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平成21年10月15日判決言渡
平成20年(行ケ)第10457号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年10月8日
判決
原告株式会社四国総合研究所
原告東洋工業株式会社
両名訴訟代理人弁理士西脇民雄
同平瀬享児
被告三菱マテリアル株式会社
訴訟代理人弁護士近藤惠嗣
訴訟代理人弁理士千葉博史
主文
1原告らの請求を棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2006−80054号事件について平成20年10月16日
にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告らが特許権者であり発明の名称を「コンクリートブロック及び
その製造方法(後記訂正後は「舗装用コンクリートブロック及びその製造方」
法)とする特許第3583037号の全請求項(請求項1∼7)について被」
告が特許無効審判請求をしたところ,特許庁が原告らがなした平成20年3月
31日付け訂正請求(請求項1及び2を削除し,同4を同1とし,同3,5∼
7をそれぞれ同2∼5とする等)を認めた上,上記訂正後の請求項1∼5につ
いての特許を無効とする旨の審決をしたことから,原告らがその取消しを求め
た事案である。
2争点は,上記訂正後の請求項1∼5に係る発明が下記引用例との関係で進歩
性(特許法29条2項)を有するか,である。

・刊行物1:特開平9−268509号公報(発明の名称「舗装用NOX浄
化ブロック,出願人三菱マテリアル株式会社,公開日平成」
9年10月14日,甲1。以下「刊行物1」といい,そこに記
載された発明を「刊行物1に記載された発明」という)。
・刊行物2:野々山登光触媒による自動車排気ガス浄化機能を持つ道路フ「『
ォトロード工法』の開発,資源環境対策,1999年〔平成」
11年,Vol.35,No.6,551頁∼556頁(甲〕
2。以下「刊行物2」といい,そこに記載された発明を「刊行
物2発明」という)。
・刊行物3:特開平11−33413号公報(発明の名称「大気浄化用構造
物の製造方法,出願人三菱マテリアル株式会社,公開日平」
成11年2月9日,甲6。以下「刊行物3」といい,そこに記
載された発明を「刊行物3発明」という)。
・刊行物4:特許第2875993号公報(発明の名称「アナターゼ分散液
およびその製造方法,特許権者佐賀県,登録日平成11年」
1月14日,甲13。以下「刊行物4」といい,そこに記載さ
れた発明を「刊行物4発明」という)。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁等における手続の経緯
ア原告らは,平成11年9月28日,名称を「コンクリートブロック及び
その製造方法」とする発明について特許出願(特願平11−273776
号)をし,平成16年8月6日に特許第3583037号として設定登録
(,「」。)。を受けた請求項の数7以下本件特許という特許公報は甲41
イこれに対し,被告が平成18年3月31日付けで本件特許の請求項1な
いし7について無効審判請求を行ったので,特許庁は同請求を無効200
6−80054号事件として審理し,平成19年2月26日,本件特許の
請求項1ないし7に係る発明についての特許を無効とする旨の審決をし
た。
ウそこで原告らは,平成19年4月9日知的財産高等裁判所に対し上記審
(()),決の取消しを求める訴えを提起し平成19年行ケ第10125号
その後平成19年5月16日付けで特許庁に対し訂正審判請求(訂正20
07−390061号)をしたところ,同裁判所は,平成19年7月13
日,特許法181条2項により上記審決を取り消す旨の決定をした。
エ上記決定により前記無効2006−80054号事件は再び特許庁で審
理されることとなり,その中で原告らは平成20年3月31日付けで訂正
請求(その内容は,請求項1及び2を削除し,同4を同1とし,同3,5
∼7をそれぞれ同2∼5等とするもの。以下「本件訂正」という)をし。
たところ特許庁は平成20年10月16日上記訂正を認めた上特,,,,「
許第3583037号の請求項1∼5に係る発明についての特許を無効と
する」旨の審決をし,その謄本は平成20年10月31日原告らに送達さ
れた。
(2)発明の内容
本件訂正後の請求項1∼5(そこに記載された発明を,以下順に「本件発
明1」∼「本件発明5」という。下線は訂正部分)は次のとおりである。
・【請求項1】セメントを主バインダとして粒径1mm以上の骨材同士を
接合し,該骨材間の空隙が連通孔により表面まで開口した透水性を有す
るコンクリートブロックの表層付近の骨材間に形成された空隙に光触媒
として機能するNOx除去用の触媒としての酸化チタンをバインダを用
いずに保持させたコンクリートブロックであって,
前記コンクリートブロックは,透水係数が0.1cm/秒以上,JI
SA5304(1994)舗装用コンクリート平板長さL300mm,
幅W300mm,高さH60mmに基づく曲げ強さが12kN以上の平
板であることを特徴とする舗装用コンクリートブロック。
・【請求項2】前記骨材は,粒径5mm以上の粗骨材を主体とすることを
特徴とする請求項1に記載の舗装用コンクリートブロック。
・【請求項3】セメントを主バインダとして粒子径の大きな骨材同士を接
合し,該骨材間の空隙が連通孔により表面まで開口したコンクリートブ
ロックに,光触媒として機能するNOx除去用の酸化チタンスラリーを
噴霧するか,または,光触媒として機能するNOx除去用の酸化チタン
スラリー液の中に,前記コンクリートブロックを浸漬することを特徴と
する請求項1に記載の舗装用コンクリートブロックの製造方法。
・【請求項4】セメントを主バインダとして粒子径の大きな骨材同士を接
合し,該骨材間の空隙が連通孔により形成された平板状のコンクリート
ブロックの表面側に連通孔が開口した平板状コンクリートブロックまた
は表面側を研磨して前記連通孔が表面に開口した平板状コンクリートブ
ロックを形成し,この平板状コンクリートブロックの表面から,光触媒
として機能するNOx除去用の酸化チタンスラリーを噴霧したものを自
然乾燥又は加熱乾燥するか,または,光触媒として機能するNOx除去
用の酸化チタンスラリー液の中に,前記平板状コンクリートブロックの
表面を浸漬したものを自然乾燥又は加熱乾燥することを特徴とする請求
項1に記載の舗装用コンクリートブロックの製造方法。
・【請求項5】前記バインダの使用量は,前記骨材100重量部に対して
30重量部よりも少ない量で使用されていることを特徴とする請求項4
に記載の舗装用コンクリートブロックの製造方法。
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,上記
訂正は適法であり,かつ訂正後の本件発明1∼5はいずれも刊行物1∼4
に記載された事項及び出願前に公然知られた発明又は公然実施された発明
に基づいて当業者が容易に発明することができたから特許法29条2項に
より特許を受けることができない,というものである。
イなお審決が認定した刊行物1に記載された発明の内容同発明と本「」,「
件発明1,4」との一致点及び相違点は,次のとおりである。
(ア)〈刊行物1に記載された発明の内容〉
・「コンクリート製基層と表面層からなる舗装用NOx浄化ブロック
,,,であってコンクリート基層用混練物としてポルトランドセメント
水,砕石を配合し,表面層用混練物として,砂の粒度を1.2mm∼
5mmとした砕砂,酸化チタン及びポルトランドセメント,水を配合
することで各層を形成した,基層の空隙率は26%,表面層の空隙率
は20%,透水性試験値は,0.10cm/secである舗装用NO
x浄化ブロック(以下「刊行物1発明」という)。」。
・「コンクリート製基層と表面層からなる舗装用NOx浄化ブロック
の製造方法であって,コンクリート基層用混練物として,ポルトラン
ドセメント,水,砕石を配合し混練し,表面層用混練物として,砂の
粒度を1.2mm∼5mmとした砕砂,酸化チタン及びポルトランド
セメント,水を配合し混練し,コンクリート基層混練り物の上に表面
層用混練り物を投入することで各層を形成する,基層の空隙率は26
%,表面層の空隙率は20%,透水性試験値は,0.10cm/se
cである舗装用NOx浄化ブロックの製造方法(以下「刊行物1方。」
法発明」という)。
(イ)本件発明1と刊行物1発明との対比
〈一致点1〉
本件発明1と刊行物1発明とは,いずれも,
「セメントを主バインダとして骨材同士を接合し,該骨材間の空隙
が連通孔により表面まで開口した透水性を有するコンクリートブロッ
クの表層付近に光触媒として機能するNOx除去用の触媒としての酸
化チタンを付着させた透水係数が0.1cm/秒以上の舗装用コンク
リートブロック」である点で一致する。
〈相違点1〉
本件発明1では「粒径1mm以上の骨材同士を接合」していると,
特定されているのに対し,刊行物1発明では,表面層の骨材である砂
の粒度が1.2mm∼5mmであるものの基層の骨材の粒径について
は明らかでなく前記特定を有しない点。
〈相違点2〉
本件発明1では「コンクリートブロックの表層付近の骨材間に形,
成された空隙に光触媒として機能するNOx除去用の触媒としての酸
化チタンを,バインダを用いずに付着力のある水溶液を用い,自然乾
」,,燥により付着させたと特定されているのに対し刊行物1発明では
前記特定を有しない点。
〈相違点3〉
本件発明1ではコンクリートブロックはJISA53041,,「(
),,994舗装用コンクリート平板長さL300mm幅W300mm
高さH60mmに基づく曲げ強さが12kN以上の平板である」と特
定されているのに対し,刊行物1発明では,前記特定を有しない点。
(ウ)本件発明4(選択的記載を除いたもの)と刊行物1方法発明との対

〈一致点2〉
本件発明4のうち選択的記載を除いた「セメントを主バインダと,
して粒子径の大きな骨材同士を接合し,該骨材間の空隙が連通孔によ
り形成された平板状のコンクリートブロックの表面側に連通孔が開口
した平板状コンクリートブロックを形成し,この平板状コンクリート
ブロックの表面から,光触媒として機能するNOx除去用の酸化チタ
ンスラリーを噴霧したものを自然乾燥又は加熱乾燥することを特徴と
する請求項1に記載のコンクリートブロックの製造方法」との発明。
と刊行物1方法発明とを対比すると,両者は,いずれも,
「セメントを主バインダとして粒子径の大きな骨材同士を接合し,
該骨材間の空隙が連通孔により形成された平板状のコンクリートブロ
ックの表面側に連通孔が開口した平板状コンクリートブロックを形成
し,この平板状コンクリートブロックが,光触媒として機能するNO
x除去用の酸化チタンを有する舗装用コンクリートブロックの製造方
法」である点で一致する。。
〈相違点4〉
本件発明4では「平板状コンクリートブロックの表面から,光触,
媒として機能するNOx除去用の酸化チタンスラリーを噴霧したもの
を自然乾燥又は加熱乾燥する」のに対し,刊行物1方法発明では,表
面層用混練物に酸化チタン粉末を配合したとされるのみである点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,本件訂正後の各発明は特許法29条2項に違反するとした
審決には以下のとおりの誤りがあるから,違法として取り消されるべきであ
る。
ア取消事由1(相違点の看過及び刊行物2記載事項認定誤り)
(ア)相違点の看過
刊行物1(甲1)には,バインダとしてのセメントを用いてNOx除
去用の触媒としての酸化チタンをコンクリートブロックに固定すれば,
舗装用という用途に適する程度の摩擦耐久性を備えたコンクリートブロ
ックが提供できる旨の開示がある。
しかし,刊行物1に記載された「表面層用混練物」は,その配合組成
においてバインダとしてセメントを用いることが必須の構成とされてい
る。その上,刊行物1発明における舗装用という用途に照らしても,こ
れを充たすためには極めて高い耐久性(耐摩耗性)という作用効果が必
要である旨の記載があることからすれば,このような作用効果は,バイ
ンダとしてのセメントにより砂礫を強固に結合・硬化させたコンクリー
。,,ト構造物を用いることを前提とするものであるこの点刊行物1には
舗装用という用途に適する程度の摩擦耐久性を備えたコンクリートブロ
ックにおいて,バインダとしてのセメントを用いずに酸化チタンを保持
させる事項については,開示も示唆もなく,また,バインダとしてのセ
メントを用いずに酸化チタンを保持させても舗装用という用途に実用的
に耐える程度の耐久性を備えたコンクリートブロックが得られるという
本件発明1∼5により奏される作用効果についても,記載も示唆もされ
ていない。
さらに,刊行物1に記載された「表面層用混練物」において,その配
合組成からセメントを除外することは,そもそも舗装用の表面層を形成
させることができない点で,選択肢として存在し得ないのであって,技
術的に不合理であることは明らかである。
そうすると,本件発明1と刊行物1発明とは,バインダの有無という
相違点があるにもかかわらず,審決はこの点を指摘しておらず,相違点
を看過した誤りがある。
(イ)刊行物2記載事項の認定誤り
審決は,刊行物2(甲2)の図面(551頁)について「高機能舗,
装の表層部の拡大図があり,骨材のまわりに光触媒が付着されているこ
と」が見て取れると認定しつつ(15頁1行∼3行,この光触媒につ)
いて「…刊行物2の『光触媒(酸化チタン:TiO)を含むセメント,2
系固化剤』が本件発明3の『光触媒として機能するNOx除去用の酸化
チタンスラリー』に相当することは明らかである…(23頁22行∼」
24行)として,刊行物2に記載された光触媒がバインダとしてのセメ
ントを含まない配合組成を用いる構成であるかのように認定する。
しかし,刊行物2(甲2)には,バインダとしてのセメントを含む配
合組成を用いれば舗装用という用途に適する程度の摩擦耐久性を備えた
コンクリートブロック又はコンクリートを提供することができる旨の開
示はあるが,それを超えて,本件各発明のようなバインダとしてのセメ
ントを含まない配合組成を用いる構成については開示されていない。そ
ればかりか,刊行物2において用いられる配合組成からバインダを除外
する事項は,刊行物2発明の前提を覆す発想又は刊行物2発明から積極
的に除外又は排除されている構成であり,技術的に不合理である。この
ように,刊行物2の記載を通して,セメントをバインダとして用いない
酸化チタンスラリーについては当然のこと,バインダを含まない酸化チ
タンスラリーを連想させる記載は一切ないから,刊行物2の拡大図で骨
材の周りに付着されているのがバインダとしてのセメントを用いないで
保持された光触媒ではなく,セメント系固化剤(STコート)との関わ
りを有した形態(STコートの形態)での付着であることは明らかであ
る。審決の上記認定は誤りといわざるを得ない。
審決の進歩性判断は,これら刊行物2に記載された事項の認定の誤り
を前提として行われたものであるから,取り消されるべきである。
イ取消事由2(相違点2に係る容易性判断の誤り)
(ア)取消事由2−1(刊行物1及び刊行物2の組合せに関する判断の誤
り)
審決は「…触媒の付着方法として,刊行物2に記載された方法を刊,
行物1記載発明に適用し,本件発明1のようにNOx除去用の触媒とし
ての酸化チタンを骨材間に形成された空隙に付着させることは,当業者
が容易に想到しうる程度のことにすぎない(21頁下2行∼22頁2。」
行)とする。
しかし,刊行物1発明は,セメント,酸化チタン粉末及び砂から成る
表面層を有する舗装用NOx浄化ブロックに関する発明であり,その表
面層は既に酸化チタンを含有しているので,更に刊行物2(甲2)記載
の舗装面に特殊なバインダが含まれた酸化チタンをSTコートの形態で
付与する方法を適用する必要はない。
したがって,当業者は,刊行物2に記載された方法を刊行物1発明に
適用しようとは発想しない。
また,刊行物1及び刊行物2には,いずれもバインダを含まない「酸
化チタンスラリー」についての記載がないので「刊行物2に記載され,
た方法を刊行物1記載発明に適用したNOx浄化用ブロック」では,ど
のような組合せを採用しようとも,触媒はバインダとしてのセメントに
より固定されているのであって,バインダを用いずに固定することを必
須の構成要件とする本件各発明の構成とはならない。
さらに,刊行物1発明及び刊行物2発明では,舗装用に用途を限定し
た場合,いずれも酸化チタンをバインダとしてのセメントとともに用い
ることが発明の本質的要素とされており,それらの配合組成からバイン
ダとしてのセメントを除くという発想ないし思想が容易に想到されるこ
とはない。
なお被告は,取消事由2−1∼2−3に対し,刊行物4(甲13)は
株式会社田中転写製の酸化チタンスラリー液に係るパンフレット(甲1
2,以下「甲12パンフレット」という)に記載された酸化チタンス。
ラリー液を具体的に示したものであるとして,甲12パンフレットの記
載内容を前提に反論するが,甲12パンフレット(及び甲12パンフレ
ット記載の酸化チタンスラリーが前提とする特許第2875993号に
係る特許公報〔刊行物4,甲13)の具体的内容は審決において引用〕
されていないから,審判手続で審理判断されなかった公知事実との対比
について審決を適法とする理由として新たに主張することが許されるも
のではない。また,甲12パンフレットの頒布日は立証されておらず,
本件出願前に公知であったことが明らかでないことに加え,本件の審判
手続においても証拠として採用されなかったことに鑑みれば,いずれに
せよ反論の根拠とならないというべきである。
(イ)取消事由2−2(酸化チタンスラリーの選択に関する判断の誤り)
審決は「…酸化チタンを含む液を噴霧する際に,どのような液を選,
択するかは,必要に応じ適宜選択し得るものであり,酸化チタン微粒子
を水に懸濁させた溶液である酸化チタンスラリーを噴霧し,自然乾燥さ
せて付着させる点は,刊行物3,4に記載されているから,酸化チタン
微粒子を水に懸濁させた溶液である酸化チタンスラリーを選択し『光,
触媒として機能するNOx除去用の触媒としての酸化チタン微粒子を水
に懸濁させた溶液である酸化チタンスラリーを,自然乾燥させることに
より付着させる』ことも,当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎ
ない(22頁3行∼10行)とする。。」
ここで,審決は,酸化チタンスラリーを選択し自然乾燥により付着さ
せる対象物について記載するところがないため,付与対象物は不明であ
るが,仮にこれが刊行物1発明ないし刊行物2発明を付与対象物とする
のであれば,誤りである。すなわち,刊行物1発明については,セメン
ト,酸化チタン粉末及び砂から成る表面層を有する舗装用NOx浄化ブ
ロックに関する発明であり,その表面層は既に酸化チタンを含有してい
,。るので更に酸化チタンを付与する方法を選択適用する必要は生じない
また,刊行物2発明については,セメントを必須の成分として含むST
コートの形態での付与を推奨する発明であり,舗装用という用途ないし
目的を設定した場合,セメントを必須の構成成分とするものと考えられ
るから,このようなSTコートの組成からバインダとしてのセメントを
除去した組成物により触媒を付与する構成は刊行物2記載から読み取れ
ないというのが技術常識である。
そして刊行物1及び刊行物2にはいずれもバインダを含まない酸,,「
化チタンスラリー」についての記載がない一方で,舗装用という用途を
限定する場合には,タイヤチェーン(刊行物1)ないしタイヤ(刊行物
2)の摩耗にも耐える程度の極めて高い水準の耐摩耗性が必要であり,
そのためには,バインダとしてのセメントが必要必須であることを開示
している。この点,本件特許出願前において,酸化チタンスラリーはバ
インダを含むものと含まないものの両者が知られており,また,バイン
ダとしてのセメントを含むものがタイヤ等による摩耗に耐える程度の極
めて高い水準の耐摩耗性を維持できるコート層を与えることも知られて
いたが,バインダを含まない酸化チタンスラリーは,固定力はあるもの
の,タイヤ等による摩耗に耐える程度の極めて高い水準の耐摩耗性を維
持できることを示す証拠はない。
そうすると,刊行物1ないし刊行物2の開示事項ないし発明の代替手
,()段として当業者が選択する代替手段としてはバインダ特にセメント
を含む酸化チタンを選択する余地はあるとしても,バインダを含まない
刊行物3ないし4に記載の酸化チタンスラリーを適用するという選択肢
は予想できない。
なお被告は,刊行物1発明の方法に代えて刊行物2に記載されたST
コート又は刊行物3(甲6)に記載された酸化チタンスラリーを用いる
方法が容易である旨主張するが,審決においては,刊行物3及び刊行物
4を「酸化チタン微粒子を水に懸濁させた溶液である酸化チタンスラリ
ーを噴霧し,自然乾燥させて付着させる点」として同列一体のものとし
て挙げているから,刊行物3と刊行物4の各記載を分離の上,刊行物3
の記載のみを刊行物2の記載と同列に理解して刊行物1発明の代替手段
として示すものであると理解することはできない。またこの点は措くと
しても,刊行物3は,空隙径10nm∼200nmという超微細な空隙
径を有する無機多孔体に特定すれば舗装用という用途を充たす作用効果
が得られることを開示する発明であるから,刊行物3にバインダを含ま
ない酸化チタンスラリー(酸化チタン微粒子を水に懸濁させた溶液であ
る酸化チタンスラリー)を噴霧し,自然乾燥させて付着させることが記
載されているからといって,当該付着方法が上記のように特定された固
定対象とは異なる固定対象にまで広げて適用可能になるというものでは
ない。刊行物3が推奨するバインダを含まない酸化チタンスラリーの固
定対象は,飽くまで刊行物3の記載から推定される超微細な空隙であっ
て,粒子径が1mm以上の骨材間に形成された空隙を対象として推奨す
るものでないことは明らかである。その一方で,刊行物1には「表面層
用混練物」としての形態しか開示されておらず,刊行物3に記載された
上記スラリー状形態の酸化チタンを噴霧する技術につき開示又は示唆す
る記載がないことも明らかである。そうすると,刊行物1記載の表面層
の付与方法に代えて刊行物3に記載の付与方法を適用することが容易で
あるということはできない。
(ウ)取消事由2−3(株式会社田中転写製酸化チタンスラリー液に係る
判断の誤り)
審決は「…株式会社田中転写製の酸化チタンスラリー液は,実施例,
1に使われ,本件出願前製造販売されていたことは明らかであり,本件
出願前に公然知られた発明もしくは公然実施された発明といえるから,
酸化チタンを含む液として,この酸化チタンスラリー液を使用すること
も当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない(審決22頁11。」
行∼15行)とする。
確かに,本件出願前,酸化チタンスラリーは,株式会社田中転写製の
ものに限らず,当業者において自由に調製されていたり,市販品を取り
寄せることができた。しかし,本件各発明は「酸化チタンをバインダ,
を用いずに保持させた舗装用コンクリートブロックであること(第1」
の特徴,光触媒としての酸化チタンが保持される保持対象が「セメン)
トを主バインダとして粒径1mm以上の骨材同士を接合し,該骨材間の
空隙が連通孔により表面まで開口した透水性を有するコンクリートブロ
ック(透水性骨材接合ブロック)であること(第2の特徴,光触媒と」)
しての酸化チタンが保持される保持形態につき「表層付近の骨材間に形
成された空隙に保持させたこと(第3の特徴)という各特徴を有する」
ところ,上記第2の特徴に係る構成は,本件特許出願前に公知であった
刊行物4(甲13)中には具体的に記載がない。
そして,本件各発明は,保持対象に係る上記第2の特徴と保持形態に
係る上記第3の特徴との組合せによれば,酸化チタンをバインダを用い
ずに保持させた舗装用コンクリートブロックであっても要求性能を満た
すことを提案しているのであって,このような本件各発明が,実施例に
使用された酸化チタンスラリーそれ自身が「公然知られた発明もしくは
公然実施された発明といえる」という理由のみで,当業者が容易に想到
し得る程度のことにすぎないといえるものではない。
(エ)取消事由2−4(作用効果に係る判断の誤り)
審決は「…本件発明1によってもたらされる効果は,刊行物1∼4,
に記載された事項が当然に奏する程度,または刊行物1,2に記載され
た事項及び本件出願前に公然知られた発明もしくは公然実施された発明
が当然に奏する程度であり,格別のものとはいえない(22頁下5行。」
∼下2行)とする。
しかし,刊行物1ないし刊行物2は,舗装用という用途に対しては,
バインダとしてのセメントが必須であることを開示するのみであり,バ
インダとしてのセメントが不要であることを技術的に示していない。
この点,本件各発明により奏される作用効果は,触媒性能が付与され
た平板であって,透水性と曲げ強さという,透水性舗装用ブロックとし
ての本質的に必要な性能を兼ね備えることができるというものである。
このような作用効果は,透水性舗装用ブロックに対して触媒性能を付与
する際にバインダを用いないことに起因するのであって,バインダとし
てセメントを併用した場合にはバインダとしてのセメントが光触媒を覆
うため光触媒まで光が届きにくくなり,結果として触媒機能が低下した
り,透水性を阻害するか,又は曲げ強さを低下させるなど作用効果に劣
ることになる。
そうすると,バインダを用いないで触媒を保持させることを開示して
いない刊行物1又は2には,本件各発明により奏される作用効果が記載
されていないというべきである。
また,刊行物3は,付与対象として極めて微細な多孔質を対象とした
場合に限定して舗装用コンクリートブロックへの適用可能性を示唆して
いるが,上記(ウ)の特徴事項1∼3の組合せについては開示も示唆もな
く,同様に,刊行物4にも上記特徴事項の組合せについて開示も示唆も
ない。
そうすると,審決が指摘する刊行物1∼4のいずれについても,本件
各発明の特徴点の組合せについて開示されていないので,本件各発明の
作用効果が記載も示唆もされていないことは明らかである。
さらに,本件各発明に係る上記第1ないし第3の特徴事項が結合した
結果,本件各発明は「光触媒能が付与された平板であって,透水係数が
0.1cm/秒以上という透水性と,JISにより測定される曲げ強さ
が12kN以上を兼ね備えるという特徴(第4の特徴)を備えること」
,,「,ができるところ刊行物1∼4には光触媒能を有する平板であって
」。透水性と曲げ強さを備えたものが得られるとの証拠は示されていない
したがって,審決の上記判断は誤りである。
ウ取消事由3(本件発明2∼5に係る認定・判断の誤り)
,,「『(」(ア)前記ア(ア)のとおり審決は…刊行物2の光触媒酸化チタン
TiO)を含むセメント系固化剤』が本件発明3の『光触媒として機2
能するNOx除去用の酸化チタンスラリー』に相当することは明らかで
ある…(審決23頁22行∼24行)と誤って認定しているから,こ」
のような誤りを前提に本件発明3を容易想到とした審決の判断もまた誤
りである。
(イ)また,本件発明2∼5は,いずれも本件発明1を引用した発明であ
,,るから前記のとおり本件発明1に係る容易性の判断が誤りである以上
本件発明2∼5に係る審決の判断もまた,誤りというべきである。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告ら主張はいずれも理由がない。
(1)取消事由1に対し
ア原告らは,審決には刊行物1及び刊行物2に記載された事項の認定に誤
りがあり,本件特許の進歩性判断はこれら誤りを前提としたものであるの
で,取り消されるべきであると主張する。しかし,審決は,刊行物1発明
と本件発明1とを対比して相違点を認定し,しかる後に,相違点の容易性
を判断しているものであるから,刊行物1に記載された事項の認定の誤り
については,結果として相違点の看過になっているか否かという観点と,
相違点判断の誤りにつながっているか否かという観点に分けて評価する必
要があるし,刊行物2に記載された事項の認定の誤りについては,相違点
判断の誤りにつながっているか否かという観点から評価すべきものであ
る。
イこの点,刊行物1の記載に関する原告らの主張は,表面層であるモルタ
ルやコンクリートを形成するためのセメントを,あたかも酸化チタンスラ
リーに配合されているバインダであるかのように誤解したものといわなけ
ればならない。一般に知られているように,砂とセメントは水を加えて混
練し乾燥することによってモルタルないしコンクリートが形成される。刊
行物1の請求項1に記載されている「セメント100重量部,および砂1
00重量部∼700重量部」は表面層を形成するモルタルないしコンクリ
ートの成分に関するものであり,このモルタルないしコンクリートに酸化
チタン粉末5重量部∼50重量部が含まれている。しかも,刊行物1発明
は酸化チタンスラリーを用いないので,酸化チタンスラリーにセメントが
配合されるものでないことは明らかである。原告らはこのようなモルタル
形成のセメントを酸化チタンスラリーのバインダと同一視しているが,技
術常識からみて明らかに誤っている。
また,本件発明1においても,その請求項1に記載されているように,
コンクリートブロックの表層は「セメントを主バインダとして粒径1mm
以上の骨材同士を接合」して形成されるものであり,ブロック表面層がセ
メントと砂(骨材)によって形成されることは共通している。
原告らはこのような表面層の形成について,バインダとしてのセメント
を除外することについて述べているが,セメントはコンクリートやモルタ
ルを形成するための必須な成分材料であるので,セメントを除外する点に
ついての主張は,技術的に全く無意味である。
刊行物1の実施例1には,表面層用混練物として,砂,酸化チタン20
重量部及びポルトランドセメント80重量部を配合し,混練するとして,
表面層の形成時に酸化チタン粉末を配合することが記載されている。原告
らはこの態様を捉えてセメントが酸化チタンに対してバインダとして用い
られているかのように主張していると思われるが,既に述べたように,セ
メントは砂(骨材)と共に表面層のモルタルないしコンクリートを形成す
る成分材料であり,これはその配合量からも明らかである。
酸化チタン粉末をブロック表面層に保持させる方法は,刊行物1に記載
(,,,)されている態様セメント砂酸化チタン水を配合して混練する態様
に限らない。刊行物3(甲6)には「酸化チタン粒子を水に高度に分散,
させて酸化チタン含有スラリーを形成し,ついでこの酸化チタン含有スラ
リーを無機系多孔体表面に含浸させ,乾燥することを特徴とする大気浄化
用構造物の製造方法(請求項1)が記載されており,無機系多孔体とし」
(【】)。てコンクリートやモルタルの構造物が例示されている段落0010
この酸化チタンスラリーは,刊行物3の段落【0024】表1に示すよう
に固定化剤と分散剤を含むもの実施例2∼6のほかに固定化剤す,(),(
なわちバインダ)及び分散剤を含まないもの(実施例7,8)が示されて
いる。さらに,具体的には「酸化チタン粒子を水に高度に分散させて酸,
化チタン含有スラリーを形成するには,酸化チタン粒子と水とを十分混合
撹拌することにより均一に分散された酸化チタン含有スラリーが得られ
る」ことが記載されており(段落【0011,固定化剤(バインダ)を】)
用いない態様が具体的に示されている。
このように,表面層のモルタルないしコンクリートを形成するためのセ
メントと,酸化チタンスラリーに含まれるバインダとは明確に区別して認
識されており,したがって,両者を同一視する原告らの上記主張は誤って
いる。
なお,仮に原告らの主張に沿って,刊行物1発明においてはモルタルな
いしコンクリートを形成するためのセメントが同時に酸化チタンを保持さ
せるためのバインダとしても機能していると理解したとしても,審決は,
刊行物1発明では酸化チタンを付着させる手段が特定されていない点を相
違点2として正しく認定し,これに基づいて容易性の判断をしているので
あるから,そもそも,原告らの主張する点は審決の結論に影響するもので
はなく,取消事由となり得ない。
ウ次に,原告らは,刊行物2(甲2)の記載に関し,刊行物2のSTコー
トはセメントを含むから本件発明3の酸化チタンスラリーとは異なるの
で,STコートを本件発明3の酸化チタンスラリーに相当するとした審決
の認定は誤りであると主張する。
しかし,刊行物2にはSTコートがセメントを含むことは全く記載され
ていない。一方,刊行物3(甲6)に記載されているように,酸化チタン
粒子を水に高度に分散させて酸化チタン含有スラリーをコンクリートやモ
ルタルの構造物に含浸させて表面層に酸化チタンを保持させることは従来
から知られており,この酸化チタン含有スラリーの例として「酸化チタ,
ン粒子と水とを十分混合撹拌することにより均一に分散された酸化チタン
含有スラリーが得られる」ことが記載されており(段落【0011,。】)
固定化剤(バインダ)を用いない態様が具体的に示されている。しかも,
刊行物3には,上記酸化チタンスラリーをコンクリートなどに含浸するこ
とが開示されている。
そうすると,刊行物2のSTコートに代えて刊行物3のバインダーを含
まない酸化チタン含有スラリーを用い,舗装用道路面のコンクリート表層
,。部に酸化チタンを保持させることは当業者が容易に想到することである
したがって,刊行物3の酸化チタン含有スラリーを併せ考慮すれば,刊
行物2の施工方法は本件発明3の「光触媒として機能するNOx除去用の
酸化チタンスラリーを噴霧する」との技術事項を有するとした審決の認定
に誤りはない。なお,原告らは上記STコートについて,その配合組成か
らセメントを除外することについて述べているが,審決は,STコートか
らセメントを除外して考慮することを示したものではなく,原告らの上記
主張は失当である。
また原告らは,刊行物2の図面(551頁)に言及するが,同図には道
路表面層の骨材に光触媒が付着している態様が明確に示されており,この
光触媒は酸化チタンであることが明記されている(551頁下3行。し)
たがって,原告らが主張するような審決の不当性を示す問題はない。
(2)取消事由2に対し
ア取消事由2−1につき
原告らは,刊行物1と刊行物2を組み合わせることは容易とした審決の
,,判断が誤りである旨主張するが審決における本件発明1の容易性判断は
原告らの指摘する刊行物1及び刊行物2の記載のみならず,刊行物3及び
刊行物4の記載をも考慮して判断されている。
そして,この刊行物3には「酸化チタン粒子を水に高度に分散させて,
酸化チタン含有スラリー」をコンクリートやモルタルなどの表面に含浸さ
せ,乾燥させて酸化チタンを付着させることが記載されており,この酸化
チタンスラリーの具体例として,固定化剤(バインダ)を含むものと含ま
ないものが例示されている(実施例2∼8。しかも,刊行物3の酸化チ)
タンスラリーはNOx除去の触媒としてコンクリートやモルタルなどの表
面に含浸乾燥させて付着させるものであり,本件発明1と同一の目的と作
用効果の下で使用されるものである。
また,刊行物4は株式会社田中転写製の酸化チタンスラリー液に係るパ
ンフレット(甲12パンフレット)に記載された酸化チタンスラリー液を
具体的に示したものであり,これら刊行物4及び甲12パンフレットによ
れば,本件発明の実施例1で使用する酸化チタンスラリー液が本件特許の
出願前に販売され,コンクリート構造物について既に使用されていたこと
が明らかである。
そうすると,刊行物1発明において,酸化チタンを予めセメント及び砂
と混合して表面層を形成する態様に代えて,刊行物4及び甲12パンフレ
ットに記載された酸化チタンスラリー液を用い,刊行物3に記載されてい
るようにコンクリートやモルタルなどの表面に含浸させ乾燥させて酸化チ
タンを付着させることにより本件発明1のコンクリートブロックを形成す
ることは,本件発明1と同一の目的を有し作用効果を共通するものである
ので,当業者が容易に想到し得ることであるし,それを舗装面に適用する
ことも刊行物2に記載されている目的と作用効果が共通であるから,刊行
物2の記載に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。
このように,原告らの主張は,審決の刊行物3及び刊行物4についての
指摘を看過しており,刊行物1及び2の記載のみを機械的に組み合わせて
論じたものであって,理由がない。
なお原告らは,刊行物3の記載について「粒子径1mm以上の骨材間,
に形成される空隙を有するコンクリートブロック」について記載されてい
ないから本件発明1を示唆するものではないと主張するが,審決(21頁
16行∼20行が指摘するとおり刊行物1のブロックは砂の粒度が1.),
2∼5mmが好ましいと記載されており,この粒度が表面層部分である場
合には本件発明1と同様であり,またコンクリートブロック全体の粒度で
あるとしても,粒子径1mm以上の骨材であることに変わりはないから,
刊行物3の粒径に関する原告らの主張は理由がない。
また原告らは,刊行物4の記載について,タイヤ等の磨耗などに対する
耐摩耗性を有しているとは記載されておらず,そのような強固な固着力を
有していないとか,舗装用ブロックへの適用を示唆する記載もない旨主張
するが,刊行物4は甲12パンフレットに示された酸化チタンスラリーを
具体的に説明した文献であり,甲12パンフレットには歩道等のインター
ロッキング等についてNOx対策試験に用いたことが記載されている(1
頁表中24行参照。しかも,本件発明1は甲12パンフレットに示す酸)
化チタンスラリーを実施例1に用いているのであるから,刊行物4に関す
る原告らの上記主張は理由がない。
イ取消事由2−2につき
(ア)原告らは,刊行物1の舗装用NOx浄化用ブロックの表面層は既に
酸化チタンを含有しているので,更に酸化チタンを付与する方法を適用
する必要がないと主張するが,審決の認定を誤解するものである。審決
は,刊行物1の舗装用NOx浄化用ブロックの表面層が酸化チタンを含
有している状態で,更に酸化チタンを付与する方法を適用することを認
定しているのではない。そもそも,刊行物1(甲1)の請求項1には酸
化チタンを表面層に含有するブロックとして記載されており,酸化チタ
ンを付着させる方法を限定しておらず,酸化チタンを付着させる方法は
任意であるから,実施例1に記載されている方法(セメントと砂と共に
酸化チタンを含有する混練物とする方法)に限定されるものではない。
そして,刊行物2(甲2)には舗装面に酸化チタンを付着させた構造と
共に,STコートを用いた酸化チタンの付着方法が記載されており,刊
行物3(甲6)には,酸化チタンスラリーをコンクリートやモルタルに
含浸し乾燥させることによって,表面層に酸化チタンが付着したNOx
浄化性を有する建材,舗装ブロック,舗装構造物などの大気浄化用構造
物が記載されている。これら刊行物2の舗装構造及び刊行物3の構造物
は,コンクリートブロック等の表面層に酸化チタンを保持させ,その触
媒作用によってNOx浄化効果を発揮するものであり,本件発明1と目
的及び作用効果が共通するものであるから,刊行物1の舗装用NOx浄
化用ブロックについて,酸化チタンをセメント及び砂に予め混合する方
法に代えて,刊行物2に記載されているSTコート又は刊行物3に記載
されている酸化チタンスラリーをコンクリートブロック等の表面層に含
浸させて乾燥し,該表面層に酸化チタンが付着したNOx浄化用ブロッ
クを形成することは,当業者が容易に想到可能なことである。
(イ)また原告らは,刊行物2のSTコートはセメントを必須成分として
含むから,バインダを含まない酸化チタンスラリーを自然乾燥して付着
させることは推奨していないとか,刊行物1及び刊行物2にはいずれも
バインダを含まない酸化チタンスラリーが記載されていないとか,刊行
物3の固定対象は空隙径10nm∼200nmの多孔体に特定されるな
どと主張するが,前記アのとおり,刊行物3には酸化チタンスラリーと
してバインダを含むものと含まないものが例示されているし,刊行物3
に記載されているコンクリートブロック(多孔質体)は空隙径10∼2
00nmが好ましいと記載されているものの,含浸性を有するものであ
れば特に限定されるものではないと説明されており,上記空隙径に限定
されないことは明らかであるから,原告らの上記主張はいずれも理由が
ない。
(ウ)また原告らは,バインダを含まない酸化チタンスラリーではタイヤ
等による摩耗に耐える高い耐摩耗性を維持することが可能であることを
示す証拠がない旨主張するが,前記アのとおり,刊行物4の酸化チタン
スラリーは,本件特許の実施例1に使用されているもので,バインダを
含んでいないにもかかわらず,歩道等のインターロッキング等について
使用されているのであって(甲12パンフレットの記載参照,原告ら)
の上記主張は,本件特許の実施例1に矛盾しており,理由がない。
(エ)また原告らは,バインダを含む酸化チタンスラリーを用いる選択肢
はあっても,バインダを含まない刊行物3及び4の酸化チタンスラリー
を用いる選択肢は刊行物1及び2から予想できない旨主張するが,既に
述べたことから明らかなように,原告らの上記主張は理由がない。
ウ取消事由2−3につき
原告らは,バインダを含まない酸化チタンスラリーを使用する対象とし
て「セメントを主バインダとして粒径1mm以上の骨材同士を接合し,該
骨材間の空隙が連通孔により表面まで開口した透水性を有するコンクリー
トブロック」は刊行物4に記載されていないと主張するが,刊行物4(甲
13)は,酸化チタンスラリーの成分等を具体的に開示した文献であり,
その使用対象を特定したものではない。
しかも,前記アのとおり,刊行物4に示される酸化チタンスラリーは歩
道等のインターロッキング等について使用されており(甲12パンフレッ
トの記載参照,一般にインターロッキングブロックはコンクリート製で)
あるから,粒径1mm以上の骨材(砂)を含むものである。一方,刊行物
1には酸化チタンを保持する基体として砂の粒度1.2∼5mmが好まし
いコンクリートブロックが示されており,刊行物3には酸化チタンスラリ
を含浸させる基体としてコンクリート等の多孔質構造物が示されている。
そうすると,刊行物4の酸化チタンスラリーを刊行物1及び刊行物3のコ
ンクリートブロックに使用することは,その使用目的及び作用効果が共通
であるから,当業者が容易に想到することができるというべきである。
エ取消事由2−4につき
原告らは,刊行物1,2には本各件発明により奏される作用効果が記載
されていないし,その示唆もないと主張する。しかし,刊行物1のコンク
リートブロックにおいて,酸化チタンはスラリー状態で使用されているの
ではない。刊行物1発明におけるセメントに関する原告らの上記主張は,
表面層であるモルタルやコンクリートを形成するためのセメントを,あた
かも酸化チタンスラリーに配合されるバインダであるかのように誤解した
ものであり,酸化チタンスラリーにセメントが必須成分として含まれるも
のではない。刊行物3にはコンクリートブロックに含浸させる酸化チタン
スラリーとしてバインダを含まないものが例示されている。このように,
酸化チタンスラリーについて刊行物1発明がバインダーを用いることを推
奨していることはなく,刊行物1のバインダーに関する原告らの上記主張
は明らかに誤っている。
また原告らは,バインダとしてのセメントを併用すればセメントが光触
媒を覆うので結果として触媒機能が低下するなど作用効果が劣る旨主張す
るが,審決は,セメントを含有する酸化チタンスラリーについて判断した
ものではないし,本件特許の出願時の明細書には,バインダを含む酸化チ
タンスラリーを用いたときの触媒機能のデータと,バインダを含まない酸
化チタンスラリーを用いたときの触媒機能のデータとが対比される具体的
な数値データとして全く示されておらず,しかも,一般的な技術常識から
みて,バインダーが触媒機能に与える影響はその使用量によって大きく異
なることが予想される。したがって,原告らの上記主張は理由がない。
(3)取消事由3に対し
前記(1)及び(2)のとおり,本件発明1についての審決の判断に誤りはない
から,取消事由3に関する原告らの主張は理由がない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯,(2)(発明の内容,(3)(審))
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2本件各発明の意義
(1)本件訂正後の請求項1∼5は,前記第3,1(2)のとおりである。
(2)また,本件訂正後の明細書(全文訂正明細書,甲27。ただし,図は特
許公報〔甲41〕による)には次の記載がある。
ア発明の属する技術分野
・「この発明は,歩道等に舗装として設置された際に,NOx除去の効果及び透水
性を有し,かつ,曲げ強さが大きい舗装用コンクリートブロックに関する(段落。」
【0001)】
イ従来の技術
・「近年,自動車等から排出される排気ガスに含まれているNOxによる大気の汚
染は,自動車数の増加,それに伴う交通渋滞などで増加している。このようなNO
xを除去する目的で,酸化チタン(二酸化チタン)などの光触媒を外壁や舗装用ブ
ロックの表面に保持させてNOxを除去することが提案されている(段落【00。」
02)】
・「例えば,特開平9−268509号公報や特開平10−46512号公報によ
れば,コンクリート製基層上に,酸化チタン粉末を含むモルタルを表面層として被
覆している(段落【0003)。」】
・「また,特開平10−96204号公報によれば,舗装ブロックのモルタル表面
層を叩きによって凹凸模様に形成させ,その凹凸模様に酸化チタンを含有する表面
層を付与している(段落【0004)。」】
ウ発明が解決しようとする課題
・「しかしながら,酸化チタンを外壁に用いる場合には長期間の使用でも,光触媒
機能は低下しないが,舗装材料としてこのコンクリートブロックを使用すると光触
媒機能の経時低下が激しい。これは,舗装材料としての使用中に路面が汚れたり,
また,その路面が踏まれるなどして表面の酸化チタン層が剥離してしまうためと考
えられる(段落【0005)。」】
・「そこで,この発明は,長期間の使用に際しても,光触媒機能の低下の少ない,
コンクリートブロックを提供することを目的とする(段落【0006)。」】
エ課題を解決するための手段
・「この目的を達成するために,請求項1記載の発明は,セメントを主バインダと
して粒径1mm以上の骨材同士を接合し,該骨材間の空隙が連通孔により表面まで
開口した透水性を有するコンクリートブロックの表層付近の骨材間に形成された空
隙に光触媒として機能するNOx除去用の触媒としての酸化チタンをバインダを用
いずに保持させたコンクリートブロックであって,前記コンクリートブロックは,
透水係数が0.1cm/秒以上,JISA5304(1994)舗装用コンクリー
ト平板長さL300mm,幅W300mm,高さH60mmに基づく曲げ強さが1
2kN以上の平板であることを特徴とする舗装用コンクリートブロックである」。
(段落【0007)】
・「本発明によれば,透水係数が0.1cm/秒以上という透水性を有するコンク
リートブロックであって,JISA5304(1994)舗装用コンクリート平板
長さL300mm,幅W300mm,高さH60mmに基づく曲げ強さが12kN
以上という曲げ強さが大きい平板である舗装用コンクリートブロックが得られるの
で,このコンクリートブロックは,透水性のある舗装用コンクリートブロックとし
て利用できる。
また,本発明によれば,粒径1mm以上の骨材を用いることにより,骨材間に触
媒を保持するに十分な空隙を設けることができ,これにより透水性を保持させるこ
とができる。
また,酸化チタンなどの光触媒は,粒子径の大きな骨材間により形成された表層
付近の空隙に保持されるので,触媒面に光が到達されて光触媒として機能する。
また,この触媒が保持されている面は空隙であるので,汚れることが少なく,ま
た,ブロックの表面が踏まれたり,摩擦されたりしても,触媒は骨材間に形成され
た空隙に保持されるので,外力が直接触媒に働くことがなく,したがって触媒が剥
がれることが少ない。
また,このバインダを用いずに酸化チタンを保持させたコンクリートブロックは
透水係数が0.1cm/秒以上と十分に高いことにより,光触媒作用により生成す
,,る硝酸イオンは表面側から裏面側に流下する降水時などの雨水などにより安定層
路盤,路床,クッション層などの下層に洗い流されて,硝酸イオンが蓄積すること
なく,酸化チタンの高い触媒活性が維持される。
これにより,長期間の使用によっても光触媒効果の低下の少ないコンクリートブ
ロックを提供することができる(段落【0008)。」】
・「請求項2に記載の発明は,前記骨材は,粒径5mm以上の粗骨材を主体とする
ことを特徴とする請求項1に記載の舗装用コンクリートブロックである段落0。」(【
011)】
・「ここで,5mm以上の粗骨材を主体とするとは,いわゆる粗骨材を意味し,こ
の粒子径が5mm未満の細骨材も15%未満程度で有れば,実質的に透水性に影響
を与えないので,含まれていてもよい(段落【0012)。」】
・「このように構成すれば,一般的な粗骨材を用いることにより,この粗骨材間に
触媒を保持するに十分な空隙を設けることができる(段落【0013)。」】
・「請求項3に記載の発明は,セメントを主バインダとして粒子径の大きな骨材同
士を接合し,該骨材間の空隙が連通孔により表面まで開口したコンクリートブロッ
クに,光触媒として機能するNOx除去用の酸化チタンスラリーを噴霧するか,ま
たは,光触媒として機能するNOx除去用の酸化チタンスラリー液の中に,前記コ
ンクリートブロックを浸漬することを特徴とする請求項1に記載の舗装用コンクリ
ートブロックの製造方法である(段落【0016)。」】
・「このように構成すれば,請求項1に記載の舗装用コンクリートブロックを容易
に製造することができる(段落【0017)。」】
・「請求項4に記載の発明は,セメントを主バインダとして粒子径の大きな骨材同
士を接合し,該骨材間の空隙が連通孔により形成された平板状のコンクリートブロ
ックの表面側に連通孔が開口した平板状コンクリートブロックまたは表面側を研磨
して前記連通孔が表面に開口した平板状コンクリートブロックを形成し,この平板
状コンクリートブロックの表面から,光触媒として機能するNOx除去用の酸化チ
タンスラリーを噴霧したものを自然乾燥又は加熱乾燥するか,または,光触媒とし
て機能するNOx除去用の酸化チタンスラリー液の中に,前記平板状コンクリート
ブロックの表面を浸漬したものを自然乾燥又は加熱乾燥することを特徴とする請求
。」(【】)項1に記載の舗装用コンクリートブロックの製造方法である段落0018
・「このように構成すれば,セメントをバインダとして粒子径の大きな骨材同士を
接合した平板状コンクリートブロックを形成させた際に,連通孔の一部は表面に開
口されるが,骨材から遊離した状態のセメントが表面付近に多く含まれている場合
にはこの連通孔の一部または全部は表面に開口されていない場合がある。そのよう
な場合を含めて,その表面を研磨により除去すれば,より多くの連通孔が表面に開
口される。このようにして得た平板状コンクリートブロックの表面に形成された開
口から,触媒をその骨材間で形成された空隙に保持させることができるので,請求
項1に記載の舗装用コンクリートブロックを容易に製造することができる(段落。」
【0019)】
・「また,表面を研磨したコンクリートブロックは,透水性能に優れ,また,表面
側が研磨されているので,この研磨面を上にして施工すれば,表面の歩行性が優れ
。,。」るまた骨材の研磨断面がこの表面に露出されることにより外観も美麗となる
(段落【0020)】
・「請求項5に記載の発明は,前記バインダの使用量は,前記骨材100重量部に
対して30重量部よりも少ないことを特徴とする請求項4に記載の舗装用コンクリ
ートブロックの製造方法である(段落【0021)。」】
・「このように構成すれば,骨材間に十分に広い空隙に基づく連通孔が形成される
ので,このコンクリートブロックの透水性が優れる。これにより,NOx除去によ
り生じた硝酸イオンをこの連通孔を介して下層に洗い流すことのできる平板状のコ
ンクリートブロックを得ることができるので,光触媒活性の低下の少ない舗装用コ
ンクリートブロックを得ることができる(段落【0022)。」】
オ発明の実施の形態
・「以下,この発明に係る実施の形態を透水平板を一例として図面に基づいて説明
する(段落【0023)。」】
・「この発明の実施の形態に係るコンクリートブロック1は,図1に示すように,
長さL,幅Wが数十cm程度(例えば,15cm又は30cmなど,高さHが数)
cm(例えば,60mm)に規格化された方形寸法であり,歩道,コミュニティ広
場,駐車場,建物周辺,ガレージ,公園,庭園,プールサイド,親水施設などにお
いて,透水性の路床,路盤,砂などのクッション層を介して併設敷設されて使用さ
れるものである(段落【0024)。」】
・【図1】
・「このコンクリートブロック1は,粒子径の大きな骨材2…同士がセメントなど
のバインダ(不図示)により接合され,表面1a側に配置される骨材2の表面2a
には,光触媒として機能するNOx除去用の触媒としての酸化チタン3が保持され
ている。また,この骨材2の粒径が大きいことにより,骨材2…間には,多数の空
隙4…が形成されている。また,この空隙4…は表面1a及び裏面1bまで連通さ
れており,表面1aに形成された開口5から酸化チタン3まで光が届くように構成
されている(段落【0025)。」】
・「…この骨材2を接合させるバインダとしては,通常の透水平板に用いられるバ
インダがそのまま用いられ,例えば,白色ポルトランドセメント,普通ポルトラン
ドセメント,高炉セメント,エコセメントなどが用いられる。これらのセメントを
主体としてバインダに使用することにより,平板状に成形しても,曲げ強さの大き
な,踏まれたりしても耐久性のあるコンクリートブロックを得ることができる。こ
れにより,例えば,JISA5304(1994)舗装用コンクリート平板長さL
300mm,幅W300mm,高さH60mmに基づく曲げ強さが12kN以上と
曲げ強さを大きくすることにより,舗装用平板として利用できる(段落【002。」
7)】
・「また,このように構成されたコンクリートブロック1は,透水係数が0.1c
m/秒以上であることが好ましい。透水係数が0.1cm/秒以上と高いことによ
,,,,りNOx除去により生じた硝酸イオンは降水時などの雨水により安定層路盤
路床,クッション層などの下層に流すことができる(段落【0028)。」】
・「酸化チタンの表面に硝酸イオンが蓄積されると,その酸化触媒作用が低下する
ことがある。このような場合,反応生成物である硝酸イオンは,吸着剤により除去
することが好ましいが,この透水性を有するコンクリートブロックによれば,その
表面に水をかけることにより容易に硝酸イオンを連通孔を通じて下層に洗い流すこ
とができる。これにより,雨水に晒される状態で敷設されて使用される透水平板で
は,硝酸イオンは,雨水により連通孔を通して流されるので,酸化チタンの高活性
は維持されることになる。この硝酸イオンは,少量で有れば地中に流されても,地
中の微生物により分解されて無害化される(段落【0029)。」】
・「このようなコンクリートブロック1は,例えば,市販の透水平板の表面に酸化
チタンを保持させることにより容易に得ることができる。ここで,透水平板とは,
セメントを主バインダとして粒子径の大きな骨材同士を接合し,骨材間の空隙が連
通孔により表面まで開口したものであり,このような透水平板は,例えば,粒子径
の大きな骨材の表面にセメントを主バインダにより被覆し,接着性を有している状
態でその骨材同士を接合して骨材間の空隙を連通孔により形成することにより製造
することができる(段落【0030)。」】
・「このコンクリートブロックの開口付近の骨材の表面には光触媒として機能する
。,,NOx除去用の酸化チタンが保持されるこの保持方法は限定されないが例えば
酸化チタンスラリーを噴霧するか,または,酸化チタンスラリー液の中にこのコン
クリートブロックを浸漬し,開口付近の骨材の表層に酸化チタンを保持させればよ
い(段落【0033)。」】
・「酸化チタンスラリーは,酸化チタン微粒子を水に懸濁させた溶液である。この
,。スラリー中の酸化チタン濃度としては数%程度からその1/10程度が望ましい
その溶液中(スラリー中)の酸化チタン濃度を変化させることによって,コンクリ
ートブロックへの酸化チタンが付着する量を容易に調節することができる。このコ
ンクリートブロックへの酸化チタンの保持量は,単位表面積あたり数十g/㎡∼数
百g/㎡程度でよい(段落【0034)。」】
・「以下,実施例に基づき,この発明の効果を具体的に説明する(段落【004。」
2)】
・「実施例1】【
骨材として粒径5∼2.5mmの7号砕石を主体として用い,この砕石間に空隙
をもたせるように,砕石の100重量部に対して20重量の普通ポルトランドセメ
ントを主体とするバインダと適量の水を配合して型枠に流し込んで養生を行うこと
により骨材間が接合されてブロック全体に亘って透水性可能な幅20cm,長さ1
,。」(【】)0cm厚み15cmの透水性コンクリートブロックを得た段落0043
・「この透水性コンクリートブロックの一表面に酸化チタンの塗布量が100g/
㎡となるように酸化チタンスラリー液(株式会社田中転写製,固形分濃度0.85
%)を噴霧し,自然乾燥し,本発明に従うNOx除去能力のある透水ブロックを得
た(段落【0044)。」】
・「この透水ブロックを試験体として,酸化チタンが保持された表面を上にして空
,()気導入口と出口とを備えた密閉容器に入れ透水ブロック表面に一酸化窒素NO
を1ppmの濃度で含む空気を0.5L/分の流量で通気した。紫外線ランプによ
,.,り透水ブロック表面に06mW/c㎡となるように間欠的に紫外線を照射させ
出口から排出されるガスを化学発光方式のNO濃度計に導き出口ガス中のNO濃度
を連続的に測定した。結果を図3に示す(段落【0045)。」(】
・「図3から,紫外線を照射しない初期には,NOは分解されないが,紫外線照射
を開始すると,急激にNO濃度は低下し,最終的にはNO濃度はゼロとなった。次
いで,この紫外線の照射を停止すると,NO濃度は急激に上昇し,導入口のNO濃
度(1ppm)に達した。このことから,酸化チタンを表面部に保持させた透水平
板が,紫外線照射のもとでNOを高い除去率で分解することが確かめられた(段。」
落【0046)】
・「次に,この透水ブロックの表面を厚さ1mmで研磨して図2に示す透水ブロッ
クとした。上記と同様なNOx除去試験を行ったところ,図3に示す結果と同様な
結果を得ることができた。これにより,この実施例に従う透水ブロックでは,摩擦
などにより表面が研磨されても,光触媒効果が劣化されないことが確認された」。
(段落【0047)】
カ発明の効果
「,,,・以上説明したように請求項1記載の発明によれば長期間の使用に際しても
光触媒機能の低下の少ない,舗装用コンクリートブロックを提供することができ
る(段落【0062)。」】
(3)以上によれば,本件各発明は,歩道等に舗装として設置される際にNO
x除去の効果及び透水性を有し,かつ曲げ強さが大きい舗装用コンクリート
ブロックに関するものである。従来,自動車等から排出される排気ガスに含
まれている大気汚染物質であるNOxを除去する目的で,酸化チタンなどの
光触媒を舗装用ブロックの表面に保持させることや,舗装ブロックのモルタ
ル表面層を凹凸模様に形成させ,その凹凸模様に酸化チタンを含有する表面
層を付与することが行われていたが,このような方法では,舗装としての使
用中に,表面の酸化チタン層が汚れたり剥離してしまうため光触媒機能の経
時低下が激しかったことから,本件発明1の構成を採用することにより,長
期間の使用に際しても光触媒機能の低下の少ないコンクリートブロックを提
供しようというものである。ここで,粒径1mm以上の骨材を用いるのは,
これにより骨材間に触媒を保持するに十分な空隙を設け,これにより透水性
を保持するためであり,光触媒は粒子径の大きな骨材間により形成された表
層付近に保持されるため,触媒面に光が到達されて光触媒として機能するこ
とになり,また,この触媒が保持されている面が空隙であるため,汚れるこ
とが少なく,かつ,外力が直接触媒に働かないことから触媒が剥がれること
が少なくなる。また,ここで透水係数が十分に高いものとされるのは,光触
媒作用の結果生成される硝酸イオンを降水時などの雨水などにより下層に洗
い流すことができるようにするためであり,これにより,酸化チタンの高い
触媒活性を維持することができる。なお,本件発明2は,本件発明1におけ
る骨材につき5mm以上の粗骨材を主体として用いることにより,十分な空
隙を確保しようとするものであり,本件発明3∼5は,本件発明1ないしこ
れを含む舗装用コンクリートブロックの製造方法に関するものであり,これ
ら本件発明2∼5はいずれも本件発明1の構成を前提とするものである。
3取消事由1(相違点の看過及び刊行物2記載事項の認定誤り)について
(1)相違点の看過につき
ア原告らの主張に対する判断に先立ち,刊行物1発明の内容等について検
討する。刊行物1(甲1)には,次の記載がある。
(ア)特許請求の範囲
・【請求項1】コンクリート製基層上に,セメント100重量部,酸化チタン
粉末5重量部∼50重量部及び砂100重量部∼700重量部からなる表面層
を有することを特徴とする舗装用NOx浄化ブロック。
・【請求項2】表面層の厚みが15mm∼2mmであることを特徴とする請求項
1に記載の舗装用NOx浄化ブロック。
・【請求項3】砂の少なくとも1部分がガラス粒又は珪砂であることを特徴とす
る請求項1又は請求項2に記載の舗装用NOx浄化ブロック。
・【請求項4】表面層の表面が凹凸を有することを特徴とする請求項1乃至請求
項3のいずれかに記載の舗装用NOx浄化ブロック。
・【請求項5】表面層の空隙率が10%∼40%であり,透水係数が0.01c
m/sec以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記
載の舗装用NOx浄化ブロック。
(イ)発明の属する技術分野
・「0001】本発明は,舗装用NOx浄化ブロックに関し,更に詳しくは大【
気中のNOxを捕捉しかつその捕捉効率を上げかつ雨水による洗浄効率が向上
し,更には良好な環境を得ることができると共に舗装用に供し得る耐すべり性
並びに耐摩耗性を付与した舗装用NOx浄化ブロックに関するものである」。
(ウ)従来の技術
・「0002】近年,自動車,特にジーゼル自動車からでる排気ガス中に含ま【
れているNOxによる大気環境の汚染は,自動車数の増加,それに伴う交通渋
滞等で増加している。従来,このNOxの濃度を低下させる物質として金属酸
化物が知られており,この中でも二酸化チタンが強い光触媒作用を有すること
も知られている。このような二酸化チタンの強い光触媒作用を利用してNOx
を除去する研究は,近年ますます盛んになり二酸化チタンを混合してシートや
パネルを形成し,建築物の外壁に用いてNOxを除去することが実用化されつ
つある」。
(エ)発明が解決しようとする課題
・「0003】そこで,本発明者は,建築物の外壁に用いられるシートやパネ【
ルについて研究を続け,このパネルが舗装用に供せられる条件等を更に検討し
た結果,セメント,二酸化チタン粉末及び砂からなる混練物をコンクリート基
材と組み合わせて舗装用ブロックとすることにより酸化チタンの触媒性能を損
なわないばかりか効率よくNOxを除去することができ,舗装用に適する耐す
べり性並びに耐摩耗性の優れたものが得られることを見出し,ここに本発明を
なすに至った。したがって,本発明が解決しようとする第1の課題は,効率よ
くNOxを除去できると共に耐すべり性,耐久性に優れ,かつ自然環境上好ま
しい舗装用NOx浄化ブロックを提供することにある。本発明が解決しようと
する第2の課題は,NOxの除去効率を上げ,雨水による洗浄効果が促進され
ると共に耐すべり性,耐久性に優れ,かつ自然環境上好ましい舗装用NOx浄
化ブロックを提供することにある」。
(オ)発明の実施の形態
・「0006】本発明において,舗装用とは,歩道や車道を含む意味であり,【
更に舗装用ブロックとは,歩道や車道に敷設されるブロックを意味する。本発
明の舗装用NOx浄化ブロックは,コンクリート製基層上に,セメント100
重量部,酸化チタン粉末5重量部∼50重量部及び砂100重量部∼400重
量部からなる表面層を有することを特徴とするもので,これによりコンクリー
ト製基層であるので,耐久性を有すると共に更に酸化チタンの作用により除去
されたNOxは硝酸イオンとなりコンクリート中のアルカリ成分と中和し安定
化されるので,自然環境上好ましい。また砂を加えているので,酸化チタン粉
末のすべり性を押さえ耐すべり性が得られる。更に表面層は,セメントと砂を
含むので,耐すべり性及び耐久性に優れており十分舗装用に供されるものであ
る。更にまた舗装用NOx浄化ブロックの表面層の空隙率が10%∼40%で
あり,透水係数が0.01cm/sec以上とすることにより有効表面積の増
加による光触媒の効率を上げることができ,また透水率が大きいので,雨水に
よる洗浄効果の増加したものが得られる。したがって経済効率に優れた舗装用
NOx浄化ブロックが得られる」。
・「0007】本発明において表面層の厚みは15mm∼2mmであり,好ま【
しくは10mm∼2mmである。本発明において,表面層の厚みが15mmを
越えると太陽光が浸透しにくくなりチタン層が無駄になる。またその厚みが2
mm未満ではNOxの浄化効率が悪くなると共に耐久性が劣る。本発明におい
て,砂として,光透過性の高いガラス粒や珪砂を用いる場合は,十分な光が奥
深くまで浸透しNOxの浄化効率を良くする。また空隙率の大きい表面層を形
成する場合には,できるだけ均一粒度の砂を使用し,砂の表面にセメントと酸
化チタンの混合膜が形成される構造とし,これらの砂同士が被覆されたセメン
トと酸化チタンの混合物により結合されることが好ましい。このように構成す
ることにより有効表面積の増加による光触媒の効率を上げることができので,
NOx浄化効率が向上し,かつ透水率大きいので,洗浄効果が増加する。砂の
粒度は1.2∼5mmが好ましい。砂に対して結合材であるセメントと酸化チ
タン粉末を多くし過ぎると空隙率が低下する。したがって,空隙率は,10%
∼40%が有効であり,更に15%∼30%が好ましい。空隙率が,10%未
満では十分な有効表面積が得られずNOx浄化効率が悪い。空隙率が,40%
を越えると,NOx浄化効率は向上するが,強度が低下し舗装用ブロックとし
ての耐久性が低下する。空隙率を10%∼40%の範囲にするには,砂と結合
材との比率は,砂に対して結合材は18∼100重量%の範囲が好ましい」。
・「0008】更に本発明おいては,表面層の下に光反射層を設けることによ【
りNOxの浄化効率を上げることができる。この光反射層としては,セメント
に二酸化チタン等の白色粒子又は白色顔料等を混合したものが好ましい。更に
表面層は,その表面を凹凸にすることにより光の吸収性と大気との接触面積を
増し,かつ耐すべり性を向上させることができる。この凹凸の形成は,成形時
の型枠に凹凸を付けるかあるいは研削によっても可能である。研削方法はダイ
ヤモンドブレードやその他の工具あるいはサンドブラスト法等適宜の方法でよ
い。この凹凸形状としては,ジグザグ型,波型又は台形型等が挙げられるが,
。他の凹凸形状や適宜の模様でも前記効果を損なわない限り用いることができる
凹凸の深さは2mm∼7mmが好ましく,山と山との長さは4mm∼10mm
が好ましい」。
・「0009】本発明に用いられる表面層の酸化チタンの割合は,酸化チタン【
の種類,粒度等によって異なるが,セメント100重量部に対して,酸化チタ
ン粉末5重量部∼50重量部であり,好ましくは酸化チタン粉末10重量部∼
50重量部が用いられる。更に好ましくは酸化チタン粉末20重量部∼50重
量部である。本発明に用いられる表面層の成分割合がセメント100重量部に
,,対して酸化チタン粉末は5重量部より少ないとNOxの浄化効率が良くなく
50重量部を越えると耐すべり性が悪くなるばかりか耐摩耗性も劣る。またセ
メント100重量部に対して砂100重量部より少ないと耐すべり性並びに耐
摩耗性が減少し,400重量部を越えると相対的に酸化チタン粉末が少なくな
りNOxの浄化効率が劣る。本発明において好ましい表面層の成分割合は,セ
メント100重量部に対して酸化チタン粉末10重量部∼50重量部,更に好
ましくは20重量部∼50重量部,及び砂50重量部∼300重量部である。
本発明に用いられる舗装用NOx浄化ブロックは,適宜の方法で製造すること
ができ,例えば型枠内にコンクリート混練物を投入して平にした後,表面層形
成混練物をその上に投入して積層成形する方法(特開平3−169901号公
報第1頁左欄14行∼19行参照)が挙げられる。この他基礎コンクリート部
分を成形硬化させ,別に表層部分を成形硬化させて作り,その後両者を合体さ
せることにより製造することも可能であるが,好ましくは前記方法がよい」。
・「0010(作用)本発明において,ブロックとしてコンクリート製基層を【】
用いることにより耐久性を得ると共にNOxから得られた硝酸イオンがコンク
リート中のアルカリ成分と中和する。また砂としてガラスや珪砂を用いること
により耐すべり性や耐摩耗性が得られると共に良好な光透過性が得られる。更
に表面に凹凸を設けることにより全方向からの光の侵入を可能にする。更にま
た表面層の空隙率が10%∼40%であり,透水係数が0.01cm/sec
,以上とすることにより有効表面積が増加して光触媒の効率を上げることができ
また透水率が大きくなるので,洗浄効果が増加する」。
(カ)実施例
・「0011】以下,本発明を実施例を挙げて更に詳しく説明するが,本発明【
はこれに限定されるものではない」。
・「0012〔実施例1〕コンクリート基層用混練物として,ポルトランドセ【】
メント100重量部,水31重量部,砕石190重量部,砂240重量部を配
合し,混練する。一方,表面層用混練物として,砂,酸化チタン20重量部及
びポルトランドセメント80重量部を配合し,混練する。ここで,砂のセメン
トに対する割合を表1に示す値にし,試料1∼4を作製した。これらの試料1
∼4を用いて4種類の舗装用ブロックを次のように製造した。10×20cm
の型枠にコンクリート基層用混練物を入れ,振動成形した後,その上に表面層
用混練物を投入し,型板を置いた後,同様に加圧振動成形(加圧力0.25k
,....,)g/c㎡振動数3140rpm振幅14mm加圧振動時間3秒間
を行い,養生した後,縦20cm,横10cm,高さ8cmの試験体1∼4が
得られた。図1には得られたブロックの斜視図が示されている。このブロック
1は,基層2に表面層3を有し,その表面層3の厚みは7mmである。得られ
た結果を表1に示す」。
・「0018〔実施例5〕実施例4に記載の表面層の表面をサンドブラスト法【】
により粗面とした以外は,実施例4と同様にして試験体10を得た。得られた
試験体10は,すべり抵抗性に優れていると共に光透過性にも優れ,効率的に
NOxを除去することができた」。
・「0019〔実施例6〕コンクリート基層用混練物として,ポルトランドセ【】
メント100重量部,水25重量部,砕石300重量部を配合し混練する。一
方,表面層用混練物として,砕砂600重量部,酸化チタン30重量部及びポ
ルトランドセメント100重量部,水25重量部を混合し混練する。10×2
0cmの型枠にコンクリート基層混練り物を入れ,振動成形した後,その上に
表面層用混練り物を投入し,型板を置いた後,同様に加圧振動成形を行った。
養生して舗装用ブロックを得た。得られたブロックは,基層7cm,表面層1
cmの厚みであり,基層の空隙率は26%,表面層の空隙率は20%,透水性
試験値は,0.10cm/secであり,更にすべり抵抗性87BPNと優れ
ていると共に洗浄効果にも優れ,効率的にNOxを除去することができた」。
イ以上によれば,刊行物1に記載された発明は,自動車の排気ガス中に含
まれるNOxによる大気環境の汚染を背景にするものであり,従来,この
NOxの濃度を低下させる物質としては金属酸化物が知られており,中で
も二酸化チタンが強い光触媒作用を有することが知られていたところ,こ
のような二酸化チタンの強い光触媒作用を利用してNOxを除去する方法
として実用化されつつあった,二酸化チタンを混合してシートやパネルを
形成し,建築物の外壁に用いてNOxを除去するという方法を,舗装用ブ
ロックに応用した舗装用NOx浄化ブロックに関するものであり,具体的
には,審決認定のとおり「コンクリート製基層と表面層からなる舗装用,
NOx浄化ブロックであって,コンクリート基層用混練物として,ポルト
ランドセメント,水,砕石を配合し,表面層用混練物として,砂の粒度を
1.2mm∼5mmとした砕砂,酸化チタン及びポルトランドセメント,
水を配合することで各層を形成した,基層の空隙率は26%,表面層の空
隙率は20%,透水性試験値は,0.10cm/secである舗装用NO
x浄化ブロック」との発明(刊行物1発明)が記載されていると認めら。
れる。このように,刊行物1発明は,NOx浄化用の光触媒としての二酸
化チタンを舗装用ブロックの表面層に付着させる方法として,舗装用ブロ
ックの原料であるセメント及び砂に二酸化チタンを混練するという方法を
採用するものである。その上で,舗装用という特性から要求される耐すべ
り性及び耐摩耗性は,浄化効率との関係に配慮しつつ,セメントないし砂
との重量割合の最適化を図ることにより克服しようとするものであり,さ
らに,このようにして形成された空隙を有する酸化チタン含有層を,空隙
を有するコンクリート製基層の表面に設けることにより,酸化チタンの触
媒性能を損なわずに効率よくNOxを除去することを可能ならしめるとい
うものである。
ウそして,以上を前提に本件発明1と刊行物1発明を対比すると,その一
致点及び相違点は,前記第3の1(3)イ(イ)のとおりである。
エこれに対し原告らは,本件発明1と刊行物1発明とはバインダの有無と
いう相違点があるにもかかわらず,審決にはこれを看過した誤りがある旨
主張するが前記第3の1(3)イ(イ)の相違点2のとおり審決は本,〈〉,,「
件発明1では『コンクリートブロックの表層付近の骨材間に形成された,
空隙に光触媒として機能するNOx除去用の触媒としての酸化チタンを,
バインダを用いずに付着力のある水溶液を用い,自然乾燥により』付着さ
せたと特定されているのに対し,刊行物1発明では,前記特定を有しない
点」を相違点として挙げており,原告らの指摘に係るバインダの有無は。
相違点2において含意されているというべきであるから,原告らの主張は
採用することができない。
(2)刊行物2記載事項認定の誤りにつき
ア原告らは,刊行物2に記載された光触媒はバインダとしてのセメントを
含むものであるにもかかわらず,審決がこれをバインダとしてのセメント
を含まない配合組成を用いる構成であるかのように認定することは誤りで
あるから,審決は取り消されるべきである旨主張するので,この点につい
て検討する。刊行物2(甲2)には,次の記載がある。
「,()・近年の研究により光触媒は太陽光エネルギーを利用して窒素酸化物NOx
等の大気汚染物質を酸化して除去する働きがあることが解明されている。ま
た光触媒活性の高い製品が開発されてきており,都心での自動車排気ガス等
の新しい処理技術として期待されている。
これまでに道路用ガードレールや道路側壁,遮音壁などに光触媒を含む材
料を用いることにより,大気浄化および汚れ防止効果を活用する建材および
工法が開発されている。
通常,自動車排気ガスの処理対策として光触媒を適用する場合,側壁等の
道路周辺に比べ発生源に近く汚染物質が拡散する前に接触する道路表面に光
触媒を固定する方が効果的に働くことがシミュレーションによりわかってい
る。しかし,これまで道路面に光触媒を固定する方法は,走行する自動車タ
イヤとの摩擦に耐えられる耐摩耗性および光触媒による空気浄化作用を維持
することができる固定化剤の開発などの問題点があった。
今回開発した『フォトロード工法』は,道路表面に光触媒を含む特殊なセ
メントで固定することにより,耐摩耗性および高い光触媒作用の維持が可能
となりかつ道路表面が比較的凹凸であり,低騒音性および雨水の排水性を有
する高機能舗装を下地とすることにより効果的に道路表面で空気浄化を行う
ものである(551頁左欄2行∼右欄17行)。」
・「フォトロード工法』は従来の通常舗装に対して自動車走行に伴って発生『
,,する騒音を低減し雨水を透過して排水性を有する高機能舗装を下地として
さらに光触媒(酸化チタン:TiO)により空気浄化作用を付与したもので2
ある(図1(551頁右欄20行∼下1行))。」
・「フォトロード工法』は従来の高機能舗装に光触媒による空気浄化能力を『
持たせたもので,超高機能舗装ともいえるものである。
高機能舗装は通常,骨材として粒径が13mm以下の6号砕石を用い空隙
率を20%以上とすることにより道路表面が凹凸状となっている。排水性を
持たせるためには表面が凹凸であるほか,一定の割合で連続する空隙が必要
である『フォトロード工法』では,光触媒(酸化チタン:TiO)を含む。2
セメント系固化剤(STコート)を高機能舗装の表面に噴霧してコーティン
グすることにより施工する。高機能舗装表面に固定するSTコートの膜厚は
0.3∼0.5mm程度である(552頁右欄15行∼27行)。」
イ以上によれば,刊行物2(甲2)には,表面に空隙を有する高機能舗装
に対して,光触媒を含む特殊なセメント,すなわち酸化チタンを含むセメ
ント系固化剤(STコート)を高機能舗装の表面に噴霧してコーティング
する「フォトロード工法」が記載されていると認められ,刊行物2に記載
された光触媒はバインダとしてのセメントを含むものであるということが
できる。
ウ他方,審決は,刊行物2の記載事項として,前記アに掲記の事項などに
加えて,刊行物2の551頁の図面から見て取れる事項として「高機能,
舗装の表層部の拡大図があり,骨材のまわりに光触媒が付着されているこ
と」を認定するが(15頁1行∼3行,刊行物2の光触媒がバインダと)
してのセメントを含まない配合組成を用いる構成である旨を積極的に認定
するところはない。
なお,原告は,審決(23頁22行∼24行)が,刊行物2の551頁
の図面に係る上記記載を引用した上,刊行物2の「光触媒(酸化チタン:
)を含むセメント系固化剤」が本件発明3の「光触媒として機能すTiO2
るNOx除去用の酸化チタンスラリー」に相当するとしたことが,刊行物
2の認定誤りである旨主張するが,審決の当該記載は本件発明3の容易想
到性を判断したものであって,その際,光触媒のコーティング方法として
酸化チタンスラリーを噴霧するという方法が刊行物2に開示されているこ
とを指摘したものにすぎず,刊行物2の「STコート」がバインダとして
のセメントを含まない旨を積極的に認定するものではない。
そうすると,審決における刊行物2記載事項の認定に誤りがあるという
ことはできないから,原告らの上記主張は採用することができない。
4取消事由2(相違点2に係る容易性判断の誤り)について
(1)審決は,相違点2について「…本件発明1は,刊行物1∼4に記載され,
た事項,または刊行物1,2に記載された事項及び本件出願前に公然知られ
た発明もしくは公然実施された発明に基づいて当業者が容易に発明をするこ
とができたものである(22頁下10行∼下7行)とするのに対し,原告」
,。らはこの点に関する審決の判断に誤りがある旨主張するので以下検討する
(2)各刊行物の内容
ア刊行物1発明
刊行物1(甲1)の記載内容及び刊行物1発明の内容は,前記3(1)イ
のとおりであるところ,これによれば,刊行物1発明においては,相違点
2に係る「二酸化チタン(光触媒として機能するNOx除去用の触媒とし
ての酸化チタン)を舗装用ブロックの表面層(コンクリートブロックの表
層付近の骨材間)に付着させる方法」として,舗装用ブロックの原料であ
るセメント及び砂に二酸化チタンを混練して舗装用ブロックを成形すると
いう方法を採用するものである。
イ刊行物2発明
刊行物2(甲2)の記載内容及び刊行物2発明の内容は,前記3(2)ア
及びイのとおりであるところ,これによれば,刊行物2発明は,酸化チタ
ンを含むセメント系固化剤(STコート)を高機能舗装の表面に噴霧して
コーティングする「フォトロード工法」が記載されており,ここでの光触
媒には,バインダとしてのセメントが含まれていると認められる。
ウ刊行物3発明
(ア)刊行物3(甲6)には,次の記載がある。
・「請求項1】酸化チタン粒子を水に高度に分散させて酸化チタン含有スラ【
リーを形成し,ついでこの酸化チタン含有スラリーを無機系多孔体表面に含浸
させ,乾燥することを特徴とする大気浄化用構造物の製造方法」。
・「0001【発明の属する技術分野】本発明は,高度に分散した酸化チタ【】
ン含有スラリーを使用する大気浄化用構造物の製造方法に関し,更に詳しくは
大気中のNOx,SOx,その他の有害物質を良好に除去することができる大
気浄化用構造物の製造方法に関するものである」。
・「0003【発明が解決しようとする課題】…更に後者の表層に酸化チタ【】
ン含有層を積層する方法では,結合剤としてセメント等を使用していることに
より,セメント等の粒径が酸化チタンの粒径より著しく大きいので,良好な分
散ができないという問題があるばかりでなく,酸化チタンの固定が十分でなく
長期間の使用で酸化チタンが流出し十分な有害物質の除去効果の減少が著しい
という問題がある」。
・「0004】そこで,本発明者等は,前記の欠点乃至問題点を更に詳しく【
検討した結果,構造物の表面に被覆や積層するのではなくその表面に,均一に
分散された酸化チタン含有スラリーを含浸させることにより酸化チタンが強固
に固定され,長期間触媒効果を有する大気浄化用構造物が得られることを見出
し,本発明はこの知見に基づいてなされたものである。…」
・「0005【課題を解決するための手段】本発明の上記課題は,以下の各【】
発明により達成される」。
・「0006】(1)酸化チタン粒子を水に高度に分散させて酸化チタン含【
有スラリーを形成し,ついでこの酸化チタン含有スラリーを無機系多孔質体表
面に含浸させ,乾燥することを特徴とする大気浄化用構造物の製造方法。…」
・「0007【発明の実施の形態】本発明に用いられる多孔質体は,酸化チ【】
タン粒子が入り込める表面空隙を有するものであれば特に限定されるものでは
ない。また明細書中の『含浸,含浸させ又は含浸させる』という用語は,いず
れも表面付近,表面から奥深いところまで,表面にも残存するがほとんどが含
浸されるなどのいずれかを含む意味で使用している」。
・「0008】本発明の大気浄化用構造物の製造方法は,酸化チタン粒子を【
水に高度に分散させて酸化チタン含有スラリーを形成し,ついでこの酸化チタ
ン含有スラリーを無機系多孔質体表面に含浸させ,乾燥することを特徴とする
もので,このように含浸させることにより,構造物の材料の多孔質体組織中に
,。埋め込まれて固定され長期間にわたり大気浄化性能を保持することができる
…」
・「0010】本発明において,大気浄化用構造物を構成する材料は,含浸【
性を有するものであれば特に限定されるものではなく,コンクリート,モルタ
ル,レンガ,セラミックス板,スレート,珪酸カルシウム板,押出成形板(例
えば,押出成形セメント板等,吸音板(特にポーラスコンクリート製)等の無)
機系多孔質体であればよい。この多孔質体の空隙径は,10∼200nmであ
ることが好ましい」。
・「0016】また本発明では,無機系多孔質体表面に酸化チタン含有スラ【
リーを含浸させる手段としては,刷毛やロールによる塗布,デップ塗布,流し
込み,吹き付け,ブレード塗布,型枠成形法,押出成形法,ブレス成形法等の
中から適宜の方法を選択して被覆を形成することができる。…」
・「0017】…本発明では,酸化チタン含有スラリーを含浸後,乾燥する【
が,この乾燥は,天日,熱風,電熱等による乾燥手段が好ましい。…」
・「0018】本発明の大気浄化用構造物の製造方法により得られた構造物【
には,各種のものがあり,特に限定されるものではないが,建材,舗装用ブロ
ック,舗装構造物,吸音部材等がある。…」
・「0028【発明の効果】本発明の大気浄化用構造物の製造方法は,酸【】
化チタン粒子を水に高度に分散させて酸化チタン含有スラリーを形成し,つい
でこの酸化チタン含有スラリーを無機系多孔質体表面に含浸させ,乾燥するこ
とを特徴とするもので,このように含浸させることにより,構造物の材料の多
孔質体組織中に埋め込まれて固定され,長期間にわたり大気浄化性能を保持す
ることができる。…」
(イ)以上によれば,刊行物3(甲6)は,無機系多孔質体の表面に,酸
化チタン粒子を水に分散させた酸化チタン含有スラリーを吹付け(すな
わち噴霧)等により含浸させ,天日等により乾燥させて,舗装用ブロッ
ク等の大気浄化用構造物を製造する方法が記載されていると認められ
る。
エ刊行物4発明
(ア)刊行物4(甲13)には,次の記載がある。
・「請求項1】アナターゼ分散液において,表面をペルオキソ基で修飾した【
,。」アナターゼ微粒子が水中に分散していることを特徴とするアナターゼ分散液
・「0001【発明の属する技術分野】本発明は,基体上に酸化チタンを含【】
む保護被膜膜,光触媒被膜等の形成に使用することが可能な安定なアナターゼ
分散液に関するものである」。
「【】【】,,,,・0002従来の技術チタン含有物質をガラス白磁器金属建材
プラスチックス等の各種材料へ塗布,乾燥あるいは低温で焼き付けることによ
り,酸化チタンからなる保護被膜,光触媒,誘電体膜,半導体膜,紫外線カッ
ト被膜,着色コーティングなどを形成することが行われている」。
・「0010】…さらに,基体上に塗布して酸化チタン膜を形成する場合に【
,,。,は基体に対する密着性が良く低温で緻密化し易い特徴があるしたがって
塗布乾燥あるいは加熱処理のみにより,従来より低い温度でアナターゼ膜を形
成でき,乾燥のみでも十分実用に耐えるものを得ることができる」。
・「0015】…本発明のアナターゼ分散液を用いアナターゼ膜を作製する【
場合,セラミックス,陶磁器,金属,プラスチックス,繊維,建材等,用途に
応じたあらゆる基体に塗布可能であり,多孔体の内部や粉体の表面処理の目的
で使用することも可能である」。
・「0023【発明の効果】本発明のアナターゼ分散液は長期安定であり,【】
従来よりも高密度の密着性に優れたアナターゼ膜を低温で作製可能であり,焼
成によって有害な副生成物が出ず,中性なので取り扱いやすく,種々の基体上
に塗布することができる」。
(イ)以上によれば,刊行物4(甲13)には,基体上に酸化チタンを含
む光触媒被膜等の形成に使用することが可能なアナターゼ分散液が記載
されており,このアナターゼ分散液は,基体上に酸化チタン膜を形成す
る場合には,密着性が良く,低温で緻密化し易い特徴があるので,塗布
乾燥あるいは加熱処理のみにより,高密度の密着性に優れた十分実用に
耐える光触媒被膜を得ることができ,また,用途に応じたあらゆる基体
に塗布可能であり,多孔体の内部に使用することも可能であることが記
載されていると認められる。
(3)以上の各刊行物の記載に照らして,本件発明1が容易想到といえるかに
ついて検討する。
アまず,刊行物1発明に他の刊行物に係る発明を適用して,酸化チタンを
コンクリートブロックの表層付近の骨材間に付着させる方法が置換可能か
についてみると,前記3(1)イのとおり,刊行物1発明の舗装用ブロック
において二酸化チタンを混入(混練)するのはNOxを除去する光触媒と
しての機能を得るためであり,もしその混入量が他の組成分(コンクリー
ト及び砂)に比して多すぎると舗装用途として十分な作用効果を奏しない
可能性も示唆されていることからすると,同発明における舗装用ブロック
は,その構成から二酸化チタンの組成分を除去してもなお,舗装用ブロッ
クとして存立し得る構成であるということができる。換言すれば,刊行物
,,1発明は一般的な舗装用ブロックに光触媒としての機能を得させるため
当該ブロックの原料に二酸化チタンを混入させたものであると評価するこ
とができる。その意味で,二酸化チタンを混練することにより舗装用ブロ
ックに光触媒としての機能を付与することは,他に舗装用ブロックに二酸
化チタンを付着させて光触媒としての機能を付与することができるのであ
れば,当該他の方法と置換可能であるということができる。
これを刊行物2∼4についてみると,刊行物2,3はいずれも舗装用道
路,舗装用ブロックないし舗装用構造物に光触媒を付着させることでNO
x除去を指向する点で刊行物1と技術分野を同じくするものであるし,刊
行物4も舗装用ブロックと同様の透水性を有する多孔性の基体に関するも
のである点で,刊行物2,3と同様ということができ,さらに,これらの
方法はいずれも対象物に光触媒を含浸,噴霧ないし塗布するというもので
あるから,その置換が可能であるということができる。
イそして,刊行物1発明に刊行物3発明ないし刊行物4発明を適用した場
合についてみると,舗装用ブロックの原料であるセメント及び砂に二酸化
チタンを混練して舗装用ブロックを成形するという刊行物1発明の方法に
換えて,無機系多孔質体の表面に酸化チタン粒子を水に分散させた酸化チ
タン含有スラリーを噴霧し,これを乾燥させることで付着させるという刊
行物3発明ないし刊行物4発明の方法を採用した場合,酸化チタン含有ス
ラリーは「バインダを用いずに付着力のある水溶液を用い」た酸化チタン
に相当すると認められるから,これを自然乾燥により付着させることで,
本件発明1の構成を実現することができ,そうすると,刊行物3発明及び
同4で本件発明1は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常
の知識を有する者)において容易想到ということができる。
(4)原告らの主張に対する補足的判断
ア原告らは,取消事由2−1として,当業者は刊行物2に記載された方法
を刊行物1発明に適用しようとは発想しないから,両者を組み合わせるこ
とが容易想到であるとした審決の判断は誤りである旨主張するところ,本
件特許の出願前に光触媒としての酸化チタンが周知であり,またこのよう
な光触媒を安定的に利用する際に光触媒を何らかの手段により固定するこ
とが必要であったことは原告らも認めるところであって,そのような固定
手段として,舗装用材料に混練するという方法を選択するか噴霧という方
法を選択するかは,当業者が適宜選択すべき事項というべきである。
また,舗装用ブロックの原料であるセメント及び砂に二酸化チタンを混
練して舗装用ブロックを成形するという刊行物1発明の方法に換えて,酸
化チタンを除く舗装部材を成形した上でこれに酸化チタンを含むセメント
系固化剤を噴霧するという刊行物2発明の方法を採用すると,本件発明1
の構成に係る「バインダを用いずに付着力のある水溶液を用い,自然乾燥
により」付着させたという構成を実現することはできないということはで
きるが,刊行物2の適用は,前記(3)のとおり,飽くまで光触媒の付着方
法を刊行物1における混練から刊行物2における噴霧に置換するというも
のであって「バインダを用いずに付着力のある水溶液を用い,自然乾燥,
により」付着させたという構成は刊行物3発明ないし刊行物4発明によっ
て実現可能ということができるから,刊行物2のみで本件発明1の構成を
実現できないことは,前記認定を左右するものではない。審決が「…触,
媒の付着方法として,刊行物2に記載された方法を刊行物1記載発明に適
用した…(21頁下2行∼下1行)とするのも,同様の趣旨に基づくも」
のとして理解することができる。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
また原告らは,取消事由2−1において,刊行物1及び刊行物2はいず
れもバインダを含まない「酸化チタンスラリー」についての記載がないの
で,バインダを用いずに固定することを必須の構成とする本件各発明の構
成とはならないとか,刊行物1発明では,舗装用に用途を限定した場合,
それらの配合組成からバインダとしてのセメントを除くという発想ないし
思想が容易に想到されることはない旨主張するが,上記(3)に説示したと
ころに照らして,原告らの上記主張は採用することができない。
イ原告らは,取消事由2−2として,刊行物1発明はその表面層に既に酸
化チタンを含有しているから,同発明を付与対象物として酸化チタンを付
与する方法を選択する必要は生じない旨主張するが,上記(3)に説示した
とおり,刊行物1発明における置換対象は二酸化チタンを含まない舗装用
ブロックであるから,これに酸化チタンを付与する方法を選択する必要性
がないということはできない。したがって,原告らの上記主張は採用する
ことができない。
また原告らは,取消事由2−2において,刊行物1発明は,舗装用とい
う用途に限定する場合には,極めて高い水準の耐摩耗性が必要であり,そ
のためにはバインダとしてのセメントが必須であると主張する。しかし,
刊行物1(甲1)には「…更に表面層は,セメントと砂を含むので,耐,
すべり性及び耐久性に優れており十分舗装用に供されるものである。…」
(2頁右欄39行∼41行「…本発明に用いられる表面層の成分割合が),
セメント100重量部に対して酸化チタン粉末は,5重量部より少ないと
NOxの浄化効率が良くなく,50重量部を越えると耐すべり性が悪くな
るばかりか耐摩耗性も劣る。またセメント100重量部に対して砂100
重量部より少ないと耐すべり性並びに耐摩耗性が減少し,400重量部を
越えると相対的に酸化チタン粉末が少なくなりNOxの浄化効率が劣る。
…(3頁左欄44行∼右欄2行「…本発明において,ブロックとして」),
コンクリート製基層を用いることにより耐久性を得ると共にNOxから得
られた硝酸イオンがコンクリート中のアルカリ成分と中和する。また砂と
してガラスや珪砂を用いることにより耐すべり性や耐摩耗性が得られると
共に良好な光透過性が得られる。…(3頁右欄15行∼20行)などと」
して,耐摩耗性に有効な成分としてセメントと砂が挙げられ,また,その
適正な成分割合が挙げられているものの,これらは舗装用コンクリートブ
ロックに通常用いられる材料であることはいうまでもないのであって,そ
れ自体技術的に特異なものであるということはできない。かえって,刊行
物1には,光触媒である酸化チタンをバインダとしてのセメントを用いて
付着させたことによる特有の作用については触れるところがなく,かえっ
て,酸化チタン粉末が適正量より多い場合には耐摩耗性も劣ることになる
ものとされていることからすれば,耐摩耗性はセメントないし酸化チタン
の相対的な量に関係することが示唆されているということはできても,バ
インダとしてのセメントが必須であることを示唆しているとまではいえな
いから,このような記載に接した当業者がバインダとしてのセメントが必
須のものと解するということはできない。したがって,原告らの上記主張
は採用することができない。
さらに原告らは,取消事由2−2において,刊行物3発明は超微細な空
隙径を有する無機多孔体に特定すれば,舗装用という用途を充たす作用効
果が得られることを開示する発明であるから,粒子径が1mm以上の空隙
を対象とする刊行物1発明に適用可能ではない旨主張するが,前記(2)ウ
(ア)のとおり,刊行物3発明は「本発明において,大気浄化用構造物を構,
,,成する材料は含浸性を有するものであれば特に限定されるものではなく
コンクリート,モルタル,レンガ,セラミックス板,スレート,珪酸カル
シウム板,押出成形板(例えば,押出成形セメント板等,吸音板(特に)
ポーラスコンクリート製)等の無機系多孔質体であればよい。この多孔質
体の空隙径は,10∼200nmであることが好ましい(段落【001。」
0)とされているのであって,その作用効果が超微細な空隙径を有する】
場合に限定されるものではない。したがって,原告らの上記主張は採用す
ることができない。
その他原告らの取消事由2−2に関する主張は,いずれも採用すること
ができない。
ウ原告らは,取消事由2−3として,株式会社田中転写製酸化チタンスラ
リー液に関する審決の判断が誤りである旨主張するが,上記酸化チタンス
ラリー液が公然実施された発明といえるか否かにかかわらず,本件発明1
が容易想到であることは前記のとおりであるから,原告らの主張は,結論
に影響のない審決の判断を論難するものであって,いずれも採用すること
ができない。
エ原告らは,取消事由2−4として,本件発明1の作用効果に関する審決
の判断は誤りであると主張する。
この点,本件発明に係る全文訂正明細書(甲27)は,本件発明の効果
について「…長期間の使用に際しても,光触媒機能の低下の少ない,舗,
装用コンクリートブロックを提供することができる」とするのみであっ。
て,かかる作用効果は,本件発明1に係る構成を採用した場合に当然奏す
ることが期待できるものということができる。
そして,既に説示したとおり,本件発明1に係る構成自体が容易想到で
ある以上,このような作用効果をもってなお,当業者において想到するこ
とが容易でないということはできない。
これに対し原告らは,刊行物1にはバインダを用いないで触媒を保持さ
せることを開示していないとか,刊行物3は付与対象として極めて微細な
多孔質を対象とした場合に限定して舗装用コンクリートブロックへの適用
,,可能を示唆しているなど取消事由2−1∼2−3における主張を前提に
このような刊行物の理解に基づけば本件各発明の作用効果は格別である旨
主張するが,これらの前提がいずれも採用することができないことは,前
記のとおりであるから,原告らの上記主張は採用することができない。
なお原告らは,刊行物1∼4には,本件各発明の有する「光触媒能を有
する平板であって,透水性と曲げ強さを備えたもの」との特徴が得られる
ことの証拠は示されていないと主張するが,上記特徴は本件発明1に係る
構成を採用した場合に当然奏することが期待できるものであるから,この
ような特徴をもってなお,当業者において想到することが容易でないとい
うことはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
5取消事由3(本件発明2∼5に係る認定・判断の誤り)について
原告らは,本件発明2∼5に係る認定・判断に誤りがあると主張するが,同
主張が前提とする本件発明1に係る認定・判断に誤りがあるといえないことは
前記3及び4のとおりであるから,原告らの上記主張は採用することができな
い。
6結論
以上によれば,原告ら主張の取消事由はすべて理由がない。
よって,原告らの請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官澁谷勝海

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