弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件控訴に基づき原判決中控訴人(附帯被控訴人)敗訴の部分を左のとおり変更す
る。
控訴人(附帯被控訴人)が昭和四六年一一月一六日付で被控訴人(附帯控訴人)の
昭和四三年分の所得税についてした再更正のうち差引総所得金額金六三万四七九四
円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定のうち過少申告加算税額金二四〇〇
円を超える部分を取消す。
被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。
本件附帯控訴を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じこれを一〇分し、その一を控訴人(附帯被控訴人)の
負担とし、その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
○ 事実
控訴人(附帯被控訴人。以下「控訴人」という。)は、「原判決を左のとおり変更
する。控訴人が昭和四六年一一月一六日付で被控訴人(附帯控訴人。以下「被控訴
人」という。)の昭和四三年分の所得税についてした再更正のうち差引総所得金額
金六三万四七九四円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定のうち過少申告加
算税額金二四〇〇円を超える部分を取消す。被控訴人のその余の請求を棄却する。
本件附帯控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」と
の判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求め、附帯控訴として、「原判決を
左のとおり変更する。控訴人が昭和四六年一一月一六日付で被控訴人の昭和四三年
分の所得税についてした再更正及び過少申告加算税の賦課決定、昭和四四年分の所
得税についてした更正のうち所得税額金二四万四三〇〇円を超える部分及び過少申
告加算税の賦課決定のうち過少申告加算税額金三六〇〇円を超える部分並びに昭和
四五年分の所得税についてした更正のうち所得税額金三八二万四九五〇円を超える
部分及び過少申告加算税の賦課決定のうち過少申告加算税額金一万八七〇〇円を超
える部分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を
求めた。
当事者双方の主張並びに証拠関係については、左に付加するほか、原判決事実摘示
のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人の当番における主張)
被控訴人の昭和四三年分の事業所得の金額の計算上、被控訴人のAに対する支払利
息金一一七万円は事業所得の総収入金額を得るために必要な経費ではないので、同
年分の所得税の再更正処分の理由として更正通知書に附記されていなかつたとして
も、否認されるべきである。
すなわち、課税庁は、課税処分取消訴訟において、特段の制限規定のない限り、課
税処分の効力を維持するための一切の根拠を主張できるところ、青色申告に対する
更正処分について、所得税法一五五条二項は更正通知書に更正の理由を附記すべき
ものとしているが、右は前記制限規定として課税庁が附記理由と異なる根拠事実を
訴訟上主張することを許さないという趣旨を含むものではない。所得税法による右
理由附記は、更正通知書の記載方式について定めるのみで、訴訟上の主張制限につ
いては何ら触れておらず、右制度の趣旨・目的を達するためには理由附記の不備を
更正処分の取消事由としで認めれば十分であり、理由附記制度の存在を根拠に青色
申告者以外の納税義務者との間に訴訟における手続上の差異まで設けるのは均衡を
失するもので、しかも、更正の理由附記は、納税義務者の帳簿書類の記載及び同人
の説明等に対する課税庁の判断を示す形式で行われざるを得ないところ、納税義務
者の右説明等の対応が異つてくれば、理由附記もおのずから異つたものとなる筋合
であるから、課税処分取消訴訟において、課税庁側の主張のみを制限するのは不合
理、不公平である。行政事件訴訟において、前記のような主張制限をするには明文
上の根拠を必要とするものである。
控訴人の右主張によると、被控訴人の昭和四三年分及び昭和四四年分の所得金額の
明細は別紙計算書のとおりとなる。
○ 理由
一 本件についての当裁判所の判断は、後記二及び三に示すほか、原判決がその理
由一ないし三において説示するところと同一であるから、ここにこれを引用する。
但し、原判決理由二の1の(一)(原判決二〇枚目表六行目から二一枚目裏二行目
まで)、二の1の(五)及び二の2(三一枚目裏四行目から三二枚目表八行目ま
で)、三のうち昭和四三年分及び同四四年分の各更正決定の適法性に関する部分
(三六枚目裏八行目から三七枚目表五行目「であるが、」まで)を削る。
二 控訴人は、被控訴人の昭和四三年分の事業所得の金額の計算上、被控訴人のA
に対する支払利息金一一七万円の必要経費算入を否認するので、この点について検
討する。
成立に争いのない乙第四号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第五号証、
証人Bの証言、被控訴人本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人
は、昭和三九年頃、CがA(ペンネームD)から金五六二万五〇〇〇円を借り入れ
るについて連帯保証人となつたが、Cがその後倒産したため保証債務の履行として
右金五六二万五〇〇〇円の元本のほか、その利息金一一七万円をAに対し弁済した
こと、被控訴人は、昭和四三年分の所得税について青色申告書を提出し、必要経費
として利子割引料金五五九万九四四七円を挙げたが、その中にはAに対する前記支
払利息金一一七万円が含まれていること、控訴人は、昭和四三年分の所得税の再更
正において、右支払利息の必要経費算入を認め、したがつて、支払利息金一一七万
円の必要経費算入の否認は、更正の理由として更正通知書に附記されていなかつた
ことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
そして、被控訴人は、右Aに対する前記元本金五六二万五〇〇〇円の弁済によりC
に対して同額の求償債権を取得したが、この債権は昭和四三年中に貸倒れとなつた
こと、右金五六二万五〇〇〇円の貸倒金は、被控訴人の事業の遂行上生じたもので
はないことについては、前説示(原判決引用)のとおりであるから、これと同一の
理由により、前記支払利息金一一七万円と同額の求償債権もまた被控訴人の事業の
遂行上生したものではないことは明らかである。
ところで、所得税法一五五条二項は、青色申告について更正する場合には、更正通
知書に更正の理由を附記すべき旨を規定しているところ、その趣旨・目的は更正を
する行政庁の判断の慎重さ及び合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更
正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えることにあると解され、した
がつて、理由附記が右の趣旨・目的を達し得ない程度のものであるときは、その更
正処分は瑕疵あるものとして不服申立てにより取消されるべきであるが、これによ
つて、右の趣旨・目的は十分達せられるもので、それ以上に、青色申告についての
更正処分取消訴訟において、課税庁が更正を維持するために更正通知書に附記され
ていない理由を主張することが許されないとまで解するのは困難である。むしろ右
の場合、課税庁は、青色申告者が提示する帳簿書類及び同人の説明に基づいて更正
処分をする建前であることから考えると、右主張の制限を認めることには問題があ
り、一方、右の主張の制限を肯定することは、更正処分により、他の理由がないこ
とが確定したのと同一の結果をきたすのであるが、そのように解さなければ、実体
上及び手続上、青色申告者の権利ないし利益が不当に害されるとも思われない。こ
とに、本件訴訟においては、被控訴人の昭和四三年分の所得の青色申告に対する再
更正の当否が争われているところ、被控訴人は、前記Cに対する金五六二万五〇〇
〇円の債権の貸倒金の必要経費算入を主張するのに対し、控訴人がこれを否認し、
この点が右再更正についての主たる争点となつていることが明らかであり、控訴人
が右再更正の正当性を維持するため、右債権の支払利息金一一七万円についてその
必要経費算入を否認する主張をなしたとしても、被控訴人に格別の不利益を与える
ものではないというべきであるから、更正通知書に右の点を否認する旨の記載がな
かつたからといつて、控訴人の右主張を禁止すべきものとはいえない。したがつ
て、右支払利息金一一七万円を被控訴人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入
することを認めることはできない。
三 そこで、被控訴人の昭和四三年分の所得金額を算出すると、別紙計算書のとお
り、差引総所得金額は金六三万四七九四円となるから、昭和四三年分の再更正のう
ち右金額を超える部分及び右再更正を前提としてなされた同年分の過少申告加算税
の賦課決定のうち金二四〇〇円を超える部分はいずれも違法である。
次に、被控訴人の昭和四四年分の所得金額を算出すると、右により前年からの繰越
損失額は零となるから、別紙計算書のとおり差引総所得金額は金四五三万一五一九
円、申告納税額は金一三六万三一〇〇円、過少申告加算税額は金六万二〇〇円とな
るところ、右は昭和四四年分の更正のうち本件裁決で維持された部分と同一である
から、右の点には違法がないことになる。
四 よつて、被控訴人の本訴請求は、控訴人が昭和四六年一一月一六日付でした昭
和四三年分の再更正のうち差引総所得金額金六三万四七九四円を超える部分及び過
少申告加算税額の賦課決定のうち過少申告加算税額金二四〇〇円を超える部分の取
消しを求める限度で理由があるが、その余は理由がなく失当として棄却すべきであ
るから、本件控訴に基づき原判決中控訴人敗訴の部分を右のとおり変更し、本件附
帯控訴は理由がないから棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟
法七条、民事訴訟法九六条、九二条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 杉田洋一 横山 長 浅野正樹)

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