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判決 平成14年12月5日 神戸地方裁判所 平成14年(ワ)第533号車両通
行妨害等禁止請求事件
            主    文
   一 原告の請求を棄却する。
   二 訴訟費用は原告の負担とする。
            事実及び争点
第一申立
   被告は,A市B区C町a丁目b番c号東側先の同町a丁目d番eの土地上
に,車両等を駐車させるなどして,原告の2.5トン以下の車両の通行を妨害する
行為をしてはならない。
第二 事案の概要
   本件は,原告が被告に対し,主位的に,通行地役権に基づき,予備的に,債
権者代位権に基づく通路所有者の権利の代位行使として,通行妨害行為の禁止を求
めた事案である。
 一 前提事実(証拠を摘示しない事実は争いがない。)
  1 原告は,A市B区C町a丁目d番f所在の宅地492.56㎡(以下,
「原告所有土地」という。)の所有権を,平成10年12月25日競売による売却
により取得し,同月28日,その旨の所有権移転登記を得た。また,原告は,その
隣地の同町a丁目d番g所在の山林638㎡(以下,「原告所有隣地」という。)
の所有権を,平成11年1月21日売買により取得し,同月22日,その旨の所有
権移転登記を得た。(甲1)
  2 被告は,被告所有の同町a丁目d番h及びi所在の土地(以下,「被告所
有土地」という。)上の建物(以下,「被告建物」という。)に居住している。
(甲2,乙2,弁論の全趣旨)
  3 原告所有土地及び原告所有隣地は,被告建物の奥(山側)に存在し,これ
らの土地に至る車両の唯一の通路は,被告建物東側に位置する同町a丁目d番e所
在の山林(以下,「本件通路土地」という。)だけである。本件通路土地は,車両
等の通行用の土地形状をしている。
  4 原告所有土地,原告所有隣地,被告建物の所在地及び本件通路土地の形
状,位置関係は,概ね別紙図面<省略>のとおりである。(甲2,弁論の全趣旨)
  5 本件通路土地は,周囲の住民の自治会である乙(以下,「乙」という。)
の所有であり,建築基準法42条1項5号に規定の指定がなされたいわゆる位置指
定道路である。
  6 被告建物には,2台分の車両駐車設備がある。
  7 被告は,約8年前に3台目の車両(以下,「被告車両」という。)を購入
し,以後,被告建物東側の本件通路土地部分に,同車両を必要に応じて駐車してき
た。その駐車位置は,被告建物の玄関につながる石段の北側で,本件通路土地の西
側の被告建物寄りの部分で,被告建物に接する形で駐車されている。
  8 本件通路土地は,宅地開発分譲業者によって,公道から各分譲地に至る通
路用地として創設されたものであり,その後各分譲地に居住する住民で構成された
乙に贈与された。
    本件通路土地の旧土地台帳及び登記簿によると,同土地は元丙の所有であ
ったが,昭和37年12月に年月日不詳贈与を原因として甲ほか1名に所有権移転
登記され,昭和51年8月には,贈与を原因として,有限会社乙に共有者持分全部
移転登記がなされ,次いで,平成8年6月5日に民法646条2項(受任者が委任
者のために自己の名義で取得した権利は委任者に移転することを要するとの規定)
を原因として乙に所有権移転登記されている(甲3,16)。
  9 被告は,被告建物新築の際,被告建物前の本件通路土地を,車の出入りの
便宜等のため,被告建物の反対側に拡幅する工事を施工した。
  10 乙は原告に対し,本件通路土地及び原告所有土地は,当初開発業者が土地
を開発して分譲し,その後当会が本件通路土地の所有権を譲り受けた経過,本件通
路土地が道路用地であることに鑑み,当初の開発業者が分譲した原告所有土地上に
原告が個人用住宅を建築し,同土地の道路用地として本件通路土地を使用すること
に特に異議はない旨を記載した,平成11年5月5日付け文書(以下,「自治会文
書」という。)を交付した。(甲12,弁論の全趣旨)
  11 乙は,規約・内規において,本件通路土地の使用につき,道路の構造並び
に急勾配等の関係上,安全確保のため貨物自動車の積載量を2.5トン以内に制限
することを定めている。(甲13,弁論の全趣旨)
  12 本訴提起後の平成14年4月頃,被告代理人は原告に対し,原告所有土地
上での建物建築工事期間中のみ被告車両を撤去するという申し入れをしたが,原告
はこれを拒否した。
 二 争点
  1 通行地役権
  (原告)
   (1) 前提事実8の事実経過によれば,宅地開発分譲業者は各分譲地購入者に
対し,黙示に,本件通路土地につき通行地役権を設定したものである。そして,原
告所有土地及び原告所有隣地についても,これらの土地を要役地とし,本件通路土
地を承役地として,通行地役権が設定された。
   (2) 承役地の特定承継人である乙は,自治会文書により,要役地の特定承継
人である原告に対し,原告が通行地役権を承継したことを承認した。
  (被告)
   (1) 被告所有土地は昭和36,7年頃に分譲されたものであるが,被告は同
土地を取得した際,乙に対し「乙加入1戸受水権及家屋建築に伴う道路使用料」と
して25万円を支払った。このことは,本件通路土地周辺の土地が分譲された際,
当然に無償の通行地役権が設定されたものではなく,土地所有権を取得した者は,
その都度対価を支払って通行地役権の設定を受けてきたことを推測させるものであ
る。
   (2) 仮に,原告主張の黙示の通行地役権が成立していたとしても,承役地を
宅地開発分譲業者から取得した乙は,民法177条にいう第三者であるところ,未
登記の通行地役権について乙に対し主張することはできない。
   (3) 乙は,自治会文書により,単に,本件通路土地を使用することに異議な
いことを述べただけであり,通行地役権を承認したものではない。また,当時は現
に被告車両が駐車していたから,乙は,同駐車場所付近については,駐車された部
分を除く部分について,原告の使用に異議がないことを述べたにとどまる。
  2 債権者代位
  (原告)
   (1) 乙は,本件通路土地の所有者として,本件通路土地上に被告が被告車両
を駐車することを差し止める権利がある。
   (2) 原告は,本件通路土地につき通行地役権を有し,また,後記3で主張す
るとおり,被告の妨害行為によりその権利行使を妨げられているから,乙に代位し
て,本訴請求をする。
   (3) 被告の主張は否認する。乙は,本件通路部分での駐車を禁じている。
  (被告)
    被告車両の本件通路土地上への駐車について,被告は乙の事実上の承諾
(黙認)を得ている。また,後記3で主張するように,被告は原告の車両通行を妨
害していない。
  3 妨害の有無
  (原告)
   (1) 原告は,原告所有土地について,建築確認を得ており,同土地に個人用
住宅を建築する予定である。また,原告所有隣地には,崩壊しそうな石積崖等があ
るため,崩壊を予防するため防災工事をする必要がある。さらに,建物建築後もこ
の防災工事をする必要があるため,一時的に被告車両を本件通路土地から移動させ
れば足りるというものではない。
   (2) 原告所有土地に向かう消防車,救急車等も,被告車両の駐車による妨害
を受けることなく,本件通路土地を通行できる必要がある。
   (3) 本件通路土地は,通路開設の経緯,車両等の通行用と考えられる土地形
状から,本件通路土地の道幅全部が車両の通行用であること,通路開設以来現在ま
でそのように利用されてきたこと,通路の道幅は約4メートル前後しかないこと等
から,被告車両の恣意的駐車により,通路の道幅全部ではなく,普通車が何とか通
行できる道幅に制限されることは,原告の通行地役権を侵害するものとして,違法
である。
   (4) 本件通路土地は,一方通行用ではなく,双方向用であるから,海側から
進入してくる車と山側から下ってくる車が対面し,双方に後続車が存在するような
場合に,被告車両の駐車により通行に障害が生じることは明らかである。
   (5) 被告主張の論理で本訴請求が認容されないとすると,海岸近くの公道か
ら各分譲地に至る本件通路土地は,全部の片側部分幅程度が,すべて縦列駐車場と
化する結果を招来することとなる。乙が所有する本件通路土地については,本来の
通路として期待される機能,すなわち全道幅について路上駐車行為を差し止める以
外に,妨害的路上駐車行為を有効に止める方法はない。
  (被告)
   (1) 本件通路土地の道幅は,最も広い部分で約8メートルに達する。
   (2) 被告建物前に至るまでの本件通路土地の道幅は,最も狭い箇所で約2.
8メートルであり,一方,被告車両駐車位置における残された道幅は3メートル強
が確保されている。しかも,この道幅であれば,2.5トン車が通行するのに支障
はない。したがって,被告車両の駐車により車両の通行が妨げられていることには
ならない。
            理    由
一 通行地役権について
 1 前提事実4のとおり,本件通路土地は,車両等の通行用の土地形状をしてお
り,甲6,乙1,3によれば,現在はその全面が舗装されていることが認められ
る。
 2 前提事実8のとおり,本件通路土地は,宅地開発分譲業者によって,公道か
ら各分譲地に至る通路用地として創設されたものであり,最終的には,平成8年6
月5日に,各分譲地に居住する住民で構成される乙に所有権移転登記がされたもの
である。
   そして,甲16,17と弁論の全趣旨によれば,原告所有土地は昭和13年
に本件通路土地から分筆されたこと,当時の原告所有土地の所有者は丙であった
が,昭和17年には第三者に移転され,さらに数次の移転を経て,最終的に原告が
競売による売却により所有権を取得したこと,同土地付近の宅地開発及び分譲は戦
前から開始され,昭和30年代半ばまで続けられたと考えられること,本件通路土
地は,分譲地の住民代表の前記甲らから住民らが設立した有限会社乙を経て,最終
的に乙の所有とされたと考えられることが認められる。
 3 以上の認定及び前提事実3,4,8,10,11によれば,原告所有土地を含む
付近の分譲地の開発分譲をした業者は,本件通路土地を各分譲地から海側にある公
道に至る通路とするため,これを道路用地として開設の上,分譲の対象から除外
し,各分譲地の所有者全員のための通路として,将来的には分譲地に居住する住民
の団体の所有とすることを計画し,これを実行してきたものと推認できる。
   そうとすれば,最初に分譲を受けた購入者は,開発分譲業者との間で,少な
くとも黙示に,本件通路土地について通行地役権を設定する合意をしたものと認め
るのが相当である。
 4 被告は,被告所有土地を取得した際,乙に対し「乙加入1戸受水権及家屋建
築に伴う道路使用料」として25万円を支払ったことから,本件通路土地周辺の土
地が分譲された際,当然に無償の通行地役権が設定されたものではなく,土地所有
権を取得した者は,その都度対価を支払って通行地役権の設定を受けてきたと主張
する。そして,乙5によれば,被告は乙に対し,昭和45年9月5日に,「乙加入
1戸受水権及家屋建築に伴う道路使用料」として25万円を支払ったことが認めら
れる。一方,甲14によれば,原告も乙に対し,平成11年5月14日に水道使用
料として30万円を支払ったことが認められる。
   以上によると,被告が支払った対価は「家屋建築に伴う道路使用料」とされ
ているところ,弁論の全趣旨によれば原告は未だ原告所有土地に建物を建築してい
ないと認められるのであるから,原告が「家屋建築に伴う道路使用料」を乙に支払
っていないことは何ら不自然なことではないといえ,上記の「家屋建築に伴う」と
いう表現からも,その対価の性質は,被告が主張するような通行地役権設定ないし
承継取得承諾の対価ではないと考えられる。したがって,被告の上記主張は採用で
きない。
 5 被告は,乙は,承役地である本件通路土地を譲り受けた第三者であり,各分
譲地所有者らは通行地役権をもって乙に対抗できないとの主張をする。
   しかし,本件通路土地開設及び前記認定の同土地の所有者移転の経過からす
れば,乙は,同土地を分譲地所有者らのための通路として提供することを前提に同
土地の贈与を受けたものと認められ,その所有権取得の時点においても,その後要
役地である各分譲地の所有権が移転した時点においても,当然通路として提供する
ことを承諾していたものと認められる。自治会文書も,以上の認定からすると,原
告が通行地役権を承継取得したことを承認する意味を含むと認めるべきである。
 6 被告は,被告車両の駐車について,乙は事実上黙認してきたと主張し,弁論
の全趣旨によれば,乙は長年被告に駐車禁止を求めたことはないことが認められる
が,甲8によれば,乙は本件通路土地上に「道路上の駐車禁止」との看板を設置し
ていることが認められるのであって,乙が被告車両の駐車を積極的に容認している
ものではないと認められる。
 7 通行地役権の範囲については,本件通路土地全面が舗装され,かつ道路とし
ての形状を有していることからすると,その全面を対象とするものであると認めら
れる。しかし,後記のとおり,本件通路土地の道幅は,狭い箇所では2.8メート
ルしかないのであるから,車両による通行については,この道幅であっても通行可
能な車両に限定されざるを得ない。したがって,道路全面を対象とするものではあ
るが,このような内在的制約のある通行地役権であるということができる。
二 妨害の有無について
 1 乙3と弁論の全趣旨によれば,本件通路土地の海側の出入口付近の道幅は約
2.8メートルしかないこと,被告車両駐車位置において,東側に残された道幅は
3メートル強あることが認められる。
 2 乙4(丁自動車のカタログ)によれば,積載量2ないし3トンの車両の車幅
はせいぜい1.8メートル程度であることが認められる。
 3 甲11と弁論の全趣旨によれば,海側の公道から被告建物前に至るまでの間
に本件通路土地以外の経路は存在しないことが認められる。
 4 以上を総合すると,被告車両の駐車により,原告が本件通路土地を2.5ト
ン車で通行することは何ら妨げられていないというほかない。元々,本件通路土地
の海側の出入口付近の道幅は2.8メートルしかなく,公道から被告建物前に至る
には本件通路土地を通行する以外の方法はないのであるから,本件通路土地を通行
して原告所有土地に至ることができる車両は,2.8メートルの道幅の箇所を通過
できる車幅のものに限られているのであり,この箇所を通過できる車両は,被告車
両駐車箇所を容易に通過できるということができ,被告車両の駐車は原告の通行地
役権の行使を妨害するものではないといわざるを得ない。
 5 原告は消防車や救急車等の通行が被告車両の駐車により妨害されると主張す
るが,こうした車両が被告車両駐車箇所を通過できないことを認めるに足りる証拠
もないし,対向車同士が同箇所で対面し,双方に後続車がある場合には,確かに同
箇所の通過に時間を要する事態となることは想定できるが,現にそのような事態が
発生しているとか,発生することが確実であると認めるに足りる証拠もない。
 6 原告は,本訴請求が認容されないとすると,海岸近くの公道から各分譲地に
至る本件通路土地は,全部の片側部分幅程度が,すべて縦列駐車場と化する結果を
招来することとなるなどと主張するが,乙の構成員の本件通路土地への駐車につい
ては,乙の自治ないしは乙が所有権に基づく撤去請求をすることにより解決を図る
ことが可能なのであり,原告の主張は,被告車両の駐車が原告の通行地役権の行使
を妨害しているか否かの判断とは無関係である。
 7他に,被告車両の駐車により原告の通行地役権の行使が妨害されていること
を認めるに足りる証拠はない。
三 債権者代位について
  以上の認定,説示によれば,原告の通行地役権の行使は被告車両の駐車により
妨害されているとはいえないのであるから,原告に,本件通路土地所有者である乙
を代位して妨害排除ないしは引渡しを請求することを認めるべき合理的理由はな
く,原告の権利を保全するため債権者代位権の行使を認める必要はないというべき
である。
  なお,前記のとおり,乙は被告車両の駐車を容認しているものではなく,見て
見ぬふりをするという程度の黙認をしてきたに過ぎないところ,被告車両の駐車は
乙との関係では違法であることは明らかであるから,被告が自主的に被告車両の駐
車を断念することが期待される。
四 結論
  よって,原告の請求は理由がない。
     神戸地方裁判所第5民事部
          裁判官   前   坂   光   雄

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