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平成18年(行ケ)第10138号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年1月23日
判決
原告スリーエムカンパニー
訴訟代理人弁護士片山英二
同長沢幸男
訴訟代理人弁理士小林純子
同藤田尚
同復代理人弁理士成岡郁子
被告特許庁長官
中嶋誠
指定代理人井口猶二
同末政清滋
同小池正彦
同内山進
主文
1特許庁が不服2003−10395号事件について平成17年11月
14日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文第1項と同旨。
第2事案の概要
本件は,原告が後記発明につき特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたの
で,これを不服として審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたこ
とから,原告がその取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告(出願時の商号:ミネソタ・マイニング・アンド・マニュファクチュ
アリング・カンパニー)は,発明の名称を「明るさを強化した反射偏光子」
とする発明につき,平成6年(1994年)12月20日(パリ条約による
優先権主張1993年(平成5年)12月21日,米国)を国際出願日とす
る特許出願(特願平7−517609号。以下「本願」という。)をした
が,平成15年3月3日付けで拒絶査定を受けたので,平成15年6月6日
これに対する不服の審判請求をするとともに,平成15年7月7日付けで手
続補正(甲6)をした。
特許庁は,同請求を不服2003−10395号事件として審理し,平成
17年11月14日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決を
し,その謄本は平成17年12月5日原告に送達された。
(2)発明の内容
平成15年7月7日付け手続補正(甲6)により補正された特許請求の範
囲は,請求項1ないし5から成り,その請求項3に記載された発明(以下「
本願発明」という。)は,下記のとおりである。

「表示装置であって,
光源,
前記光源と隣接する端を有し,前記光源からの光が,導光器の端に入り,前
記導光器の出口表面を通って前記導光器を出る導光器,
表示モジュール,
及び,
導光器と表示モジュールとの間に配置され,法線及び法線から大きく傾いた
角度で入射する第一の偏光状態の光を高度に透過し,前記第一の偏光状態を
有さない法線及び法線から大きく傾いた角度で入射する光を高度に反射する
広角の反射偏光子,
を含む,表示装置。」
(3)審決の内容
ア審決の詳細は,別添審決写しのとおりである。
その要点は,本願発明は,下記引用発明及び引用例2発明に基づいて,
当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特
許を受けることができない,というものであった。

①特開平2−308106号公報(甲1。以下「引用例1」といい,同記
載の発明を「引用発明」という。)
②特開昭51−141593号公報(甲2。以下「引用例2」といい,同
記載の発明を「引用例2発明」という。)
イなお,審決は,引用発明を下記のように認定した上,本願発明との一致
点と相違点を次のように認定した。
<引用発明>
「液晶表示素子であって,
光源,
表示モジュール,
及び,
一方の偏光を透過し,他の一方の偏光を反射する反射型直線偏光素子を含
む,液晶表示素子。」
<一致点>
「表示装置であって,
光源,
表示モジュール,
及び,
第一の偏光状態の光を透過し,前記第一の偏光状態を有さない光を反射す
る反射偏光子,
を含む,表示装置。」である点。
<相違点1>
本願発明が,光源と隣接する端を有し,前記光源からの光が,導光器の
端に入り,前記導光器の出口表面を通って前記導光器を出る導光器を含む
のに対して,引用発明にはこのような構成がない点。
<相違点2>
反射偏光子に関して,本願発明が,導光器と表示モジュールとの間に配
置され,法線及び法線から大きく傾いた角度で入射する第一の偏光状態の
光を高度に透過し,前記第一の偏光状態を有さない法線及び法線から大き
く傾いた角度で入射する光を高度に反射する広角の反射偏光子であるのに
対して,引用発明は,第一の偏光状態の光を透過し,前記第一の偏光状態
を有さない光を反射する反射偏光子である点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決の認定判断には,以下に述べるとおり誤りがあるか
ら,違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(引用発明の認定の誤り)
(ア)審決は,引用例1には前記のとおりの引用発明が開示されている(審
決3頁第4段落)と認定したが,誤りである。
(イ)引用例1(甲1)においては,「……直線偏光光源は,ランダムな偏
光のうち半分の偏光しか利用できず残りの半分は捨ててしまっており効
率が悪い。本発明は従来の直線偏光光源の効率の飛躍的な向上を目的と
する」(1頁右下欄最終段落∼2頁左上欄第1段落)として,反射型直
線偏光素子とミラーとの間に位相差板を配置したことを特徴とする構成
を有する発明が記載されている。ここで,位相差板は,引用発明が作用
効果を奏するために必須の構成要素である。また,ミラーも,位相差板
と協働して引用発明の機能を発揮する関係から,引用発明の必須の構成
要素である。すなわち,位相差板3及びミラー2の組合せを,反射型直
線偏光素子4に対してこの順番で設けることにより,反射型直線偏光素
子4を通過できない「他の一方の偏光」を,該偏光素子を通過できる「
一方の偏光」と同じ成分の偏光に変化させることを可能にしているので
あるから,引用例1においては,位相差板及びミラーが不可欠であり,
これらの構成要素(位相差板・ミラー)なしには発明の目的は達成され
ず,上記構成要素を除いて発明を認定できないことは明白である。
審決は,引用発明においては,必須の構成要素として表示モジュー
ル,反射型直線偏光子及び光源だけではなく,位相差板とミラーが存在
すること,及び,それらが特定の配置を有していることを看過したもの
である。
イ取消事由2(相違点1の認定の誤り)
(ア)審決は,本願発明と引用発明の相違点1として,「本願発明が,光源
と隣接する端を有し,前記光源からの光が,導光器の端に入り,前記導
光器の出口表面を通って前記導光器を出る導光器を含むのに対して,引
用発明にはこのような構成がない点。」を認定したが,そもそも引用発
明の技術内容の認定を誤っていることから,誤りである。
(イ)本願発明は,光源と一体不可分の導光器(光源と隣接する端を有し,
前記光源からの光が,導光器の端に入り,前記導光器の出口表面を通っ
て前記導光器を出る導光器)が反射偏光子と組み合わさって,効率的に
より多くの光を「第一の偏光状態を有する光」に変えるという作用効果
を奏する発明であって,単にランダム化手段によるだけで,その目的の
達成のために役立てられる構成要素を追加して用いなければならない複
雑な構造を必要とせずに,「第一の偏光状態を有さない光」を「第一の
偏光状態を有する光」に効率的に変換することを可能にしたものであ
る。
これに対して,引用発明は,光源,位相差板及びそれと一体不可分の
ミラーという必須の構成要素が,反射偏光子と組み合わさって,他の一
方の偏光を一方の偏光に高効率で変換するという作用効果を奏するもの
である。
したがって,本願発明と引用発明との相違点1は,正しくは,「本願
発明は,光源と一体不可分の導光器を有しているのに対して,引用発明
は,光源,位相差板およびそれと一体不可分のミラーを必須の構成とし
て有している点」とすべきである。
ウ取消事由3(進歩性についての判断の誤り)
(ア)審決は,相違点1について,「引用発明に引用例2に記載された発明
の導光器を適用して相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に
想到し得た事項である」(審決5頁第2段落)と判断(以下「判断①と
いう」という。)し,相違点2について,「本願発明による作用効果
も,引用発明及び引用例2に記載された発明から当業者が予測できる範
囲内のものである」(同頁第6段落)と判断(以下「判断②」とい
う。)したが,いずれも誤りである。
(イ)判断①の誤り
引用発明は,表示モジュール,直線偏光子,位相差板,光源及びミラ
ーという構成を採ることにより,ランダムな偏光の光源の効率を高める
目的を達成しており,本来,別の発明を組み合わせる動機がない。ま
た,引用発明の目的を達成するためになぜ引用発明2の導光器を組み合
わせる必要があるのか,あるいは引用発明2の導光器をどのように適用
したら上記引用発明の目的を達することができるのか,引用例1(甲
1),引用例2(甲2)には,教示も示唆もなく,当業者は引用発明に
引用例2発明の導光器を適用することは容易に想到し得ない。
また,本願発明は,引用発明のように位相差板およびミラーを使用し
なくても,導光器およびその光ランダム化効果を使用することにより光
の再利用ができることを初めて見いだしたものである。それまで,位相
差板及びミラーを使用しなくても光の効率的な利用ができることを誰も
予測できなかったのである。ちなみに,本願発明においては,広角の反
射偏光子を用いている。広角反射偏光子であることから,有効な光のリ
サイクルが可能となる。例えば,もし,ブリュースター角の入射光にし
か機能しないものや,吸収偏光子を使用したら,本願発明が実現してい
るような高効率の光のリサイクルは実現できない。これらは限定された
入射角度の入射光にしか機能せず,又は光を吸収してしまうからであ
り,光のリサイクルの効果が小さいかあるいは全くないからである。本
願発明は,広角の反射偏光子を用いることにより,導光器と反射偏光子
との組合せによって,位相差板を用いなくとも,有効に機能する。
(ウ)判断②の誤り
本願発明においては,「第一の偏光状態を有さない法線及び法線から
大きく傾いた角度で入射する光」は,広角の反射偏光子で反射されたの
ち,導光器に入射しそして出射するが,その際導光器の光拡散作用によ
りその偏光状態がランダム化され,一部は第一の偏光状態を有する光に
変えられる。この一部の第一の偏光状態を有する光は法線及び法線から
大きく傾いた角度で広角の反射偏光子に入射し,透過する。本願発明に
おいては,これを1つのサイクルとして,そのサイクルが何度も繰り返
されることによって,効率的により多くの光が広角の反射偏光子を透過
することのできる第一の偏光状態を有する光となって,法線及び法線か
ら大きく傾いた角度で広角の反射偏光子に入射するのである。すなわ
ち,本願発明は,光源と一体不可分の導光器(光源と隣接する端を有
し,前記光源からの光が,導光器の端に入り,前記導光器の出口表面を
通って前記導光器を出る導光器)が反射偏光子と組み合わさって,効率
的により多くの光を「第一の偏光状態を有する光」に変えるという作用
効果を奏する。
これに対し,引用発明では,反射型直線偏光素子4で反射された「他
の一方の偏光」に,位相差板3の通過,ミラー2での反射,および再び
位相差板3の通過を1回だけ経験させることによって,偏光状態を「一
方の偏光」に変化させることができる。引用発明では,その1回のサイ
クルによって「他の一方の偏光」を有する光も反射型直線偏光素子4を
通過できるようになる。ここで,「他の一方の偏光」を「一方の偏光」
に変化させるという機能を担うのは位相差板及びミラーであるから,引
用発明においては,光源,位相差板及びそれと一体不可分のミラーとい
う必須の構成要素が,反射偏光子と組み合わさって,他の一方の偏光を
一方の偏光に1回のサイクルで高効率で変換するという作用効果を奏す
るのである。引用例2発明においては,そもそも反射偏光子は使用され
ておらず,引用例2(甲2)には,本願発明のような光の偏光状態のラ
ンダム化及び反射のサイクルの反復による光の効率的利用という概念は
全く記載されていない。
したがって,本願発明の作用効果を,引用例1(甲1)及び引用例
2(甲2)から当業者が予測できるはずがない。
エ取消事由4(理由不備)
(ア)審決は,「ここで,引用例2の光源は表示部分の側方に配置し,引用
例2の透明な基板のうち,照明に用いられるのは透明基板の表示部分の
みであるから,透明基板のどの部位を導光器とするかは,単なる表現上
の差異にすぎない」(審決5頁第1段落)と説示したが,その具体的内
容は理解することができない。
また,審決は,「引用発明においても光源と表示モジュールとの間に
反射偏光子を配置したものであるから,反射偏光子を照明手段の一部で
ある導光器と表示モジュールとの間に配置することは,格別のことでは
ない」(同頁第3段落)と説示したが,なぜ「引用発明においても光源
と表示モジュールとの間に反射偏光子を配置したものである」と「反射
偏光子を照明手段の一部である導光器と表示モジュールとの間に配置す
ることは,格別のことではない」といえるのか,その理由が記載されお
らず,「反射偏光子を照明手段の一部である導光器と表示モジュールと
の間に配置すること」という構成が,何に基づいて想到されたと判断し
ているかも記載されていない。したがって,本願発明が何に比較して格
別でないのか不明である。
さらに,審決は,「引用例1の前記記載事項……により,引用例1に
は,法線及び法線から大きく傾いた角度で入射する第一の偏光状態の光
を透過する反射偏光子が開示されている。また,引用発明の反射偏光子
は第一の偏光状態を有さない光を反射するので,引用例1には,第一の
偏光状態を有さない法線及び法線から大きく傾いた角度で入射する光を
反射する反射偏光子が示唆されている。さらに,高度に透過すること,
高度に反射すること,及び広角の反射偏光子は,いずれも作用効果を示
したものにすぎず,反射偏光子の構成としては格別のものではない。し
たがって,引用発明の反射偏光子を相違点2に係る構成とすることは,
当業者が容易に想到し得た事項である」(同頁第4段落∼第5段落)と
説示したが,「引用例1には,法線及び法線から大きく傾いた角度で入
射する第一の偏光状態の光を透過する反射偏光子が開示されている。ま
た,引用発明の反射偏光子は「第一の偏光状態を有さない光」を反射す
る」のであると,「第一の偏光状態を有さない法線及び法線から大きく
傾いた角度で入射する光を反射する反射偏光子が示唆されている」とす
る審決の理由が記載されていない。
(イ)以上のように,審決の説示には,理解できない,ないしは意味不明の
ところがあり,理由不備の違法がある。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1)取消事由1に対し
ア引用例1(甲1)の特許請求の範囲(1)には,「光源と,光源の背後に
設けられたミラーと,光源の前方に設けられた直線偏光素子を有する偏光
光源に於いて,該直線偏光素子は一方の偏光を透過し他の一方の偏光を反
射する反射型直線偏光素子であり,該反射型直線偏光素子とミラーとの間
に位相差板を配置した事を特徴とする直線偏光光源」と記載され,また,
その[産業上の利用分野]には,「直線偏光光源は例えば液晶表示素子に
用いられている」(1頁右下欄第2段落)と記載されていて,しかも,液
晶表示素子が表示モジュールを含むことは当業者にとって自明のことであ
る。そして,引用例1の記載から,液晶表示素子,光源,表示モジュー
ル,反射型直線偏光素子等を容易に認識でき,他の事項との結び付きを離
れて採用できない特段の事情があるわけでもないので,引用例1から「液
晶表示素子であって,光源,表示モジュール,及び,一方の偏光を透過
し,他の一方の偏光を反射する反射型直線偏光素子を含む,液晶表示素
子」(引用発明)が把握されることは明らかであり,本願発明にない記載
事項を引用発明において認定する必要のないことも明らかである。
イなお,引用例1において,光源からの光が偏光状態がランダムな自然光
であることは明らかであり,偏光状態がランダムな自然光が位相差板を透
過して反射型直線偏光素子に達する光も偏光状態がランダムであることは
明らかである。してみると,光源から反射型直線偏光素子に達する光は,
位相差板の有無に関わらず偏光状態がランダムな自然光であるから,位相
差板の有無は,反射偏光子を透過,反射する光の偏光状態を問題とする本
願発明との対比においては,引用発明の認定に影響を及ぼさない。
また,ミラーについても,光源からの偏光状態がランダムな自然光が反
射板によって反射された光も偏光状態がランダムな自然光であることは明
らかである。してみると,光源から直接位相差板を透過して反射型直線偏
光素子に達する光も,光源から反射板によって反射された後に位相差板を
透過して反射型直線偏光素子に達する光も,いずれも偏光状態がランダム
な自然光であるから,ミラーの有無は,反射偏光子を透過,反射する光の
偏光状態を問題とする本願発明との対比においては,考慮する必要のない
ものである。
ウしたがって,審決の引用発明の認定に誤りはなく,原告の主張は,失当
である。
(2)取消事由2に対し
ア原告は,本願発明は,光源と一体不可分の導光器を有していると主張す
るが,本願発明の請求の範囲には,「光源と一体不可分の導光器を有して
いる」との記載はないので,上記主張は,特許請求の範囲に記載された本
願発明の構成に直接関係ないもので,失当である。
イまた原告は,導光器の光拡散作用によりその偏光状態がランダム化さ
れ,一部は「第一の偏光状態を有する光」に変えられると主張するが,導
光器にはそのような機能は認められない。本願発明の導光器は,「光源と
隣接する端を有し,前記光源からの光が,導光器の端に入り,前記導光器
の出口表面を通って前記導光器を出る導光器」というものであって,導光
器内で散乱させ偏光状態をランダム化し,一部を「第一の偏光状態を有す
る光」に変える機能は,本願発明の特許請求の範囲の記載からは読み取れ
ない。本願発明においては,偏光状態をランダム化する機能は拡散反射面
によるものであって,導光器によるものではなく,特許請求の範囲には反
射された偏光光をどのように利用するか,さらにはリサイクルについては
何ら限定されておらず,上記主張は,本願発明の構成に基づかないもので
ある。
(3)取消事由3に対し
ア判断①の誤りに対し
引用例2(甲2)に記載されているように,光源と隣接する端を有し,
前記光源からの光が,導光器の端に入り,前記導光器の出口表面を通って
前記導光器を出る導光器は,公知の技術事項である。そして,より良い光
源を得ようとすることは,技術者にとって当然の姿勢であるので,引用発
明に接した当業者であれば,上記公知の技術事項である「光源と隣接する
端を有し,前記光源からの光が,導光器の端に入り,前記導光器の出口表
面を通って前記導光器を出る導光器を用いること」を検討し,相違点1に
係る構成を得ることに,何ら困難性は認められない。
本願発明の導光器は,「光源と隣接する端を有し,前記光源からの光
が,導光器の端に入り,前記導光器の出口表面を通って前記導光器を出る
導光器」というものであって,光源からの光を導光器によって導光する機
能は読み取れるものの,導光器内で散乱させ偏光状態をランダム化するこ
とによって,その一部を第一の偏光状態の光に変換する機能は,本願発明
に記載された事項からは読み取れない。ちなみに,本願に係る公表特許公
報(特表平9−506985号。以下「本件公報」という。甲5)に
は,「偏光状態(b)を有して反射偏光子12で反射された光は,光共振
器24に再び入って,そこでスポット36等の拡散反射構造物又は拡散反
射層39に当たる。拡散反射面は,光共振器24によって反射された光の
偏光状態をランダム化するように働く」(7頁第1段落)と記載されてい
て,偏光状態をランダム化する機能は拡散反射面によるものであって,本
願発明における導光器によるものではない。原告は,広角反射偏光子であ
ることから,有効な光のリサイクルが可能となるとも主張するが,本願発
明の「広角の反射偏光子」は,「法線及び法線から大きく傾いた角度で入
射する第一の偏光状態の光を高度に透過し,前記第一の偏光状態を有さな
い法線及び法線から大きく傾いた角度で入射する光を高度に反射する」と
いうもので,反射偏光子の(1回の)透過,反射機能を限定するのみであ
り,反射された偏光光をどのように利用するか,さらにはリサイクルにつ
いては何ら限定されておらず,本願発明の構成に基づかない主張である。
イ判断②の誤りに対し
本願発明における導光器は,「前記光源と隣接する端を有し,前記光源
からの光が,導光器の端に入り,前記導光器の出口表面を通って前記導光
器を出る導光器」というものであって,光源からの光を導光器によって導
光する機能は読み取れるものの,導光器内で散乱させ偏光状態をランダム
化する機能や「第一の偏光状態を有する光」に変えるという作用効果は,
本願発明の構成によるものではない。本願発明の構成から読み取れる作用
効果は,光源からの光が導光器の端に入り,前記導光器の出口表面を通っ
て前記導光器を出ること,及び,法線及び法線から大きく傾いた角度で入
射する第一の偏光状態の光を高度に透過し,前記第一の偏光状態を有さな
い法線及び法線から大きく傾いた角度で入射する光を高度に反射するとい
うにとどまる。
これに対して,引用例2(甲2)に記載された透明基板の機能を,引用
発明に適用することにより得られる発明は,光源からの光が導光器の端に
入り,前記導光器の出口表面を通って前記導光器を出る作用効果を有して
いると認められる。また,引用発明の反射直線偏光子は,引用例1(甲
1)の第2図に図示されるように,様々な角度で入射する特定の偏光が反
射型直線偏光子4を透過することの記載と,引用例1(甲1)の「第3図
は反射型直線偏光素子4である。数千オングストロームのピッチでアル
ミ,クロム等の導電性の金属線状パタン41とすると,線方向の直線偏光
は反射し,それと垂直方向の直線偏光は透過する反射型直線偏光素子が得
られる」(2頁右上欄第3段落)の記載により,引用発明の反射偏光子
は,法線及び法線から大きく傾いた角度で入射する第一の偏光状態の光を
高度に透過し,前記第一の偏光状態を有さない法線及び法線から大きく傾
いた角度で入射する光を高度に反射する作用効果を有していると理解する
ことができる。
してみると,原告の主張は本願発明の構成に基づくものではなく,本願
発明の作用効果は,引用発明及び引用例2発明から当業者が予測できる範
囲内のものであるとした審決の判断に,誤りはない。
(4)取消事由4に対し
ア引用例2(甲2)の「光源2から放射された光は,透明基板1の内部を
伝わる過程で,透明基板1の表示部分の表面に形成された微細な凹凸3に
よって散乱され,散乱光は透明基板1の外部にも放射されるため,透明基
板1全体が明かるく見える」(1頁右下欄下第2段落)との記載により,
引用例2の透明基板2全体が導光器として機能することは明らかである。
ここで,引用例2の光源は表示部分の側方に配置し,引用例2の透明基板
2のうち,照明に用いられるのは透明基板2の表示部分のみであるから,
透明基板2の表示部分のみを本願発明に対応する導光器ということもでき
る。要するに,透明基板1全体を導光器というか,透明基板1の表示部分
のみを導光器というかは,単なる表現上の差異にすぎないというものであ
る。
したがって,原告の指摘する審決5頁第1段落の記載は,当業者であれ
ば何ら困難なく理解できるものである。
イ液晶表示素子が表示モジュールを含むことは,当業者にとって自明のこ
とである。また,直線偏光光源を液晶表示素子に用いる場合,光源と表示
モジュールとの間に偏光分離手段を配置することも,当業者にとって自明
のことである。そうすると,引用発明においても光源と表示モジュールと
の間に偏光分離手段である反射偏光子を配置したものであるから,反射偏
光子を照明手段の一部である導光器と表示モジュールとの間に配置するこ
とは,格別のことではないことは,当業者にとって明らかである。
したがって,原告の指摘する審決5頁第3段落の記載は,当業者であれ
ば何ら困難なく理解できるものである。
ウ引用例1(甲1)の第2図に図示されるように,様々な角度で入射する
特定の偏光が反射型直線偏光子4を透過することの記載,及び,引用例1
の「第3図は反射型直線偏光素子4である。数千オングストロームのピッ
チでアルミ,クロム等の導電性の金属線状パタン41とすると,線方向の
直線偏光は反射し,それと垂直方向の直線偏光は透過する反射型直線偏光
素子が得られる」(2頁右上欄第3段落)との記載により,引用例1の反
射型直線偏光素子4の偏光能,すなわち透過及び反射のメカニズムが入射
光の入射角度に依存しないことは,当業者にとって明らかである。すなわ
ち,引用例1の反射型直線偏光素子4の偏光能は入射光が法線であっても
法線から大きく傾いた角度であっても,変わらないということである。
そうすると,引用例1には,「法線及び法線から大きく傾いた角度で入
射する第一の偏光状態の光を透過し,前記第一の偏光状態を有さない法線
及び法線から大きく傾いた角度で入射する光を反射する反射偏光子」とい
う直接的記載はないものの,引用発明の反射偏光子は,「法線及び法線か
ら大きく傾いた角度で入射する第一の偏光状態の光を透過し,前記第一の
偏光状態を有さない法線及び法線から大きく傾いた角度で入射する光を反
射する」機能を有することは明らかである。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,審決の適否につき,原告主張の取消事由ごとに判断する。
2取消事由1(引用発明の認定の誤り)について
(1)審決は,引用例1には,「液晶表示素子であって,光源,表示モジュー
ル,及び,一方の偏光を透過し,他の一方の偏光を反射する反射型直線偏光
素子を含む,液晶表示素子。」(引用発明)が開示されている(審決3頁第
4段落)と認定したものであるところ,原告は,引用例1においては,位相
差板及びミラーが不可欠であり,これらの構成要素なしには発明の目的は達
成されず,上記構成要素を除いて引用発明を認定した審決は,引用発明にお
いて,位相差板及びミラーが存在すること,及び,それらが特定の配置を有
していることを看過した誤りがある旨主張する。
(2)そこで引用例1(甲1)を見ると,次の記載がある。
ア「特許請求の範囲(1)光源と,光源の背後に設けられたミラーと,光源の
前方に設けられた直線偏光素子を有する偏光光源に於いて,該直線偏光素
子は一方の偏光を透過し他の一方の偏光を反射する反射型直線偏光素子で
あり,該反射型直線偏光素子とミラーとの間に位相差板を配置した事を特
徴とする直線偏光光源。
(2)位相差板は可視光に対しほぼ4分の1波長の位相差を生ずる位相差板
であり,その光学軸は反射型直線偏光子の偏光軸に対しほぼ45度の角度
に設置された事を特徴とする請求項1記載の直線偏光光源。
(3)ミラーが楕円面の少なくとも1部の曲面を用いた楕円ミラーであり,
光源は楕円ミラーの該楕円の1つの焦点付近に配置され,反射型直線偏光
素子は該楕円ミラーの楕円の2つの焦点の間に配置されている事を特徴と
する請求項1記載の直線偏光光源。」(1頁左下欄∼右下欄)
イ「〔産業上の利用分野〕直線偏光光源は例えば液晶表示素子に用いられて
いる。液晶表示素子は低消費電力のフラットパネルディスプレイやプロジ
ェクション用のライトバルブとして広く応用されている。本発明は偏光と
してはランダムな光源から1種類の直線偏光を非常に高効率に出射する直
線偏光光源に関する。」(1頁右欄第2段落)
ウ「〔従来の技術〕第4図に従来の直線偏光光源を示す。1は偏光としては
ランダムな光源,2は光源1の背後に設けられたミラー,22は光源1の
前方に設けられた直線偏光素子である。直線偏光素子22は一方の偏光2
0のみ透過し他の一方の偏光21は吸収する。」(1頁右欄第3段落)
エ「〔発明が解決しようとする課題〕この様な直線偏光光源はランダムな偏
光のうち半分の偏光しか利用できず残りの半分は捨ててしまっており効率
が悪い。本発明は従来の直線偏光光源の効率の飛躍的な向上を目的とす
る。」(1頁右欄最終段落∼2頁左上欄第2段落)
オ「〔課題を解決するための手段〕本発明は,直線偏光素子としては一方の
偏光を透過し他の一方の偏光を反射する反射型直線偏光素子を用い,該反
射型直線偏光素子とミラーとの間に位相差板を配置する事により,ランダ
ムな偏光を持つ光源の光を非常に高効率に1種類の偏光に変換するもので
ある。」(2頁左上欄第3段落)
カ「〔実施例〕以下,実施例に基づき本発明を説明する。第1図は本発明の
1実施例を示す説明図である。4は光源の前方に設けられた反射型直線偏
光素子である。本発明の特徴は該反射型直線偏光素子4とミラー2の間に
位相差板3を配置している事にある。本発明の動作を説明する。一方の偏
光10は反射型直線偏光素子4を通過する。他の一方の偏光11は反射型
直線偏光素子4によって12の如く反射され位相差板3を通過し楕円偏光
13となる。楕円偏光13はミラー2で反射し逆回りの楕円偏光14とな
り再び位相差板3を通過し,偏光10と同じ成分を有する偏光15となり
非常に高効率に反射型直線偏光素子4を通過する。位相差板3は可視光に
対しほぼ4分の1波長の位相差を生ずる位相差板であり,その光学軸は反
射型直線偏光素子4の偏光軸に対しほぼ45度の角度に設置された時に該
直線偏光光源の効率が最大となり,ランダムな偏光光源の光をほぼ100
%の効率で1種類の偏光に変換できる。第3図は反射型直線偏光素子4で
ある。数千オングストロームのピッチでアルミ,クロム等の導電性の金属
線状パタン41とすると,線方向の直線偏光は反射し,それと垂直方向の
直線偏光は透過する反射型の直線偏光素子が得られる。第2図は本発明の
他の実施例を示す説明図である。本実施例の特徴はミラー2が楕円面の少
なくとも1部の曲面を用いた楕円ミラーであり,光源1は該楕円の1つの
焦点32付近に配置され,反射型直線偏光素子4は該楕円の2つの焦点3
2,33の間に配置されている事にある。本実施例では光源1の光はほぼ
すべて1種類の直線偏光として反射型直線偏光素子4を通過し更に焦点3
3を通過する。よって焦点33を疑似点光源とみなした高効率直線偏光光
源とみる事ができる。レンズ31を焦点が楕円焦点33となるように配置
すれば,非常に高効率の平行直線偏光光源が得られる。」(2頁左上欄第
4段落∼左下欄第1段落)
キ「〔発明の効果〕以上の実施例で明らかな如く,本発明の効果は従来捨て
ていた他の一方の偏光も利用することを可能とし,従来にない高効率の直
線偏光光源を提供する。」(2頁左下欄第2段落)
(3)引用例1(甲1)の上記記載によれば,そこに記載された発明は,①「液
晶表示素子に用いられる直線偏光光源であって,偏光としてはランダムな光
源から1種類の直線偏光を非常に高効率に出射する直線偏光光源」に関する
ものであること(上記(2)イ),②従来の直線偏光光源がランダムな偏光の
うち半分の偏光しか利用できず残りの半分を捨ててしまっており効果が悪い
という問題点を解決して,従来の直線偏光光源の効率の飛躍的な向上を目的
とすること(上記(2)エ),③当該目的を達成するために,「反射型直線偏
光素子を用い,反射型直線偏光素子とミラーとの間に位相差板を配置するこ
とにより,ランダムな偏光を持つ光源の光を非常に高効率に1種類の偏光に
変換する」ものであること(上記(2)オ)が記載されている。
すなわち,引用例1(甲1)に記載された発明は,反射型直線偏光素子4
とミラー2の間に位相差板3を配置している構成により,反射型偏光子を通
過しなかった他の一方の偏光が反射型偏光子により反射され,位相差板を通
過し楕円偏光となり,楕円偏光がミラーで反射して逆回りの楕円偏光となり
再び位相差板を通過し,反射型偏光子を通過可能な一方の偏光と同じ成分を
有する偏光となること(上記(2)カ),それにより,従来捨てていた他の一
方の偏光も利用することを可能として,従来にない高効率の直線偏光光源が
提供可能となること(上記(2)キ)により,上記②の目的を達成するもので
ある。そして,この直線偏光光源は,液晶表示素子に用いられるものであっ
て,その場合には,第1図(2頁右下欄)の矢印15の方向(図の左側)
に,液晶モジュールが配置されることは明らかである。
また,引用例1(甲1)には,光源と光源の背後に設けられたミラーと,
一方の偏光のみを通過し,他の一方の偏光を吸収する直線偏光子を備えた直
線偏光光源が,従来技術として記載されている(上記(2)ウ)が,この従来
技術には,「光源,ミラー,光源と表示モジュールの間に配置された,一方
の偏光のみを通過し,他の一方の偏光を吸収する直線偏光子を備えた直線偏
光光源」については記載されているものの,反射型直線偏光子を用いるもの
は記載されていない。
以上のことからすれば,引用例1(甲1)には,「液晶表示素子であっ
て,位相差板,光源,ミラー,表示モジュール,及び位相差板と表示モジュ
ールとの間に配置され,一方の偏光を通過し,他の一方の偏光を反射する反
射型直線偏光素子を含む液晶表示素子」の発明(以下「引用例1の液晶表示
素子」という。)が記載されており,この発明においては,従来捨てていた
他の一方の偏光を利用するという上記②の目的を達成するためには,反射型
偏光子とミラーとの間に位相差板を配置することが必須の構成であり,位相
差板とミラーを有しない反射型偏光子単独では,他の一方の偏向を反射する
意味がなく,従来技術の「他の一方の偏光を吸収する直線偏光子」を用いた
もの以上の機能を有しないもの,すなわち,殊更に「反射型偏光子」を用い
る技術的意味を有しないものとなってしまうことが明らかである。
(4)審決は,引用例1には,「液晶表示素子であって,光源,表示モジュー
ル,及び,一方の偏光を透過し,他の一方の偏光を反射する反射型直線偏光
素子を含む,液晶表示素子。」(引用発明)が開示されている(審決3頁第
4段落),すなわち,引用例1(甲1)から「位相差板とミラーを有しない
反射型偏光子を用いた液晶表示素子の発明」を含むものとして引用発明を認
定したものであるが,引用例1に記載された発明において,反射型直線偏光
素子とミラーとの間に配置された位相差板が必須のものであって,反射型偏
光子単独では「他の一方の偏光を吸収する直線偏光子」に替えて「反射型偏
光子」を用いる技術的意味を有しないものとなってしまうことは,上記(3)
のとおりである。また,引用例1には,「位相差板」を有しない直線偏光光
源としては,従来技術として,光源と光源の背後に設けられたミラーと,一
方の偏光のみを通過し,他の一方の偏光を吸収する直線偏光子を備えた直線
偏光光源が記載されているのみであって,反射型直線偏光素子と光源の組み
合わせからなる直線偏光光源は記載されていないことは,上記(3)のとおり
である。
以上のとおり,引用例1(甲1)には,「位相差板とミラーを有しない反
射型直線偏光素子を備えた液晶表示素子の発明」が記載されていると認める
ことはできないのであるから,引用例1の液晶表示素子から,必須の構成で
ある反射型直線偏光素子とミラーとの間に配置された位相差板を除外し,反
射型偏光子のみを単独で取り出し,「液晶表示素子であって,光源,表示モ
ジュール,及び,一方の偏光を透過し,他の一方の偏光を反射する反射型直
線偏光素子を含む,液晶表示素子。」の発明(審決のいう引用発明)が開示
されているとした審決の認定は,誤りであるというほかない。
そして,審決は,本願発明と引用発明との相違点1の判断において,「引
用例2には,光源と隣接する端を有し,前記光源からの光が,導光器の端に
入り,前記導光器の出口表面を通って前記導光器を出る導光器が示唆されて
いると言える。そして,引用発明及び引用例2に記載された発明は,いずれ
も表示装置という同一技術分野に属している。したがって,引用発明に引用
例2に記載された発明の導光器を適用して相違点1に係る構成とすること
は,当業者が容易に想到し得た事項である」(審決5頁第1段落∼第2段
落)とのみ判断し,引用例1の液晶表示素子の「位相差板,光源,ミラー」
に替えて引用例2(甲2)記載の「導光器」とすること,すなわち,引用例
1の液晶表示素子を「位相差板,ミラー」を有しないものとすることについ
ての想到容易性を何ら検討をすることなく,本願発明の進歩性について判断
したことは明らかであり,審決の判断はこの点の検討を看過した誤りがある
というほかない。
(5)被告は,引用例1(甲1)の記載から,液晶表示素子,光源,表示モジュ
ール,反射型直線偏光素子等を容易に認識でき,他の事項との結び付きを離
れて採用できない特段の事情があるわけでもないので,引用例1から「液晶
表示素子であって,光源,表示モジュール,及び,一方の偏光を透過し,他
の一方の偏光を反射する反射型直線偏光素子を含む,液晶表示素子」(審決
のいう引用発明)が把握されることは明らかであると主張する。
確かに被告のいうように,引用例1には,液晶表示素子,光源,表示モジ
ュール,反射型直線偏光素子の各構成要素が記載されていると認められる。
しかし,引用例1の液晶表示素子においては,反射型偏光子とミラーとの間
に位相差板を配置することが,必須の構成であり,位相差板とミラーを有し
ない反射型偏光子単独では,「反射型偏光子」を用いる技術的意味を有しな
いものとなってしまうことは,上記(3)のとおりである。したがって,引用
例1に審決のいう引用発明を構成する各構成要素が記載されていても,反射
型偏光子を含む液晶表示素子の発明を,ひとまとまりの構成ないし技術的思
想として把握することはできないから,被告の上記主張は採用することがで
きない。
また,被告は,引用例1(甲1)において,偏光状態がランダムな自然光
である光源から反射型直線偏光素子に達する光は,位相差板の有無に関わら
ず偏光状態がランダムな自然光であるから,位相差板の有無は,反射偏光子
を通過,反射する光の偏光状態を問題とする本願発明との対比においては引
用発明の認定に影響を及ぼさないと主張する。
確かに被告のいうように,位相差板の有無は,ランダムな光源からの光が
反射型直線偏光子において通過する一方の偏光成分と反射する他の一方の偏
光成分に分けられるという作用に関する限り影響はない。しかし,引用例1
の液晶表示素子は,従来捨てていた一方の偏光成分を有効利用するために,
反射型直線偏光素子を用いるとともに位相差板を備えることとしたものであ
って,位相差板がなければ,反射した他の一方の偏光成分を一方の偏光成分
へと変換することができないから,引用例1の液晶表示素子において,位相
差板を有しない構成とすると,「反射型偏光子」を用いる技術的意味を有し
ないものとなってしまうことが明らかである。引用例1には,従来技術とし
て,位相差板を用いない場合には,一方の偏光成分を透過し,他の一方の偏
光成分を吸収する偏光子を用いるもののみが記載されていることからすれ
ば,位相差板を有しない場合,すなわち,偏光子を通過しない偏光成分の有
効利用を目的としない場合において,反射型偏光素子を用いることは想定さ
れていないというべきである。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(6)以上のとおり,審決の引用発明の認定は誤りというほかなく,この結果,
審決は,引用例1の液晶表示素子の「位相差板,光源,ミラー」に替えて引
用例2(甲2)記載の「導光器」とすること,すなわち,引用例1の液晶表
示素子を「位相差板,ミラー」を有しないものとすることの想到容易性の検
討を看過したものであるから,上記認定の誤りが審決の結論に影響を及ぼす
ことは明らかである。
したがって,原告の取消事由1の主張は理由がある。
3取消事由3(進歩性についての判断の誤り)について
本件事案にかんがみ,進んで取消事由3について判断する。
審決は,相違点1について,「引用例2には,光源と隣接する端を有し,前
記光源からの光が,導光器の端に入り,前記導光器の出口表面を通って前記導
光器を出る導光器が示唆されていると言える。そして,引用発明及び引用例2
に記載された発明は,いずれも表示装置という同一技術分野に属している。し
たがって,引用発明に引用例2に記載された発明の導光器を適用して相違点1
に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得た事項である」(審決5頁
第1段落)と判断したが,上記判断においては,引用例1の液晶表示素子の「
位相差板,光源,ミラー」に替えて引用例2(甲2)記載の「導光器」とする
こと,すなわち,引用例1の液晶表示素子を「位相差板,ミラー」を有しない
ものとすることの想到容易性について検討していないことは,上記2(4)のと
おりである。
そうすると,審決は上記の点の検討を欠いたまま本願発明の進歩性を否定し
たものであり,この判断には上記の点に関する想到容易性の検討を看過した誤
りがあるというほかなく,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らか
である。
したがって,原告の取消事由3の主張は理由がある。
4結論
以上のとおり,審決には,引用発明の認定の誤り(取消事由1)及び引用発
明の認定の誤りを看過したことに基づく進歩性についての判断の誤り(取消事
由3)があり,これらについては,請求人(原告)に十分な意見陳述の機会を
与えた上,特許庁において改めて審理を尽くすのが相当と認められるから,そ
の余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求を認容することとし
て,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官岡本岳
裁判官上田卓哉

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