弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士岩沢誠、同村部芳太郎の上告理由は別紙の通りである。
 同第一点について。
 所論は、先ず弁済提供の事実認定につき、採証法則違反をいうが、原判決引用の
昭和一九年五月にも弁済提供をした旨の被上告人の供述等の証拠と対照すれば原判
決は弁済提供の日時を所論の如く四月三〇日に限定して認定しているものとは解し
得ない。被上告人が当初一、二〇〇円の弁済提供の事実を主張しなかつたことは所
論のとおりであるが、記録にあらわれた本件の弁論の全体をみると、被上告人の主
張の本旨は、もともと調停条項(1)の不履行を停止条件とする本件建物売買契約
が条件の成就とともにその効力を生じたとするにあるものと解するのが相当であり、
たまたま被上告人の当初の主張に所論の如くこれとくいちがう部分があつたとして
も、それは多少のくいちがいに過ぎずそれだけで必然右主張事実の存在を否定しな
ければならないとの経験法則があるわけではない。原審が被上告人の主張の趣旨を
前記のように解するとともに、弁論の全趣旨を斟酌し、その裁量に属する証拠の取
捨をした上、判示の証拠を採つて弁済提供の事実を認定したのは正当であり、その
間所論の訴訟法違反はなく判例の趣旨にも反するものではない。のみならず、弁済
提供の事実は、代金請求、同時履行の抗弁のない本件においては、調停条項(2)
が停止条件付売買なりや否やの認定の情況事実として多少の意味がある外、移転登
記義務存否の判断には格別の意味はない。たとえ、所論弁済提供がなくても、調停
条項が停止条件付売買であれば、条件成就により売買の効力を生じることは勿論で
ある。又原判決引用の証拠によれば原判示のように停止条件付売買と認定できない
ことはない。のみならずたとえ所論のように売買の形成権を被上告人に与へたにす
ぎないとしても、被上告人が訴状により所有権移転登記を請求していることは(原
審認定の弁済の提供をしたことも同様)、この形成権を行使したものと解し得るの
であるから、上告人は売買契約の履行のたあ移転登記をする義務あることに変りは
なく、所論採証法則違反の有無は原判決の最終の判断に影響がない。
 同第二点について。
 所論は(1)、(2)共に原審で主張なく判断を経ていない事項によつて原判決
を非難するものであつて上告適法の理由とならない。(なお、所論(1)は建物の
収去をその取毀と同視した謬論であり、(2)についても、戦時昭和一八年六月当
時本件家屋所在地地方においては家屋の賃貸人が賃借人の同意がないのに賃借人居
住中のその賃貸家屋を一〇ヶ月余の内に収去することは相当困難であり得ようが、
社会通念上不能であるとはいい得ないし、法律上不能とせらるべき何らの理由もな
い。即ち、本件調停条項は履行不能の収去明渡義務を定めたものとはいえない。)
 同第三点について。
 所論は、原判決が本件売買代金は不相当に低額とは認められないと断じたのは、
鑑定の結果を無視し、採証法則に違反するものであり、虚無の証拠によつて事実を
認定した違法あるものであるというのであるが、裁判所は鑑定人の鑑定価格をその
ままに採用すべく拘束せられるものではなく、これを採用すると否とはその自由で
ある。原審はその引用の証拠並びに判示事実関係によつて所論摘示のような判断を
したもので、その間違法はなく所論は単なる訴訟法違反の主張に過ぎない。
 同第四点について。
 所論(1)は、本件調停条項は履行不能の建物収去義務を定めた民法九〇条によ
つても無効のものであるからこれを有効とした原判決には擬律錯誤があるといい、
単なる法令違反を主張するに過ぎないから(所論収去義務の履行は不能とはいえな
いことはすでに第二点に関して説示した)又、(2)は、本件調停条項が上告人の
収去義務不履行によつて本件建物を被上告人に売渡すことを定めたことは、とりも
直さす、借地法四条二項による建物買取請求権を予め放棄させたものに外ならず、
従つて民法九〇条により無効のものであると主張するものであるが、原審で主張判
断を経ていないところであるから、いずれも上告適法の理由にならない。
 同第五点について。
 所論(2)は、被上告人は昭和一〇年一月五日上告人に対し本件土地を賃貸し上
告人はその上に本件建物を所有していたが昭和一八年六月二六日原判示の調停事件
において(1)上告人は昭和一九年四月三〇日限り本件建物を収去して本件土地を
被上告人に明渡すこと(2)上告人が右約旨に違反したときは上告人は被上告人に
対し本件建物を代金一、二〇〇円で売渡すことの調停が成立した。しかし被上告人
は樺戸郡a村に大邸宅を有し何不足のない生活をしていて本件建物収去土地明渡を
求める必要がないのに、上告人は本件建物を収去することにより莫大な損害を蒙り
又建物に居住する借家人達が生活の本拠を奪われることになる、故に、被上告人が
右調停において建物収去土地明渡を求めたことは権利の濫用であり且つかかる権利
濫用により成立した本件調停に基く本訴請求も権利の濫用である、と主張する。よ
つてこの点について考えるに、論旨が若し被上告人が調停委員会において調停を成
立させるに際し土地明渡又は地代の請求権を行使したについて濫用があつたという
趣旨ならば、原判示事実によれば、調停委員会においては被上告人は土地明渡又は
地代の請求権を行使せずにその代りに右調停条項を受諾し若しくは申入れたに過ぎ
ないと観られるから、行使されなかつた土地明渡又は地代請求権の濫用の問題は生
じない。又若し被上告人が本件土地所有権に基いて土地明渡を請求したという論旨
であるなら、そのことは原審において主張なく原判決の判断を経ていないところで
あるからこの権利の行使についての濫用の問題は採用すべき限りでない。又、若し、
論旨が被上告人が右調停を成立させるに際し原判示調停条項を上告人に承諾させた
ことが権利の濫用であるというにあるならば、建物明渡土地収去調停事件の当事者
たる被上告人が調停においてその目的物に関し一定の条件で売買契約を相手方と締
結して調停を成立せしむべき旨の調停条項を申込み又は承諾することは本人の自由
になし得べき行為ではあるがそれ自体が権利の行使ではないから権利濫用の問題は
生じない。
 若し論旨が被上告人が上告人をして右調停の申込又は承諾をさせるについて強迫
その他何らか意思表示の瑕疵を生ぜしめたという趣旨であるならばこのことは原審
において事実を挙げて主張せられず判断を経ていないことである。
 単に土地賃貸人たる被上告人が約旨に基き、必要なくして上告人に甚大な損害を
与える土地明渡を要求したというだけでは強迫等によつて上告人の右調停条項受諾
の意思表示に瑕疵を生ぜしめたと断ずることはできない。最後に建物収去土地明渡
の請求に権利の濫用があつても(明渡義務不履行の条件を民法一三三条の不法条件
とするのは格別)そのこと自体により直ちに売買承諾の意思表示の効力に影響はな
いから、この点の判断如何は本件調停による売買の同意の効力に関係はない。
 されば権利の濫用によつて成立したとはいえない本件調停に基く上告人の本訴請
求も権利の濫用として排斥せらるべきいわれはない。いずれにしても所論は採用す
るに足らず、所論引用の判例は本件の判断に適切でない。
 してみれば権利濫用の原判示に理由の不備、くいちがいがあるとの所論(1)も
理由がないこと明らかである。
 以上説示のように所論の上告理由はすべて法令の解釈に関する重要な主張を含む
ものとは認められない。
 よつて本件上告は理由なしと認めこれを棄却すべきものとし民訴法四〇一条、九
五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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