弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人浦部全徳、同鶴見恒夫の上告理由第一点ないし第四点について。
 原審(その引用する第一審を含む)は、被上告人の時効取得の抗弁を判断するに
あたり、「成立に争のない甲第二号証、第一審における証人D(第一、二回)、E
の各証言、被告本人の供述、原告本人の供述の一部によれば次のことが認められる。
(1)本件a番の土地は元被告の養父の所有であつたが、昭和五年七月一九日家督相
続により被告がその所有権を取得したこと、爾来右土地は被告のためその実父Dが
管理していること、同人はa番の土地の範囲はb番のcの土地を含めて(第一審判
決添付の)別紙図面A′B′B以北の土地と考え、之を訴外F某に賃貸し、同人は
右地上に別紙図面A′B′線より約一尺近くも屋根部分(妻)が張り出している建
物を昭和五年以前に建築所有していたこと、その後Dは右家屋を買受け之を他に貸
していたが、昭和三四年頃之をこわしたこと、(2)以下略……以上の事実が認めら
れる。そして右認定事実によれば、被告はDを介してb番のcの土地をa番の土地
を相続によつて取得した昭和五年七月一九日以来原告から右抗議のあつた昭和三四
年頃まで所有の意思を以つて平穏公然無過失に占有して来たものといえる。」と判
示している。
 しかしながら、右掲記の証拠方法中には、被上告人が昭和五年七月一九日からま
たは昭和五年以前からb番のcの土地(四・七八坪)を占有していたことを認むべ
き証拠は全く見当らず、かえつて第一審の証人D(第二回)は、「被上告人が右土
地を所有していた頃には該土地上には建物はなかつたが、私がFに土地を貸したら、
同人が昭和一一年頃に建物を建てた」旨供述している。それにもかかわらず、原判
決は、前記のとおり、被上告人が昭和五年七月一九日以来右土地を占有してきたこ
とを認めることができるといつている。そうとすれば、原判決には、証拠によらず
に事実を認定した違法があり、右昭和五年七月一九日を起算点として、昭和一五年
七月一九日の経過とともに時効により右土地の所有権を取得したとの判断も違法で
あり、これが判決に影響を及ぼすこと明らかである。
 また、被上告人がa番につき昭和五年七月一九日家督相続により所有権を取得し
たこと、および、a番とb番との境界線がAB線であることは、原審が適法に認定
したところである。そして、右境界線がAB線であることは、原審がa番およびb
番の両地の登記簿謄本、測量図、検証の結果等によつて認めたものであるから、登
記簿に基づいて実地に調査すれば、右境界線がAB線であることを容易に知り得た
ことがうかがえる。したがつて、被上告人が相続当時右境界線がAB線であること
を確認することは困難でなかつたといわなければならない。そうとすれば、原判決
が認定する被上告人がa番の所有権を相続により取得した昭和五年七月一九日にb
番のcの土地(四・七八坪)をa番の土地の一部で自分の所有に属すると信じたと
しても、それについては、他に特段の事情のない限り、無過失であるとはいえない
と解するを相当とする。原判決が、被上告人が右のように信ずるについては直ちに
無過失であつたといつているのは、民法一六二条二項の解釈適用を誤まつた違法が
あるといわなければならず、被上告人が昭和五年七月一九日以来b番のcの土地(
四・七八坪)を所有の意思をもつて平穏公然、かつ無過失に占有してきたから、昭
和一五年七月一九日の経過とともに、右土地を時効取得したとの判断も違法であり、
これが判決に影響を及ぼすこと明らかである。
 よつて、論旨は理由あり、上告理由中その他の点についての判断を省略し、本件
について更に審理を尽させるため、事件を原審に差し戻すべきものとし、民訴法四
〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    色   川   幸 太 郎

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