弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
原判決を破棄する。
本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人中村成人の上告受理申立て理由について
1本件は,大韓民国(以下「韓国」という。)の国籍を有する被上告人らが,
韓国の戸籍上,被上告人らの弟とされている上告人に対し,上告人と父親との間の
実親子関係が存在しないことの確認を求める事案である。
2原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)亡A(以下「A」という。)及びB(以下「B」という。)は,昭和19
年▲月▲日に婚姻した夫婦であり,いずれも韓国の国籍を有する。
(2)被上告人X(昭和22年▲月▲日生まれ)及び被上告人X(昭和25年
12
▲月▲日生まれ)は,AとBの夫婦(以下「A夫婦」という。)の長女及び二女と
して出生した。
この外に,A夫婦の間には,長男C(昭和20年▲月▲日生まれ)があったが,
Cは昭和23年▲月▲日に死亡した。
(3)男の子を欲しがっていたA夫婦は,福祉施設にいた上告人を引き取り,昭
和35年▲月▲日,神戸市兵庫区長に対し,上告人が昭和32年▲月▲日にA夫婦
の二男として出生した旨の届出をした。また,韓国の戸籍にも,その旨が記載され
た。
(4)A夫婦は,上告人を実子として養育し,上告人も自分がA夫婦の実子であ
ると信じていた。Aは,死亡するまで,上告人が実子ではない旨を述べたことはな
い。
(5)Aは平成5年▲月▲日に死亡し,上告人,被上告人ら及びBの間で,同年
12月10日に,上告人がAの遺産のうち相当部分を取得する旨の遺産分割協議が
成立した。
(6)被上告人らは,平成15年になって,突然,上告人とAとの間に実親子関
係は存在せず,上記遺産分割協議は無効であると主張するようになり,上告人が取
得したAの遺産の返還を求める訴えを提起した。
(7)Bと上告人との間の実親子関係が存在しないことについては,平成18年
4月20日に名古屋家庭裁判所豊橋支部において,その旨の確認をする判決が言い
渡され,同判決は確定した。
3原審は,上記事実関係の下で,次のとおり判断して,被上告人らの請求を認
容すべきものとした。
上告人とAとの間の実親子関係の成立については,Aの本国法である韓国法が準
拠法となる。
Bは上告人を婚姻中に懐胎したものではなく,嫡出推定は働かない(韓国民法8
44条1項)から,被上告人らが提起した上告人とAとの間の実親子関係不存在確
認請求訴訟は適法な訴えである。
そして,証拠上,上告人とAとの間に実親子関係の存在を認めることはできな
い。上告人は被上告人らの請求は権利の濫用に当たると主張するが,身分関係の存
否の確認を求める訴訟は,身分法秩序の根幹をなす基本的親族関係の存否につき関
係者間に紛争がある場合に対世的効力を有する判決をもって画一的確定を図り,こ
れにより身分関係を公証する戸籍の記載の正確性を確保する機能をも有するもので
あるから,仮に被上告人らが上告人とAとの間の親子関係の不存在を知りつつAの
遺産分割協議を成立させたとしても,被上告人らの請求を権利の濫用ということは
できない。
4しかしながら,原審の上記判断のうち,被上告人らが実親子関係不存在確認
請求をすることが権利の濫用に当たらないとした部分は,是認することができな
い。その理由は,次のとおりである。
(1)韓国民法865条が定める実親子関係不存在確認請求訴訟は,実親子関係
という基本的親族関係の存否について関係者間に紛争がある場合に対世的効力を有
する判決をもって画一的確定を図り,これにより実親子関係を公証する戸籍の記載
の正確性を確保する機能を有するものであると解されるから,真実の実親子関係と
戸籍の記載が異なる場合には,実親子関係が存在しないことの確認を求めることが
できるのが原則というべきである。
しかしながら,上記戸籍の記載の正確性の要請等が例外を認めないものではない
ことは,韓国民法が嫡出否認の訴えに出訴期間を定め(847条1項),嫡出承認
後には上記訴えを提起することを許さない(852条)など,一定の場合に戸籍の
記載を真実の実親子関係と合致させることについて制限を設けていることから明ら
かである。真実の親子関係と異なる出生の届出に基づき戸籍上甲の実子として記載
されている乙が,甲との間で長期間にわたり実の親子と同様に生活し,関係者もこ
れを前提として社会生活上の関係を形成してきた場合において,実親子関係が存在
しないことを判決で確定するときは,虚偽の届出について何ら帰責事由のない乙に
軽視し得ない精神的苦痛,経済的不利益を強いることになるばかりか,関係者間に
形成された社会的秩序が一挙に破壊されることにもなりかねない。また,甲が既に
死亡しているときには,乙は甲と改めて養子縁組の届出をする手続(韓国民法86
6条以下)をしてその実子の身分を取得することもできない。韓国民法2条2項
は,権利は濫用することができない旨定めているところ,韓国大法院1977年7
月26日判決(大法院判決集25−2−211)が,養子とする意図で他人の子を
自己の実子として出生の届出をした場合に,他の養子縁組の実質的成立要件がすべ
て具備されているときは,養子縁組の効力が発生することを肯定した趣旨にかんが
みても,同項の解釈に当たって,上記のような不都合の発生を重要な考慮要素とす
ることができるものというべきである。
そうすると,戸籍上の両親以外の第三者である丙が,乙とその戸籍上の父である
甲との間の実親子関係が存在しないことの確認を求めている場合において,甲乙間
に実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ,判決をもって実親子関係の不
存在を確定することにより乙及びその関係者の受ける精神的苦痛,経済的不利益,
改めて養子縁組届出をすることにより乙が甲の実子としての身分を取得する可能性
の有無,丙が実親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求をする動
機,目的,実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合に丙以外に著し
い不利益を受ける者の有無等の諸般の事情を考慮し,実親子関係の不存在を確定す
ることが著しく不当な結果をもたらすものといえるときには,当該確認請求は,韓
国民法2条2項にいう権利の濫用に当たり許されないものというべきである。
(2)そして,本件においては,前記事実関係によれば,次のような事情がある
ことが明らかである。
ア上告人は,A夫婦に引き取られてからAが死亡した平成5年まで30年以上
にわたりAとの間に実の親子と同様の生活の実体があり,かつ,被上告人らは,平
成15年まで上告人がA夫婦の実子であることを否定したことはなく,平成5年に
は上告人との間でAの遺産分割協議を成立させた。
イ判決をもって上告人とAとの間の実親子関係の不存在が確定されるならば,
上告人が受ける精神的苦痛は軽視し得ないものであることが予想される。また,A
の相続が問題となっていることからすれば,上告人が受ける経済的不利益も軽視し
得ないものである可能性が高い。
ウAは,死亡するまで上告人が実子ではない旨を述べたことはなく,上告人と
の間で実親子としての関係を維持したいと望んでいたことが推認されるのに,Aが
死亡した現時点においては,上告人がAとの間で養子縁組をすることは不可能であ
る。
エ被上告人らが前記のとおり上告人が取得したAの遺産の返還を求める訴訟を
提起していることからすれば,被上告人らが上告人とAの実親子関係を否定するに
至った動機,目的は,経済的なものであることがうかがわれる。
オ上告人とAとの間の実親子関係が存在しないことが確定されないとした場
合,上告人との間の実親子関係の不存在が確定しているBが不利益を受ける可能性
は否定できないが,同人はAと共に上告人を福祉施設から引き取り,実子として届
出をし,上告人との間で長期間にわたり実の親子と同様の生活をしてきたのである
から,同人の不利益を重視することはできない。
(3)以上によれば,上告人とAとの間で長期間にわたり実親子と同様の生活の
実体があったこと,Aが死亡しており上告人がAとの間で養子縁組をすることがも
はや不可能であることを重視せず,また,上告人が受ける精神的苦痛,経済的不利
益,被上告人らが上告人とAとの間の実親子関係を否定するに至った動機,目的等
を十分検討することなく,被上告人らにおいて上記実親子関係の存在しないことの
確認を求めることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,判決に影響を
及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由が
あり,原判決は破棄を免れない。そして,以上の見解の下に被上告人らの請求が韓
国民法2条2項にいう権利の濫用に当たるかどうかについて更に審理を尽くさせる
ため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官
田原睦夫裁判官近藤崇晴)

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