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平成21年9月15日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成18年第21405号損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日平成21年4月28日
判決
山口県宇部市<以下略>
原告宇部興産機械株式会社
同訴訟代理人弁護士吉澤敬夫
同牧野知彦
同訴訟代理人弁理士伊丹勝
東京都千代田区<以下略>
被告バブコック日立株式会社
同訴訟代理人弁護士野口明男
同高橋元弘
同飯塚卓也
同内田晴康
同落合孝文
主文
1被告は,原告に対し,金2億5167万3433円及びこれに対する
平成18年10月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを5分し,その1を被告の負担とし,その余を原告
の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,金12億円及びこれに対する平成18年10月3日
(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機」とする
特許権(特許番号第1706534号)を有していた原告が,上記特許権が出
願公告された平成2年10月31日から同特許権の存続期間の満了日である平
成14年6月29日までの間における被告による回転式加圧型セパレータを備
えた粉砕機の製造,輸入又は販売は,上記特許権(出願公告後設定登録前につ
いては,平成6年法律第116号による改正前の特許法52条1項に規定する
権利)を侵害する行為であると主張して,被告に対し,不法行為による損害賠
償請求権(特許法102条3項)ないし不当利得返還請求権に基づき,実施料
相当額及び弁護士費用相当額の支払を求める事案である。
なお,附帯請求は,訴状送達の日の翌日である平成18年10月3日から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求である。
1争いのない事実等(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1)当事者(弁論の全趣旨)
ア原告は,粉砕装置等の一般産業機械の製造,販売等を業とする株式会社
である。
イ被告は,蒸気発生装置,原子力機器の製造,販売及び修理等を業とする
株式会社である。
(2)原告が保有していた特許権(甲1,2)
原告は,宇部興産株式会社から,次の特許権(以下「本件特許権」といい,
その特許請求の範囲1の発明を「本件発明」という。また,本件発明に係る
特許を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(別紙特許公報参照)を
「本件明細書」という。)の移転を受け,これを有していた。
なお,本件特許権の原告への移転登録日は,平成13年6月20日である。
特許番号第1706534号
発明の名称回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機
出願日昭和57年6月29日
出願公開日昭和59年1月11日
出願公告日平成2年10月31日
登録日平成4年10月27日
存続期間満了日平成14年6月29日
特許請求の範囲1
「回転テーブルと,この回転テーブル上に配置された回転テーブルの回転
に伴って従動回転する複数個の粉砕ローラとを有し,粉砕ローラの上方に
ケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンターシュートを配設し,セ
ンターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け,この回転筒に
は放射状に配置されたベーンを取付け,粉砕機内部を加圧雰囲気とした構
成にした粉砕機において,回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風
装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシュートとの間の
環状隙間と送風装置とを連通させ,この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定
圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成したことを
特徴とする回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機。」
(3)本件発明の構成要件の分説
本件発明の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下分説した各構
成要件をそれぞれ「構成要件A」などという。)。
A回転テーブルと,
Bこの回転テーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴って従動回転
する複数個の粉砕ローラとを有し,
C粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンター
シュートを配設し,
Dセンターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け,
Eこの回転筒には放射状に配置されたベーンを取付け,
F粉砕機内部を加圧雰囲気とした構成にした粉砕機において,
G回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導
管を取付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを
連通させ,
Hこの隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の
下端から噴出するように構成した
Iことを特徴とする回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機。
(4)被告の行為(弁論の全趣旨)
ア被告は,本件特許権が出願公告された平成2年10月31日以降本件特
許権が存続期間の満了により消滅した平成14年6月29日までの間,別
紙1のとおり,回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機を製造,販売した。
イ被告が別紙1のDないしI記載の発電所に納入した粉砕機(以下「イ号
物件」という。)の,原被告間に争いのない範囲の構成は,別紙2−1記
載のとおりである。
ウ被告が別紙1のB及びC記載の発電所に納入した粉砕機(以下「ロ号物
件」という。)の,原被告間に争いのない範囲の構成は,別紙3−1記載
のとおりである。
エ被告が別紙1のA発電所に納入した粉砕機(以下「ハ号物件」という。
また,イ号物件,ロ号物件及びハ号物件を併せて「被告製品」ということ
がある。)の,原被告間に争いのない範囲の構成は,別紙4−1記載のと
おりである。
(5)被告製品の本件発明の構成要件の一部充足
アイ号物件について
イ号物件は,本件発明の構成要件A,B,D,F及びIを充足する。
イロ号物件について
ロ号物件は,本件発明の構成要件A,B,D,E,F及びIを充足する。
ウハ号物件について
ハ号物件は,本件発明の構成要件A,B,D,E,F及びIを充足する。
(6)損害賠償請求権及び不当利得返還請求権の譲受け(甲8の1・2)
ア原告と,本件特許権の出願人であり,特許権者であった宇部興産株式会
社とは,事業分割に伴い,原告への移転日より前に発生した損害賠償請求
権,不当利得返還請求権を含め,本件特許権に関するすべての権利義務を
宇部興産株式会社から原告に移転する旨合意した。
イ宇部興産株式会社は,平成18年9月19日,被告に対し,下記債権を
原告に譲渡した旨を,確定日付のある証書によって通知した。

被告が本件特許権を侵害する製品を製造又は輸入し,販売したことによ
り,本件特許権の出願公告日(平成2年10月31日)から本件特許権の
原告への譲渡日(平成13年6月20日)までの間に宇部興産株式会社が
被った損害についての,①特許法65条1項に基づく補償金支払請求債権,
②不法行為に基づく損害賠償請求債権,③不当利得返還請求債権
2争点
(1)イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するものか(争点1)
ア構成要件Cの充足性(争点1−a)
イ構成要件Eの充足性(争点1−b)
ウ構成要件Gの充足性(争点1−c)
エ構成要件Hの充足性(争点1−d)
オ均等侵害の成否(争点1−e)
(2)ロ号物件は本件発明の技術的範囲に属するものか(争点2)
ア構成要件Cの充足性(争点2−a)
イ構成要件Gの充足性(争点2−b)
ウ構成要件Hの充足性(争点2−c)
(3)ハ号物件は本件発明の技術的範囲に属するものか(争点3)
ア構成要件Cの充足性(争点3−a)
イ構成要件Gの充足性(争点3−b)
ウ構成要件Hの充足性(争点3−c)
(4)本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点4)
ア乙第6号証と乙第7号証に基づく無効理由が認められるか(無効理由
1)
イ乙第6号証と乙第8号証に基づく無効理由が認められるか(無効理由
2)
ウ乙第53号証の1と乙第7号証に基づく無効理由が認められるか(無効
理由3)
エ乙第53号証の1と乙第8号証に基づく無効理由が認められるか(無効
理由4)
オ乙第58号証と乙第7号証に基づく無効理由が認められるか(無効理由
5)
カ乙第58号証と乙第8号証に基づく無効理由が認められるか(無効理由
6)
キ乙第59号証の1と乙第7号証に基づく無効理由が認められるか(無効
理由7)
ク乙第59号証の1と乙第8号証に基づく無効理由が認められるか(無効
理由8)
ケ本件特許の請求項の記載は昭和62年改正前特許法36条4項に違反す
るものか(無効理由9)
コ本件特許の発明の詳細な説明の記載は昭和62年改正前特許法36条3
項に違反するものか(無効理由10)
被告は,無効理由9,10について,昭和60年改正前の特許法36条4
項,5項違反を主張している。しかしながら,昭和60年法律第41号によ
り,昭和60年改正前の特許法36条,123条は改正され,特別な場合を
除き,経過措置は設けられていないので,本件特許には同改正法が適用され,
昭和60年改正前の特許法36条4項,5項は,昭和62年法律第27号に
よる改正前の特許法(以下「昭和62年改正前特許法」という。)123条
1項3号の規定する同法36条3項,4項と規定内容を同じくするので,被
告の上記主張は,昭和62年改正前特許法36条3項,4項違反を主張する
ものと善解して取り扱うこととする。
(5)損害額又は不当利得額(争点5)
第3争点に対する当事者の主張
1争点1(イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するものか)について
〔原告の主張〕
(1)争点1−a(構成要件Cの充足性)について
アイ号物件におけるセンターシュート(1)は,粉砕ローラ(8)の上方
で,ケーシングの中央に位置した状態で垂直に配設されている。
よって,イ号物件は,構成要件Cを充足する。
イ被告の主張について
(ア)被告は,構成要件Cの「粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置
した状態で垂直にセンターシュートを配設し,」は,センターシュート
が「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかるこ
ととなる上方位置」にあることを意味する旨主張する。
しかしながら,被告が指摘する本件明細書中の「下方の粉砕部から粉
砕された微粒子を多量に含んだガス流が真上に上昇してきて該隙間下端
開口から侵入しようとしても,微粒子は確実に吹き飛ばされ,その侵入
が確実に阻止される。」(2頁4欄37行ないし40行)との記載は,
「・・ガス流が真上に上昇してきて該隙間下端開口から侵入しようとし
ても,」とあるとおり,構成要件Cの「粉砕ローラの上方に」を「粉砕
部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることになる
上方位置」と限定解釈する根拠となるものではない。
また,被告が指摘する平成2年1月23日付け「意見書」(乙1の
7)中の記載(6頁)も,「第2引用例(特開昭55−92145)」
に開示されている「シール空気の供給構造」との差異を説明するものに
すぎず,本件発明の構成を限定するものではない。
(イ)本件発明が解決しようとする課題は,本件明細書に明記されていると
おり,「従来の回転式セパレータを採用し,分級効率を増大させようと
すると,従来の回転式セパレータは負圧型ミルに適用されているため,
加圧型の粉砕機に取付けようとすると,粉砕機内部は加圧雰囲気である
ため粉砕機上部中心部より垂下する固定のセンターシュートとその周り
に同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に別粉(判
決注・「微粉」の誤記と認める。)が侵入し固着発達して回転筒の円滑
な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗し
て損傷する。」(1頁2欄10行ないし19行)点にあり,これを解決
したのが本件発明である。
本件発明が解決しようとする課題の記載からしても,被告が主張する
ような限定解釈をすべき理由はない。
(ウ)被告は,構成要件Cの「粉砕ローラの上方に・・・配置」は,ガスが
粉砕部から上昇して回転筒の下端に直接ぶつかるものであるとの解釈を
前提に,イ号物件においては,含塵ガスは粉砕部から真上へ上昇するの
ではなく,粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って
上昇し,内壁側から固定ベーン及び回転ベーンに流入する旨主張し,構
成要件Cを充足しないとする。
aそもそも,被告の解釈自体が誤りであるし,仮に,被告のように解
したとしても,イ号物件において,微粉炭の空気搬送の流れが,「粉
砕機内壁に沿っている」とするのは,事実に反する(甲14)。
すなわち,イ号物件においては,熱風を送るスロート(14)は,
装置の中心方向に傾けて内向きに取り付けられており,スロート(1
4)からミルケーシング内に吹き込まれた熱風は,粉砕機内壁に沿っ
て上昇する流れである熱風(A)のみならず,粉砕機の中心に向かっ
て流れ分級機ホッパーの内部を通過して上昇する流れである熱風
(B)があるのであり,被告のように,微粉炭は粉砕機の内壁に沿っ
て粉砕機上部に搬送されるとするのは誤りである。
熱風(B)は,微粉炭を回転筒の下部に吹き上げており,イ号物件
の回転筒とセンターシュートとの間に微粉炭を詰まらせる可能性があ
るため,イ号物件では,回転筒とセンターシュートとの環状隙間に加
圧空気を送り込み,そのような弊害を防いでいるのである。
bスロート部から噴出されたガスが壁面に沿ってのみ上昇していくと
いうのは誤りである。
ガスは,圧力差があれば,高い方から低い方に流れるのが常識であ
り,スロート部からは高圧空気が噴出しており,中心部とは圧力差が
あるから,必ず圧力の低い中心部への流れも存在する。
イ号物件において,セパレータの回転羽根,スロートの傾斜による
効果で,機内に旋回流が形成されていても,あくまでも,ガスは,圧
力差により高い方から低い方に流れているのであり,回転筒下端付近
の圧力がスロート部の圧力よりも小さい以上,環状隙間方向にガスの
流れが形成されることは明らかである。
イ号物件のように,ノズルが円の外周部に設けられている場合であ
っても,スロート部からの噴流が壁面に沿ってのみ上昇するというこ
とはあり得ず,ガスは中心に向かって拡散して広がる。しかも,スロ
ート部を中心方向に向かって傾けたイ号物件において,スロート部か
らの噴流が粉砕機内で拡散することなく,壁面に沿ってのみ上昇する
ということはあり得ない。
スロート部からミル中心に向かって流れるガスの流れが存在し,ガ
スと共に炭塵が舞い上がっていることは明白である。
このことは,イ号物件が,スロート部からミル中心に向かって流れ
るガスの流れによって運ばれる原料からローラ回転軸を保護するため
の「ロールブラケットウェアプレート」と称するプロテクターを備え
ていることからも裏付けられる。
(2)争点1−b(構成要件Eの充足性)について
ア「放射状」とは,「中央の一点から四方に放出した形のもの」(広辞苑
第四版)の意である。
本件明細書には,「センターシュート13の外側に放射状配置のベーン
14を有する回転筒22」(2頁3欄40行ないし41行)と記載されて
おり,構成要件Eは,回転筒22に対するベーン14の配置をいうもので
あることが明らかである。
イ号物件において,回転ベーンは,回転筒から放射状(回転筒の中心か
ら四方に放出した位置にあたる箇所)に配置されているのであるから,構
成要件Eを充足する。
イ被告の主張について
(ア)被告は,イ号物件においては,「回転筒と平行に,縦方向にベーンが
配置されており,さらに,上方から見ると各ベーンに角度がつけられて,
渦巻き状とでもいうべき形状に配置されている」旨主張する。
しかしながら,「回転筒と平行に,縦方向にベーンが配置されて」い
ることや,「上方から見ると各ベーンに角度がつけられて」いることは,
イ号物件のベーンが回転筒から四方に放出した形に配置されていること
を否定するものではなく,ベーンが回転筒から四方に放出した形に配置
されていることを前提に,ベーンの具体的な配置角度等を問題にするも
のにすぎない。ベーンの具体的な配置角度をどのようにするかは,本件
発明の作用効果とは直接関係がない,任意の設計事項にすぎない。
(イ)被告は,ベーンが「同心円状に配置」されており,「放射状に配置」
されていない旨主張する。
しかしながら,別紙2−3の「回転ベーンの配置及び形状(上から見
た図)」のとおり,各ベーンの配置された位置は,回転筒に対して放射
状といえるのであって,放射状に配置された各回転ベーン(羽根)に3
0°の角度がつけられているにすぎない。
ベーン(羽根)を備えた装置の技術分野において,羽根が「内側から
外側に向かう位置関係に配置される」ことを意味し,ベーンが回転中心
と同心円状に配置されている場合であっても,ベーンに角度がついてい
てその放射中心が点でない場合であっても,回転する筒をその放射中心
として,「放射状に配置」と表現されている。
被告のいう「同心円状に配置」されていることは,回転ベーンが回転
筒に対し「放射状に配置」されていることを否定するものではない。
(3)争点1−c(構成要件Gの充足性)について
アイ号物件は,回転筒(16)下端から2メートルから3メートル程度離
れた上方位置に,回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(17)を
設け,空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定された空気室(1
8)を設け,空気室と送風装置とをシールエアダクト(19)により接続
し,送風装置から空気室に空気を吹き込むことにより,空気導入孔を通じ
て,センターシュート(1)と回転筒との間の環状隙間に空気を導入する
ことができるように構成されている。
したがって,イ号物件は,構成要件Gを充足する。
イ被告の主張について
(ア)被告は,構成要件Gの「所定距離」の定める具体的な距離が明らかで
はないから,イ号物件が構成要件Gを充足するとはいえない旨主張する。
構成要件Gの「所定距離」とは,「回転筒下端から所定距離離れた上
方位置に・・・空気導管を取付け」と記載されていることから明らかな
とおり,回転筒下端ではなく,これより離れた上方位置に空気導管を取
り付けることを規定しているのであり,構成要件Hの「この隙間に加圧
雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出す
るように」するために必要な適当な距離を意味する。
本件発明が対象とする回転式加圧型セパレータには,それぞれの目的
に応じた様々な大きさがあり,それに伴って「送風装置に連絡された空
気導管」の取付位置が異なるのであるから,具体的な距離で表示してい
ないことに何ら問題はない。
(イ)被告は,構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送
風装置に連絡された空気導管を取付ける」とは,空気導管を回転筒自体
に取り付けることを意味する旨主張する。
しかしながら,空気導管を回転筒自体に取り付けるという構成を実現
できるはずはなく,被告の解釈は,当業者の理解から完全に離れたもの
である。
被告は,本件明細書の第2図をその主張の根拠にしているものの,こ
れが単なる模式図であることは一見して明らかである。
また,構成要件の文言解釈としても,「回転筒下端から所定距離離れ
た上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付ける」という構成を,
被告のように,回転筒に「直接」空気導管を取り付ける意味であると解
釈しなければならない必然性はないのであって,センターシュートの外
側に回転可能に設けられた回転筒(構成要件D)とセンターシュートと
の間の環状隙間に,加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込める
ようにした(構成要件H)構成の意味であると解釈すべきである。
(4)争点1−d(構成要件Hの充足性)について
アイ号物件は,回転筒とセンターシュートとの間に,下端部に1ミリメー
トルないし2.4ミリメートル程度の隙間が空いており,送付装置に連結
された空気導管を通じて,加圧雰囲気よりも高い圧力の空気を吹き込み,
回転筒の下端から噴出するように構成されている。
したがって,イ号物件は,構成要件Hを充足する。
イ被告の主張について
(ア)被告は,構成要件Hの「下端から噴出」とは,「回転筒の回転を利用
することにより環状隙間全周から空気の噴出を可能にするもの」という
意味に限定解釈されるべきであるとして,イ号物件は,回転筒の回転を
利用することなく回転筒下端の全周から空気を噴出しているから,構成
要件Hを充足しない旨主張する。
しかしながら,構成要件Hは,「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所
定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成した」
というものであって,被告が主張するように,「回転筒の回転を利用す
ることにより環状隙間全周から空気の噴出を可能にする」という意味に
読み替えるべき根拠はない。
すなわち,本件明細書の記載を参酌しても,本件発明は,「固定のセ
ンターシュートとその周りに同心円状に配設され回転するセパレータの
回転筒との隙間に別粉(判決注・「微粉」の誤記と認める。)が侵入し
固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周
面や回転筒内周面が摩耗して損傷する」という課題(1頁2欄15行な
いし19行)を解決しようとするものであり,構成Hの「この隙間に加
圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出
するように構成」することによって,そのような課題が解決されること
は明らかであるから,構成Hを被告主張のように限定解釈すべき理由は
ない。
本件明細書中には,「回転筒22の内周面が回転しているので,前記
の供給位置か(ら)供給された空気が回転筒22の下端に至る間で回転
筒22の内周面の回転につれて環状通路内を螺旋状に旋回しながら下降
するため,供給位置から抵抗の少ない特定の部位のみを流れて,所謂,
ショートパスしたり偏流したりして回転筒22下端の部分的な位置のみ
から排出されることがなく,該空気は環状隙間内の全体に行き渡って回
転筒22の下端の全周から噴出する」(2頁4欄21行ないし30行)
との記載があるものの,これは,実施例によっては環状空間内に空気抵
抗の大きい部位と小さい部位がある場合があり,そのような場合につい
ても,回転筒の回転によって「空気は環状隙間内の全体に行き渡って回
転筒22の下端の全周から噴出」し得る,という効果があることを述べ
ているにすぎず,本件発明が特定の構成に限定されることを述べている
のではない。
(イ)被告は,構成要件Hの「下端から噴出」が「回転筒の回転を利用する
ことにより環状隙間全周から空気の噴出を可能にするもの」という意味
に限定解釈されることを前提に,乙第5号証のシミュレーションを提出
して,イ号物件においては,回転筒が回転している場合とそうでない場
合とにおける空気の噴出状態に違いが認められず,回転筒の内周面の回
転を利用する構造を採っていないから,構成要件Hを充足しない旨主張
する。
そもそも,回転筒の回転の有無により空気の噴出状態に差異がないこ
とを立証しても,構成要件Hを充足しないとする根拠には全くならない。
また,構成要件Hの解釈は別論としても,イ号物件は,本件発明と同
様の作用効果を奏する(甲12,13)。
被告の提出するシミュレーションは,下端の隙間が回転筒の全周にわ
たって均一としている(実際には,数ミリ程度のばらつきがある),構
造物の壁面は滑らかなものとしている(実際には,さびなどの影響があ
り,均一という条件設定はあり得ない)など,現実にはあり得ない条件
設定下におけるシミュレーションにすぎず,現実の装置の空気の流れを
再現したものではない。
(5)争点1−e(均等侵害の成否)について
仮に,イ号物件が構成要件Eを充足せず,本件発明の文言侵害が成立しな
いとしても,次のとおり,均等侵害が成立する。
ア本件発明の本質的部分は構成要件G,Hにあり,構成要件Eは本件発明
の本質的部分ではない。
イベーンがイ号物件のように配置されていても,「回転筒22の下端であ
る環状隙間の下端から侵入しようとする微粒子を確実に吹き飛ばすことが
でき,センターシュート13と回転筒22の間の隙間に微粒子が侵入する
ことが防止され,センターシュート外周面と回転筒内周面の微粒子による
摩耗損傷を阻止できるとともに,回転筒の円滑な回転運動を確保すること
ができる。」(本件明細書3頁5欄20行ないし6欄4行)という本件発
明と同様の作用効果を奏する。
ウイ号物件との差異は,単にベーンの具体的な配置角度の問題にすぎず,
任意の設計事項ともいうべきものであって,本件発明の属する技術分野に
おける当業者において,イ号物件の製造時点において容易に想到すること
ができたものである。
エイ号物件は,本件発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者
がこれから上記出願時に容易に推考することができたものではない。
オイ号物件が本件発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的
に除外されたものに当たるなどの特段の事情はない。
〔被告の主張〕
(1)争点1−a(構成要件Cの充足性)について
ア構成要件Cの「上方」の意義
構成要件Cにいう「上方」が具体的にいかなる意味を有するかにつき,
特許請求の範囲の記載からは明確でない。
構成要件Cを含むおいて書きは,本件発明が解決しようとする課題を有
する加圧型ミルの構造を特定する構成要件であるから,構成要件Cの「上
方」の解釈は本件発明が解決しようとする課題を参酌し,その課題を提供
する構造を特定するものとして解釈しなければならない。
本件明細書には,「下方の粉砕部から粉砕された微粒子を多量に含んだ
ガス流が真上に上昇してきて該隙間下端開口から侵入しようとしても,微
粒子は確実に吹き飛ばされ,その侵入が確実に阻止される。」(2頁4欄
37行ないし40行)と記載されている。この記載は,本件発明が解決す
べき課題が,「下方の粉砕部からガス流が真上に上昇してきて環状隙間の
下端から侵入しようとする」という現象であることを示すものである。
そして,上記課題に照らせば,本件発明のおいて書きによって特定され
る粉砕機の構造は,このような課題を生じる構造であることを要するから,
構成要件Cにおける「上方」は,単にセンターシュートが粉砕ローラの上
方にあるという意味ではなく,「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転
筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」の意味と解釈される。
この解釈は,本件特許の出願過程において,出願人が,本件発明と引用
例(特開昭55−92145号)との差異を説明するに当たり,本件発明
は,「粉砕部から含塵ガスが真上に上昇して来て丁度そこに垂直状態で位
置するセンターシュートと回転筒にぶつかる構造のセパレータ」であって,
「該センターシュートと回転筒との間の環状の隙間への粉塵の侵入防止を
計るようにしたもの」であることを強調していること(乙1の7。6頁7
行ないし20行)からも裏付けられる(すなわち,粉砕部から含塵ガスが
真上に上昇して来て,ちょうどそこに垂直状態で位置するセンターシュー
トと回転筒にぶつかる構造のセパレータに関するエアシール技術である点
にこそ本件発明の特許性が認められるのであり,かかる悪条件が生じない
ミルにおいては,本件発明が解決しようとする課題を欠き,その技術的範
囲から除外されると解すべきである。)。
イイ号物件の構成要件Cの非充足
(ア)イ号物件においては,含塵ガスは粉砕部から真上へ上昇するのではな
く,粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し,
内壁側から固定ベーン及び回転ベーンに流入する。
したがって,イ号物件は,「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転
筒の下端に直接ぶつかることとなる構造」を有しない。
よって,イ号物件は粉砕ローラの「上方」,すなわち「粉砕部から真
上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位
置」にセンターシュートが配設されているものではなく,構成要件Cを
充足しない。
(イ)原告は,イ号物件には,ミル内壁面に沿って上昇する熱風(A)とは
別に,分級機ホッパの内部を通過して上昇する熱風(B)がある旨主張
する。
しかしながら,イ号物件には,原告主張にかかる熱風(B)のような
微粉炭の流れは存在しない。
aイ号物件のスロートはミル円周方向に傾斜しているので,微粉炭は
ミルの中心に向かっては流れず,ミル内壁面に沿って上昇する。
すなわち,イ号物件におけるスロートは,ミルの中心方向に向かっ
て傾いていると同時に,ミルの円周方向にも傾いているため,スロー
トで吹き上げられた微粉炭は,スロートから粉砕機内壁へ向かって吹
き上げられ,粉砕機の内壁にぶつかった上で,ミル内壁に沿って旋回
しながら上昇することになる。
bイ号物件の分級機ホッパ下端では,鉛直方向下向きに空気が流れて
おり,熱風(B)のような微粉炭の流れは存在しない。
すなわち,イ号物件においては,粉砕される石炭は,センターシュ
ートより分級機ホッパの下端開口部を通じてミルの粉砕部へと落下し,
ミルの運転中,センターシュートより間断なく供給される。また,回
転ベーンによる分級で分離された粗い粒子は分級機ホッパの上面を滑
落して粉砕部へと戻っていく。分級機ホッパの下端開口部では,相当
量の石炭が鉛直方向下向きに常に落下しているのである。この石炭の
流れに伴い,分級機ホッパの下端開口部付近では鉛直方向下向きの空
気の流れが生じるため,仮に,スロートから吹き上げられた微粉炭が
分級機ホッパ下端開口部に近づいたとしても当該開口部から流入する
ことはなく,熱風(B)のような微粉炭の流れは生じない。
c原告は,ロールブラケットウェアプレートの存在を指摘し,これが
ミル中心部に向かう空気の流れが存在することを示すものである旨主
張する。
しかしながら,ロールブラケットウェアプレートは,スロートから
噴出した空気がミル内壁に衝突するまでの流れの途中にローラブラケ
ットが位置するために,これを保護する目的で設けられたものにすぎ
ない。
(2)争点1−b(構成要件Eの充足性)について
ア構成要件Eにおける「放射状」の意義
構成要件Eにおける「放射状」とは,「線状のものが中心から四方に出
ているさま。」(大辞林第三版)あるいは「中央の1点から四方八方に放
出したもの。輻射状。」(広辞苑第五版)を意味する。
そして本件明細書の第1図および第2図の回転ベーンの形状に照らせば,
構成要件Eにいう回転筒に「放射状」にベーンを配置するとは,「ベーン
の長手方向を構成する直線部分が回転筒の中心から四方八方に延びるよう
に配置すること」を意味していることは明らかである。
イイ号物件の構成要件Eの非充足
イ号物件は,ベーンの長手方向を構成する直線は回転筒と平行になるよ
うに,水平面から垂直に配置されており,しかも,各ベーンの短手方向を
構成する直線も,回転筒の中心から延びる線と角度が付けられており,そ
れらの直線を回転筒方向に延長しても一致しないのであるから,いずれの
点においても,「放射状」を構成するものではない。
イ号物件におけるベーンの配置は,回転筒と「同心円状」に配置されて
いるとでもいうべきものであり,回転筒から「放射状」に配置されている
ものではないから,イ号物件は構成要件Eを充足しない。
(3)争点1−c(構成要件Gの充足性)について
ア構成要件Gの「所定距離」について
(ア)構成要件Gの「所定距離」が具体的にどの程度の距離を指すものであ
るかについては,特許請求の範囲に記載がなく,また,本件明細書の発
明の詳細な説明の記載を参酌してもその具体的意味は不明である。
(イ)本件明細書中の記載(2頁4欄18行ないし30行)を参酌しても,
「所定距離」は,せいぜい,「構成要件Hの『この隙間に加圧雰囲気よ
りも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の回転を利用して,回転筒
の下端全周から噴出するように』するために必要な適当な距離」と解釈
することができる程度であり,その距離がどのようなものであることを
要するかを解釈し確定することは不可能であって,「所定距離」という
構成を具体的に確定することはできない。
(ウ)原告は,構成要件Gの「所定距離」とは,「構成要件Hの『この隙間
に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から
噴出するように』するために必要な適当な距離」を意味すると主張する。
しかしながら,環状隙間に空気を吹き込めば回転筒下端から空気が噴
出するのは当然であるから,空気を吹き込む位置(空気導入孔の位置)
と回転筒下端との距離は,長くても,短くてもよいことになる。
原告の上記主張を前提とすれば,原告が主張する「必要な適当な距
離」というのは「どのような距離でもよい」という解釈にほかならない。
このような構成要件は発明上無用な構成要件であって,原告の主張す
るように解釈した場合,本件発明は昭和62年改正前特許法36条4項
により無効である。
(エ)よって,イ号物件への当てはめの前提としての構成要件が特定できな
いのであるから,構成要件Gの充足が認められる余地はない(イ号物件
が構成要件Gを充足することについて主張立証がない。)。
イ構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・空気導
管を取付け」について
構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・空気導
管を取付け」とは,文言上,空気導管を回転筒それ自体に取り付けるもの
であると解釈される(本件明細書の第2図,2頁4欄9行ないし12行参
照)。
これに対し,イ号物件は,回転筒の円周に空気導入孔を設け,その周囲
に空気室を設け,送風装置から空気室に空気を吹き込むことにより,上記
空気導入孔を通じて環状隙間に空気を導入することができるようにしてい
るものであるから,回転筒に空気導管を取り付けたものではない。
したがって,イ号物件は構成要件Gを充足しない。
(4)争点1−d(構成要件Hの充足性)について
ア構成要件Hの「回転筒の下端から噴出するように構成した」の意義
構成要件Hの「回転筒の下端から噴出するように構成した」とは,以下
のとおり,「所定圧力の空気が回転筒の下端から所定距離離れた上方の位
置から環状隙間内へ供給されることにより,回転筒の内周面が回転してい
ることを利用して,吹き込まれた空気が回転筒の内周面の回転につれて環
状通路内を螺旋状に旋回しながら下降して,回転筒下端の全周から噴出す
るもの」と限定解釈されるべきである。
(ア)構成要件Hの「回転筒の下端から噴出する」の意義
本件明細書中には,以下の記載がある。
a「環状隙間の下端の全周囲から噴出される構造を採用した。」(2
頁3欄7行ないし8行)
b「該空気は環状隙間内の全体に行き渡って回転筒22の下端の全周
から噴出する。」(2頁4欄29行ないし30行)
c「環状の隙間全体に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気が充満さ
れて下端開口の全周から噴出される。」(3頁5欄14行ないし16
行),「このため,回転筒22の下端である環状隙間の下端から侵入
しようとする微粒子を確実に吹き飛ばすことができ,センターシュー
ト13と回転筒22の間の隙間に微粒子が侵入することが防止さ
れ,」(3頁5欄19行ないし6欄1行)
これらの記載によれば,本件発明は,回転筒下端の環状隙間の「全周
から」空気を噴出させる構成を取ることにより,粉塵の侵入を確実に防
止することを目的とするものである(回転筒下端の環状隙間へ微粉炭が
侵入することを防止するという本件発明の目的は,環状隙間の全周から
空気を噴出する構成によって初めて達成することができる。)。
したがって,本件発明の構成要件Hにいう「回転筒の下端から噴出す
る」とは,回転筒下端の「全周から噴出」という意味と解釈される。
(イ)構成要件Hは,上記のとおり,「回転筒の下端の全周から空気を噴出
させるように構成した」という意味であるところ,当該構成要件は,特
許発明を,その構成がもたらす機能的な表現によって特定したものとい
え,いわゆる機能的な構成要件である。
特許請求の範囲が作用的,機能的な表現で記載されている場合には,
当該記載に加えて明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌し,そこに開
示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技
術的範囲を確定しなければならない。
本件明細書中には,「所定圧力の空気が回転筒22の下端から所定距
離離れた上方の位置から環状隙間内へ供給され,かつ,環状隙間を画成
する一つの部材である回転筒22の内周面が回転しているので,前記の
供給位置か(ら)供給された空気が回転筒22の下端に至る間で回転筒
22の内周面の回転につれて環状通路内を螺旋状に旋回しながら下降す
るため,・・・該空気は環状隙間内の全体に行き渡って回転筒22の下
端の全周から噴出する。」(2頁4欄18行ないし30行)との記載が
ある。
上記記載からすると,本件発明は,空気が回転筒下端から所定距離離
れた上方の位置から環状隙間内へ供給され,かつ,回転筒の内周面が回
転していることを利用して,上記供給位置から供給された空気を回転筒
の下端に至る間で環状通路内を螺旋状に旋回しながら下降させることに
より,回転筒下端の全周からの空気の噴出を可能にすることを技術思想
とするものであるといえる。
そして,本件明細書中には,上記のほか,回転筒の下端全周から空気
を噴出させることを可能とする構成の開示はない。
(ウ)以上によれば,構成要件Hの「回転筒の下端から噴出するように構成
した」とは,「所定圧力の空気が回転筒の下端から所定距離離れた上方
の位置から環状隙間内へ供給されることにより,回転筒の内周面が回転
していることを利用して,吹き込まれた空気が回転筒の内周面の回転に
つれて環状通路内を螺旋状に旋回しながら下降して,回転筒下端の全周
から噴出するもの」をいう構成に限定され,その限りにおいて独占権が
与えられているものと解されなければならない。
上記解釈は,本件特許の出願過程において,出願人が,本件発明と引
用例(特開昭57−75156号,特開昭55−92145号)との差
異は,本件発明が「回転筒の下端から所定の距離隔てた上方の位置から
該環状の隙間に空気を供給し,かつ,回転筒の回転を利用することによ
って環状の隙間内全体に空気を行き渡らせ,隙間の下端の全周から空気
を噴出させる構造」を採る点にあるとしていたこと(乙1の7。5頁1
1行ないし19行,7頁1行ないし2行,7頁20行ないし8頁16
行)からも裏付けられる。
イイ号物件の構成要件Hの非充足
イ号物件は,回転筒の回転を利用することによって回転筒下端の全周か
ら空気を噴出させているのではない。イ号物件においては,①回転筒下端
の空気噴出口をリングとパッキンで狭め,②回転筒とセンターシュートと
の環状隙間の一部に狭隘部を設け,③空気導入孔を回転筒の円周に30個
配置して全ての空気導入孔から空気を吹き込む,という構造を有している
ために回転筒下端の全周から空気が噴出されるものである。
イ号物件が,回転筒の回転を利用することによって回転筒下端の全周か
ら空気を噴出させているものでないことは,乙第5号証のシミュレーショ
ンにおいて,回転筒の回転を止めた場合であっても回転筒下端の全周から
空気が噴出されるとの計算結果が得られていることから明らかである。
以上のとおり,イ号物件は,回転筒が回転していない場合でも下端全周
から空気が噴出するのであるから,回転時に空気が内周面の回転によって
移動したり旋回したりするといった現象の存否とは無関係であり,「所定
圧力の空気が回転筒の下端から所定距離離れた上方の位置から環状隙間内
へ供給されることにより,回転筒の内周面が回転していることを利用して,
吹き込まれた空気が回転筒の内周面の回転につれて環状通路内を螺旋状に
旋回しながら下降して回転筒下端の全周から噴出するもの」ではないから,
構成要件Hを充足しない。
(5)争点1−e(均等侵害の成否)について
ア特許権の均等侵害が成立するためには,「対象製品等が特許発明の特許
出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるな
どの特段の事情がない」(第5要件)ことが必要とされ,特許の出願当初
から特許請求の範囲に取り込むことができた構成や,審査過程の補正段階
で取り込むことができたような構成については,均等論が及ばない。
本件特許の出願人は,①回転筒の中心から四方八方に延びる直線とベー
ンとの間に角度が付けられている構成,②ベーンの長手方向を構成する直
線が回転筒と平行になっている構成を,本件特許の出願の際ないし出願手
続中に特許請求の範囲に容易に取り込むことができたのであるから,これ
らの構成につき均等侵害が成立する余地はない。
イ①の構成について
回転筒の中心から四方八方に延びる直線とベーンとの間に角度が付けら
れている構成は,本件特許の出願日以前に既に周知となっていたし(乙1
4),本件特許発明の公告決定の送達時以前に周知であった(乙15)。
したがって,出願人は本件発明の出願時にこの構成を特許請求の範囲に
含めた上で出願することができたはずであるし,また,遅くとも公告決定
の送達時までの間に,補正によりかかる構成を特許請求の範囲に取り込む
こともできた。
しかしながら,出願人は,本件発明の出願の際にかかる構成を請求の範
囲に含めず,また,上記のような補正も行わなかったのであるから,上記
特段の事情がある。
よって,回転筒の中心から四方八方に延びる直線とベーンとの間に角度
が付けられている構成につき均等侵害は成立し得ない。
ウ②の構成について
ベーンの長手方向を構成する直線が回転筒と平行になっている構成は,
本件発明の公告決定の送達時以前に周知となっていた(乙16ないし1
8)。
したがって,出願人は,遅くとも公告決定の送達時までの間に,補正に
よりかかる構成を特許請求の範囲に取り込むことができた。
しかしながら,出願人は,上記のような補正を行わなかったのであるか
ら,上記特段の事情がある。
よって,ベーンの長手方向を構成する直線が回転筒と平行になっている
構成につき均等侵害は成立し得ない。
2争点2(ロ号物件は本件発明の技術的範囲に属するものか)について
〔原告の主張〕
(1)争点2−a(構成要件Cの充足性)について
アロ号物件におけるセンターシュート(1)は,粉砕ローラ(8)の上方
で,ケーシングの中央に位置した状態で垂直に配設されている。
よって,ロ号物件は,構成要件Cを充足する。
イ被告は,構成要件Cの「上方」を,「粉砕部から真上に上昇したガス流
が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」と限定解釈すべきで
あると主張するものの,被告の上記主張に理由がないことは,イ号物件に
関して既に述べたとおりである。
また,被告は,ロ号物件は,含塵ガスが粉砕部から真上へ上昇するもの
ではなく,粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上
昇し,内壁側から回転ベーンに流入する旨主張するものの,これが事実に
反することは,イ号物件に関して述べたところと同様である。
(2)争点2−b(構成要件Gの充足性)について
アロ号物件は,回転筒(16)下端から2メートルから4メートル程度離
れた上方位置に,回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(17)を
設け,空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定された空気室(1
8)を設け,空気室と送風装置とをシールエアダクト(19)により接続
し,送風装置から空気室に空気を吹き込むことにより,空気導入孔を通じ
て,センターシュート(1)と回転筒との間の環状隙間に空気を導入する
ことができるように構成されている。
したがって,ロ号物件は,構成要件Gを充足する。
イ構成要件Gの「所定距離」,「回転筒下端から所定距離離れた上方位置
に・・・空気導管を取付け」の解釈については,イ号物件に関し,既に述
べたとおりである。
(3)争点2−c(構成要件Hの充足性)について
アロ号物件は,加圧雰囲気より高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端
から空気が噴出するように構成しているから,構成要件Hを充足する。
イ被告の主張について
(ア)被告は,被告製品においては,「回転筒下端の環状隙間をパッキンで
塞ぐことにより,回転筒下端より空気が噴出しないように構成してい
る」(構成ロh)と主張する。
aしかしながら,被告の主張は,一方で,パッキンにより微粉の侵入
を防ぐとしつつ,他方で,環状隙間に加圧空気を流している(構成ロ
g)とするものであり,明らかに技術的に矛盾する。
すなわち,仮に,被告の主張が事実であるとすれば,回転筒とセン
ターシュートとの間の隙間は存在しないのであるから,30個の空気
導入孔を有する空気室を設置し,そこから空気を吹き込むための加圧
空気システムを設置する必要性はない。回転筒に,わざわざ空気導入
孔を設け,空気導入孔を通じて環状隙間に加圧空気を送るという構成
は,当該環状隙間が粉砕機内部に通じていて,そこに微粉炭が入り込
むことを前提としなければ理論的に全く不要であり,そのような構成
を費用をかけて製作し,設置しなければならない理由はない。
また,仮に,何らかの理由で環状隙間を粉砕機内部の圧力よりも高
い加圧雰囲気とする必要性があったとしても,「回転筒下端の環状隙
間をパッキンで塞ぐことにより,回転筒下端より空気が噴出しない」
のであれば,分級機設置時に一度加圧空気を吹き込み封印してしまえ
ばすむのであり,シールエアファンから加圧空気を常時送風できるよ
うに構成する必要性は全くない。
被告は,ロ号物件の回転筒に空気導入孔を設けているのは,オイル
シールの保護の必要があるためであると主張する。しかしながら,被
告の主張する部分のオイルシール用パッキンは,軸受け部に供給され
ている潤滑用のオイルを漏れないようにするためのパッキンであり,
通常「Vシール」と称されるタイプのものである。このようなパッキ
ンにおいては,わざわざ回転筒に孔を設けて,環状空間に圧縮空気を
導入するなどという大掛かりな仕組みを用いてパッキンの両端の気圧
を等しくする必要はない。
以上のとおり,ロ号物件における環状隙間に加圧空気を送る構成は,
回転筒下端がパッキンによって完全に塞がれてはおらず,微粉の侵入
があることを想定した上で,加圧空気をパッキンとセンターシュート
との間から噴出させるための構成であるとしか考えられない。
b回転する回転筒と固定センターシュートとの間をパッキンで隙間な
く完全に塞ぐことは技術的にも不可能である。
すなわち,本件のような長さ数メートルにもおよぶセンターシュー
トを持つ竪型ミルにおいて,完全な真円のセンターシュート,真円の
回転筒及びパッキンを製作することが通常の工業技術では不可能であ
り,それらの設置においても偏差が生じることは避けられない。被告
の主張のように,パッキンで回転筒とセンターシュートとの隙間を完
全に塞ぐためには,パッキンの内径をセンターシュートの外形寸法よ
りも小さく製作し,無理やり装着させる方法を取る必要があり,この
場合強い力でパッキンがシュートを締め付け,パッキンがセンターシ
ュートをこすりながら回転することになる。このような回転方法は,
いわば強くブレーキをかけたまま車を強引に走行させるようなもので
あり,回転機構全体に大きな負荷がかかるのみならず,装置の耐久性
や消費エネルギー量等の観点からしても大きなデメリットとなるから,
当業者がそのような構成を採用するはずがない。
また,被告の主張する構成では,現実にパッキンとセンターシュー
トとを接触したままで連続運転しようとすれば,パッキンとセンター
シュートとの間に大きな摩擦熱が生じる。ロ号物件は,石炭粉砕用の
設備であり,摩擦熱による発火等の危険性がある構成は,当業者であ
れば,およそ採用することができないものであることは明らかである。
仮に,設備設置当初においては,完全にパッキンで塞いでいる構成
であったとしても,運転中のパッキンの摩耗により,パッキンとセン
ターシュートとの間に隙間が生じることによって,そのような摩擦が
防げるというのであれば,その隙間からはシールエアが噴出するよう
になるのであるから,被告の主張するロ号物件の構成は,実際には,
ハ号物件と異ならない(構成要件Hを充足する)。
c被告は,ロ号物件において,パッキンとセンターシュート外形寸法
との値の差を「0(ゼロ)」とすることにより,環状隙間の下端をシ
ールしており,ここからの空気の噴出がないと主張するものの,工業
的に回転するパッキンと固定したセンターシュート外形寸法との値の
差を「0(ゼロ)」にすることによって,環状隙間を密閉することは,
不可能である。
すなわち,固定されて静止している円形部材に,該円形部材の外形
と同寸法に加工された内径をもつ円形部材を嵌め合わせて回転させよ
うとする構造においては,両者の間には必ず隙間がなければならない。
しかも,静止している円形部材,回転する円形部材ともに,真円に加
工することはできないから,2つの円形部材により形成された隙間の
間隔は,それぞれの位置によって異なり,回転することによってその
間隔は常に変化する。静止している円形部材と回転する円形部材とに
ついて,2つの円の中心を完全に一致させることは不可能であるから,
回転する円形部材の回転軸心と静止している円形部材の軸心との間に
ずれが生じるため,回転時には,隙間の大きさがさらに大きく変化す
る。ロ号物件のセンターシュートと回転軸とは,このような状態にお
いて相対的に回転しているのであり,回転筒に設けられたパッキンと
センターシュート外形寸法との値の差が「0(ゼロ)」の状態のまま,
回転筒を回転させることは工業的に不可能である。仮に,回転筒下端
の環状隙間を密閉しようとする場合には,パッキンとして柔軟なゴム
のような素材を用い,かつ,その内径を回転筒の外形よりも小さくし
て回転筒を常時緊縛するようにしておかなければならないものの,こ
のような構造では,ゴム部材とセンターシュートとの間で摩擦が生じ,
回転時に装置に過大な負荷がかかり,また,高速回転によって高い摩
擦熱を発生するから,現実には到底採用し得ない構造である。
d被告がパッキンとして使用しているとする,シート状のガスケット
は,あくまでも,固定された部材同士をシールするための静的シール
素材であって,回転体と固定部材との間に用いる運動用のシール(動
的シール)として用いることができないことは当業者にとって常識で
ある。
回転部分をシールするためには,回転に伴う軸心のずれに対応する
ことができるゴム状の素材であり,かつ,オイルのような流体によっ
て摩擦を防ぐ構造が必須であるのに,被告が使用しているとするパッ
キンは,全くこのような機能を奏し得ない。
また,このパッキンは,わずかな厚みしかないシートであるという
のであるから,そのわずかな厚み(側面)をセンターシュートに押し
付けることによって,エアシールをすることができるはずはない。こ
のパッキンには耐熱性がないから,摩擦や摩擦熱によって,パッキン
が容易に破損してしまうことになる。
e被告の主張によっても,センターシュート外形寸法とパッキン内径
寸法とが,厳密に同じ寸法に設計されてはおらず,●(省略)●こと
を認めている。
なお,被告は,この隙間をボルト締付力によるパッキンの伸びと,
センターシュート熱膨張とで塞ぐと主張するものの,およそ現実的で
はない。
(イ)以上のとおり,被告の上記主張は事実に反するものである。
〔被告の主張〕
(1)争点2−a(構成要件Cの充足性)について
構成要件Cの「上方」が,「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の
下端に直接ぶつかることとなる上方位置」の意味であることは,イ号物件に
関して既に述べたとおりである。
ロ号物件は,含塵ガスが粉砕部から真上へ上昇するものではなく,粉砕ロ
ーラの外側(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し内壁側から回転
ベーンに流入する。
したがって,ロ号物件のセンターシュートは,「粉砕部の真上から上昇し
たガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」に配置された
ものではなく,構成要件Cを充足しない。
(2)争点2−b(構成要件Gの充足性)について
アイ号物件に関して既に述べたとおり,構成要件Gの「所定距離」は,具
体的にどの程度の距離を指すのか不明であるから,ロ号物件についても,
構成要件Gの充足が認められる余地はない。
イイ号物件に関して既に述べたとおり,構成要件Gの「回転筒下端から所
定距離離れた上方位置に・・・空気導管を取付け」るとは,空気導管を回
転筒それ自体に取り付けることと解釈される。
ロ号物件は,回転筒に空気導管を取り付けたものではないから,構成要
件Gを充足しない。
(3)争点2−c(構成要件Hの充足性)について
ア構成要件Hについては,文言上,加圧空気が「回転筒の下端から噴出す
る」構成を採っていなければ,これを充足しない。
ロ号物件は,別紙3−3「下端絞り部の拡大図」にあるとおり,回転筒
下端の環状隙間のパッキンはセンターシュートに接するように設けられ
(センターシュートの外形寸法とパッキンの内径寸法とは同じ寸法に設計
されており,),パッキンとセンターシュートとの間に隙間は存在しない。
そして,ロ号物件においては,回転筒に取り付けられ,回転筒と共に回
転するパッキンが,固定されたセンターシュートに接した状態で回転筒が
回転する。
ロ号物件においては,空気室に加圧空気を吹き込み空気導入孔を通じて
環状隙間内の空気を加圧してはいるものの,パッキンにより回転筒下端の
環状隙間を塞いでおり,回転筒の下端から空気は噴出されない。
したがって,ロ号物件が構成要件Hを充足しないことは明白である。
イ原告の主張について
(ア)原告は,パッキンとセンターシュートとを接触させたまま回転筒を回
転させると,大きな摩擦熱が生じるはずであり,そのような危険な構成
を,当業者が採用することはない旨主張する。
しかしながら,ロ号物件を出荷するに当たり,ミルの試運転を行った
際に,特に発熱の問題は発生しなかった。パッキンが接触しているセン
ターシュートは,それ自体,十分な放熱面積を有するので,発火の危険
が生じる温度まで摩擦熱が蓄積されるような事態は想定されない。
また,ロ号物件に用いられている接触型のパッキンには,回転筒下端
に設けられたもの以外にも,回転軸の軸受部に設けられたオイルシール
や,粉砕機下部に設けられたカーボンパッキンなどもある。これらにお
いても,摩擦熱による問題が生じたことはない。高速回転する部材と固
定部材との間に接触型パッキンが用いられることは一般にも広く行われ
ていることである。
(イ)原告は,回転筒下端の環状隙間をパッキンで塞ぐのであれば,回転筒
に空気導入孔を設置して加圧空気を吹き込む必要はないのに,ロ号物件
には空気導入孔が設置されていることに照らし,環状隙間をパッキンで
塞いでいるはずがない旨主張する。
しかしながら,被告は,ハ号物件の回転筒下端の環状隙間をパッキン
で塞ぐことでロ号物件を構成した。そのため,ロ号物件は,空気導入孔
が設けられた従前のハ号物件の設計を維持したにすぎない。
また,ロ号物件の回転筒に空気導入孔を設けることは,回転部と固定
部との間に設けられたオイルシールを保護する(パッキンは板状の弾性
体であるため,パッキンの両面に気圧差があると,パッキンがめくれる
などして破損し,あるいは,十分にシール機能を果たさなくなる可能性
があるため,パッキンの両面の気圧を等しくすることにより,パッキン
の破損等を防止する。)という技術的意義がある。
(ウ)仮に,ロ号物件において,パッキンを取り付けた際,パッキンとセン
ターシュートとの間に,寸法公差によりギャップが存在し得るとしても,
パッキンをリングで全周にわたって押さえ付けることでパッキンが内径
の中心方向に延びること及びミル運転中にミル内部の温度が上昇してセ
ンターシュートが膨張し,環状隙間が狭められること,によって当該ギ
ャップは塞がれるものと推測される。
また,仮に,公差内で生じる寸法のばらつきやパッキンの延びのばら
つきに起因して,ミル運転中も塞ぎきれないギャップが存在したとして
も,それは回転筒下端の全周ではなく,一部にとどまるものであるから,
「回転筒下端の全周から噴出」させているものではなく,構成要件Hを
充足しない。
(エ)原告は,回転筒の回転の軸心のずれによるギャップが存在する旨主張
する。
しかしながら,ロ号物件においては,精密加工を施した歯車により回
転筒を回転させるものであるから,軸心のずれはほとんど生じない。
3争点3(ハ号物件は本件発明の技術的範囲に属するか)について
〔原告の主張〕
(1)争点3−a(構成要件Cの充足性)について
アハ号物件におけるセンターシュート(1)は,粉砕ローラ(8)の上方
で,ケーシングの中央に位置した状態で垂直に配設されている。
よって,ハ号物件は,構成要件Cを充足する。
イ被告は,構成要件Cの「上方」を,「粉砕部から真上に上昇したガス流
が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」と限定解釈すべきで
あると主張するものの,被告の上記主張に理由がないことは,イ号物件に
関して既に述べたとおりである。
また,被告は,ハ号物件は,含塵ガスが粉砕部から真上へ上昇するもの
ではなく,粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上
昇し,内壁側から回転ベーンに流入する旨主張するものの,これが事実に
反することは,イ号物件に関して述べたところと同様である。
(2)争点3−b(構成要件Gの充足性)について
アハ号物件は,回転筒(16)下端から3730ミリメートル程度離れた
上方位置に,回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(17)を設け,
空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定された空気室(18)を
設け,空気室と送風装置とをシールエアダクト(19)により接続し,送
風装置から空気室に空気を吹き込むことにより,空気導入孔を通じて,セ
ンターシュート(1)と回転筒との間の環状隙間に空気を導入することが
できるように構成されている。
したがって,ハ号物件は,構成要件Gを充足する。
イ構成要件Gの「所定距離」,「回転筒下端から所定距離離れた上方位置
に・・・空気導管を取付け」の解釈については,イ号物件に関し,既に述
べたとおりである。
(3)争点3−c(構成要件Hの充足性)について
アハ号物件は,回転筒とセンターシュートとの間に,下端部に1.2ミリ
メートルないし2.4ミリメートル程度の隙間が空いており,送付装置に
連結された空気導管を通じて,加圧雰囲気よりも高い圧力の空気を吹き込
み,回転筒の下端から噴出するように構成されている。
したがって,ハ号物件は,構成要件Hを充足する。
イ被告は,構成要件Hの「下端から噴出」とは,「回転筒の回転を利用す
ることにより環状隙間全周から空気の噴出を可能にするもの」という意味
に限定解釈されるべきである旨主張するものの,被告の上記主張に理由が
ないことは,イ号物件に関して既に述べたとおりである。
ウ被告は,構成要件Hの「下端から噴出」が「回転筒の回転を利用するこ
とにより環状隙間全周から空気の噴出を可能にするもの」という意味に限
定解釈されることを前提に,乙第19号証のシミュレーションを提出して,
ハ号物件においては,回転筒が回転している場合とそうでない場合とにお
ける空気の噴出状態に違いが認められず,回転筒の内周面の回転を利用す
る構造を採っていないから,構成要件Hを充足しない旨主張する。
しかしながら,回転筒の回転の有無により空気の噴出状態に差異がない
ことを立証しても,構成要件Hを充足しないとする根拠には全くならない。
被告の提出するシミュレーションは,現実にはあり得ない条件設定にお
けるシミュレーションにすぎず,現実の装置の空気の流れを再現したもの
ではない。
〔被告の主張〕
(1)争点3−a(構成要件Cの充足性)について
構成要件Cの「上方」は,「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の
下端に直接ぶつかることとなる上方位置」の意味であることは,イ号物件に
関して既に述べたとおりである。
ハ号物件において,含塵ガスは粉砕部から真上へ上昇するものではなく,
粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し内壁側か
ら回転ベーンに流入する。
したがって,ハ号物件のセンターシュートは,「粉砕部の真上から上昇し
たガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」に配置された
ものではなく,本件特許発明の構成要件Cを充足しない。
(2)争点3−b(構成要件Gの充足性)について
アイ号物件に関して既に述べたとおり,構成要件Gの「所定距離」は,具
体的にどの程度の距離を指すのか不明であるから,ハ号物件についても,
構成要件Gの充足が認められる余地はない。
イイ号物件に関して既に述べたとおり,構成要件Gの「回転筒下端から所
定距離離れた上方位置に・・・空気導管を取付け」るとは,空気導管を回
転筒それ自体に取り付けると解釈される。
ハ号物件は,回転筒に空気導管を取り付けたものではないから,構成要
件Gを充足しない。
(3)争点3−c(構成要件Hの充足性)について
ア構成要件Hの「回転筒の下端から噴出するように構成した」とは,「回
転筒下端の全周から噴出するように構成した」という意味であり,かつ,
かかる機能的構成要件に対応して本件明細書上具体的に開示されている技
術思想は,「所定圧力の空気が回転筒の下端から所定距離離れた上方の位
置から環状隙間内へ供給されることにより,回転筒の内周面が回転してい
ることを利用して,吹き込まれた空気が回転筒の内周面の回転につれて環
状通路内を螺旋状に旋回しながら下降して,回転筒下端の全周から噴出す
るもの」に限られているから,構成要件Hを充足するのは,この技術思想
を利用して「回転筒下端全周からの噴出」を達成しているものに限られる
ことは,イ号物件に関し既に述べたとおりである。
イハ号物件は,回転筒の回転を利用することによって回転筒下端の全周か
ら空気を噴出させているのではなく,回転筒下端の空気噴出口をリングに
よって狭めていること,回転筒とセンターシュートとの環状隙間の一部に
狭隘部を設けていること,空気導入孔を回転筒の円周に30個配置して全
ての空気導入孔から空気を吹き込むこと,により回転筒下端の全周から空
気を噴出させている。
したがって,ハ号物件は,回転筒の回転を利用して回転筒下端の全周か
ら空気を噴出させているのではないから,構成要件Hの「回転筒の下端か
ら噴出するように構成した」を充足しない。
ウハ号物件が,回転筒の回転を利用することによって回転筒下端の全周か
ら空気を噴出させているものでないことは,乙第19号証のシミュレーシ
ョンにおいて,回転筒の回転を止めた場合であっても回転筒下端の全周か
ら空気が噴出されるとの計算結果が得られていることから明らかである。
4争点4(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について
〔被告の主張〕
本件特許は,以下のとおり,特許無効審判により無効にされるべきものであ
って,特許法104条の3第1項により,原告は,被告に対し,本件特許権を
行使することはできない。
(1)無効理由1(乙第6号証と乙第7号証に基づく無効理由)について
ア乙第6号証(EnergieundTechnik〔1969年3月号〕。以下「乙6
文献」という。)の記載
(ア)乙6文献には,粉砕皿(構成要件Aに対応),粉砕ローラ(構成要件
Bに対応),センターシュート(別紙5−1の符号j。構成要件Cに対
応),回転筒(別紙5−1の符号k。構成要件Dに対応)及び分級羽根
(構成要件Eに対応)が記載されている(別紙5−1参照)。
また,「圧力を加えた運転には,今まで使用してきた構築を変更しな
ければならない。何故なら,ハウジングの中を貫通する揺動アームの気
密封止が困難になるからである。全く新しい設計が生じた(図2)。」
(乙6の112頁左欄20行ないし23行。なお,訳文は乙90の3
頁)との記載から,乙6文献に記載された粉砕機の内部が加圧雰囲気と
されていることは明らかであるので,粉砕機内部を加圧雰囲気とした構
成にした粉砕機(構成要件Fに対応)も開示されている。
そして,乙6文献には,図4に示された分級機と図2に示されたロー
ラミルとを組み合わせることができることも開示されており,以上を総
合すれば,乙6文献には,回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機
(構成要件Iに対応)が開示されていることも明らかである。
(イ)本件特許の出願当時,回転式分級機のセンターシュートは固定である
というのが従来技術であった(乙88参照)。上記技術水準を踏まえれ
ば,その20年も前の文献である乙6文献の図4に接した当業者が,そ
の回転式分級機のセンターシュートも固定であること,したがって,そ
の周囲を回転する分級羽根はセンターシュートと同心状に設けられた回
転筒に設けられているものと理解することは明らかである。
(ウ)仮に,「回転筒」及び「環状隙間」が存在することが,乙6文献の記
載それ自体から明確ではないとしても,乙6文献に開示されている形状
においてセンターシュートの周りで分級機を回転させようとする場合,
センターシュートの周りに同心状に回転筒を設け,センターシュートと
回転筒との間には環状隙間が存在するという構成は,乙6文献の刊行時
の前後において既に当業者の技術常識となっていたのであるから(乙3
9の1,乙53の1,乙58,乙59の1,乙60,乙69,乙89の
1),乙6文献に基づいて「回転筒」及び「環状隙間」が存在する構成
は技術常識から容易に導くことができる設計事項にすぎず,実質的に乙
6文献に開示されているといえる。
(エ)以上のとおり,乙6文献には,本件発明の構成要件AないしF及びI
が開示されているものといえる。
イ本件発明と乙6文献記載の技術との一致点及び相違点
(ア)一致点
本件発明と乙6文献記載の技術とは,回転テーブルと,この回転テー
ブル上に配置された回転テーブルの回転に伴って従動回転する複数個の
粉砕ローラとを有し,粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した
状態で垂直にセンターシュートが配設され,センターシュートの外側に
同心状に回転筒が回転可能に設けられ,この回転筒には放射状に配置さ
れたベーンが取付けられ,粉砕機内部が加圧雰囲気とされた回転式加圧
型セパレータをそなえた粉砕機である点(構成要件AないしF及びI)
において一致する。
(イ)相違点
本件発明と乙6文献記載の技術とは,本件発明が,回転筒下端から所
定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転
筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,この
隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端
から噴出するように構成しているのに対し,乙6文献記載の技術にはそ
のような構成の記載がない点(構成要件G及びH)において相違する。
ウ相違点についての検討
(ア)乙第7号証(米国特許第2981490号公報。以下「乙7公報」と
いう。)には,流路206及びパイプ216(構成要件Gの「空気導
管」に対応)が記載され,かかる流路をスリーブ127とリング状部材
202との間の環状隙間に接続することが記載されている。また,この
流路206及びパイプ216に加圧空気を吹き込むことにより,スリー
ブ127とリング状部材202との間の環状隙間に空気を流し,環状隙
間の下端から空気を噴出させることが記載されている(図6。別紙5−
2参照)。
(イ)乙7公報記載の技術を乙6文献のセンターシュート及び回転筒,並び
に両者の間の環状隙間(図4)に適用すれば,回転筒下端から所定距離
離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付けて回転筒と
センターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,この隙間
に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から
噴出させる構成(構成要件G及びH)を得ることができる。
(ウ)乙6文献記載の技術と乙7公報記載の技術とは,いずれも粉砕機分野
に係る技術であって,技術分野が同一である。
また,乙6文献記載の技術を実現しようとすれば,センターシュート
と回転筒との間の環状隙間に粉塵が侵入し,回転筒の円滑な回転が阻害
されるとの課題が生じる。乙7公報記載の技術は,上記課題を解決する
ことができる技術であるから,乙6文献記載の技術に乙7公報記載の技
術を組み合わせることには動機付けがある。
そして,乙6文献には,「圧力を加えた運転には,今まで使用してき
た構築を変更しなければならない。何故なら,ハウジングの中を貫通す
る揺動アームの気密封止が困難になるからである。全く新しい設計が生
じた(図2)。」と記載されており(乙6の112頁左欄20行ないし
23行。なお,訳文は乙90の3頁),加圧型粉砕機では回転部分と非
回転部分との隙間に粉塵が侵入するという課題が存在することが示唆さ
れている。かかる課題を解決するためにエアシール技術を用いることも
当業者の常識となっていた(乙9,10,22,乙53の1,乙68)。
したがって,乙6文献記載の技術において生じる課題を認識し,かか
る課題を解決するために乙7公報記載の技術を組み合わせることには,
動機付けがあったものといえ,当業者において,乙6文献記載の技術に
乙7公報記載の技術を組み合わせることは容易である。
(エ)以上によれば,本件発明は,乙6文献記載の技術及び乙7公報記載の
技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)無効理由2(乙第6号証と乙第8号証に基づく無効理由)について
ア乙6文献の記載内容,本件発明と乙6文献記載の技術との一致点,相違
点は,上記(1)ア及びイ記載のとおりである。
イ相違点についての検討
(ア)乙第8号証(特開昭57−90304号公報。以下「乙8公報」とい
う。)には,センターシュートの外側に外筒を設け,センターシュート
と外筒との間の環状空間に空気導管を連通させて空気を吹き込み下端か
ら噴出する構成が開示されている(図2。別紙5−3参照)。
(イ)乙8公報記載の技術を乙6文献のセンターシュート及び回転筒,並び
に両者の間の環状隙間(図4)に適用すれば,回転筒下端から所定距離
離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付けて回転筒と
センターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,この隙間
に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から
噴出させる構成(構成要件G及びH)を得ることができる。
(ウ)乙6文献記載の技術と乙8公報記載の技術とは,いずれも粉砕機分野
に係る技術であって,技術分野が同一であり,その構造においても,ミ
ルの中心に石炭を投入するシュートを設け,当該シュートの周りに分級
機を設けている点で類似している。
また,乙8公報記載の技術は,外筒とセンターシュートとの間の環状
空間に冷却用空気を吹き込むことによる,高温下で石炭がセンターシュ
ートに付着することの防止を主たる解決課題とする技術である。原料炭
の固着によりセンターシュートが閉塞するという課題は乙6文献のセン
ターシュートにも存在するから,乙6文献記載の技術と乙8公報記載の
技術とを組み合わせることには動機付けがある。
さらに,乙6文献記載の技術を実現しようとすれば,センターシュー
トと回転筒との間の環状隙間に粉塵が侵入し回転筒の円滑な回転が阻害
されるとの課題が生じる。乙8公報に「冷却空気の流れにより分級機1
2において分級された大径の粉砕炭が再度舞い上がることなく良好に粉
砕部に落下するという副次的効果も発揮する」(2頁左下欄9行ないし
12行)と記載されていることから明らかなように,乙8公報記載の技
術は,上記課題を解決し得るものであって,この点においても,乙6文
献記載の技術と乙8公報記載の技術とを組み合わせることには動機付け
がある。
そして,乙6文献には,加圧型粉砕機では回転部分と非回転部分との
隙間に粉塵が侵入するという課題が存在することが示唆されており,か
かる課題を解決するためにエアシール技術を用いることも当業者の常識
となっていた(乙9,10,22,乙53の1,乙68)。
したがって,乙6文献記載の技術において生じる課題を認識し,かか
る課題を解決するために乙8公報記載の技術を組み合わせることには,
動機付けがあったものといえ,当業者において,乙6文献記載の技術に
乙8公報記載の技術を組み合わせることは容易である。
(エ)以上によれば,本件発明は,乙6文献記載の技術及び乙8公報記載の
技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)無効理由3(乙第53号証の1と乙第7号証に基づく無効理由)について
ア乙第53号証の1(MITTEILUNGENDERVEREINIGUNGDERGROSSKESSELB
ESITZER〔1961年4月号〕。以下「乙53の1文献」という。)の記

(ア)乙53の1文献の第2図には,以下のとおり,構成要件AないしEに
相当する構成が記載されている(別紙5−4参照)。
a乙53の1文献には,「Loescheミル(図2),即ち,バネ・ロール
ミルは,ミルのサイズに応じて40−90rpmで回転する粉砕台から
なり,2つの大きい円錐形粉砕ローラーが粉砕台上を転動する。」旨
記載されており(124頁右欄18行以下),この記載と第2図とを
対比すれば,構成要件A及びBに相当する構成を理解することができ
る。
b第2図に原料となる石炭を投入するセンターシュートが開示されて
いることは,粉砕台との位置関係からも自明であり,構成要件Cに相
当する構成が開示されている。
c第2図には,環状隙間の下端に隙間が記載されており(乙53の2
〔第2図の拡大図〕),この部分に開口が存在することが開示されて
いる(乙59の1参照)。
これにより,回転筒がセンターシュートの外側に別部材として構成
されていることが分かり,構成要件Dに相当する構成を理解すること
ができる。
また,第2図における細部の記載を別にしても,本件特許出願時点
において,センターシュートの外側に回転筒を配設し,この回転筒に
分級機を設ける構成は,当業者の技術常識であった(乙39の1,5
8,乙59の1,乙60,69,乙89の1)から,第2図から,セ
ンターシュートの周りに回転筒が配設され両者の間に環状隙間が存在
する構造を,当業者が導くことができたことは明らかであり,構成要
件Dに相当する構成は乙53の1文献に開示されているに等しい。
d乙53の1文献には,「ミルのハウジング上に設置された分級機は
・・・近年,アメリカで普及した分級羽根を有する構造が使用されて
いる。」旨記載されており(125頁左欄13行以下),この記載と
第2図とを対比すれば,構成要件Eに相当する構成を理解することが
できる。
(イ)乙53の1文献には,「使用目的にもとづき,このミルは,その都度,
負圧(大気圧以下の圧力),半圧(大気圧付近の圧力),全圧(大気圧
以上の圧力)で運転する(図7)。」旨の記載があり(126頁右欄3
0行以下),また,「Loescheミルは,現在,全ての部位が完全に気圧
シールされているので,全圧(大気圧以上の圧力)の加圧ミルとしても
運転できる。」旨の記載がある(127頁左欄21行以下)。
したがって,本件発明の構成要件Fに相当する構成が開示されている。
(ウ)第2図のミルを加圧雰囲気下で運転することが記載されていること,
及び当該ミルが「回転分級機」を有するとされていることからすると
(125頁左欄35行以下),本件発明の構成要件Iに相当する構成も
開示されている。
(エ)以上のとおり,乙53の1文献には,本件発明の構成要件AないしF
及びIが開示されているものといえる。
イ本件発明と乙53の1文献記載の技術との一致点及び相違点
(ア)一致点
本件発明と乙53の1文献記載の技術とは,回転テーブルと,この回
転テーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴って従動回転する複
数個の粉砕ローラとを有し,粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位
置した状態で垂直にセンターシュートが配設され,センターシュートの
外側に同心状に回転筒が回転可能に設けられ,この回転筒には放射状に
配置されたベーンが取付けられ,粉砕機内部が加圧雰囲気とされた回転
式加圧型セパレータをそなえた粉砕機である点(構成要件AないしF及
びI)において一致する。
(イ)相違点
本件発明と乙53の1文献記載の技術とは,本件発明が,回転筒下端
から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付
けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通さ
せ,この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転
筒の下端から噴出するように構成しているのに対し,乙53の1文献記
載の技術にはそのような構成の記載がない点(構成要件G及びH)にお
いて相違する。
ウ相違点についての検討
(ア)乙7公報に記載されている技術内容は,上記(1)ウ(ア)記載のと
おりである。
(イ)乙7公報記載の技術を乙53の1文献記載の技術に適用すれば,回転
筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を
取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを
連通させ,この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,
回転筒の下端から噴出させる構成(構成要件G及びH)を得ることがで
きる。
(ウ)乙53の1文献記載の技術と乙7公報記載の技術とは,いずれも粉砕
機分野に係る技術であって,技術分野が同一である。
また,乙53の1文献記載の技術を実現しようとすれば,センターシ
ュートと回転筒との間の環状隙間に粉塵が侵入し,回転筒の円滑な回転
が阻害されるとの課題が生じる。乙7公報記載の技術は,上記課題を解
決することができる技術であるから,乙53の1文献記載の技術に乙7
公報記載の技術を組み合わせることには動機付けがある。
そして,乙53の1文献には,加圧型粉砕機では回転部分と非回転部
分との隙間に粉塵が侵入するという課題が存在することが示唆されてい
る。かかる課題を解決するためにエアシール技術を用いることも当業者
の常識となっていた(乙6,9,10,22,乙53の1,乙68)。
したがって,乙53の1文献記載のミルを加圧雰囲気下で運転する場
合において,センターシュートと回転筒との環状隙間に微粉が侵入し,
回転筒及びセンターシュートの摩耗が生じるという課題を認識し,かか
る課題を解決するために乙7公報記載の技術を組み合わせることには,
動機付けがあったものといえ,当業者において,乙53の1文献記載の
技術に乙7公報記載の技術を組み合わせることは容易である。
(エ)以上によれば,本件発明は,乙53の1文献記載の技術及び乙7公報
記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたもので
ある。
(4)無効理由4(乙第53号証の1と乙第8号証に基づく無効理由)について
ア乙53の1文献の記載内容,本件発明と乙53の1文献記載の技術との
一致点,相違点は,上記(3)ア及びイ記載のとおりである。
イ相違点についての検討
(ア)乙8公報に記載されている技術内容は,上記(2)イ(ア)記載のと
おりである。
(イ)乙8公報記載の技術を乙53の1文献記載の技術に適用すれば,回転
筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を
取付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連
通させ,この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,
回転筒の下端から噴出させる構成(構成要件G及びH)を得ることがで
きる。
(ウ)乙8公報記載の技術は,石炭粉砕機のセンターシュートに関するもの
であり,乙53の1文献記載の技術と技術分野が同一である。
また,乙8公報記載の技術は,センターシュートの壁面温度が高温と
なるとセンターシュートの閉塞を惹起することに鑑み,冷却用空気によ
りセンターシュートを冷却してセンターシュートの閉塞を防止するとい
う効果を奏するものである。乙53の1文献には,石炭の乾燥のため高
温のガスが用いられることが開示されているのであるから,センターシ
ュートの壁面温度が高温となることは自明であり(126頁右欄16行
以下),センターシュートの壁面温度が高温となりセンターシュートの
閉塞が生じるという乙8公報記載の技術と同一の課題が生じる。
さらに,乙53の1文献記載のミルを加圧雰囲気下で運転しようとす
れば,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に粉塵が侵入し回転
筒の円滑な回転が阻害されるとの課題が生じる。乙8公報に「冷却空気
の流れにより分級機12において分級された大径の粉砕炭が再度舞い上
がることなく良好に粉砕部に落下するという副次的効果も発揮する」
(2頁左下欄9行ないし12行)と記載されていることから明らかなよ
うに,乙8公報記載の技術は,上記課題を解決し得るものであって,こ
の点においても,乙53の1文献記載の技術と乙8公報記載の技術とを
組み合わせることには動機付けがある。
そして,乙53の1文献には,加圧型粉砕機では回転部分と非回転部
分との隙間に粉塵が侵入するという課題が存在することが示唆されてい
る。かかる課題を解決するためにエアシール技術を用いることも当業者
の常識となっていた(乙6,9,10,22,乙53の1,乙68)。
したがって,乙53の1文献記載のミルを加圧雰囲気下で運転する場
合において,センターシュートと回転筒との環状隙間に微粉が侵入し,
回転筒及びセンターシュートの摩耗が生じるという課題を認識し,かか
る課題を解決するために乙8公報記載の技術を組み合わせることには,
動機付けがあったものといえ,当業者において,乙53の1文献記載の
技術に乙8公報記載の技術を組み合わせることは容易である。
(エ)以上によれば,本件発明は,乙53の1文献記載の技術及び乙8公報
記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたもので
ある。
(5)無効理由5(乙第58号証と乙第7号証に基づく無効理由)について
ア乙第58号証(ドイツ実用新案第1699676号公報〔1955年5
月登録〕。以下「乙58公報」という。)の記載
(ア)乙58公報の図面には,構成要件AないしCに相当する構成が記載さ
れている(別紙5−5参照)。
(イ)乙58公報の図面には,落下管の外側に風力分級機(1)を固定する
部材が落下管と同心円状に配置されている。当該部材の上部に風力分級
機のベーンに回転駆動力を与えるためのギヤ及びこれと噛み合う三角形
の部材が記載されていることからすると,上記風力分級機を固定する部
材も回転することが明らかであり,構成要件Dに相当する構成も記載さ
れている。
なお,落下管を構成する部材(4)は上記風力分級機を固定する部材
とは別部材であり,図面の左上には部材(4)から左方向への水平線が
引かれており,部材(4)の高さを調整するためのものと思料されるハ
ンドルが記載されている。
(ウ)また,落下管の外側に配置された上記部材には風力分級機(1)が固
定され,また,この風力分級機は放射状に配置されたベーンによって構
成されているから,構成要件Eに相当する構成も記載されている。
(エ)乙58公報記載のミルが「風力分級機」を有するとされていることか
らすると(3頁16行目),構成要件Iのうち「回転式・・・セパレー
タをそなえた粉砕機」に相当する構成も記載されている。
(オ)以上のとおり,乙58公報には,本件発明の構成要件AないしE及び
構成要件Iのうち「回転式・・・セパレータをそなえた粉砕機」に相当
する構成が開示されているものといえる。
イ本件発明と乙58公報記載の技術との一致点及び相違点
(ア)一致点
本件発明と乙58公報記載の技術とは,回転テーブルと,この回転テ
ーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴って従動回転する複数個
の粉砕ローラとを有し,粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置し
た状態で垂直にセンターシュートが配設され,センターシュートの外側
に同心状に回転筒が回転可能に設けられ,この回転筒には放射状に配置
されたベーンが取付けられた構造を有する回転式セパレータをそなえた
粉砕機である点(構成要件AないしE及び構成要件Iのうち「回転式・
・・セパレータをそなえた粉砕機」)において一致する。
(イ)相違点
本件発明と乙58公報記載の技術とは,以下の点で相違する。
①本件発明は内部を加圧雰囲気とした粉砕機に関する技術であるのに
対し,乙58公報記載の技術には,粉砕機内部を加圧雰囲気にするこ
との記載がない点(相違点1)
②本件発明は,回転筒上部に空気導管を取付けて回転筒とセンターシ
ュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,加圧雰囲気よりも
高い所定圧力の空気を吹き込み回転筒の下端から噴出するように構成
しているのに対し,乙58公報には,そのような構成の記載がない点
(相違点2)
③本件発明は,回転式加圧型セパレータをそなえたミルに関する技術
であるのに対し,乙58公報記載の技術は,回転式分級機を備えたミ
ルに関する技術である点(相違点3)
ウ相違点についての検討
(ア)相違点1について
乙58公報には,粉砕機内部を加圧雰囲気として運転するか,あるい
は負圧雰囲気として運転するかについて明確な記載がない。
しかしながら,本件特許の出願時点において,シールを強化すること
によりミル内部を加圧雰囲気として運転する構成は周知の技術常識だっ
たのであるから(乙53の1,乙6,22),当該構成の採用は必要に
応じて当業者が任意に定めることができる単なる設計上の選択事項に過
ぎない。
よって,当業者は,相違点1に係る本件発明の構成を,乙58公報の
記載及び本件特許の出願時点における技術常識から容易に推考すること
ができた。
(イ)相違点2について
a乙7公報に記載されている技術内容は,上記(1)ウ(ア)記載の
とおりである。
b乙7公報記載の技術を乙58公報記載の技術に適用すれば,回転筒
上部に空気導管を取付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙
間と送風装置とを連通させ,加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を
吹き込み回転筒の下端から噴出させる構成が得られる。
c乙58公報記載の技術と乙7公報記載の技術とは,いずれも粉砕機
分野に係る技術であって,技術分野が同一である。
また,乙58公報記載のミルを内部を加圧雰囲気とした状態で運転
しようとすれば,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に粉塵
が侵入し,回転筒の円滑な回転が阻害されるとの課題が生じる。乙7
公報記載の技術は,上記課題を解決することができる技術であるから,
乙58公報記載の技術に乙7公報記載の技術を組み合わせることには
動機付けがある。
そして,加圧型粉砕機では回転部分と非回転部分との隙間に粉塵が
侵入するという課題が存在すること,かかる課題を解決するためにエ
アシール技術を用いることは,本件特許の出願時点で当業者の常識と
なっていた(乙6,9,10,22,乙53の1,乙68)。
したがって,乙58公報記載のミルを加圧雰囲気下で運転する場合
において,センターシュートと回転筒との環状隙間に微粉が侵入し,
回転筒及びセンターシュートの摩耗が生じるという課題を認識し,か
かる課題を解決するために乙7公報記載の技術を組み合わせることに
は,動機付けがあったものといえ,当業者において,乙58公報記載
の技術に乙7公報記載の技術を組み合わせることにより,相違点2に
係る本件発明の構成を容易に推考することができた。
(ウ)相違点3について
粉砕機内部を加圧雰囲気とする構成は当業者が任意に定めることがで
きる設計上の選択事項にすぎない。
当業者において,乙58公報記載の技術を実施するに当たり,粉砕機
内部を加圧雰囲気として運転する構成を採用することは容易であって,
相違点3に係る本件発明の構成を容易に推考することができた。
(エ)以上によれば,本件発明は,乙58公報記載の技術及び乙7公報記載
の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6)無効理由6(乙第58号証と乙第8号証に基づく無効理由)について
ア乙58公報の記載内容,本件発明と乙58公報記載の技術との一致点,
相違点は,上記(5)ア及びイ記載のとおりである。
イ相違点についての検討
(ア)相違点1については,上記(5)ウ(ア)記載のとおりである。
(イ)相違点2について
a乙8公報に記載されている技術内容は,上記(2)イ(ア)記載の
とおりである。
b乙8公報記載の技術を乙58公報記載の技術に適用すれば,回転筒
上部に空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状
隙間と送風装置とを連通させ,加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気
を吹き込み回転筒の下端から噴出させる構成が得られる。
c乙8公報記載の技術は,石炭粉砕機のセンターシュートに関するも
のであり,乙58公報記載の技術と技術分野が同一である。
また,乙8公報記載の技術は,センターシュートの壁面温度が高温
となるとセンターシュートの閉塞を惹起することに鑑み,冷却用空気
によりセンターシュートを冷却してセンターシュートの閉塞を防止す
るという効果を奏するものである。乙58公報記載のミルも石炭の粉
砕乾燥工程において駆動されることが予定されており,乾燥のため高
温のガスが用いられることが予定されているのであるから,センター
シュートの壁面温度が高温となることは自明であり(5頁2行以下),
センターシュートの壁面温度が高温となりセンターシュートの閉塞が
生じるという乙8公報記載の技術と同一の課題が生じる。
さらに,乙58公報記載の粉砕機を,粉砕機内部を加圧雰囲気とし
て運転するという設計上の選択肢を当業者が採用した場合,隙間部分
をシールする必要がある。乙8公報記載の技術は,環状空間の下端開
口部から冷却用空気を噴出させることによって粉砕炭を粉砕部に落下
させるという副次的効果をも奏するものであるから(2頁左下欄9行
ないし12行),環状隙間のシールという効果は,乙8公報記載の技
術においても当然に得られる。そして,環状隙間への微粒子の侵入を
阻止すれば,「センターシュート外周面と回転筒内周面の微粒子によ
る摩耗損傷を阻止できるとともに,回転筒の円滑な回転運動を確保す
ることができる。」という本件発明の効果も,自然と達成される。こ
の点においても,乙58公報記載の技術と乙8公報記載の技術とを組
み合わせることには動機付けがある。
そして,乙58公報記載の粉砕機を,粉砕機内部を加圧雰囲気とし
て運転するという設計上の選択をした場合,隙間部分をシールする必
要があること,シールの一つの方法としてエアシールの技術があるこ
とは,本件特許の出願時点で当業者の常識となっていた(乙6,9,
10,22,乙53の1,乙68)。
したがって,乙58公報記載の技術を実施するに当たり,粉砕機内
部を加圧雰囲気下で運転する場合において,落下管と風力分級機を固
定する部材との環状隙間に微粉が侵入し,落下管及び風力分級機の固
定部材の摩耗が生じるという課題を認識し,かかる課題を解決するた
めに乙8公報記載の技術を組み合わせることには,動機付けがあった
ものといえ,当業者において,乙58公報記載の技術に乙8公報記載
の技術を組み合わせることにより,相違点2に係る本件発明の構成を
容易に推考することができた。
(ウ)相違点3については,上記(5)ウ(ウ)記載のとおりである。
(エ)以上によれば,本件発明は,乙58公報記載の技術及び乙8公報記載
の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(7)無効理由7(乙第59号証の1と乙第7号証に基づく無効理由)について
ア乙第59号証の1(BrennstoffWärmeKraft11〔1959年8月号〕。
以下「乙59の1文献」という。)の記載
(ア)第8図にはロプルコミルの構造が記載されている。乙59の1文献中
には「従来型では2基であったローラーを3基とした。図8は二重分級機
をローラーの上に設置した状態も示す。」(383頁左欄29行以下)
旨記載されており,かかる本文の記載と第8図の記載とを参酌すれば,
第8図に記載された各部材が構成要件A及びBに相当する構成であると
理解することができる(別紙5−6参照)。
(イ)乙59の1文献中には,「石炭流入口を中央に移し」(383頁左欄
28行以下)との旨の記載があり,当該記載と第8図の記載とを参酌す
れば,第8図にはセンターシュート(構成要件Cに相当する構成)が開
示されていることが分かる(乙69参照)。
(ウ)ミルの中央に配置されたセンターシュートの周りに,これと明らかに
別の部材としてセンターシュートと同心状に筒状の部材(第8図の拡大
図である乙59の2参照)が配置されている。
そして,当該筒状の部材の上部には回転運動の駆動力を与えるための
駆動装置及びベルトが配置されており,これによって与えられた回転の
駆動力を分級羽根(乙69参照)に伝達するため,上記筒状の部材は全
体として回転することが明らかであるから,乙59の1文献には,構成
要件Dに相当する構成が記載されている。
(エ)第8図には,上記回転部材に「二重分級機」(383頁左欄33行)
が取り付けられている旨が記載されていること(乙69参照)からすれ
ば,当該部材が構成要件Eに相当するものであることを確認することが
できる。
(オ)以上によれば,乙59の1文献には回転する分級羽根が明確に記載さ
れているから,構成要件Iのうち「回転式・・・セパレータをそなえた
粉砕機」に相当する構成も記載されている。
イ本件発明と乙59の1文献記載の技術との一致点及び相違点
(ア)一致点
本件発明と乙59の1文献記載の技術とは,回転テーブルと,この回
転テーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴って従動回転する複
数個の粉砕ローラとを有し,粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位
置した状態で垂直にセンターシュートが配設され,センターシュートの
外側に同心状に回転筒が回転可能に設けられ,この回転筒には放射状に
配置されたベーンが取り付けられた構造を有する回転式セパレータをそ
なえた粉砕機である点(構成要件AないしE及び構成要件Iのうち「回
転式・・・セパレータをそなえた粉砕機」)において一致する。
(イ)相違点
本件発明と乙59の1文献記載の技術とは,以下の点で相違する。
①本件発明は内部を加圧雰囲気とした粉砕機に関する技術であるのに
対し,乙59の1文献記載の技術は,内部を負圧雰囲気とした粉砕機
に関する技術である点(相違点1)
②本件発明は,回転筒上部に空気導管を取付けて回転筒とセンターシ
ュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,加圧雰囲気よりも
高い所定圧力の空気を吹き込み回転筒の下端から噴出するように構成
しているのに対し,乙59の1文献には,そのような構成の記載がな
い点(相違点2)
③本件発明は,回転式加圧型セパレータをそなえたミルに関する技術
であるのに対し,乙59の1文献記載の技術は,回転式負圧型分級機
を備えたミルに関する技術である点(相違点3)
ウ相違点についての検討
(ア)相違点1について
乙59の1文献記載の技術は,粉砕機内部を負圧雰囲気として運転す
るものである。
一方,本件特許の出願時点において,負圧型ミルにおける回転部分と
固定部分との間のシールを強化することによって,当該ミルを加圧型ミ
ルにすることができることは当業者の常識となっていた(乙6,9,2
2,乙53の1,乙68)。
上記技術常識からすれば,シールの強化により乙59の1文献記載の
負圧型ミルを加圧型ミルに転用することは,当業者が容易に想到しうる
設計事項にすぎない。
よって,当業者は,相違点1に係る本件発明の構成を,乙59の1文
献の記載及び本件特許の出願時点における技術常識から容易に推考する
ことができた。
(イ)相違点2について
a乙7公報に記載されている技術内容は,上記(1)ウ(ア)記載の
とおりである。
b乙7公報記載の技術を乙59の1文献記載の技術に適用すれば,回
転筒上部に空気導管を取付けて回転筒とセンターシュートとの間の環
状隙間と送風装置とを連通させ,加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空
気を吹き込み回転筒の下端から噴出させる構成が得られる。
c乙59の1文献記載の技術と乙7公報記載の技術とは,いずれも粉
砕機分野に係る技術であって,技術分野が同一である。
また,乙59の1文献記載の負圧型ミルを加圧型ミルに転用した場
合,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に粉塵が侵入し,回
転筒の円滑な回転が阻害されるとの課題が生じる。乙7公報記載の技
術は,上記課題を解決することができる技術であるから,乙59の1
文献記載の技術に乙7公報記載の技術を組み合わせることには動機付
けがある。
そして,加圧型粉砕機では回転部分と非回転部分との隙間に粉塵が
侵入するという課題が存在すること,かかる課題を解決するためにエ
アシール技術を用いることは,本件特許の出願時点で当業者の常識と
なっていた(乙6,9,10,22,乙53の1,乙68)。
したがって,乙59の1文献記載のミルを加圧雰囲気下で運転する
場合において,センターシュートと回転筒との環状隙間に微粉が侵入
し,回転筒及びセンターシュートの摩耗が生じるという課題を認識し,
かかる課題を解決するために乙7公報記載の技術を組み合わせること
には,動機付けがあったものといえ,当業者において,乙59の1文
献記載の技術に乙7公報記載の技術を組み合わせることにより,相違
点2に係る本件発明の構成を容易に推考することができた。
(ウ)相違点3について
粉砕機のシールを強化し,加圧型ミルとして運転することは,当業者
が任意に定めることができる設計上の選択事項にすぎない。
当業者において,乙59の1文献記載の技術を実施するに当たり,粉
砕機のシールを強化し,加圧型ミルとして運転することは容易であって,
相違点3に係る本件発明の構成を容易に推考することができた。
(エ)以上によれば,本件発明は,乙59の1文献記載の技術及び乙7公報
記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたもので
ある。
(8)無効理由8(乙第59号証の1と乙第8号証に基づく無効理由)について
ア乙59の1文献の記載内容,本件発明と乙59の1文献記載の技術との
一致点,相違点は,上記(7)ア及びイ記載のとおりである。
イ相違点についての検討
(ア)相違点1については,上記(7)ウ(ア)記載のとおりである。
(イ)相違点2について
a乙8公報に記載されている技術内容は,上記(2)イ(ア)記載の
とおりである。
b乙8公報記載の技術を乙59の1文献記載の技術に適用すれば,回
転筒上部に空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の
環状隙間と送風装置とを連通させ,加圧雰囲気よりも高い所定圧力の
空気を吹き込み回転筒の下端から噴出させる構成が得られる。
c乙8公報記載の技術は,石炭粉砕機のセンターシュートに関するも
のであり,乙59の1文献記載の技術と技術分野が同一である。
また,乙8公報記載の技術は,センターシュートの壁面温度が高温
となるとセンターシュートの閉塞を惹起することに鑑み,冷却用空気
によりセンターシュートを冷却してセンターシュートの閉塞を防止す
るという効果を奏するものである。乙59の1文献記載のミルも,乙
59の1文献中に「石炭の水分含有量が非常に高く,バンカーから粉
砕装置への石炭供給パイプが詰まりやすい可能性を考慮しなければな
らない」旨記載されていること(383頁左欄45行以下),水分含
有量が高い物質をミルで粉砕する場合には高温の乾燥用空気を用いる
必要があるという技術常識(乙69)に照らせば,センターシュート
の壁面温度が高温となりセンターシュートの閉塞が生じるという乙8
公報記載の技術と同一の課題が生じる。
さらに,乙59の1文献記載の負圧型ミルを加圧型ミルに転用した
場合,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に粉塵が侵入し回
転筒の円滑な回転が阻害されるとの課題が生じる。乙8公報記載の技
術は,環状空間の下端開口部から冷却用空気を噴出させることによっ
て粉砕炭を粉砕部に落下させるという副次的効果をも奏するものであ
るから(2頁左下欄9行ないし12行),上記課題を解決しうるもの
である。環状隙間への微粒子の侵入を阻止すれば,「センターシュー
ト外周面と回転筒内周面の微粒子による摩耗損傷を阻止できるととも
に,回転筒の円滑な回転運動を確保することができる。」という本件
発明の効果も,自然と達成される。
そして,乙59の1文献記載の負圧型ミルを加圧型ミルに転用した
場合,隙間部分をシールする必要があること,シールの一つの方法と
してエアシールの技術があることは,本件特許の出願時点で当業者の
常識となっていた(乙6,9,10,22,乙53の1,乙68)。
したがって,乙59の1文献記載のミルを加圧雰囲気下で運転する
場合において,センターシュートと回転筒との環状隙間に微粉が侵入
し,センターシュート及び回転筒の摩耗が生じるという課題を認識し,
かかる課題を解決するために乙8公報記載の技術を組み合わせること
には,動機付けがあったものといえ,当業者において,乙59の1文
献記載の技術に乙8公報記載の技術を組み合わせることにより,相違
点2に係る本件発明の構成を容易に推考することができた。
(ウ)相違点3については,上記(7)ウ(ウ)記載のとおりである。
(エ)以上によれば,本件発明は,乙59の1文献記載の技術及び乙8公報
記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたもので
ある。
(9)無効理由9(昭和62年改正前特許法36条4項違反の無効理由)につい

本件発明の構成要件Gの「所定距離」が具体的にどの程度の距離であるの
か明確ではなく,本件明細書中にはその意義を特定し得る記載はない。
したがって,本件特許の請求項の記載は,発明の構成に欠くことができな
い事項を記載したものとはいえず,本件特許は,昭和62年改正前特許法3
6条4項の要件を充たさない。
(10)無効理由10(昭和62年改正前特許法36条3項違反の無効理由)につい

ア当業者が本件発明を実施するためには,構成要件Gの「所定距離」が具
体的にどの程度の距離であるかを特定する必要がある。
しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても,こ
れを特定し得ない。
したがって,本件特許は,発明の詳細な説明の記載を参酌しても当業者
において実施することができないものである。
イ構成要件Gの記載は,空気導管を回転筒それ自体に取り付けることを意
味するものの,上記構成を取ると,本件発明の作用効果を奏することは不
可能である。
発明の詳細な説明を参酌しても,高速で回転する回転筒に具体的にどの
ような方法で空気導管を取り付ければよいのか,その方法につき十分な開
示がなく,本件発明の作用効果を生じることが可能な構成は発明の詳細な
説明にも開示されていない。
したがって,この点においても,本件特許は,発明の詳細な説明の記載
を参酌しても当業者において実施することができないものである。
ウ以上のとおり,本件特許は,発明の詳細な説明を参酌しても実施不可能
なものであるから,当業者が容易に実施することができる程度に記載され
たものとはいえず,昭和62年改正前の特許法36条3項の要件を充たさ
ない。
〔原告の主張〕
本件特許は,以下のとおり,特許無効審判により無効にされるべきものであ
るとは認められない。
(1)無効理由1(乙第6号証と乙第7号証に基づく無効理由)について
ア乙6文献の記載について
(ア)被告は,乙6文献の図4に記載された分級機が,加圧式及び負圧式ミ
ルのいずれにも搭載可能であるかのように主張する。
しかしながら,乙6文献中には,図4記載の分級機が加圧式ミルにも
搭載可能なものである旨の記載は一切ない。乙6文献の図4と図2とは,
全く別の構造であるにも関わらず,被告は乙6文献中にある「加圧ミ
ル」に関する記載と「回転式分級装置」に関する記載を組合せ,あたか
も図4が「加圧ミル」において「回転式分級装置」が使用されている例
であるかのように主張しているにすぎない。
乙6文献中の「加圧動作用には,ハウジングを通って案内される揺動
レバーのシーリングが困難になることがあるので,従来から使用されて
いる構造を変更する必要があった。それは全面的に新たな構造になった
[図2]。」旨の記載があり(甲11の2頁),加圧式ミルと記載され
ているのは,明らかに「図2」のミルでしかない。この「図2」に記載
されている分級装置は,回転式の分級機ではなく,固定式分級機である
ことは,図面自体から明らかである。
このことは,乙6文献中の「上記のロール・ミルは2つの分級装置,
すなわちフラップ遠心分級装置[図2],または回転式分級装置[図
4]を備えることができる。回転式分級装置は急峻な粒度特性曲線を有
する優れた分級効果を有している。この曲線は無段階の回転数調整によ
って粗調整または微調整範囲にシフトすることができる。分級装置は,
極めて均一な,または微細な完成した粉炭が必要な場合は常に使用され
る。吹き込み式ミル用にはほとんどの場合フラップ遠心分級装置で充分
である。分級装置は構造が簡単で,保守は必要ない。」旨の記載(甲1
1の3頁)からも分かる。すなわち,上記記載において,「フラップ遠
心分級装置[図2]」と「回転式分級装置[図4]」とを明確に分け,
図2のものを「フラップ遠心分級装置」とし,図4のものを「回転式分
級装置」としており,「吹き込み式ミル用」には「フラップ遠心分級装
置で充分」としている。吹き込み式ミルとは,粉砕した石炭を直接燃焼
装置に吹き込むミルを示し,加圧式ミルは吹き込み式のミルに使用され
る。乙6文献の記載は,加圧式ミルには「フラップ遠心分級装置」すなわ
ち固定式のベーンをもつ分級装置で充分であるとし,加圧式のミルを示
す図2のミルには,当該記載のとおり固定式分級装置が示されている。
乙6文献においては,図4の「回転式分級装置」は,負圧式に適用す
ることを記載しているにすぎず,加圧式ミルには固定式分級装置で充分
であるという本件発明とは反対の示唆をしているのである。
したがって,乙6文献の開示内容から,図2に示す加圧式ミルの固定
式分級装置に代えて,図4に示す回転式分級機を使用しようとする必要
性が存在しない。
(イ)乙6文献には,センターシュートと分級装置が相互に分離して相対的
に回転することはどこにも記載されていない。
むしろ,上記のとおり,「構造が簡単で保守が必要ない」としている
ことから分かるとおり,センターシュートと回転羽根部分が分離して相
対的に回転するような複雑な仕組みではないことが理解される。
(ウ)以上のとおり,乙6文献には,①図2に加圧式のミルの記載はあるも
のの,そのミルに用いられているのは,固定ベーンを用いた固定式分級
機であること,②図4に回転分級機の記載はあるものの,それは負圧式
ミルに用いられるものであること,③図4のミルはセンターシュートと
分級装置とが相互に分離して相対的に回転するものであることについて
の記載がないこと,しか開示されていない。
イ本件発明と乙6文献記載の技術との相違点について
(ア)乙6文献には,本件発明の構成要件のうち,「センターシュートの外
側に同心状に回転筒を回転可能に設け」(構成要件D),「回転筒には
放射状に配置されたベーンを取り付け」(構成要件E),「粉砕機内部
を加圧雰囲気」(構成要件F),「回転筒下端から所定距離離れた上方
位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付けて回転筒とセンターシ
ュートとの間の環状隙間と送風装置を連通」(構成要件G),「この隙
間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端か
ら噴出する」(構成要件H),「回転式加圧型セパレータを備えた粉砕
機」(構成要件I)のいずれも記載されていない。
(イ)したがって,乙6文献記載の技術には,本件発明の「粉砕機内部は加
圧雰囲気であるため粉砕機上部中心部より垂下する固定のセンターシュ
ートとその周りに同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒との
隙間に別粉(判決注・「微粉」の誤記と認める。)が侵入し固着発達し
て回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒
内周面が摩耗して損傷する」(本件明細書1頁2欄13行ないし19
行)という課題が生じることはないから,構成要件G及びHによって,
回転筒とセンターシュートとの隙間に高い圧力空気を吹き込むことによ
り,「下方の粉砕部から粉砕された微粒子を多量に含んだガス流が真上
に上昇してきて該隙間(センターシュートと回転筒の隙間)下端開口か
ら侵入しようとしても,微粒子は確実に吹き飛ばされ,その侵入が確実
に阻止される。従って,センターシュートの外周面や回転筒の内周面に
摩耗による損傷を与えることもなく,また回転筒の円滑な回転を阻害す
ることもない」(本件明細書2頁4欄37行ないし43行)とする構成
を想到するはずはない。
ウ乙6文献と乙7公報との組合せによる容易想到性について
(ア)乙7公報の記載
a乙7公報記載の技術は,インパクタと呼ばれる「破砕機」であり本
件発明の「粉砕機」とは技術分野が全く異なる。すなわち,乙7に開
示された「破砕機」とは,図4から分かるように,回転プレート56
の上にシュート72によって破砕物を斜め上から供給し,遠心力で飛
ばしてターゲット62,64にぶつけて「破砕」する構造であり,本
件発明の「センターシュート」も,その「外側に同心状に回転筒を設
けた」構造も存在しない。しかも,加圧雰囲気下で使用されるもので
はないから,粉塵が回転筒の間隙に常に吹き込むような構造でもなく,
本件発明の粉砕機とは作用も構造も全く異なるものである。
被告が主張する図6のシール部分は,装置の内外の境界に設けられ,
粉塵が装置外部に洩れないように装置内部と外部とを遮断するための
軸方向に狭い範囲をシールすることによって,シール部分とそれ以外
の部分を遮断する技術である(乙7の7欄41行ないし61行)。
このような構造は,本件発明のようなセンターシュートと回転筒と
の関係における課題,解決手段とは異なる技術である。
b乙7公報記載の技術は,漏洩防止用のシールであるから,シール部
分の長さは軸方向に極めて短いものにすぎない。本件発明の粉砕機の
ように,センターシュートと回転筒という上下方向にある程度の長さ
を必要とする円筒部分が相対的に回転する構造を全く想定していない。
c以上のとおり,乙7公報には,「センターシュートの外側に同心状
に回転筒を回転可能に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に
配置されたベーンを取り付け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧
雰囲気」(構成要件F)との構成はなく,全く一致しない。
また,乙7公報記載の技術において回転するのは内側の中実状のス
リーブ127であり,外側のリング202は回転せず,空気導管は固
定されたリング202側に設けられている。すなわち,「隙間」があ
っても「回転筒とセンターシュートとの環状隙間」ではないから,
「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空
気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送
風装置を連通」(構成要件G)との構成とも一致しない。
さらに,乙7公報記載の技術における「隙間」は,「回転筒とセン
ターシュートとの環状隙間」ではないから,「この隙間に加圧雰囲気
よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出する」
(構成要件H)との構成とも一致せず,「回転式加圧型セパレータを
備えた粉砕機」(構成要件I)との構成も備えていない。
(イ)乙6文献と乙7公報との組合せについて
乙7公報には,上記のとおり,構成要件DないしIのいずれの構成も
記載されていないから,乙6文献記載の技術に乙7公報記載の技術をい
かに組み合わせても,本件発明に想到することはない。
(2)無効理由2(乙第6号証と乙第8号証に基づく無効理由)について
ア乙8公報の記載
(ア)乙8公報に開示された技術は,本件発明や乙6文献記載の技術の「ロ
ーラミル」とは異なるいわゆる「ボールミル」において,センターシュ
ートの壁面が高温になることを防止するための技術である。
「ボールミル」では,センターシュートを粉砕テーブル直上まで伸ば
すようになっていて,センターシュートの壁面温度が高くなるので,セ
ンターシュートを冷却するため,二重管構成として冷却用の空気を流す
ようになっている。
したがって,本件発明とは,課題,目的,解決手段,作用効果のいず
れも相違する。
(イ)乙8公報記載の技術は,シュート8の外側に設けられた外筒17が回
転する構造ではないから,外筒17の回転が阻害される,という本件発
明が解決しようとする課題が存在しない。
乙8公報の「この発明の目的は上述した従来技術の問題点を除去し,
原料炭の閉塞が生じない竪型のボールミルを提供する」(2頁左上欄6
行ないし8行)との記載は,環状隙間の閉塞を問題にしているのではな
く,シュート内部に原料炭が付着してシュート自体が閉塞することを問
題にしており,そのような閉塞がシュートを冷却することで防止できる
としているのであって,本件発明とは意味内容が全く異なる。
(ウ)乙8公報記載の技術は,センターシュートの外側に同心状に回転筒を
回転可能に設けたものではないから,本件発明と乙6文献記載の技術と
の相違点に係る構成は開示されていない。
(エ)乙8公報には,加圧型ミルは開示されていない。
(オ)乙8公報には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可
能に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを
取り付け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件
F)との構造はなく,全く一致しない。
また,乙8公報にある「隙間」は,冷却用のものであって「回転筒と
センターシュートとの環状隙間」ではないから,「回転筒下端から所定
距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付けて回転
筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を連通」(構成要件
G)とも一致しない。
さらに,乙8公報にある「隙間」には冷却空気を導入するだけである
から,「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,
回転筒の下端から噴出する」(構成要件H)とも一致しないし,「回転
式加圧型セパレータを備えた粉砕機」(構成要件I)とも一致しない。
イ乙6文献と乙8公報との組合せについて
(ア)乙6文献には,センターシュートが高温になってセンターシュートの
内面に石炭が付着するなどという課題は全く示唆されていない。
そもそも,乙6文献記載のローラミルでは,センターシュートは粉砕
ローラと干渉しないように,粉砕テーブルよりもはるかに高い位置に設
けられるので,センターシュートを冷却する必要自体がない。
乙8公報の「冷却空気の流れにより分級機12において分級された大
径の粉砕炭が再度舞い上がることなく良好に粉砕部に落下する」という
記載は,本件発明のように,微紛が環状隙間に吹き込むことを想定した
ものではない。
以上のとおり,乙6文献記載の技術に,乙8公報記載の技術を組み合
わせる動機付けは存在しない。
(イ)当業者において,何の理由もなく,負圧型ミルを加圧型に適用しよう
とすることはない。
乙8公報記載の技術は,センターシュートを冷却するために,センタ
ーシュートを二重管にし,その間に冷却用の空気を流す技術である。こ
のような構成を本件発明のような加圧型ミルに適用することはできない
から,仮に,乙6文献の図2のミルが加圧型ミルであったとしても,こ
れに乙8公報記載の技術を組み合わせることはできない。
加圧型ミルは,粉砕された石炭を,粉砕部から吹き込んだ熱空気によ
りまず乾燥させ,次いで,同空気で微粉炭を気流搬送し,直接ボイラに
吹き込むシステムに使用されるので,ミル運転がボイラ運転に連動する
必要があり,ボイラ運転の負荷変動に対する追従が要求される。また,
燃焼の際の燃焼温度を高温とするため,加圧型ミルにおいては,一次空
気以外の空気をミル内に挿入することは,好ましくないものとしてでき
る限り排除する必要がある。このように,ミル内への熱乾燥用の空気以
外のエアー(特に冷却エアー)の導入がミル運転にとって好ましくない
ことは,乙8公報記載の技術を加圧型ミルに適用する場合の決定的な阻
害要因となる。
(ウ)乙8公報には,上記のとおり,構成要件DないしIのいずれの構成も
記載されていないから,乙6文献記載の技術に乙8公報記載の技術をい
かに組み合わせても,本件発明に想到することはない。
(3)無効理由3(乙第53号証の1と乙第7号証に基づく無効理由)について
ア乙53の1文献の記載
乙53の1文献の第2図は,センターシュートの外側の垂直線による外
形線のみが記載され,しかもその先端が途中で切れたような記載となって
いる,通常の製図法によらない図であり,このような記載ではどのような
構造を示したものであるのか全く不明である。
また,第2図には,センターシュートと分級装置が本件発明のように相
互に分離して相対的に回転することなどは記載されていない。
上記第2図のように正確さの期待できない図面の部分の記載によって,
詳細な構造を特定しようとする被告の主張には無理がある。
イ本件発明と乙53の1文献記載の技術との相違点について
(ア)乙53の1文献には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を
回転可能に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベ
ーンを取り付け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成
要件F),「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡
された空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙
間と送風装置を連通」(構成要件G),「この隙間に加圧雰囲気よりも
高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出する」(構成要
件H),「回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機」(構成要件I),
のいずれも記載されていない。
(イ)したがって,乙53の1文献記載の技術には,本件発明の「粉砕機内
部は加圧雰囲気であるため粉砕機上部中心部より垂下する固定のセンタ
ーシュートとその周りに同心円状に配設され回転するセパレータの回転
筒との隙間に別粉(判決注・「微粉」の誤記と認める。)が侵入し固着
発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や
回転筒内周面が摩耗して損傷する」(本件明細書1頁2欄13行ないし
19行)という課題が生じることはないから,構成要件G及びHによっ
て,回転筒とセンターシュートとの隙間に高い圧力空気を吹き込むこと
により,「下方の粉砕部から粉砕された微粒子を多量に含んだガス流が
真上に上昇してきて該隙間(センターシュートと回転筒の隙間)下端開
口から侵入しようとしても,微粒子は確実に吹き飛ばされ,その侵入が
確実に阻止される。従って,センターシュートの外周面や回転筒の内周
面に摩耗による損傷を与えることもなく,また回転筒の円滑な回転を阻
害することもない」(本件明細書2頁4欄37行ないし43行)とする
構成を想到するはずはない。
ウ乙53の1文献と乙7公報との組合せによる容易想到性について
乙7公報には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能
に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを取り
付け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F),
「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導
管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を
連通」(構成要件G),「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空
気を吹き込み,回転筒の下端から噴出する」(構成要件H),「回転式加
圧型セパレータを備えた粉砕機」(構成要件I),のいずれも記載されて
いないのであり,記載のないもの同士をいかに組み合わせても,本件発明
に想到することはない。
エ技術常識との主張について
被告は,証拠(乙6,58,乙59の1,乙60,69,乙89の1)
を参照すれば,センターシュートの周りに同心状に回転筒を設け,センタ
ーシュートと回転筒との間に環状隙間が存在するという構成は,直ちに導
くことができる旨主張する。
しかしながら,被告の上記主張は,乙53の1文献に記載のないものを
記載があることとして解釈せよ,というに等しいものであり,失当である。
(4)無効理由4(乙第53号証の1と乙第8号証に基づく無効理由)について
ア乙8公報には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能
に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを取り
付け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F),
「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導
管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を
連通」(構成要件G),「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空
気を吹き込み,回転筒の下端から噴出する」(構成要件H),「回転式加
圧型セパレータを備えた粉砕機」(構成要件I),のいずれも記載されて
いないのであり,記載のないもの同士をいかに組み合わせても,本件発明
に想到することはない。
イ乙53の1文献と乙8公報との組合せによる容易想到性について
被告は,乙53の1文献記載の技術には,石炭の乾燥のため高温のガス
が用いられることが開示されているのであるから,センターシュートの壁
面温度が高温となることは自明であり,センターシュートの壁面温度が高
温となりセンターシュートの閉塞が生じるという乙8公報記載の技術と同
一の課題が生じる旨主張する。
しかしながら,乙53の1文献には,センターシュートが高温になって
センターシュートの内面に石炭が付着するなどという課題は一切示唆され
ていないし,当業者の技術常識から見ても,そのような問題が存在すると
は考えられない。
乙53の1文献記載のローラミルでは,センターシュートは粉砕ローラ
と干渉しないように粉砕テーブルよりもはるかに高い位置にもうけられる
ので,センターシュート先端付近では,搬送空気は既にかなりの低温とな
る。このため,センターシュートを冷却する必要自体がない。
以上のとおり,乙53の1文献記載の技術に,乙8公報記載の技術を組
み合わせる動機付けはない。
(5)無効理由5(乙第58号証と乙第7号証に基づく無効理由)について
ア乙58公報の記載
被告は,乙58公報には「回転式の分級装置」が開示されている旨主張
する。
しかしながら,乙58公報記載の技術は固定式の分級装置であり,負圧
型のミルである。
乙58公報には,その分級機について,「回転分級機」であることなど,
一言も記載されていないし,図面上も回転分級機であると解釈する根拠は
見当たらない。
被告の主張は,乙58公報の図面上部にギアが存在することに基づくも
のの,このギアは筒4を上下させるためのものである。被告の主張は,乙
58公報の図面に明確に記載された右上の筒4に設けられたスリットとピ
ンの図を全く無視しようとするものである。
イ本件発明と乙58公報記載の技術との相違点
乙58公報には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可
能に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを取
り付け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F),
「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導
管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を
連通」(構成要件G),「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空
気を吹き込み,回転筒の下端から噴出する」(構成要件H),「回転式加
圧型セパレータを備えた粉砕機」(構成要件I),のいずれも記載されて
いない。
ウ乙58公報と乙7公報との組合せによる容易想到性について
乙7公報には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能
に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを取り
付け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F),
「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導
管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を
連通」(構成要件G),「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空
気を吹き込み,回転筒の下端から噴出する」(構成要件H),「回転式加
圧型セパレータを備えた粉砕機」(構成要件I),のいずれも記載されて
いないのであり,記載のないもの同士をいかに組み合わせても,本件発明
に想到することはない。
(6)無効理由6(乙第58号証と乙第8号証に基づく無効理由)について
乙8公報には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に
設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを取り付
け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F),「回転
筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り
付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を連通」(構
成要件G),「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,
回転筒の下端から噴出する」(構成要件H),「回転式加圧型セパレータを
備えた粉砕機」(構成要件I),のいずれも記載されていないのであり,記
載のないもの同士をいかに組み合わせても,本件発明に想到することはない。
(7)無効理由7(乙第59号証の1と乙第7号証に基づく無効理由)について
ア乙59の1文献の記載
乙59の1文献の第8図は,簡略化した図面にすぎず,同図面からは,
センターシュートと相対的に回転する回転セパレータを設けた構造である
のかどうか自体も明らかではない。第8図は,構成部材を記載したもので
あり,現実の構造を表したものとは考えらない。
また,乙59の1文献中には,分級機がセンターシュートに対し相対的
に回転することの記載はない。
仮に,乙59の1文献記載の技術に回転分級機が備わっているとしても,
同技術は負圧式のものである。本件特許の出願時の技術水準では,加圧型
ミルに前記のような環状隙間を形成する回転式セパレータを採用した例は
知られておらず,粉砕された微粉がセンターシュートや回転筒に付着する
ような事態はまったく想定されていなかった。ところが,加圧型ミルにお
いては,センターシュートと回転筒との間の隙間に微粉が侵入して固着発
達して回転筒の円滑な回転が阻害されるという問題が発生し,センターシ
ュートと回転筒との間の環状隙間を,その上部において外気と遮断するシ
ールを施すだけでは足りない,という課題が本件特許の発明者によって発
見されたのであり,その課題の解決手段として回転筒下端から加圧空気を
噴出する構成を選択したのが本件発明である。従来の負圧型ミルを加圧型
に転用する場合のもつ問題こそが課題であり,本件発明は,構成要件G及
びHによって,回転筒とセンターシュートとの隙間に高い圧力空気を吹き
込むことにより,この課題を解決しようとするものであるから,このよう
な課題のない従来技術によって,本件発明の構成に想到することはない。
イ本件発明と乙59の1文献記載の技術との相違点
乙59の1文献には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回
転可能に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーン
を取り付け」(構成要件E),の構成については,その存否が不明である
と共に,「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F),「回転筒下端から
所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付けて回
転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を連通」(構成要件
G),「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回
転筒の下端から噴出する」(構成要件H),「回転式加圧型セパレータを
備えた粉砕機」(構成要件I),については記載されていない。
ウ乙59の1文献と乙7公報との組合せによる容易想到性について
乙7公報には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能
に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを取り
付け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F),
「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導
管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を
連通」(構成要件G),「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空
気を吹き込み,回転筒の下端から噴出する」(構成要件H),「回転式加
圧型セパレータを備えた粉砕機」(構成要件I),のいずれも記載されて
いないのであり,記載のないもの同士をいかに組み合わせても,本件発明
に想到することはない。
(8)無効理由8(乙第59号証の1と乙第8号証に基づく無効理由)について
乙8公報には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に
設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを取り付
け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F),「回転
筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り
付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を連通」(構
成要件G),「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,
回転筒の下端から噴出する」(構成要件H),「回転式加圧型セパレータを
備えた粉砕機」(構成要件I),のいずれも記載されていないのであり,記
載のないもの同士をいかに組み合わせても,本件発明に想到することはない。
(9)無効理由9(昭和62年改正前の特許法36条4項違反の無効理由)につ
いて
構成要件Gの「所定距離」とは,「回転筒下端から所定距離離れた上方位
置に・・・空気導管を取付け」と記載されていることから明らかなとおり,
回転筒下端ではなく,これより離れた上方位置に空気導管を取り付けること
を規定している。その意義は明確であり,本件明細書の第2図にも記載され
ているとおりである。
(10)無効理由10(昭和62年改正前の特許法36条3項違反の無効理由)につ
いて
本件明細書の第2図は,本件発明の構成を示す概念図であり,現実の装置
の図面でないことは明らかである。
回転する円筒体に空気を導入する装置構成は,本件特許の出願前に周知で
あり(甲9,10参照),本件明細書に示す空気導管16は,このような装
置を前提として抽象的に図示したものである。
したがって,当業者において,上記の図示によって,本件発明の実施は可
能である。
5争点5(損害額又は不当利得額)について
〔原告の主張〕
(1)被告は,遅くとも,本件発明が出願公告された平成2年10月31日には
被告製品の製造販売を開始し,本件特許権の存続期間が満了した平成14年
6月29日まで,被告製品の製造販売を継続した。
(2)実施料相当額(特許法102条3項又は不当利得額)
ア上記期間において被告が製造販売した被告製品の売上げは,総額226
億円を下らない。
本件発明の実施料率としては,5%が相当である。
原告の損害は,被告製品の売上総額226億円の5%に相当する11億
3000万円を下らない。
イ仮に,上記期間における被告が製造販売した被告製品の売上総額が上記
アの金額と認められないとしても,被告製品の売上総額は199億700
0万円を下らない。
本件発明の実施料率としては,5%が相当である。
原告の損害は,被告製品の売上総額199億7000万円の5%に相当
する9億9850万円を下らない。
ウまた,仮に,上記期間における被告が製造販売した被告製品の売上総額
が上記イの金額と認められないとしても,被告製品の売上総額は171億
8792万9900円を下らない。
本件発明の実施料率としては,5%が相当である。
原告の損害は,被告製品の売上総額171億8792万9900円の5
%に相当する8億5939万6495円を下らない。
エさらに,仮に,上記期間における被告が製造販売した被告製品の売上総
額が上記ウの金額と認められないとしても,被告製品の売上総額は153
億9440万6780円を下らない。
本件発明の実施料率としては,5%が相当である。
原告の損害は,被告製品の売上総額153億9440万6780円の5
%に相当する7億6972万0339円を下らない。
(3)弁護士費用
本件の弁護士費用としては,7000万円を下らない。
〔被告の主張〕
(1)原告の主張は否認ないし争う。
(2)販売数量について
別紙1のA発電所へのハ号物件の販売数量6基のうち,3基については,
本件特許の出願公告前に納入された(これら3基については,平成2年8月
までに全ての部品の納入が完了している。)ものであり,損害賠償額等の算
定の基礎から除外されるべきである(乙94)。
(3)実施料額及び実施料率について
ア被告は,回転式分級機に関するライセンス契約の例として,乙第62,
第63号証を提出する。これらは,被告が,ドイツ・バブコック社との間
で締結した技術提携契約に係る契約書であり,被告製品(イ号物件,ロ号
物件及びハ号物件)は,いずれも,上記契約に基づく技術協力によって製
作されたものである。
イ上記ライセンス契約におけるライセンス料は,回転式分級機の全構造・
機能に関する技術に対するものであるから,本件発明に関連する技術が同
ライセンス料に占める部分比は,被告の回転式分級機において,環状隙間
にシールエアを吹き込む技術に関連する部材(センターシュート,回転筒,
シールエア送風機,送風機用モータ,シールエア配管,に関する部分)が
回転式分級機全体に占める割合をその原価によって計算すると,約10%
程度である。
また,上記ライセンス契約において,提供される回転式分級機の技術上
の特徴点は14ないし15項目にわたっており,環状隙間にシールエアを
吹き込む技術に対応する「Sealingairline」は,これらの項目のうちの
1つにすぎない。これらの項目にライセンス料を割り付ければ,上記項目
に対応する部分比は14分の1ないし15分の1程度ということになる。
以上によれば,上記ライセンス契約におけるライセンス料のうち,環状
隙間にシールエアを吹き込む構造の占める部分比が10%を上回ることは
ない。
ウ上記ライセンス契約におけるライセンス料のうち,本件発明に相当する
構成の按分割合を10%とみて,1ドイツマルクを70円と換算し,各発
電所ごとに試算を行うと,ライセンス料は669万8650円となる。
したがって,実施料相当額が,669万8650円を超えることはない。
エ上記実施料相当額から算出した実施料率は,約0.05%である。
(4)実施料相当額の算定に当たっては,以下の事情を考慮すべきである。
ア本件発明は,公知技術や周知技術の単なる寄せ集めにすぎず,また,シ
ール効果以上の画期的な効果をもたらすものではない。
イ本件発明は,ミルに搭載される分級機のセンターシュートと回転筒との
環状隙間にエアシールを行うものであって,ミル全体の構成に関連する技
術ではなく,回転分級機のごく一部に関する改良技術にすぎない(本件発
明の寄与率による補正が必要である。)。
ウ被告製品の納品先は発電所であり,その用途はボイラーにおける燃焼設
備の燃料用石炭の粉砕・乾燥であり,我が国において,発電所向けの大型
ボイラーを受注し,製造することができるメーカーは,事実上,株式会社
日立製作所,三菱重工業株式会社,株式会社IHIの3社に限られる。
本件発明に係る構成が被告製品の売上げに貢献した事実はなく,原告と
被告とでは,顧客層や市場も異なる。
エ原告は,平成17年ころ,三菱重工業株式会社及び株式会社IHIとの
間で和解に至っているものの,これらの和解合意におけるライセンス料は
無償であるか,極めて低額なものであった。
オミルにおいて,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に粉塵が侵
入することを防止するためには,必ずしも本件発明のようなエアシール技
術を用いる必要はなく,パッキンなどによる他のシール方法による代替が
可能である。
第4当裁判所の判断
1争点1(イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するものか)について
前記争いのない事実等(5)記載のとおり,イ号物件は本件発明の構成要件
A,B,D,F及びIを充足する。
以下,イ号物件が構成要件C,E,G及びHを充足するか否かについて検討
する。
(1)争点1−a(構成要件Cの充足性)
ア「上方」の意義について
(ア)被告は,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明には,「下方の粉砕
部から粉砕された微粒子を多量に含んだガス流が真上に上昇してきて該
隙間下端開口から侵入しようとしても,微粒子は確実に吹き飛ばされ,
その侵入が確実に阻止される。」(2頁4欄37行ないし40行)との
記載があることから,本件発明が解決すべき課題は,下方の粉砕部から
ガス流が真上に上昇してきて環状隙間の下端から侵入しようとするとい
う現象であるとし,本件発明の粉砕機は,解決すべき上記現象を生じる
構造であることを要するから,構成要件Cにおける「上方」とは,単に
センターシュートが粉砕ローラの上方にあるという意味ではなく,「粉
砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとな
る上方位置」を意味すると解すべきである旨主張する。
しかしながら,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明に「従来の回
転式セパレータを採用し,分級効率を増大させようとすると,従来の回
転式セパレータは負圧型ミルに適用されているため,加圧型の粉砕機に
取付けようとすると,粉砕機内部は加圧雰囲気であるため粉砕機上部中
心部より垂下する固定のセンターシュートとその周りに同心円状に配設
され回転するセパレータの回転筒との隙間に別粉(判決注・「微粉」の
誤記と認める。)が侵入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害した
り,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷する。」
(1頁2欄10行ないし19行),「本発明は回転セパレータを加圧型
ミルに適用できる回転式加圧型セパレータを提供することを目的として
いる。」(1頁2欄20行ないし22行)と記載されているとおり,本
件発明が解決しようとする課題は,従来の回転式セパレータを加圧型の
粉砕機に取付けようとすると,粉砕機内部が加圧雰囲気であるため,粉
砕機上部中心部より垂下する固定のセンターシュートとその周りに同心
円状に配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に微粉が侵入し,
固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周
面や回転筒内周面が摩耗して損傷したりするという点にある。
この課題を解決したのが本件発明であって,「粉砕部から真上に上昇
してきたガス流が回転筒の下端に直接ぶつかる」ことによって,センタ
ーシュートと回転筒との隙間に微粉が侵入するという現象のみを課題と
した発明ではない。
(イ)本件特許の出願過程において出願人から提出された意見書(甲5の1,
乙1の7)中には,被告が指摘するように,「第2引用例(特開昭55
−92145号)に示されているものは,粉砕機のローラの軸受部への
粉塵の侵入防止を計るためのシール空気の供給構造であり,本願発明の
ように粉砕部から含塵ガスが真上に上昇して来て丁度そこに垂直状態で
位置するセンターシュートと回転筒にぶつかる構造のセパレータに対し
て該センターシュートと回転筒との間の環状の隙間への粉塵の侵入防止
を計るようにしたものではない。このように,この引用例と本願発明と
はシール空気を供給する対象が異なると共にシール空気を供給して粉塵
の侵入を阻止する対象部分への含塵ガス流の流入の仕方や含塵濃度が全
く異なり本願発明の場合は引用例の場合よりもかなり条件が悪い。」
(6頁7行ないし20行)との記載がある。
しかしながら,上記記載は,特開昭55−92145公報(甲5の
2)を出願前公知技術として引用した拒絶理由通知がされたのを受けて
(乙1の6),粉砕機のローラの軸受部への粉塵の侵入を防止するため
のシール空気の供給構造を開示する引用例(甲5の2,2頁右下欄11
行ないし19行)に対し,本件発明が粉砕部の上方に位置するセンター
シュートと回転筒との間の環状隙間への粉塵の侵入を防止するためのシ
ール空気を供給する構造であることを主張するものであり,「粉砕部か
ら上昇したガス流が回転筒の下端にぶつかる」こととなる構成と「粉砕
部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかる」こととな
る構成との差異点を強調するものではない。
したがって,上記出願経過を参酌して,構成要件Cにおける「上方」
の意味を限定解釈すべきであるとはいえない。
(ウ)以上によれば,「上方」を「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転
筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」と限定解釈すべき理由は
なく,構成要件Cの「上方」とは,単に,粉砕ローラの「うえの方」を
意味するものと解すべきである。
イ対比
(ア)イ号物件のセンターシュート(1)は,粉砕ローラ(ローラタイヤ)
(8)の上方で,ケーシングの水平方向中央に位置した状態で垂直に配
設されている(別紙2−1の構成イc1及び別紙2−2)。
したがって,イ号物件は,構成要件Cの「粉砕ローラの上方にケーシ
ングの中央に位置した状態で垂直にセンターシュートを配設し,」を充
足する。
(イ)この点,被告は,構成要件Cにいう「上方」とは,「粉砕部から真上
に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」
の意味であるとした上で,イ号物件では,含塵ガスは粉砕ローラの外側
(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し,内壁側から固定ベー
ン及び回転ベーンに流入するから,粉砕部から真上に上昇したガス流が
回転筒の下端に直接ぶつかる構造を有さず,構成要件Cを充足しない旨
主張するものであって,「粉砕部から上昇した含塵ガスが回転筒の下端
にぶつかる」という現象が生じること自体を否定するものではない。
イ号物件は,「回転筒(16)下端から2メートルから3メートル程
度離れた上方位置に,上記回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔
(17)を設け,該空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定さ
れた空気室(18)を設け,該空気室と送風装置とをシールエアダクト
(19)により接続し,上記送風装置から上記空気室に空気を吹き込む
ことにより,上記空気導入孔を通じて,上記センターシュート(1)と
上記回転筒との間の環状隙間に空気を導入できるようにしている」(別
紙2−1構成イg),「上記環状隙間は・・・この隙間に回転筒(1
6)下端における空気の噴出速度が平均約28メートル毎秒以上となる
ような加圧雰囲気よりも高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端全周
から空気が噴出するように構成している。」(同構成イh)との構成を
有することから明らかなとおり,センターシュートと回転筒との間の環
状隙間にエアシールを施していることに照らし,イ号物件においても,
本件発明が解決しようとする課題に係る現象,すなわち,「粉砕部から
上昇したガス流が回転筒の下端にぶつかる」という現象は生じているも
のと認められる。
そして,被告が主張する上記解釈(粉砕部から「真上に」上昇したガ
ス流が回転筒の下端に「直接」ぶつかることとなる上方位置)を採用す
ることができないことは前述のとおりである。
(ウ)なお,被告は,イ号物件においては,含塵ガスは粉砕ローラの外側
(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し,内壁側から固定ベー
ン及び回転ベーンに流入するのであり(熱風A),これとは別に,分級
機ホッパの内部を通過して上昇する含塵ガス(熱風B)は存在しない旨
主張する。
aこの点,被告は,イ号物件におけるスロートは,ミルの中心方向に
向かって傾いていると同時に,ミルの円周方向にも傾いているため,
スロートで吹き上げられた微粉炭は,スロートから粉砕機内壁へ向か
って吹き上げられ,粉砕機の内壁にぶつかった上で,ミル内壁に沿っ
て旋回しながら上昇するとする。
しかしながら,イ号物件におけるスロートは,粉砕機の円周方向に
傾いているだけでなく,粉砕機の中心方向にも傾いているのであるか
ら(乙23,27),スロートからの熱風が,粉砕ローラの外側(粉
砕機内壁側)にのみ向かうとは考え難い。
また,イ号物件においては,粉砕機の円周方向に傾いているだけで
なく粉砕機の中心方向にも傾いているスロートから,高圧の空気が噴
出しており,また,粉砕部の中心部の空気の圧力はスロート部より噴
出された空気の圧力より低いのであるから,円周方向に向けて噴出さ
れた熱風も次第に拡散しつつ,その一部は,圧力の低い粉砕機の中心
部に向かう流れを形成するものと考えられる(甲14,24,27)。
b被告は,イ号物件の内壁を観察すると,各タイルの中央のねじ止め
箇所や各タイルの境界線から右上方向に摩耗痕が延びており,これは,
微粉炭がミル内壁に衝突して右上方向に流れていくことを示す旨主張
する。
しかしながら,上記摩耗痕は,粉砕機内壁に沿った旋回流が存在す
ることを示すものであるとはいえるものの,粉砕機の中心部へ向かう
空気の流れの存在を否定するものとはいえない。
c被告は,イ号物件の分級機ホッパ下端では,鉛直方向下向きに空気
が流れているから,仮に,スロートから吹き上げられた微粉炭が分級
機ホッパ下端開口部に近づいたとしても,当該開口部から流入するこ
とはない旨主張する。
しかしながら,上記事実を認めるに足りる証拠はない。センターシ
ュートから供給される石炭量は,粉砕機ごとに,また,実際の使用状
況によっても異なるのであり(被告の主張においても,「センターシ
ュートより供給される石炭と分級による戻り炭の落下量はミルの大き
さによっても異なるが,合計で毎分1トンないし2トン程度にものぼ
る」とされており,供給される石炭量が,粉砕機によって異なること
が述べられている。),センターシュートから分級機ホッパを経て粉
砕部に石炭が供給されることから,直ちに,イ号物件の構成として,
微粉炭が分級機ホッパ下端から流入することはないと断ずることはで
きない。
かえって,前記のとおり,イ号物件は,構成イg及びイhの構成を
有し,センターシュートと回転筒との間の環状隙間にエアシールを施
していることに照らしても,微粉炭が分級機ホッパ下端から流入する
という現象が全く生じないとは考え難い。
d上記で検討したところによれば,イ号物件においては,分級機ホッ
パの内部を通過して上昇する流れの熱風(B)も存在するものと考え
られる(原告平成19年7月2日付け「準備書面(原告その6)」4
頁説明図(1)参照)。
よって,イ号物件は,この点においても,「粉砕部から上昇したガ
ス流が回転筒の下端にぶつかる」という現象が生じているものと考え
られる。
(2)争点1−b(構成要件Eの充足性)
ア「放射状」の意義について
被告は,構成要件Eにおける「放射状」にベーンを配置するとは,「ベ
ーンの長手方向を構成する直線部分が回転筒の中心から四方八方に延びる
ように配置すること」を意味する旨主張する。
(ア)本件明細書中には,「放射状」について特に定義した記載はない。
また,図面(第1図,第2図)を参照すると,本件発明の実施例にお
いては,「ベーンの長手方向を構成する直線部分が回転筒の中心から,
傾斜した状態で四方八方に延びるように配置されている」ことが記載さ
れているものの,ベーンの水平方向の断面図はなく,上記実施例におけ
る,ベーンの短手方向を構成する直線部分と「回転筒の中心部分から延
びる線との位置関係(角度が付けられているのか否か)は特に記載され
ていない(乙15の第5図と第7図を参照)。
ところで,本件明細書中には,本件発明が解決しようとする課題に関
し,「従来の回転式セパレータを採用し,分級効率を増大させようとす
ると,従来の回転式セパレータは負圧型ミルに適用されているため,加
圧型の粉砕機に取付けようとすると,粉砕機内部は加圧雰囲気であるた
め粉砕機上部中心部より垂下する固定のセンターシュートとその周りに
同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に別粉(判決
注・「微粉」の誤記と認める。)が侵入し固着発達して回転筒の円滑な
回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して
損傷する。本発明は回転セパレータを加圧型ミルに適用できる回転式加
圧型セパレータを提供することを目的としている。」(1頁2欄10行
ないし22行)と記載されており,上記課題解決の手段として,「本発
明においては,上記の目的を達成するために,センターシュート(原料
送入シュート)とベーンを取付けたロータが固定された回転可能な回転
筒とを同心状に配置し,両者間に形成される環状の隙間に,回転筒下端
から所定距離離れた上方位置から下方へ向かって粉砕機内部の加圧雰囲
気よりも高い所定圧力の空気(シールエヤ)を送風装置によって吹き込
み,環状隙間の下端の全周囲から噴出される構造を採用した。」(1頁
2欄23行ないし2頁3欄8行)と記載されている。これらの記載によ
れば,本件発明の作用効果を奏するためには,回転筒にベーンを取付け
たロータ(回転子)が固定されていることを要するものの,ベーンの長
手又は短手方向を構成する直線部分が「回転筒の中心から,傾斜した状
態で」配置されているのか,それとも,「回転筒と同心状に,平行し
て」配置されているのか,あるいは,ベーンの長手又は短手方向を構成
する直線部分が「回転筒の中心部分から延びる線と一致する状態で」配
置されているのか,それとも,「回転筒の中心部から延びる線と角度が
付けられた状態で」配置されているのか等,ベーンの傾斜や角度が,本
件発明の作用効果を奏するか否かと直接の関係を有するものではないこ
とが分かる。
そうすると,本件構成要件Eの「放射状」を,本件明細書中の一実施
例におけるベーンの配置,すなわち,「ベーンの長手方向を構成する直
線部分が回転筒の中心から四方八方に延びるように配置すること」と限
定解釈すべきであるとはいえない。
(イ)「放射状」とは,一般に,「中央の一点から四方八方に放出した形の
もの」(乙3,広辞苑第五版),「線状のものが中心から四方に出てい
るさま」(乙2,大辞林第三版),「一点を中心に四方八方へ伸び出た
形。」(乙28,大辞泉),「線が1点から四方八方に出ている形」
(乙29,デイリーコンサイス国語辞典),「線などが,ある一点から
四方八方に放ち出た形。」(乙30,角川国語大辞典),「線などが中
央の一点から四方にのび広がった形。」(乙31,学研国語大辞典),
「一点から四方八方にひろがったかたち。また,その形状のもの。」
(乙32,日本国語大辞典)を意味する。
(ウ)したがって,構成要件Eの「放射状」とは,その用語の意味内容に従
い,「回転筒を中心として,四方に放出した位置にある態様」の意味で
あると解すべきである。
イ対比
(ア)イ号物件の回転筒(16)には,回転可能なベーン(回転ベーン)
(4)が取り付けられており,回転ベーン(4)の配置及び形状は,別
紙2−2の図面,別紙2−3の「分級機全体図」,「分級機を横から見
た平面図」,「回転ベーンの配置及び形状(上から見た図)」及び「回
転ベーンの写真」のとおりとなっている(別紙2−1の構成イe1)。
上記によれば,イ号物件における回転ベーン(4)は,回転筒を中心
として,四方に放出した位置に配置されているから,構成要件Eの「こ
の回転筒には放射状に配置されたベーンを取付け,」を充足する。
(イ)被告は,イ号物件においては,「ベーンの長手方向を構成する直接は
回転筒と平行になるように,水平面から垂直に配置されている」,「各
ベーンの短手方向を構成する直線も,回転筒の中心から延びる線と角度
が付けられており,それらの直線を回転筒方向に延長しても一致しな
い」から,構成要件Eを充足しない旨主張する。
しかしながら,構成要件Eの「放射状」とは,その用語の意味内容に
従い,「回転筒を中心として,四方に放出した位置にある態様」の意味
であると解すべきであることは,既に述べたとおりであり,これらの配
置を特に除外すべき理由はない。
このことは,粉砕機,分級装置やファン装置に係る発明の公報等(甲
15ないし18,乙14,17)によれば,ベーンが回転中心と同心円
状に配置されている場合,ベーンが回転筒の中心部から延びる線と角度
が付けられた状態で配置されている場合,あるいは,放射中心が一点で
ない場合にも,位置関係を「放射方向」や「放射状」と表現している例
があることが認められることからも裏付けられる。
(3)争点1−c(構成要件Gの充足性)
ア「所定距離」の意義について
(ア)被告は,構成要件Gの「所定距離」の意味は,それが具体的にどの程
度の距離を指すものであるかについて特許請求の範囲に記載がなく,本
件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても不明である旨主張する。
(イ)本件明細書中には,本件発明が解決しようとする課題に関し,「従来
の回転式セパレータを採用し,分級効率を増大させようとすると,従来
の回転式セパレータは負圧型ミルに適用されているため,加圧型の粉砕
機に取付けようとすると,粉砕機内部は加圧雰囲気であるため粉砕機上
部中心部より垂下する固定のセンターシュートとその周りに同心円状に
配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に別粉(判決注・「微
粉」の誤記と認める。)が侵入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻
害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷する。
本発明は回転セパレータを加圧型ミルに適用できる回転式加圧型セパレ
ータを提供することを目的としている。」(1頁2欄10行ないし22
行)と記載されており,上記課題解決の手段として,「本発明において
は,上記の目的を達成するために,センターシュート(原料送入シュー
ト)とベーンを取付けたロータが固定された回転可能な回転筒とを同心
状に配置し,両者間に形成される環状の隙間に,回転筒下端から所定距
離離れた上方位置から下方へ向かって粉砕機内部の加圧雰囲気よりも高
い所定圧力の空気(シールエヤ)を送風装置によって吹き込み,環状隙
間の下端の全周囲から噴出される構造を採用した。」(1頁2欄23行
ないし2頁3欄8行)と記載されている。
また,本件発明の効果として,「本発明は特許請求の範囲に記載した
ような構成にしたので,粉砕機内部が加圧雰囲気であっても,回転筒2
2と原料送入用のセンターシュート13との環状の隙間全体に加圧雰囲
気よりも高い所定圧力の空気が充満されて下端開口の全周から噴出され
る。また,この空気は送風装置15により供給されるので,粉砕機内部
のガス圧力が変動したようなときでも確実に供給されて下端から噴出さ
れる。このため,回転筒22の下端である環状隙間の下端から侵入しよ
うとする微粒子を確実に吹き飛ばすことができ,センターシュート13
と回転筒22の間の隙間に微粒子が侵入することが防止され,センター
シュート外周面と回転筒内周面の微粒子による摩耗損傷を阻止できると
ともに,回転筒の円滑な回転運動を確保することができる。」(3頁5
欄11行ないし6欄4行)と記載されている。
(ウ)本件明細書中に記載された本件発明の目的,構成及び効果を参酌すれ
ば,構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・空
気導管を取付けて」の「所定距離」とは,空気導管を,回転筒下端では
なく,これより離れた上方位置に取り付けることを規定したもので,構
成要件Hの「この隙間(回転筒とセンターシュートとの間の隙間)に加
圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出
するように」するのに必要な距離を意味するものと解される。
なお,本件発明は,「回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機」の
発明であり,この回転式加圧型セパレータには種々の大きさのものがあ
り,空気導管の取付位置も異なるのであるから,特許請求の範囲の記載
において,回転筒下端から空気導管の取付位置までの距離を具体的な数
値で表示する必要はない。
イ「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・空気導管を取付け
て」の意義について
(ア)被告は,構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・
・・空気導管を取付けて」とは,「空気導管を回転筒それ自体に取り付
ける」との意味と解釈される旨主張する。
(イ)この点,本件明細書中の図面(第2図)には,送風装置(15)と連
絡された空気導管(16)が回転筒(22)に直接接続された態様が記
載されている(2頁4欄9行ないし12行参照)。
しかしながら,本件発明は,「回転セパレータを加圧型ミルに適用で
きる回転式加圧型セパレータ」を提供することを目的とし,当該目的を
達成するために,「センターシュート(原料送入シュート)とベーンを
取付けたロータが固定された回転可能な回転筒とを同心状に配置し,両
者間に形成される環状の隙間に,回転筒下端から所定距離離れた上方位
置から下方へ向かって粉砕機内部の加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空
気(シールエヤ)を送風装置によって吹き込み,環状隙間の下端の全周
囲から噴出される構造」を採用するものである(本件明細書の1頁2欄
20行ないし2頁3欄8行)。回転する回転筒の外周に,回転せず固定
された空気導管を直接に接続することができないことは,当業者にとっ
て明らかであるといえる。
また,第2図の上記記載(送風装置(15)と連絡された空気導管
(16)が回転筒(22)に直接接続されているという記載)も,当業
者にとっては,模式図として示されたものであることが明らかであると
いえる。
構成要件Gには,「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・
空気導管を取付けて」と記載されており,その文言上も,空気導管を回
転筒それ自体に直接取り付けるという意味に解釈すべき必然性はない。
被告は,構成要件Gは,「空気導管を回転筒それ自体に取り付ける」
との意味であると解釈すべきであると主張するものの,上記のとおり,
当業者の技術常識から判断すれば,そのように解釈する余地はない。
(ウ)また,甲第9号証(特開昭48−25216号公報)及び甲第10号
証(特開昭54−100564号公報)によれば,回転筒に空気を供給
するための装置として,回転筒の外周に通気孔を設け,回転筒の周囲に
密封部材を備えた空気室(ケーシング,分配器)を設け,空気室に空気
源を接続する構造は,周知のものであったと認められる。
(エ)以上によれば,構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れた上方位
置に・・・空気導管を取付けて」とは,「空気導管から回転筒内周の環
状隙間に空気を導入し得るように,回転筒内周の環状隙間と空気導管と
を連通させて取り付ける」ことを意味すると解するべきである。
ウ対比
イ号物件においては,回転筒(16)下端から2メートルから3メート
ル程度離れた上方位置に,上記回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入
孔(17)を設け,該空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定さ
れた空気室(18)を設け,空気室と送風装置とをシールエアダクト(1
9)により接続し,送風装置から空気室に空気を吹き込むことにより,空
気導入孔を通じて,センターシュート(1)と回転筒との間の環状隙間に
空気を導入することができるように構成されており(別紙2−1の構成イ
g。なお,別紙2−3「空気室と空気導入孔の構造」参照),上記環状隙
間に加圧雰囲気よりも高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端全周から
空気が噴出するように構成している(別紙2−1の構成イh)。
したがって,イ号物件は,構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れ
た上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンター
シュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,」を充足する。
(4)争点1−d(構成要件Hの充足性)
ア「回転筒の下端から噴出するように構成した」の意義について
(ア)被告は,構成要件Hの「回転筒の下端から噴出するように構成した」
とは,「所定圧力の空気が回転筒の下端から所定距離離れた上方の位置
から環状隙間内へ供給されることにより,回転筒の内周面が回転してい
ることを利用して,吹き込まれた空気が回転筒の内周面の回転につれて
環状通路内を螺旋状に旋回しながら下降して,回転筒下端の全周から噴
出するもの」と限定解釈されるべきであると主張する。
(イ)本件明細書中には,本件発明が解決しようとする課題に関し,「従来
の回転式セパレータを採用し,分級効率を増大させようとすると,従来
の回転式セパレータは負圧型ミルに適用されているため,加圧型の粉砕
機に取付けようとすると,粉砕機内部は加圧雰囲気であるため粉砕機上
部中心部より垂下する固定のセンターシュートとその周りに同心円状に
配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に別粉(判決注・「微
粉」の誤記と認める。)が侵入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻
害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷する。
本発明は回転セパレータを加圧型ミルに適用できる回転式加圧型セパレ
ータを提供することを目的としている。」(1頁2欄10行ないし22
行)と記載されており,上記課題解決の手段として,「本発明において
は,上記の目的を達成するために,センターシュート(原料送入シュー
ト)とベーンを取付けたロータが固定された回転可能な回転筒とを同心
状に配置し,両者間に形成される環状の隙間に,回転筒下端から所定距
離離れた上方位置から下方へ向かって粉砕機内部の加圧雰囲気よりも高
い所定圧力の空気(シールエヤ)を送風装置によって吹き込み,環状隙
間の下端の全周囲から噴出される構造を採用した。」(1頁2欄23行
ないし2頁3欄8行)と記載されている。
また,本件発明の効果として,「本発明は特許請求の範囲に記載した
ような構成にしたので,粉砕機内部が加圧雰囲気であっても,回転筒2
2と原料送入用のセンターシュート13との環状の隙間全体に加圧雰囲
気よりも高い所定圧力の空気が充満されて下端開口の全周から噴出され
る。また,この空気は送風装置15により供給されるので,粉砕機内部
のガス圧力が変動したようなときでも確実に供給されて下端から噴出さ
れる。このため,回転筒22の下端である環状隙間の下端から侵入しよ
うとする微粒子を確実に吹き飛ばすことができ,センターシュート13
と回転筒22の間の隙間に微粒子が侵入することが防止され,センター
シュート外周面と回転筒内周面の微粒子による摩耗損傷を阻止できると
ともに,回転筒の円滑な回転運動を確保することができる。」(3頁5
欄11行ないし6欄4行)と記載されている。
上記の記載から明らかなとおり,本件発明は,従来の回転式セパレー
タを加圧型の粉砕機に取り付ける場合に,センターシュートと回転筒と
の隙間に微粉が侵入し,固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,
センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷したりするとい
う課題を解決するために,センターシュートと回転筒との間の環状隙間
に加圧雰囲気よりも高い加圧空気を供給し,回転筒下端から噴出させる
という手段を用いることによって,上記環状隙間の下端から侵入しよう
とする微粒子を吹き飛ばし,微粒子の侵入を防止するという効果を奏す
るものである。
したがって,本件発明の効果を奏するには,センターシュートと回転
筒との間に存在する隙間にエアシールを施すことによって微粒子が侵入
することを防止すれば足りるのであって,必ずしも,回転筒の下端全周
から加圧空気を噴出させる必要はないことは明らかである。
そうすると,特許請求の範囲1の「回転筒の下端から噴出するように
構成した」との記載を,「回転筒の下端全周から噴出するように構成し
た」と限定解釈するべきであるとはいえない。
(ウ)ところで,本件明細書中には,「所定圧力の空気が回転筒22の下端
から所定距離離れた上方の位置から環状隙間内へ供給され,かつ,環状
隙間を画成する一つの部材である回転筒22の内周面が回転しているの
で,前記の供給位置か(ら)供給された空気が回転筒22の下端に至る
間で回転筒22の内周面の回転につれて環状通路内を螺旋状に旋回しな
がら下降するため,供給位置から抵抗の少ない特定の部位のみを流れて,
所謂,ショートパスしたり偏流したりして回転筒22下端の部分的な位
置のみから排出されることがなく,該空気は環状隙間内の全体に行き渡
って回転筒22の下端の全周から噴出する。」(2頁4欄18行ないし
30行)との記載がある。
しかしながら,上記記載は,回転筒が回転していることによって環状
隙間に供給された空気流が受ける作用を記載したものであって,回転筒
下端の全周から空気を噴出させるためには回転筒の回転を利用すること
が必須であることを述べたものではない。
(イ)で述べたとおり,回転筒下端から所定距離離れた上方位置から,
環状隙間に加圧雰囲気よりも高い加圧空気を供給すれば,環状隙間が連
通している以上,回転筒下端から空気が噴出するのが通常であって,回
転筒下端から空気が噴出されれば,本件発明の効果を奏するのであるか
ら,上記記載が,本件発明の構成を「回転筒の回転を利用することによ
り回転筒下端の全周から空気を噴出させるもの」に限定したものである
とは解されない。
(エ)本件特許の出願過程において出願人から提出された意見書(甲5の1,
乙1の7)中には,被告が指摘するように,「また,たとえ,この引用
例のものが本願発明のように固定されたセンターシュートの周りに回転
筒を回転可能に設けたものであったとしても,次項でも説明するように,
回転筒の下端から所定距離隔てた上方の位置から該環状の隙間に空気を
供給し,かつ,回転筒の回転を利用することによって環状の隙間内全体
に空気を行き渡らせ,隙間の下端の全周から均等に空気を噴出させるよ
うにしたことの効果は多大である。」(5頁11行ないし19行),
「これに対して本願発明では,粉塵の侵入防止を行う部分はセンターシ
ュート13と回転筒22の間の隙間の回転筒22の下端部分であるが,
ここの全周から空気が噴出されるので粉塵の侵入を確実に防止すること
ができる。即ち,所定圧力の空気が回転筒22の下端から所定距離離れ
た上方の位置から環状隙間内へ供給され,かつ,環状隙間を画成する一
つの部材である回転筒22の内周面が回転しているので,前記の供給位
置から供給された空気が回転筒22の下端に至る間で回転筒22の内周
面の回転につれて環状通路内を螺旋状に旋回しながら下降するため,供
給位置から抵抗の少ない特定の部位のみを流れて,所謂,ショートパス
したり偏流したりして回転筒22下端の部分的な位置のみから排出され
ることがなく,該空気は環状隙間内の全体に行き渡って回転筒22の下
端の全周から噴出する。」(7頁20行ないし8頁16行)との記載が
ある。
しかしながら,上記記載は,特開昭57−75156号公報(乙4)
及び特開昭55−92145公報(甲5の2)を出願前公知技術として
引用した拒絶理由通知がされたのを受けて(乙1の6),粉砕部の上方
に位置するセンターシュートと回転筒との間の環状隙間に加圧空気を供
給する構成を開示しない両引用例に対し,上記構成を採用することによ
る作用効果を主張するものであり,回転筒下端の全周から空気を噴出さ
せるために,回転筒の回転を利用した点を両引用例との差異点として強
調するものではない。
したがって,上記出願経過を参酌して,構成要件Hにおける「回転筒
の下端から噴出するように構成した」の意味を限定解釈すべきであると
はいえない。
(オ)以上によれば,構成要件Hの「回転筒の下端から噴出するように構成
した」とは,文字どおり,「回転筒の下端から噴出するように構成し
た」の意味であると解すべきである。
イ対比
イ号物件においては,回転筒(16)下端において,センターシュート
(1)との間に,1ミリメートルから2.4ミリメートル程度の隙間があ
り,センターシュート(1)と回転筒(16)との間の環状隙間に,加圧
雰囲気よりも高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端全周から空気が噴
出するように構成している(別紙2−1の構成イh)。
したがって,イ号物件は,構成要件Hの「この隙間に加圧雰囲気よりも
高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成し
た」を充足する。
(5)まとめ
以上によれば,イ号物件は本件発明の構成要件AないしIをいずれも充足
するから,本件発明の技術的範囲に属する。
2争点2(ロ号物件は本件発明の技術的範囲に属するものか)について
前記争いのない事実等(5)記載のとおり,ロ号物件は本件発明の構成要件
A,B,D,E,F及びIを充足する。
以下,ロ号物件が構成要件C,G及びHを充足するか否かについて検討する。
(1)争点2−a(構成要件Cの充足性)について
ア構成要件Cの「上方」の意義は,前記1(1)で述べたとおりである。
ロ号物件のセンターシュート(1)は,粉砕ローラ(ローラタイヤ)
(8)の上方で,ケーシングの水平方向中央に位置した状態で垂直に配設
されている(別紙3−1の構成ロc1及び別紙3−2)。
したがって,ロ号物件は,構成要件Cの「粉砕ローラの上方にケーシン
グの中央に位置した状態で垂直にセンターシュートを配設し,」を充足す
る。
イこの点,被告は,構成要件Cにいう「上方」とは,「粉砕部から真上に
上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」の意
味であるとした上で,ロ号物件では,含塵ガスは粉砕ローラの外側(粉砕
機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し,内壁側から回転ベーンに流入
するから,粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつか
る構造を有さず,構成要件Cを充足しない旨主張するものであって,「粉
砕部から上昇した含塵ガスが回転筒の下端にぶつかる」という現象が生じ
ること自体を否定するものではない。
ロ号物件においては,回転筒(16)下端から2メートルから4メート
ル程度離れた上方位置に,上記回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入
孔(17)を設け,該空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定さ
れた空気室(18)を設け,該空気室と送風装置とをシールエアダクト
(19)により接続し,上記送風装置から上記空気室に空気を吹き込むこ
とにより,上記空気導入孔を通じて,上記センターシュート(1)と上記
回転筒との間の環状隙間の空気を加圧することができるようにしており
(別紙3−1構成ロg),後述のとおり,センターシュート(1)と回転
筒(16)との間の環状隙間は,回転筒(16)下端で塞がれてはおらず,
ハ号物件と同様に,回転筒の下端から空気が噴出するように構成されてい
る。このように,センターシュートと回転筒との間の環状隙間にエアシー
ルを施していることに照らし,ロ号物件においても,本件発明が解決しよ
うとする課題に係る現象,すなわち,「粉砕部から上昇したガス流が回転
筒の下端にぶつかる」という現象は生じているものと認められる。
そして,被告が主張する上記解釈(粉砕部から「真上に」上昇したガス
流が回転筒の下端に「直接」ぶつかることとなる上方位置)を採用するこ
とができないことは,前記1(1)で述べたとおりである。
ウなお,被告は,ロ号物件においては,含塵ガスは粉砕ローラの外側(粉
砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し,内壁側から回転ベーンに流
入するのであり,これとは別に,粉砕機の中心部に向かって上昇する含塵
ガスは存在しない旨主張する。
しかしながら,ロ号物件におけるスロートは,粉砕機の円周方向に傾い
ているだけでなく,粉砕機の中心方向にも傾いているのであるから(乙2
4,27),スロートからの熱風が,粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)
にのみ向かうとは考え難い。
また,ロ号物件においては,粉砕機の円周方向に傾いているだけでなく
粉砕機の中心方向にも傾いているスロートから,高圧の空気が噴出してお
り,また,粉砕部の中心部の空気の圧力はスロート部より噴出された空気
の圧力より低いのであるから,円周方向に向けて噴出された熱風も次第に
拡散しつつ,その一部は,圧力の低い粉砕機の中心部に向かう流れを形成
するものと考えられる。
以上によれば,ロ号物件においては,粉砕機の中心部に向かって上昇す
る含塵ガスも存在するものと考えられるから,この点においても,「粉砕
部から上昇したガス流が回転筒の下端にぶつかる」という現象が生じてい
るものと考えられる。
(2)争点2−b(構成要件Gの充足性)について
構成要件Gの「所定距離」及び「回転筒下端から所定距離離れた上方位置
に・・・空気導管を取付け」の意義は,前記1(3)で述べたとおりである。
ロ号物件においては,回転筒(16)下端から2メートルから4メートル
程度離れた上方位置に,上記回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔
(17)を設け,該空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定された
空気室(18)を設け,空気室と送風装置とをシールエアダクト(19)に
より接続し,送風装置から空気室に空気を吹き込むことにより,空気導入孔
を通じて,センターシュート(1)と回転筒との間の環状隙間の空気を加圧
することができるように構成されており(別紙3−1構成ロg。なお,別紙
3−3「空気室と空気導入孔の構造」参照),また,後述のとおり,センタ
ーシュート(1)と回転筒(16)との間の環状隙間は,回転筒(16)下
端で塞がれてはおらず,ハ号物件と同様に,回転筒の下端から空気が噴出す
るように構成されているものと認められる。
したがって,ロ号物件は,構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れた
上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシュ
ートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,」を充足する。
(3)争点2−c(構成要件Hの充足性)について
アロ号物件の構成について
(ア)原告は,ロ号物件においては,加圧雰囲気より高い圧力の空気を吹き
込み,回転筒の下端から空気が噴出するように構成されている旨主張す
る。
これに対し,被告は,ロ号物件においては,空気室に加圧空気を吹き
込み空気導入孔を通じて環状隙間内の空気を加圧してはいるものの,パ
ッキンにより回転筒下端の環状隙間を塞いでおり,回転筒の下端から空
気は噴出されない旨主張する。
(イ)被告の主張について
a仮に,被告が主張するように,パッキンにより回転筒下端の環状隙
間を塞いでいるとすれば,センターシュートと回転筒との間の環状隙
間に加圧空気を吹き込む必要はなく,このための構成を設ける必要は
ないはずである。
しかしながら,ロ号物件においては,回転筒円周に30個の空気導
入孔を設け,空気導入孔の周囲に空気室を設け,空気室と送風装置と
をシールエアダクトにより接続して,送風装置から空気室に空気を吹
き込むことにより,空気導入孔を通じてセンターシュートと回転筒と
の間の環状隙間の空気を加圧することができるように構成されている
(別紙3−1構成ロg)。
(a)この点につき,被告は,当初,ハ号物件として特定されるミルを
製造していたものの,平成2年11月ころ,本件特許の出願公告が
されたことが分かったため,ハ号物件にパッキンを設けて環状隙間
を塞ぐ設計変更を行うこととし,製造されたのがロ号物件であるか
ら,ロ号物件が,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に加
圧空気を吹き込むための構成を備えていても不合理ではない旨主張
し,これに沿う証拠として,被告の研究員の陳述書(乙27)があ
る。
しかしながら,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に加
圧空気を吹き込むための構成は,回転筒円周に30個の空気導入孔
を設け,空気導入孔の周囲に空気室を設け,空気室と送風装置とを
シールエアダクトにより接続するという大掛かりなものであり,こ
の構成を実現するためには多額の費用を要すると共に,この構成を
設けることで装置の構造も複雑化し,メンテナンスの手間やコスト
も増えることになるのであって,ハ号物件の設計を変更し,製造す
る際に,本来必要のなくなった構成をそのまま残したとは考えにく
い。単に従来の装置(ハ号)の設計を引き継いだとの理由で,パッ
キンにより回転筒下端の環状隙間を塞ぐことにしたにもかかわらず,
センターシュートと回転筒との間の環状隙間に加圧空気を吹き込む
構成を備えている点を合理的に説明し得たとは言い難い。
しかも,被告の主張する構成では,回転筒下端の環状隙間のパッ
キンはセンターシュートに接するように設けられ,回転筒と共に回
転するパッキンが,固定されたセンターシュートに接した状態で回
転筒が回転することになるにもかかわらず,設計変更の段階でその
安全性の確認等が行われたことについては言及がなく(乙27。同
陳述書では,「ロ号物件の納入にあたっては試運転を行いましたが,
パッキンが発熱するといった問題は生じませんでした。」と述べる
のみである。),この点に照らしても,パッキンにより回転筒下端
の環状隙間を塞いでいるとの被告の主張はにわかに信用し難い。
(b)また,被告は,この点につき,ロ号物件において回転筒に空気導
入孔を設けることは,回転部と固定部との間に設けられたオイルシ
ールを保護するという技術的意義があるとして,パッキンにより回
転筒下端の環状隙間を塞いでいるにもかかわらず,回転筒に空気導
入孔を設けていることに合理性がある旨主張し,これに沿う証拠と
して被告の研究員の陳述書(乙46)がある。
上記陳述書は,ロ号物件の「空気導入孔」にはオイルシールを保
護するという技術的意義があることを説明するものである。同陳述
書においては,その技術的意義について,「a部には送風装置から
空気を送り込むためのエアダクトが接続されており加圧空気が流入
するのですが,a部とb部の間には等圧管も存在しないので,送風
装置の稼働時にはa部の気圧がb部の気圧よりも高くなるなど,両
者に気圧差が生じてしまいます。そこで,回転筒の空気導入孔を維
持すれば,環状隙間c部およびb部c部間の等圧管を介して,a部
とb部の気圧を等しくすることができます。」と説明されているも
のの,パッキンにより回転筒下端の環状隙間を塞いでいるにもかか
わらず,気圧差を生じる原因となる送風装置を設けなければならな
い技術的理由について,十分な説明がされているとはいえない(平
成19年11月22日付け被告第7準備書面20頁参照)。仮に,
センターシュートと回転筒との間の環状隙間の圧力を,粉砕機内部
の圧力よりも高くする必要性があったとしても,パッキンにより回
転筒下端の環状隙間を塞いでいるのであれば,分級機設置時に,加
圧空気を吹き込んだ上で密封すれば足りるとも考えられる。
被告が主張するオイルシールは,軸受部に供給されている潤滑用
のオイルが漏れないようにするためのパッキンである。乙第46号
証の別紙拡大図の「パッキン1」は,そもそも,「b」部から
「a」部へのオイルの漏出をシールするものであり,「a」部から
「b」部への空気の流入を完全にシールすることはできない(甲2
1)。また,「a」部の圧力が高まり,「a」部から「b」部に空
気が流入しても,パッキンの「リップ」が開いて隙間ができるだけ
であり(甲22),パッキンが破損することはないし,等圧管を用
いて,「a」部,「b」部,「c」部及び「d」部は等圧となるか
ら,パッキンを保護するための構造として空気導入孔を設ける必要
もないと考えられる。
以上によれば,オイルシールを保護するという技術的意義がある
ことをもって,パッキンにより回転筒下端の環状隙間を塞いでいる
にもかかわらず,回転筒に空気導入孔を設けている点を合理的に説
明し得たとは言い難い。
b被告の主張する構成では,回転筒下端の環状隙間のパッキンはセン
ターシュートに接するように設けられ,回転筒と共に回転するパッキ
ンが,固定されたセンターシュートに接した状態で回転筒が回転する
ことになる。
被告は,ロ号物件については,発熱が問題となることはなかったと
するものの,パッキンとセンターシュートとが接触した状態又はパッ
キンがセンターシュートに押し当てられた状態で,回転筒が回転すれ
ば,両者の間には,当然に摩擦熱が生じ,温度が上昇するものと考え
られる。そして,これが連続運転により長時間持続すれば,過熱され
て発火等の危険も生じ得ることが予想される(ロ号物件は石炭粉砕用
の設備である。)。それにもかかわらず,ロ号物件への設計変更の段
階でその安全性の確認等が行われたことについては特段の言及がない
ことは前述のとおりであり,被告において,パッキンにより回転筒下
端の環状隙間を塞ぐとの構成を安全性の十分な検討もなく,採用した
とはにわかに考え難い。
また,被告は,ロ号物件については発熱が問題となることはなかっ
たとする一方で,当初製造されたイ号物件(製造時点ではロ号物件と
同様に環状隙間をパッキンで塞いでいた)については,試運転の際に
パッキンの発熱が問題となったとするものの(乙27),ロ号物件に
ついてのみ摩擦熱による発熱が問題とならなかった理由について,合
理的な説明はない。
c被告は,センターシュートの外形寸法とパッキンの内径寸法とは同
じ寸法に設計されており,パッキンはセンターシュートに接している
旨主張する。
しかしながら,原告が主張するように,ロ号物件のように長さ数メ
ートルにも及ぶセンターシュートを持つ粉砕機において,完全な真円
のセンターシュートやパッキンを製作することは工業技術上不可能で
ある(甲28。被告は,乙52において,寸法公差があることを認め
ている。)。
また,上記のとおり,ロ号物件のセンターシュートは相当の大きさ
の設備であることやセンターシュートの内部空間を粉砕される石炭塊
が落下していくことを考えれば,全く軸心のずれが生じないとは考え
難い(甲23,27)。
d被告は,パッキンを取り付けた際,パッキンとセンターシュートと
の間に,寸法公差によりギャップが存在し得るとしても,パッキンを
リングで全周にわたって押さえ付けることでパッキンが内径の中心方
向に延びること及びミル運転中にミル内部の温度が上昇してセンター
シュートが膨張し,環状隙間が狭められること,によって当該ギャッ
プは塞がれるものと推測される旨主張する。
しかしながら,被告の上記推測(乙52)は,その計算に用いる数
値の算出根拠が明確とはいえず,直ちに信用することができない。
(ウ)以上検討したところによれば,パッキンにより回転筒下端の環状隙間
を塞いでいる旨の被告の主張はにわかに採用することはできない。
かえって,回転筒円周に30個の空気導入孔を設け,空気導入孔の周
囲に空気室を設け,空気室と送風装置とをシールエアダクトにより接続
して,送風装置から空気室に空気を吹き込むことにより,空気導入孔を
通じてセンターシュートと回転筒との間の環状隙間の空気を加圧するこ
とができるように構成されていることに照らせば,ロ号物件においては,
センターシュート(1)と回転筒(16)との間の環状隙間は,回転筒
(16)下端で塞がれてはおらず,ハ号物件と同様に,回転筒の下端か
ら空気が噴出するように構成されているものと認めるのが相当である。
イ構成要件Hの「回転筒の下端から噴出する」の意義は,前記1(4)で
述べたとおりである。
ロ号物件においては,センターシュート(1)と回転筒(16)との間
の環状隙間は,回転筒(16)下端で塞がれてはおらず,環状隙間に,加
圧雰囲気よりも高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から空気が噴出
するように構成されているから,構成要件Hの「この隙間に加圧雰囲気よ
りも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構
成した」を充足する。
(4)まとめ
以上によれば,ロ号物件は本件発明の構成要件AないしIをいずれも充足
するから,本件発明の技術的範囲に属する。
3争点3(ハ号物件は本件発明の技術的範囲に属するものか)について
前記争いのない事実等(5)記載のとおり,ハ号物件は本件発明の構成要件
A,B,D,E,F及びIを充足する。
以下,ハ号物件が構成要件C,G及びHを充足するか否かについて検討する。
(1)争点3−a(構成要件Cの充足性)について
ア構成要件Cの「上方」の意義は,前記1(1)で述べたとおりである。
ハ号物件のセンターシュート(1)は,粉砕ローラ(ローラタイヤ)
(8)の上方で,ケーシングの水平方向中央に位置した状態で垂直に配設
されている(別紙4−1の構成ハc1及び別紙4−2)。
したがって,ハ号物件は,構成要件Cの「粉砕ローラの上方にケーシン
グの中央に位置した状態で垂直にセンターシュートを配設し,」を充足す
る。
イこの点,被告は,構成要件Cにいう「上方」とは,「粉砕部から真上に
上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」の意
味であるとした上で,ハ号物件では,含塵ガスは粉砕ローラの外側(粉砕
機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し,内壁側から回転ベーンに流入
するから,粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつか
る構造を有さず,構成要件Cを充足しない旨主張するものであって,「粉
砕部から上昇した含塵ガスが回転筒の下端にぶつかる」という現象が生じ
ること自体を否定するものではない。
ハ号物件は,「回転筒(16)下端から3730ミリメートル程度離れ
た上方位置に,上記回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(17)
を設け,該空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定された空気室
(18)を設け,該空気室と送風装置とをシールエアダクト(19)によ
り接続し,上記送風装置から上記空気室に空気を吹き込むことにより,上
記空気導入孔を通じて,上記センターシュート(1)と上記回転筒との間
の環状隙間に空気を導入できるようにしている」(別紙4−1構成ハg),
「上記環状隙間は・・・この隙間に回転筒(16)下端における空気の噴
出速度が平均117メートル毎秒程度となるような加圧雰囲気よりも高い
圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端全周から空気が噴出するように構成
している。」(同構成ハh)との構成を有することから明らかなとおり,
センターシュートと回転筒との間の環状隙間にエアシールを施しているこ
とに照らし,ハ号物件においても,本件発明が解決しようとする課題に係
る現象,すなわち,「粉砕部から上昇したガス流が回転筒の下端にぶつか
る」という現象は生じているものと認められる。
そして,被告が主張する上記解釈(粉砕部から「真上に」上昇したガス
流が回転筒の下端に「直接」ぶつかることとなる上方位置)を採用するこ
とができないことは,前記1(1)で述べたとおりである。
ウなお,被告は,ハ号物件においては,含塵ガスは粉砕ローラの外側(粉
砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し,内壁側から回転ベーンに流
入するのであり,これとは別に,粉砕機の中心部に向かって上昇する含塵
ガスは存在しない旨主張する。
しかしながら,ハ号物件におけるスロートは,粉砕機の円周方向に傾い
ているだけでなく,粉砕機の中心方向にも傾いているのであるから(乙2
5,27),スロートからの熱風が,粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)
にのみ向かうとは考え難い。
また,ハ号物件においては,粉砕機の円周方向に傾いているだけでなく
粉砕機の中心方向にも傾いているスロートから,高圧の空気が噴出してお
り,また,粉砕部の中心部の空気の圧力はスロート部より噴出された空気
の圧力より低いのであるから,円周方向に向けて噴出された熱風も次第に
拡散しつつ,その一部は,圧力の低い粉砕機の中心部に向かう流れを形成
するものと考えられる。
以上によれば,ハ号物件においては,粉砕機の中心部に向かって上昇す
る含塵ガスも存在するものと考えられるから,この点においても,「粉砕
部から上昇したガス流が回転筒の下端にぶつかる」という現象が生じてい
るものと考えられる。
(2)争点3−b(構成要件Gの充足性)について
構成要件Gの「所定距離」及び「回転筒下端から所定距離離れた上方位置
に・・・空気導管を取付け」の意義は,前記1(3)で述べたとおりである。
ハ号物件においては,回転筒(16)下端から3730ミリメートル程度
離れた上方位置に,上記回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(1
7)を設け,該空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定された空気
室(18)を設け,空気室と送風装置とをシールエアダクト(19)により
接続し,送風装置から空気室に空気を吹き込むことにより,空気導入孔を通
じて,センターシュート(1)と回転筒との間の環状隙間に空気を導入する
ことができるように構成されており(別紙4−1構成ハg。なお,別紙4−
3「空気室と空気導入孔の構造」参照),上記環状隙間に加圧雰囲気よりも
高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端全周から空気が噴出するように構
成している(別紙4−1の構成ハh)。
したがって,ハ号物件は,構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れた
上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシュ
ートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,」を充足する。
(3)争点3−c(構成要件Hの充足性)について
構成要件Hの「回転筒の下端から噴出する」の意義は,前記1(4)で述
べたとおりである。
ハ号物件においては,回転筒(16)下端において,センターシュート
(1)との間に,1.2ミリメートルから2.4ミリメートル程度の隙間が
あり,センターシュート(1)と回転筒(16)との間の環状隙間に,加圧
雰囲気よりも高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端全周から空気が噴出
するように構成している(別紙4−1の構成ハh)。
したがって,ハ号物件は,構成要件Hの「この隙間に加圧雰囲気よりも高
い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成した」
を充足する。
(4)まとめ
以上によれば,ハ号物件は本件発明の構成要件AないしIをいずれも充足
するから,本件発明の技術的範囲に属する。
4争点4(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について
(1)無効理由1(乙第6号証と乙第7号証に基づく無効理由)について
ア乙6文献に記載された発明
乙6文献には次の記載がある(訳文による。以下,外国語の書証につい
ては,同様とする。)。
(ア)「2.ミルの構造
より大きいボイラユニットは,このボイラの燃料需要を同数の3∼4個
のユニットでカバーするため,益々大きなミルを要求している。数年前
でも粉塵送風機を後置接続している石炭吹込みミルが未だ圧倒的に使用
されていたが,そのうち,増圧送風機を前置接続している加圧ミルが一
般に認められてきた。」(抄訳⑤)
(イ)「加圧運転のためには,今まで使用してきた構築を変更しなければな
らなかった。何故なら,ハウジングの中を貫通する揺動アームの気密封
止が困難になるからである。全く新しい構造が生じた。(図2)」(抄
訳⑥)
(ウ)「(判決注・図面省略)
図2:新しい設計のローラミル
a;ミルの伝動機構e;揺動粉砕ローラ
b;粉砕皿f;羽根の輪
c;粉砕ローラg;ストッパー緩衝器
d;油圧バネシステムf;フラップ遠心力分級機」(抄
訳⑦)
(エ)「3.分級機
説明したローラミルには二つの構造様式の分級機が装備され得,一つ
のフラップ遠心力分級機(図2)または一つの回転分級機(図4)
(判決注・判決書別紙5−1は,図4に被告が符号を書き入れた参考
図である。)である。この回転分級機には粒度特性曲線の勾配が急な
良好な分級効率がある。回転数を連続的に調整して,この特性曲線を
粗い領域あるいは微細な領域の中で変化させることができる。この分
級機は,極度に均一な,もしくはより繊細な仕上がり炭塵を搬送する
場合に必ず採用される。」(抄訳⑨)
(オ)「(判決注・図面省略。別紙5−1参照)
図4:V字ベルトによる上部駆動体を有する回転分級機
a;分級羽根を含む周回する円錐体
b;ころ軸受を伴うV字ベルトにプーリー
c;分級機の出口」(抄訳⑩)
上に認定したところによれば,乙6文献には,「粉砕皿と,この粉砕皿
上に配置された粉砕皿の回転に伴って従動回転する複数個の粉砕ローラと
を有し,粉砕ローラの上方にセンターシュートが存在し,分級体を有する
回転する円錐体を設け,ローラミル内部を加圧雰囲気とした構成にした回
転式加圧型セパレータをそなえたローラミル」の発明(以下「乙6発明」
という。)が記載されているということができる。
イ乙7公報に記載された発明
乙7公報には,次の記載がある。
(ア)「遠心力を利用した衝撃装置及びその支持構造」(抄訳①)
(イ)「本発明は,遠心力を利用した衝撃装置に関するものであって,連続
的に移動する物体を遠心力により,非常に高速度で外方向に激突させる
ための電動ローターからなる。本発明はより詳細には,電動機及びロー
ターのための支持構造にも関する。流動性の物体に遠心力を利用して衝
撃を与えるための設備は,粒子の微細化,破壊及び粉砕,並びに化学,
冶金その他の工業における様々な種類の物質の変形といった,様々な目
的のために使われた。」(抄訳②)
(ウ)「図6(判決注・判決書別紙5−2は,乙7公報の図6に被告が着色
等を施した参考図である。)は,図3に示された構造のうち,エアシー
ルに関係する部分を拡大した部分的な垂直断面図である。」(抄訳③)
(エ)「図3及び図6の参酌によって明らかなとおりであるが,ローターの
ケーシングから汚染物質が漏洩することを防止するため,空気を逆流さ
せる作用を及ぼすための構造を提供する。図示されているように,リン
グ状の構成要素(202に大まかに図示されている)は,カバープレー
ト32に適切に固定される。リング202は流路206を形成し,これ
はリング202により形成される環状の流路208に至っている。リン
グ202の環状部品202aは,流路208の直上に配置されるととも
に,スリーブ127に隣接しており,流路210a,210bおよび2
10cが形成される。各種部品は,カラー127及び環状部品202a
の間に若干の間隔(図面において誇張した)が形成されるような寸法に
設計されている。これらの間隔の寸法は,加圧空気がパイプ216を経
て流路206に入ったときに,リング202とスリーブ127との隙間
を抜けるよりも,流路210a,210b及び210cを抜ける方がよ
り大きな抵抗を受けるように設計されている。このようにして,流路2
06に流入する空気の大部分は,ローターのケーシング内部に向かって
下向き矢印の流路の方へと進むこととなるのであり,これにより,危険
ないし有害なおそれのある粒子が外部に向かってケーシングから上方へ
出ていくことを防止する。」(抄訳④)
上に認定したところによれば,乙7公報には,「パイプ216を介して
リング202とスリーブ127との隙間に加圧空気を入れ,加圧空気がリ
ング202とスリーブ127との隙間を抜けるように構成した衝撃装置」
の発明(以下「乙7発明」という。)が記載されているということができ
る。
ウ被告は,乙6発明にかかる回転式分級機の構造について,本件発明と同
じく,センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設けており,
センターシュートと回転筒との間に「環状隙間」が存在する旨主張する。
しかしながら,乙6文献中には,図4の回転式分級機の構造について上記
アで認定した以上に具体的に説明した記載は見当たらず,図4自体もどの
程度の正確性をもって記載されているか不明であると言わざるを得ず,回
転分級機の構造が明瞭に記載されているとみることはできない。したがっ
て,乙6文献の記載からは,乙6発明にかかる回転式分級機について,セ
ンターシュートの外側に同心状に回転筒を設けたものであることまでは認
められるものの,センターシュートと回転筒との間に本件発明と同じく
「環状隙間」が設けられているものであるか否かは不明であるといわざる
を得ない。
被告は,乙6文献の刊行時の前後において,乙6文献に開示されている
形状においてセンターシュートの周りで分級機を回転させようとする場合,
センターシュートの周りに同心円状に回転筒を設け,センターシュートと
回転筒の間には環状隙間が存在するという構成は当業者の技術常識となっ
ていたと主張し,その根拠として,乙第39号証の1,乙第53号証の1,
乙第58号証,乙第59号証の1,乙第60号証,乙第69号証,乙第8
9号証の1を挙げる。
(ア)乙第39号証の1は,1961年(昭和36年)4月に発行された論
文集「MITTEILUNGENDERVEREINIGUNGDERGROSSKESSELBESITZER」
に所収の「ボイラ装置のための石炭の粉砕」と題する論文(以下「乙3
9の1文献」という。)であり,乙53号証の1は,同論文集に所収の
「ロールミル」と題する論文(乙53の1文献)である。両論文は,い
ずれも乙6文献に記載された回転分級機と製造元を同じくするロッシェ
社製の回転分級機について述べたものであり,乙39の1文献の図9と
乙53の1文献の図2は同一の回転分級機についての同一図面である。
被告は,同図面の回転分級機には「環状隙間」及び「回転筒」が存在す
る旨主張する。しかしながら,同図面の回転分級機については,シュー
トがどのように粉砕機に設置されているか,回転分級機とどのような関
係になっているか等具体的な構造の説明がなく,また,同図面がどの程
度の正確性を持って記載されているか不明であるといわざるを得ないか
ら,乙39の1文献及び乙53の1文献に,センターシュートの周りに
同心円状に回転筒を設け,センターシュートと回転筒の間には環状隙間
が存在するという構成が開示されているということはできない。
(イ)乙第58号証は,1955年(昭和30年)6月2日に公開された旧
西ドイツ実用新案公報(乙58公報)である。その記載内容は,後記
(5)アのとおりであり,同記載と同文献の図によれば,同文献には,
センターシュートに相当する供給管(2)の周りに,回転式セパレータ
に相当する風力分級機(1)の回転筒が回転する構成が示されていると
認められるものの,加圧式であるか負圧式であるかの開示はなく,不明
である。
(ウ)乙第59号証の1は,1959年(昭和34年)8月5日付けで発行
された雑誌「Brennstoff−Wärme−Kraft」11巻8号355頁に掲載
された「DasKraftwerkHighMarnham」と題する論文(乙59の1
文献)であり,その記載内容は,後記(7)ア記載のとおりであり,同
記載によれば,同文献には,3つのローラが設置された負圧型の粉砕装
置であって,水分含有量の多い石炭が供給管内で詰まることを防止する
ために粉砕装置をバンカーの直下に配置し,供給管を粉砕器中央に設け
たこと,センターシュートと回転筒の間に環状隙間が存在する粉砕装置
が開示されていることが認められる。
(エ)乙第60号証は,1975年(昭和50年)1月9日に公開された風
力分級機の発明についての旧西ドイツ特許出願公報(以下「乙60文
献」という。)である。同文献には,「本風力分級機は,通常,ハウジ
ング1とカバー2から構成される。該カバーの上には,分級機のシャフ
ト3用ないしシャフト群3,4用の動力装置(個別には記載しない)が
設置されている。該カバー2の内部には,分級機のシャフト3ないしシ
ャフト群3,4が軸受けされている。中空構造となっているシャフト3
を貫通して,分級機への材料供給のための中央供給管5が垂直に挿入さ
れている。シャフト3は,放散盤6,分級ホイール7および送風ホイー
ル8用の駆動回転シャフトとして機能しうる。」(抄訳3頁末行∼4頁
6行)との記載がある。同記載と同文献の図1ないし3によれば,同公
報の分級機は,「センターシュート」に相当する中央供給管5の周りに,
回転式セパレータに相当する風力分級機のシャフト3(回転筒)が回転
する構造を有するものであると認められるものの,加圧式であるか負圧
式であるかの開示はなく,不明である。
(オ)乙第69号証は,1974年(昭和49年)に発行された書籍「Cr
ushingandGrinding」からの抜粋(以下「乙69
文献」という。)である。同文献の記載と図8.30とによれば,同文
献には,ロッシェ社製の粉砕機についての記載があり,図8.30には,
3つのローラーが設置された粉砕機において,そのセンターシュートと
回転筒との間に環状隙間が存在していることが認められるものの,同粉
砕機が加圧式であるか負圧式であるかは,不明である。
(カ)乙第89号証の1は,1960年10月に発行された雑誌「MITTEIL
UNGENDERVGB」68巻297頁に掲載された「Entwicklungstenden
zenimenglischenKesselbauseit1950」と題する論文(以下
「乙89の1文献」という。)である。同文献には,「22図は最新構造
の3−ローラミルを示している。これは,11図のボイラーのために製
作され,27トン/hの名目性能を有しているが,まだ吸引ミルである。
16図のボイラーのための最新ミルは,57トン/hの名目性能を有し,
加圧化(判決注・「加圧下」の誤記と認める。)で稼働する。小さいほ
うのミルはなお分級機を有しており,大きい方では分級機は外部に設置
された。」(抄訳)との記載がある。同記載と同文献の図22とによれ
ば,同図のミルは3つのローラーが設置された負圧型のミルであり,そ
のセンターシュートと回転筒との間に環状隙間が存在していることが認
められる。同文献の上記記載中には,加圧型のミルの存在が示唆されて
いるものの,分級機が外部に設置されたもののことであり,図22のミ
ルとは異なるものである。
上記(ア)ないし(カ)において述べたところによれば,加圧式の粉砕
機に用いる回転式分級機の構造として,センターシュートの外側に同心状
に回転筒を回転可能に設けること,及びその「センターシュート」と回転
筒との間に「環状隙間」が存在することが一般的な技術常識であったと認
めることはできず,他にこれを認めるに足る証拠はない。
被告の上記主張は,いずれも採用することができない。
エ上に述べたところによれば,乙6発明において,本件発明と同じく,セ
ンターシュートと回転筒との間に環状隙間が存在することを前提とする無
効理由1は,その前提を欠くものである。乙7発明が上記の構成を備えて
いると認めることはできないから,乙6発明に乙7発明を適用することに
よって本件発明の構成に想到することが容易であったと認めることはでき
ない。
無効理由1は理由がない。
(2)無効理由2(乙第6号証と乙第8号証に基づく無効理由)について
ア乙6発明の内容は(1)で認定したとおりである。
イ乙8公報に記載された発明
乙8公報には次の記載がある。
(ア)「この発明は石炭の閉塞が生じない石炭粉砕機のシュートに関する。
石炭粉砕機の一種である竪型ボールミルは軸心をほぼ鉛直に配置した
シュートにより原料炭を自然落下させ,粉砕部において所定の粒径の
粉砕炭に粉砕するものであるが,粉砕機の運転中にシュート内で原料
炭が詰まってしまい,粉砕機の運転を停止せざるを得ないような事態
が生ずることがある。先ず第1図において竪型ボールミルの作動状態
の概略を説明すると,原料炭Cはシュート8内を自然落下して粉砕機
本体1の下部粉砕輪5に至り,この粉砕輪の遠心力によりボール7側
に移動し粉砕される。粉砕された石炭は空気入口15から流入する乾
燥用空気A(200∼300℃)により分級器12に搬送され,所定
の粒径以下の粉砕炭はこの乾燥用空気と共に微粉炭出口14を経て燃
焼装置に供給される。一方所定の粒径より大きな粉砕炭は下降して再
度粉砕される。以上の装置において,原料炭中に粘土分が多く含まれ
ていると,原料炭の一部がシュート内に付着し,かつ乾燥用空気によ
り熱せられたシュート壁面は相当の高温となっているため固化する。
この固化部を核としてさらに原料炭が付着生長し,ついにはシュート
を閉塞することになる。シュートの閉塞は単に石炭の粉砕および粉砕
炭の供給が不可能になるのみならず,ボールや上下の粉砕輪を摩耗す
ることにもなる。この発明の目的は上述した従来技術の問題点を除去
し,原料炭の閉塞が生じない竪型ボールミルを提供することにあ
る。」(1頁左欄18行ないし2頁左上欄8行)
(イ)「第2図(判決注・判決書別紙5−3)は以上の実験結果に基づいて
構成したシュートの構造を示す。シュート8の外部にはこのシュート
8と同一軸心線上に位置するよう外筒17を配置し,この外筒17と
シュート8の間に冷却空気通過用の環状空間20を形成する。外筒1
7の上部には冷却用空気供給管18が接続し,一方外筒17の下端部
は環状空間20の開口部つまり冷却用空気出口19となっている。環
状空間20に供給する冷却用空気A1は常温のもので良くこの冷却空
気A1の通過によりシュート8の壁面温度を降下させる。環状空間2
0を下降した冷却用空気A1は出口19から噴出するが,この冷却空
気の流れにより分級機12において分級された大径の粉砕炭が再度舞
い上がることなく良好に粉砕部に落下するという副次的効果も発揮す
る。」(2頁右上欄18行ないし左下欄12行)
上に認定したところによれば,乙8公報には,「下部粉砕輪5と,この
下部粉砕輪5上に配置された複数個のボール7とを有し,ボール7の上
方に,その軸心をほぼ鉛直に配置したシュート8を配設し,シュート8
の外側に同心状に外筒17を設けたボールミルにおいて,外筒下端から
所定距離離れた上方位置に冷却空気供給管18を取り付けて外筒17と
シュート8との間の環状空間20とを接続させ,この環状空間20に冷
却空気を供給し,出口19から噴出するように構成した分級機12を備
えたボールミル」の発明(以下「乙8発明」という。)が記載されてい
るということができる。乙8発明において,シュート8の外側に同心状
に配置された外筒17が回転可能に設けられていることを認めるに足る
証拠はない。
ウ(1)で説示したところによれば,乙6発明において,本件発明と同じく,
センターシュートと回転筒との間に環状隙間が存在することを前提とす
る無効理由2は,その前提を欠くものである。乙8発明が上記回転筒の
構成を備えていると認めることはできないことは上記認定のとおりであ
るから,乙6発明に乙8発明を適用することによって本件発明の構成に
想到することが容易であったと認めることはできない。
無効理由2は理由がない。
(3)無効理由3(乙第53号証の1と乙第7号証に基づく無効理由)について
ア乙53の1文献に記載された発明
乙53の1文献には次の記載がある。
(ア)「Loescheミル
Loescheミル(図2)(判決注・判決書別紙5−4は,乙53の
1文献の図2に被告が部位等を書き入れた参考図である。),即ち,バ
ネ・ロールミルは,ミルのサイズに応じて40−90rpmで回転する
粉砕台からなり,2つの大きい円錐形粉砕ローラーが粉砕台上に転動す
る。・・・(中略)・・・
ミルのハウジング上に設置された分級機は,長年,スリット板を備えた
回転する篩ゲージとして構成されていたが,近年,アメリカで普及した
分級羽根を有する構造が使用されている。」(抄訳3頁22行ないし4
頁8行)
(イ)「ミル送風機
・・・(中略)・・・
吹き込みミル内における乾燥を行うために,空気予熱機からの熱風また
は排煙ガスを使用できる。使用目的にもとづき,このミルは,その都度,
負圧(大気圧以下の圧力),半圧(大気圧付近の圧力),全圧(大気圧
以上の圧力)で運転する(図7)。」(抄訳5頁20行ないし6頁12
行)
(ウ)「Loescheミルは,現在,全ての部位が完全に気圧シールされ
ているので,全圧(大気圧以上の圧力)の加圧ミルとしても運転できる。
このミルは,回転する部位において,機械的には,実証ずみの摺動リン
グパッキンによってシールされ,加圧ミルにおいてはさらにシール空気
が供給される。機械的シールはそれゆえ,冷気が加わる量を最小限に維
持する。回転部分の軸受は,リップパッキンまたはジンマーリングパッ
キン(訳者注:オイルシールパッキン)に加えて,洗浄空気によって粉
塵進入から守られる。」(抄訳6頁21行ないし26行)
上に認定した記載と乙53の1文献の図2によれば,同文献には,
「回転する粉砕台と,この回転する粉砕台上に配置された粉砕台上を転
動する2つの粉砕ローラーとを有し,粉砕ローラーの上方にケーシング
の中央に位置した状態で垂直にセンターシュートを配設し,分級羽根を
備えた回転する分球篩を設けた加圧ミル」の発明(以下「乙53の1発
明」という。)が記載されているということができる。
イ乙7発明の内容は,(1)で認定したとおりである。
ウ被告は,乙53の1文献の図2の回転分級機には「環状隙間」及び「回
転筒」が存在する旨主張する。しかしながら,同図面の回転分級機につい
ては,シュートがどのように粉砕機に設置されているか,回転分級機とど
のような関係になっているか等具体的な構造の説明がなく,また,同図面
がどの程度の正確性を持って記載されているか不明であるといわざるを得
ないから,乙53の1文献に,センターシュートの周りに同心円状に回転
筒を設け,センターシュートと回転筒の間には環状隙間が存在するという
構成が開示されているということができないことは,前記(1)ウ(ア)
で説示したとおりである。
エそうである以上,乙53の1発明において,本件発明と同じく,センタ
ーシュートと回転筒との間に環状隙間が存在することを前提とする無効理
由3は,その前提を欠くものである。乙7発明が上記の構成を備えている
と認めることはできないから,乙53の1発明に乙7発明を適用すること
によって本件発明の構成に想到することが容易であったと認めることはで
きない。
無効理由3は理由がない。
(4)無効理由4(乙第53号証の1と乙第8号証に基づく無効理由)について
ア乙53の1発明の内容は(3)で,乙8発明の内容は(2)で認定した
とおりである。
イ(3)で説示したところによれば,乙53の1発明において,本件発明
と同じく,センターシュートと回転筒との間に環状隙間が存在することを
前提とする無効理由4は,その前提を欠くものである。乙8発明が上記の
構成を備えていると認めることはできないから,乙53の1発明に乙8発
明を適用することによって本件発明の構成に想到することが容易であった
と認めることはできない。
無効理由4は理由がない。
(5)無効理由5(乙第58号証と乙第7号証に基づく無効理由)について
ア乙58公報には次の記載がある。
(ア)「保護請求
1)粉砕乾燥工程において駆動し,水平で回転する粉砕盤を有する気流
ミルに,湿った,粘り気のある原材料の供給装置であって,貯蔵庫から
の排出口に接した落下管を,回転する粉砕盤のほぼ上まで下方延伸し,
それにより,原材料群が回転により,同じ様に継続的に排出されるよう
にしたことを特徴としたもの」(抄訳4頁1行ないし5行)
(イ)「水平な回転式粉砕軌道(下方に位置した動力によって駆動し,その
上でローラや他の粉砕主要部がスプリングで押し付けられている)とを
有するミルにおいて,これらミルは,粉砕乾燥工程における運転に用い
られるので,石炭や石灰石やボーキサイトその他のような湿った生原料
を同様にミルに供給するためには困難が発生する。なぜなら,これらの
原料は供給装置もしくは供給滑走路の中で,高い湿度のゆえに貼りつい
て離れなくなる傾向があるからである。
発明に従うと,この障害は,以下により解決される。すなわち,垂直
の供給管(2)を生原料の貯蔵庫の下に持ってきて,その供給管は中央
で,ミルの上方に存在する風力分級機(図の番号1)(判決注・判決書
別紙5−5は乙58公報の図に被告が符号等を書き入れた参考図であ
る。)を貫通して,回転する粉砕盤(3)の近くにまで下方に延伸され
る。盤の回転によって,粉砕盤は皿状排出機のように機能し,落下管の
中で待っている原料群および貯蔵庫を空にする。それにより,原料が粘
り付いて離れなくなるという危険はもはやなくなる。というのは,原料
貯蔵庫と粉砕室との間にはいかなる排出装置も空気遮断ももはや存在し
ないからである。
量的な調整のために,上述の落下管はミル上部を(望遠鏡のような)
入れ子型の管(4)に形成されるべきである。それによって,供給管の
下端と粉砕盤の上端の間に形成される円錐型の出口(5)が適切な高さ
に調整され,それにより排出量が調整される。この高さ調節は管(本来
の供給管の上に存在し,かつ,該高さ調整が,(下端と)同様に(斜め
に)切られ分級機の上に存在する(落下管の)反対側部上で回すことに
よって達成されうるように下端が斜めに切られている管)によってうま
く行うことができる。」(抄訳3頁3行ないし21行)
上に認定した記載と乙58公報の図によれば,同文献には,「回転す
る粉砕盤(3)と,この回転する粉砕盤(3)上に配置された複数個の
ローラーとを有し,垂直に供給管(2)及び入れ子式の管(4)の外側
に同心状に風力分級機(1)を回転可能に設けたミル。」の発明(以下
「乙58発明」という。)が記載されているということができる。
イアで認定したところによれば,乙58発明においては,センターシュー
トに相当する供給管(2)の周りに,回転式セパレータに相当する風力分
級機(1)の回転筒が回転する構成が開示されており,供給管(2),入
れ子式の管(4)及び回転筒の間に「環状隙間」が形成されているという
ことができるものの,これが加圧式のミル(粉砕機)であるか,負圧式の
ミル(粉砕機)であるかについては,乙58公報に開示がなく,不明であ
るといわざるを得ない。
したがって,本件発明と乙58発明とは,①本件発明が加圧式の粉砕機
であるのに対し,乙58発明は粉砕機の内部の圧力が不明であり,加圧式
の粉砕機であるか否かが不明である点,②本件発明では「回転筒下端から
所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転
筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,この隙
間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から
噴出するように構成した(構成要件G,H)ものであるのに対し,乙58
発明はそのような構成を備えていない点において,少なくとも相違する。
被告は,本件特許の出願時点において,シールを強化することによりミ
ル内部を加圧雰囲気として運転する構成は周知の技術常識であったから,
当該構成の採用は必要に応じて当業者が任意に定めることができる単なる
設計上の選択事項にすぎないと主張し,前記(3)ア(ウ)で認定したと
ころによれば乙53の1文献には,ミル装置についてシールを強化するこ
とによりミル内部を加圧雰囲気として運転することが記載されていること
が認められる。しかしながら,仮に,当業者においてシールを強化するこ
とにより粉砕機内部を加圧雰囲気とすることに思い至ることが容易であっ
たとしても,粉砕機を加圧式とした場合に,本件発明が解決しようとする
課題であるセンターシュートと回転筒との環状隙間に微粉が進入し固着発
達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転
筒内周面が摩耗して損傷するとの課題を認識し,この課題を解決するため
に上記②の相違点に係る構成に想到することが容易であったことを認める
に足りる証拠はない。
ウ乙7発明の内容は,(1)で認定したとおりであり,その構成は,本件
発明の上記②の相違点に係る構成とはかなり異なるものであり,乙58発
明のセンターシュートと回転筒との環状隙間に外部から空気を吹き込む構
成を示唆するものであると認めることはできず,前記イで説示したところ
に照らすと,乙58発明に乙7発明を適用することにより本件発明に想到
することが容易であるとはいえない。
無効理由5は理由がない。
(6)無効理由6(乙第58号証と乙第8号証に基づく無効理由)について
ア乙58発明の内容は(5)で,乙8発明の内容は(2)で認定したとお
りである。
イ(5)で説示したところによれば,乙58発明の粉砕機を加圧式とした
場合に本件発明が解決しようとする課題であるセンターシュートと回転筒
との環状隙間に微粉が進入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害した
り,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷するとの課題
を認識し,この課題を解決するために前記(5)イ②の相違点に係る構成
に想到することが容易であったと認めることができないことは,(5)イ
で説示したとおりである。
ウ上記イで説示したところによれば,乙58発明に乙8発明を適用するこ
とにより本件発明に想到することが容易であるとはいえない。
被告は,①乙8発明は,乙58発明と技術分野が同一であること,②乙
8発明も乙58発明も,センターシュートの壁面温度が高温となりセンタ
ーシュートの閉塞が生じるという課題において共通していることなどから,
乙58発明に乙8発明を組み合わせることに動機付けがあると主張する。
しかしながら,乙8発明と乙58発明の技術分野が同一であることは被
告の主張するとおりであるものの,乙58発明の粉砕機を加圧式のものと
することと,センターシュートの壁面温度の高温化を防止することとの間
に関連性があるとは認められないから,乙58発明の粉砕機を加圧式のも
のとしつつ,センターシュートの壁面温度の高温化防止のために乙8発明
を組み合わせることによって本件発明に想到することが容易であると認め
ることはできない。
無効理由6は理由がない。
(7)無効理由7(乙第59号証の1と乙第7号証に基づく無効理由)について
ア乙59の1文献に記載された発明
乙59の1文献には次の記載がある。
「粉砕装置
新式Lopulco型粉砕装置を図8及び9に示す。まず第一に,石炭流
入口を中央に移し,さらに,毎時27トンの出力を確保するために,従来
型では2基だったローラーを3基とした。図8(判決注・判決書別紙5−
6は,乙59の1文献の図8に被告が符号等を書き入れた参考図であ
る。)は二重分級機をローラーの上に設置した状態も示す。同分級機はま
だハウジング内に取り付けられているが,後の出力毎時57トンの開発品
では,粉砕装置と分級機を離して配置された。
・・・(中略)・・・
石炭の水分含有量が非常に高く,バンカーから粉砕装置への石炭供給パイ
プが詰まりやすい可能性を考慮しなければならないため,粉砕装置はバン
カー吐出口直下に配置した。しかし,これにより,粉砕装置から燃焼装置
までの間に,全ての直列加熱面及び空気予熱器を配置することになるため,
粉砕装置から燃焼装置までの距離が非常に大きくなる。このため,ここで
使用した負圧粉砕装置の場合には,粉砕装置とこれに帰属する燃焼装置と
の間に粉砕機ブロワーを装備することが有益であり,石炭を確実に連続供
給し,他の全ての問題を克服するには,同配置が最適であった。」(抄訳
2頁)
上に認定した記載と乙59の1文献に記載された図8とによれば,同文献
には,「複数個のローラーを有し,ローラーの上方にハウジングの中央に
位置した状態で垂直にセンターシュートを配設し,センターシュートの周
りに複式分級機の回転筒が回転する構成をそなえた粉砕装置。」の発明
(以下「乙59の1発明」という。)が記載されているということができ
る。
イアで認定したところによれば,乙59の1発明の粉砕機においては,負
圧型の粉砕機であって,水分含有量の多い石炭が供給管内で詰まることを
防止するために粉砕機をバンカーの直下に配置し,供給管を粉砕機直下に
設け,センターシュートと回転筒との間に環状隙間が存在していることを
認めることができる。
したがって,本件発明と乙59の1発明とは,①本件発明が加圧式の粉
砕機であるのに対し,乙59の1発明が負圧式の粉砕機である点,②本件
発明では「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡され
た空気導管を取付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風
装置とを連通させ,この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力を吹き込み,
回転筒の下端から噴出するように構成した(構成要件G,H)であるのに
対し,乙59の1発明はそのような構成を備えていない点において,少な
くとも相違する。
そして,仮に,当業者においてシールを強化することにより乙59の1
発明の粉砕機内部を加圧雰囲気とすることに思い至ることが容易であった
としても,粉砕機を加圧式とした場合に,本件発明が解決しようとする課
題であるセンターシュートと回転筒との環状隙間に微粉が進入し固着発達
して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒
内周面が摩耗して損傷するとの課題を認識し,この課題を解決するために
上記②の相違点に係る構成に想到することが容易であったと認めるに足り
る証拠はないことは,(5),(6)で説示したとおりである。
ウ乙7発明の内容は,(1)で認定したとおりであり,その機械構成は,
本件発明の上記②の相違点に係る構成とはかなり異なるものであり,乙5
9の1発明のセンターシュートと回転筒との環状隙間に外部から空気を吹
き込む構成を示唆するものであると認めることはできず,前記イで説示し
たところに照らすと,乙59の1発明に乙7発明を適用することにより本
件発明に想到することが容易であるとはいえない。
無効理由7は理由がない。
(8)無効理由8(乙第59号証の1と乙第8号証に基づく無効理由)について
ア乙59の1発明の内容は(7)で,乙8発明の内容は(2)で認定した
とおりである。
イ乙59の1発明の粉砕機を加圧式とすることした場合に本件発明が解決
しようとする課題であるセンターシュートと回転筒との環状隙間に微粉が
進入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート
外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷するとの課題を認識し,この課題を
解決するために前記(7)イ②の相違点に係る構成に想到することが容易
であったと認めることができないことは,(7)イで説示したとおりであ
る。
ウ上記イで説示したところによれば,乙58発明に乙8発明を適用するこ
とにより本件発明に想到することが容易であるとはいえない。
被告は,①乙8発明は,乙59の1発明と技術分野が同一であること,
②乙8発明も乙59の1発明も,センターシュートの壁面温度が高温とな
りセンターシュートの閉塞が生じるという課題において共通していること
などから,乙59の1発明に乙8発明を組み合わせることに動機付けがあ
ると主張する。
しかしながら,乙8発明と乙59の1発明の技術分野が同一であること
は被告の主張するとおりであるものの,乙59の1発明の粉砕機を加圧式
のものとすることと,センターシュートの壁面温度の高温化を防止するこ
ととの間に関連性があるとは認められないから,乙59の1発明の粉砕機
を加圧式のものとしつつ,センターシュートの壁面温度の高温化防止のた
めに乙8発明を組み合わせることによって本件発明に想到することが容易
であると認めることはできない。
無効理由8は理由がない。
(9)無効理由9(昭和62年改正前特許法36条4項違反の無効理由)につい

被告は,本件発明の構成要件Gの「所定距離」が具体的にどの程度の距離
であるのか明確でなく,本件明細書中にはその意義を特定し得る記載はない
から,本件特許の請求項の記載は,発明の構成に欠くことのできない事項を
記載したものとはいえず,本件特許は昭和62年改正前特許法36条4項の
要件を充たさない,と主張する。
しかしながら,本件発明における「所定距離」は,実際に装置を製造する
際に当業者が適宜設計し得る事項であるというべきであるから,その具体的
な範囲を特定することが発明の構成に必須の要件であるということはできな
い。
無効理由9は理由がない。
(10)無効理由10(昭和62年改正前特許法36条3項違反の無効理由)につ
いて
被告は,①本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても,構成要件
Gの「所定距離」が具体的にどの程度の距離であるかを特定することができ
ず,②構成要件Gは,空気導管を回転筒それ自体に取り付けることを意味す
るものの,本件明細書の発明の詳細な説明を参酌しても,高速で回転する回
転筒に具体的にどのような方法で空気導管を取り付ければ良いのかについて
方法の十分な開示がなく,当業者において本件特許を実施することができな
いものであるから,本件特許は,明細書の発明の詳細な説明が当業者におい
て容易に実施をすることができる程度に記載されたものとはいえず,昭和6
2年改正前特許法36条3項の要件を充たさない,と主張する。
しかしながら,上記①の点については,環状隙間への加圧空気の吹き込み
位置は,実際の装置において,通常の試行錯誤の範囲で設計可能な事項であ
るというべきであるから,「所定距離」の具体的な特定方法が明らかにされ
ていないことをもって,実施可能要件に違反すると認めることはできない。
また,上記②の点については,回転する円筒体に空気を導入する装置の構
成は,本件出願前に周知であったことが認められ(甲9,10),当業者に
とって,上記の構成を実施することは十分に可能であるというべきであるか
ら,実施可能要件に違反すると認めることはできない。
無効理由10は理由がない。
5争点5(損害額又は不当利得額)について
(1)上記1ないし3のとおり,イ号物件,ロ号物件及びハ号物件は,いずれも
本件発明の技術的範囲に属し,また,上記4のとおり,本件発明が特許無効
審判により無効とされるべきものであるとは認められないから,本件特許の
出願公告日である平成2年10月31日から平成4年10月26日までの間
における,被告によるイ号物件,ロ号物件及びハ号物件の製造,販売は,本
件特許の出願人が専有する「業としてその特許出願に係る発明の実施をする
権利」を侵害するものであり(平成6年法律第116号による改正前の特許
法52条1項),本件特許権が成立した平成4年10月27日から存続期間
が満了した平成14年6月29日までの間における,被告によるイ号物件,
ロ号物件及びハ号物件の製造,販売は,本件特許権を侵害するものである。
なお,別紙1のE発電所に販売されたイ号物件の製造者及びH発電所に販
売されたイ号物件の製造者は,証拠(乙98ないし101)及び弁論の全趣
旨によれば,いずれも被告であると認められる。
(2)前記争いのない事実等(6)記載のとおり,原告は,本件特許権の出願人
であり,特許権者であった宇部興産株式会社から,原告への本件特許権の移
転日である平成13年6月20日よりも前に発生した損害賠償請求権を譲り
受けた。
したがって,原告は,平成13年6月19日以前の被告の行為については,
譲受債権に基づき,本件特許権の移転日である平成13年6月20日から本
件特許権の存続期間の満了日である平成14年6月29日までの間における
被告の行為については,不法行為に基づき,被告に対し,本件発明の実施に
対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を損害の額として賠償を請求す
ることができる(特許法102条3項)。
(3)被告の売上額について
ア販売数量について
(ア)被告は,別紙1のA発電所へのハ号物件の販売数量6基のうち,3基
については,本件特許の出願公告前に納入されたものであるから,損害
賠償額の算定の基礎から除外されるべきであると主張するのに対し,原
告は,これについても本件特許の出願公告後に実施(譲渡)されたもの
であるから,損害賠償額の算定の基礎とされるべきであると主張する。
なお,この点を除き,別紙1記載の被告製品の販売数量については当事
者間に争いがない。
(イ)この点,証拠(乙94)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,A発電
所へのハ号物件の販売数量6基のうちの3基(「Aミル」,「Bミル」,
「Cミル」)については,遅くとも平成2年8月にはすべての部品の納
入を完了していたことが認められる。
しかしながら,ハ号物件が粉砕機であることに照らせば,粉砕機を構
成する部品の納入が完了したからといって,完成品たる粉砕機自体の納
入が完了したことにはならないというべきである。かえって,乙第10
6号証の「工程欄」には,機器の売上時期は平成3年9月であると記載
されていることからすれば,購入者が被告から粉砕機の引渡しを受けた
のは平成3年9月であったと認められるのであり,上記事実によれば,
上記3基(「Aミル」,「Bミル」,「Cミル」)についても,本件特
許の出願公告日である平成2年10月31日以降に実施されたものとい
うのが相当である。
イ売上額について
(ア)証拠(乙106ないし114)及び弁論の全趣旨によれば,別紙1記
載の被告製品の総原価額は,別紙6の表「ミル総原価」欄記載のとおり,
●(省略)●であると認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
(イ)ところで,本件においては,被告製品(ミルのみ)の売上高や収益率
を記載した資料は存しない。
そこで,上記ミル総原価額を基に,損害額算定の基礎とすべき被告製
品の売上高を算出することとする。
(ウ)AないしDの各発電所分について
●(省略)●
(エ)EないしIの各発電所分について
●(省略)●
(オ)以上によれば,被告製品の売上高は,別紙6の表「ミルの売上高」欄
記載のとおり,●(省略)●となる。
(4)本件発明の寄与率について
ア本件発明は,「回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機」に係る発明で
あり,従来の回転式セパレータを加圧型の粉砕機に取り付ける場合に,セ
ンターシュートと回転筒との隙間に微粉が侵入し,固着発達して回転筒の
円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗
して損傷したりするのを防止するために,センターシュートと回転筒との
間に存在する隙間にエアシールを施すことを内容とするものである。
すなわち,従来負圧型の粉砕機に用いられていた回転式セパレータを,
加圧型の粉砕機にも適用することができるようにした点に特徴があり,こ
れにより,固定ベーン式のセパレータを備えた場合に比して,分級効率を
向上させることができるものである(甲2)。
また,証拠(甲51)によれば,①石炭焚ボイラの高効率化が求められ
るようになり,石炭を細かく砕いて燃焼するために,より細かい分級が可
能な回転式分級機が求められるようになったこと,②堅型ミルにおいては,
連続,安全運転を実現するため,石炭ホッパーから石炭を導き出し,粉砕
機に投入する際,サイドシュート方式は採用せず,ミルの中止部上方から
垂直に石炭を粉砕テーブルに供給するセンターフィード方式が要求される
こと,③イニシャルコストを安価に抑えることができ,また,コンパクト
なシステム構築が可能となることなどから,事業用ボイラでは加圧型の粉
砕システムが求められること,が認められる。本件発明は,上記①ないし
③の要求を同時に充たすために有用な技術であるといえる。
火力原子力発電に関する文献(甲3,20,33)において,「ミルは,
石炭焚ボイラの運用性,信頼性を支配する最重要機器の一つである。」,
「石炭火力発電所における微粉炭機(ミル)は,単に石炭を粉砕するとい
う機能だけでなく,電力の安定供給の観点から,発電プラントの信頼性を
大きく左右する重要な機器としての役割を持っている。」,「最近の石炭
焚ボイラでは,エグゾースタの摩耗による補修を必要としない加圧ミルが
多く採用されている」,「ミルの運用には摩耗部品の保守は非常に重要な
ことであり,従来から,耐摩耗材の開発,ロール・リング・ライナ等の取
替の簡便化など,常に考慮が払われてきた。」などの記載がある。
これらの記載に照らせば,ミルにおいては,機械の保守や耐摩耗性の観
点が重要であり,本件発明によって解決される課題が重要性を有すること
が分かる。
イ他方,イ号物件,ロ号物件及びハ号物件は,いずれも堅型ミルに分類さ
れるものである。堅型ミルは,大きく分けて,「駆動部(減速機部とも言
われる。)」,「粉砕部(粉砕乾燥部とも言われる。)」及び「分級部
(粗粉分離部とも言われる。)」,の3つの部分から構成される(甲3,
20,33)。
粉砕部(粉砕乾燥部)及び駆動部(減速機部)は,粉砕機の本来の機能,
すなわち,原料を粉砕する機能を担う部位であるのに対し,分級部(粗粉
分離部)は,粉砕部における粉砕の精度を担保するための分級を行う部位
である。
ウこれらのことに照らせば,粉砕機における本件発明の寄与率を考える場
合に,分級部に関連する部材の原価のみを基礎とするのは相当でない。
また,被告は,本件発明の代替技術が多数存在する旨主張する。しかし
ながら,パッキンその他のシール方法を用いることが,本件発明の代替技
術であるといえるまでに完成された手段であるのかについては,立証がな
い。
さらに,被告は,原告と被告とでは,顧客層や市場が異なる旨主張する
ものの,甲第49号証によれば,原告には,国内外を問わず,多数の堅型
ミルの納入実績があることが認められる。
エ以上で検討したところを総合考慮すると,粉砕機に対する本件発明の寄
与率としては,30%が相当である。
(5)実施料率について
●(省略)●
この点,被告は,被告とドイツ・バブコック社との間で締結された技術
提携契約書(乙62,63)に基づいて,実施料率を定めるべきである旨
主張する。
しかしながら,上記各契約は,回転分級機に関する技術を対象とするも
のの,本件特許権の実施を許諾したもの(あるいは,本件特許権を有する
者がその実施を許諾したもの)ではないから,これらに基づいて,本件に
おける実施料率を定めるべきであるとは言えない(特許権を侵害した者が,
特許権者以外の者との間で,特許権者の関与なく任意に定めた条件に従っ
て,実施料率を定めるのが相当でないことは,明らかである。)。
そもそも,上記各技術提携契約書(乙62,63)の内容からは,当該
契約で許諾対象とされている技術の具体的構成も実施料率も明らかである
とはいえない。
被告の上記主張は採用することができない。
(6)実施料相当額の損害賠償金額
以上によれば,実施料相当額の損害賠償金額は,次の計算式のとおり,合
計2億3167万3433円となる。
●(省略)●
(7)弁護士費用等
原告は,本件の訴訟追行を弁護士及び弁理士に委任して,報酬の支払を約
しているものと認められる(弁論の全趣旨)。
本件事案の内容,認容額,本件訴訟の経過等を総合すると,被告の行為と
相当因果関係のある弁護士費用等の額は2000万円と認めるのが相当であ
る。
(8)まとめ
以上によれば,実施料相当の損害賠償金及び弁護士費用等相当の損害賠償
金の合計は,2億5167万3433円である(なお,原告は選択的に不当
利得返還請求権に基づく請求を主張するものの,不当利得額が上記損害賠償
額を上回ることはない。)。
6結論
よって,原告の本訴請求は,被告に対し,2億5167万3433円及びこ
れに対する弁済期の経過した後である平成18年10月3日から支払済みまで
民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるか
ら,これを認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとお
り判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官柵木澄子
裁判官舟橋伸行
別紙1,別紙2−2,別紙2−3,別紙3−2,別紙3−3,別紙4−2,別紙4
−3,別紙6は省略
(別紙2−1)
イ号物件目録
イa回転テーブル(9)がある。
イbこの回転テーブル(9)の上に配置された,該回転テーブルの回転に伴っ
て従動回転する3個の粉砕ローラ(ローラタイヤ)(8)を有している。
イc1上記ローラタイヤ(8)の上方に,ケーシングの水平方向中央に位置した
状態で分級機ホッパ(5)が配設され,さらに分級機ホッパ(5)の上方に
ケーシングの水平方向中央に位置した状態でセンターシュート(1)が配設
されている。
イc2上記回転テーブル(9)の円周に粉砕機内壁に沿ってスロート(14)を
設け,該スロートより粉砕機内部に熱風を送風して粉砕された微粉炭を吹き
上げ,該微粉炭を空気搬送するようにしている。
イc3上記スロート(14)及び上記分級機ホッパ(5)により,粉砕された微
粉炭は粉砕機上部に空気搬送され,イe1記載の固定ベーン(15)におい
て分級され(この際に,一定以上の径の微粉炭は上記分級機ホッパ上面を滑
落し粉砕機下部へ落下する。),イe1記載の回転ベーン(4)においても
分級され(この際にも,一定以上の径の微粉炭は上記分級機ホッパの上面を
滑落し分級機下部へ落下する。),一定以下の径の微粉炭は送炭管(2)よ
り排出される。
イd上記センターシュート(1)の外側に,該センターシュートと同心状に回
転筒(16)が回転可能に設けられている。
イe1この回転筒(16)には,回転可能なベーン(回転ベーン)(4)が取り
付けられており,回転ベーン(4)の配置及び形状は,別紙2−2の図面,
別紙2−3の「分級機全体図」,「分級機を横から見た平面図」,「回転ベ
ーンの配置及び形状(上から見た図)」及び「回転ベーンの写真」のとおり
となっている。
イe2上記回転ベーン(4)の外側に,固定されたベーン(固定ベーン)(1
5)が配置され,固定ベーン(15)の配置及び形状は,別紙2−2の図面,
別紙2−3の「分級機全体図」,「分級機を横から見た平面図」,「回転ベ
ーンの配置及び形状(上から見た図)」のとおりとなっている。
イf内部を加圧雰囲気とした粉砕機である。
イg上記回転筒(16)下端から2メートルから3メートル程度離れた上方位
置に,上記回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(17)(長径は9
0ミリメートルから110ミリメートル程度,短径は30ミリメートルから
40ミリメートル程度)を設け,該空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング
側に固定された空気室(18)を設け,該空気室と送風装置とをシールエア
ダクト(19)により接続し,上記送風装置から上記空気室に空気を吹き込
むことにより,上記空気導入孔を通じて,上記センターシュート(1)と上
記回転筒との間の環状隙間に空気を導入できるようにしている。
イh上記環状隙間は下記構造を有しており,この隙間に回転筒(16)下端に
おける空気の噴出速度が平均約28メートル毎秒以上となるような加圧雰囲
気よりも高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端全周から空気が噴出する
ように構成している。

①上記環状隙間の間隔は,最も広いところで数十ミリメートル程度である。
②上記回転筒(16)下端と上記空気導入孔(17)の位置の間に隙間が
約10ミリメートルから20ミリメートル程度の狭隘部(20)が設けら
れている。
③上記回転筒(16)下端には,金属製のリング(21)及びパッキン
(22)を配することにより,上記センターシュート(1)と上記回転筒
の下端における環状隙間を1ミリメートルから2.4ミリメートル程度ま
で狭めている。
イi回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機である。
(別紙3−1)
ロ号物件目録
ロa回転テーブル(9)がある。
ロbこの回転テーブル(9)の上に配置された,該回転テーブルの回転に伴っ
て従動回転する3個の粉砕ローラ(ローラタイヤ)(8)を有している。
ロc1上記ローラタイヤ(8)の上方に,ケーシングの水平方向中央に位置した
状態でセンターシュート(1)が配設されている。
ロc2上記回転テーブル(9)の円周に粉砕機内壁に沿ってスロート(14)を
設け,該スロートより粉砕機内部に熱風を送風して粉砕された微粉炭を吹き
上げ,該微粉炭を空気搬送するようにしている。
ロc3上記スロート(14)により,粉砕された微粉炭は粉砕機上部に空気搬送
され,ロe記載の回転ベーン(4)により分級され(この際に,一定以上の
径の微粉炭は粉砕機下部へ落下する。),一定以下の径の微粉炭は送炭管
(2)より排出される。
ロd上記センターシュート(1)の外側に,該センターシュートと同心状に回
転筒(16)が回転可能に設けられている。
ロeこの回転筒(16)には,回転可能なベーン(回転ベーン)(4)が取り
付けられ,回転ベーン(4)の配置及び形状は別紙3−2の図面,別紙3−
3の「分級機全体図」,「分級機を横から見た平面図」,「回転ベーンの配
置及び形状(上から見た図)」,「回転ベーンの写真」のとおりになってい
る。
ロf内部を加圧雰囲気とした粉砕機である。
ロg上記回転筒(16)下端から2メートルから4メートル程度離れた上方位
置に,上記回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(17)(長径は9
0ミリメートルから110ミリメートル程度,短径は30ミリメートルから
40ミリメートル程度)を設け,該空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング
側に固定された空気室(18)を設け,該空気室と送風装置とをシールエア
ダクト(19)により接続し,上記送風装置から上記空気室に空気を吹き込
むことにより,回転筒に空気導管を取り付けることなく,上記空気導入孔を
通じて,上記センターシュート(1)と上記回転筒との間の環状隙間の空気
を加圧できるようにしている。
ロh上記環状隙間は下記構造を有している。

①上記環状隙間の間隔は,最も広いところで数十ミリメートル程度である。
②上記回転筒(16)下端と上記空気導入孔(17)の位置との間に隙間
が約20ミリメートル程度の狭隘部(20)が設けられている。
③上記回転筒(16)下端には,金属製のリング(21)及びパッキン
(22)を配している。
ロi回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機である。
(別紙4−1)
ハ号物件目録
ハa回転テーブル(9)がある。
ハbこの回転テーブル(9)の上に配置された,該回転テーブルの回転に伴っ
て従動回転する3個の粉砕ローラ(ローラタイヤ)(8)を有している。
ハc1上記ローラタイヤ(8)の上に,ケーシングの水平方向中央に位置した状
態でセンターシュート(1)が配設されている。
ハc2上記回転テーブル(9)の円周に粉砕機内壁に沿ってスロート(14)を
設け,該スロートより粉砕機内部に熱風を送風して粉砕された微粉炭を吹き
上げ,該微粉炭を空気搬送するようにしている。
ハc3上記スロート(14)により,粉砕された微粉炭は粉砕機上部に空気搬送
され,ハe記載の回転ベーン(4)により分級され(この際に,一定以上の
径の微粉炭は粉砕機下部へ落下する。),一定以下の径の微粉炭は送炭管
(2)より排出される。
ハd上記センターシュート(1)の外側に,該センターシュートと同心状に回
転筒(16)が回転可能に設けられている。
ハeこの回転筒(16)には,回転可能なベーン(回転ベーン)(4)が取り
付けられ,回転ベーン(4)の配置及び形状は別紙4−2の図面,別紙4−
3の「分級機全体図」,「分級機を横から見た平面図」,「回転ベーンの配
置及び形状(上から見た図)」,「回転ベーンの写真」のとおりとなってい
る。
ハf内部を加圧雰囲気とした粉砕機である。
ハg上記回転筒(16)下端から3730ミリメートル程度離れた上方位置に,
上記回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(17)(長径は110ミ
リメートル程度,短径は38ミリメートル程度)を設け,該空気導入孔の周
囲に,分級機ケーシング側に固定された空気室(18)を設け,該空気室と
送風装置とをシールエアダクト(19)により接続し,上記送風装置から上
記空気室に空気を吹き込むことにより,上記空気導入孔を通じて,上記セン
ターシュート(1)と上記回転筒との間の環状隙間に空気を導入できるよう
にしている。
ハh上記環状隙間は下記構造を有しており,この隙間に回転筒(16)下端に
おける空気の噴出速度が平均117メートル毎秒程度となるような加圧雰囲
気よりも高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端全周から空気が噴出する
ように構成している。

①上記環状隙間の間隔は,最も広いところで70ミリメートル程度である。
②上記回転筒(16)下端と上記空気導入孔(17)の位置との間に隙間
が約23ミリメートル程度の狭隘部(20)が設けられている。
③上記回転筒(16)下端には,金属製のリング(21)を配することに
より,上記センターシュート(1)と上記回転筒の下端における環状隙間
を1.2ミリメートルから2.4ミリメートルまで狭めている。
ハi回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機である。

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我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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