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平成21年10月15日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第6397号再生債権査定異議請求事件
口頭弁論終結日平成21年8月27日
判決
横浜市<以下略>
原告株式会社テクニカン
同訴訟代理人弁護士大津卓滋
同原田活也
同黒崎祥
北海道小樽市<以下略>
被告ふうどりーむず株式会社
主文
1東京地方裁判所が原告の申立てに基づき,同裁判所平成20年(再)
第148号事件で平成21年2月2日にした決定を次のとおり変更する。
原告の届け出た再生債権(再生債権認否書受付番号501)の額を金
720万円と査定する。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2事案の概要
本件は,被告について開始された民事再生手続の中で,発明の名称を「食品
冷凍法およびその冷凍装置」とする特許権(特許番号第2011591号)を
有する原告が,被告による食品冷凍装置の製造,販売は,上記特許権を侵害す
る行為であると主張して,被告に対する再生債権として届け出た特許権侵害の
不法行為に基づく損害賠償請求権720万円について,再生裁判所が0円と査
定したのに対し,原告がこれを不服として,異議の訴えを提起した事案である。
1請求の原因
(1)当事者
ア原告は,液体冷凍機械の製造,販売等を目的とする株式会社である。
イ被告は,凍結機械の製造販売等を目的とする株式会社であり,東京地方
裁判所平成20年(再)第148号事件(以下「本件再生事件」とい
う。)の再生債務者である。
被告は,平成17年1月1日,その商号を「海鱗丸ビール株式会社」か
ら現在の商号に変更した。
(2)本件再生事件における再生債権の査定の裁判等
ア再生手続の開始
被告は,東京地方裁判所に民事再生手続開始の申立てをし(本件再生事
件),同裁判所は,平成20年7月25日午前9時,被告について再生手
続を開始する旨の決定をした。
イ再生債権の届出
原告は,東京地方裁判所に再生債権として,被告による食品冷凍装置の
製造,販売は,原告の有する,発明の名称を「食品冷凍法およびその冷凍
装置」とする特許権を侵害する行為であると主張し,不法行為に基づく損
害賠償請求権720万円を届け出た(再生債権認否書受付番号501)。
ウ再生債務者の異議
被告は,原告の届け出た上記債権の全額について異議を述べて認めなか
った。
エ再生債権の査定の裁判
原告は,被告を相手方として,東京地方裁判所に査定の申立てをし,同
裁判所は,平成21年2月2日,原告の届け出た再生債権(再生債権認否
書受付番号501)の額を金0円と査定する旨の決定(以下「本件決定」
という。)をした。
オ原告による本件訴訟の提起
原告は,本件決定を不服として,同決定の送達を受けた日から1か月内
である平成21年2月27日に,本件訴訟を提起した。
(3)原告の再生債権(特許権侵害に基づく損害賠償請求権)
ア原告の有する特許権
原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲
請求項2の発明を「本件発明」という。また,本件発明に係る特許を「本
件特許」といい,本件特許に係る明細書(別紙特許公報参照)を「本件明
細書」という。)を有する。(甲1,2)
特許番号第2011591号
発明の名称食品冷凍法およびその冷凍装置
出願日平成2年9月10日
出願公告日平成7年4月5日
出願公告番号特公平7−28710
登録日平成8年2月2日
特許請求の範囲請求項2
「不凍液を充満した不凍液槽内壁の三方向の各内壁面に沿ってステンレス
製冷凍コイル管を垂直方向に配置し,他の一方向の内壁面に沿って噴流
管に不凍液の噴流入口と噴流出口を形成したジェットスクリューポンプ
形式の噴流撹拌機と温度センサーを設け,この不凍液槽の上方に食品用
昇降装置を設置し,この昇降装置に密閉断熱蓋を弾性的に支持し,不凍
液槽の開口部を密閉断熱蓋により密閉開口自在とし,食品を不凍液槽中
に浸漬,取り出し自在にし,超高速度で均一に凍結することを特徴とす
る食品冷凍装置。」
イ構成要件の分説
本件発明の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下分説した各
構成要件をそれぞれ「構成要件A」などという。)。
A不凍液を充満した不凍液槽内壁の三方向の各内壁面に沿ってステンレ
ス製冷凍コイル管を垂直方向に配置し,
B他の一方向の内壁面に沿って噴流管に不凍液の噴流入口と噴流出口を
形成したジェットスクリューポンプ形式の噴流撹拌機と温度センサーを
設け,
Cこの不凍液槽の上方に食品用昇降装置を設置し,
Dこの昇降装置に密閉断熱蓋を弾性的に支持し,
E不凍液槽の開口部を密閉断熱蓋により密閉開口自在とし,
F食品を不凍液槽中に浸漬,取り出し自在にし,
G超高速度で均一に凍結する
Hことを特徴とする食品冷凍装置。
ウ被告による食品冷凍装置の製造,販売
被告は,別紙被告製品目録記載の食品冷凍装置(以下「被告製品」とい
う。)を業として製造し,販売した。
エ被告製品の本件発明の構成要件の充足(文言侵害)
被告製品は,次のとおり,本件発明の構成要件AないしHをいずれも充
足するから,本件発明の技術的範囲に属する。
(ア)構成要件A
a被告製品は,不凍液が充満する不凍液槽を備える。また,不凍液槽
の各内壁面に沿って,ステンレス製冷凍コイル管が垂直方向に1面に
つき2列ずつ配置されている。
したがって,被告製品は構成要件Aを充足する。
bなお,構成要件Aは,その文言上,「不凍液槽内壁の三方向の各内
壁面」に沿って冷凍コイル管を配置するとされているのに対し,被告
製品では,不凍液槽内壁の四方向の各内壁面(内壁AないしD)に沿
って冷凍コイル管が配置されている。
被告製品の上記構成は,不凍液槽内壁の三方向の各内壁面(内壁A
ないしC)に沿って冷凍コイル管を配置するという構成に,一方向の
内壁面(内壁D)に沿って冷凍コイル管を配置するという構成を付加
したにすぎないのであるから,被告製品が構成要件Aを充足すること
は明らかである。
(イ)構成要件B及びG
a被告製品の不凍液槽の内壁面の一方向に沿って,噴流管に噴流入口
と噴流出口を形成したジェットスクリューポンプ形式の噴流撹拌機と
温度センサーが設置されている。
また,噴流撹拌機により不凍液槽内の不凍液は噴流撹拌され,不凍
液槽内に浸漬された食品は超高速度で均一に凍結する。
したがって,被告製品は構成要件B及びGを充足する。
b被告製品は,不凍液槽内壁の四方向の各内壁面(内壁AないしD)
に沿って冷凍コイル管が配置されているものの,このことが,内壁D
の壁面をもって「他の一方向の内壁面」に該当すると評価することの
妨げとなるものではない。
すなわち,本件発明の特許請求の範囲の記載は,「不凍液を充満し
た不凍液槽内壁の三方向の各内壁面に沿ってステンレス製冷凍コイル
管を垂直方向に配置し,」というものであって,三方向の各内壁面以
外の内壁面には冷凍コイル管を配置しないことを規定するものではな
いから,構成要件Bの「他の一方向の内壁」とは,単に「冷凍コイル
管が配置されている三方向の内壁以外の一方向の内壁」を意味するに
すぎず,「冷凍コイル管が配置されている三方向の内壁以外の一方向
の内壁で,かつ,冷凍コイル管が配置されていない面」と限定して解
釈すべきではない。
そうすると,内壁Dに沿って冷凍コイル管が配置されているか否か
にかかわらず,内壁Dは「他の一方向の内壁」に該当するというべき
である。
(ウ)構成要件C及びF
被告製品においては,不凍液槽の上方に食品昇降装置が設置されてお
り,この食品昇降装置を昇降させることにより,食品を不凍液槽中に浸
漬し,また,取り出すことが可能となっている。
したがって,被告製品は構成要件C及びFを充足する。
(エ)構成要件D及びE
被告製品における食品昇降装置には,密閉断熱蓋が弾性的に支持され
ており,食品昇降装置を下降させると,密閉断熱蓋が不凍液槽を密閉し,
食品昇降装置を上昇させると,不凍液槽を開口させることが可能となっ
ている。
したがって,被告製品は構成要件D及びEを充足する。
(オ)構成要件H
被告製品は食品凍結装置であるから,構成要件Hを充足する。
オ均等侵害の成立
仮に,噴流撹拌機及び温度センサーが設置されている内壁Dの壁面に冷
凍コイル管が配置されていることにより,被告製品が構成要件B(「他の
一方向の内壁面に沿って」)を充足しないとしても,次のとおり,均等侵
害が成立する。
(ア)「他の一方向の内壁面に沿って」との構成が本質的部分ではないこと
について
本件発明が解決しようとする課題は,従来の冷気による凍結方式の欠
点(緩慢凍結であるため,食品中の水分の凍結結晶は氷晶が大きくなり
食品の細胞が破壊され,そのため,解凍時にドリップが出やすく鮮度・
味覚が落ち,雑菌の付着も多いため腐敗が早くなる。また,冷気流が直
接接触しにくい食品の奥側,側面,底部などに冷凍むらが生じやす
い。)を解消し,食品の凍結温度,凍結漬け込み時間を適確に制御し,
短時間で冷凍し,凍結食品の解凍後の品質・鮮度・味覚を保持し,低下
しない超高速度食品冷凍法及びその冷凍装置を提供することにある。
本件発明において,「他の一方向の内壁面に沿って」すなわち「噴流
撹拌機と温度センサーを設けた内壁面については冷凍コイル管を設置し
ないこと」は,本件発明の作用効果に何ら影響を与えるものではない。
したがって,「他の一方向の内壁面に沿って」との部分は,本件発明
の本質的部分ではない。
(イ)他の構成との置換可能性について
a本件発明の作用効果
本件発明の作用効果は次のとおりである。
(a)本件発明においては,温度センサーにより不凍液槽内の不凍液の
温度が調整される。
(b)本件発明においては,冷凍コイル管が不凍液槽の内壁面に沿って
垂直に配置されているから,不凍液が均一に冷却される。また,ジ
ェットスクリュー方式の噴流撹拌機の噴流により食品を冷却するか
ら冷凍効率がよく,食品を超高速度で短時間に均一に凍結すること
ができる。
以上のとおり,本件発明によれば食品の超急速凍結を実現するこ
とができるので,食品の冷凍状態がよく,冷凍による食品の細胞の
変化及び組織の破壊などが非常に少ない。このため,品質・鮮度・
味覚をそのままに,食品を凍結することができるので,食肉を凍結
した場合,解凍時にドリップが生じず,食品を生で凍結すれば,解
凍時には凍結前の状態に近い状態に戻すことができる。
また,細胞の破壊が少ないことから,解凍庫での解凍の必要がな
く,解凍手段を選ばずに解凍を容易にすることができる。
さらに,超急速凍結を実現することができるので,食品を短時間
で凍結することができる。
(c)本件発明においては,不凍液槽の上方に設置されている食品昇降
装置により食品を不凍液槽中に浸漬し,取り出すことが容易にでき
るようになっており,また,この食品昇降装置に弾性的に支持され
ている密閉断熱蓋により,不凍液槽を密閉開口することができるよ
うになっている。
b被告製品の作用効果
被告製品の作用効果は次のとおりである。
(a)被告製品においては,不凍液槽の一方の内壁に沿って温度センサ
ーが設置されており,不凍液槽内の不凍液の温度を調整し,食品の
凍結温度,凍結漬け込み時間を適確に制御するようになっている。
(b)被告製品においては,不凍液槽の各内壁面に沿って配置されてい
る冷凍コイル管により不凍液槽内の不凍液が均一に冷却され,この
冷却された不凍液を不凍液槽の一方向の内壁に沿ってスクリュー式
の噴流撹拌機によって撹拌し,不凍液層内を循環噴流させ,不凍液
槽内に浸漬された食品を,その周囲から包み込むようにして均等に
効率よく冷却し,超高速度で均一に凍結させる。
以上のとおり,被告製品によれば食品の超急速凍結を実現するこ
とができるので,食品の冷凍状態がよく,冷凍による食品の細胞の
変化及び組織の破壊などが非常に少ない。このため,解凍後の食品
の品質・鮮度・味覚を保持することができ,食肉を凍結した場合,
解凍時にドリップが生じず,食品を生で凍結すれば,解凍時には限
りなく新鮮に近い状態に戻る。
また,細胞の破壊が少ないまま凍結することができるので,解凍
庫での解凍の必要がなく,解凍手段を選ばずに解凍を容易にするこ
とができる。
さらに,超急速凍結を実現することができるので,食品を短時間
で凍結することができる。
(c)本件発明においては,不凍液槽の上方に設置されている食品昇降
装置により食品を不凍液槽中に浸漬し,取り出すことが容易にでき
るようになっており,また,この食品昇降装置に弾性的に支持され
ている密閉断熱蓋により,不凍液槽を密閉開口することができるよ
うになっている。
c以上のとおり,被告製品の作用効果は,本件発明の作用効果と同一
であるから,「他の一方向の内壁面に沿って」との部分を被告製品に
おける構成と置き換えても,本件発明の目的を達成することができ,
本件発明と同一の作用効果を奏するといえる。
(ウ)容易想到性について
冷凍コイル管を不凍液槽の複数(三方向)の内壁面に設置して不凍液
槽内の不凍液を周囲から均一に冷却するという発想は本件発明の特許請
求の範囲及び明細書に記載されており,また,被告製品の製造,販売以
前に,原告において,噴流撹拌機及び温度センサーが設置される側にも
内壁面に沿って冷凍コイル管を配置した製品を製造し,一般に販売して
いた。
したがって,被告製品の製造,販売の時点において,「他の一方向の
内壁面に沿って」との部分を被告製品における構成に置き換えることは,
本件発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)
において想到することが容易であったといえる。
(エ)推考困難性について
本件発明の出願当時において被告製品と同一の公知技術は存在せず,
また,当業者において被告製品を容易に推考することのできた公知技術
も存在しない。
(オ)本件発明の出願及び審査の経緯において,被告製品の構成を意図的に
除外したなど,均等の成立を妨げる特段の事情は存在しない。
カ損害額
被告は,本件特許の登録後に,少なくとも被告製品を1台製造し,訴外
株式会社小樽海洋水産に対し,2184万円で販売した。
被告製品の利益率は,販売価格の60%を下らないから,被告は,被告
製品を製造し,販売したことにより,少なくとも,下記の計算式のとおり,
1310万4000円の利益を得た。
被告が得た上記利益の額は,原告が受けた損害の額と推定される(特許
法102条2項)から,原告が受けた損害の額は720万円を下らない。

(計算式)
2184万円×1台×60%=1310万4000円
キ以上によれば,原告は,被告に対し,不法行為に基づき,720万円の
損害賠償請求権を有する。
第3当裁判所の判断
1被告は,適式の呼出しを受けながら,本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書
その他の準備書面も提出しないから,請求原因事実(第2の1「請求の原因」
のうち,(1)のア,イ,(2)のアないしエ,並びに(3)のアないしウ及
びカ記載の事実)を争うことを明らかにしないものと認め,これを自白したも
のとみなす。
また,第2の1「請求の原因」のうち(2)のオ記載の事実は当裁判所に顕
著である。
2被告製品の本件発明の構成要件充足性について
(1)構成要件Aの充足性について
別紙被告製品目録記載のとおり,被告製品は,不凍液を充満した状態で使
用する不凍液槽を備え,当該不凍液槽の内壁の三方向の各内壁面(内壁A,
B及びC)に沿って垂直方向に,ステンレス製の冷凍コイル管が,1面につ
き2列ずつ配置されている。
よって,被告製品は,構成要件Aの「不凍液を充満した不凍液槽内壁の三
方向の各内壁面に沿ってステンレス製冷凍コイル管を垂直方向に配置し,」
を充足する。
(2)構成要件Bの充足性について
ア「他の一方向の内壁面に沿って」の意義について
(ア)本件発明の特許請求の範囲には,「不凍液槽内壁の三方向の各内壁面
に沿ってステンレス製冷凍コイル管を・・・に配置し,」(構成要件
A),「他の一方向の内壁面に沿って・・・噴流撹拌機と温度センサー
を設け,」(構成要件B)と記載されており,噴流撹拌機と温度センサ
ーを設ける側の内壁面における冷凍コイル管の配置の有無については特
に記載がない。
(イ)本件明細書の記載
本件明細書中には,噴流撹拌機と温度センサーを設ける側の内壁面に
冷凍コイル管を配置しないことについての記載はない。
他方,本件明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
a「従来は,食肉等の食品を冷凍保存するのに冷媒として,冷気を用
い,これによる凍結方式を使用していた。
この従来の食肉を冷凍する方法およびその冷凍装置は,第11図に示
すように,食品Fを冷凍密閉室1内に収納し,これに冷気Nを矢印の
方向に,吹き付けて冷凍する冷気による凍結方式である。
この方式であると,食肉の場合,凍結肉の冷凍状態が悪るく,これを
解凍するとドリップが生じ,血液とともに食肉の成分が流出してしま
い,食肉としての味覚が低下するなどの欠点があった。また,超低温
の冷気気流によって食品を凍結させるから,冷気流が直接接触しにく
い食品の奥側,側面,底部などに冷凍むらが生じやすかった。
食品の凍結は,被凍結食品の最大氷結晶生成帯(−1℃∼−5℃)を
如何に早く通過するかである。
凍結食肉中の水分の凍結結晶は緩慢凍結では,氷晶が大きく細胞を破
壊し,そのため解凍時にドリップが出やすく成分が抜け,鮮度・味覚
が落ち,また,雑菌の付着を多くするため腐敗が早くなる。
また,特開昭62−3763号公報には,タンク内の撹拌軸,冷凍用
配管,魚介類の肉片を入れるバスケットを備え,タンク外にモータ,
コンプレッサーを配置し,プロピレングリコール,塩化カルシュウム
及び水からなる溶液に菜種油を添加したブラインを冷却し,該ブライ
ンに魚介類を浸漬し冷凍することを特徴とする魚介類の急速凍結法に
ついて記載され,このような冷凍方法も従来から知られている。」
(2頁3欄10行ないし36行)
b「本発明は,従来の欠点を解消し,食品の凍結温度,凍結漬け込み
時間を適確に制御し,短時間で冷凍し,凍結食品の解凍後の品質・鮮
度・味覚を保持し,低下しない超高速度食品冷凍法およびその冷凍装
置を提供することを目的とする。」(2頁3欄38行ないし42行)
c「前記目的を達成するために,・・・食品冷凍装置は,不凍液を充
満した不凍液槽内壁の三方向の各内壁面に沿ってステンレス製冷凍コ
イル管を垂直方向に配置し,他の一方向の内壁面に沿って噴流管に不
凍液の噴流入口と噴流出口を形成したジェットスクリューポンプ形式
の噴流撹拌機と温度センサーを設け,この不凍液槽の上方に食品用昇
降装置を設置し,この昇降装置に密閉断熱蓋を弾性的に支持し,不凍
液槽の開口部を密閉断熱蓋により密閉開口自在とし,食品を不凍液槽
中に浸漬,取り出し自在にし,超高速度で均一に凍結することができ
るように構成し,噴流管に不凍液の噴流入口と噴流出口を形成し,噴
流管中にスクリューを設けたジェットスクリューポンプ形式の噴流撹
拌機を用いて,冷却不凍液を噴流撹拌するようにし,」(2頁3欄4
4行,4欄5行ないし17行)
d「本発明の冷凍装置は,冷凍コイル管が不凍液槽の内壁面に沿って
垂直に配置されているから不凍液が均一に冷却され,噴流撹拌機の噴
流により冷却するような装置になっているから冷凍効率がよく食肉等
を所定の温度で均一に凍結することができる。」(2頁4欄33行な
いし37行)
e「不凍液槽内の不凍液温度は,噴流撹拌機の噴流撹拌により均等に
なる。
被凍結食品を短時間に均等凍結するには,不凍液温度にむらを生じさ
せないことが重要で,冷凍装置(フリザー)内の不凍液の均等温度は
ジェットスクリューポンプ形式の噴流撹拌機による噴流撹拌をもって
可能にした。」(3頁5欄35行ないし40行)
f「本発明は,不凍液体を超低温度(−30℃∼−50℃)にして食
品全体を包み込むので,すべての方向から食品を凍結し,むらが皆無
で均等に凍結することができる。また,不凍液体は空気より熱伝導率
がはるかによいため食品の凍結点を通過するのが早い,そのため緩慢
凍結にならないのが特徴である。」(3頁6欄5行ないし10行)
g「本発明の食品冷凍法およびその冷凍装置によれば,超急速凍結な
ので冷凍肉の冷凍状態がよく,食品の細胞の変化および組織の破壊な
どが非常に少なく,解凍時のドリップがでない。そのため解凍庫での
解凍の必要がなく,解凍もフレッシュな状態に戻るから,解凍手段を
選ばない。超急速凍結なので細胞が破壊されないため従来の冷蔵解凍
でよい。被凍結食品を生で凍結させれば製品は凍結前の状態に近い状
態に戻る。
本発明によれば,従来の冷気凍結の場合,24時間かかった凍結の例
がわずか30分ですむ超急速凍結であって,食品,とくに食肉では,
その品質・鮮度・味覚を短時間にそのまま凍結することができ,解凍
も容易で,食品加工産業上,多大の貢献をすることができる。」(4
頁7欄46行ないし8欄12行)
本件明細書中の上記記載によれば,本件発明は,食品の凍結温度,凍
結漬け込み時間を適確に制御し,短時間で冷凍することにより,凍結食
品の解凍後の品質・鮮度・味覚を保持し,低下させない超高速度食品冷
凍法及びその冷凍装置を提供することを目的とするものであり,上記作
用効果を奏するため(不凍液槽内の不凍液温度を均等にし,冷凍効率を
高めるため),本件発明の冷凍装置は,冷凍コイル管を不凍液槽の内壁
面に沿って垂直に配置し,かつ,ジェットスクリューポンプ形式の噴流
撹拌機による噴流撹拌をする構成を採用するものであるといえる。そし
て,本件発明が,上記作用効果を奏するか否かは,噴流撹拌機と温度セ
ンサーを設ける側の内壁面に冷凍コイル管を配置するか否かに関わらな
いものと考えられる。
(ウ)以上によれば,構成要件Bの「他の一方向の内壁面に沿って」とは,
「ステンレス製冷凍コイル管が垂直方向に配置された側の三方向の内壁
面とは別の一方向の内壁面に沿って」の意味であり,噴流撹拌機と温度
センサーを設ける側の内壁面に冷凍コイル管が配置されているか否かは
問わないものと解される。
イ別紙被告製品目録記載のとおり,被告製品においては,ステンレス製の
冷凍コイル管が配置されている側の不凍液槽の三方向の内壁面(内壁A,
B及びC)とは別の不凍液槽の内壁面(内壁D)に沿って,噴流入口と噴
流出口を形成する噴流管及びスクリュー用モータによって駆動するスクリ
ューから成る噴流撹拌機2機及び温度センサーが設けられている。
よって,被告製品は,構成要件Bの「他の一方向の内壁面に沿って噴流
管に不凍液の噴流入口と噴流出口を形成したジェットスクリューポンプ形
式の噴流撹拌機と温度センサーを設け,」を充足する。
(3)構成要件Cの充足性について
別紙被告製品目録記載のとおり,被告製品においては,不凍液槽の上方に
食品昇降装置が設置されている。
よって,被告製品は,構成要件Cの「この不凍液槽の上方に食品用昇降装
置を設置し,」を充足する。
(4)構成要件Dの充足性について
別紙被告製品目録記載のとおり,被告製品においては,食品昇降装置に,
密閉断熱蓋が弾性的に支持されている。
よって,被告製品は,構成要件Dの「この昇降装置に密閉断熱蓋を弾性的
に支持し,」を充足する。
(5)構成要件Eの充足性について
別紙被告製品目録記載のとおり,被告製品においては,食品昇降装置を下
降させると密閉断熱蓋が不凍液槽を密閉し,食品昇降装置を上昇させると不
凍液槽を開口するようになっている。
よって,被告製品は,構成要件Eの「不凍液槽の開口部を密閉断熱蓋によ
り密閉開口自在とし,」を充足する。
(6)構成要件Fの充足性について
別紙被告製品目録記載のとおり,被告製品においては,食品昇降装置は,
リフト駆動モータ及びゴンドラ(かご)から成り,リフト駆動モータによっ
てゴンドラを昇降することで,ゴンドラ内に積載した食品を不凍液槽中に浸
漬し,取り出すことができるようになっている。
よって,被告製品は,構成要件Fの「食品を不凍液槽中に浸漬,取り出し
自在にし,」を充足する。
(7)構成要件Gの充足性について
別紙被告製品目録記載のとおり,被告製品においては,噴流撹拌機により
不凍液槽内の不凍液が撹拌されることにより,不凍液槽内の不凍液の温度は
均一になり,また,その噴流が不凍液槽内に浸漬された食品についてその周
囲から包み込むように作用して均等に冷却し,当該食品を超高速度で均一に
凍結する。
よって,被告製品は,構成要件Gの「超高速度で均一に凍結する」を充足
する。
(8)構成要件Hの充足性について
別紙被告製品目録記載のとおり,被告製品は,食品凍結装置であるから,
構成要件Hの「ことを特徴とする食品冷凍装置」を充足する。
(9)上記のとおり,被告製品は,本件発明の構成要件AないしHをいずれも充
足するものと認められるから,本件発明の技術的範囲に含まれる。
3以上によれば,被告による被告製品の製造販売は本件特許権の侵害に当たり,
前記1の自白したものと認められる事実(第2の1請求の原因のうち(3)の
カ記載の事実)によれば,原告は,被告に対して,不法行為に基づき720万
円の損害賠償請求権を有するものと認められるから,原告の被告に対する再生
債権(再生債権認否書受付番号501)の額は720万円となる。
よって,本件決定を上記のとおり変更することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官柵木澄子
裁判官舟橋伸行
(別紙)
被告製品目録
1概要
不凍液槽内の不凍液を不凍液槽の内壁に設置されたステンレス製冷凍コイル管
によって均一に冷却し,冷却された不凍液を噴流撹拌機により撹拌することで,
不凍液に浸漬した食品を超高速度かつ均一に凍結することを特徴とする食品凍結
装置である。
2構造
(1)不凍液槽
図面1,2のとおり,不凍液(フローズン液)を充満させるための不凍液槽
が設置されている。
(2)冷凍コイル管
図面3,4のとおり,不凍液槽の内壁には,各壁面に沿って垂直方向にステ
ンレス製冷凍コイル管が,1面につき2列ずつ配置されている。
この冷凍コイル管は,外部の冷却装置に接続されており,冷却装置により冷
凍コイル管が冷却され,この冷却された冷凍コイル管により不凍液槽内の不凍
液が均一に冷却される。
(3)噴流撹拌機
図面2,3,4のとおり,不凍液槽の一方向の内壁に沿って,スクリュー式
の噴流撹拌機が2機設置されている。
噴流撹拌機は,噴流管及びスクリュー用モータによって駆動するスクリュー
から成る。
噴流管内のスクリューが回転することにより,不凍液槽内の不凍液は,噴流
管に形成された噴流入口から噴流出口を経て不凍液槽内を循環噴流する。
噴流撹拌機により不凍液槽内の不凍液が撹拌されることによって,不凍液槽
内の不凍液の温度は均一になり,また,その噴流が不凍液槽内に浸漬された食
品についてその周囲から包み込むように作用して均等に冷却し,当該食品を超
高速度で均一に凍結する。
(4)温度センサー
図面1,2のとおり,不凍液槽の一方向の内壁に沿って,温度センサーが設
置されている。
温度センサーは不凍液の温度を測定し,温度センサーと電気的に接続されて
いる制御装置によって不凍液の温度及び食品の浸漬時間が制御される。
(5)食品昇降装置
図面1のとおり,不凍液槽の上方には,食品昇降装置が設置されている。
食品昇降装置は,リフト駆動モータ及びゴンドラ(かご)から成り,リフト
駆動モータによってゴンドラを昇降することで,ゴンドラ内に積載した食品を,
不凍液槽中に浸漬し,取り出すことが可能となっている。
(6)密閉断熱蓋
図面1のとおり,食品昇降装置には,密閉断熱蓋が弾性的に支持されている。
食品昇降装置を下降させると,密閉断熱蓋が不凍液槽を密閉し,食品昇降装
置を上昇させると,不凍液槽を開口する。
(7)食品凍結装置
上記(1)ないし(6)の特徴を備えた食品凍結装置である。
以上

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