弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決中被告人Aに関する部分を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人田中義信の上告趣意は、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条
の上告理由にあたらない。
 しかしながら、所論にかんがみ、職権で調査すると、原判決は、被告人Aに関す
る部分につき、同法四一一条一号により破棄を免れない。その理由は、次のとおり
である。
一 第一審判決は、罪となるべき事実第一、一として、「被告人Aは不動産売買の
事業などのために資金を必要とし、被告人Bは同Aの右資金繰りに協力していたが、
被告人Aにおいて別紙定期預金一覧表記載の各預金日の数日前ないし前日に、福岡
県浮羽郡a町b番地所在のa信用組合の代表社員(専務理事)として、同組合の行
う預金の受入、払戻、保管ならびに貸付等その業務一切を統轄処理していたCに対
し預金を見返りとした融資を依頼した後、被告人Bにa信用組合への預金者の斡旋
方を依頼した結果、同被告人はこれを了承してDに同表記載のとおり昭和四二年八
月一九日から昭和四三年二月二七日まで前後五回にわたり同組合へ同表記載の定期
預金をさせ、もつて被告人Aは被告人Bを介し、被告人Bはみずから、それぞれa
信用組合へ前記Dが預金をするについて媒介をした者であるが、右被告人両名は共
謀のうえ、右各定期預金に関しいずれも被告人Aが右Dにいわゆる裏金利を得させ
る目的で、被告人Bは同Aと通じ、被告人Aは自己のために、被告人Bが前記各預
金日に前記a信用組合において前記Cに対し被告人Aへの融資の申込をなし、右C
をして前記Dの定期預金を担保として提供することなしにa信用組合が被告人Aに
対し資金の融通をなす旨を承諾させ、被告人Aもみずから各預金日にa信用組合に
赴き前記Cに要求して同組合から資金の融資を受け、もつて五回にわたりa信用組
合を相手方として前記定期預金に関し各不当契約をし」たとの事実を認定し、右被
告人Aの五回にわたる各不当契約の所為は、それぞれ刑法六〇条、預金等に係る不
当契約の取締に関する法律(以下、本法という。)四条一号、二条二項に各該当す
るとし、有価証券偽造、同行使、詐欺及び業務上過失傷害の各罪と併せて、被告人
を懲役一年六月及び罰金二〇万円、罰金刑につき換刑一〇〇〇円一日、懲役刑につ
き三年間執行猶予、押収してある約束手形一通の偽造部分没収の刑に処した。
二 これに対して、被告人Aが控訴し、弁護人の控訴趣意第一点において、第一審
判決は被告人のBに対する預金者さがしの依頼の事実をもつて本法二条二項の媒介
行為に当たると解しているが、被告人は本法二条二項にいう特定の第三者であると
ころ、本法は特定の第三者についてはこれを処罰する規定をおいていないのである
から、特定の第三者の行為が媒介者と共同正犯、教唆、幇助の共犯の関係にある場
合であつても、刑法の共犯規定の適用によつて処罰することはできないものであり、
第一審判決には法令の解釈適用の誤りがあると主張したところ、原判決は、第一審
判決挙示の関係証拠により、被告人は昭和四二年八月一七日ごろa信用組合に赴き、
同組合の専務理事Cと面接して、同組合に自己への融資方を申し込み、これに併せ
て同組合の貸出し資金の確保については然るべき預金をあつせんすることを約し、
更に、Bに対し、自己が事業資金とするため同組合から融資を受けようとしている
が、それについては引き当てとなる預金が必要なので、預金者には相応の謝礼をす
るので然るべき預金をあつせんしてくれるよう依頼し、これを了承した同人がその
頃Dに働きかけて同組合に預金することを勧誘し、預金だけしてくれればそれだけ
で十分であるから、担保には絶対供さないが、被告人から月一歩五厘の割合による
裏金利の支払をする旨を告げ、暗にDが預金をしてくれれば、被告人において、右
預金を引き当てとして同組合から相応額の融資を受けられる趣旨を悟らせたうえ、
Dをして預金をすることを承諾させ、同月一九日B及びDが相携えて同組合に赴き、
Bにおいて前記Cに対し、被告人の依頼を受けてDの預金に来た旨を告げ、暗黙の
うちに右預金を担保に供しないで被告人に対する融資を申し込み、既に被告人から
預金を担保に供しないでこれを引き当てとして融資を受けたい旨の申込みを受けて
いたので、これにより既に右預金の趣旨を了知していたCをして右各申込みを承諾
させたうえ、D名義をもつて同組合に五〇〇万円を預金し、同日被告人において同
組合から一〇〇〇万円の融資を受けた事実が認められるほか、同月二一日、同月三
一日、同年一〇月一六日、同四三年二月二七日の四回にわたつて、そのつどほぼ前
同様の経過があつた事実を認定したうえ、本法において取締りの対象とされている
者は預金者、媒介者及び金融機関の役員、職員であつて、特定の第三者は処罰の対
象とされていないが、本法が規定している特定の第三者と預金音又は媒介者との間
における意思の疎通ないしは合意とは、特定の第三者の側に媒介行為遂行の企図な
いしは意図を欠く場合をいうのであつて、特定の第三者と媒介者との間に共謀が成
立している場合には、特定の第三者ではなく媒介者となるものと解されるところ、
前記認定の事実によれば、被告人は預金の媒介を行う企図をもつて自ら媒介行為の
一部を実行し、かつ、Bとの共謀により同人の実行行為を介して自己の企図した預
金の媒介を実現したものであるから、被告人は本法二条二項に規定する媒介者に該
当し、しかして被告人とB間の合意は媒介者相互間の共謀であつて、被告人がBの
行つた媒介行為について共同正犯としての罪責を負うのは当然のことであつて、第
一審判決には法令の解釈適用の誤りはないとして、被告人の控訴を棄却した。
三 そこで、原判決の右判断の当否について検討する。
 本法は、特定の第三者に対する融資を条件として金融機関が預金を受け入れるい
わゆる導入預金のうち一定の形態のものの取締りを目的として制定された法律であ
るが、二条一項において、金融機関に預金等をする者(以下、預金者という。)が
金融機関から融資を受け又は債務の保証を受ける特定の第三者(以下、特定の第三
者という。)と通じて金融機関と不当契約をすることを禁止し、二条二項において、
金融機関に預金等をすることについて媒介をする者(以下、媒介者という。)が特
定の第三者と通じて又は自己のために金融機関と不当契約をすることを禁止し、こ
れらの規定に違反した者に対して罰則を定めている(四条一号)。
 しかるに、特定の第三者については、その者が自ら預金等をすることについての
媒介をする場合を除いて、これを処罰する規定がないのである。
 このような本法の規定からすれば、右特定の第三者については、その者が自ら預
金等をすることについて媒介をする場合を除いて、これを処罰しない趣旨であると
解すべきであつて、預金者又は媒介者と特定の第三者が通じたことの内容が、一般
的にはこれらの者との共謀、教唆又は幇助にあたると解される場合であつても、預
金者又は媒介者の共犯として処罰しない趣旨であると解しなければならない。
 原判決の認定した事実によれば、被告人はa信用組合の専務理事Cと面接し、自
己への融資方を申し込むとともに併せて同組合の貸出し資金の確保については然る
べき預金をあつせんすることを約したうえ、Bに対し、自己が事業資金とするため
に同組合から融資を受けようとしているが、それについては引き当てとなる預金が
必要なので、預金者には相応の謝礼をするので然るべき預金をあつせんしてくれる
よう依頼したというのであるから、かかる被告人の行為はひつきようBに対し預金
の媒介を依頼したものにすぎず、かかる行為は特定の第三者が媒介者と通じること
の内容として通常予想される行為に止まるものであつて、かかる行為をとらえて、
被告人が預金等をすることについて媒介をした者として本法二条二項、四条一号に
より処罰することは許されないものといわざるをえない。
 そうすると、被告人はBとの共同正犯として本条二条二項に規定する媒介者に該
当するとした原判決は、法令の解釈適用を誤つたものというべく、これが判決に影
響を及ぼすことは明らかであり、かつ、原判決を破棄しなければ著しく正義に反す
るものと認められる。
 なお、第一審判決によれば、同判決第一、一の本法違反の事実は、被告人に対し
て公訴が提起された犯罪事実の一部にすぎないが、同判決はこれら五個の本法違反
の事実についていずれも懲役刑と罰金刑を併科すべきものとし、同判決第二の有価
証券偽造、同行使、詐欺の罪(刑法五四条一項後段、一〇条により偽造有価証券行
使の罪の刑で処断)及び同判決第三の業務上過失傷害の罪と刑法四五条前段の併合
罪の関係にあるとして、被告人を懲役一年六月及び罰金二〇万円、罰金刑につき換
刑一〇〇〇円一日、懲役刑につき三年間執行猶予、押収してある約束手形一通の偽
造部分没収の刑に処しているので、同判決第一、一の本法違反の罪の部分のみを分
離することはできないから、原判決中被告人に関する部分を全部破棄することとす
る。
 よつて、刑訴法四一一条一号により、原判決中被告人に関する部分を破棄し、同
法四一三条本文に従い、本件を原審である福岡高等裁判所に差し戻すこととし、裁
判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官田村秀策 公判出席
  昭和五一年三月一八日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光
(別 紙)
<記載内容は末尾1添付>

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