弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人山平一彦の上告理由第一点(四七七号上告人A1と四七八号上告会社
の関係)について。
 期間の定めのない建物賃貸借が民法三九五条の短期賃貸借に該当すること、そし
て、抵当権の実行により建物を競落した者が賃貸借の解約の申入れをする場合には、
短期賃貸借制度の趣旨は、借家法一条の二の正当事由の存在を認定する上において
極めて有力な資料とすべきであることは、当裁判所の判例とするところである(当
裁判所昭和三六年(オ)第二八号同三九年六月一九日第二小法廷判決、民集一八巻
五号七九五頁)。
 これを本件について見るのに、本件の事実関係として原判決の確定するところは、
次のとおりである。すなわち、本件家屋はもとD株式会社の所有であつて、昭和二
八年九月一日被上告会社のため抵当権が設定され、同月二二日その旨の登記を経由
し、その後、被上告会社が右抵当権の実行として競売を申し立てた結果、昭和三三
年七月八日本件家屋に対する競売開始決定がなされ、被上告会社は自ら競買の申出
をして競落許可決定を受け、代価を完済して所有権を取得したが、右抵当権設定後
競売開始決定前の昭和三三年四月二二日、Eは前所有者たるDから本件家屋を期間
の定めなく貸借して、その引渡しを受けた。その際、賃貸人の承諾なくして譲渡ま
たは転貸をなしうる旨の特約があり、上告人A1は即日、右特約に基づき本件家屋
の一部をEから転借したが、同三七年二月二一日上告会社が右特約に基づいてEか
ら賃借権の譲渡を受け、上告人A1の転借を承諾した。他方、被上告会社は上告会
社に対し、昭和四〇年三月二五日到達の書面をもつて、自己使用を理由に賃貸借の
解約の申入れをした。被上告会社は、本件家屋がその本社所在地たる姫路と三宮の
中間にあつて、三宮の食糧事務所へ行くにも都合がよいので、社宅や連絡場所とし
て使用する希望であり、これに対し上告会社は、Dに対する債権の弁済にあてる意
図のもとに、Eから賃借権の譲渡を受けたもので、上告会社自身としては、現実に
本件家屋を使用していない。
 以上、原審の認定した事実は、その挙示する証拠により肯認することができ、こ
れを争う所論は、たんなる認定非難であつて採用のかぎりでない。
 右によると、上告会社の賃借権およびこれに基づく上告人A1の転借権は、一般
に、目的家屋の所有権をあらたに取得した第三者に対して、その賃借権または転借
権を対抗しうべき関係にあるが、被上告会社は本件家屋に対する抵当権者であり、
また競落人としてその所有権を取得した者であるから、上告会社の賃借権は、冒頭
説示するところにより、民法三九五条の短期賃貸借制度の趣旨に反しない限度にお
いてのみ、これを被上告会社に対抗しうべく、本件賃貸借がその成立後、前記被上
告会社の解約申入れに至るまで、ほとんど七年に及ぶ長期間を経過したものである
ことを考慮すれば、他に特段の事情がない以上、被上告会社の解約申入れは借家法
一条の二にいう「正当ノ事由」を具備するものというべく、これにより上告会社の
賃借権は消滅し、上告人A1の転借権も、また従つて消滅したものといわなければ
ならない。
 論旨は、賃貸人たる被上告会社の事情と貸借人たる上告会社の事情とを比較考量
するに当たつては、転借人たる上告人A1の事情をも後者のそれに包含せしめるべ
きであると主張するが、本件は前述のように、上告会社の賃借権が民法三九五条の
短期賃貸借としてのみ被上告会社に対抗しうべき場合であつて、所論上告人A1に
関する事情は、前記「正当ノ事由」の存否の判断に影響しない。
 論旨は採用できない。
 同第二点(四七七号上告人A2の関係)について。
 上告人A2が本件家屋を占有するものとした原審の認定は、その挙示の証拠によ
り肯認しうる。論旨は、ひつきよう、原審の適法にした事実の認定を非難するに帰
し、採用のかぎりでない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官奥野健一の意
見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 裁判官奥野健一の意見は、次のとおりである。
 本件賃貸借は昭和三三年四月二二日に成立したものであるから、その後三年の期
間を経過した後においては、これをもつて抵当権者また従つて競落人に対抗しえな
いものと解すべきである。その理由の詳細については、前掲昭和三九年六月一九日
第二小法廷判決における私の意見を引用する。
 右によると、上告会社の賃借権およびこれに基づく上告人A1の転借権は、すで
に被上告会社に対抗しえないものであるから、被上告会社の上告人らに対する本訴
請求は、その解約申入れを待つまでもなく、正当として認容すべきである。原判決
はこれと理由を異にするが、結論において正当であるから、本件上告は失当として
棄却すべきである。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    色   川   幸 太 郎

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