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平成18年(行ケ)第10451号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成18年12月25日
判決
原告美和ロック株式会社
訴訟代理人弁理士宮口聡
被告特許庁長官
中嶋誠
指定代理人越河香苗
同藤正明
同岩井芳紀
同内山進
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2005−19999号事件について平成18年9月6日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が後記意匠につき意匠登録出願をしたところ,拒絶査定を受け
たため,これを不服として審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をし
たことから,その取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成14年9月9日,後記意匠(部分意匠)につき意匠登録出
願(以下「本願」という。)をしたが,特許庁から平成17年8月19日(
起案日)に拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2005−19999号事件として審理した上,
平成18年9月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決を
し,その謄本は平成18年9月26日原告に送達された。
(2)意匠の内容
本願に係る意匠の内容は,意匠に係る物品を「鍵材」とし,その意匠の形
態を別添審決写し別紙第1の本願意匠のとおりとするものである。
(3)審決の内容
審決の詳細は,別添審決写し記載のとおりである。
その要点は,本願意匠は,図面が不明りょう又は不明確であるため,意匠
を特定して認定することができず,いまだ具体的なものとは認められないか
ら,意匠法3条1項柱書きに規定する「工業上利用することができる意匠」
に該当しない,としたものである。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決が,本願意匠は図面が不明りょう又は不明確であるた
め意匠を特定して認定することができず,いまだ具体的なものとは認められ
ないとしたことは,以下に述べるとおり誤りである。
ア特許庁は,審査段階では類否判断を行った上,新規性なし(意匠法3条
1項3号)との判断(平成15年1月22日付け拒絶理由通知書〔甲1〕
等)をしている。意匠法52条が準用する特許法158条は,「審査にお
いてした手続は,拒絶査定不服審判においても,その効力を有する。」と
規定しており,審査段階において行った拒絶理由通知(甲1)は,拒絶査
定不服審判においても効力を有することとなるから,審査段階で意匠の類
否判断を行ったということは,その形態を特定できているということにほ
かならない。
イ原告は,出願段階の意見書提出時及び審判請求時において現物を提出
し,これは肉眼で見て十分認識できるものである。また,原告が提出した
参考斜視図(甲7参照)は,原告商品のパンフレット(甲4)に掲載され
ていたものであり,これ以上分かり易い書面はない。
参考斜視図のディンプル部(くぼみ部,凹部)の配置は願書に添付され
た図面とは異なるが,鍵というものはその性質上すべて形状が異なるもの
であり,商品カタログやパンフレットに掲載されたものが願書に添付され
た図面のものと一致する方がむしろおかしいといわざるを得ない。
また,原告は願書においては図面を添付して出願しているので,本願意
匠は図面に基づき特定されるべきであるが,現物たる見本は,少なくとも
ディンプル部の形状を把握する一助にはなるというべきである。
ウしたがって,本願意匠が不明確であるとして意匠法3条1項柱書きによ
って本願を拒絶した審決の認定判断が違法であることは明らかである。
エまた,意匠法60条の3によれば,補正は,事件が審査,審判又は再審
に係属している場合に限り行うことができるとされている。仮に被告主張
のとおり本願意匠が特定されないと認定判断される場合であっても,原告
は再度の審判手続において手続補正をする用意があるから,審決を取り消
されたい。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1)拒絶査定不服審判は,職権主義の下で,法令の解釈,適用及び事実認定を
やり直す手続であり,審判において,拒絶査定と異なる拒絶の理由を発見し
た場合には,新たに拒絶の理由を通知し,意見を求めた後に審決することが
できる(意匠法50条3項)。したがって,審査において,本願意匠の形態
の特定がなされ,類否判断を行っているとしても,審判においては,審査段
階の判断に拘束されるものではない。
(2)本願意匠は,ディンプル部の開口端縁部の形状について,左側面図及び右
側面図によると,その作図の大きさは小さく,実線が太いため,四隅の態様
が不明であり,また,実線と鍵材本体を示す破線とが重なり合っているた
め,ディンプル部が,鍵穴差込部の側面と鍵穴差込部の平面(又は底面)と
接する際の位置から形成されているのか,該側面の端寄りに余地を残して形
成されているのかが明確になっておらず,開口端縁部の形状を特定すること
ができない。
したがって,本願意匠は,願書の記載事項及び添付された図面に基づいて
意匠を特定して認定することができないものであり,本願意匠は意匠法3条
1項柱書きに規定する「工業上利用することができる意匠」に該当しないと
した審決の認定判断に,誤りはない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(意匠の内容)及び(3)(
審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2そこで,原告主張の取消事由について判断する。
(1)ア本願は,願書(意匠登録願,甲5)によれば,意匠に係る物品を「鍵
材」とする,ディンプル部分(くぼみ部,凹部)の部分意匠の意匠登録出
願であることが認められる。
イところで,意匠法6条は,意匠登録出願の願書には,意匠登録を受けよ
うとする意匠を記載した図面を添付することを規定し,同施行規則3条
は,願書に添付すべき図面は,様式第6により作成しなければならないと
している。そして,同様式第6は,①立体を表す図面は,正投影図法によ
り各図同一縮尺で作成した正面図,背面図,左側面図,右側面図,平面図
及び底面図をもって一組(判決注:以下これらの図面を併せて「6面図」
という。)として記載するとし(備考8),②部分意匠については,意匠
登録を受けようとする部分を実線で描き,その他の部分を破線で描く等に
より意匠登録を受けようとする部分を特定することとし(備考11),③
立体を表す図面において,6面図だけでは,その意匠を十分表現すること
ができないときは,展開図,断面図,切断部端面図,拡大図,斜視図その
他の必要な図を加え,そのほか意匠の理解を助けるため必要があるとき
は,使用の状態を示した図その他の参考図を加えるとしている(備考1
4)。
ウ本願意匠は,鍵材のディンプル部分の部分意匠であるから,正にディン
プル部分の形状が具体的に特定されなければならないところ,願書(甲
5)の意匠の説明欄には,「実線で囲まれた部分が,部分意匠として意匠
登録を受けようとする部分である」と記載され,願書に添付された6面図
中の左側面図及び右側面図に実線によりディンプル部分の開口縁及び底縁
の形状が記載され,左側面図のA−A’断面図にディンプル部分の断面形
状が記載されているが,いずれもその作図はごく小さいものである。
これらの記載では,ディンプル部の開口端縁部の形状について,左側面
図及び右側面図の作図が小さいにもかかわらず実線が太いため,四隅の態
様が不明であり,また,実線と鍵材本体を示す破線とが重なり合っている
ため,ディンプル部が,鍵穴差込部の側面と鍵穴差込部の平面(又は底
面)と接する位置から形成されているのか,該側面の端部に余地を残して
形成されているのかが明確になっておらず,開口端縁部の形状を特定する
ことができない。
ディンプル部の底部の形状については,側面から見て円形であるとして
も,A−A’断面図が小さく作図されているのに比し描線が太いため,こ
の断面図において上方の凹部と下方の凹部の底部の形状が同じであるのか
異なっているのか判然とせず,直線状であるか曲線状であるかも不明であ
る。また,個々のディンプルの形状を開示した図面(切断位置を変えた断
面図,拡大図等)が添付されていないため,本願意匠のディンプル部の形
状を特定することは不可能である。
さらに,ディンプル部の周面部の形状について,本願意匠のディンプル
部は,左側面図及び右側面図によると,その開口端縁部が丸みを帯びた矩
形状であることは認識できるものの,本願の願書の記載事項及び添付図面
からは,矩形状の開口端縁部から底部の円形に至るまでの形状が,どのよ
うな面(平面又は曲面)を構成しているのか明確になっておらず,ディン
プル部の凹部の周面部を具体的に特定して認定することができない。
エ以上のとおりであるから,本願意匠は,願書の記載事項及び添付された
図面に基づいては,出願に係る意匠を特定して認定することができないも
のであり,意匠が図面それ自体によって完結的に特定されていないという
ほかない。
(2)原告は,特許庁は,審査段階では類否判断を行った上,新規性なし(意匠
法3条1項3号)との判断(平成15年1月22日付け拒絶理由通知書,甲
1)をしているところ,意匠法52条が準用する特許法158条は,「審査
においてした手続は,拒絶査定不服審判においても,その効力を有する。」
と規定しており,審査段階において行った拒絶理由通知は,拒絶査定不服審
判においても効力を有することとなるから,意匠の類否判断を行ったという
ことは,その形態を特定できているということにほかならないと主張する。
しかし,意匠法52条が準用する特許法158条の規定は,審査でした拒
絶理由通知等の手続がそのまま審判でも効力を有する旨を規定したものにす
ぎず,審査における認定判断が審判を拘束する旨を規定したものではなく,
原告の主張は,上記規定を正しく理解しないものというほかない。
審判において,拒絶査定と異なる拒絶の理由を発見した場合には,新たに
拒絶の理由を通知し,意見を求めた後に審決することができ(意匠法50条
3項),本件の審判手続において,特許庁が平成18年4月14日付け
で,「この意匠登録出願の意匠は,意匠登録を受けようとするディンプル部
分において,実線と鍵本体を示す破線とが重なり合っているため,また,A
−A’断面図の作図の大きさが小さいため,ディンプル部分の要部である開
口端縁部及び凹部の形状が不明ですので,未だ具体的でないものと認めら
れ,本願意匠は,意匠法第3条第1項柱書に規定する工業上利用することが
できる意匠に該当しません。」として拒絶の理由を通知している(審決1頁
理由欄の第2段落)。そして,前記のとおり審査において,本願意匠の形態
の特定がなされ,類否判断を行っているとしても,これが審判の認定判断を
拘束する理由はなく,また,本願意匠は,願書の記載事項及び添付された図
面に基づいて意匠を特定して認定することができないことは,前記のとおり
である。
したがって,審決が,拒絶査定と異なり,本願意匠は意匠法3条1項柱書
きに規定する「工業上利用することができる意匠」に該当しないとの理由に
より,審判請求を不成立としたことに,何ら違法はない。
(3)また,原告は,出願段階の意見書提出時及び審判請求時において現物を提
出し(平成15年3月5日付け意見書〔甲2〕及び平成17年9月15日付
け審判請求書〔甲3〕参照),これは肉眼で見て十分認識できるものであ
り,また,原告が提出した参考斜視図(平成18年5月15日付け手続補正
書〔甲7〕)は,これ以上分かり易い書面はないと主張する。
意匠法6条2項は,意匠登録出願の願書に添付する図面に代えて,意匠登
録を受けようとする意匠を現わした写真,ひな形又は見本を提出することが
できるとしているが,その方式については,同施行規則4条,5条,様式第
7,第8に規定され,様式第8には【書類名】の欄に,見本と提出するとき
は「見本」と,ひな形を提出するときは「ひな形」と記載するよう定めてい
る(備考1参照)。
しかし,原告が現物を添付して提出したとする甲2は,平成15年3月5
日付けの「意見書」であり,書類名に「見本」又は「ひな形」とは記載され
ておらず,その【提出物件の目録】にも
「【物件名】甲第1号証(本願意匠が掲載されたパンフレット)1
【物件名】甲第1号証に記載された本願意匠の見本1」(判
決注:甲第1号証は本訴甲4であると認められる。)
と記載されているにすぎず,また,本件の審判請求書(甲3)にも,【提出物
件の目録】の4行目に「【物件名】甲第2号証に記載された本願意匠の見
本1」(判決注:甲第2号証は本訴甲4であると認められる。)と記載さ
れているにすぎない。
そうすると,原告が出願段階の意見書提出時及び審判請求時において提出
したと主張する現物は,意匠法6条2項のひな形,見本として提出されたも
のとは認められないから,その現物に基づき本願の意匠が特定されるという
ことはできない。
原告は,現物たる見本は少なくともディンプル部の形状を把握する一助に
はなるというべきであると主張するが,同見本が願書に添付する図面に代え
て提出されたものではない以上,同見本に基づき本願意匠を認定することは
できず,原告の主張は採用することができない。
(4)また,原告は,平成18年5月15日付け手続補正書(甲7)中に記載さ
れた参考斜視図は,原告商品のパンフレット(甲4)に掲載されていたもの
であり,これ以上分かり易い書面はないとも主張する。
しかし,上記参考斜視図のディンプル部の配置構成をみると,本願の願
書(甲5)に添付された図面(正面図,背面図,左側面図,右側面図,平面
図及び底面図の6面図)に記載された意匠のディンプル部の配置構成のよう
に両側面に略同形状のディンプル部が2個ずつ対向するように配されたもの
とは異なり,上記6面図の記載と一致しないものである。そして,上記意匠
法及び同施行規則の規定によれば,6面図は,意匠登録出願の願書に添付す
ることが必要な必須図面であるが,参考斜視図は,6面図によりその意匠を
十分表現することができるときは,添付することを要しない図面であるか
ら,参考斜視図と6面図が一致しないときは,出願に係る意匠は,必須図面
である6面図により特定されるというべきところ,本願の願書に添付された
6面図に基づいて意匠を特定して認定することができないことは,上記のと
おりである。
原告は,鍵というものはその性質上すべて形状が異なるものであるとも主
張するが,参考斜視図が6面図だけで意匠を十分表現することができないと
きに当該意匠の理解を助けるためのものである以上,意匠登録出願に添付さ
れた6面図と参考斜視図が一致しなければならないことは当然のことであ
り,意匠に係る物品が「鍵材」であるからといって,これらの図面が一致し
なくてよいということにはならない。
また,上記不一致の点を措くとしても,上記参考斜視図(甲7)において
も,各ディンプル単体について,その記載が小さくかつ不鮮明であるから,
これを参酌したとしても,本願意匠に係るディンプル部の形状を特定するこ
とができないと認められる。
したがって,上記参考斜視図を参酌しても,本願意匠にかかるディンプル
部分の形状を特定することはできない。
(5)以上検討したところによれば,本願意匠は,願書の記載事項及び添付され
た図面に基づいて意匠を特定して認定することができないものというほかな
く,本願意匠は意匠法第3条第1項柱書きに規定する「工業上利用すること
ができる意匠」に該当しないとした審決の認定判断に,原告主張の誤りはな
い。
(6)原告は,本願意匠が特定されないと認定判断される場合であっても再度の
審判手続において手続補正をする用意があるから審決を取り消されたい旨主
張するが,上記のとおり審決の認定判断に誤りがない以上,法律に従って判
断すべき裁判所としては,これを取り消すことはできない。
3結論
以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官岡本岳
裁判官上田卓哉

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