弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決中被告人に関する部分を破棄する。
     本件を福島地方裁判所平支部に差し戻す。
         理    由
 弁護人菅原秀男の陳述した控訴趣意は、記録に編綴の同弁護人名義の控訴趣意書
の記載と同じであるから、これを引用する。
 控訴趣意第一点について。
 原判決の「法令の適用」をみるに、刑法第九十五条第一項第二十五条刑事訴訟法
第百八十一条を羅列していること所論のとおりであるが、その主文と対照するに、
被告人を懲役十月の実刑に処し、原審相被告人A同Bの両名を懲役十月三年間執行
猶予に処しているから、刑法第二十五条は原審相被告人A同Bの両名に対し適用し
たもので、被告人に対しこれを適用した趣旨ではないと解するのが相当である。さ
れば、原判決にはその法令の適用において明確さを欠く譏は免れないけれども、所
論のように被告人に対し法令の適用において刑法第二十五条を掲げながら主文にお
いて執行猶予の言渡しを脱漏した違法あるものとなすを得ない。論旨は理由がな
い。
 同第三点について。
 所論原判示第一2の事実に対する証拠として原判決の挙示する原審証人C同Dの
各証言は原審第三回公判における右両証人の供述を指すものであること、その後原
審第五回公判において裁判官の更迭により公判手続を更新したが、同公判調書には
前記第三回公判調書中右両証人の供述記載を取調べた旨の記載がないこと所論のと
おりである。しかし、公判手続を更新したときは、刑事訴訟規則第四十四条第三十
二号によりその旨及び所定事項即ち証拠調に関しては取調べない旨の決定をした書
面及び物を記載するのみで足り、取調べたものはこれを記載することを要しないの
であつて、反証のない限り記載のないものは取調べられたものと推定されるのであ
る。ところで、原審第三回公判調書によれば、公判手続を更新した旨の記載があつ
て所論証人C同Dの供述記載については、異議の申立その他これを取調べなかつた
と認むべき資料は何等存しないから、適法に証拠調べされたものと推定すべきであ
る。されば、原判決には所論のように証拠調をしない証拠を採用した違法は存しな
い。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 原判決が原判示第一1の事実に対する証拠として挙示する「E、Dに対する各司
法警察員の供述調書、E、Fに対する各検察官の供述調書」は、原審第六回公判調
書によれば、刑事訴訟法第三百二十八条により所論証拠の証明力を争う方法として
原審検察官より取調請求があつて証拠調べされたものであること所論のとおりであ
る。ところで、刑事訴訟法第三百二十八条の証拠の証明力を争うための証拠はこれ
を犯罪事実の証明に使用することはできないところであるから、原判決は採証法則
違反の違法をおかしたものであり、右の証拠を除く爾余の原判決挙示の証拠によつ
ては右原判示第一1の事実を認定することはできないから、右の違法は判決に影響
を及ぼすことが明かであるといわねばならない。
 そして、原判決は右事実と原判示第一2の事実とを包括一罪として一個の刑を科
しているのであるから、原判決中被告人に関する部分は全部破棄を免れない。論旨
は理由がある。
 <要旨>次に、職権を以て調査するに、刑法第九十五条にいわゆる暴行はそれが直
接には物に対して行われる場合においても、それが間接には公務員に対して
加えられるものと認め得られるときは、ひとしく同条にいう暴行というを妨げない
こともちろんであるが、その物に対する暴行が間接にも公務員に対して加えられた
ものと認められないときは、これを以て公務執行妨害罪を構成する暴行ということ
はできない。ところで、原判決の事実摘示によれば、原判示G税官吏等が適法な令
状により原判示山際に設けられた小屋及び防空壕利用の犯則現場において犯則物件
を捜索差押え容器容量の採尺及びアルコール検定資料の採取等職務の執行をしてい
た際、被告人が前記防空壕入口で鉄棒にて犯則物件と認められるガラス製一斗瓶を
破壊して暴行し、同防空壕入口附近に停車中の前記税務署使用の自動車内に前記係
官が持込みおいた押収のもろみ入り採取瓶二本を取つてこれを附近の堀内に投棄破
壊して暴行し、前記G税官吏等の職務の執行を妨害したというのであるが、右事実
摘示を原判決挙示の証拠と併せ判読しても、右瓶の破壊又は投棄が、間接にもせ
よ、原判示職務執行中の公務員に対し暴行を加えたものである所以を諒解し難く、
結局原判決は公務執行妨害罪における暴行の判示として欠くるところがあるものと
いわねばならない。即ち、原判決には理由不備の違法があり、破棄を免れない。
 なお、記録に徴するも、被告人が前記物件に対し暴行をする際ただ附近に公務執
行中の収税官吏が居た事実が認められるだけであつて、証拠物件として保管監視中
の収税官吏の面前で右物件を破壊したとの如き事実も認められず、これを以ては職
務執行中の公務員に対し間接に暴行を加えたものと認め難く、若しその他にこの所
為が職務執行中の公務員に対し間接に暴行を加えたものと認めるに足る証拠がない
とすれば、被告人の原判示第一の所為は器物毀棄罪を構成するに過ぎないが、記録
に徴すれば、少くとも原判示第三の原審相被告人Bが原判示の如くG税官吏を脅迫
しその職務の執行を妨害した事実につき被告人が暗黙の共謀関係にあつたものと認
められないわけではなく、訴因を変更して審判すればこの点において被告人に対し
公務執行妨害罪の成立を肯定し得ないわけではない。なほ、原判示D等数名の収税
官吏は相共に一の公務執行行為をなしているものであり、これに対し同時同所にお
いてその執行を妨害したものとすれば一罪を構成するものであることはもちろんで
あるから、原判決の如く被告人の所為を第一の12とわけて判示する必要をみな
い。また、被告人は昭和二十六年三月十三日仙台高等裁判所で酒税法違反の罪によ
り懲役十月及び罰金七万円に処せられ、当時右刑の執行を受終つた前科があるとこ
ろ、原判決は累犯の加重をしていないのであるから、原判決はこの点でも誤つてい
る。
 以上の次第で、刑事訴訟法第三百九十七条第三百七十九条第三百七十八条第四号
により原判決中被告人に関する部分を破棄し、同法第四百条本文により本件を福島
地方裁判所平支部へ差し戻すべきものとし、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 細野幸雄)

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