弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人荻矢頼雄、同新宅日出男の上告理由について。
 原判決は、破産者D染料株式会社(以下、破産会社という。)と上告人との間の
債権譲渡契約が昭和四〇年七月一六日に成立した事実を認定したうえ、それから一
五日を経過したのちの同年九月二一日になされた訴外E紡績株式会社(以下、E紡
という)に対する本件売掛債権一〇〇万円の債権譲渡通知につき、破産法七四条一
項の規定に基づく被上告人の否認権の行使を認めたものであるところ、論旨は、右
規定の定める一五日の期間は対抗要件具備が可能になつた時から起算すべきである
が、原判決にはその規定の解釈を誤つた違法があると主張する。
 思うに、同条同項の規定は、支払の停止または破産の申立があつたのちに対抗要
件を充足する行為がなされた場合において、その行為が権利の設定、移転または変
更のあつた日から一五日を経過したのちに悪意でなされたものであるときにこれを
否認することができる旨を定めたものであるから、右一五日の期間は、当事者間に
おける権利移転の効果を生じた日から起算すべきものであつて、権利移転の原因た
る行為がなされた日から一五日を経過したのちであつても、権利移転の日から一五
日以内に、対抗要件を具備する行為がなされた場合には、右規定に基づいてこれを
否認することはできないものと解するのが相当である。
 しかるに、原判決の認定によれば、破産会社と上告人との間の前示債権譲渡契約
は、上告人の破産会社に対する手形割引による債権の担保のため、破産会社とE紡
ほか二社との間の取引に基づき現在および将来にわたつて継続的に生ずべき破産会
社の売掛債権を上告人に譲渡し、担保の実行たる譲渡債権の取立は、割引手形のう
ちの一通でも不渡りになつた時に、右三社のうち上告人の選択する一社に対するそ
の当時における売掛債権のうち、被担保債権の未払分相当額について行なうべき旨
を約したものであるというのであるから、E紡に対する一〇〇万円の本件売掛債権
につき、右契約時にただちに破産会社から上告人への権利移転の効果を生じたもの
とは解されない。そして、原判決は、右一〇〇万円の本件売掛債権が破産会社から
上告人に移転された日時を確定していないのである。
 したがつて、本件債権の移転の時を確定することなく、単に、その原因行為たる
債権譲渡契約のなされた日から一五日を経過したのちになされたものであることの
みを理由に、本件債権譲渡通知行為についての否認権の行使を認めた原判決は、前
記規定の解釈を誤つたものであつて、論旨は右の趣旨において理由がある。
 よつて、原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すこ
ととし、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    小   川   信   雄

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