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裁判例


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           主    文
1 1審被告Bの控訴に基づき,原判決中同1審被告敗訴部分を取り消し,
同取消しに係る1審原告の請求を棄却する。
2 1審原告の控訴を棄却する。
3 訴訟費用は,1審原告と1審被告Bとの間においては,第1,2審とも,1
審原告の負担とし,1審原告と1審被告A及び1審被告Cとの間において
は,1審原告の控訴によって生じた費用を1審原告の負担とする。
      事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 1審原告の控訴につき
(1審原告の控訴の趣旨)
(1)原判決を次のとおり変更する。
(2)1審被告Aは,株式会社Zに対し,4984万6000円及びこれに対する平成13
年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)1審被告Bは,株式会社Zに対し,4928万7000円及び内3699万7000円
に対する平成13年7月5日から,内1229万円に対する平成13年11月1日か
ら,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)1審被告Cは,株式会社Zの代表取締役として,政党,政党の支部,政治資金
団体に対し,寄附をしてはならない。
(5)訴訟費用は,第1,2審とも,1審被告らの負担とする。
(6)仮執行宣言
(控訴の趣旨に対する1審被告らの答弁)
(1)主文第2項と同旨
(2)控訴費用は1審原告の負担とする。
2 1審被告Bの控訴につき
(1審被告Bの控訴の趣旨)
(1)主文第1項と同旨
(2)訴訟費用は,第1,2審とも,1審原告の負担とする。
(控訴の趣旨に対する1審原告の答弁)
(1)本件控訴を棄却する。
(2)控訴費用は1審被告Bの負担とする。
第2事案の概要
 1本件は,株式会社Z(以下「Z」という。)が平成8年から平成12年までの間に合計9
913万3000円の政治資金の寄附をしたことにつき,Zの株主である1審原告が,
①政治資金の寄附は公序良俗に違反する,②政治資金の寄附は会社の目的の
範囲外の行為である,③政治資金の寄附は公職選挙法199条1項に違反する,
④政治資金の寄附は政治資金規正法22条の4第1項に違反する,⑤政治資金の
寄附は取締役の善管注意義務に違反すると主張して,商法266条1項5号に基づ
き,平成8年及び平成9年の政治資金の寄附の最終決裁をした当時のZ代表取締
役社長である1審被告Aに対し,同寄附相当額である4984万6000円及びこれに
対する原審平成13年(ワ)第144号事件の訴状送達の日の翌日である平成13年
7月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を,平成10
年から平成12年までの政治資金の寄附の最終決裁をした当時のZ代表取締役社
長である1審被告Bに対し,同寄附相当額である4928万7000円及び内3699万
7000円に対する原審平成13年(ワ)第144号事件の訴状送達の日の翌日である
平成13年7月5日から,内1229万円に対する原審平成13年(ワ)第262号事件
の訴状送達の日の翌日である平成13年11月1日から各支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金を,それぞれZへ支払うように請求するとともに,
原審及び当審口頭弁論終結時のZ代表取締役社長である1審被告Cに対し,商法
272条に基づき,Zの代表取締役として,政党,政党の支部,政治資金団体への
寄附の差止めを請求した株主代表訴訟である。
 原審は,1審原告の1審被告Bに対する請求について,平成10年4月1日以降に
なされた政治資金の寄附につき取締役の善管注意義務違反があったとして,286
1万5000円及び内1632万5000円に対する平成13年7月5日から,内1229
万円に対する平成13年11月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員の
支払を求める限度で認容し,1審原告の1審被告Bに対するその余の請求並びに
1審被告A及び1審被告Cに対する各請求をいずれも棄却したところ,1審原告及
び1審被告Bが本件各控訴を提起した。
 なお,略語は,原判決に準ずる。
2 前提事実
 次のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第2,1に記載のとおりで
あるから,これを引用する。
(原判決の補正)
(1)原判決3頁12行目の「9月14日」を「2月14日(1審原告主張の『9月14日』は
甲49の1に照らして誤記と認める。)」と改める。
(2)原判決4頁9行目の「決済」を「決裁」と改める。
(3)原判決5頁23,24行目の「訴えを提起しなかった(平成13年(ワ)第144号事
件)。」を「訴えを提起しなかったため,同年6月26日,原審平成13年(ワ)第14
4号事件を提起した(記録上明らかな事実)。」と,6頁1行目を「訴えを提起しな
かったため,同年10月24日,原審平成13年(ワ)第262号事件を提起した(記
録上明らかな事実)。」と,それぞれ改める。
3争点及びこれに関する当事者の主張
(1)本件政治資金の寄附は公序良俗に違反するか。
 次のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第3,1に記載のとおり
であるから,これを引用する。
(原判決の補正)
 原判決7頁8行目と同9行目との間に,次のとおり加える。
「 以上のように,会社による政治資金の寄附は,国民主権,国民の選挙権ない
し参政権を侵害するばかりか,株主の思想・信条の自由を侵害するものであ
るから,公序良俗に違反して許されないというべきである。」
(2)本件政治資金の寄附はZの目的の範囲外の行為か。
 次のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第3,2に記載のとおり
であるから,これを引用する。
(原判決の補正)
 原判決8頁22行目を次のとおり改める。
「 以上のように,政治資金の寄附は,客観的・抽象的にみても,無償の利益供
与である点で営利の目的に違背し,社会貢献活動のように社会通念上期待・
要請される行為でもなく,かえって企業体としての円滑な発展を損なうもので
あるから,本件政治資金の寄附はZの目的の範囲外の行為であるというべき
である。」
(3)本件政治資金の寄附は公職選挙法199条1項に違反するか。
 次のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第3,3に記載のとおり
であるから,これを引用する。
(原判決の補正)
 原判決10頁4行目と同5行目との間に次のとおり加える。
「 したがって,本件政治資金の寄附は,その当時,Zと国との間に土木・建設等
についての請負契約関係があったから,公職選挙法199条1項に違反すると
いうべきである。」
(4)本件政治資金の寄附は政治資金規正法22条の4第1項に違反するか。
 次のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第3,4に記載のとおり
であるから,これを引用する。
(原判決の補正)
 原判決10頁25行目の「Zは」から11頁3行目末尾までを次のとおり改める。
「 Zは,平成10年3月期に2426億円,平成13年3月期に5771億円の合計8
197億円の特別損失を計上し,更に平成15年3月期には3000億円の特別
損失が計上されたところ,これらの巨額の損失は突如発生した損失ではなく,
バブル経済崩壊期以降進行したZの債務増大・資産劣化の結果であって,事
実上の欠損状態が生じていたにもかかわらず,Zは,これを会計上に計上す
ることなく隠ぺいしていたものである。
 以上のように,Zは,商法上の資産評価の原則(商法285条)に違反して資
産を過大に,負債を過少に評価していたが故に,確定した貸借対照表上は欠
損が生じていなかったものにすぎず,上記評価原則に則して評価すれば欠損
が生じていたものであるから,平成7年3月期以降に行われた政治資金の寄
附は,政治資金規正法22条の4第1項に違反するというべきである。」
(5)本件政治資金の寄附は取締役の善管注意義務に違反するか。
(1審原告の主張)
ア Zは,争点(4)で1審原告が主張するとおり,平成7年3月期以降実質的には
欠損が生じている財務状況にあり,Zの取締役においても,従前の経営状況
がそのまま推移すれば更に巨額の欠損が生ずるとの確定的認識を有してい
たのであるから,1審被告らは,少なくとも平成9年10月の「経営革新中期計
画」(乙9)の策定以降に政治資金の寄附を行うに際しては,会社の経営状況
と当該寄附の必要性ないし有用性を厳格に対比して検討し,その可否・範囲・
数額・時期等を慎重に判断すべき注意義務があるのにこれを怠り,本件政治
資金の寄附をしたから,取締役の善管注意義務に違反するというべきであ
る。
イ 政権政党等への政治献金には種々の弊害があり,とりわけ政権政党への国
と請負関係に立つゼネコン会社の献金は政府の政策を左右する危険性があ
る点で本来抑制的なものでなければならないから,会社の取締役は,政権政
党等へ政治献金をするに際し,上記弊害面を慎重に検討し,この弊害が少し
でもある場合にはそのような政治献金を中止すべきであり,具体的には,①
法令又は定款に違反しないか,②仮に法令,定款に違反しなくとも,企業,業
界の要求を実現するため,あるいは企業,業界の要求が実現したことへの対
価,あるいは今後とも企業,業界の要求に対し特別の配慮を求める等の献金
ではないか,③業界ぐるみの政権政党への寄附は,政治資金規正法21条の
3の立法趣旨に実質的に違反していないかの3点につき慎重に検討し,このう
ち1つでも該当すれば政権政党への政治献金を中止すべき注意義務がある。
具体的には,Zの取締役である1審被告らは,政治資金の寄附のうち日建連
から要請されたものについては,どのような理由から日建連で統一的に献金
するのか,日建連として総額いくら自民党に寄附するのか,なぜこの時期にす
るのか,なぜ2口に分けて連続して支払うのか等について慎重に審査すべき
であり,また,国民政治協会から要請を受けたものについても,なぜZだけに
国民政治協会から要請がくるのか,なぜ要請のある金額でなければならない
のか,なぜこの時期に献金をするのか,なぜ日建連統一献金以外に献金をす
る必要性があるのか,さらには,国民政治協会から自民党に交付された後,
何に使われるか,迂回献金ではないのか,等について慎重に審査すべきであ
り,上記①ないし③のいずれにも該当しない場合に献金に応じることは許され
るが,そうでない限り政治資金の寄附を中止すべき注意義務があったのに,
これを怠り,上記審査を尽くさないまま,日建連又は国民政治協会から要請さ
れるままに本件政治資金の寄附をしたから,取締役の善管注意義務に違反
するというべきである。
ウ 仮に政治献金の支出について経営判断の原則が適用されるとしても,会社
の取締役としては,①経営判断に具体的法令違反及び公序良俗違反がない
こと,②経営判断が「会社のため」に行われたこと,③経営判断の前提となる
事実の認識に不注意な誤りがないこと,④経営判断の内容及び経営判断に
至る過程に著しい不合理がないこと,の4点について慎重に審査すべき注意
義務がある。具体的には,日建連から要請を受けた統一献金については,日
建連からの要請がある以上,国民政治協会から日建連に対し,総額いくらの
寄附要請があるのか,それに対し,日建連がどのような理由でどれくらいの献
金を加盟企業に要請するのか,日建連が自民党,政府に具体的に要求して
いる事柄との間で,賄賂性や公序良俗に抵触しないのか,献金するとすれ
ば,いつ献金するのか,自民党本部に入った企業献金は何に費消されるのか
等を慎重に調査すべきであり,また,国民政治協会から要請を受けたものに
ついても,なぜ国民政治協会からZに対して献金要請があるのか,他の企業
に対しても要請があるのか,なぜこの時期でそのような金額なのか,企業と国
会議員との迂回献金ではないか,自民党に交付された後,何にこれが使われ
るか,他の競争政党に対する弊害がないのか等について慎重に調査すべき
であり,これらの要請に合理的理由がある場合に献金に応じることは許される
が,そうでない限り政治資金の寄附を中止すべき注意義務があったのに,こ
れを怠り,上記審査を尽くさないまま,日建連又は国民政治協会から要請さ
れるままに本件政治資金の寄附をしたから,取締役の善管注意義務に違反
するというべきである。
(1審被告らの主張)
ア 取締役が会社の事業を営むにあたって行う経営判断については,広い裁量
が認められ,問題となる当該経営上の措置がなされた時点において,取締役
の判断の前提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤りがなく,意思決定
の過程・内容が企業経営者として特に不合理・不適切なものといえない限り,
取締役の善管注意義務に違反するとはいえないところ,会社の行う政治資金
の寄附も,事業活動の一環としてなされる経営判断の一つである以上,無償
行為であるとの一事によって営利を直接目的とする経営判断についての裁量
の幅と異なるわけではなく,これについても取締役に広い裁量が認められる
べきである。そして,寄附金額の合理性についての原則的な判断基準は政治
資金規正法の規制限度額とすべきところ,本件政治資金の寄附はこの規制
限度額の範囲内にあり,また,本件政治資金の寄附金額は,各年度における
Zの経営規模(資本金,総資産額,業界における地位等),業績(売上高,営
業利益,経常利益,当期損益等),同業他社の寄附動向(単年度赤字決算の
会社による寄附も含む。)等に照らしても,合理的な範囲内の寄附である。
イ 無配の会社や欠損を一度生じた会社でも,利益獲得に直接結びつく営利行
為のみしか行ってはならないというものではなく,その社会的役割を果たし,
あるいは計測不可能であっても会社にとって長期的,間接的な利益に資する
ために,取締役の裁量によって政治資金の寄附その他の寄附を行う余地は
法律上認められるべきである。そして,欠損を生じた会社が政治資金の寄附
を行うことの弊害に鑑みて,どの範囲においてそれを禁止するかは第一次的
には立法政策の問題であるところ,政治資金規正法22条の4第1項の反対
解釈によれば,欠損を生じた会社であっても,3事業年度継続等の要件に当
たらない会社については,立法者は政治資金の寄附を全面的には禁止せ
ず,なお,取締役の裁量によって法の定める限度内で政治資金の寄附を行う
余地を認めており,無配の会社が政治資金の寄附を行うことを全面的に禁止
する法律は存在しないことに照らしても,上記のような会社にあっても取締役
の裁量によって政治資金の寄附を行う余地は認められている(そうでなけれ
ば,1事業年度であっても欠損を生じた会社についてはその欠損が解消する
までの間は一切政治資金の寄附の余地を認めない結果となり,法が認めて
いる取締役の裁量の余地を全面的に奪うことになる。)。そして,一度欠損が
生じた会社が以後に行う政治資金の寄附についての取締役の裁量について
も,政治資金規正法の規制する範囲内で取締役に広い裁量を認めるべきで
あり,一度欠損が生じた後に行う寄附について高度の必要性や有用性を要求
すべきではない。
ウ 本件各寄附のいずれの時点においても,Zに欠損金は生じていなかった。す
なわち,Zの平成9年10月の「経営革新中期計画」(乙9)の策定及びこれに
基づく平成10年3月期の約488億円の欠損計上は,何らZの経営のひっ迫
を示すものとはいえないし,平成10年3月期から平成12年3月期までの各事
業年度におけるZの本業における業績も堅調であり,建設業界において上位
を保っていたものである。平成13年3月期から導入された時価会計の下にお
ける会社の販売用不動産や不動産を多く有する子会社の株式の評価方法や
減損処理の基準の詳細が定まったのは平成12年7月であり,これに対応し
て,Zにおいて,主要な海外開発事業や不動産に関係する国内問題債権につ
いて,新しい基準に準拠して評価と必要な減損処理を実施し,かつ,そのこ
ろ,取引銀行を共通とするDやEの倒産からの連想により市場で生じていたZ
の信用不安に対処するために,平成12年9月,平成13年3月期における特
別損失の計上や金融機関への債務免除要請を含む「新経営革新計画」を策
定・発表したのである。
エ 上記ウの「新経営革新計画」策定に至る事情及び平成10年以降のわが国
経済や建設会社の経営環境をめぐる様々な変動に照らせば,一審被告Bの
認識も,平成10年4月から平成12年4月までの本件政治資金の寄附につい
て,Zに更なる欠損を生じるべき確定的認識を有していたなどということはあり
得ない。本件政治資金の寄附を自民党の政治資金団体である国民政治協会
に行ったのは,戦後長年にわたりわが国の政治・経済の運営にあたってきた
同党の実績と経済政策の立案・実行についての能力に照らして,同党による
経済運営により長期不況から早く脱して経済を活性化させ,経済・社会基盤を
安定させることが,長期的にZの経営環境を改善することにつながるとの認識
によるものであった。そして,このことは政治資金の寄附が日建連を通じて行
われるか否かにより異なるものではない。
オ 1審被告Bは,本件各寄附のうち,日建連の十日会において会員である建
設各社の分担額の目安を協議したものについては,日建連及び十日会で最
上位の第1グループに属し,日建連やその下部団体の運営への参画等
を通じて様々な恩恵を受けていたZとして,経営規模に応じた応分の社会的
貢献をすることが,建設業界内外における地位と信用を維持することにつな
がり,長期的にはJV工事等の受注機会の拡大等によりZの利益にもなり,他
方,仮にそのような本件各寄附の実行を拒否した場合には,そのことがZの信
用に関わるネガティブ情報として業界内に伝わり競争上の不利益を蒙る恐れ
があるとの判断によるものであった。
(6)1審被告Cに対する差止請求の当否
 原判決の事実及び理由の第3,6に記載のとおりであるから,これを引用する。
 
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件政治資金の寄附は公序良俗に違反するか。)について
 1審原告は,会社による政治資金の寄附が,国民主権,国民の選挙権ないし参
政権を侵害するため,公序良俗に違反する旨主張する。
しかし,当裁判所も,会社が政治資金を寄附することが国民の政治意思の形成
に作用することがあるとしても,会社による政治資金の寄附は,国民個々の選挙権
その他の参政権の行使そのものに直接影響を及ぼすものとはいえず,国民主権,
国民の選挙権ないし参政権を侵害するものとはいえないから,公序良俗に違反す
るものということはできないと考えるが,その理由は,次のとおり補正するほかは,
原判決の事実及び理由の第4,1に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
  (1)原判決15頁22行目から同25行目までを次のとおり改める。
「 他方,憲法第3章に定める国民の権利及び義務の各条項は,性質上可能な
限り,内国の法人(以下,単に「法人」という。)にも適用されるが(最高裁昭和
45年6月24日大法廷判決民集24巻6号625頁(以下「最高裁昭和45年大
法廷判決」という。)参照),法人がどのような憲法上の権利をどの程度の範
囲で享有することができるかは,その権利の性質及び当該法人の目的などに
よることであり,上記各条項の本来的な適用対象である国民と同様の保障を
当然に享有するものではない(法人が,営業の自由(憲法22条),財産権(同
29条)等の経済的な自由権,裁判を受ける権利(同32条)等の国務請求権を
享有することは容易に肯定される一方,教育を受ける権利(同26条),選挙権
及び被選挙権等の参政権(同15条)を享有するものでないことも明らかであ
る。)。そして,法人が政治資金の寄附を含む政治活動の自由を有するか否
かに関し,憲法には,これを保障する旨の明文の規定はないものの,これを
禁じる規定はないし,一般的にこれを禁じる法律もないから,少なくとも,法人
が,公職選挙法及び政治資金規正法等の法律の範囲で,政治資金の寄附を
含む政治活動の自由を有することはこれを否定できないというべきである。そ
して,法人の政治資金の寄附を含む政治活動の自由も憲法21条の表現の
自由の一内容として保障されているとしても,政治資金の寄附を含む政治活
動の自由は,その性質上,選挙権及び被選挙権等の参政権の行使と密接な
関係を有することに照らし,法人に対し,主権者である国民と同様の憲法上の
保障をしているものと解することはできず,憲法が主権者である国民に対して
保障している参政権等の基本的な人権を侵害しない範囲においてであるとい
うべきである。
 ところで,わが国の社会において,株式会社等の会社が経済の中心的な担
い手として存在し,これら会社が,あるいは産業横断的な組織(各種の経営者
団体等)を結成し,あるいは産業縦断的な組織(各種の産業団体等)を結成
し,政府の行う経済政策等に関連する提言等の政治的な見解を表明し,ま
た,これら組織に属する会社が政党等の政治団体に対する政治資金の寄附
(いわゆる政治献金)を行っていることは公知の事実であるが,このような会
社による政治資金の寄附は,その額が,一般に,個々の国民が行う政治資金
の寄附と比較して格段に多額であることから,政党,さらにはその政党に担わ
れる政治に対する影響力は」
  (2)原判決16頁13行目から同18行目までを次のとおり改める。
「 したがって,会社による政治資金の寄附は,憲法が国民に保障する選挙権等
の参政権を実質的に侵害することがない範囲(程度及び方法)に止められる
べきものであり,仮にも会社による政治資金の寄附が無制限とされ,あるいは
制限があるものの,その額が著しく巨額であるため,政治と産業界との不正な
癒着を恒常的なものとし,かつ,その是正の方途が講じられないまま放置され
るなど等により,制度的に,憲法が国民に保障する選挙権等の参政権を実質
的に侵害する状態の程度に至っている場合には,国民に対して選挙権等の
参政権を保障した憲法の趣旨に反するものとして,違憲,違法な状態となるこ
ともあるというべきであるが,そのような場合を除き,会社による政治資金の
寄附の程度及び方法を具体的にどのような内容のものとするかは,国権の最
高機関である国会の立法政策に委ねられている事項であるというべきであ
る。」
  (3)原判決18頁25行目の「禁圧」を「禁止」と改める。
  (4)原判決19頁5行目を次のとおり改める。
「 そうすると,会社の政党等に対する政治資金の寄附については,それが十分
なものであるか否かにつき評価が別れる点があるとしても,立法により相当程
度の規制がされているのであり,憲法が国民に保障する選挙権等の参政権
を実質的に侵害するような違憲,違法な状態にあるということはできず,した
がって,会社の政党等に対する政治資金の寄附がそれ自体で公序良俗に違
反するものであるということもできない。」
  (5)原判決19頁6行目から同12行目までを次のとおり改める。
「(5)1審原告は,会社による政治資金の寄附は,株主の思想・信条の自由を侵
害するとして,そのことを前提として公序良俗に違反するとも主張する。
 確かに,会社の個々の株主にも個人的な政治的思想,見解,判断等を自
主的に決定し得る思想・信条の自由が憲法上保障されているところ,政党
など政治資金規正法上の政治団体が政治上の主義若しくは施策の推進,
特定の公職の候補者の推薦等のため金員の寄附を含む広範囲な政治活
動をすることが当然に予定された政治団体である以上(同法3条),当該会
社の政治資金の寄附を通じて示される特定の政党等の政治的思想,見
解,判断等への支持と株主の政治的な思想・信条と抵触する場合があるこ
とは否定できない。しかし,株主は,その保有する株式を自由に譲渡するこ
とができ(商法204条1項本文),いわば自己の思想・信条を異にする会社
からの脱退の自由が制度的に担保されているのであるから,仮に株主にお
いて会社による政治資金の寄附を通じて示される特定の政党等の政治的
思想,見解,判断等への支持が自己の思想・信条と相容れないと考える場
合には,その保有株式を他に譲渡することにより当該会社から自由に離脱
でき,自己の思想・信条と異なる会社への帰属を強制されるものではない
から,会社による政治資金の寄附が株主の思想・信条の自由を侵害すると
まではいえない。
      したがって,1審原告の上記主張は採用できない。」
2 争点(2)(本件政治資金の寄附はZの目的の範囲外の行為か。)について
(1)1審原告は,政治資金の寄附は,客観的,抽象的にみても,無償の利益供与であ
る点で営利の目的に違背し,社会貢献活動のように社会通念上期待・要請され
る行為でもなく,かえって企業体としての円滑な発展を損なうものであるから,本
件政治資金の寄附はZの目的の範囲外の行為である旨主張する。
 しかし,会社における目的の範囲内の行為とは,定款に明示された目的自体に限
定されるものではなく,その目的を遂行する上に直接又は間接に必要な行為で
あればすべてこれに包含されるものであり,会社が政党又は政党資金団体に政
治資金を寄附することも,客観的,抽象的に観察して,会社の社会的役割を果
たすためにされたものと認められる限りにおいては,会社の定款所定の目的の
範囲内の行為というべきである(最高裁昭和45年大法廷判決参照)。ところで,
憲法の定める議会制民主主義は,政党の存在を抜きにしては到底その円滑な
運用を期待することはできないから,同議会制民主主義の下で存在する会社が
政党又は政党資金団体に対してする政治資金の寄附は,これを客観的,抽象
的に観察すれば,政党の健全な発展に協力する趣旨で行われるものと解される
のであり,政治資金規正法も会社による政治資金の寄附そのものを禁止するこ
となく,一定の限度でこれを許容していることを考慮すると,特段の事情のない
限りは,会社がその社会的役割を果たすためにしたものというべきである。そし
て,本件政治資金の寄附について,上記特段の事情を認めることはできず,か
えって,本件政治資金の寄附は,後記5のとおり,Zの経済的ないし社会的信用
を維持する効果を有する目的もあってされたのである。したがって,政治資金の
寄附が一般に会社の目的の範囲外の行為であるということはできないし,本件
政治資金の寄附をもって,Zという会社の目的の範囲外の行為であるということ
もできないから,1審原告の上記主張は採用できない。
(2)1審原告は,本件政治資金の寄附が自民党という特定の政党に対して行われた
ものであることを根拠に,Zの目的の範囲外の行為であるとも主張する。
 しかし,上記1で説示したところによれば,政治資金の寄附をすることは政治的活
動の自由の一環として会社にも認められているところ,特定の政党を支持する
趣旨で当該政党への政治資金の寄附を行うことは,政治資金の寄附の性質上,
当然に予定されているのである。そして,上記(1)のとおり,会社の行為が会社の
目的の範囲内か否かはこれを客観的,抽象的に観察して決すべきであるから,
Zのした本件政治資金の寄附を客観的,抽象的に観察する以上,政治資金の寄
附の相手方がいかなる政党であるかにより,Zという会社の目的の範囲内か否
かの結論を異にするものではないというほかない。したがって,1審原告の上記
主張は採用できない。
3 争点(3)(本件政治資金の寄附は公職選挙法199条1項に違反するか。)について
 当裁判所も,本件政治資金の寄附は公職選挙法199条1項に違反しないものと判
断するが,その理由は,原判決の事実及び理由の第4,3に記載のとおりであるか
ら,これを引用する。
4 争点(4)(本件政治資金の寄附は政治資金規正法22条の4第1項に違反するか。)
について
 当裁判所も,本件政治資金の寄附は政治資金規正法22条の4第1項に違反しな
いものと判断するが,その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決の事実及
び理由の第4,4に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
  (1)原判決21頁20行目の「Zは,」を「Zの」と改める。
  (2)原判決22頁3行目と同4行目との間に次のとおり加える。
「 なお,1審原告は,Zが,平成10年3月期に2426億円,平成13年3月期に577
1億円の合計8197億円の特別損失を計上し,更に平成15年3月期には300
0億円の特別損失が計上されたところ,これらの巨額の損失は突如発生した損
失ではなく,バブル経済崩壊期以降進行したZの債務増大・資産劣化の結果で
あって,事実上の欠損状態が生じていたにもかかわらず,Zはこれを会計上に計
上することなく隠ぺいしていたものであるから,平成7年3月期以降に行われた
本件政治資金の寄附は,政治資金規正法22条の4第1項に違反する旨主張す
る。しかし,本件政治資金の寄附当時におけるZの資産,経営状況は後記5(1)
で認定するとおりであり,Zにおいて実質的にも3事業年度以上にわたり継続し
て事実上の欠損状態が生じていたとはいえず,また,当該各年度の貸借対照表
が粉飾その他により虚偽の内容であるなど特別の事情があることを認めるに足
りる証拠もない(1審原告は,Zの貸借対照表は商法285条の資産評価原則に
違反して,資産を過大に,負債を過少に評価した違法なものであり,適正な資産
評価を実施していれば,平成7年3月期以降の政治資金の寄附は,過去3事業
年度以上にわたり継続して欠損が生じていた状態の下でされたもので,政治資
金規正法22条の4第1項に違反する旨主張するが,証拠(甲41の1ないし14,
乙8の1ないし6,乙10,13,15,16,22,29,1審被告B)によれば,Zは,各
事業年度において,その当時の公正妥当と認められる会計処理の基準に従っ
て会計処理をし,貸借対照表を確定したことが認められ,同主張は採用できな
い。)。したがって,1審原告の上記主張は採用できない。」
5 争点(5)(本件政治資金の寄附は取締役の善管注意義務に違反するか。)につい

(1)認定事実
 前記前提事実及び証拠(乙22,29,30,1審被告B,後記各証拠)によれば,
Zの平成元年度以降の資産,経営状況について,次の事実が認められる。
ア Zの第53期(事業年度平成元年4月1日から平成2年3月31日まで。甲41
の1)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この
総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期における
わが国の経済は,個人消費と民間設備投資を軸に内需主導型の力強い成長
が続き,戦後成長のいざなぎ景気にも迫る勢いを示しており,景気は順調に
推移し,建設業界においても,オフィスビル,マンションなど旺盛な建築需要に
支えられ,受注環境は好調のうちに推移していたところ,このような状況のもと
で,Zは,不動産事業を含む受注高1兆2381億円余,売上高1兆1002億円
余,当期純利益149億円余といずれも所期の業績を挙げることができた。
イ Zの第54期(事業年度平成2年4月1日から平成3年3月31日まで。甲41
の2)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この
総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期における
わが国の経済は,金利の上昇,株価の低迷等の不安定要因があったにもか
かわらず,底堅い個人消費と堅調な民間設備投資に支えられ,全体的には堅
調に推移し,建設業界においても,景気の先行き不透明感から,製造業にお
いて設備投資の伸びが減速したが,非製造業を中心にマンション,事務所ビ
ルなど旺盛な建築需要に支えられ,受注環境は比較的好調に推移していたと
ころ,このような状況のもとで,Zは,不動産事業を含む受注高1兆2590億円
余(前年同期比1.7%増),売上高1兆2014億円余(前年同期比9.2%
増),経常利益505億円余(前年同期比22.9%増),当期純利益182億円
余(前年同期比21.6%増)といずれも前年度の業績を上回ることができた。
ウ Zの第55期(事業年度平成3年4月1日から平成4年3月31日まで。甲41
の3)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この
総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期における
わが国の経済は,長期にわたり好況を支えてきた民間設備投資と個人消費
などに鈍化傾向が見られ,景気の減速化が一層鮮明になり,建設業界におい
ても,公共投資は堅調ながら,民間での不動産不況,株式市場の低迷,設備
投資意欲の減退などにより,受注環境は厳しさを増していたところ,このような
状況のもとで,Zは,不動産事業を含む受注高1兆2443億円余(前年同期比
1.2%減),売上高1兆1450億円余(前年同期比4.7%減),経常利益38
0億円余(前年同期比24.7%減),当期純利益150億円余(前年同期比1
7.7%減)といずれも前年度の業績を下回る結果となった。
エ Zの第56期(事業年度平成4年4月1日から平成5年3月31日まで。甲41
の4)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この
総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期における
わが国の経済は,景気浮揚策がとられたにもかかわらず,個人消費と設備投
資の低迷に加え,円高の進行など新たな懸念材料により,景気は後退色を強
めながら推移し,建設業界においても,公共投資の増加等により一部に明る
い兆しが見られたが,民間設備投資は抑制され,建設需要の落ち込みが著し
いことにより,受注環境は一段と厳しさを増していったところ,このような状況
のもとで,Zは,不動産事業を含む受注高9007億円(前年同期比27.6%
減),売上高1兆0786億円(前年同期比5.8%減),経常利益296億円(前
年同期比22.0%減),当期純利益90億円(前年同期比39.7%減)といず
れも前年度の業績を下回る結果となった。
オ 平成5年7月の「株式会社Z体質改善3ヶ年計画」の策定
 そこで,Zは,平成5年7月,「株式会社Z体質改善3ヶ年計画」(乙23)を策
定した。同計画は,Zの経営実態(本体の営業力低下に伴う利益の伸び悩
み,関連会社の利益の低迷,一般管理費の増大,高度成長前提型の人事制
度,体質改善の進捗の遅れ)を直視しつつ,固定化した不良債権,資産の整
理・回収と高度成長前提型の体質の是正を主要課題に掲げ,3年計画で早急
に抜本的体質改善を図り,グループ全体として総力をあげて対処することを
基本対処方針とするものであり,その体質改善方策の骨子は,有利子負債の
圧縮(3ヶ年で3000億円の圧縮を目標),営業力の強化(1兆5000億円受
注体制の早期確立),若返り等による組織の活性化と改善推進力の強化,配
当政策(当面の経営状況を勘案して3年間は株式配当を3円とし,4年後には
増額を目指す。)というものであった。
カ Zの第57期(事業年度平成5年4月1日から平成6年3月31日まで。甲41
の5)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この
総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期における
わが国の経済は,民間設備投資と個人消費が依然として低迷したのに加え,
急激な円高などの影響も重なり,景気は停滞したまま推移し,建設業界にお
いても,公共工事は堅調であったが大型工事が減少し,また,民間工事にお
いても住宅建設は好調を維持したものの,事務所ビルや工場などの建設投資
の抑制が続いたため,受注環境は誠に厳しいものであったところ,このような
状況のもとで,Zは,売上高8419億円(前年同期比21.9%減),経常利益2
35億円(前年同期比20.5%減),当期純利益10億円(前年同期比88.0
%減)については前年度の実績を下回る結果となったが,不動産事業を含む
受注高9040億円(前年同期比0.4%増)は前期の実績を確保することがで
きた。
キ Zの第58期(事業年度平成6年4月1日から平成7年3月31日まで。甲41
の6)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この
総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期における
わが国の経済は,減税効果などから個人消費の持ち直しの動きが広がり,住
宅投資も堅調に推移したが,設備投資の低迷が続き,かつてない円高の進行
もあったため,景気は緩やかな回復基調にとどまり,建設業界においても,住
宅建設は好調を持続したが,公共工事は大型工事が少なく,事務所ビルや工
場等の民間建設需要が依然として低迷し,価格競争も激化するなど,受注環
境は一段と厳しいものとなっていたところ,このような状況のもとで,Zは,不動
産事業を含む受注高9144億円(前年同期比1.1%増)は前年度の実績を
上回ることができたが,売上高8292億円(前年同期比1.5%減),経常利益
204億円(前年同期比13.2%減)は前年度の実績を下回り,当期純利益1
0億円(前年同期比0.5%増)は前年度並みの結果となった。
ク Zの第59期(事業年度平成7年4月1日から平成8年3月31日まで。甲41
の7)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この
総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期における
わが国の経済は,輸出が鈍化基調にあるものの,公共投資は拡大傾向が鮮
明になり,民間設備投資や個人消費に回復の兆しが見え始めるなど,景気は
緩やかな回復基調を持続し,建設業界においても,官庁工事は,公共投資の
増加により堅調に推移したものの,民間工事は,事務所ビル等の建設需要が
依然として低迷しており,住宅建設も減少するなど,総じて受注環境は厳しい
ものとなったところ,このような状況のもとで,Zは,不動産事業を含む受注高
8725億円(前年同期比4.6%減),経常利益144億円(前年同期比29.2
%減)は前年度の実績を下回ったが,売上高9838億円(前年同期比18.6
%増)は前年度の実績を上回り,当期純利益10億円(前年同期比0.0%減)
は前年度並みの結果となった。
ケ 平成8年5月の「体質改善3ヶ年計画報告書及び第2次体質改善3ヶ年計画
書」の策定
 Zは,平成8年5月,「体質改善3ヶ年計画報告書及び第2次体質改善3ヶ年
計画書」(乙24)を策定した。このうち第2次体質改善3ヶ年計画によれば,受
注については,建設業をとりまく環境は依然厳しいものの,景気は緩やかな
回復を持続し,第60期では,秋の補正予算の可能性も含め,公共工事は堅
調に推移するものと考え,Zとしては,国内建設事業にて8500億円,東南ア
ジアを中心とした海外受注にて500億円,不動産事業にて300億円の合計9
300億円を計画値とするが,第61期以降では,緩やかな景気回復基調を前
提として,大幅な受注増を織り込まない計画値としていた。損益については,
一部民間工事における受注競争激化による不採算工事が第60期に完成計
上されるため,完成工事利益は751億円にとどまり,利益率は8.8%に,売
上総利益では不動産事業の高収益物件を含めて833億円と,その利益率は
9.3%になること,この影響を受けて経常利益は108億円となることが,ま
た,海外事業整理による171億円の損失を含む244億円の特別損失計上を
見込み,当期利益は10億円となることがそれぞれ予定されており,第61期
以降では,不採算工事の一掃により第60期を底として回復し,経常利益は第
61期では178億円,第62期では292億円を計画するものの,引き続き海外
事業整理を実施することによりいずれも当期利益は10億円になることが予定
されていた。
コ Zの第60期(事業年度平成8年4月1日から平成9年3月31日まで。甲41
の8)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この
総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期における
わが国の経済は,公共投資は減少したものの,円安により輸出は増加傾向を
強め,設備投資や個人消費も回復を続けるなど,景気は緩やかな回復基調
のうちに推移し,建設業界においても,官庁工事は減少に転じたが,住宅投
資は高水準を維持し,民間設備投資の堅調な増加や消費税率引き上げに伴
う駆け込み需要もあったため,受注環境は厳しいながらも回復の兆しが見え
てきていたところ,このような状況のもとで,Zは,不動産事業を含む売上高9
303億円(前年同期比5.4%減),経常利益137億円(前年同期比5.1%
減)は前年度の実績を下回り,当期純利益10億円(前年同期比0.5%増)は
前年度並みの結果となったが,受注高は1兆0015億円(前年同期比14.8
%増)となり,厳しい受注環境のなか5期ぶりに1兆円台を達成した。
サ 平成9年10月の「経営革新中期計画」の策定
 Zは,これまでの体質改善や業務革新の取り組みによる成果が確実に上が
ってきており,この業績の回復基調を過去4年間の再建フェーズから発展フェ
ーズへ移行しつつあるものと認識し,さらなる飛躍を勝ち取るため,21世紀を
展望した経営基盤の構築を目指し,平成9年10月,「経営革新中期計画」(乙
9)を策定した。このうち財務体質の抜本的改革は,次のような内容であった。
もっとも,これにより,今期では約2000億円の赤字決算となり,株主配当は
無配となるが,Zでは,このような特別損失の計上はあくまでも今期限りであ
り,革新の断行により来期以降は黒字決算及び復配を計画していた。
① 一括損失処理による赤字決算
 海外開発事業の整理及び国内固定化債権の償却を一括して実施し,海
外1500億円,国内890億円の合計2390億円の特別損失を計上し,当
期純損失2005億円とする。
② 海外開発事業の整理と収支均衡
 海外の不動産市況は,長期にわたる低迷期を脱し,米国をはじめ全体的
に強い回復基調にあり,Z保有物件も評価が上昇した。従来より営業収支
の改善を図りつつ計画的に物件の整理を進めてきたが,評価の上昇を踏
まえ手持ち物件の半数を超える18物件を今回売却し,事業費の圧縮,保
有コストの大幅削減を実施する。さらに,残物件については,追加資本金の
投入等によるファイナンスリストラを実施し,保有コストを大幅に削減して,
遅くとも来期中に海外開発事業の収支均衡を図る。
③ 国内固定化債権の損失処理
 国内債権について計画的に固定化した債権の回収を図ってきたが,低迷
する景気の影響を受け,案件の整理回収には時間を要していた。今回,固
定化した債権を前倒しして償却及び損失引当を行うとともに,今後も固定化
債権の回収を促進する。
④ 有利子負債と保証債務の圧縮
 今回の海外開発事業の収支均衡と国内固定化債権の前倒し損失引当処
理により,本業収益力による有利子負債の返済能力を高めるとともに,販
売用不動産等の損切り売却,株式等の資産売却により資金を捻出する。
過去4年間に有利子負債,保証債務は合わせて2004億円の圧縮を達成
しており,この計画の実施により,今後5年間で有利子負債,保証債務合
わせて2764億円を更に圧縮し,財務体質を大幅に改革する。有利子負債
については,海外開発事業のリストラにより一時的に増加するが,物件売
却による海外開発事業の収支均衡と高金利の社債償還による金融収支の
改善等により,本業収益による返済力を確保し,第65期までには158億
円の削減を計画している。保証債務については,海外開発事業の整理売
却等により2606億円の圧縮を行うことを計画している。
シ Zの第61期(事業年度平成9年4月1日から平成10年3月31日まで。甲41
の9)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この
総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期における
わが国の経済は,アジア経済の急速な落ち込みにより輸出の伸びが鈍化し,
消費税率の引き上げ,雇用環境の悪化などから個人消費が低迷するなど,
景気は後退色を強めながら推移し,建設業界においても,公共投資は減少
し,また,住宅投資に回復がみられず,増加傾向にあった設備投資も企業収
益の悪化から投資意欲が減退するなど,受注環境はいっそう厳しいものとな
っていたところ,このような状況のもとで,Zは,不動産事業を含む受注高903
8億円(前年同期比9.8%減)は前年度の実績を下回ったが,売上高1兆01
32億円(前年同期比8.9%増),経常利益155億円(前年同期比12.8%
増)は前年度の実績を上回る結果となった。また,「経営革新中期計画」(乙
9)の実行に伴い,国内外の固定化資産の一括損失処理を行った結果,当期
純損失は2176億円となった。
ス Zの第62期(事業年度平成10年4月1日から平成11年3月31日まで。甲4
1の10)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この
総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期における
わが国の経済は,総合経済対策,緊急経済対策及び金融緩和措置等の景気
浮揚策がとられたが,金融システム不安は払拭し切れず,雇用や所得環境の
悪化などから個人消費は依然伸び悩み,企業収益の低迷により設備投資が
大幅に減少するなど,景気は総じて低調に推移し,建設業界においても,公
共投資の増加により官公庁工事は回復に転じたが,住宅投資やオフィスビル
建設は低迷し,製造業の生産施設等の民間設備投資も減少を続けるなど,
受注環境は大変厳しいものとなっていたところ,このような状況のもとで,Z
は,不動産事業を含む受注高8414億円(前年同期比6.9%減)と売上高9
003億円(前年同期比11.1%減)は前年度の実績を下回り,工事原価の低
減,一般管理費の削減に努めた結果,営業利益は増加したが,営業外収益
の減少,有価証券評価損の発生等により経常利益は76億円(前年同期比5
0.9%減)と前年度の実績を下回った。もっとも,当期純利益は,上記オの
「体質改善」に着手した平成5年度からの水準を上回る14億円となった。
セ Zの第63期(事業年度平成11年4月1日から平成12年3月31日まで。甲4
1の11)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この
総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当連結会計年
度におけるわが国の経済が公共投資と住宅投資が景気を下支えし,企業収
益や設備投資に緩やかな好転の兆しがみられたが,雇用,所得環境がいま
だ厳しい情勢にある中で個人消費は停滞しており,本格的な景気の自律的回
復には至らず,海外においても,米国経済は個人消費を中心に好況を持続
し,欧州経済も各国とも景気拡大基調となっており,豪州経済は五輪特需の
影響もあり引き続き順調に推移し,また,こうした好調な世界経済を背景にア
ジア経済も輸出の増加等から顕著な回復傾向を示しており,国内建設市場に
おいては,政府経済対策の効果により年度前半の公共工事は増加し,住宅
投資も堅調に推移したが,全体的には依然として厳しい環境が続いており,
海外建設市場においては,米国,欧州,豪州ともやや鈍化はみられたものの
堅調に推移し,アジア地域では総じて低迷しているが,回復基調に転じた国,
地域も見受けられたところ,このような状況のもとで,Zグループは,ここ数年
の受注高の減少が影響し,当連結会計年度の売上高は7990億円(前連結
会計年度比20.0%減)となり,損益については,工事採算の改善や保有株
式の売却等をすすめたが,大幅な売上高の減少を補うことはできず,営業利
益は172億円(前連結会計年度比38.7%減),経常利益は7億円(前連結
会計年度比88.1%減)となり,また,たな卸不動産評価損175億円の特別
損失への計上等もあり,当期純損失は46億円(前連結会計年度比82.8%
増)となった。
ソ 平成12年9月の「新経営革新計画」の策定
 Zは,「経営革新中期計画」(乙9)発表後の金融システム不安等に端を発し
た急激な経済環境の悪化により,計画策定時点で前提としていた経営環境は
大きく変化しており,建設市場の大幅な縮小とそれに伴う受注競争の激化,
地価の下落等に伴う資産処分の遅れ等から,当初計画とのかい離が拡大し
ており,Zにおいて,このような環境の変化に対応すべく,コストの削減,大幅
な固定費削減等を実施してきたが,その成果が環境悪化のスピードを上回る
に至らず,当初計画の達成は極めて困難な状況となっており,さらに,平成1
3年3月期から導入される時価会計(乙11の4,乙13),年金等退職給付に
係る会計基準の変更等,経営環境はその厳しさを一層増しているため,Z及
び関連グループ各社が21世紀における長期的な競争力を確保するには財
務体質を抜本的に健全化することが喫緊の課題であると判断するに至り,平
成12年9月,現在の経営環境に対応した「新経営革新計画」(甲13,平成24
年3月期までの12年間)を策定した。この「新経営革新計画」は,「選択と集
中」による事業構造の見直しと競争力の強化,コンパクトで筋肉質な経営体質
の構築,不良資産の一括処理による財務体質の抜本的改革をその骨子とす
るものであり,その概要はZの株主にも書面(甲15)で通知された。このうち不
良資産の一括処理による財務体質の抜本的改革は,減資差益,債務免除
益,資本準備金・剰余金及び本業収益を原資として,平成13年3月期に569
9億円の特別損失を計上する一括損失処理を行い,有利子負債を大幅に圧
縮するというものであり,具体的には次の内容であった。
① 減資
 株主に対し,減資(プレミアム減資481億円,併合減資170億円)の承認
を要請し,これによる減資差益651億円に加え,資本準備金と剰余金の取
り崩しを合わせ,1047億円を損失処理に活用する。
② 債務免除
 主力行であるF銀行をはじめとする15行の金融機関に対し,4500億円
の債務免除の支援を要請する。
③ 資産売却・債権回収計画
 含み損を抱える国内資産,海外資産はもとより,事業用不動産,保養施
設(閉鎖済み),ゴルフ会員権等可能な限りの資産処分を行い,約2100億
円の資金を捻出する。特に,海外資産,ゴルフ場関連の国内資産について
は原則として一掃する。
④ 有利子負債圧縮計画
12年間の収益と資産売却等により,グループ全体の有利子負債及び債務
保証を3700億円圧縮する。これに債務免除4500億円を加えると,合計
圧縮額は約8200億円(平成12年3月末比)となり,計画終了時点での残
高は2400億円台まで縮減する。
タ Zの第64期(事業年度平成12年4月1日から平成13年3月31日まで,甲4
1の12)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この
総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当連結会計年
度におけるわが国の経済は,情報技術関連等の成長分野を中心に設備投資
は増加基調を持続したが,公共投資は低調に推移し,個人消費も雇用・所得
環境の改善が進まないことから伸び悩み,また,年度の後半から米国経済の
減速による輸出の減少や株式市況の低迷が鮮明になるなど,景気の停滞色
が再び強まる状況となり,建設業界においても,民間工事は製造業の生産施
設等への投資は堅調だったが,住宅投資は減少に転じ,公共工事は政府に
よる公共事業の見直しや厳しい地方財政を反映して低迷するなど,経営環境
は引き続き厳しいものであったところ,このような状況のもとで,Zグループの
当連結会計年度における売上高は7934億円(前連結会計年度比0.7%
減)となり,利益については,完成工事総利益が低下したものの,前連結会計
年度では602億円あった一般管理費を459億円まで大幅に圧縮するなど固
定費削減施策を強力に推し進めたことから,営業利益は177億円(前連結会
計年度比2.6%増),経常利益は6億円(前連結会計年度比8.3%減)とほ
ぼ前連結会計年度の水準を保つ結果となり,また,当期純損益については,
「新経営革新計画」実行に伴う不良化資産の一括処理等による特別損失43
02億円を計上したが,債務免除益4300億円の計上等もあり,当期純損失
は26億円となった。なお,Zは,上記「新経営革新計画」(甲13)に基づき,平
成13年1月24日開催の臨時株主総会決議により,同年3月1日付けで資本
金820億8500万円を650億6700万円減少して170億1800万円とした
(乙8の6)。
チ Zの第65期(事業年度平成13年4月1日から平成14年3月31日まで。甲4
1の13)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この
総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当連結会計年
度におけるわが国の経済は,世界経済の同時的減速やデフレの進行等によ
り輸出や生産,企業収益が低迷し,これを受け設備投資も大幅に減少したほ
か,雇用,所得環境の一段の悪化から個人消費が引き続き停滞するなど,景
気は後退色を強めながら推移し,建設業界においても,公共工事は政府の緊
縮財政政策等から減少基調となり,民間工事も店舗や生産施設等の建設投
資及び住宅投資が抑制され,深刻なデフレ状況下において工事採算性も低
下するなど,依然として厳しい受注環境が続いていたところ,このような状況
のもとで,Zグループの当連結会計年度における売上高は7373億円(前連
結会計年度比7.1%減)となり,利益については,完成工事高の減少などに
より完成工事総利益が減少したものの,一般管理費の削減を強力に推し進め
たことから,営業利益は170億円(前連結会計年度比3.7%減)とほぼ前連
結会計年度と同水準を堅持し,経常利益は支払利息の減少等により大幅に
改善され,64億円(前連結会計年度比861.7%増)となり,また,当期純損
益については,「新経営革新計画」実行により不良資産の一括処理がなされ
た効果等から9期ぶりに黒字に転換し25億円の利益計上となった。
ツ Zの第66期(事業年度平成14年4月1日から平成15年3月31日まで。甲4
1の14)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この
総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当連結会計年
度におけるわが国の経済は,海外経済が緩やかながら回復基調を維持した
ため,輸出は底堅く推移し,設備投資も企業収益の改善を背景に持ち直しの
兆しを示したが,深刻なデフレ状況からは脱却できず,イラク戦争の影響もあ
り株価が一段と下落するなど,景気底入れを確認するには至らず,建設業界
においても,公共投資は国,地方の予算縮小を反映して低調に推移し,住宅
投資も消費者の住宅取得意欲の低下により手控えられ,企業のオフィスビル
等への建設投資も低水準にとどまったため,受注環境は引き続き厳しいもの
となっていたところ,このような状況のもとで,Zグループの当連結会計年度に
おける売上高は5223億円(前連結会計年度比29.2%減)となり,利益につ
いては,固定費を大幅に圧縮したが,完成工事高の減少による完成工事総利
益の減少等により営業利益は87億円(前連結会計年度比48.5%減),経常
損益は4億円の損失となり,また,当期純損益についても,財務内容の健全
化を図るため,保有資産を厳格に査定し,評価損等2800億円を特別損失と
して計上した結果,2959億円の損失となった。
テ 平成15年4月の「経営構造改革3ヶ年計画」の策定
 Zは,「新経営革新計画」(甲13)の遂行により,平成14年9月中間期まで
は,受注については計画を若干下回るものの,人員削減と給与水準の更なる
引き下げ,経費の圧縮等計画を前倒ししたリストラの実施により,利益水準を
ほぼ計画どおりに達成でき,有利子負債の圧縮についても資産売却を柱とし
た計画に概ね沿った形で削減してきたが,予測を上回る建設市場の縮小とZ
の株価低迷により受注量が減少傾向にあること,受注競争激化による利益率
の低迷と年金基金の運用悪化を主因とした退職給付費用の増加から利益水
準が低下していること,計画時の想定を超えた株式,不動産価格下落等の資
産デフレによりZの資産内容が劣化したこと等から,計画の達成が困難な状
況になり,Z及び関連グループ企業が安定的な経営基盤を確立するためには
更なる経営改革が必要であると判断し,平成15年4月4日,建設本業会社と
不動産事業会社との会社分割,徹底的な構造改革による建設本業の再生,
不動産事業の自立化を骨子とする「経営構造改革3ヶ年計画」(甲36)を新た
に策定した。
(2)検討
ア 取締役は,会社を代表して政治資金の寄附をなすにあたっては,その会社
の規模,経営実績その他社会的経済的地位および寄附の相手方など諸般の
事情を考慮して,合理的な範囲内において,その金額等を決すべきであり,こ
の範囲を越えて不相応な寄附をした場合には取締役の会社に対する善管注
意義務違反となるところ(最高裁昭和45年大法廷判決参照),上記(1)認定事
実によれば,本件政治資金の寄附がされた平成8年ないし平成12年当時,Z
の資本の額は820億8500万円であり(乙8の1ないし6),その売上高も,い
わゆるバブル経済崩壊後の厳しい経済環境にありながら,約8000億円ない
し1兆円にも達し,建設業界の中でもその企業規模や経営実績は上位に位置
するものであったといえるのに対し(乙6によれば,資本金平均第3位,売上
高平均第5位であった。),本件政治資金の寄附額は前記前提事実(四)のと
おり1年間当たり約1200万円ないし2800万円程度と政治資金規正法21条
の3第2項による制限額(Zの場合,8700万円)と比較してかなり低額にとど
まっており,かつ,上記経済環境のもとで,Zの資産,経営等につき種々の改
善の必要性があったとしても,同社による寄附額は年々減額されており,特に
平成8年時と平成12年時を比較すれば,半額以下にまで減額されているこ
と,Zは,建設業界の統一的な産業団体である日建連の法人会員であり(甲4
3),本件政治資金の寄附の中に日建連の要請を受けてなされたものがある
としても,上記要請に応ずることが相当でないとはいえないこと,本件政治資
金の寄附の相手方である国民政治協会(甲10の1ないし3)は,もとより適法
な組織団体であり,その寄附を受ける適格性に何ら問題はないこと等の事情
に照らすと,本件政治資金の寄附は合理的な範囲内にあるというべきであり,
不相応な寄附とまではいえないから,1審被告らに取締役の善管注意義務違
反があったということはできない。
イ 1審原告は,Zが平成7年3月期以降は実質的には欠損が生じている財務状
況にあり,Zの取締役においても,従前の経営状況がそのまま推移すれば更
に巨額の欠損が生ずるとの確定的認識を有していたから,1審被告らは,少
なくとも平成9年10月の「経営革新中期計画」(乙9)の策定以降に政治資金
の寄附を行うに際し,会社の経営状況と当該寄附の必要性ないし有用性を厳
格に対比して検討し,その可否・範囲・数額・時期等を慎重に判断すべき注意
義務があるのにこれを怠った旨主張する。
 しかし,上記(1)認定事実によれば,1審被告らを含むZの取締役は,従前の
経営状況を漫然と放置していたものではなく,平成5年7月策定の「株式会社
Z体質改善3ヶ年計画」(乙23)や,平成8年5月策定の「第2次体質改善3ヶ
年計画」(乙24)により経営,財務体質の改善を進めていたものであって,平
成9年10月策定の「経営革新中期計画」(乙9)もその延長線上に位置づけら
れるものであり,同時期にZの資産,経営状況が急激に悪化したものとはいえ
ず,また,特別損失の計上や欠損の発生も,むしろZが過去の損失を一括処
理し得るだけの体力があったことの証左と考えられるから(これに反する甲1
4,甲68の1は,上記(1)認定の事実経過に照らし,採用の限りではない。な
お,Zが平成10年6月以降無配であることは認められるが(乙29),同計画に
おいて予定されたものであり,これをもって更に巨額の欠損が生ずるとの確定
的認識を有していたとはいえない。),1審原告の上記主張は採用できない。
ウ 1審原告は,会社の取締役が,政権政党等への政治献金を行うに際し,①
法令又は定款に違反しないか,②仮に法令,定款に違反しなくとも,企業,業
界の要求を実現するため,あるいは企業,業界の要求が実現したことへの対
価,あるいは今後とも企業,業界の要求に対し特別の配慮を求める等の献金
ではないか,③業界ぐるみの政権政党への寄附は,政治資金規正法21条の
3の立法趣旨に実質上違反していないかの3点につき慎重に検討し,このうち
1つでも該当すれば政権政党への政治献金を中止すべき注意義務があるの
に,1審被告らはこれを怠った旨主張する。
 しかし,会社による政権政党等への政治献金が法令,定款に違反しないこと
は既に説示したところから明らかであり,本件政治資金の寄附が1審原告主
張のような違法な趣旨ないし目的に基づくものであったことを認めるに足りる
証拠はなく,さらに,上記(1)認定事実に照らせば,本件政治資金の寄附は,
政治資金規正法21条の3第2項に違反するものではなく,また,Zが同条1項
2号の「会社のする寄附」として行ったものであって,それが日建連の他の加
盟企業と同時期になされたとしても,その一事をもって政治資金規正法21条
の3の立法趣旨に違反するものともいえないから,1審原告の上記主張は採
用できない。そして,上記説示に照らせば,本件政治資金の寄附につき1審
原告が種々主張する具体的な調査が行われなかったとしても,取締役の善管
注意義務に違反するものでもないというべきである。
エ 1審原告は,仮に政治献金の支出について経営判断の原則が適用されると
しても,会社の取締役としては,①経営判断に具体的法令違反及び公序良俗
違反がないこと,②経営判断が「会社のため」に行われたこと,③経営判断の
前提となる事実の認識に不注意な誤りがないこと,④経営判断の内容及び経
営判断に至る過程に著しい不合理がないこと,の4点について慎重に審査す
べき注意義務があるのに,1審被告らはこれを怠った旨主張する。
 しかし,会社による政治資金の寄附が公序良俗に違反するものでないこと
は上記1で説示したとおりであり,他に本件政治資金の寄附を行うに当たって
の判断に具体的法令違反があったことを認めるに足りる証拠はなく,同様に,
Zの名義で行われた本件政治資金の寄附につき,Zのためではなく,取締役
その他特定の者のためにこれが行われたことを認めるに足りる証拠もない。
そして,証拠(乙23,29,1審被告B)によれば,Zが本件政治資金の寄附を
行うに至ったのは,主として,日建連を通じての寄附要請を受けて,従前日建
連の加盟グループごとに同要請に応じていたにもかかわらず,これに応じな
いとすれば,Zが寄附要請を断ったという情報が日建連加盟会社全社に広く
知れ渡り,激しい受注競争の中でZの信用不安情報として同社に不利に働く
おそれや,資材メーカーからの資材購入条件が厳しくなるおそれが大きく,ひ
いては市場の信用を失い,株価も大きく下落するおそれもあったことから,1
年間当たり1200万円ないし2800万円程度の寄附をしないことのデメリット
の方が大きいと判断したためであることが認められるのであり(乙6,証人Gの
供述中,本件政治資金の寄附が自由主義経済体制の維持ないし発展に資す
るためであるとする部分があるが,その供述内容等を全体的に観察すれば,
同寄附が違法不当なものではないことを訴えるべく,その大義名分のみを強
調する趣旨に出たものと考えられるから,上記認定を左右するものではな
い。),その前提事実の認識における不注意な誤りやその判断に至る過程に
著しい不合理があるとはいえないから,1審原告の上記主張は採用できな
い。なお,本件政治資金の寄附につき1審原告が種々主張する具体的な調査
が行われなかったとしても,取締役の善管注意義務に違反するものでもない
ことは上記ウと同様である。
オ したがって,本件政治資金の寄附は取締役の善管注意義務に違反するもの
ではない。
6 争点(6)(1審被告Cに対する差止請求の当否)について
 1審原告は,1審被告Cに対し,Zの代表取締役として,政党等への政治資金の
寄附の差止めを求めるが,政治資金の寄附が公序良俗に違反するものではない
こと,Zの目的の範囲外の行為ではないこと,これまでに行われた本件政治資金の
寄附が公職選挙法199条1項,政治資金規正法22条の4第1項,取締役の善管
注意義務にいずれも違反するものではないことは既に説示したとおりであり,1審
原告において他に上記差止請求権の発生を基礎付ける具体的事実を何ら主張立
証しない本件においては,1審原告の1審被告Cに対する差止請求は理由がない。
7 結論
 以上によれば,1審原告の1審被告A及び1審被告Bに対する商法266条1項5
号に基づく損害賠償請求並びに1審被告Cに対する同法272条に基づく差止請求
はいずれも理由がないから,これを棄却すべきである。
 よって,1審被告Bの控訴に基づき,原判決中,同1審被告敗訴部分を取り消し,
同取消しに係る1審原告の請求を棄却し,1審原告の控訴を棄却することとして,
主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所金沢支部第1部
裁判長裁判官 長門栄吉
   裁判官  渡邉和義
   裁判官  田中秀幸

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