弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決を次のとおり変更する。
被控訴人は,控訴人に対し,5万円を支払え。
控訴人のその余の請求を棄却する。
2訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを100分し,その97を控訴人の負
担とし,その余を被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人に対し,160万円を支払え。
3訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,控訴人が,大阪市情報公開条例(平成13年大阪市条例第3号。以
下「本件条例」という)に基づき,大阪市教育委員会に対し,ピースおおさ。
か展示リニューアル監修委員会における配布資料(以下「本件文書」という)。
等の公開請求(以下「本件請求」という)をしたところ,大阪市教育委員会。
から,平成27年2月12日付けで,本件文書に記録されている情報が本件条
例7条2号,4号及び5号所定の非公開情報に該当することを理由とする非公
開決定(以下「本件非公開決定」という)を受けたことをめぐって,同決定。
等の違法を理由として,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝
料160万円の支払を求める事案である。
原審は,控訴人の請求を棄却したため,控訴人は,これを不服として控訴し
た。
2本件条例の定め(乙1)
,。原判決2頁2行目から3頁5行目までのとおりであるからこれを引用する
3前提事実
次の事実は,当事者間に争いがないか,又は証拠(後掲のもの)及び弁論の
全趣旨により認めることができる(一部の事実は,当裁判所に顕著である。。)
関係者
ア公益財団法人大阪国際平和センター(以下「本件センター」という)。
は,大阪空襲の犠牲者を追悼し,平和を祈念するとともに,空襲を中心に
大阪の人々の戦争体験に関する情報及び資料の収集,保存,展示等を通じ
て,戦争の悲惨さ及び平和の尊さを次の世代に伝え,平和を願う豊かな心
,()。を育みもって世界の平和に貢献することを目的とする法人である乙2
本件センターは,平成元年7月に被控訴人と大阪府が共同して出捐して
設立された法人であり,本件請求当時(平成27年1月)の職員は4名で
あった(乙5。)
イ本件センターは,前記目的を実現するための基幹事業として,平成3年
9月,平和資料館「ピースおおさか(以下「ピースおおさか」という)」。
を設置し,以降,ピースおおさかを運営して戦争と平和に関する資料を展
示している(甲3,乙5。)
ピースおおさか展示リニューアル事業(以下「本件事業」という)。
ア本件センターは,本件事業について,平成25年4月9日,ピースおお
さか展示リニューアル構想を発表した(乙5。)
イ本件センターは,本件事業について,平成25年9月13日,ピースお
おさか展示リニューアル基本設計(中間報告)を発表し,同年11月27
日,ピースおおさか展示リニューアル基本設計を発表した(乙7,11。)
ウ本件センターは,本件事業について,平成26年2月4日,前記イの基
本設計に基づき,ピースおおさか展示リニューアル実施設計(中間報告)
を発表し,同年4月10日,ピースおおさか展示リニューアル実施設計を
発表した。なお,遅くとも同年9月頃には,ピースおおさかのリニューア
ルオープンの時期が平成27年4月に予定されていた(乙15,16,。
18,19,21,24)
エピースおおさかは,平成27年4月30日,リニューアルオープンした
,()。が事前にリニューアル後の具体的な展示内容は公開されなかった甲8
本件非公開決定に至る経緯等
ア控訴人は「ピースおおさか」の危機を考える連絡会事務局」の肩書き,「
で,平成27年1月27日付けで,大阪市教育委員会に対し,本件条例5
条に基づき,公文書特定事項を「ピースおおさか展示リニューアルに係る
次の文書「B.世界中が戦争をしていた時代」のコーナーの映像シナ」,「
リオ(検討中の文書「F.私たちの未来を創っていくために」のコー)」,「
ナーにおける自衛隊・集団的自衛権・国際社会における平和貢献に関する
展示「直近の監修委員会において検討した資料」として,公文書の公開」,
請求(本件請求)をした(甲12。)
イ大阪市教育委員会は,本件請求の対象となる文書を,第16回ピースお
おさか展示リニューアル監修委員会配布資料(本件文書)であると特定し
た上,平成27年2月12日付けで,控訴人に対し,本件文書に記録され
ている情報が本件条例7条2号,4号及び5号所定の非公開情報に該当す
ることを理由として,本件文書を公開しない旨の本件非公開決定をし,控
訴人は,同月14日,同決定の通知書を受領した(甲5,6。)
ウ控訴人は,平成27年3月6日付けで,本件非公開決定を不服として,
大阪市教育委員会に対し,異議申立て(以下「本件異議申立て」という)。
を行った(甲6。)
エ大阪市教育委員会は,ピースおおさかのリニューアルオープン後の平成
27年6月12日付けで,本件非公開決定を取り消した上(以下「本件取
消決定」という,本件請求について,個人の氏名(既に公開されている。)
部分を除く)を除く部分を公開する旨の部分公開決定(以下「本件部分。
公開決定」という)をし,控訴人は,その頃,同決定の通知書を受領し。
た(甲7。)
オ控訴人は,平成27年8月14日,本件訴えを提起した。
,,,カ大阪市教育委員会は平成27年9月11日本件異議申立てについて
本件条例17条に基づき,審査会への諮問を行った。
4争点
本件非公開決定は国家賠償法上違法であるか
本件取消決定は国家賠償法上違法であるか
本件異議申立てにおいて,平成27年9月11日まで審査会への諮問を行
わなかったことは,国家賠償法上違法であるか
損害の有無及び損害額
5争点に関する当事者の主張
本件非公開決定は国家賠償法上違法であるか
(控訴人の主張)
ア本件文書に記録されている情報は,本件条例7条所定の非公開情報に該
当しないこと
被控訴人は,本件文書には,本件条例7条2号(以下,単に「2号」
ということがある)が定める「法人等に関する情報であって,公にす。
ることにより,当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害
するおそれがあるもの」に該当する非公開情報が記録されている旨主張
する。しかし,後記ないしのとおり,上記主張は失当である。
大阪市が作成しホームページにおいて公表している「情報公開条例解
釈・運用の手引(甲15)は,2号にいう「公にすることにより,権」
利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある」情報とは,
次のようなものをいうとしている。
①法人等の事業者が保有する生産技術上又は販売上の情報であって,
公開することにより,当該法人等の事業者の事業活動が損なわれるお
それがあるもの
②経営方針,経理,人事等の事業活動を行う上での内部管理に属する
事項に関する情報であって,公開することにより,法人等の事業者の
事業運営が損なわれるおそれがあるもの
③その他公開することにより,法人等の事業者の名誉,社会的評価,
社会的活動の自由等が損なわれるおそれがあるもの
本件文書に記録されている情報は,次のとおり,前記の①ないし③
のいずれにも当たらない。
被控訴人は,本件文書の公開により,本件センターに市民団体等から
展示内容に関する要望や批判が寄せられ,メディアにも批判的に報道さ
れることとなり,本件センターの職員4名が展示内容に関する市民団体
,(「」。)等からの要望や批判質問に対する回答要求以下回答要求という
や,各種メディアによる報道取材への対応に追われ,平成27年4月中
のリニューアルオープンが不可能となるおそれがあったから,本件セン
ターの業務に支障が生じるおそれがあった旨主張する。
しかし,多数の意見が提出されることは市民の注目を集める行政分野
においては当然あり得ることであり「意見を寄せられては困るから情,
報を秘匿する」といった運用が許されるべきではない。
控訴人を含む多数の市民が,ピースおおさか展示リニューアルについ
て,意見表明を重ねてきたが,それらはいずれも平穏な態様で行われて
きた。市民団体は,平穏な態様で,要望書や要請書を提出していたもの
であり,その対応のために本件センターの職員に多大な負担を生じさせ
たことはなかった。
したがって,本件請求がされた時点において,本件文書の公開をすれ
ば,上記職員が,市民団体等から提出される展示内容に関する要望や批
判,回答要求に対する対応に追われてしまうと危惧されるような状況は
存在しなかったのであり,本件文書を公開することにより,本件センタ
ーの業務に支障が生じるおそれがあったとはいえない。
被控訴人は,リニューアル後の展示内容を事前にどの程度明らかにす
るかは,ピースおおさかを設置運営する本件センターの裁量に属し,そ
の裁量権が害されないこと自体が,2号にいう「正当な利益」に当たる
旨主張する。
しかし,法人等に上記のような裁量権が認められる場合であっても,
本件条例に基づいて外郭団体に関する情報公開を請求する権利が認めら
れているのであるから,裁量権の存在は非公開情報に該当するか否かと
は無関係であり,裁量権の存在をもって非公開情報に該当することの根
拠とすることはできないはずである。したがって,被控訴人の上記主張
は失当である。
そうすると,本件文書に記録されている情報は,2号所定の非公開情
報に該当しないというべきである。そして,被控訴人は,本件文書に記
録されている情報について,2号以外の本件条例7条各号に該当する旨
の主張立証をしていないのであるから,本件文書に記録されている情報
は,本件条例7条各号所定の非公開情報に該当するとはいえない。
したがって,本件文書に記録されている情報が本件条例7条2号,4
号及び5号所定の非公開情報に該当することを理由としてした本件非公
開決定は,違法である。
イ前記アによれば,大阪市教育委員会の担当公務員が,本件文書に記録さ
れている情報につき本件条例7条所定の非公開情報に該当すると判断した
ことについて,合理的根拠はなかったというべきである。
したがって,大阪市教育委員会の担当公務員は,職務上通常尽くすべき
注意義務を尽くすことなく漫然と本件非公開決定をしたということができ
るから,上記担当公務員が本件非公開決定をしたことは,国家賠償法上違
法である。
(被控訴人の主張)
ア本件文書に記録されている情報は,2号所定の非公開情報に該当するこ

本件文書には「法人等に関する情報であって,公にすることにより,,
当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあ
るもの」に該当する非公開情報(2号所定の非公開情報)が記録されて
いる。その根拠は,次のとおりである。
a本件文書は,第16回ピースおおさか展示リニューアル監修委員会
における配布資料であって,平成27年4月中にリニューアルオープ
ンが予定されていたピースおおさかのリニューアル後の展示内容,展
示位置,展示物等で検討段階のものが詳細に記載されており,本件セ
ンターにおいてリニューアルオープン前にこれらを公開することは予
定していなかった。
ピースおおさかのリニューアルについては,展示内容等に関し,市
民団体等からそれぞれの歴史認識に基づく具体的な要望が出され,メ
ディアによる報道もされていた。上記展示内容については,南京大虐
殺や朝鮮人強制連行等に関する展示(以下「加害展示」という)の。
撤去の当否などについて,市民団体や各種メディアの間で尖鋭な意見
,,,対立が生じており本件センターにおいても展示リニューアル構想
展示リニューアル基本設計,展示リニューアル実施設計を発表するた
びに展示内容に関する意見や批判,回答要求を受け,その内容はリニ
ューアル後の展示内容が明らかになるにつれて具体性を増していた。
このような状況下において,展示内容を詳細に記載している本件文
書を公開すれば,本件センターに市民団体等から展示内容に関する更
なる具体的な要望や批判が寄せられ,メディアにも批判的に報道され
ることは容易に想定された。
本件センターの職員は4名のみであるから,展示内容に関する市民
団体等からの要望や批判,回答要求があった場合や,各種メディアが
ピースおおさかの展示内容に関する報道を行うにあたって本件センタ
ーに取材を行った場合,上記職員4名が,これらの対応に追われ,ピ
ースおおさかのリニューアルオープンに向けて必要な準備を行うこと
が困難となり,平成27年4月中のリニューアルオープンが不可能と
なるおそれがあった。
したがって,本件文書を公開すれば,本件センターの業務に支障が
生じるおそれがあった。
b本件センターにおいては,本件請求がされた後においても,リニュ
ーアルオープンに向けたPR活動やその後の集客方針を検討するもの
とされていた。
そして,リニューアルオープン前にリニューアル後の展示内容をど
の程度明らかにするかということは,ピースおおさかを設置運営する
本件センターの裁量に属する事項であることからすれば,その裁量権
(リニューアル後の展示内容について情報公開するかしないかを決定
することにつき有する裁量権)が害されないこと自体が,2号にいう
「正当な利益」に当たる。
そうすると,大阪市教育委員会が本件文書を公開してリニューアル
後の展示内容の詳細を明らかにすることは,本件センターの上記裁量
,「」権を害することになるから2号にいう正当な利益を害するおそれ
があるといえる。
なお,本件非公開決定は,本件文書に記録されている情報につき本件
条例7条2号,4号及び5号所定の非公開情報に該当するとしたが,本
件訴訟では,本件文書に記録されている情報が,本件条例7条所定の非
公開情報に該当することの根拠としては,2号のみを主張し,4号及び
5号の主張はしない。
イ前記アによれば,大阪市教育委員会が,本件文書を公開することによ
り,本件センターの正当な利益を害するおそれがあるとして,2号所定の
非公開情報に該当することを理由に本件非公開決定をしたことについて,
相応の合理的な根拠があったというべきである。
したがって,大阪市教育委員会の担当公務員が職務上通常尽くすべき注
,意義務を尽くすことなく漫然と本件非公開決定をしたということはできず
上記担当公務員が本件非公開決定をしたことが国家賠償法上違法であると
はいえない。
本件取消決定は国家賠償法上違法であるか
原判決7頁23行目から8頁8行目までのとおりであるから,これを引用
する。
本件異議申立てにおいて,平成27年9月11日まで審査会への諮問を行
わなかったことは,国家賠償法上違法であるか
原判決8頁10行目から9頁10行目までのとおりであるから,これを引
用する。
損害の有無及び損害額
原判決9頁12行目から10頁5行目までのとおりであるから,これを引
用する。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実及び証拠(後掲のもの)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事
実が認められる。
本件文書
本件文書は,本件事業に関する本件センターの諮問機関である展示リニュ
ーアル監修委員会において配布された検討資料であって,平成27年1月下
旬頃にとりまとめられた(甲5,14。)
本件文書には,ピースおおさかのリニューアル後の展示内容の詳細が示さ
れており,各展示ゾーンにおける展示物の配置,展示物の寸法,内容,展示
(,,。)方法等映像についてはキャプチャー画像字幕の内容表示方法等も含む
が明らかにされているほか,これらの根拠となる統計資料や従前の検討資料
からの変更点も記載されていたが,本件センターはリニューアルオープン前
にこれらを公開することを予定していなかった(甲14。)
本件事業に関する経緯
アピースおおさかは,平成3年9月の開館以来,世界平和に貢献するとい
,,う設置理念の下戦争による被害と加害を両面から捉える必要性を意識し
加害展示を行っていた(甲3,乙4,5。)
加害展示については,肯定的な意見もある一方,残酷,偏向,自虐的な
どとする否定的な意見もあり,従前には加害展示に関する資料の撤去,差
替え,説明文の変更等を行ったことがあった(乙5。)
イ本件センターは,ピースおおさかが開館以来,常設展示のリニューアル
がされていないことなどを受け,平成25年4月9日,ピースおおさか展
示リニューアル構想を発表した。同構想においては「大阪中心”に“子,“
ども目線”で「平和を自分自身の課題として考えられる展示」にリニュ」
ーアルすることがコンセプトとして掲げられ,加害展示についても見直す
方針であることなどが報道された(乙4,5)。
上記発表及び報道を受けて,本件センターには,市民団体等からリニュ
ーアル後の展示内容に関し,要旨,原判決別紙1「ピースおおさかの展示
()」(「」。)リニューアルに対しての要望等受理日順以下要望等一覧という
の受付番号1から19まで記載のとおりの意見や要望が寄せられた(乙6
の1。)
ウ本件センターは平成25年9月13日に展示リニューアル基本設計中,(
間報告)を発表した。同設計においては,従前まで加害展示を扱ってきた
部分を,大阪空襲に至った経緯として日清・日露戦争から太平洋戦争まで
を概観する内容とすることが示され,各種メディアにおいても「南京の,
展示がなくなる可能性が高い」などといったピースおおさかの館長の発言
とともに加害展示が大幅に縮小される旨報道された(乙7から10まで)。
上記発表及び報道を受けて,本件センターには,市民団体等からリニュ
ーアル後の展示内容に関し,要旨,要望等一覧の受付番号20から53ま
で記載のとおりの意見や要望が寄せられた(乙6の2。)
エ本件センターは,平成25年11月27日に展示リニューアル基本設計
を発表した。同設計においては,市民団体からの指摘等を踏まえ,前記ウ
の中間報告から,大阪空襲に至る経緯に関する展示が補充されたほか,大
阪空襲直前の大阪市街地の航空写真の展示を取りやめるなどの修正が行わ
れた(乙11から13まで)。
上記発表やこれに関する報道を受けて,本件センターには市民団体等か
らリニューアル後の展示内容に関し,要旨,要望等一覧の受付番号54か
ら69まで記載のとおりの意見や要望が寄せられた(乙6の3。また,)
控訴人の所属する市民団体である「ピースおおさか」の危機を考える連「
絡会」は,大阪府知事及び大阪市長に対し,計画の見直しを求める666
2筆の署名を提出した(乙14。)
オ本件センターは,平成26年2月4日に展示リニューアル実施設計(中
間報告)を発表した。同設計においては「展示に当たっての留意点」と,
して「政府の統一的な見解を踏まえつつ,事実を客観的に展示することを
基本とし…」などとされたほか,照明・音響等を利用して当時の防空壕を
再現することなどが示されたのに対し,各種メディアには,博物館の方針
が時の政権に左右される懸念がある,防空壕の安全性に対する誤解を与え
るなどと報道をするものがあった(乙15から17まで)。
上記発表及び報道を受けて,本件センターには,市民団体等からリニュ
ーアル後の展示内容に関し,要旨,要望等一覧の受付番号70から74ま
で記載のとおりの意見や要望が寄せられた(乙6の4。)
カ本件センターは,平成26年4月10日に展示リニューアル実施設計を
発表したが,その後も,各種メディアにおいては,南京事件に関する展示
を撤去する方針を撤回する旨の方針が示された旨の報道がされるなど,ピ
ースおおさかの展示内容に関する報道が継続的に行われた(乙19から。
乙29まで)
上記発表及び報道を受けて,本件センターには,市民団体等からリニュ
ーアル後の展示内容に関し,要旨,要望等一覧の受付番号75から93ま
で記載のとおりの意見や要望が寄せられた(乙6の5。)
キ本件センターが平成27年1月30日に開催した理事会(平成26年度
第6回理事会)では「ピースおおさか展示リニューアル「詳細設計」最,
終報告(案)について」と題する議案が審議され,おおむね原案の内容で
進めるものの,一部については引き続き監修委員会で精査するものとされ
。,,,たまた同理事会においてはオープン日をいつに設定するかの意見や
どのようにPRするかについて検討し団体見学受付は連休明けの早い時期
から受け付けるよう検討すべきであるなどの意見も出された(乙41)。
なお,ピースおおさか展示リニューアル「詳細設計」最終報告は,同年
3月20日に開催された本件センターの平成26年度第7回理事会におい
て,出席理事全員一致により可決された(乙42。)
クピースおおさかは,平成27年4月30日にリニューアルオープンした
ところ,その後も,原判決別紙2「ピースおおさかリニューアルオープン
以降の要望等一覧(財団」記載のとおり,本件センターには市民団体等)
から展示内容に関する批判や変更を求める要請が寄せられた(甲10,乙
40,43から45まで,48から58まで。)
2争点(本件非公開決定は国家賠償法上違法であるか)について
前記前提事実,前記認定事実及び証拠(後掲のもの)並びに弁論の全趣旨に
よれば,次のとおり認定判断することができる。
本件文書に記録されている情報は,本件条例7条所定の非公開情報に該当
するか
ア大阪市が作成しホームページにおいて公表している「情報公開条例解釈
・運用の手引(甲15)は,2号にいう「公にすることにより,権利,」
競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある」情報とは,次のよ
うな情報をいうとしている。
①法人等の事業者が保有する生産技術上又は販売上の情報であって,公
開することにより,当該法人等の事業者の事業活動が損なわれるおそれ
があるもの
②経営方針,経理,人事等の事業活動を行う上での内部管理に属する事
項に関する情報であって,公開することにより,法人等の事業者の事業
運営が損なわれるおそれがあるもの
③その他公開することにより,法人等の事業者の名誉,社会的評価,社
会的活動の自由等が損なわれるおそれがあるもの
イ被控訴人は,本件文書の公開により,市民団体等から展示内容に関す
,,る要望や批判が寄せられメディアにも批判的に報道されることとなり
本件センターの職員4名が展示内容に関する市民団体等からの要望や批
判,回答要求や,各種メディアの報道取材への対応に追われ,平成27
年4月中のリニューアルオープンが不可能となるおそれがあったから,
本件文書を公開すれば,ピースおおさかのリニューアルオープンに向け
ての準備に係る本件センターの業務に支障が生じるおそれがあったとし
て,本件文書に記録されている情報は2号所定の非公開情報に該当する
旨主張するので,以下検討する。
非公開とされた本件文書は,展示リニューアル監修委員会における配
布資料として,平成27年1月下旬頃にとりまとめられたものであると
ころ,ピースおおさかのリニューアルオープンは同年4月中と間近に迫
っており,その内容が詳細にわたっていることに照らせば,これが公開
されることにより,リニューアル後の展示内容の詳細が明らかになるも
。,,のであったといえるしかしそれは予定された公開展示の内容であり
それまでに展示リニューアル基本設計,同実施設計が公表されてきたこ
とに照らしても,それ自体秘密性を有するものとはいえないし,また,
前記アの①ないし③の類型にあてはまるものではない。
一方,ピースおおさかの展示内容については,加害展示の撤去の当否
などをめぐって市民団体や各種メディアの間で尖鋭な意見対立が生じて
おり,本件センターは,展示リニューアル構想,展示リニューアル基本
設計,展示リニューアル実施設計を発表するたびに展示内容に関する意
見や批判,回答要求を受け,その内容はリニューアル後の展示内容が明
らかになるにつれて具体性を増していたものと認められる。
本件請求がされたのは,ピースおおさかのリニューアルオープンが約
3か月後に迫った平成27年1月27日であるところ,上記のようなピ
ースおおさかのリニューアルをめぐる状況に照らせば,本件請求当時,
,リニューアル後の展示内容の詳細を明らかにする本件文書を公開すれば
本件センターに市民団体等から更に具体的な展示内容に関する意見,批
判,回答要求等が多数提出されることや,メディアにより展示内容につ
き批判的に報道されることが予想される状況であったと認めることがで
きる。
しかしながら,本件センターは,大阪府と大阪市が設立した公益財団
法人であり,その目的に照らしても強い公共的性格を有するところ,そ
の職員が4名のみであるとしても,本件センターが,展示内容に関する
市民団体等からの意見や批判,回答要求の提出を受けることのないよう
に取り計らうことは,直ちに正当なものと解し難い。そして,上記の意
見や批判,回答要求の提出があった場合であっても,本件センターはこ
れに対応ないし応答する義務を負うものではないのであるから,その職
員がリニューアルオープンに向けた準備を行うのに支障が生じない範囲
,。で対応することで足りるというべきであってそれは可能なはずである
また,各種メディアがピースおおさかの展示内容に関する報道を行うに
あたって本件センターに取材を行ったとしても,同様に業務に支障のな
い範囲で対応することで足りるというべきである。また,本件センター
と大阪府や被控訴人との関係からすれば,本件センターが大阪府や被控
,訴人から一時的に人員の応援派遣を受けることも考えられないではなく
そうすることにより本件センターの業務への影響は更に軽減することが
できたと考えられる。
そうすると,本件文書を公開することにより,本件センターの職員4
名が,ピースおおさかのリニューアルオープンに向けて必要な準備を行
うことにつきある程度の影響が出ることは否定できないとしても,リニ
ューアルオープンが困難となるおそれがあったとまでは認め難い。
したがって,被控訴人の前記の主張は採用することができない。
ウ被控訴人は,リニューアル後の展示内容を事前にどの程度明らかにす
るかは,ピースおおさかを設置運営する本件センターの裁量に属し,そ
の裁量権が害されないこと自体が,2号にいう「正当な利益」に当たる
旨主張するので,以下検討する。
被控訴人の主張するような本件センターの裁量が2号にいう「正当な
利益」に含まれる余地があるとしても,前記のような本件センターの性
格に照らすと,上記「正当な利益」が肯定されるのは,本件センターが
リニューアル後の展示内容をリニューアルオープンまで明らかにしない
ことについて合理的な理由がある場合に限られると解すべきである。な
ぜならば,合理性のない判断は「正当な利益」を基礎づけるものではな
いし,また,本件条例7条3号では,実施機関が公にしないとの条件で
任意に提供を受けた情報であっても,非公開とするには,当該条件を付
することが合理的であると認められることを要するものとされているこ
ととの均衡からも,上記のように解すべきことは明らかである。
そして,本件において,本件センターがリニューアル後の展示内容を
事前に公開しないと判断したことの根拠は,公開した場合に予想される
市民団体からの要望や批判,回答要求があった場合や,各種メディアか
らの報道取材への対応に追われ,リニューアルオープンに向けて必要な
準備ができなくなることにあると解されるところ,このような理由が,
合理的なものとはいえないことは,前記イに説示したところに照らして
明らかである。
したがって,被控訴人の前記の主張は採用することができない。
エ以上によれば,本件文書に記録されている情報は,2号所定の非公開情
報に該当するとは認められないというべきである。そして,被控訴人は,
本件文書に記録されている情報について,2号以外の本件条例7条各号に
該当する旨の主張立証をしていないのであるから,本件文書に記録されて
いる情報は,本件条例7条所定の非公開情報に該当するということはでき
ない。
したがって,本件文書に記録されている情報が本件条例7条2号,4号
及び5号所定の非公開情報に該当することを理由としてした本件非公開決
定は,違法である。
前記によれば,大阪市教育委員会の担当公務員が,本件文書に記録され
ている情報につき本件条例7条2号所定の非公開情報に該当すると判断した
ことについて,合理的根拠はなかったというべきであり,相応の合理的な根
拠があった旨の被控訴人の主張は採用することができない。
したがって,大阪市教育委員会の担当公務員は,職務上通常尽くすべき注
意義務を尽くすことなく漫然と本件非公開決定をしたといわざるを得ないか
ら,上記担当公務員が本件非公開決定をしたことは,国家賠償法1条1項の
適用上違法である。そして,上記担当公務員に過失があったことも明らかで
あって,被控訴人には,本件非公開決定によって控訴人が被った損害を賠償
すべき責任があるというべきである。
3争点(本件取消決定は国家賠償法上違法であるか)について
本件取消決定は,ピースおおさかのリニューアルオープンに伴い,非公開
とすべき事由が消滅したとの判断の下に本件非公開決定を取り消すものであ
るところ(前記前提事実エ,当時の大阪市教育委員会が非公開とする判)
断をした根拠によれば,リニューアルオープン後においては,なお同決定を
維持すべき理由はなく,改めて公開すべきこととなるから,その趣旨に従っ
て新たな公開決定をする前提として本件非公開決定を取り消すこととしたの
は当然であり,かつ,控訴人の利益となる処分であるから,これが控訴人に
対して国家賠償法上違法となる余地はないというべきである。
控訴人は,①本件非公開決定が取り消されたことにより,同決定の取消し
を求める訴えの利益がなくなり,行政事件訴訟法により保障された裁判を受
けることができなくなったから,本件取消決定は裁判を受ける権利を侵害す
る,②本件取消決定は本件非公開決定という違法行為を追認し矮小化するも
のであるなどと主張する。
しかしながら,①本件取消決定は,控訴人が訴訟によって求める本件非公
開決定の取消しと同様の効果を実現するものであって,裁判を受ける権利は
裁判外で当該権利の救済が実現されることを否定するものではないから,本
件取消決定が控訴人の裁判を受ける権利を侵害するものとはいえないし,②
本件非公開決定が違法であるとすれば,これを正すことは行政の使命である
から,本件取消決定は本件非公開決定の違法を理由としてされたものではな
いとはいえ,結果的にそれと同様の効果をもたらす本件取消決定をすること
は,なんら違法行為を追認するものというに当たらない。したがって,控訴
人の主張には理由がない。
4争点(本件異議申立てにおいて,平成27年9月11日まで審査会への諮
問を行わなかったことは,国家賠償法上違法であるか)について
後記のとおり補正するほかは,原判決17頁11行目から18頁23行
目までのとおりであるから,これを引用する。
原判決の補正
ア原判決18頁5行目から7行目にかけての「これらの事情に加えて,本
件非公開決定が違法とはいえないことを併せ考慮すれば」を「これらの,
事情によれば,本件非公開決定が違法であることを考慮しても」に改め,
る。
イ原判決18頁19行目の「必要はない」の次に「もっとも,本件部分。,
開示決定は「個人の氏名(すでに公開された部分を除く」を非開示とし,)
ており,全部公開されたわけでないことから,なお異議申立ての利益があ
ると解される余地があり,その点を考慮して後日審査会への諮問が行われ
たものと推測される。しかし,そのような解釈を採ったとしても,控訴人
の目的はすでに実質的に達成されていることからすると,このような形式
的な手続の遅延をもって控訴人に対する国家賠償法上の違法をもたらすと
みることはできない」を加える。。
5争点(損害の有無及び損害額)について
前判示のとおり,被控訴人には,本件非公開決定によって控訴人が被った損
害を賠償すべき責任がある。
控訴人は,本件非公開決定によって控訴人が被った精神的苦痛につき慰謝料
を請求しているところ,前記認定事実のとおり,控訴人は,本件非公開決定に
,よりピースおおさかのリニューアルオープンの前に本件文書を見ることできず
展示内容に対する意見を述べることができなかったこと,しかし,リニューア
ルオープンの後ではあるが,本件部分開示決定により,本件文書の部分開示を
受けることができたこと,また,仮に控訴人がリニューアルオープン前に本件
文書の開示を受けて展示に関する意見を述べたとしても,展示内容の決定につ
いてはすでに最終段階に至った後であり,本件センターとしては,意見を考慮
する余地はなかったし,その繁忙状況からして控訴人からの意見等に何らかの
対応を採ることは困難であったものと考えられることなど,本件において認め
られる諸般の事情を考慮すると,控訴人に対する慰謝料としては,5万円を認
めるのが相当である。
第4結論
以上によれば,控訴人の請求は,慰謝料5万円の支払を求める限度で理由が
あるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却すべきである。し
たがって,これと異なる原判決を主文第1項のとおり変更することとし,主文
のとおり判決する。
大阪高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官佐村浩之
裁判官大野正男
裁判官井田宏

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