弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 本件訴えのうち、公文書公開決定に基づく公文書公開処分の取消請求に係る部
分及び公文書の閲覧請求に係る部分をいずれも却下する。
二 被告が平成八年九月六日にした福井県空港建設調査事務所の平成八年一月一日
から平成七年年度末までの間の食糧費支出に関する一切の資料についての一部非公
開決定のうち、相手方の表記及び行為の日に係る部分を取り消す。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の、その余を被告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
一 被告が平成八年九月六日にした福井県空港建設調査事務所の平成八年一月一日
から平成七年年度末までの間の食糧費支出に関する一切の資料についての一部非公
開決定を取り消す。
二 被告が平成八年一〇月四日にした公文書公開決定に基づく公文書公開処分(公
文書の写しの写しの交付)を取り消す。
三 被告は、原告に対し、右一部非公開決定に係る公文書及び右公文書公開決定に
係る公文書を閲覧させよ。
第二 事案の概要
 本件は、被告が、原告の福井県公文書公開条例(以下「条例」という。)に基づ
く公文書公開請求に対して一部非公開決定をし、また、原告の公開決定に係る公文
書の写しの請求に対して写しの写しを交付したにとどまったとして、原告が、被告
に対し、右一部非公開決定及び右写しの写しを交付した公文書公開処分の各取消し
を求めるとともに、右一部非公開決定に係る公文書及び右公文書公開決定に係る公
文書を原告に閲覧させることを求めた事案である。
一 争いのない事実及び弁論の全趣旨によって認められる事実
1 原告は、福井県の住民であり、条例五条に定める公文書公開請求権者である。
 被告は、条例二条三項に定める実施機関である。
2 条例には、次のとおりの規定がある。
(一) 七条
 実施機関は、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書につい
ては、公文書の公開をしないものとする。
 一号 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で
あって、特定の個人が識別され、または識別され得るもの。ただし、次に掲げる情
報を除く。
イ 法令および条例(以下「法令等」という。)の規定により何人も閲覧できると
されている情報
ロ 公表することを目的として実施機関が作成または取得をした情報
ハ 法令等の規定による許可、免許、届出等の際に実施機関が作成または取得をし
た情報であって、公益上公開することが必要と認められるもの
二号 法人(国及び地方公共団体(以下「国等」という。)を除く。)その他の団
体(以下「法人等」という。)に関する情報または事業を営む個人の当該事業に関
する情報であって、公開することにより、当該法人等または当該個人に不利益を与
えることが明らかであると認められるもの。ただし、次に揚げる情報を除く。
イ 人の生命、身体または健康を法人等または個人の事業活動によって生ずる危害
から保護するため、公開することが必要と認められる情報
ロ 人の財産または生活を法人等または個人の違法または著しく不当な事業活動に
よって生ずる支障から保護するため、公開することが必要と認められる情報
ハ イまたはロに掲げる情報に準ずる情報であって、公益上公開することが必要と
認められるもの
三ないし五号 (省略)
六号 県または国等が行う検査、試験、入札、交渉、争訟、渉外、人事その他の事
務に関する情報であって、公開することにより、当該もしくは同種の事務の目的が
達成できなくなり、またはこれらの事務の公正もしくは円滑な執行に著しい支障を
及ぼすおそれのあるもの
七、八号 (省略)
(二) 一一条三項
 実施機関は、公文書の公開をすることにより、当該公文書が汚損され、または破
損されるおそれがあると認めるとき、その他相当の理由があるときは、当該公文書
の写しを閲覧に供することができる。
3 原告は、平成八年七月二六日、被告に対し、「平成八年一月一日から平成七年
年度末までの福井空港建設調査事務所の食料費支出に関する一切の資料」の公開を
請求した。
4 被告は、平成八年九月六日、右請求に係る公文書に該当するのは、食料費の執
行伺、食料費の支出負担行為伺兼支出命令決議書、食料費の支出負担行為伺、食料
費の支出命令決議書の各文書(以下「本件文書」という。)であるとした上、本件
文書中、(1)本件文書中の相手方の表記並びに本件文書に添付された喫食者名簿
中の相手方の表記及び氏名を条例七条一号及び六号に各該当するものとして、
(2)行為の日を同条六号に該当するものとして、(3)飲食業者の銀行口座情報
を同条二号に該当するものとして、それぞれ非公開とする旨決定(以下「本件非公
開決定」という。)し、その余の部分について公開とする旨決定(以下「本件公開
決定」という。)した。
5 本件文書は、いずれも福井空港建設調査事務所(以下「調査事務所」とい
う。)職員と地元関係者との間の福井空港拡張整備事業(以下「空港拡張整備事
業」という。)に関する話合いに付随して実施された会食の経費の支出に関する文
書であり、相手方とは、右会食に出席した地元関係者を、表記とは、相手方の所属
する集落名等を、行為の日とは、右会食の実施された年月日及び本件文書に添付さ
れた請求書、請求明細書につき検査を了した年月日のことを、飲食業者の銀行口座
情報とは、会食の会場となった飲食業者に飲食代金を支払うための銀行口座の銀行
名及び本支店名、預金種別、口座番号のことである。
6 原告が、平成八年一〇月四日、被告に対し、本件公開決定に係る公文書の閲覧
を請求したところ、被告は、その原本の閲覧を認めず、本件文書をコピー機で複写
し、本件非公開決定に係る部分を塗りつぶした上、更にこれをコピー機で複写した
ものを原告に交付した。
二 争点
1 本件非公開決定のうち行為の日に係る部分の取消しを求める法律上の利益の有
無(請求一について)
(被告の主張)
 本件非公開決定により非公開とされた行為の日については、原告被告間の別件の
裁判において、被告が原告に対して明らかにしているから、原告には、本件非公開
決定のうち、行為の日に係る部分についての取消しを求める法律上の利益がない。
(原告の主張)
 公知の情報について公文書公開請求をしてもよいのであるから、別件の裁判にお
いて被告が原告に対して行為の日を明らかにしたからといって、原告が、本件非公
開決定のうち、行為の日に係る部分についての取消しを求める法律上の利益を失う
ものではない。
2 本件非公開決定の適法性(請求一について)
(被告の主張)
(一) 相手方の表記及び氏名について
(1) 条例七条一号本文に該当する。すなわち、同条にいう「特定の個人が識別
され、または識別され得るもの」とは、特定の個人がその情報から判別でき、又は
他の関連情報と照合することにより判別できる可能性のある情報をいう。もちろ
ん、同条の規定は、個人のプライバシー保護を目的としているが、プライバシーの
具体的な内容及び保護されるべきプライバシーの範囲については、プライバシーが
個人の内心にかかわる問題であり、人によって考え方も異なるため、一律に結論を
出すことが困難であるので、原則として、個人に関する情報はプライバシーに該当
するか否かの判断を行わずに公開しないという趣旨で規定されたものである。そう
すると、特定の個人が判別できる第一次的要素は氏名及び住所であるから、相手方
の表記及び氏名は、条例七条一号本文に該当する。
 また、相手方の表記及び氏名は、条例七条一号ただし書のイ、ロ、ハのいずれに
も該当しない。
(2) 条例七条六号に該当する。すなわち、同条は、行政が行う事務の目的を達
成し、または事務の公正もしくは円滑な執行を確保するため、公開することにより
これらに支障を及ぼす情報が記録されている公文書は公開しないものとする旨定め
ているが、右情報には、反復的または継続的な事務に関するもので、事務執行後で
あっても、情報を公開することにより、同種の事務の目的が達成できなくなり、ま
たは同種の事務の公正若しくは円滑な執行に著しい支障を及ぼす情報が含まれる。
 本件文書は、空港拡張整備事業に関する調査事務所職員と地元関係者の間の話合
いに付随して実施された会食の経費の支出に関する文書であるところ、福井県は、
昭和六〇年、一二〇〇メートルの滑走路を有する福井空港を拡張して、二〇〇〇メ
ートルの滑走路を有するジェット機が発着可能な空港に整備する計画(福井空港拡
張計画)を進め、地元関係者との交渉に取り組んでいる。しかし、地元関係集落
(以下「地元集落」という。)の住民の間には、空港問題に関するさまざまな意見
があり、特に、空港拡張整備事業に反対の住民が坂井町福井空港拡張反対同盟(以
下「坂井町反対同盟」という。)や春江町福井空港拡張反対同盟(以下「春江町反
対同盟」という。)を結成し、強い反対の意思を表明していたため、地元関係者
は、空港問題について憶測をまねくような言動を控える状態にあり、調査事務所と
の話合いについても、話合いに出席したこと自体を地元集落の反対派の他の住民に
明らかにしたくないと考える住民が多く、したがって、話合いは、内密の協議を目
的としたものにならざるを得ない。そうすると、話合いに出席した相手方の表記及
び氏名が公開されれば、相手方個人が特定され、当該相手方の所属する集落内で当
該相手方に対するさまざまな非難や憶測が生じるおそれがあるため、事務所や県が
住民との信頼関係を損なったとの不満を持つ地元関係者が出て、地元関係者の事務
所や県に対する信頼関係が損なわれるほか、地元関係者が右集落内での非難、憶測
を危倶して話合いへの参加を拒否したり、集落内での発言を控えたりすることが予
測され、調査事務所の空港拡張整備事業に関する地元関係者との交渉という事務の
円滑な執行に著しい支障が生じ、当該事務の目的を達成することができなくなる。
したがって、相手方の表記及び氏名は、条例七条六号に該当する。
(二) 行為の日について
 条例七条六号に該当する。すなわち、行為の日は、話合いの内容そのものではな
いものの、話合いに出席した者にとっては、出席者のみが知り得る情報であるとの
認識を持つのが通常であり、調査事務所と地元関係者との間で空港拡張整備事業に
関する話合いが継続している中で、行為の日が公開されれば、調査事務所や県が信
頼関係を損なったとの不満を持つ地元集落の住民が出ることが予想される。また、
行為の日が公開されれば、話合いの相手方個人が特定されなくても、その特定の可
能性があるので、やはり当該相手方の所属する集落内で当該相手方に対するさまざ
まな非難や憶測が生じるおそれがあるため、地元関係者が右集落内での非難、憶測
を危倶して話合いの参加を拒否したり、地元集落内での発言を控えたりすることが
予測され、空港拡張整備事業に関する地元関係者との交渉という事務の円滑な執行
に著しい支障が生じ、当該事務の目的を達成することができなくなる。したがっ
て、行為の日は、条例七条六号に該当する。
(三) 飲食業者の銀行口座情報について
 条例七条二号本文に該当する。すなわち、事業者にとって、資金決済手段の確保
は最優先の課題であり、銀行との口座取引はその根幹をなすものであって、事業者
がどの金融機関と取引をするか、金融機関がどの事業者と取引をするかは、それぞ
れの相互の信頼関係に関わるものである。また、銀行口座番号は、当該事業者が事
業活動を行う上での重要な内部管理に属する情報であり、この情報をいつ誰に対し
てどのように明らかにするかは、本来、当該事業者が自らの事業活動との関わりを
考慮しつつ、自主的に決定するべき事柄である。そして、銀行口座情報は、公費の
支出の適否にも関係しない。
 しかも、銀行口座情報を公開すると、事業者の情報管理に対する不当な干渉とな
るだけでなく、当該事業者と金融機関との取引の有無が明らかになり、他に取引の
あった金融機関との信頼関係が損なわれ、融資を引き上げられたり、新たな融資を
断られるおそれがあるほか、銀行口座情報を悪用された場合に当該事業者の取引や
信用に与える影響は大きいと認められ、事業者に不利益を与えることが明らかであ
る。したがって、飲食業者の銀行口座情報は条例七条二号本文に該当する。
(原告の主張)
(一) 相手方の表記及び氏名について
(1) 条例七条一号本文には該当しない。すなわち、同条は、プライバシーの保
護を目的とするものであり、プライバシーの侵害が生じる余地のない情報は、同条
にいう「特定の個人が識別され、または識別され得るもの」には該当しないと解す
るべきである。本件公文書は、土地改良事業や道路工事事業等の空港拡張整備事業
に関する調査事務所職員と地元関係者の間の話合いに付随して実施された会食の経
費の支出に関する文書であるところ、話合いへの出席は、調査事務所の職員にとっ
てはもちろん、相手方にとっても公務への関与にほかならないから、話合いに出席
したという情報は、公的情報であり、個人のプライバシーの保護の及ぶ私的領域に
属する情報ではないというべきである。また、本件公文書には、話合いの趣旨、具
体的内容を特定するような内容は記載されておらず、相手方の表記、氏名が明らか
になったとしても、当該相手方個人のプライバシーが侵害されるおそれはない。し
たがって、相手方の表記及び氏名は条例七条一号本文には該当しない。
 また、相手方の表記については、これが明らかになったからといって、表記から
氏名が特定されることはないのであるから、そもそも、七条一号本文にいう「個人
が識別される情報」に該当しないというべきである。
(2) 条例七条六号には該当しない。すなわち、本件公文書には、話合いの趣
旨、具体的内容を特定するような内容は記載されておらず、相手方の表記及び氏名
が明らかになったとしても、話合いの趣旨、具体的内容が明らかになるものではな
いから、ただちに空港拡張整備事業に関する地元関係者との交渉という事務の公正
かつ円滑な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとはいえない。
 この場合に、相手方の表記、氏名等話合いの相手方に関する情報が条例七条六号
に該当するというためには、話合いが事業の執行のために必要な事項についての関
係者との内密の協議を目的として行われたものであり、かつ、本件文書を公開する
ことによってその相手方等が了知される可能性のあることが必要というべきである
が、空港拡張整備事業は広く地元集落の住民全体に影響を及ぼす施策であり、広く
住民全体を対象として、公明に進められるべきものであって、特定の者のみを対象
として内密の協議を行うことは、政策の趣旨に反するから、話合いは内密の協議を
目的としたものとはいえない。
 したがって、相手方の表記及び氏名は条例七条六号には該当しない。
(二) 行為の日について
 条例七条六号には該当しない。すなわち、行為の日が明らかになったからといっ
て、話合いの趣旨、具体的内容が明らかになるものではないから、ただちに空港拡
張整備事業に関する地元集落との交渉という事務の公正かつ円滑な執行に著しい支
障を及ぼすおそれがあるとはいえない。
 この場合に、行為の日が条例七条六号に該当するというためには、前記のとお
り、話合いが事業の執行のために必要な事項についての関係者との内密の協議を目
的として行われたものであり、かつ、右文書を公開することによってその相手方等
が了知される可能性のあることが必要であるというべきであるが、前記のとおり空
港拡張整備事業に関する話合いは内密の協議を目的としたものとはいえない。した
がって、行為の日は条例七条六号には該当しない。
(三) 飲食業者の銀行口座情報について
 食料費の支払先の飲食業者の銀行口座が特定されなければ、支払の有無確認の道
は閉ざされるから、これを飲食業者の内部情報として非公開とするのは違法であ
る。
3 原告が公文書公開処分として主張する被告の行為は、行政事件訴訟法三条二項
にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するか(請求二に
ついて)
(原告の主張)
 被告が公開決定に係る文書を閲覧させず、写しの写しを交付した行為は、行政事
件訴訟法三条二項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当
する。
(被告の主張)
 原告の主張する被告の行為は、公文書の写しの写しを交付したという事実行為に
すぎないから、行政事件訴訟法三条二項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使
に当たる行為」には該当しない。
4 本件公開決定に係る文書の閲覧及び写しの交付方法の適法性
(原告の主張)
 条例一一条は、公文書の公開方法とし、公文書の閲覧を原則とし、例外的に公文
書の写しの交付の方法によることを認めているにすぎないにもかかわらず、被告
は、汚損、破損のおそれといった特段の事由もないのに、公開決定に係る文書を閲
覧させなかったものであり、右は公文書公開の方法として違法である。
 また、被告は、公文書の写しを交付する場合には、原本の写しを交付するべきで
あるのに、写しの写しを交付したものであり、右は公文書公開の方法として違法で
ある。
(被告の主張)
 条例一一条三項は、公文書の公開により当該公文書が汚損され、または破損され
るおそれがあると認めるときのほか、公文書の一部を公開するとき等相当の理由が
あるときは、当該公文書の写しを閲覧に供することができる旨定めている。実質的
にみても、公文書の一部を公開するときに、当該公文書の原本を閲覧に供すると、
仮に非公開の部分に遮蔽のためテープを貼るなどしたとしても、テープが取れた
り、公文書の裏側から当該部分に記載されている情報が判るおそれがあり、事実上
当該公文書を全部公開することと同様の結果となるおそれがある。したがって、公
文書の一部を公開する場合に、当該公文書を複写機で複写し、公開しない部分を塗
りつぶし、それを再度複写したものを閲覧させたことは適法であり、実質的にも相
当である。
 公文書の写しの交付は、閲覧に供したものを複写機で複写して行うことが当然に
予定されているから、公文書の一部を開示する場合に、写しの写しを交付すること
は適法である。
5 本件において、行政庁に公文書の開示という一定の行為を義務付ける請求(無
名抗告訴訟たる義務付け訴訟)をすることが許されるか(請求三について)
(被告の主張)
 この訴えは被告に対して事実行為を行うことを求めるものであり、抗告訴訟とし
ては不適法である。
(原告の主張)
 義務付け訴訟も無名抗告訴訟として許される。
第三 争点に対する判断
一 本件非公開決定のうち行為の日に関する部分について、原告に取消しを求める
法律上の利益があるか否か(争点1)について
 被告は、本件非公開決定により非公開とされた行為の日については、原告被告間
の別件の裁判において、被告が原告に対して明らかにしているから、原告には、本
件非公開決定のうち、行為の日に関する部分についての取消しを求める法律上の利
益がない旨主張する。
 しかし、条例に定める公文書公開請求権者は、当該公文書に記載されている情報
が既に公知のものであるか否かにかかわらず、条例に基づき、実施機関に対して当
該公文書の公開を請求する権利を有するのであるから、非公開とされた行為の日
が、条例に基づく公文書公開制度とは別の手続によって原告に明らかにされたから
といって、行為の日についての本件非公開決定の取消しを求める法律上の利益が消
滅したと解することはできない。
二 本件非公開決定の適法性(争点2)について
1 証拠(乙2の1ないし7、乙4、乙10)及び弁論の全趣旨によれば、空港拡
張整備事業に関して、以下の事実が認められる。
(一) 福井空港は、福井県が坂井郡<以下略>において空港整備法に定める地方
的な航空運送を確保するために必要な第三種空港として設置、管理する飛行場であ
り、昭和四一年に開港し、一二〇〇メートル滑走路を有し、その用地面積は約二
六・九ヘクタールである。
 昭和五八年、福井県は、ジェット機の就航が可能な空港を整備するため、ジェッ
ト化空港適地調査及び空港基本計画調査を開始し、昭和六〇年、福井空港を拡張し
二〇〇〇メートル滑走路を有するジェット化空港として整備することを決定し、昭
和六一年に福井県議会において、昭和六三年に春江町議会及び坂井町議会におい
て、それぞれ福井空港拡張整備促進陳情が採択された。そして、昭和六三年、福井
県は、「福井県新長期構想」を策定し、その中で、本格的な高速交通時代を迎え、
地域産業の活性化と地域間交流の拠点化等を図るため、空港拡張整備事業を主要プ
ロジェクトとして位置づけ、重点的かっ計画的に推進することとした。他方、国
は、空港整備五(ないし七)か年計画を定め、航空輸送需要の増大に伴う就航機材
の大型化等に対応すると共に、国際および国内の航空ネットワークの充実等を図る
ため、一般空港等について滑走路の延長、新設等所要の整備を進めているところ、
空港拡張整備事業は、第五次(計画期間昭和六一年度から平成二年度まで)、第六
次(同平成三年度から平成七年度まで)の空港整備五か年計画及び第七次(同平成
八年度から平成一四年度まで)空港整備七か年計画に組み入れられている。
(二) 右の動きに対して、地元坂井町および春江町においては、昭和五九年及び
同六〇年、福井空港周辺の集落により、坂井町反対同盟及び春江町反対同盟が結成
された。福井県は空港拡張整備事業の早期実現のために、昭和六二年に調査事務所
を設置し、地元関係者との交渉に取り組み、本件文書作成当時、両町並びに当初春
江町拡張反対同盟を構成した春江町江留中区、藤鷲塚区、大針区、沖布目区、随応
寺区(以下「春江町五集落」という。)及び当初坂井町反対同盟を構成した坂井町
福島区、上新庄区、徳分田区、東長田区(以下「坂井町四集落」という。)のうち
春江町五集落及び坂井町福島区については集落の総論同意(地権者のほか非地権者
を含めた集落全体としての同意)は得られていたが、他の集落についてはいまだ集
落の総論同意は得られていなかった。
 ところで、福井県は、空港拡張整備事業を円滑に進めるため、地権者であるか否
かにかかわらず各集落の全住民に空港拡張整備事業、右事業による影響及び右事業
に付随する地域振興策について十分理解を得て、各集落の総論同意を得た後、地権
者との個別交渉によりその同意を得るという方針の下に、地元関係者との話合いを
重ねていた。
 ここで、総論同意を得るのは、空港拡張整備事業の性格及び集落の地域性、すな
わち、空港拡張整備事業は広大な用地を必要とする上、各集落の生活環境に大きな
影響を及ぼし、事業実施後の安全性、騒音等の影響や地域振興策については地権者
だけでなく各集落の住民すべてが大きな関心を有していること、各集落は古くから
農業を中心とした相互扶助関係を基本とする生活共同体を営んでおり、現在でも集
落内の住民においては集落としての取決めが最も重視されることを踏まえてのこと
であり、地権者の同意を必要するのは、福井県が運輸大臣に対し福井空港拡張整備
のため航空法四三条に基づく飛行場の変更の許可を申請する際には、同法施行規則
八六条により、「申請者が当該変更に係る敷地について所有権その他の使用の権限
を有するか、又はこれを確実に取得することができることを証明する書類」を添付
することとされ、その書類として地権者の事前の同意書が必要であることによる。
(三) そのため、本件文書作成当時、調査事務所は、坂井町上新庄区、徳分田
区、東長田区(以下「坂井町三集落」という。)について、集落の総論同意を得る
ために、福井空港拡張整備事業、右事業による影響及び右事業に付随する地域振興
策について、地元関係者との話合いを行っていた。
 しかし、前記のとおり、坂井町においては、昭和五九年、空港拡張を絶対阻止す
ることを目的として、坂井町四集落の空港拡張整備事業に係る地権者に加え、非地
権者を含めた集落全住民によって坂井町反対同盟が組織されており、右同盟は、平
成四年五月三〇日、福井空港対策春江町連絡協議会及び福井空港対策坂井町連絡協
議会が「福井空港フォーラム」を開催した際、役員ら四〇人の会員が会場前にトラ
ックやトラクターを繰り出し、立看板、ノボリを立てて空港反対の気勢を挙げると
共に、参加者に空港阻止の「宣言文」のビラを手渡すなどしたり、平成五年五月二
九日、「福井空港フォーラム」が開催された際も、委員長が無条件反対の意思を表
明し、平成五年六月二〇日、「福井空港フオーラム」に対抗して「空港問題講演
会」を開催し、講師が「絶対に話し合いのテーブルについてはいけない。ノーとは
っきり意思表示することが大事」と述べたり、平成六年一月一五日、坂井郡選出県
議会議員団及び坂井町議会空港促進議員連盟が「坂井町の将来を語る会」を開催し
た際、「絶対に参加しないように」と記載したビラを配布して抗議行動を行った
り、同年二月二七日、坂井郡選出県議会議員団等が第二回「坂井町の将来を語る
会」を開催した際、委員長ら百人が、鉢巻きを締めて会場前に集結し、ビラを配付
して無条件反対を訴えるなどの抗議運動を行った。また、福井空港問題を考える会
は、右第二回「坂井町の将来を語る会」が開催された際、坂井町反対同盟と共に、
会場前で開催に反対したり、平成六年七月二六日から同年八月一日にかけて、坂井
町が坂井町三集落の住民に対して「空港周辺整備モデル説明会」を開催しようとし
た際、ビラを配布し、阻止運動を行うなどした。
 また、坂井町反対同盟の規約では、集落の住民は空港に関する一切の交渉権を坂
井町反対同盟の委員会(五名ずつ各区から選出する委員で構成される。)に委任す
ることとなっており、坂井町反対同盟の会員である住民宅の玄関には坂井町反対同
盟が配付した「空港に関する対話は拒否する」の貼り紙が貼られた。
(四) 他方、春江町五集落及び坂井町福島区については、本件文書作成当時、既
に集落の総論同意は得られていたが、調査事務所は、引き続き、空港拡張整備事業
に付随する地域振興策等に関する話合い及び地権者の同意を得るための取組みを行
っていた。
2 相手方の表記及び氏名の条例七条一号該当性について
(一) 条例七条一号本文の趣旨は、個人の尊厳を守り、基本的人権を尊重する立
場から、公開を原則とする公文書公開制度の下においても、実施機関はその責務と
して、プライバシーの保護について最大限の配慮をしなければならないが、プライ
バシーの概念はいまだ必ずしも明確ではなく、どのような情報がプライバシー保護
のために非公開とされるべきかを一律に規定することが困難であることから、プラ
イバシーという概念を用いることを避け、個人に関する情報で、特定の個人が識別
又は識別され得るものを非公開事由として規定したものと解される。
 このように、条例七条一号本文は、プライバシーの保護を中心として、その周辺
部分をも含めて非公開事由としたものというべきであるから、同号にいう「個人に
関する情報」とは、氏名、住所、本籍など戸籍的事項に関する情報、学歴、職歴な
ど経歴に関する情報、疾病、障害など心身に関する情報、思想、信条に関する情
報、家庭状況、社会的活動状況に関する情報等個人に関する情報を広く意味するも
のと解するのが相当である(なお、福井県公文書公開事務の手引(乙1)の条例解
釈運用基準は、「個人に関する情報」とは、思想、宗教、身体的特徴、健康状態、
家族構成、職業、学歴、住所、財産の状況、所持その他一切の個人に関する情報を
いうとしている。)が、他方で、個人に関する情報とされている情報であっても、
プライバシーに関連しないことが明らかな情報は同号にいう「個人に関する情報」
には含まれないものと解するべきである。
 また、同号は「特定の個人が識別され、または識別されうる」としているが、同
号が個人のプライバシーを尊重するための規定であることに鑑みると、当該情報に
おける特定の個人の識別可能性については、当該情報そのものだけからこれが認め
られる必要はなく、一般人が通常入手しうる新聞雑誌その他関連情報を総合するこ
とにより、個人を識別、特定することができるような場合も「特定の個人が識別さ
れ、または識別されうる」情報に含まれると解するべきである。
(二) 以上を前提に本件について検討するに、本件における「相手方」とは、地
元関係者という以上には特定されていないが、いずれも地域集落の住民という私人
であり、話合いへの出席は、当該私人にとっては、公務あるいは当該私人の所属す
る団体における職務又はこれに準ずるものとはいえないことが明らかである。そう
すると、話合いへの出席は、調査事務所の職員にとっては職務であっても、相手方
にとってはなお私的な事柄というべきである。
(三) これに対し、原告は、公務の相手方になった者については、相手方となっ
たという情報の限りにおいてはプライバシーと関連しない旨主張する。
 この点、食糧費は、歳出予算の区分中の需用費の予算科目に含まれる経費であ
り、本件の話合いのように普通地方公共団体の長その他の執行機関が、当該普通地
方公共団体の行政事務、事業を執行する過程において、社会通念上儀礼の範囲にと
どまるものとして許容される茶菓・食事を提供しての接遇に要する経費は右の食糧
費に含まれると解される。そして、食糧費は、行政事務、事業の執行上直接的に費
消される経費であり、対外的に活動する地方公共団体の長その他の執行機関が、そ
の行政執行のために必要な外部との交際に要する経費で、歳出予算の区分中の交際
費の予算科目から支出される交際費とは、その性格を異にするものである(地方自
治法二二〇条一項、同法施行令一五〇条一項三号、二項、同法施行規則一五条二項
別記)。
 そうすると、食糧費の支出を伴う打合せの相手方になるということは、行政事
務、事業への関与ということになる。
 しかし、行政事務、事業への関与といっても、本件における「相手方」とは、前
記のとおり、空港拡張整備事業、右事業による影響及び右事業に付随する地域振興
策について、調査事務所が地元関係者と話合いをするために設けた席に、調査事務
所の一方的な求めに応じて、地元住民個人として出席した者であり、これらの者に
とって話合いの相手となることは私的領域にあることといわざるを得ず、その出席
者氏名はプライバシーに関するものとして保護されるべきであって、原告主張のご
とく、「行政の相手方となった」という情報の限りにおいては私的な事柄ではな
く、プライバシーと関連しないことが明らかであると解するのでは、プライバシー
尊重の目的で規定された条例七条一号の趣旨に反するというべきである。もっと
も、本件では、相手方は、被告職員の話合いへの参加の呼びかけに応じて任意に話
合いに参加した者ではあるが、任意に参加したことが、当該私人の、行政の相手方
となったという情報に関するプライバシー性を消滅させると解する合理的な理由は
ない。
(四) そうすると、相手方の氏名は、それ自体で個人を特定するに十分な情報で
あるから、条例七条一号本文に該当すると認められる。そして、同号ただし書の定
める非公開除外事由に該当することを窺わせるような事情はない。
(五) 他方、相手方の表記とは、前記のとおり、相手方の所属する集落名である
が、被告は、表記が明らかにされると、話合いの相手方が特定される旨主張するの
みで、集落名から個人が特定される経緯ないし過程について、何ら具体的な主張、
立証をしないのであるから、表記が明らかにされると、当該情報自体又は本件文書
に記載された他の情報及び一般人が通常入手しうる関連情報を総合することによっ
て、話合いの相手方が特定され得ると認めることはできない。したがって、相手方
の表記は、「特定の個人が識別され、または識別されうる」情報とはいえないか
ら、条例七条一号本文に該当するとは認められない。
3 相手方の表記及び氏名並びに行為の日の条例七条六号該当性について
(一) 本件文書に記載されている情報のうち、話合いの実施に関するものは、相
手方の表記、氏名、行為の日のほかは、話合いの開催場所、概括的な開催目的(た
とえば、「福井空港拡張整備事業について(人名)と打合せ会」)のみであり、こ
のような話合いの外形的事実に関する情報からは、当該話合いの個別、具体的な開
催目的やそこで話し合われた事項等の具体的な内容が明らかになるものではないか
ら、右情報が開示されることにより、直ちに空港拡張整備事業に関する地元関係者
との交渉という事務の目的が達成できなくなり、または同事務の公正かつ円滑な運
営・執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるということはできない。
(二) しかし、坂井町三集落においては、前記1(三)のとおり、調査事務所
は、集落の総論同意を得るために、空港拡張整備事業、右事業による影響及び地域
振興策について、地元関係者との話合いを行っていたが、その一方で坂井町反対同
盟や福井空港問題を考える会が空港拡張整備事業に強い反対姿勢を示していたので
ある。これに加え、各集落は、古くから農業を中心とした相互扶助関係を基本とす
る生活共同体を営んでおり、現在でも集落内においては集落としての取決めが最も
重視されるという事情がある一方で、集落内には空港拡張整備事業に対してさまざ
まな意見があることを併せ考慮すると、調査事務所との話合いへの参加を考えた地
元関係者が、話合いに参加したことが明らかにされると、その所属する集落内で空
港拡張整備の賛成者あるいは推進者と見られるなど、さまざまな憶測や非難を受け
るのではないかと恐れることが容易に予想される。
 また、春江町五集落及び坂井町福島区においては、前記1(四)のとおり、既に
集落の総論同意は得られていたが、調査事務所は、引き続き空港拡張整備事業に付
随する地域振興策等に関する話合い及び地権者の同意を得るための取組みを行って
いたところ、右話合いは、地域振興策としての事業に直接関係する事項だけでな
く、他の事業や集落内の人間関係等にも配慮する必要がある上、事業の円滑な実施
を図るためには、当該事業がその地域に及ぼす影響とその対応策、その他当該地域
が有する計画等との整合性等について、地域としての合意を得ることも必要といえ
る。したがって、調査事務所としては、当該事業の直接の関係者のみならず、集落
の役員等と話合いを行って事業の必要性及び概要を説明したり、関係者との話合い
においても、直接交渉するだけでなく、他の地元関係者の協力を得て間接的な方法
で交渉することも、場合によっては必要と認められる。このように、地元関係者と
の話合いは、複雑かつ高度な利害関係の調整を要するものというべきであり、これ
に加え、各集落は、古くから農業を中心とした相互扶助関係を基本とする生活共同
体を営んでおり、現在でも集落内においては集落としての取決めが最も重視される
という事情がある一方で、集落内には福井空港拡張整備事業に対してさまざまな意
見があることを併せ考慮すると、調査事務所との話合いへの参加を考えた地元関係
者は、話合いに参加したことが明らかにされると、その所属する集落内でさまざま
な憶測や非難を受けるのではないかと恐れることが容易に予想される。
(三) このようにみると、本件における話合いはいずれも内密の協議を目的とす
るものというべきであって、話合いの相手方を特定することができるような情報
は、それが外部に公開、公表されることが予定されているような場合は別として、
これが明らかにされると、地元関係者は、その所属する集落内でさまざまな非難や
憶測を受けるのではないかと恐れ、話合いへの参加を拒否したり、率直な意見表明
を控えたりすることが予想される上、地元関係者が、調査事務所ないし福井県は話
合いの出席者を明かしたとの不満を持ち、地元関係者の調査事務所や福井県に対す
る信頼関係が損なわれることが予想され、調査事務所の空港拡張整備事業に関する
地元関係者との交渉という事務の円滑な執行に著しい支障が生じ、右事務の目的を
達成できなくなるおそれがあるといわなければならない。
 したがって、話合いの相手方を特定することができる情報は、それが外部に公
表、公開されることが予定されているなどの特段の事情のない限り、「公開するこ
とにより、当該もしくは同種の事務の目的が達成できなくなり、またはこれらの事
務の公正もしくは円滑な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」として、条
例七条六号に該当するというべきである。
 そして、右にいう相手方の特定可能性については、条例七条一号本文と同様に、
当該情報そのものだけからこれが認められる必要はなく、一般人が通常入手しうる
新聞雑誌その他関連情報を総合することにより、個人を特定することができるよう
な場合も含まれると解するべきである。
(四) そこで、相手方の氏名、表記及び行為の日が、当該情報自体又は本件文書
に記載された他の情報及び一般人が通常入手しうる新聞雑誌その他関連情報を総合
することにより、相手方を特定することができる情報であるか否かを検討するに、
まず、相手方の氏名は、それ自体で個人を特定するに十分な情報であり、また、外
部に公開、公表されることが予定されているという特段の事情も認められないか
ら、条例七条六号に該当すると認められる。
(五) 他方、相手方の表記及び行為の日のうち会食の年月日については、被告
は、いずれもこれらのことが明らかにされると話合いの相手方が特定される旨主張
するのみで、表記や行為の日から個人が特定される経緯ないし過程について、何ら
具体的な主張、立証をしないのであるから、表記あるいは行為の日が明らかにされ
ると当該情報自体又は本件文書に記載された他の情報及び一般人が通常入手しうる
関連情報を総合することによって話合いの相手方が特定され得ると認めることはで
きない。したがって、相手方の表記及び行為の日のうち会食の年月日は、いずれも
条例七条六号に該当するとは認められない。
(六) そして、行為の日のうち本件文書に添付された請求書、請求明細書につき
検査を了した年月日については、被告は、当該情報が公開されることにより、いか
なる被告の事務につきその目的が達成できなくなり、またはその公正もしくは円滑
な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるかについて、全く主張、立証しないか
ら、同様に条例七条六号に該当するとは認められない。
4 飲食業者の銀行口座情報の条例七条二号該当性について
 事業者にとって、銀行との口座取引は、金銭の出納及び事業資金の管理という事
業執行の根幹を構成する重要な取引であり、いかなる金融機関といかなる内容の口
座取引を行うかは、当該事業者にとっての重要な内部管理情報であって、銀行口座
の金融機関名及び本支店名、預金種別、口座番号といった外形的な情報といえど
も、本来第三者に開示することを予定していないものというべきである。もちろ
ん、事業者は事業の遂行に際して取引先ないし顧客に対して銀行口座情報を開示す
ることがあるし、一般に発行する請求書等に記載されている場合もあるが、右は当
該事業者がその事業の内容、性質、規模等に応じてする任意の選択に委ねられるべ
きものであって、通常は当該事業者と取引先ないし顧客との間の信頼関係を前提と
して開示されているというべきである。このような銀行口座情報の性質に鑑みる
と、銀行口座情報が公文書公開制度により当該事業者と取引関係、信頼関係のない
一般市民にまで広く公開されることは、それ自体、当該事業者の金銭管理に混乱な
いし支障を生じさせ、当該事業者に著しい不利益を与えるものと推認され、これに
反する証拠はない。
 したがって、飲食業者の銀行口座情報は、公開することにより当該業者に不利益
を与えることが明らかな情報というべきであるから、条例七条二号本文に該当する
と認められる。そして、同号ただし書の定める非公開除外事由に該当することを窺
わせるような事情はない。
5 まとめ
 以上のとおり、相手方の表記及び行為の日は、条例の定める非公開事由に該当し
ないから、本件非公開決定のうち、相手方の表記及び行為の日に係る部分はいずれ
も違法であって取り消されるべきであるから、この部分の取消請求を認容し、他
方、相手方の氏名は条例七条一号本文、六号の各非公開事由に、飲食業者の銀行口
座情報は同条二号本文の非公開事由にそれぞれ該当するから、本件非公開決定のう
ち、相手方の氏名及び飲食業者の銀行口座番号に係る部分は適法であり、この部分
の取消請求は理由がない。
三 請求二について(争点3)
 原告が公文書公開処分として主張する被告の行為は、公文書の写しの写しを交付
したという単なる事実行為であるから、被告の右行為は行政事件訴訟法三条二項に
いう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」には該当しないというべき
である。原告としては、公開決定はされたが、公開決定に係る文書がしかるべき方
法で開示されない等の事情により、当該文書について非公開決定がされたものとみ
ることができる場合に、右非公開決定の取消訴訟を提起してその適法性を争う余地
があるにとどまる。したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の
請求二は不適法であり却下を免れない。
四 請求三について(争点5)
 請求三は、公文書の管理者に対して公文書の公開を義務付けることを請求する行
政訴訟であり、その性質は、抗告訴訟の性質を有する無名抗告訴訟(義務付け訴
訟)と解される。
 しかしながら、無名抗告訴訟は、法定抗告訴訟によっては救済できない場合に補
充的に認められるにすぎないものであり、そのうち義務付け訴訟においては、①行
政庁の作為、不作為義務の内容が裁量の余地のないほど明白で、②性質上、裁判所
の判断に適する事項であり、行政庁の第一次的な判断権を留保する必要性がそれほ
どないような事項に関する場合であって、③他方、出訴を認めなければ回復し難い
損害が生じ、事前救済の必要性が顕著である等の要件を満たすことが訴訟要件とな
ると解される。本件においては、本件非公開決定の取消訴訟によっては救済が不可
能であるような特段の事情、例えば被告が本件非公開決定を取り消す旨の確定判決
に従わないというおそれがあるなどの事情は窺われないから、少なくとも③の要件
を満たさないことが明らかである。したがって、その余の点について判断するまで
もなく、原告の請求三は不適法であり却下を免れない。
(口頭弁論終結日平成一一年一月二〇日)
福井地方裁判所民事第二部
裁判長裁判官 岩田嘉彦
裁判官 岸本一男
裁判官 岩崎邦生

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