弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人小田泰三の上告趣意第一点について。
 記録を調べてみるに、(一)現行犯人逮捕手続書には、被疑者住所不定無職A当
六七年を現行犯人と認めて逮捕者B当一九年外一名が昭和三一年二月二八日午后八
時四〇分頃神戸市a区bc丁目dにおいて逮捕し同日午后八時四五分頃これを司法
巡査に引渡したこと、そしてその現行犯と認められた犯罪は右被疑者が同日午后八
時四〇分頃右bc丁目において通行中のC当二七年に対し背後より所携の大工用の
みをもつてその右背部を突き刺し同人所持の洋傘一本を強取し、追跡逮捕せんとし
た右Bに対し逮捕を免れる目的をもつて大工用のみにて同人の左上膊部を突刺し、
それぞれその部分に傷害を与えたものであるとの記載があり、(二)起訴状には、
本籍樺太市e町fg丁目h、住居不定、無職、被告人AことD当六七歳に対する罪
名強盗傷人の公訴事実として右犯罪と同一の事実の記載があり、(三)第一審第一
回公判調書には被告人は自己の本籍についてはi町j町というほか、氏名、年令、
職業、住居については右起訴状通りであり明治二一年二月二四日生である旨陳述し
た旨の記載があり、(四)原審弁護人の控訴趣意書には被告人の氏名をDとし、(
五)原審第一回公判調書には被告人が本籍は鳥取県の方ではなくしてk町fh号で
ある旨、また(六)原審第二回公判調書には被告人は前科はない旨供述したとの記
載があり、(七)鳥取県E町長の回答書には管内にAことDの本籍等は見当らない
旨の記載があるが、他に被告人の本籍、年令、前科等身許についての証拠資料は見
当らない。そして第一審判決は被告人の表示として本籍不詳(元l町j町fg丁目
h号)住居不定、無職、AことD明治二一年二月二四日生と記載し、原判決は被告
人の氏名をDとのみ記載したほか第一審判決表示のとおり記載したことは判文上明
白である。
 右の関係であるから、本件において被告人をAことDと記載して起訴せられた被
告人本人が第一、二審公判廷で自ら身許について右のとおり自供し第一、二審判決
はその本人につき判決を言い渡したものであり、起訴せられた被告人と審判せられ
た被告人とが同一であることを右各証拠によつて確定したことは明白であり、被告
人が第一審判決の認定した犯罪事実をしたことも同判決挙示の証拠によつて認める
ことができる。(第一、二審判決は前科ある事実を認定していないのであるから前
科の証拠の取調が十分でないとしても判決を破棄すべき理由とはならない)。して
みれば第一審判決を是認した原判決には所論のような違法はなく、所論判例違反の
主張は前提を欠き採用することができない。
 同第二点、第三点並びに被告人本人の上告趣意は原判示に副わない事実誤認及び
単なる法令違反の主張に過ぎずいずれも採用できない。
 また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四一四条、三八六条一項三号、一八一条により裁判官全員一致の意見で
主文のとおり決定する。
  昭和三二年六月二五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    高   橋       潔

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