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神戸地方裁判所 平成14年12月9日判決 平成13年(わ)1090号 監禁致
傷,強要被告事件
             主    文
 被告人Aを懲役1年6月に,被告人Bを懲役1年に処する。
 被告人両名に対し,この裁判確定の日から3年間それぞれその刑の執行を猶予す
る。
 訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。
             理    由
(罪となるべき事実)
 被告人両名は,被告人Aにおいて不動産仲介業を営むC(当時64歳)から不動
産売買等に関連して多額の詐欺被害を被ったため立腹し,その弁償を確約させるな
どのため同人を監禁しようと企て,D及びEと共謀の上,平成13年9月10日午
前8時30分ころ,神戸市a区b町c丁目d番e号所在のf先路上において,前記
D及び同Eにおいて出勤途中の前記Cの腕をつかむなどして同人を被告人A運転車
両の後部座席中央に強いて押し込み,前記Eが同車助手席に,被告人B及び前記D
が同車後部座席に乗り込んで前記Cを両側から挟み,同車内において,被告人Aに
おいて右手拳で前記Cの顔面を数回殴打し,前記Dらにおいて前記Cの両手首をビ
ニールテープで縛るなどの暴行を加えた後,被告人Aにおいて同車を発進,疾走さ
せ,前記Cが同車から脱出するのを不能にし,兵庫県姫路市g町h字i先の造成地
まで同人を連行し,同所において,同人を降車させ,同所に停車中のバキュームカ
ーのタンク内に同人を閉じ込め,同日午前11時過ぎころ,被告人Aにおいて前記
タンク内の前記Cに対し,「お前どないするつもりや。全部弁償せえや。1860
万円返せ。」「返さなんだら北朝鮮に売り飛ばすぞ。マグロ漁船に乗せるぞ。」な
どと申し向けて脅迫し,その後,前記バキュームカーを同市j字k番地先の空地に
移動させ,同日午後4時30分ころ,同所において,前記タンク内の同人に対し,
被告人Aにおいて「お前,前の念書書き直して『働いて返す』っていう労働契約書
を書け。」などと,被告人Bにおいて「おい,お前も自分で悪いことしたと思っと
るやろ。そう思うんやったら働いて返したらんかい。『10月10日を期限として
精一杯努力して返済する。』っていう念書を書け。」などとそれぞれ申し向けて脅
迫し,同人をして,もしこれに応じなければ,同人の身体,自由等にいかなる危害
を加えられるかもしれないと畏怖させ,よって,そのころ,同所において,同人を
して前記各内容の労働契約書及び念書各1通を作成させ,もって,同人に義務のな
いことを行わせるとともに,前記バキュームカーを同市lm番地の1所在のF株式
会社社屋付近に移動させ,同日午後6時ころ,同所において,同人を前記バキュー
ムカーのタンク内から降車させて解放し,その間,約9時間30分にわたり,同人
が前記バキュームカーのタンク内等から脱出するのを不能にして同人を不法に監禁
し,その際,前記暴行により,同人に加療約1週間を要する顔面・右前腕・両下腿
挫傷の傷害を負わせたものである。
(証拠の標目)ー括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号
省略
(補足説明)
 弁護人は,被告人AがCに判示の労働契約書を作成させた場所は判示姫路市j字
k番地先の空地(以下,「第2現場」という。)ではなく同市g町h字i先の造成
地(以下,「第1現場」という。)であり,しかも,被告人両名ともに判示の労働
契約書及び念書を作成させるに際し「北朝鮮に売り飛ばす」「マグロ漁船に乗せ
る」等の脅迫文言を申し向けていないし,それ以外の脅迫的言動にも及んでおら
ず,Cは進んでその作成に応じたものであるから,判示事実中,強要罪については
被告人両名は無罪である旨主張するところ,前掲関係各証拠によれば,判示事実は
優に認められるのであるが,その理由について若干補足する。
 被告人A及び証人Cの各公判供述中には,被告人AがCに判示の労働契約書を作
成させた場所は第2現場ではなく第1現場である旨の供述部分があるが,いずれも
その供述自体が曖昧であり,あるいは前後変遷するなど信用性が著しく乏しいもの
であるのに対し,前掲Cの検察官調書(検察官請求証拠番号7。以下同じ),共犯
者D,Eの各検察官調書(それぞれ55,62),被告人両名の捜査段階における
各供述調書(なお,被告人Bにおいては公判供述においても労働契約書を作成させ
た場所は第2現場である旨の供述を維持している。)は,その供述内容において,
犯行状況の推移にしたがってなされた自然かつ具体的で迫真性に富んだ供述であ
り,十分な信用性が認められるから,労働契約書を作成させた場所は第2現場であ
ると優に認められ,それが第1現場である旨の弁護人の主張は明らかに理由がな
い。そして,関係証拠によれば,判示のとおりCを拉致して第1現場に至り,Cが
逃走を図ったことを契機に被告人らはCをバキュームカーのタンク内に監禁し,そ
の後ほぼ一貫して同タンク内に閉じこめられ,監禁状態にあったCに対し,拉致開
始から約8時間後に,判示脅迫文言を申し向けて,被告人Aにおいて判示労働契約
書を,被告人Bにおいて判示念書の作成をそれぞれ命じてこれをCに作成させたこ
とが優に認められるところ,これが強要罪に該当することは明らかというべきであ
る。弁護人は,被告人両名は脅迫的言動に及んでおらず,Cは進んでそれぞれ判示
各文書の作成に応じたものである旨主張するが理由がない。
(法令の適用)
 被告人両名の判示所為のうち,監禁致傷の点はいずれも刑法60条,221条
(220条)に,強要の点はいずれも同法60条,223条1項にそれぞれ該当す
るが,前記監禁致傷と各強要との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,同法
54条1項後段,10条により結局以上を一罪として最も重い監禁致傷の罪の刑で
各処断することとし,同法10条により同法220条所定の刑と同法204条所定
の刑とを比較してそれぞれ重い傷害罪所定の懲役刑(ただし,短期はそれぞれ監禁
罪の刑のそれによる。)に従って各処断することとし,それぞれその刑期の範囲内
で被告人Aを懲役1年6月に,被告人Bを懲役1年に処し,被告人両名に対し情状
により同法25条1項をそれぞれ適用してこの裁判確定の日からいずれも3年間そ
れぞれその刑の執行を
猶予し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項本文,182条により被告人両名に
連帯して負担させることとする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人両名がほか2名と共謀の上被害者を拉致しバキュームカーのタン
ク内などに約9時間30分にわたって監禁し傷害を負わせ,その間被害者を脅迫し
て労働契約書ほか1通の書類を作成せしめて義務なきことを行わせた監禁致傷,強
要の事案であるが,被告人Aにおいて被害者から被った詐欺被害の弁償を確約させ
ようなどとしたという本件犯行の動機はその余りに安易で無法な本件犯行との対比
で考えると格別本件犯行を正当化するものとはいえないこと,本件は,早朝から4
人で被害者宅前で見張り,被害者を拉致した上,残暑の厳しい時期に長時間にわた
り被害者をバキュームカーのタンク内に監禁するなど執拗,危険かつ悪質な態様の
計画的犯行であること,被告人Aは本件犯行の首謀者であり,被告人Bは被告人A
に追随して自ら念書を書かせるなど積極的役割を果たしたこと,被告人両名とも
に,公判段階において,強要罪については無罪であるなどと不合理な弁解に終始す
るばかりか,被害者が被告人Aに対し行った詐欺の悪質性を強調し,被害者に負わ
せた苦痛にことさら目をつむるなど真摯な反省の態度に欠けること等に徴すると,
被告人両名の刑事責任はそれぞれ重いといわざるを得ない。
 しかしながら,被告人Aは,被害者の詐欺行為により多額の損害を被り本件で逮
捕起訴されたことも手伝ってその経営に係る会社の存続が危ぶまれる状態に陥った
こと,被告人Bは被告人Aの心情に同情し本件犯行に加担したものであるに止まる
こと,Cの被った傷害の程度は比較的軽微であること,被告人両名にはそれぞれ懲
役前科等はあるものの,被告人Aについては約40年前の,被告人Bについては約
20年前の古い前科であって,犯行当時はそれぞれ会社を自営して真面目に暮らし
ていたものであること,被告人らなりに反省していることなど被告人らのために斟
酌すべき事情も認められるので,これらの事情をも十分に考慮して,主文のとおり
量定した上,それぞれその刑の執行を猶予することとした次第である。
 よって,主文のとおり判決する。
  平成14年12月9日
    神戸地方裁判所第11刑事係甲
        裁 判 官  杉森研二

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