弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を前橋簡易裁判所に差戻す。
     当審に於ける訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 検察官事務取扱検事石原定美の控訴趣意並びに弁護人楠木計夫の答弁要旨は各同
人作成名義の控訴趣意書並びに答弁書と題する末尾添附の各書面記載の通りであ
る。これに対し当裁判所は左の通り判断する。
 検察官の控訴趣意について。
 <要旨第一>自白又は有罪の自認の補強証拠はひろく自白又は有罪の自認が真実で
あることを裏づけする証拠をいうのである。従つて情況証拠例えば被告
人の生活の情況のような動機を示す証拠も時としては、所謂補強証拠となりうる。
しかし、これは被告人の供述であつてはならぬ。それは自白以外の供述であつて
も、これを補強証拠とすることは自白や有罪の承認に補強証拠を要求する法の精神
に反する。本件において被告人の情況に関する証拠は、被告人自身の供述であつ
て、他の証拠によつて証明された事実ではない。甲第三乃至五号証によれば、被告
人は昭和二十五年一月十九日頃所持していた焼酎の量と日時、場所の外これを現認
されて差押えられ、その后廃棄処分に付された事実を認定することができるに止ま
る。右事実から推論して前にも焼酎を所持したこ<要旨第二>とを推定せしむる証拠
とはなるが進んでこれを他に販売したという事実の証拠とまではならない。前にも
焼酎を所持していたというだけの証拠は本件のような酒類の不法販売の
犯罪事実の補強証拠としては不充分である。右販売事実を推認させるには、被告人
において前に所持していた焼酎をもはや所持しておらないという事実が確定して、
はじめて、販売したという事実を推認することができるのである。しかるに本件で
は、そこまでの証拠はないo故に所論は相当でない。しかし被告人の起訴状記載の
犯行頃の生活情況や、被告人は差押えられた焼酎以外には当時焼酎を所持していな
かつた事実について被告人の供述以外の証拠を求め、又は川崎駅前のAという者に
ついて、被告人に焼酎を数回売渡した事実があるかどうかを取調べ、補強証拠を求
める<要旨第三>ことは必ずしも不可能ではない。検事において、その立証を盡くさ
ないときはその立証を促がし職権により証拠調をなすべきである。これ
は実体的真実発見主義を本旨とする刑事訴訟法の精神の要請である。原審はこの点
において審理不盡の違法があつて右違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるか
ら、本件控訴は結局理由があつて原判決は破棄を免かれない。
 よつて刑訴法第三九七条、第四〇〇条に則り主文の通り判決する。
 (裁判長判事 吉田常次郎 判事 石井文治 判事 鈴木勇)

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