(摘示記載(キ))との記載からみて,ガス反応混合物の組成は
一定に保持されているものと解される。そして,上記のようにエチレン
を含むガス反応混合物が流動床を一定速度で上昇し,しかもその組成が
一定に保持されている以上,エチレンは一定の速度で重合反応器に供給
されるものというほかはない。してみれば,炭素数2のエチレン及び炭
素数が3以上のα−オレフィンのいずれについても,一定速度でオレフ
ィンを供給することが引用例1に実質的に記載されているということが
できる。そうすると,本願発明における(あ)の『重合反応器に前記重
合の間一定速度でα−オレフィンを供給する』点は,引用例1に実質的
に記載されているものというべきであり,本願発明と引用方法とがこの
点で相違するものとすることができない。」と認定判断している(7頁
9行∼22行)。
上記摘示記載(キ)から,引用方法ではライン(13)によってガス
反応混合物はその圧力が一定に保持されて重合反応器に供給されている
ことが明らかである。したがって,本願発明の特徴事項である「α−オ
レフィンを一定速度で供給する」結果もたらされる「気相反応混合物の
全圧および/または重合反応器中のα−オレフィンの分圧の変動」が引
用方法では起こっていない。
また,上記摘示記載(キ)から,引用方法ではライン(13)によっ
てガス反応混合物はその組成が一定に保持されて重合反応器に供給され
ていることが明らかであるところ,不純物や状態変化等が原因で変化に
富んだ速度で重合の間消費され得るガス反応混合物中のオレフィンの量
を一定に保持してガス反応混合物の組成を一定に保持するためには,オ
レフィンの供給速度を変動させる必要があり,これをライン(13)が
制御していることが,上記摘示記載(キ)から明らかである。
一方,本願の公開特許公報(甲1)段落【0020】には,「この反
応器は,ライン8を介して系に入るエチレンの流速を一定とするように
して操作する。」との記載が存在する。
したがって,引用例1の「ガス混合物の組成と圧力を一定に保持す
る」ライン(13)は,本願発明の「系に入る流速を一定とする」ライ
ン8と,反応器への供給方法が明らかに異なる。
審決の「そして,上記のようにエチレンを含むガス反応混合物が流動
床を一定速度で上昇し,しかもその組成が一定に保持されている以上,
エチレンは一定の速度で重合反応器に供給されるものというほかはな
い。」(7頁13行∼15行)との上記認定判断は,ガス反応混合物中
のエチレンの量が不純物や状態変化等が原因で変化に富んだ速度で重合
の間消費され得る事実を無視したものであるから,誤りである。
以上により,審決の「炭素数2のエチレン及び炭素数が3以上のα−
オレフィンのいずれについても,一定速度でオレフィンを供給すること
が引用例1に実質的に記載されているということができる。そうする
と,本願発明における(あ)の『重合反応器に前記重合の間一定速度で
α−オレフィンを供給する』点は,引用例1に実質的に記載されている
ものというべきであり,本願発明と引用方法とがこの点で相違するもの
とすることができない。」(7頁16行∼22行)との上記認定判断も
誤りである。
(エ)審決は,原告が,審尋に対する回答書(甲12)中で,「…引用例
1に記載された方法におけるα−オレフィンの供給速度は『実質的に一
定』であるから本願発明とは相違する旨主張している…」と認定判断し
ている(7頁下12行∼下11行)。
しかし,原告の審尋に対する回答書中での主張は,引用例1では,ガ
ス反応混合物中のオレフィンのモルパーセントを時間に関して一定にす
るために「実質的に一定速度」にてα−オレフィンを供給しており,本
願発明とは異なる,というものであり,単に「引用例1に記載された方
法におけるα−オレフィンの供給速度は『実質的に一定』であるから本
願発明とは相違する」というものではない。
したがって,審決の上記認定判断には誤りがある。
(オ)審決は,「『5%』という変動幅を許容された供給速度はまさに『
実質的に一定』の範疇に属する供給速度というべきであり,仮に『5%
をこえて変動しない一定速度』であることを規定する補正がなされたと
しても,補正後の本願発明と引用方法との間に,依然として実質的差異
はない。」と認定判断している(7頁下11行∼下7行)。
しかし,「5%をこえて変動しない一定速度」であることを規定する
補正がなされれば,本願発明の「一定速度」が具体的に規定されるの
で,補正後の本願発明と引用方法との間の実質的差異が更に明確になる
ものと思料する。
したがって,審決の上記認定判断には誤りがある。
ウ取消事由3(効果についての判断の誤り)
審決は,「また,審判請求人は,本願発明はホットスポットが出現した
り,生成重合体の凝集物が形成したりすることがないという効果を奏する
旨主張するが,引用例1には『更に,熱交換器中における,及び特に流動
化格子を含めて流動床反応器の底部における粘着現象は,本発明の装置に
より実質的に削減される。有機金属化合物の分散は,流動床全部に亙り極
めて均一であり,その結果,流動床中のホットスポットと熔融重合体の凝
集の形成は,削減されかつ一般的に防止されることも分かる』(摘示記載
(エ))及び『共重合化を停止することを必要とするブロッキングは,約
1ケ月の製造の後の装置に見い出されなかった』(摘示記載(ク))と記
載されており,ホットスポットや凝集物の生成防止という効果は引用方法
においても発現されており,本願発明に特有のものとすることができな
い。」と認定判断している(7頁下6行∼8頁5行)。
しかし,上記摘示記載(エ)からも明らかなように,引用例1の効果
は,特に流動化格子を含めて流動床反応器の底部における粘着現象を削減
するものであり,一方,本願発明の効果は,本願の公開特許公報(甲1)
段落【0008】に「本発明によれば,気相重合反応は,α−オレフィン
を一定速度で供給する反応器中で行う必要があり,この結果,気相反応混
合物の全圧および/または重合反応器中のα−オレフィンの分圧が変動す
る。本発明の方法により,重合の進行中の変動に拘わらず重合反応の効率
的な制御が可能となり,これによりホットスポットおよび凝集物の形成が
回避されることが分った。よって,この熱の量の増加または減少は,α−
オレフィンの分圧の減少または増加によりそれぞれ自動的に打ち消される
ことが認められた。更に詳しくは,気相反応混合物または触媒の成分の品
質に僅かな変動が起こった場合,α−オレフィンの分圧の変動によって重
合速度が制御されることも分った。この方法の1つの利点は,重合の進行
における不可避の変動によるホットスポットおよび凝集物の形成を過度に
懸念することなく重合体を製造できることである。気相反応混合物の圧力
変動の観点では,この方法の他の利点は,均一な品質の重合体を製造する
ことができることである。この方法の他の利点は,α−オレフィンの供給
速度によって重合が直接制御されることである。有利には,流量制御系に
より重合に際して後者を一定に維持する。」と記載されているように,重
合条件の小さな変動によって生起する重合反応放出熱量の予期せぬ増加
が,気相反応混合物の全圧及び/又は重合反応器中のα−オレフィンの分
圧の変動によって自動的に打ち消され,ホットスポット及び凝集物の形成
が回避されるというものであり,その結果,重合の進行における不可避の
変動によるホットスポット及び凝集物の形成を過度に懸念することなく重
合体を製造することができ,さらに,α−オレフィンの供給速度によって
重合が直接制御されることになる。このような効果について引用例1には
何ら開示も示唆もない。
したがって,審決の上記認定判断には誤りがある。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論
(1)取消事由1に対し
本願発明と引用方法とはともに「2∼12の炭素原子を有するα−オレフ
ィンを連続重合する連続重合方法」である点で一致しており,このようなα
−オレフィンを気相重合反応器(引用方法における流動床反応器)中で重合
させる点でも一致している。
引用例1(甲3)には,「循環ライン中に液体オレフィンと共に導入され
る有機金属化合物は,チーグラー−ナッタ型の触媒が使用される時には,助
触媒として,又は酸化クロムを基とする触媒が使用される時には,活性化剤
としてのいずれかに使用されて良い」(5頁右上欄19行∼左下欄4行),
「固体又は被覆触媒又はプレポリマー化触媒の形態の固体触媒は,そのま
ま,又は触媒の予備活性剤として少量使用される他の有機金属化合物と共に
流動床反応器中に導入されるのが良い。予備活性剤としての後者は,循環ラ
イン中へ導入される物と同一又は異なって良い」(5頁右下欄14行∼19
行)と記載されており,循環ライン中に液体オレフィンと共に導入される有
機金属化合物は助触媒として機能するものであり,流動床反応器中にこれと
同一又は異なる有機金属化合物が,予備活性剤,すなわち助触媒として導入
されることが記載されているから,流動床反応器中に固体触媒と有機金属化
合物助触媒とが併存することが明示されている。
そして,引用方法におけるチーグラー−ナッタ型の触媒は,本質的にマグ
ネシウム,ハロゲン,及びチタン及び/又はバナジウムの原子から成り,固
体触媒として使用される(引用例1の特許請求の範囲(5))ところから,
本願発明における「元素の周期表のIV,VまたはVI族に属する遷移金属
の少なくとも1つの化合物からなる固体触媒」に相当するものである。
したがって,引用方法においても,本願発明と同様に,流動床反応器中
で,「α−オレフィンを含有する気相反応混合物」と,「元素の周期表のI
V,VまたはVI族に属する遷移金属の少なくとも1つの化合物からなる固
体触媒および周期表のIIまたはIII族に属する金属の少なくとも1つの
有機金属化合物からなる助触媒」とが接触して重合反応が行われるのであ
る。
そうすると,審決の一致点の認定に誤りはない。
原告は,「引用方法における『重合化されるべきオレフィン類から成るガ
ス状反応混合物』は,…周期表の第II又はIII族に属する金属の有機金
属化合物を含んでいるのに対して,本願発明における『α−オレフィンを含
有する気相反応混合物』は,…α−オレフィン,水素及び不活性ガスからな
るものである。」,「引用方法の『元素の周期表の第II又はIII族に属
する金属の有機金属化合物』と本願発明の『周期表のIIまたはIII族に
属する金属の少なくとも1つの有機金属化合物からなる助触媒』とでは,導
入場所が異なり,α−オレフィンとの接触のタイミングが大きく異なってい
る。」と主張するが,本願の特許請求の範囲には,気相重合反応器に導入す
るα−オレフィンが助触媒である有機金属化合物を含んでいるか否か,及
び,助触媒の導入場所等について何ら限定されておらず,これらは特許請求
の範囲の記載に基づかない主張である。
(2)取消事由2に対し
ア原告は,引用方法において,「ガス反応混合物中に存在するオレフィン
の量は不純物や状態変化等が原因で変化に富んだ速度で消費され得る」と
主張するが,このようなことは,引用例1には何ら記載されておらず,引
用方法において,具体的にどの程度のオレフィン消費速度の変動が生じ得
るのかについても,引用例1に全く記載がないのはもとより,それを推測
し得る客観的根拠もない。
また,原告は,「ガス反応混合物中の前記オレフィンのモルパーセント
が時間に関して一定」という引用例1の記載をことさら強調して,「この
ガス反応混合物中のオレフィンのモルパーセントを一定に保つためには,
供給するオレフィンの速度を完全なる一定ではなく変動させる必要があ
る。」と主張しているが,通常の操業状態において,供給原料混合物の成
分組成を一定に保ちつつ混合物を一定速度で反応器に供給すれば,混合物
中の特定成分もまた一定速度で反応器に供給されることになるのは自明で
あるから,「ガス反応混合物中のオレフィンのモルパーセントを一定に保
つ」との引用例1の記載は,ガス反応混合物の成分組成を一定に保つこと
により反応器へのオレフィン等の供給速度を一定に維持するという,ごく
普通のことを述べたものにすぎず,供給するオレフィンの速度を変動させ
てもオレフィンのモルパーセントを一定に保持すべきことまで,意味する
ものではない。
そして,引用例1には「有機金属化合物と液体オレフィンとから成る混
合物又は溶液は,…実質的に一定速度で循環ライン中に導入されるのが良
く」(摘示記載(オ))及び「循環ライン(5)に開口しているライン
(13)は,ガス反応混合物の成分において,このガス混合物の組成と圧
力を一定に保持することを可能にして供給する為のラインである。」(摘
示記載(キ))と記載されており,これらの記載からは,当業者には,一
定の組成に調整されたガス反応混合物が一定速度で循環ラインから反応器
に供給されるとしか読み取ることができない。重合反応器から排出される
循環ガス流の組成を測定し,反応域内に定常状態のガス状組成物を維持す
るように補給流の組成及び量を調整した上で重合反応器に戻すことは普通
に行われている(乙1[特開昭61−106608号公報]7頁右上欄1
4行∼18行,乙4[特公昭61−363号公報]9頁17欄41行∼1
8欄6行,乙5[特公昭50−32110号公報]9頁18欄12行∼2
1行参照)のであり,引用例1に記載されたライン(13)もまさにその
ようにして循環管路中に補給気体を供給するためのラインであることが明
らかである。
したがって,引用方法につき「ガス反応混合物中のオレフィンのモルパ
ーセントを一定に保つためには,供給するオレフィンの速度を完全なる一
定ではなく変動させる必要がある。」とした原告の主張は妥当性を欠くも
のである。
イ原告は,「ガス反応混合物中の不純物や状態変化等が原因で変化に富ん
だ速度で重合の間消費され得るエチレンの量を30%と一定に維持するた
めに,その供給速度を変化させる必要があるから,ガス反応混合物全体が
流動床を上昇する速度である『0.5m/s』をエチレンの反応器への供
給速度と言い換えることは誤りである」旨の主張をしている。
しかし,「ガス反応混合物中の不純物や状態変化等が原因で変化に富ん
だ速度で重合の間消費され得るエチレンの量を30%と一定に維持するた
めに,その供給速度を変化させる必要がある。」との主張が妥当なもので
はないことは上記アのとおりであり,ガス反応混合物中の組成が規定さ
れ,しかも混合物全体の供給速度が設定されている以上,混合物中の一成
分であるエチレンについても一定速度で反応器に供給されるものと解釈す
る外はない。
また,ガス反応混合物の供給速度が「0.5m/s」という具体的な数
字で示されているということは,実施例においてこの数値でガス反応混合
物が供給されるように操作条件が設定され,重合の間,それが維持された
ことを意味するものと解するのが相当であり,本願発明と同様,「重合の
間一定の速度でα−オレフィンを供給する」ことが引用例1に実質的に記
載されているものというべきである。
流動床重合反応器においてガス反応混合物を特定の速度で供給すること
は,本件特許の出願前に当業界で周知であった(乙1の表3[13頁左上
欄],乙2[特開昭64−87604号公報]9頁左上欄9行∼13行,
乙3[特開平1−151933号公報]9頁左上欄5行∼17行参照)の
であり,特に,引用例1と同一出願人(原告ビーピーケミカルズリミ
テッド)の出願に係る乙2及び乙3に,ガス反応混合物の上昇速度が引用
例1の実施例と一致する「0.5m/s」である流動床を用いた重合反応
においてガス反応混合物を特定の供給速度とすることが記載されているこ
とによっても,引用例1に記載された実施例においてガス反応混合物を特
定の供給速度とすることが裏付けられているものということができる。
ウ原告は,引用例1の「循環ライン(5)中に開口しているライン(1
3)は,ガス反応混合物の成分において,このガス混合物の組成と圧力を
一定に保持することを可能にして供給する為のラインである。」との記載
について,「引用方法ではライン(13)によってガス反応混合物はその
組成が一定に保持されて重合反応器に供給されていることが明らかである
ところ,そのためには,オレフィンの供給速度を変動させる必要があり,
これをライン(13)が制御している。」,「審決の『そして,上記のよ
うにエチレンを含むガス反応混合物が流動床を一定速度で上昇し,しかも
その組成が一定に保持されている以上,エチレンは一定の速度で重合反応
器に供給されるものというほかはない』との認定判断は,ガス反応混合物
中のエチレンの量が不純物や状態変化等が原因で変化に富んだ速度で重合
の間消費され得る事実を無視したものであるから誤りである。」と主張す
るが,これらの主張は,「ガス反応混合物中に存在するオレフィンの量
は,不純物や状態変化等が原因で変化に富んだ速度で(すなわち,時々速
い速度で,時々ゆっくりとした速度で)消費されるので,このガス反応混
合物中のオレフィンのモル%を一定に保つためには,供給するオレフィン
の速度を,完全なる一定ではなく変動させる必要がある。」との考えを前
提とするものであり,この前提が誤りであることは上記アのとおりであ
る。
また,原告は,引用例1の上記記載について,「引用方法ではライン
(13)によってガス反応混合物は圧力が一定に保持されて重合反応器に
供給されていることが明らかであり,本願発明の特徴事項である『α−オ
レフィンを一定速度で供給する』結果もたらされる『気相反応混合物の全
圧および/または重合反応器中のα−オレフィンの分圧の変動』が引用方
法では起こっていないことが明らかである。」と主張するが,本願発明に
おいては重合反応器へのα−オレフィンの供給について,単に「α−オレ
フィンを一定速度で供給する」と規定されているのみであり,それによっ
て,「気相反応混合物の全圧および/または重合反応器中のα−オレフィ
ンの分圧の変動」が起こることは本願発明の構成要件とはされていないの
であるから,引用方法においてこのようなことが起こらないことをもっ
て,引用方法が本願発明とは異なるものであるとすることはできない。
さらに,原告は,引用例1の上記記載について,「引用例1の『ガス反
応混合物の組成と圧力を一定に保持する』ライン(13)は,本願発明の
『系に入る流速を一定とする』ライン8と,反応器への供給方法が明らか
に異なる。」と主張する。しかし,引用例1には,ライン(13)につい
て,上記のとおり「ガス反応混合物の成分において,このガス混合物の組
成と圧力を一定に保持することを可能にして供給する為のラインであ
る。」と記載されており,この作用により,実施例に「ガス反応混合物
は,容量で,30%のエチレン,6%の水素,57%の窒素,6%の4−
メチルペンテン−1及び1%のエタンを含み,これは2MPaの総圧力下
に,0.5m/sの速度で流動床を上昇した」(審決の摘示記載(ク),
審決4頁下11行∼下9行)と記載されているように,「0.5m/s」
という特定の数値で表されるような流速,すなわち一定速度でガス反応混
合物が反応器に供給されるものである。
したがって,引用例1のライン(13)と本願発明の「系に入る流速を
一定とする」ライン8とでは反応器への供給方法が異なるということはで
きない。また,反応器への具体的な供給方法は本願の特許請求の範囲には
何ら規定されていないから,原告のこの主張は,特許請求の範囲の記載に
基づかない主張である。
エ以上のとおりであるから,審決における「してみれば,炭素数2のエチ
レン及び炭素数が3以上のα−オレフィンのいずれについても,一定速度
でオレフィンを供給することが引用例1に実質的に記載されているという
ことができる。そうすると,本願発明における(あ)の『重合反応器に前
記重合の間一定速度でα−オレフィンを供給する』点は,引用例1に実質
的に記載されているものというべきであり,本願発明と引用方法とがこの
点で相違するものとすることができない。」(7頁16行∼22行)との
判断に誤りはない。
さらに付言すれば,本願発明において規定された,「一定速度での反応
原料の供給」という手法は,コンピュータ制御などにより供給速度を意図
的に変化させる特別な手だてをとらない限り,通常の化学装置において採
用されているものにすぎず,定常的な安定操業を目指す以上,当然のこと
というべきである。
オ原告は,「原告の審尋に対する回答書中での主張は,引用例1では,ガ
ス反応混合物中のオレフィンのモルパーセントを時間に関して一定にする
ために『実質的に一定速度』にてα−オレフィンを供給しており,本願発
明とは異なる,というものであり,『5%をこえて変動しない一定速度』
であることを規定する補正がなされれば,本願発明の『一定速度』が具体
的に規定されるので,補正後の本願発明と引用方法との間の実質的差異が
更に明確になるものと思料する。」と主張する。
しかし,引用例1には「実質的に一定速度」にてα−オレフィンを供給
することが記載されているのであり,一方,本願発明におけるα−オレフ
ィンの供給速度が,仮に補正によって「5%をこえて変動しない一定速
度」であると特許請求の範囲に規定されたとしても,その変動幅は引用例
1の「実質的に一定」と同程度のものと解するのが相当であり,このよう
な補正が行われたとしても,依然として本願発明と引用方法との間に実質
的差異はない。したがって,その旨の審決の判断に誤りはない。
(3)取消事由3に対し
審決は,本願発明は引用方法と同一であり,本願発明は引用例1に記載さ
れた発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることが
できない,というものであり,本願発明が奏する効果は引用方法においても
当然生ずるものである。
審決における「引用例1には『更に,熱交換器中における,及び特に流動
化格子を含めて流動床反応器の底部における粘着現象は,本発明の装置によ
り実質的に削減される。有機金属化合物の分散は,流動床全部に亙り極めて
均一であり,その結果,流動床中のホットスポットと熔融重合体の凝集の形
成は,削減されかつ一般的に防止されることも分かる』(摘示記載(エ))
及び『共重合化を停止することを必要とするブロッキングは,約1ケ月の製
造の後の装置に見い出されなかった』(摘示記載(ク))と記載されてお
り,ホットスポットや凝集物の生成防止という効果は引用方法においても発
現されており,本願発明に特有のものとすることができない。」(7頁下4
行∼8頁5行)との判断は,このことを念のために指摘したものにすぎず,
原告が述べているような理由付けのいかんにかかわらず,本願発明と引用方
法とが同様の効果を生ずることは明らかである。
したがって,審決の効果に関する判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2本願発明の意義について
(1)本件補正後の明細書(甲1に甲7の補正をしたもの。以下「本願明細
書」という。)には,「特許請求の範囲」【請求項1】として,前記第3の
1(2)の記載があるほか,「発明の詳細な説明」として,以下の記載があ
る。
ア産業上の利用分野
「本発明は,α−オレフィンと,遷移金属を基材とする触媒とを供給する
気相重合反応器中で行うα−オレフィンの重合方法に関する。」(段落【
0001】)
イ従来の技術
「例えばエチレンまたはプロピレンのような1以上のα−オレフィンを気
相中で流動床または機械攪拌床を用いる反応器中にて,元素の周期表のI
V,VまたはVI族に属する遷移金属を基材とする触媒の存在下,特にチ
ーグラー・ナッタ型の触媒の存在下に連続的に重合させることが知られて
いる。形成される重合体粒子は,反応器に導入される1または複数のα−
オレフィンを含有する気相反応混合物中にて流動および/または攪拌状態
に維持される。触媒が反応器に連続的または断続的に導入される一方,流
動および/または機械攪拌床を構成する重合体は反応器から同様に連続的
または断続的に抜き取られる。一般に,気相混合物は反応器の頂部を介し
て離間し,リサイクル導管およびコンプレッサを介して反応器にリサイク
ルされる。このリサイクルの間に気相混合物は熱交換器により一般に冷却
され,重合反応の際に生成した熱が除去される。」(段落【0002】)
「EP−A−376559号によれば,所定の操作条件を実質的に一定に
維持することにより気相重合プロセスを行うことが知られている。これ
は,気相反応混合物の主成分の分圧およびこの気相反応混合物の全圧を一
定に維持するプロセスの例である。しかしながら,この場合,重合の進行
中における小さな変動により,重合反応により放出される熱の量の予期せ
ぬ増加が生起することが分った。重合条件におけるこのような小さな変動
は,特に触媒または反応に用いるα−オレフィンの品質の避けられない僅
かな変動に起因しうるか,または触媒の供給速度または製造される重合体
の抜き取り速度,反応器中における重合体の滞留時間あるいは気相反応混
合物の組成の変動に起因しうる。…十分迅速かつ効率的に除去され得ない
熱の量が増加すると,床中のホットスポットの出現や溶融重合体により生
起する凝集物の形成が起こる。床中にホットスポットが出現すると,一般
に凝集物の形成を回避するには既に遅すぎることとなる。しかしながら,
反応条件が十分早めに修正された場合,例えば重合温度あるいは反応器へ
の触媒の供給速度が低減された場合,過剰活性化の有害な効果は制限され
得る。このような処置により,形成される凝集物の量や大きさをある程度
低減し得るが,製造の低下やこの時期に製造される重合体の品質の低下を
避けるのは可能ではない。その結果,このような不利益を回避することを
望む場合,ホットスポットや凝集物がなかなか形成しないように安全なマ
ージンをつけて重合条件を選択すべきことが一般に受入れられている。し
かしながら,このような条件下で操作すると,製造の実質的低下または製
造される重合体の品質の悪化を招く。」(段落【0003】)
「重合の進行中における変動は,高活性触媒を使用する場合に特に懸念さ
れる。その重合活性は,重合媒体中の少量の不純物の極めて小さな変動の
ために非常に顕著に変化しうるためである。…」(段落【0004】)
ウ発明が解決しようとする課題
「前記欠点を回避または少なくとも緩和することを可能とするα−オレフ
ィンの重合方法をこの度突き止めた。特に,この方法は,高い生産性かつ
均一な品質で重合体を連続的に製造することを可能とし,またこの方法
は,凝集物を形成することなく重合の進行中における小さな変動を吸収し
得るものである。」(段落【0005】)
エ課題を解決するための手段
「したがって本発明は,2∼12の炭素原子を有するα−オレフィンを連
続重合するに際し,気相重合反応器中にて,重合に供するα−オレフィン
を含有する気相反応混合物と,元素の周期表のIV,VまたはVI族に属
する遷移金属の少なくとも1つの化合物からなる固体触媒および周期表の
IIまたはIII族に属する金属の少なくとも1つの有機金属化合物から
なる助触媒よりなるチーグラー・ナッタ型の触媒系とを接触させることに
よりこれを行い,重合反応器に一定速度でα−オレフィンを供給すること
を特徴とする連続重合方法に関する。」(段落【0006】)
「本発明によれば,気相重合反応は,α−オレフィンを一定速度で供給す
る反応器中で行う必要があり,この結果,気相反応混合物の全圧および/
または重合反応器中のα−オレフィンの分圧が変動する。本発明の方法に
より,重合の進行中の変動に拘らず重合反応の効率的な制御が可能とな
り,これによりホットスポットおよび凝集物の形成が回避されることが分
った。よって,この熱の量の増加または減少は,α−オレフィンの分圧の
減少または増加によりそれぞれ自動的に打ち消されることが認められた。
更に詳しくは,気相反応混合物または触媒の成分の品質に僅かな変動が起
こった場合,α−オレフィンの分圧の変動によって重合速度が制御される
ことも分った。この方法の1つの利点は,重合の進行における不可避の変
動によるホットスポットおよび凝集物の形成を過度に懸念することなく重
合体を製造できることである。気相反応混合物の圧力変動の観点では,こ
の方法の他の利点は,均一な品質の重合体を製造することができることで
ある。この方法の他の利点は,α−オレフィンの供給速度によって重合が
直接制御されることである。…」(段落【0008】)
「重合は気相重合反応器中で連続的に行い,これは,それ自体公知の技術
およびフランス特許第2207145号またはフランス特許第23355
26号に記載されたように装置を使用する,流動および/または機械攪拌
床を用いる反応器とすることができる。この方法は,大規模な全ゆる工業
的反応器に特に適切である。一般に,気相反応混合物は反応器の頂部を介
して離間し,リサイクル導管およびコンプレッサを介して反応器にリサイ
クルされる。このリサイクルの間,一般に気相混合物を熱交換器により冷
却し,重合反応の際に生成した熱を除去する。重合反応は,一般に0∼1
20℃の温度で行う。」(段落【0016】)
「…気相反応混合物は,水素および例えば窒素,メタン,エタン,プロパ
ン,ブタン,イソブタンから選択される不活性ガスを含有し得る。…」
(段落【0017】)
オ実施例
「図面は流動床気相重合反応器1を概略的に示し,これは主として遊離隔
室3の上にあって下部に流動グリッド4および流動グリッドの下に位置
し,遊離隔室の頂部と反応器の下部とを接続するリサイクルライン5を備
える縦型シリンダ2よりなり,前記リサイクルラインは,熱交換器6,コ
ンプレッサ7並びにエチレン8,ブテン9,水素10および窒素11の供
給ラインを備える。また反応器は,プレポリマ供給ライン12および抜き
取りライン13を備える。この反応器は,ライン8を介して系に入るエチ
レンの流速を一定とするようにして操作する。」(段落【0020】)
(ア)実施例1高密度ポリエチレンの製造
「直径45cm,高さ6mの縦型シリンダよりなる図面に概略的に示す
ような流動床気相重合反応器中で操作を行った。」(段落【0022
】)
「流動グリッドの上に,反応器は,高さ2mを有し形成されるプロセス
において100kgの高密度ポリエチレン粉末よりなる95℃に維持さ
れた流動床を含む。気相反応混合物はエチレン,1−ブテン,水素,窒
素およびエタンを含有し,その圧力を1.95∼2.05Mpaとし,
この流動床を0.50m/sの上昇流動速度で通過するものとした。」
(段落【0023】)
「フランス特許第2405961号の実施例1に記載されたものと同一
の触媒を時間と共に反応器に断続的に導入した。前記触媒は…プレポリ
マに予め変換し…プレポリマの反応器への導入の速度は195g/hに
一定維持した。」(段落【0024】)
「重合に際し,25kg/時間の制御した一定速度でエチレンを反応器
に導入し,水素の分圧対エチレンの分圧の比を気相反応混合物中で0.
75に一定維持するよう水素を導入し,ブテン−1の分圧対エチレンの
分圧の比を気相反応混合物中で0.02に一定維持するようブテン−1
を導入した。」(段落【0025】)
「このような条件下で25kg/時間のポリエチレンを製造した。…数
日間に渡る連続重合で認められたことは,重合体の製造は25kg/時
間に一定維持されたことであり,凝集物の形成はなく,この方法により
製造される高密度ポリエチレンの品質は一定で非常に満足でき,重合条
件における変動によらず,特に触媒の活性の無差別的変動および気相反
応混合物のエチレン,ブテン−1および他の成分に起因する不純物の予
測できず容易に検出できない変化によらなかった。」(段落【0026
】)
(イ)実施例2線状低密度ポリエチレンの製造
「直径90cm,高さ6mの縦型シリンダよりなる図面に概略的に示す
ような流動床気相重合反応器中で操作を行った。流動グリッドの上に,
反応器は,高さ2.50mを有し形成されるプロセスにおいて450k
gの線状低密度ポリエチレン粉末よりなる80℃に維持された流動床を
含む。気相反応混合物はエチレン,1−ブテン,水素,窒素およびエタ
ンを含有し,その圧力を1.95∼2.05Mpaとし,この流動床を
0.50m/sの上昇流動速度で通過するものとした。」(段落【00
27】)
「フランス特許第2405961号の実施例1に記載されたものと同一
の触媒を時間と共に反応器に断続的に導入した。前記触媒は…プレポリ
マに予め変換し…プレポリマの反応器への導入の速度は700g/hに
一定維持した。」(段落【0028】)
「重合に際し,100kg/時間の制御した一定速度でエチレンを反応
器に導入し,水素の圧力対エチレンの分圧の比を気相反応混合物中で
0.45に一定維持するよう水素を導入し,ブテン−1の分圧対エチレ
ンの分圧の比を気相反応混合物中で0.20に一定維持するようブテン
−1を導入した。…」(段落【0029】)
「このような条件下で105kg/時間のポリエチレンを製造した。…
数日間に渡る連続重合で認められたことは,重合体の製造は105kg
/時間に一定維持されたことであり,凝集物の形成はなく,この方法に
より製造される線状低密度ポリエチレンの品質は一定で非常に満足で
き,重合条件における変動によらず,特に触媒の活性の無差別的変動お
よび気相反応混合物のエチレン,ブテン−1および他の成分に起因する
不純物の予測できず容易に検出できない変化によらなかった。」(段落
【0030】)
(2)上記(1)の記載によると,本願発明における「α−オレフィン」の「連続
重合」は,「気相重合反応器中にて,重合に供するα−オレフィンを含有す
る気相反応混合物と,元素の周期表のIV,VまたはVI族に属する遷移金
属の少なくとも1つの化合物からなる固体触媒および周期表のIIまたはI
II族に属する金属の少なくとも1つの有機金属化合物からなる助触媒より
なるチーグラー・ナッタ型の触媒系とを接触させる」というものであるが,
より具体的には,①流動床を用いる気相重合反応器に,α−オレフィンを含
有する気相反応混合物を導入し(以下,この導入される気相反応混合物の流
れを「導入流」という。),②チーグラー・ナッタ型の触媒を導入し,③重
合体を反応器から連続的又は断続的に抜き取り,④気相反応混合物を反応器
から離間し(以下,この離間される気相反応混合物の流れを「排出流」とい
う。),これをリサイクル導管及びコンプレッサを介して反応器にリサイク
ルする(以下,このリサイクルされる気相反応混合物の流れを「循環流」と
いう。先の「排出流」に由来するものである。)ことによる連続重合の態様
を包含していると認められる。そして,この態様では,気相重合反応器の中
でα−オレフィンが重合体に変換されることにより消費され,重合体が製品
として反応器から抜き取られることに伴い,排出流では,導入流よりもα−
オレフィンが少なくなっているので,この排出流を循環流として気相重合反
応器に導入するに当たり,連続重合を行うために,その少なくなった量に見
合う量のα−オレフィン(及び気相反応混合物の他の成分も少なくなってい
るときはその成分)を加えて(以下,この加えられるα−オレフィン(及び
気相反応混合物の他の成分)の流れを「補充流」という。),導入流とする
ものと認められる。
(3)次に,本願発明における「重合反応器に前記重合の間一定速度でα−オ
レフィンを供給する」の意義について検討すると,上記(2)の態様におい
て,文言上,少なくとも次の二つの供給方法の意味に解釈することが可能で
あって,特許請求の範囲の記載からは一義的に明確に理解することができな
いものである。
供給方法A:「導入流からのα−オレフィンの供給速度が一定になるように
供給する」の意味。重合反応器に供給されるα−オレフィン
は,導入流によりもたらされるものであるからである。
供給方法B:「補充流からのα−オレフィンの供給速度が一定になるように
供給する」の意味。「α−オレフィンを供給する」を,操作を
意味するものとみれば,その操作は,補充流を介してα−オレ
フィンを重合反応器に供給する操作であるからである。
なお,供給方法Aと供給方法Bは,一致するとは限らないものと解され
る。なぜならば,気相重合反応器中でα−オレフィンが常に一定速度で消費
されるとは限らないから,排出流のα−オレフィンの速度が一定であるとは
限らず,そうすると,補充流からのα−オレフィンの供給速度が一定である
場合には,導入流からのα−オレフィンの供給速度は一定にならないからで
ある。
(4)そこで,上記(1)認定の「発明の詳細な説明」の記載を参しゃくすると,
本願発明の「重合反応器に前記重合の間一定速度でα−オレフィンを供給す
る」は,次のとおり,上記供給方法Bを意味しており,一方,上記供給方法
Aは従来技術として位置づけられていることがわかる。
ア上記(1)エ認定の「課題を解決するための手段」の記載によると,本願
発明では,α−オレフィンを一定速度で供給する反応器中で行う結果,
「気相反応混合物の全圧および/または重合反応器中のα−オレフィンの
分圧が変動する」とされている。そして,重合反応により放出される「熱
の量の増加または減少は,α−オレフィンの分圧の減少または増加により
それぞれ自動的に打ち消されることが認められた」,「気相反応混合物ま
たは触媒の成分の品質に僅かな変動が起こった場合,α−オレフィンの分
圧の変動によって重合速度が制御される」とされており,このことは,
「熱の量の増加」が,重合速度が速くなりα−オレフィンが期待値よりも
多く消費されたことに対応し,一方で「熱の量の減少」が,重合速度が遅
くなりα−オレフィンの消費が期待値よりも減ったことに対応し,そこに
α−オレフィンを一定速度で供給することにより,前者ではα−オレフィ
ンの分圧が期待値よりも減少するので重合速度が遅くなり,後者ではα−
オレフィンの分圧が期待値よりも増加するので重合速度が速くなるという
ように,自動的に制御されることを意味していると解される。そうする
と,これらの記載は,「導入流からのα−オレフィンの供給速度が一定」
(前記供給方法A)ではなく,「補充流からのα−オレフィンの供給速度
が一定」(前記供給方法B)を意味するものと解される。
イ上記(1)オ認定の「実施例」の記載によると,製品として製造される重
合体の量に見合った量のα−オレフィンを,制御した一定速度で供給する
旨の記載がされているから,「実施例」の記載によると,本願発明におけ
るα−オレフィンの供給方法は,「補充流からのα−オレフィンの供給速
度が一定になるように供給する」こと(前記供給方法B)を意味している
と解される。
ウこれに対し,上記(1)イ認定の「従来の技術」の記載によると,本願明
細書に記載されている従来技術は,気相反応混合物の主成分(α−オレフ
ィン)の分圧及びこの気相反応混合物の全圧を一定に維持するのであるか
ら,「導入流からのα−オレフィンの供給速度が一定」(前記供給方法
A)であると解される。
エ以上によると,本願発明の「重合反応器に前記重合の間一定速度でα−
オレフィンを供給する」は,前記供給方法Bを意味しており,一方,前記
供給方法Aは従来技術として位置づけられているということができる。
3引用方法の意義について
(1)引用例1(甲3)には,次の記載がある。
ア特許請求の範囲
「(4)一つ又はそれ以上のオレフィン類の少なくともその一つが3∼1
2個の炭素原子を含むところのオレフィン類を,流動床反応器中,チーグ
ラー−ナッタ型の触媒又は酸化クロムを基とする触媒の存在下に,反応器
中に連続的に又は断続的に導入し,生成する重合物を反応器から連続的に
又は断続的に取り出し,かつ流動床の固体粒子が,重合化されるべきオレ
フィン類から成るガス状反応混合物により流動化状態に保持され,重合化
されるべきオレフィン類が,反応器を介して出て次いで循環ラインにより
反応器の底部に戻り,循環ラインがコンプレッサーと少なくとも一つの熱
交換器とを含むガス相重合化の方法において,元素の周期表の第II又は
III族に属する金属の有機金属化合物が,3∼12個の炭素原子を含む
少なくとも一つの液体オレフィン類における混合物又は溶液として,循環
ライン中において,熱交換器の上流に,又は熱交換器の少なくとも一つの
上流に導入されることを特徴とする方法。」
「(5)固体触媒が,本質的にマグネシウム,ハロゲン,及びチタン及び
/又はバナジウムの原子から成るチーグラー−ナッタ型の触媒から,及び
耐火性酸化物から選択される粒状担体と結合され,かつ少なくとも250
℃の温度で,かつ高くても粒状担体が焼結し始める温度で,熱処理するこ
とにより活性化される酸化クロムを基とする触媒から選択されることを特
徴とする請求項4記載の方法。」
「(9)ガス状反応混合物が,エチレンとプロピレン,ブテン−1,ヘキ
セン−1,4−メチルペンテン−1及びオクテン−1から選択される少な
くとも一つのオレフィンから成ることを特徴とする請求項4記載の方
法。」
イ発明が解決しようとする課題
「液体オレフィンに希釈された有機金属化合物の流動床中への直接導入は
…極めて活性な触媒を使用する時に,ホットスポットと熔融重合体の凝集
が床中に発生するのを防止するのを不可能にすることが分かった。」(3
頁右下欄17行∼4頁左上欄5行)
ウ課題を解決するための手段
「…有機金属化合物と共に導入される液体オレフィンは,3∼12個の炭
素原子…を含むα−オレフィンであり,これはガス相重合化反応に預か
る。…有機金属化合物と液体オレフィンとから成る混合物又は溶液は,有
機金属化合物を,重量で0.005%と5%の間…含むのが良く,かつ実
質的に一定速度で循環ライン中に導入されるのが良く,その速度は,ガス
反応混合物中の前記オレフィンのモルパーセントが時間に関して一定でか
つ望みの重合体品質を与えるように決定される。」(5頁左上欄5行∼1
9行)
「…循環ライン中に液体オレフィンと共に導入される有機金属化合物は,
チーグラー−ナッタ型の触媒が使用される時には,助触媒として,又は酸
価クロムを基とする触媒が使用される時には,活性化剤としてのいずれか
に使用されて良い。」(5頁右上欄19行∼左下欄4行)
「本発明によると,循環ラインは,元素の周期表の第IIまた第III族
に属する金属の有機金属化合物を,3∼12個の炭素原子…を含む少なく
とも一つの液体オレフィン中の混合物又溶液として導入する為のパイプの
入口を含まねばならない。このパイプは,循環ライン中にて,熱交換器の
上流又は熱交換器の少なくとも一つに開口することが必須である。特に,
熱交換器によって作り出される乱流が,ガス状反応混合物中の有機金属化
合物と液体オレフィンの分散を助長し,これは,熱交換器の出口におい
て,極めて均一となり,従って,問題無く,ホットスポットの形成も無
く,流動床反応器の底部中に直接に循環され得ることが指摘されてい
る。」(6頁右下欄6行∼20行)
エ実施例
「実施例として,第1図に示される工程図の装置は,流動床反応器(1)
を含み…ガス反応混合物を循環する為のライン(5)を備え,これは流動
床反応器の頂部をその底部へ連結している。循環ライン(5)は,ガス反
応混合物の流れ方向に次々に,サイクロン(6),第一チューブ熱交換器
(7),コンプレッサー(9)及び第二チューブ熱交換器(10)を含
む。液体オレフィンで混合された有機金属化合物を導入する為のパイプ
(8)が,コンプレッサー(9)と熱交換器(10)の間の循環ライン
(5)中へ開口している。…ライン(14)は,反応器(1)に固体触媒
を供給することを可能にしている。製造されたポリオレフィン粒子は,反
応器(1)からライン(15)を介して排出される。循環ライン(5)中
に開口しているライン(13)は,ガス反応混合物の成分において,この
ガス混合物の組成と圧力を一定に保持することを可能にして供給する為の
ラインである。
第2図は…唯一つのチューブ熱交換器(16)と,熱交換器(16)の
上流にてライン(5)中に開口し,液体オレフィンで混合された有機金属
化合物を導入する為のパイプ(19)を備える以外は,第1図に示される
装置と同一である。…
第3図は,…液体オレフィンで混合された有機金属化合物を導入する為
のパイプ(19)が,熱交換器(7)の上流にてライン(5)中に開口す
る以外は,第1図に示される装置と同一である。」(8頁右下欄6行∼9
頁右上欄8行)
「実施例1
反応工程は,第1図に略工程図で示される装置で実施された。流動化格
子(4)を備える流動床反応器(1)は,平静化室(3)を上部に配置し
た直径3mのシリンダー(2)から本質的に成る。反応器の全高さは約2
0mである。反応器(1)は,一定の高さと78℃に保持される流動床を
含み,かつ…線状低密度ポリエチレン…の18T粉末から成る流動床を含
む。反応器(1)は,ライン(14)を介して…エチレンプレポリマーを
供給され,このエチレンプレポリマーは,(a)フランス特許第2,40
5,961号公報の実施例1に記載されるチーグラー−ナッタ型の固体触
媒であり,特にチタン,マグネシウム及び塩素を含んでおり,及び(b)
…トリ−n−オクチルアルミニウム,これらを使用して調整されたもので
ある。反応器(1)にプレポリマーを供給する速度は,時間当たり560
ミリモルのチタンに相当する速度である。
ガス反応混合物は,容量で,30%のエチレン,6%の水素,57%の
窒素,6%の4−メチルペンテン−1及び1%のエタンを含み,これは,
2Mpaの総圧力下に,0.5m/sの速度で流動床を上昇した。78℃
で反応器(1)の頂部を出るガス混合物は…第一チューブ熱交換器(7)
を通過して冷却され…コンプレッサー(9)により圧縮され…第二チュー
ブ熱交換器(10)を通過することにより54℃の温度まで第二冷却され
…パイプ(5)を介して,流動化格子(4)の下部に位置する反応器
(1)の底部へ循環される。
0.06重量%のトリエチルアルミニウムを含む液体4−メチルペンテ
ン−1とトリエチルアルミニウムの混合物を,パイプ(8)を介して,2
20Kg/時間の流速で,循環ライン(5)中を循環するガス混合物中に
導入した。これらの条件下に,流動床反応器を連続操作して,約2.7T
/hの線状低密度ポリエチレン…を製造し,これをライン(15)を介し
て反応器(1)から引出した。重合体は,重量−平均直径約700ミクロ
ンの粒子から成り,かつ凝集物は無かった。これは約10ppmの残留チ
タンを有した。共重合化を停止することを必要とするブロッキングは,約
1ケ月の製造の後の装置に見い出されなかった。」(9頁右上欄12行∼
10頁左上欄1行)
「実施例2
反応工程は,第2図に略工程図で示される装置で実施された。流動化格
子(4)を備える流動床反応器(1)は,平静化室(3)を上部に配置し
た直径0.9mのシリンダー(2)から本質的に成る。反応器の全高さは
約10mである。反応器(1)は,一定の高さと80℃に保持される流動
床を含み,かつ…線状低密度ポリエチレン…の400kg粉末から成る流
動床を含む。反応器(1)は,ライン(14)を介して…エチレンプレポ
リマーを供給され,このエチレンプレポリマーは,(a)フランス特許第
2,405,961号公報の実施例1に記載されるチーグラー−ナッタ型
の固体触媒であり,特にチタン,マグネシウム及び塩素を含んでおり,及
び(b)…トリ−n−オクチルアルミニウム,これらを使用して調整され
たものである。反応器(1)にプレポリマーを供給する速度は,時間当た
り21ミリモルのチタンに相当する速度である。
ガス反応混合物は,容量で,30%のエチレン,6%の水素,51%の
窒素,21%のブテン−1及び1%のエタンを含み,これは,1.6Mp
aの総圧力下に,0.5m/sの速度で流動床を上昇した。80℃で反応
器(1)の頂部を出るガス混合物は…チューブ熱交換器(16)を通過し
て冷却され…コンプレッサー(9)により圧縮され…循環ライン(5)を
介して,流動化格子(4)の下部に位置する反応器(1)の底部へ循環さ
れる。
0.013重量%のトリエチルアルミニウムを含む液体ブテン−1とト
リエチルアルミニウムの混合物を,パイプ(19)を介して,9kg/時
間の流速で,循環ライン(5)中を循環するガス混合物中に導入した。
これらの条件下に,流動床反応器を連続操作して,約100kg/hの
線状低密度ポリエチレン…を製造し,これをライン(15)を介して反応
器(1)から引出した。重合体は,重量−平均直径約700ミクロンの粒
子から成り,かつ凝集物は無かった。これは約10ppmの残留チタンを
有した。共重合化を停止することを必要とするブロッキングは,約1ケ月
の製造の後の装置に見い出されなかった。」(10頁左上欄2行∼左下欄
9行)
「実施例3(比較)
反応工程は,パイプ(19)が…反応器(1)のシリンダー部(2)
に,特に触媒供給ライン(14)が開口する地点の0.5m下の地点に向
けられた以外は,第2図に示されかつ実施例2に記載される工程図と同じ
装置中で実施された。
その他,反応工程は,実施例2に記載と同じ条件下に実施された。しか
し,流動床中に急速に凝集物が形成され,共重合化を停止せざるを得なか
った。」(10頁左下欄10行∼右下欄1行)
「実施例4
反応工程は,第3図に略工程図で示される装置で実施された。流動化格
子(4)を備える流動床反応器(1)は,平静化室(3)を上部に配置し
た直径3mのシリンダー(2)から本質的に成る。反応器の全高さは約2
0mである。反応器(1)は,一定の高さと80℃に保持される流動床を
含み,かつ…エチレン,ブテン−1及び4−メチルペンテン−1の三元共
重合体…の18T粉末から成る流動床を含む。反応器(1)は,ライン
(14)を介して…エチレンプレポリマーを供給され,このエチレンプレ
ポリマーは,(a)フランス特許第2,405,961号公報の実施例1
に記載されるチーグラー−ナッタ型の固体触媒であり,特にチタン,マグ
ネシウム及び塩素を含んでおり,及び(b)…トリ−n−オクチルアルミ
ニウム,これらを使用して調整されたものである。反応器(1)にプレポ
リマーを供給する速度は,時間当たり670ミリモルのチタンに相当する
速度である。
ガス反応混合物は,容量で,26%のエチレン,5%の水素,58%の
窒素,5%の4−メチルペンテン−1,5%のブテン−1及び1%のエタ
ンを含み,これは,2Mpaの総圧力下に,0.5m/sの速度で流動床
を上昇した。80℃で反応器(1)の頂部を出るガス混合物は…第一チュ
ーブ熱交換器(7)を通過して冷却され…コンプレッサー(9)により圧
縮され…第二チューブ熱交換器(10)を通過することにより53℃の温
度まで第二冷却され…パイプ(5)を介して,流動化格子(4)の下部に
位置する反応器(1)の底部へ循環される。0.1重量%のトリエチルア
ルミニウムを含む液体4−メチルペンテン−1とトリエチルアルミニウム
の混合物を,パイプ(8)を介して,190kg/時間の流速で,循環ラ
イン(5)中を循環するガス混合物中に導入した。0.15重量%のトリ
エチルアルミニウムを含む液体ブテン−1とトリエチルアルミニウムの混
合物を,95kg/hの流速で,パイプ(20)を介して,循環ライン
(5)中を循環するガス混合物中に導入した。
これらの条件下に,流動床反応器を連続操作して,約3.2T/hで…
エチレン,ブテン−1及び4−メチルペンテン−1の三元共重合体を製造
し,これをライン(15)を介して反応器(1)から引出した。重合体
は,重量−平均直径約700ミクロンの粒子から成り,かつ凝集物は無か
った。これは約10ppmの残留チタンを有した。共重合化を停止するこ
とを必要とするブロッキングは,約1ケ月の製造の後の装置に見い出され
なかった。」(10頁右下欄2行∼11頁右上欄18行)
オ第1図∼第3図には,流動床反応器(1)の下部において循環ライン
(5)中に開口しているライン(13)が記載されている。
(2)上記(1)の記載によると,引用例1の特許請求の範囲(4)に記載された
方法(引用方法)は,①流動床を用いる気相重合反応器に,α−オレフィン
を含有する気相反応混合物を導入し(導入流),②チーグラー・ナッタ型の
触媒を導入し,③重合体を反応器から連続的又は断続的に抜き取り,④気相
反応混合物を反応器から離間し(排出流),これをリサイクル導管及びコン
プレッサを介して反応器にリサイクルする(循環流)ことによる連続重合で
ある点で,本願発明と一致するものと認められる。
そして,上記(1)の記載によると,引用方法は,ガス反応混合物を循環す
るためのライン(5)を備えており,この循環ライン(5)中に開口してい
るライン(13)が存するが,上記(1)エの「循環ライン(5)中に開口し
ているライン(13)は,ガス反応混合物の成分において,このガス混合物
の組成と圧力を一定に保持することを可能にして供給する為のラインであ
る。」との記載からすると,このライン(13)は,上記ガス反応混合物の
成分において,このガス混合物の組成と圧力を一定に保持することを可能に
して供給するためのラインであると認められる。引用例1には,上記(1)エ
のとおり,実施例1∼4が記載されるが,いずれの実施例においても,流動
床反応器(1)に,ガス反応混合物が,その組成と圧力を一定に保持して供
給されるものと認められる。
そうすると,引用方法におけるα−オレフィンの供給方法は,「導入流か
らのα−オレフィンの供給速度が一定になるように供給する」もの(前記供
給方法A)であると認められる。
(3)引用例1には,上記(2)以外の方法についての記載はない。
4取消事由1(一致点・相違点の認定判断の誤り)について
(1)原告は,引用方法の「重合化されるべきオレフィン類から成るガス状反
応混合物」は,「元素の周期表の第II又はIII族に属する金属の有機金
属化合物で,3∼12個の炭素原子を含む少なくとも一つの液体オレフィン
類との混合物又は溶液として,循環ライン中において熱交換器の上流に又は
熱交換器の少なくとも一つの上流に導入されたもの」を含んでいるのに対
し,本願発明における「α−オレフィンを含有する気相反応混合物」は,気
相重合反応器中にて,「元素の周期表のIV,VまたはVI族に属する遷移
金属の少なくとも1つの化合物からなる固体触媒および周期表のIIまたは
III族に属する金属の少なくとも1つの有機金属化合物からなる助触媒よ
りなるチーグラー・ナッタ型の触媒系と接触させる」ものであるから,異な
ると主張する。また,原告は,引用方法の「元素の周期表の第II又はII
I族に属する金属の有機金属化合物」と本願発明の「周期表のIIまたはI
II族に属する金属の少なくとも1つの有機金属化合物からなる助触媒」と
では,導入場所が異なり,そのため,α−オレフィンとの接触のタイミング
が大きく異なっている,と主張する。しかし,以下のとおり,これらの主張
は採用することができない。
ア本願明細書の特許請求の範囲【請求項1】には,気相重合反応器中に
て,「重合に供するα−オレフィンを含有する気相反応混合物」と「元素
の周期表のIV,VまたはVI族に属する遷移金属の少なくとも1つの化
合物からなる固体触媒および周期表のIIまたはIII族に属する金属の
少なくとも1つの有機金属化合物からなる助触媒よりなるチーグラー・ナ
ッタ型の触媒系」とを接触させる,との記載があるのみであるから,本願
発明においては,重合に供する気相反応混合物については,「α−オレフ
ィンを含有する」との限定しかないし,また,「周期表のIIまたはII
I族に属する金属の少なくとも1つの有機金属化合物からなる助触媒」
は,気相重合反応器中にて助触媒として作用することの限定しかなく,そ
の投入場所についての限定はない。なお,前記2(1)エのとおり,本願明
細書の「発明の詳細な説明」には,「気相反応混合物は,水素および例え
ば窒素,メタン,エタン,プロパン,ブタン,イソブタンから選択される
不活性ガスを含有し得る。」との記載があるが,実施態様として,気相反
応混合物に,これらのものを含有し得ることを述べたにすぎず,何ら本願
発明の気相反応混合物の内容を限定するものではない。
イ前記3(1)の引用例1の記載からすると,引用方法においては,重合に
供する気相反応混合物は,「α−オレフィンを含有する」ものであるか
ら,「重合に供するα−オレフィンを含有する気相反応混合物」の点で,
本願発明と一致する。引用方法において,重合に供する気相反応混合物
が,「元素の周期表の第II又はIII族に属する金属の有機金属化合物
で,3∼12個の炭素原子を含む少なくとも一つの液体オレフィン類との
混合物又は溶液として,循環ライン中において熱交換器の上流に又は熱交
換器の少なくとも一つの上流に導入されたもの」を含んでいるかどうか
は,本願発明との対比においては問題とならないというべきである。
ウ前記3(1)の引用例1の記載からすると,引用方法においては,元素の
周期表の第II又はIII族に属する金属の有機金属化合物が,循環ライ
ン中の循環流に投入されるが,その有機金属化合物は,気相重合反応器中
において,チーグラー−ナッタ型の触媒が使用される時には,助触媒とし
て作用する(前記3(1)ウの記載参照)のであって,元素の周期表の第I
I又はIII族に属する金属の有機金属化合物が,気相重合反応器中にお
いて,チーグラー−ナッタ型の触媒が使用される時に助触媒として作用す
る点において,本願発明と一致する。引用発明において元素の周期表の第
II又はIII族に属する金属の有機金属化合物が,循環ライン中の循環
流に投入されることやそれを理由とするα−オレフィンとの接触のタイミ
ングの違いは,本願発明との対比においては問題とならないというべきで
ある。
(2)したがって,審決が,「本願発明と引用方法とは,ともに,『2∼12
の炭素原子を有するα−オレフィンを連続重合するに際し,気相重合反応器
中にて,重合に供するα−オレフィンを含有する気相反応混合物と,元素の
周期表のIV,VまたはVI族に属する遷移金属の少なくとも1つの化合物
からなる固体触媒および周期表のIIまたはIII族に属する金属の少なく
とも1つの有機金属化合物からなる助触媒よりなるチーグラー・ナッタ型の
触媒系とを接触させる連続重合方法』である点で一致する」と認定判断して
いる(6頁17行∼24行)ことに誤りはない。
(3)以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由がない。
5取消事由2(一応の相違点についての認定判断の誤り)について
(1)前記2で述べたとおり,本願発明の「重合反応器に前記重合の間一定速
度でα−オレフィンを供給する」は,「補充流からのα−オレフィンの供給
速度が一定になるように供給する」こと(前記供給方法B)を意味してい
る。これに対し,引用方法は,前記3で述べたとおり,「導入流からのα−
オレフィンの供給速度が一定になるように供給する」もの(前記供給方法
A)であるから,本願発明とは異なるというべきである。
(2)引用例1には,前記3(1)ウのとおり,「有機金属化合物と共に導入され
る液体オレフィンは,3∼12個の炭素原子…を含むα−オレフィンであ
り,これはガス相重合化反応に預かる。…有機金属化合物と液体オレフィン
とから成る混合物又は溶液は,有機金属化合物を,重量で0.005%と5
%の間…含むのが良く,かつ実質的に一定速度で循環ライン中に導入される
のが良く,その速度は,ガス反応混合物中の前記オレフィンのモルパーセン
トが時間に関して一定でかつ望みの重合体品質を与えるように決定され
る。」との記載があり,前記3(1)エのとおり,そのような混合物を,実施
例1では220Kg/時間,実施例2では9kg/時間,実施例4では19
0kg/時間及び95kg/時間といった速度で循環ライン中に導入してい
るが,これらの混合物により導入される液体オレフィンは,製品として製造
される重合体の製造速度(抜き取り速度)である,約2.7T/h(実施例
1),約100kg/h(実施例2),約3.2T/h(実施例4)の,そ
れぞれ1割に満たないものであるから,α−オレフィンの多くはライン(1
3)によって供給されるものと解される。そして,前記3(2)で述べたとお
り,ライン(13)によって,ガス反応混合物の組成と圧力を一定に保持し
て,気相重合反応器にガス反応混合物が供給されるのであるから,「導入流
からのα−オレフィンの供給速度が一定になるように供給する」こと(前記
供給方法A)が行われているであって,本願発明のように「気相反応混合物
の全圧および/または重合反応器中のα−オレフィンの分圧が変動する」
(前記2(4)参照)ということはないものと解される。そうすると,引用方
法においては,「補充流の一部からのα−オレフィンの供給速度が一定にな
るように供給する」ことが行われているとしても,方法全体として見た場合
の技術的な意義は本願発明とは異なるものというべきである。
また,引用例1の実施例1,2,4には,前記3(1)エのとおり,気相重
合反応器中において,ガス反応混合物は「0.5m/sの速度で流動床を上
昇した」との記載があるが,前記3で述べたとおり,引用方法においては,
ガス反応混合物の組成と圧力を一定に保持して,気相重合反応器にガス反応
混合物が供給されるのであるから,その結果,ガス反応混合物は少なくとも
供給当初は一定の速度で上昇するものと解され,上記「0.5m/s」は,
そのような意味を有するものということができる。これに対し,本願発明に
おいては,前記2で述べたとおり,「補充流からのα−オレフィンの供給速
度が一定」であって,ガス反応混合物の組成と圧力を一定に保持して気相重
合反応器にガス反応混合物が供給されることはなく,「気相反応混合物の全
圧および/または重合反応器中のα−オレフィンの分圧が変動する」もので
ある(前記2(4)参照)から,本願発明は,ガス反応混合物は供給当初から
一定の速度で上昇するとは限らないものである。なお,前記2(1)オのとお
り,本願明細書記載の実施例の説明においては,「流動床を0.50m/s
の上昇流動速度で通過するものとした。」との記載があるが,上記のとお
り,本願発明においては,ガス反応混合物が一定の速度で上昇するとは限ら
ないことからすると,上記「0.50m/s」は,上昇速度を大まかに示し
たものにすぎないと解される。このように,本願発明と引用方法の実施例に
おいて,ガス反応混合物の上昇速度が記載されているとしても,その技術的
な意味は異なるのであって,引用方法が本願発明と一致することを示すもの
ではない。
(3)以上のとおり,本願発明において「重合反応器に前記重合の間一定速度
でα−オレフィンを供給する」点は,引用方法とは異なるから,取消事由2
は理由がある。
(4)なお,乙1(特開昭61−106608号公報)7頁右上欄14行∼1
8行,乙4(特公昭61−363号公報)9頁17欄41行∼18欄6行,
乙5(特公昭50−32110号公報)9頁18欄12行∼21行には,循
環流や排出流の組成をガス分析計で測って補給流(補充流)の組成及び量を
調整して反応域内に定常常態のガス状組成物を維持する旨記載されているか
ら,「導入流からのα−オレフィンの供給速度が一定になるように供給す
る」もの(前記供給方法A)であると認められ,本願発明の「補充流からの
α−オレフィンの供給速度が一定になるように供給する」こと(前記供給方
法B)が記載されているということはできない。
上記乙1の表3(13頁左上欄)には,反応器へのガスの入口速度が「7
9.2ft/秒(24.1m/秒)」と記載されている。しかし,上記のと
おり,乙1には「導入流からのα−オレフィンの供給速度が一定になるよう
に供給する」こと(前記供給方法A)についての記載があるものの,「補充
流からのα−オレフィンの供給速度が一定になるように供給する」こと(前
記供給方法B)についての記載はない。また,原告が出願した特許に係る乙
2(特開昭64−87604号公報)9頁左上欄9行∼13行には,流動層
の上昇速度について「0.5m/s」という記載があり,同じく原告が出願
した特許に係る乙3(特開平1−151933号公報)9頁左上欄5行∼1
7行には,流動化ガスが「0.5m/s」の流動化速度で流動床を通過し
た,との記載があるが,これらの記載が直ちに「補充流からのα−オレフィ
ンの供給速度が一定になるように供給する」こと(前記供給方法B)を意味
するとはいえず,また,これらの公報には,その旨の記載もない。
したがって,乙1∼5の記載は「補充流からのα−オレフィンの供給速度
が一定になるように供給する」こと(前記供給方法B)が知られていたこと
を何ら示すものではない。
6以上のとおり,本願発明と引用方法が実質的に同一であるとの審決の判断
は,その余の点(取消事由3(効果についての判断の誤り))について判断す
るまでもなく,誤りである。
よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官田中孝一

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