弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄す。
     被告人を懲役四月に処する。
     本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
     原審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人菅原幸夫及び同船越広が連名で差し出した控訴趣意書
及び追加控訴趣意書に記載してあるとおりであり、これに対する答弁は検事伊藤嘉
孝が差し出した答弁書に記載してあるとおりであるから、いずれもこれを引用し、
これに対して当裁判所は次のように判断をする。
 論旨第一点の二について。
 公務執行妨害罪にいわゆる「公務員の職務を執行するに当り」とは、公務員が現
にその職務を執行中であるばかりではなく、少くともまさにその職務の執行に着手
しようとしている場合をも含むものと解すべきとこ<要旨>ろ、原判決がかかげてい
る証拠によれば、前記Aは国鉄B駅構内南部運転掛詰所勤務の運転掛とし
て、列車の発着に関する事務、特にその内列車の発車合図をする職務を担当してい
たものであるが、その職務の性質上、次ぎ次ぎに多数の列車の発車合図をしなけれ
ばならないところから、絶えず待機していなければならない立場にあるものであ
り、特に被告人等が同人を右詰所から連れ出そうとした午後六時五四分当時は、一
九時発車予定の臨時列車の発車合図を間近にひかえており、おそくとも一、二分後
には、右列車の発車合図をするために、右詰所から約七〇米離れている右列車の発
車線に向わなければならない関係にあつたことが明らかであり、なお合図灯は常に
準備してあり、いつ何時でもこれを持つて列車の発車合図をするために出掛けるこ
とができる体勢にあつたことが明らであるから、右Aは、右運転掛として、まさに
その職務に着手しようとして待機中のものであつて、「その執務の執行に当つてい
たもの」に当るものというべきであり、同人が現に合図灯を持つていなかつたとし
ても、この一事により、直ちに右認定を左右するわけにはいかない。
 その上、原判決がかかげている証拠によれば、右Aは、被告人等に輸送本部に電
話連絡をすることを妨げられた際、被告人等に対して、出発列車があるから列車の
発車合図をさせてくれという趣旨のことを言つたことが明らかであるばかりてな
く、同人は、その頃、前記詰所内の運転掛の机の前に腰掛けており、且つその際現
実には冠つていなかつたとしても、その机の上には、右詰所内に勤務している他の
職員とは違つて、上が黒く、腹が赤く、その下部に金筋が一本入つている運転掛の
制帽が置いてあり、なお被告人等が同人を右詰所から連れ出す際には、被告人が同
人に右制帽が冠らせていることが明らかであるから、長年国鉄に勤務していた被告
人としては、右Aが右詰所勤務の運転掛として、次ぎ次ぎに発車する多数の列車の
発車合図をする職務を担当しており且つ同人が、右運転掛として、まさに間近に迫
つている列車(前記臨時列車)の発車合図をしょうとして待機中のものであつて、
「その職務の執行に当つていたもの」に当るものであつたことを知つていたものと
いうべきであり、とうてい被告人がこのことを所論のように誤認していたと認める
余地はない。
 従つて、論旨は理由がない。
 (その余の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 加納駿平 判事 河本文夫 判事 清水春三)

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