弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人らの控訴を棄却する。
     控訴費用および上告費用は被上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人森末繁雄の上告理由について。
 原判決は、訴外D証券株式会社(以下D証券という。)は、昭和二九年頃被上告
人ら先代亡Eから、金融の担保物件として利用する目的で、その所有の日本銀行出
資証券一〇〇口券(出資一口の金額一〇〇円)一枚を、白地の譲渡証書付きで期間
を定めずに、右証券の時価に対する日歩二銭または三銭の利息に相当する金員を支
払う約定で借り受けたが、その後、右証券を他に処分したので、昭和三〇年七月一
四日右Eのために、右証券にかわるものとして第一審判決添付目録記載の出資証券
(以下本件証券という。)を買い入れ、日本銀行の出資者原簿および証券上の名義
をEとし、かつ、同人から前同様白地の譲渡証書を取りつけたこと(その証書の譲
渡人欄に捺印された印影は、同人の日本銀行に届出していた印鑑とは相違していた。)、
D証券は、同年八月頃訴外Fから四〇万円を一ケ月後弁済の約定で借り受け、その
担保として、提供する目的で同人に対し本件証券(時価二〇万円)を含む株券等を
交付したこと、訴外Fは、同年一〇月初旬本件証券につき、質権の実行を岡山地方
裁判所所属の執行吏に委任し、同執行吏は、民訴法五八一条の手続によつて同月二
九日その競売を実施し、上告人がこれを競落したこと、右執行吏は、執行裁判所か
ら同年一一月五日、同法五八二条に従い、本件証券の名義を上告人に書きかえるた
めの手続をする権限の付与を受けたうえ、訴外証券代行株式会社を通じて日本銀行
に対し本件証券を提出して名義書換を請求したところ、日本銀行は、あらかじめ、
Eから、本件証券を他に処分したことはないので他人からの名義書換の請求に応じ
ないようにとの願い出があり、また右名義書換請求に出資名義人の譲渡証書等の添
付がないため、本件証券が出資名義人の意思に基づいて流通におかれたかどうか確
認できないとの理由でその名義書換を拒否したことを確定し、右確定の事実によれ
ば、D証券は、訴外Fに対する四〇万円の債務を担保するため、これよりさきEか
らその旨の承諾を得て預つていた本件証券に同人の代理人として質権を設定したも
のであり、Fがこの質権を実行して、上告人がこれを競落したことが認められると
いうのである。
 ところで、原審は日本銀行法施行令六条一項「出資者ハ日本銀行ノ承認ヲ経テ其
ノ持分ヲ譲渡スコトヲ得」の規定を論拠として出資者がその持分に質権を設定する
場合にも日本銀行の承認を要すると解すべきものとし、右の質権設定契約について
日本銀行の承認を得たとの主張立証がないから、右の質権設定契約は無効であり、
無効の質権設定契約に基づく競売手続において上告人が本件証券を競落しても、何
らの権利も取得しないものとして、被上告人らに対し出資証券の名義書換請求手続
を求むる上告人の本訴請求を排斥した。
 しかしながら、日本銀行の出資者は、出資証券の交付を要件として出資持分に質
権を設定することができ、その質権者は出資証券を継続して占有することにより、
その質権をもつて日本銀行その他の第三者に対抗することができるのであつて、質
権設定には日本銀行の承認を要しないものと解すべきである。けだし、質権設定に
つき日本銀行の承認を要する旨の明示の規定はなく、信用供与手段である質権設定
自体にはその承認を不要と解しても、日本銀行法施行令六条一項の規定の趣旨に反
するものではないからである。したがつて、訴外Eの代理人として、D証券が締結
した本件質権設定契約について日本銀行の承認を経たことの主張立証がないことを
理由として右質権設定契約を無効と解した原判決には、法令の解釈を誤つた違法が
あるものというべきであり、本件上告は理由があり、原判決は破棄を免れない。
 ところで、前記のように、上告人は、訴外Fの本件出資持分についての質権の実
行によつて、これを競落したというのであるが、この競落は出資持分の譲渡と同視
しうるところ、これについても日本銀行の承認を経たことについての主張立証はな
い。そして前記日本銀行法施行令六条一項の規定は、出資持分の譲渡があつたとし
ても、日本銀行の承認がないうちは、日本銀行に対しては譲渡の効力が生じないこ
とを明らかにしたものと解すべきであるが、譲渡契約の当事者間においては、日本
銀行の承認がなくても譲渡人は譲受人に対して、その譲渡につき日本銀行に対する
出資者名義書換請求手続をする義務を負つているものと解するのが相当である。さ
らに、本件質権設定契約が通謀虚偽表示であるとの被上告人らの主張を原審が排斥
する趣旨であることは、その判文上うかがうことができ、また、民法三六四条一項
は、その特別法である日本銀行法施行令七条二項によつて、その適用は排除されて
いるものというべきであるから、被上告人らの仮定抗弁はいずれも理由がないもの
ということができる。
 してみると、原審の確定した事実関係のもとでは、訴外Eは、上告人に対し本件
出資証券につき日本銀行に対する出資者名義の書換請求手続をする義務を負つてい
たものといわなければならない。そして、被上告人らが、右Eおよび同人の相続人
であつた訴外Gの相続人として、その権利義務を承継したことについて当事者間に
争いがないことは、本件記録上明らかであるから、結局、被上告人らは、上告人に
対し本件出資証券につき日本銀行に対する出資者名義の書換請求手続をする義務が
あるものというべきである。したがつて、上告人の本訴請求は理由があり、これを
認容した第一審判決は、結局、正当であるから、被上告人らの本件控訴を棄却すべ
きである。
 よつて、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八四条一項、九六条、八九条、九三
条一項本文に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    色   川   幸 太 郎

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛