弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主        文
1 被告が平成16年12月24日付けでなした,別紙物件目録記載1ないし8の土地上に旅館の用に供する建
築物を建築する計画について,都市計画法の規定に適合することを証する書面の交付をしない旨の通知を取り消す。
2 被告は,原告が平成16年10月4日付けで都市計画法施行規則第60条に基づいてなした申請に対し,別
紙物件目録記載1ないし8の土地上に旅館の用に供する建築物を建築する計画が都市計画法の規定に適合することを証
する書面を交付せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は,原告が,いわゆる既存宅地にホテルの建設を計画し,建築基準法6条1項の規定による建築確認を申請
するため,都市計画法施行規則60条(以下「規則60条」という。)に基づき,被告に対して,上記建築計画が都市
計画法の規定に適合することを証する書面(以下「規則60条書面」という。)の交付を申請したところ,被告は,原
告の前記申請は,A市開発行為の許可基準等に関する条例(平成13年市条例第44号)附則3項及びA市開発行為の
許可基準等に関する条例の運用基準(平成16年市告示第466号)5条に定める要件を満たしていないから,前記建
築計画が都市計画法の規定に適合しているとはいえないとして,規則60条書面の不交付の通知をしたことに対し,原
告が,不交付の通知の取消を求め,併せて規則60条書面の交付を求めた事案である。
1 前提となる事実(証拠により明らかな事実は,かっこ内に認定根拠を掲記し,その余は争いがない事実である。

・ 原告のホテル建築計画と既存宅地確認及び用地取得
 平成12年法律第73号都市計画法及び建築基準法の一部を改正する法律(以下「改正法」という。)による
改正前の都市計画法(以下「旧都市計画法」という。)によると,市街化調整区域に関する都市計画が決定され,又は
当該都市計画を変更してその区域が拡張された際,既に宅地であった土地(以下「既存宅地」という。)であって,そ
の旨の都道府県知事の確認を受けた土地については,都道府県知事の許可を受けなくとも同法29条2号,3号に規定
する建築物以外の建築物を新築することができるとされていた(同法43条1項6号ロ。以下「既存宅地制度」とい
う。)。
 原告は,A市a字bc番と周辺土地上にホテルを建築して営業することを計画し(以下「本計画」という。
),用地取得に先立ち,平成9年3月12日,旧都市計画法43条1項6号ロに基づき,別紙物件目録1ないし8の土
地(以下「本件既存宅地」という。)について既存宅地の確認を申請し,同月24日,既存宅地の確認を受けた。その
上で,同月31日から同年9月初めにかけて,別紙物件目録1ないし20の土地(以下「本件土地」という。)を売買
により取得した。
・ 改正法による既存宅地制度の廃止と5年の経過措置
 その後,改正法により,既存宅地制度は廃止された。しかし,改正法施行日である平成13年5月18日から
5年間,すなわち平成18年5月17日までは,自己の居住又は業務を行うことを目的とする建築行為であれば,従前
どおり,既存宅地として都道府県知事の開発行為の許可を要せず,建築物の新築,改築又は用途の変更ができるという
経過措置が設けられた(都市計画法改正附則6条1項)。
・ A市及び岡山県への本件既存宅地の一部貸与
 原告は,A市の要請に応じ,本件既存土地の一部を,平成13年3月22日から30日までの間,粗大ごみの
集積・一部保管用地として貸与した。
 その後,県道岡山児島線バイパス工事に伴い,岡山県岡山地方振興局(以下「地方振興局」という。)の要請
に応じて,平成14年8月以降,隣接地の住民の給水施設及び代替通路用地として貸与し,平成15年4月1日に1年
間の予定で契約を更新したが,当該道路工事の完了が予定日の平成16年4月1日より遅れる見込みとなり,さらに同
日から1年の契約更新を地方振興局から求められた(甲4の1,2,15の1)。
 しかし,改正法による既存宅地制度廃止の経過措置の期間が平成18年5月17日までであることから,原告
は,これ以上の契約更新は本計画の実行に支障を生じる虞があるため受け入れられないと判断し,平成16年2月,地
方振興局に対し,平成16年末より先の賃貸期間延長はできない旨を申し入れた(甲15の1)。
・ A市条例の改正・公布
 被告は,平成16年6月24日,A市開発行為の許可基準等に関する条例の一部を改正する条例(以下「改
正条例」という。)を公布した。
 改正条例附則3項は,地域における環境の保全を図るため,改正法附則6条の規定にかかわらず,旅館業法
(昭和23年法律第138号)2条2項及び3項に規定する営業を目的とする建築物の新築については,旧都市計画法
改正法43条1項6号ロの規定は,「その効力を有するものと解してはならない。ただし,当該用途がその周辺の地域
における環境の保全上支障がないものとして,市長があらかじめ審議会の議を経て決定した建築物の新築についてはこ
の限りではない。」と規定する。
 また,この改正条例の施行日は,公布の1週間後の平成16年7月1日とされ(改正条例附則1項),改正
条例附則3項は,施行日以後に新築に着手する建築物から適用するものと定められている(改正条例附則2項)。
・ 平成16年6月28日付け規則60条書面交付申請
 条例改正を知った原告は,平成16年6月28日,B建設工業株式会社を通じて,被告(A市開発指導課事
務取扱)に対し,規則60条書面の交付申請をした。
・ ・の申請書の返戻処分
 原告の当該申請の内容をみたA市開発指導課(以下「開発指導課」という。)の職員は,当該申請がその構
造からして改正条例で新築が規制される建築物であること,当該申請書の記載事項に極めて多くの不備事項があるこ
と,改正条例施行までに日時がなく申請行為が無意味に終わることを理由に,改正条例の施行後,改正条例のルールに
従って新たに申請するように指導した。B建設担当者は,同月30日,開発指導課職員が返戻書と題する書面(甲6)
を交付したため,返戻書とともに交付申請書類を持ち帰った。
・ 行政指導
 原告は,その後,開発指導課に再度規則60条書面交付のための必要事項を確認したところ,近隣の二町内
会の同意書を添付して提出するようにとの指導を受けた。
 原告は,二町内会のうち,C町内会については,説明会を二度開催した上で同意を得ることができたが,D
町内会については同意を得るに至らなかった。
・ 平成16年10月4日付け規則60条書面交付申請
 原告は,同意を得ることのできたC町内会長の同意書を添付して,平成16年10月4日,被告に対し,再
び規則60条書面の交付を申請し,同日受理された。
・ 補正通知
 被告は,上記申請に対し,平成16年11月18日,申請区域よりおおむね100メートル以内の区域の周
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辺住民等(①居住世帯全戸,②学校法人E学園,F中学校,G高等学校を含む事業所等,③D町内会,④C町内会)の
承諾書面の添付が必要であるとして,同年12月20日までに当該書面の提出がなければ申請不備として扱う旨の補正
通知(甲7の1,2)をなした。
・ 原告は,やむを得ず引き続き周辺住民等の同意を求めて奔走し,平成16年12月20日までに,上記書面
のうち①(但し,2戸を除く)及び②(但し,E学園を除く)の書面を取り付けて被告に提出した。
・ しかし,被告は,上記全部の書面の提出がないため,改正された条例附則3項但書きにいう,市長が「当該
用途がその周辺の地域における環境の保全上支障がないもの」と認めることができないとして,平成16年12月24
日,原告に対し,規則60条書面の交付をしない旨の通知(甲8の1ないし3)(以下「本件不交付通知」という。)
をした。
・ 改正条例附則3項の制定理由
 いわゆるラブホテルを規制する法令として,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風
営法」という。)及びその委任を受けた都道府県の条例があるが,現存するラブホテルのほとんどは特殊構造,特殊動
産が設置されていないことから同法,同条例の規制の対象とならず,一般のビジネスホテル同様に旅館業法の許可さえ
得られれば,問題なく建築ができる状況にある。
 こうしたいわゆるラブホテルの立地は,市街化区域の立地はもちろんのこと,既存宅地に立地する場合であ
っても,当該既存宅地が市街化区域の住居系の用途地域や住居,公共施設が多数存在する地域に隣接している場合に
は,立地により生活環境上支障を及ぼす場合がある。このため,風営法の対象とならないいわゆるラブホテルの建築に
ついて,その立地を規制するため,いわゆるラブホテル禁止条例を制定している自治体がある。
 A市においては,658平方キロメートルの市域のうち,443平方キロメートルにも及ぶ市街化調整区域
を有し,その市街化調整区域の中に存する既存宅地にいわゆるラブホテルが建設されることが多い。しかし,いわゆる
ラブホテルが建設される既存宅地は,市街化区域あるいは大規模開発区域に隣接又は近接する場合が多く,青少年の育
成環境や市民の一般生活環境に与える影響は小さくない。こうした観点から,いわゆるラブホテルの立地に関し,立地
後の事業者と周辺住民間での紛争を回避し,また,周辺地域における生活環境の悪化を防止するため制定されたのが改
正条例附則3項である。
・ 改正条例附則3項の運用基準
 改正条例附則3項を受けたA市開発行為の許可基準等に関する条例の運用基準(平成16年市告示第466
号)5条は,市長が「環境の保全上支障がないもの」と判断する際の基準を,①建築物の新築について,当該用途が周
辺住民の承諾を得ていること,②建築物の新築について,当該用途がA市開発行為の許可基準等調整会議の審査をあら
かじめ受けているものであることと定めている(甲8の2)。
 そこで,A市においては,①既存宅地にいわゆるラブホテルを新築しようとする者の規則60条書面の交付
申請がなされた場合,当該新築予定の建物の周辺住民(周辺住民の範囲は申請案件ごとに異なる)の承諾を得ることを
申請者に求め,承諾が全て得られた場合にのみ,A市の関係課の職員で構成されるA市総合政策審議会(市長の諮問機
関)の議を経て,規則60条書面の交付がなされることになるが,周辺住民の承諾が得られない場合には,規則60条
書面は交付しないこととしている。
2 争点
・ 本件不交付通知の処分性(本案前の争点)
ア 被告の主張
・ 行政庁の行為のうち,抗告訴訟の対象となる行為とは公権力の行使に係る行為である。その意義について,
最判昭和39年10月29日(民集18巻8号1809頁)は,「公権力の主体たる国又は公共団体の行う行為のう
ち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し,又は範囲を確定することが法律上認められているものをいう」と
判示している。取消訴訟は,こうした公権力の行使に当たる行為の公定力(当該行為の効果に優越的な通用力があり,
権限ある行政庁又は裁判所によって取り消されない限り,私人がその効果を否定できない効力)を排除するための訴訟
であるから,当該行為が公定力を有しない場合は「公権力の行使」に当たらず,取消訴訟の対象とならない。
・ 規則60条の規定は,建築確認を行う建築主事が,・建築確認の申請者が関係規定に基づく許可を得ている
こと若しくは・建築確認の申請者が関係規定による規制を順守していること又は,・当該建築計画に関係規定が適用さ
れないことについて,当該事実(前記・の場合)又は所管の行政庁の見解(前記・及び・の場合)を了知するために便
宜上設けられたものであって,規則60条書面の交付は単なる事実証明にすぎない。したがって,本件不交付通知は,
開発許可権者である被告が,原告のホテル建設に係る土地が,旧都市計画法43条1項6号ロに定める宅地に該当しな
いことを理由に,規則60条書面を交付することができない旨の見解を示したものであって,直接に原告の権利義務を
形成し又はその範囲を確定するものではない。
 よって,本件不交付通知は「行政庁の公権力の行使」とはいえない。
・ また,規則60条書面の交付を受けなくても,建築確認申請は適法に行えるものであって,建築確認申請が
却下された場合には,これに対して抗告訴訟が提起できる。一方,規則60条書面の交付を受けた場合であっても,建
築主事は,確認対象法令への適合性について実質的判断ができる権限を有し,義務を負うから(建築基準法6条),当
該建築計画が都市計画法の規定に適合しないと判断することができる。したがって,規則60条書面は,建築主事が関
係法令適合性を判断する単なる一材料にすぎず,建築主事の判断を法的に拘束するものではないから公定力はなく,取
消訴訟の対象とはならない。
 原告は,建築主事に都市計画法諸規定の適合性について実質的判断権があるという被告の主張が誤りである
と主張する。しかし,建築主事は建築基準適合判定資格者検定に合格した,専門知識を有する,建築基準法6条1項の
規定による確認に関する事務を司る独人制の行政機関であるから,建築基準法のみならず建築基準関係規定について
も,単なる形式的審査権ではなく最終的な実質的審査権を有する。
 原告は,建築主事に実質的法令適法性の判断権限がないことを前提に,実務運営上,建築主事が開発許可権
者と異なる判断はできないし,そのような運用は行われていないと主張する。しかし,建築主事は「建築士の設計に係
る建築物が建築基準関係規定に適合するかどうかを判定するために必要な知識及び経験」を有しており,開発許可権者
と異なる判断ができないという法律上及び実務上の根拠はない。これまで異なる判断がなされたことがないというのは
両者の判断が一致した結果にすぎない。 さらに,原告は,建築主事が最終的な判断権限を有するとすると,開発許可
権者とその意見が異なった場合に実務上の混乱が起こる旨主張する。しかし,原告が主張する実務上の問題について
は,建築主事と開発許可権者との間で協議がなされ,その協議のもとで,建築主事が最終的な判断をすることになるの
で,混乱が起こることはない。また,法律上,建築主事の判断について不服があれば,不服申立てをすることができる
のであり,原告に不都合が生じるものではない。
・ 最判平成17年7月15日は,医療法30条の7の規定に基づく病院開設中止の勧告が行政事件訴訟法3条
2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当することを認めたが,これは,①病院開設の中止
を求める行政指導に従わなかった場合に,②相当程度の確実さをもって病院を開設しても保健医療機関の指定を受ける
ことができないこととなり,③実際上病院の開設自体を断念せざるを得なくなるという事実に基づいて,当該行政指導
が,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とするものであって,本件における事実関係とは全く異なる。
 すなわち,本件における問題は,本件不交付通知が,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に
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該当するか否かであるところ,そもそも,①本件不交付通知は,原告に対して何らかの作為又は不作為を求めるもので
はないから,それに従うか否かという問題が生じる余地はない(すなわち,行政指導に該当しない)し,②本件不交付
通知が確認申請書の提出(建築基準法6条1項)を妨げることはないのであるから,それによって③実際上,原告の予
定する建築物の建築自体を断念せざるを得なくなるということもないのである。
 したがって,上記最高裁判例の事案と本件とは事案を全く異にするのであり,同判例によって本件が影響を
受けるものではない。
・ 以上のとおり,本件不交付通知には公定力がなく,その交付は取消訴訟の対象となる「行政庁の公権力の行
使」に該当しないことは明らかであるから,本件訴訟は不適法なものとして却下すべきである。
イ 原告の主張
・ 被告は,建築主事には建築基準法のみならず都市計画法適合性についても実質的判断権限があると主張する
が,都市計画法43条を含む同法第3章第1節全体の定めからすれば,同法がそこに定める開発行為等の許可権限を都
道府県知事(本件ではA市長)に与えていること,したがって,規則60条に規定する同法諸規定適合性についての実
質的判断も,許可権者である都道府県知事(本件ではA市長)に委ねていることは明らかであり,これについて建築主
事が実質的に審査することを建築基準法は予定しておらず,この点についての建築主事の審査は,開発許可権者が開発
許可等を必要と判断しているか否かを判断するという形式的,外形的な審査にとどまると解すべきである。この立場に
立つ裁判例として,東京高判平成4年9月24日,その原審である水戸地判平成3年10月29日等がある。
 また,被告は,建築主事と開発許可権者とで異なる判断がなされたことがないのは両者の判断が一致した結
果にすぎないと主張するが,本件に関して,建築主事自身が,規則60条書面の添付がない建築確認申請は受理要件を
欠く旨明言し(甲13),被告もまた,本件訴訟係属前の原告の照会に対し同様のことを回答していることから(甲1
0),被告の議論は空虚なレトリックにすぎない。
・ 最判平成17年7月15日は,①医療法30条の7の規定に基づく都道府県知事の病院開設中止の勧告の保
険医療機関の指定に及ぼす効果(勧告に従わない場合,「相当程度の確実さ」をもって,病院を開設しても保健医療機
関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらす。)及び病院経営における保健医療機関の指定の持つ意義
(国民皆保険制度が採用されている我が国では,保健医療機関の指定を受けることができない場合には,実際上病院の
開設自体を断念せざるを得ない。)に着目して,病院開設中止の勧告に処分性を認め,②さらに,後に保健医療機関の
指定拒否処分の効力を抗告訴訟によって争うことができるとしても,病院開設中止の勧告の処分性についての上記結論
を左右するものではない,としている。
・ 本件についてみると,原告が平成17年3月14日,A市役所に建築確認申請書を提出した際,A市建築主
事らにより規則60条書面の添付がないことを理由に受理を拒まれたことからすると,規則60条書面が交付されない
まま建築確認申請をした場合,「相当程度」以上の「確実性」をもって,建築確認申請が受理されないことは明らかで
ある。
 建築確認は裁量の余地のない確認行為であるところ,本件において規則60条書面の添付がなければ,たと
え建築確認申請をしても,規則60条書面の不交付自体が違法とされない限り,確認を受けることは現実問題として不
可能である。
・ 以上,規則60条書面の不交付が建築主事に与える影響とその程度,建築確認における規則60条書面交付
の重要性に鑑みると,規則60条書面の不交付には,それ自体処分性が認められる。
 そして,上記最高裁判例に鑑みると,後に建築確認申請の不受理処分等の効力を抗告訴訟によって争うこと
ができることは,この結論を左右しないと解すべきである。
・ 改正条例附則3項及びこれに基づく行政指導の違法性(本案について)
ア 原告の主張
・ 都市計画法との関係
 都市計画法は,附則3条で「前項に定めるもののほか,この法律の施行に伴い必要な経過措置その他の事
項については,別に法律で定める」と規定しており,地方公共団体が条例によって独自に経過措置を定めることを予定
していない。
 改正条例附則3項は,改正都市計画法が,旧都市計画法43条1項6号ロの既存宅地制度の廃止が国民に
対する強力な規制強化となることから特に5年間の経過措置を設けているにも関わらず,この経過措置の期間を平成1
6年6月30日までと,約2年近くも短縮するものである。しかも,附則改正の目的は「いわゆるラブホテルの新築に
ついて,環境保全上の観点から一定の規制を加える」とされているが,何が「いわゆるラブホテル」に該当するのかと
いう定義を定めておらず,ホテル及び旅館について一律に経過措置の期間を短縮している。
 したがって,改正条例附則3項は,都市計画法よりも強度な規制を加えるものであるから,同法に違反し
無効である。
 また,例外的に建築を認める基準も,不明確であり,不合理である。
・ 風営法との関係
 改正条例附則3項の趣旨・目的は,風営法がラブホテルを含む風俗営業を規制する趣旨・目的(風俗環境
の保持及び少年の健全な育成に支障を及ぼす行為の防止)と相当程度重なる。
 よって,改正条例附則3項は,風営法と目的が相当程度重なり,同法よりも広範かつ強度な規制を加える
ものであるから,同法にも違反し無効である。
・ また,被告の一連の行政指導も,違法無効な条例(附則)を根拠とするものであるから,違法である。
・ したがって,被告が違法無効な条例に基づいてなした本件不交付処分は違法であり,取消を免れない。
イ 被告の主張
・ 改正附則3項の規定は,「法第43条第1項第6号ロの規定は,その効力を有するものと解してはならな
い。」という文言から明らかなように,改正法附則6条の解釈の指針を明記したものであって,この規定により建築物
が建てられないとか,この規定に反したことで制裁を受けるとかいった条例上の規制があるわけではなく,行政指導に
応ずるように誘導するための一手段にすぎない。
・ また,開発許可権者が周辺住民の承諾が取得できないことを理由に規則60条書面を交付しない場合であ
っても,建築主事は,関係法令適合性について最終的かつ実質的判断権限を有するのであるから,確認対象法令に適合
するとして建築確認をする場合もあり得る。この場合には改正条例附則3項の規定は事実上機能しないことになる。こ
のことは,改正条例附則3項の規定が開発許可権者たるA市長の解釈指針(行政指導方針)を示すものにすぎず,開発
許可権者たるA市長の指揮監督下にない建築主事の判断を拘束するものではないということからくる当然の帰結であ
る。
・ よって,改正条例附則3項は何ら法の規制を定めるものではないから,改正法附則6条の規定よりも強度
な規制を定めたものであるとの原告の主張は理由がない。
3 争点についての判断
・ 争点・について
ア 被告は,規則60条書面の交付は,単なる事実証明にすぎないから,本件不交付通知は,処分性を有しない
と主張し,確かに,規則60条の規定の趣旨からすると,規則60条書面は,当該建築計画が都市計画法の規定に適合
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することを証明するものにすぎないことは認められる。
 しかしながら,前記前提となる事実認定のとおり,改正条例附則3項は,従来の法令によっては規制できな
い,いわゆるラブホテル建築を規制することを目的として制定され,しかも,規則60条書面を交付しないことによっ
て,その目的を達しようとしていることが明らかである。そうであるとすると,規則60条書面の交付は,A市におい
て,単なる事実証明であるとはいえない。
イ・ 次に,被告は,規則60条書面の交付を受けなくても,建築確認の申請はでき,また,建築確認申請の不
受理処分等の効力を抗告訴訟によって争うことができるから,本件不交付通知に処分性はないと主張する。
 しかしながら,かっこ内に掲記した証拠によると以下の事実が認められる。
a 原告は,平成17年1月26日,被告に対し,「規則60条の書面の交付を受けていない段階で,建築
確認申請をした場合,受理はされるのか,受理自体されない(不受理)ことになるのか。」について書面で照会した(
甲9)。
b 上記aに対し,A市長は,「建築基準法第6条第1項の規定に基づく建築確認申請の受理要件として
は…建築基準法施行規則第1条の3第9号に規定する都市計画法第43条第1項等の規定に適合していることを証する
書面の添付の有無などが挙げられており,これらの要件が満たされない場合は,建築確認申請は受理できないと考えて
います。従って,都市計画法施行規則60条の書面の交付を受けていない段階での建築確認申請は,受理できません。
」と回答した(甲10)。
c 原告は,県外の一建築事務所の協力を得て,平成17年3月14日,原告の専務取締役HらがA市役所
に赴き,建築確認申請書及び一式書類を提出した。対応したI建築主事は,提出された申請書類の一部をコピーした上
でHらに申請書類の原本は一旦持ち帰るように指示し,「建築確認申請受付時の照会事項」という書面(甲11)を交
付して,当該書面に従い関係部署に照会・協議するよう指導した。
 そこで,原告は,建築指導課を除く関係部署への照会・協議を済ませ,確認の署名を取り付けた後,再
度平成17年3月18日,HらがA市役所の建築主事のもとに赴いたところ,I建築主事とJ建築主事,K建築指導課
課長が対応し,規則60条書面の添付がないため申請は受理しないと回答した。
 Hらは,その場で,申請を受理しない旨とその理由を記載した書面を交付して欲しいと再三求めたが,
I主事らは,A市建築主事が本件申請を受理しないこと,その理由が規則60条書面の添付がないからであることはそ
の場のやりとりで明確ゆえ,文書を交付する必要はないとして,あくまで文書の交付を拒否した。
(以上につき甲11の1,2,甲12)
・ 上記認定事実によれば,A市においては,規則60条書面の交付を受けていない段階で建築確認申請をし
ても,受理されることはなく,規則60条書面の交付は建築確認申請の受理要件とされていることが認められる。そう
であるとすると,A市においては,規則60条書面の不交付の通知を受けた場合は,相当程度の確実さをもって建築主
事の確認を受け,確認済証の交付を受けることができなくなるという結果をもたらすものということができる。その結
果,建築主は,建築基準法6条1項各号規定の建築物を建築することを断念さぜるを得ないことになる。このような,
規則60条書面が建築主事の建築確認に及ぼす効果,建築確認の意義を考慮すると,規則60条書面の不交付の通知
は,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当であ
る。そして,後に建築確認申請の不受理処分等の効力を抗告訴訟によって争うことができることは,この結論を左右し
ないと解すべきである。
ウ したがって,規則60条書面の不交付の通知は,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権
力の行使に当たる行為」に当たる。
・ 争点・について
ア 都市計画法が定める経過措置の定めの趣旨は,同法の改正により既存宅地制度を廃止したことによって,改正
前は許可不要であった既存宅地での建築について許可制にするという規制強化の効果を有することから,既に施行日ま
でに既存宅地の確認を受けていた土地にこの規制を及ぼすと,地権者に不測の損害を与えることになるため,これを防
止するために施行日から5年間は予定どおり許可を要せず建築ができるという猶予期間を与えるものである。
 そうであるところ,改正条例附則3項は,「附則第6条の規定にかかわらず,旅館業法(昭和23年法律第1
38号)第2条第2項及び第3項に規定する営業を目的とする建築物の新築については,改正法による改正前の法第4
3条第1項第6号ロの規定は,その効力を有するものと解してはならない。」と規定し,改正都市計画法の5年間の経
過措置により建築が認められる建築計画についても,建築を許さないとしている。
 そして,附則改正の目的は「いわゆるラブホテルの新築について,環境保全上の観点から一定の規制を加え
る」とされているが,規定上は,ホテル営業及び旅館営業全般について規制を加えることとなっていることから,ホテ
ル及び旅館について一律に経過措置の期間を短縮されることになる。
 しかも,この改正条例は,公布の1週間後の平成16年7月1日には施行され(改正条例附則1項),施行日
以後に新築に着手する建築物から適用される(改正条例附則2項)というのであるから,改正条例附則は都市計画法の
猶予期間を実質的に2年近くも短縮するものといえる。
 以上により,改正条例附則3項は,都市計画法の定める経過措置の期間を2年近くも短縮するものであって,
改正法が地権者保護のために5年間の経過措置を設けた趣旨を没却するものであるから,同法に違反し無効である。
イ これに対し,被告は,改正附則第3項の規定は,改正都市計画法附則6条の解釈の指針を明記したものであっ
て,この規定により建築物が建てられないとか,この規定に反したことで制裁を受けるとかいった条例上の規制がある
わけではないから,改正都市計画法附則6条の規定よりも強度な規制を定めたものであるとの原告の主張は理由がない
と主張する。
 しかし,A市の運用の実情においては,改正附則3項の規定の要件を充足しなければ規則60条書面の交付が
受けられず,規則60条書面の交付を受けられなければ,事実上建築主事の確認を受け,確認済証の交付を受けること
ができなくなり,建築主は,建築基準法6条1項各号規定の建築物を建築することを断念さぜるを得ないということに
なるのであるから,改正都市計画法附則6条の規定よりも強度の規制を定めたものというべきであるから,被告の主張
は採用できない。
ウ さらに,「いわゆるラブホテルの新築について,環境保全上の観点から一定の規制を加える」という改正条例
附則3項の趣旨・目的は,風営法がラブホテルを含む風俗営業を規制する趣旨・目的(風俗環境の保持及び少年の健全
な育成に支障を及ぼす行為の防止)と相当程度重なり,同法より広範かつ強度な規制を加えるものであるから,同法に
も違反し無効である。
エ そして,被告の一連の行政指導も,違法無効な条例(附則)を根拠とするものであるから,違法である。
オ したがって,被告が違法無効な条例に基づいてなした本件不交付通知は違法であり,取消を免れない。
・ 義務付けの訴えについて
 以上のとおり,改正条例附則3項は違法無効であるところ,別紙物件目録記載1ないし8の各土地がいわゆる既
存宅地であり,旅館を建築することが可能であって,かつて,被告も同土地について原告に規則60条書面を交付して
いたことが認められる(甲1)から,被告が同土地について原告に規則60条書面を交付しないことは,行政事件訴訟
法37条の3第5項にいう「行政庁がその処分若しくは裁決をすべきであることがその処分若しくは裁決の根拠となる
法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは裁決をしないことがその裁量権の範囲を超え若
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しくはその濫用となると認められる」に該当するというべきである。
4 結論
 以上のとおり,原告の被告に対する請求は全て理由があるから,これを認容することとし,訴訟費用の負担につ
き行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
岡山地方裁判所第2民事部
  裁 判 長 裁 判 官     ・永伸行
        裁 判 官     政岡克俊
        裁 判 官     松岡洋美
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