弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 被告は原告に対し金三三八万八六〇〇円及びこれに対する一九八九年一一月二
三日から支払いずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は五分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
       事   実
第一 請求
 被告は原告に対し金八三一万一四六二円及びこれに対する一九八九年一一月二三
日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 被告会社は広告代理業を営む会社である。原告は一九六三年三月一六日被告に
雇用された。
2 被告会社は
(1) 一九八二年一月それまで月額一九万四〇〇〇円であった原告の基本給を月
額一四万円まで減額した。
(2) 更に一九八三年四月に基本給を月額一一万五〇〇〇円に減額した。
(3) したがって被告会社が原告に対して不当に支払わなかった基本給差額は、
別紙計算書(1)基本給記載のとおり、一九八二年一月分から一九九〇年一二月分
まで計八〇七万八〇〇〇円となる。
3 また、被告会社は原告に対し年二回(七月と一二月)の賞与(基本給の二か月
分以上)を満足に支払わず、その不足分は別紙計算書(2)ボーナス記載のとお
り、一九八二年一月分から一九八九年一二月分まで計五六〇万二四六二円となる。
4 また被告会社が原告を右2、3のとおり不当に差別してきたことによる精神的
苦痛を慰謝するに足りる金額は一〇〇万円を下らない。
5 よって、原告は被告会社に対し、右2(3)の基本給差額のうち一九八六年一
月分から一九九〇年一二月分までの差額計四七四万円、3の賞与の差額のうち一九
八六年七月分から一九八九年一二月分までの差額計二五七万一四六二円及び右3の
一〇〇万円の慰謝料以上合計八三一万一四六二円及びこれに対する訴状送達の日の
翌日である一九八九年一一月二三日から支払済みにいたるまで年五分の割合による
遅延損害金の支払いを求める。
二 請求の原因に対する被告会社の認否と抗弁
(認否)
1 請求の原因1の事実は認める。
2 同2(1)の事実のうち原告の一九八二年一月以降の原告の基本給が一四万円
であったことは認める。しかし原告が役員でなくなったため、役員手当てを除外し
たためにそのような金額になったものであり、従業員としての手当てが加わったた
め総支給金額ではほぼ従前と変化がないはずである。
 同2(2)の事実は認める。但し原告の営業成績不良、職務怠慢のため減額した
ものである。
 同2(3)の別紙計算書(1)の差額計算は争う。右計算書によっても一九八三
年から一九九〇年まで毎年四月に昇給しているが、原告の計算ではこのことを無視
している。
3 同3の主張は争う。
(抗弁)
1 請求の原因2(1)の賃金減額、同(2)の基本給一一万五〇〇〇円への減額
及び3の賞与の金額についてはいずれも原告が少なくとも黙示的に承諾していたも
のである。
2 本件訴訟の提起は一九八九年一一月一六日であるところ、給料債権の時効期間
は二年であるから、一九八七年一一月一六日以前の分は時効により消滅した。
三 抗弁に対する原告の反論
1 賃金減額等の承諾について
 原告は賃金等の減額を明示的に承諾していない。また原告はこれまで被告会社か
ら減額された賃金を受領してきてはいるが、賃金は生活の糧であり、不満があった
としても受領せざるを得ないから、原告が賃金を受領してきたことをもって、その
減額を黙示的にも承諾していたことにはならない。
2 時効の抗弁について
 原告は一九八八年一二月被告会社に対し従前の不当な減額に対し異議を述べると
ともに、その是正を求め、さらに一九八九年二月二二日京都簡易裁判所に給料の差
額の支払いを求めて調停の申立てをした。右調停は同年一〇月一八日不調になった
が、右調停継続中原告の被告会社に対する請求は継続しているから、同年一一月一
六日原告が本件訴えを提起したことにより時効中断の効果は継続している。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一 請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 賃金の差額請求について
1 前記争いのない事実と証拠(乙一ないし二一号証、原告本人、被告会社代表
者)によると、次の事実が認められる。
(一) 原告は大学卒業後被告会社に入社して以来営業(広告取材業務)に従事し
ていた。そして昭和五二年一二月には取締役に就任したが、被告会社は当時でも二
〇名程度の零細企業であり、役員と言っても名ばかりで、原告は引き続き一般の社
員と同様営業の仕事に携わっていた。
(二) ところが、被告会社の代表取締役であったAは一九八〇年八月胃潰瘍で入
院し、同年一二月頃から被告会社の仕事がほとんど出来なくなった。その頃から原
告はAの子であるBやCとの間で対立が生じた。当時被告会社の取締役はA、原告及び
被告会社の得意先である中井観光の社長の三名であったが、Dは元々被告会社の経営
には全く関与せず名目だけの取締役であったので、Aの後任として原告の名が上がっ
た。しかし原告はA一族が被告会社の過半数に近い株式を有していたのでは、折角代
表取締役になって骨を折ってもその地位は不安定であり、自分の努力が報われない
として、Bらに対し株式の譲渡を要求した。しかしBはこれに応じず、逆に株式を買
い集め過半数を制するに至った。
(三) Aは一九八一年五月一三日死亡し、Bは同月二三日京都地方裁判所により代
表取締役の職務代行者に選任され、さらに同年八月一三日の臨時株主総会で代表取
締役に選任された。
(四) Bは同年一二月社員に期末手当を支給するため銀行から借り入れようとして
その保証を原告に依頼したが断られ、同月二二日の定時株主総会では原告を取締役
に再任せず、翌一九八二年一月には、それまで一九万四〇〇〇円であった原告の基
本給を一四万円に削り、役員手当五万五〇〇〇円を削除し、新たに食事手当五〇〇
〇円、臨時手当二万円及び補助金二万六〇〇〇円計五万一〇〇〇円を加え、さらに
同年三月からは役職手当二万五〇〇〇円を加えたものの、同年七月からは基本給一
四万円のほか皆勤手当三〇〇〇円、食事手当五〇〇〇円、補助金二万一〇〇〇円計
二万九〇〇〇円を支給するに過ぎなくなった。
(五) 一九八二年一二月、原告担当の被告会社の得意先であった株式会社水原総
業が京都地裁に和議開始の申立てをなし、それに伴って同裁判所はそれに伴う保全
処分の決定をした。そのため被告会社は水原総業から一三四万余円の売上が回収不
能になった。また原告の営業成績(売上)は一九八一年が二五〇〇万円余であった
ものが一九八二年には一五八〇万円余に低下した。被告会社は一九八三年四月原告
の基本給をさらに一一万五〇〇〇円に減額した。
(六) しかしその後原告の基本給は、別紙計算書(1)記載のとおり一九八五年
四月には一一万六〇〇〇円に、一九八六年四月には一一万七〇〇〇円に、一九八七
年四月には一一万九六〇〇円に、一九八八年四月には一二万一四〇〇円に、一九八
九年四月には一二万三二〇〇円に、一九九〇年四月には一二万五〇〇〇円にそれぞ
れ昇給した。
 賃金は雇用契約の主要な内容をなすものであって、使用者が一方的に減額出来な
いことはいうまでもないところ(労働基準法九一条が就業規則で減給の制裁を定め
る場合であっても、その減給は一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が
一賃金支払期における賃金の総額の一〇分の一を超えてはならない旨規定している
のは、労働者の非違行為に対し予め就業規則で制裁として定める減給であっても右
の限度に止めなければならず、賃金の減額について使用者の恣意を許さない趣旨で
あり、右の趣旨からしても使用者が自由に賃金を長期にわたって減額し得ないのは
明らかである)、右認定の事実によると一九八二年一月の基本給を一九万四〇〇〇
円から一四万円に減額したのは無効であるというべきである。被告会社は原告が右
時点から取締役でなくなり五万五〇〇〇円の役員手当がなくなったため、そのよう
な金額になったと主張するが、前記のとおり原告は取締役在任中基本給一九万四〇
〇〇円のほかに右金額の役員手当の支給を受けていたのであるから、取締役でなく
なったからといって基本給まで減額する理由になりえない。また被告会社は一九八
三年四月原告の基本給をさらに一一万五〇〇〇円に減額したのは原告の職務怠慢の
ためであると主張するが、前記のとおり原告が水原総業の和議開始の申立てや保全
処分の決定に気付くのが遅れそれがために同会社に対する売掛金の回収が不能にな
った部分があったとしても(原告がこの事を知っていながら殊更被告会社に損失を
被らせるためにそれを隠していたとまで認められる証拠がない。もしそうであれば
懲戒処分の対照となりうる)、賃金減額の理由になりえないし、また原告の営業成
績が低下したことも減額を正当化するものではない。
2 被告会社は原告は賃金減額について少なくとも黙示的に承諾していた旨主張
し、前記のとおり原告は長年にわたって減額された賃金を受領していたものである
が、証拠(甲一、乙二二号証)によると原告は一九八八年一二月二八日被告会社に
対し賃金減額について是正措置を求め、さらに一九八九年二月二二日右減額につい
て京都簡易裁判所に調停の申立てをしていることが認められるから、これらのこと
を勘案すると賃金減額を黙示的に承諾していたものと容易に推認することができ
ず、被告会社の右主張は理由がない。
3 消滅時効の抗弁について
 前記のとおり原告は差額賃金の支払いを求めて一九八九年二月調停の申立てを
し、同年一〇月一八日不調となり、さらにそれから六か月以内の同年一一月一六日
本件訴えを提起しているから、右調停申立てから二年前の一九八七年一月以前の分
については時効により消滅しているものというべきである。
4 そうすると原告が被告会社に請求しうる賃金の差額は別紙賃金差額計算書記載
のとおり三三八万八六〇〇円となる。
三 賞与金の請求について
 原告は一回分につき基本給の二カ月分以上の賞与を年二回被告会社が支払わなけ
ればならない旨主張するが、このようなことが被告会社の就業規則ないし給与規定
に具体的に定められていることを認められるに足りる証拠はなく、また証拠(被告
会社代表者、乙一九)により認められる、被告会社の業績が年々低下の実情にあっ
て、しかも原告の成績も他の社員に比べても芳しいものとはいえないことからする
と原告主張の右の様な労使の慣行が定着しているものともいえず、結局賞与金の支
払いを求める原告の請求は失当である。
四 慰謝料の請求について
 前記二に認定のとおり、被告会社には原告の賃金を不当に減額しその部分の金額
を支払わなかったから、被告会社には原告に対する債務不履行があったものという
べきであるが、原告にも被告会社の代表取締役である岩本Bに対する反抗的態度をと
っていることや勤務態度ないし勤務成績が良好であったとは到底言えないことを考
えると、かりに被告会社の賃金不払いによる債務不履行により原告に精神的苦痛が
生じたとしても、賃金の支払いを受けることにより慰謝されるものと考えるのが相
当である。したがってこの点についての原告の請求は失当である。
五 よって、原告の賃金の差額を求める請求のうち二に認定の限度で認容しその余
の部分及び賞与と慰謝料の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 下村浩蔵)
別紙計算書(1)(2)省略
賃金差額計算書(1987年2月から1990年12月まで)
<02863-001>

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