弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
         理    由
 本件抗告理由は末尾添付別紙記載のとおりである。
 よつて按ずるに、抗告人は相手方の抗告人に対する盛岡地方裁判所昭和二十七年
(ヨ)第一五四号粳籾十六石移転禁止仮処分申請事件について同庁の同年十二月二
十七日にした仮処分決定に対し異議並びに特別事情による仮処分の取消を申立て昭
和二十八年六月九日右仮処分取消の判決を得これが確定したものであること、右仮
処分取消判決は特別事情による仮処分の取消であつて(異議の申立は排斥された)
金五万円の保証を立てることを条件としたものであり、同時に仮執行の宣言を付せ
られ確定したものであること、前記仮処分の本案訴訟は昭和二十八年(ワ)第二一
号玄米引渡請求事件(その請求の趣旨は粳籾引渡に変更された)として目下盛岡地
方裁判所に係属中であることはいずれも本件記録に徴して明らかである。
 元来民事訴訟法第百十五条第三項にいわゆる「訴訟の完結」が既に本案訴訟の係
属後における仮処分事件のみの終了を包含するものかどうかは一概には断定できな
いが、本件仮処分事件は前掲判決の仮執行宣言に基きその執行が取消されたのであ
るから同仮処分事件のみについて考えると一応訴訟の完結があつたものといえる<要
旨>であろう。しかし右取消は抗告人もいつているように特別事情による取消であつ
て前記仮処分自体が違法なものとして取消されたのではない、又それ故にこ
そ抗告人も認めているように金五万円の立保証を命ぜられたのである。この保証は
右仮処分を取消すことによつて債権者の被るべき損害を担保するのであつて、仮処
分が取消されたことにより債権者たる相手方に生ずる損害は、殊に本件の如く係争
物`関する仮処分の場合にあつてはその有無若しくは範囲が係争物に対する訴訟当
事者の権利の帰属如何にかかつているのであるから前記のように本件当事者間に既
にこれに関する本案訴訟が係属している以上その結着をまにずに相手方の権利行使
を要求するのは不当であるといわなければならない。
 抗告人は本件仮処分取消により相手方については一面将来の損害発生の可能性は
絶無となり、他面相手方が本案訴訟において所有権に基き特定物として引渡を求め
る目的は既に喪失しているのであるから相手方はこれを損害賠償に変更すべきであ
り又そうすることによつて本件権利行使が可能であつたと主張するが本件仮処分取
消により相手方において将来の損害発生の可能性が絶無となつたとは到底いい得な
いのみならず、右仮処分取消により相手方がその本案訴訟の目的物を損害賠償債権
に変更せざるを得ないような事態に立到つたとしてもその損害と本件仮処分の取消
により相手方の被つた損害とは自ら別個のものであるといわなければならない。し
かも前述の如くそもそもかような損害の有無及び範囲は本案訴訟の確定を俟たねば
これを明らかにし得ないのであるから債権者が現在の段階において担保権を行使で
きないことはいう迄もなく抗告人の右主張はいずれも理由がない。
 従つて抗告人の担保取消申立を却下した原決定は相当であつて本件抗告は理由が
ない。
 よつて民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条に則り主文のように決定する。
 (裁判長判事 板垣市太郎 判事 檀崎喜作 判事 沼尻芳孝)

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