弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     債権者B信用金庫(被上告人)と債務者訴外D間の東京地方裁判所昭和
四四年(ヨ)第一〇一一号事件の債権仮差押命令に基き、右債権者が昭和四四年二
月一四日原判決別紙目録記載の債権につきなした仮差押の執行は許さない。
     訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人梅沢秀次、同安田秀士の上告理由について。
 思うに、民法四六七条一項が、債権譲渡につき、債務者の承諾と並んで債務者に
対する譲渡の通知をもつて、債務者のみならず債務者以外の第三者に対する関係に
おいても対抗要件としたのは、債権を譲り受けようとする第三者は、先ず債務者に
対し債権の存否ないしはその帰属を確かめ、債務者は、当該債権が既に譲渡されて
いたとしても、譲渡の通知を受けないか又はその承諾をしていないかぎり、第三者
に対し債権の帰属に変動のないことを表示するのが通常であり、第三者はかかる債
務者の表示を信頼してその債権を譲り受けることがあるという事情の存することに
よるものである。このように、民法の規定する債権譲渡についての対抗要件制度は、
当該債権の債務者の債権譲渡の有無についての認識を通じ、右債務者によつてそれ
が第三者に表示されうるものであることを根幹として成立しているものというべき
である。そして、同条二項が、右通知又は承諾が第三者に対する対抗要件たり得る
ためには、確定日附ある証書をもつてすることを必要としている趣旨は、債務者が
第三者に対し債権譲渡のないことを表示したため、第三者がこれに信頼してその債
権を譲り受けたのちに譲渡人たる旧債権者が、債権を他に二重に譲渡し債務者と通
謀して譲渡の通知又はその承諾のあつた日時を遡らしめる等作為して、右第三者の
権利を害するに至ることを可及的に防止することにあるものと解すべきであるから、
前示のような同条一項所定の債権譲渡についての対抗要件制度の構造になんらの変
更を加えるものではないのである。
 右のような民法四六七条の対抗要件制度の構造に鑑みれば、債権が二重に譲渡さ
れた場合、譲受人相互の間の優劣は、通知又は承諾に付された確定日附の先後によ
つて定めるべきではなく、確定日附のある通知が債務者に到達した日時又は確定日
附のある債務者の承諾の日時の先後によつて決すべきであり、また、確定日附は通
知又は承諾そのものにつき必要であると解すべきである。そして、右の理は、債権
の譲受人と同一債権に対し仮差押命令の執行をした者との間の優劣を決する場合に
おいてもなんら異なるものではない。
 本件において、原審が適法に確定したところによれば、上告人は、昭和四四年二
月一三日ころ訴外Dから、同訴外人が東京都下水道局長に対して有する原判決別紙
目録記載の二〇四四万九七二六円の債権(以下、本件債権という。)を譲り受け、
訴外Dは右債権譲渡の通知として東京都下水道局長宛の債権譲渡書と題する書面(
以下、本件債権譲渡証書という。)に公証人Eから同月一四日付の印章の押捺を受
け、同日午後三時ころ東京都下水道局に持参してその職員に交付し、他方、被上告
人は、訴外Dに対して有する一三〇三万九九四八円の金銭債権の執行を保全するた
め、同日東京地方裁判所から本件債権に対する仮差押命令(東京地方裁判所昭和四
四年(ヨ)第一〇一一号事件。以下、本件仮差押命令という。)を得、この仮差押
命令は同日午後四時五分ころ第三債務者たる東京都下水道局長に送達されたという
のである。右事実関係のものとおいては、訴外Dが、本件債権譲渡証書に確定日附
を受け、これを東京都下水道局に持参してその職員に交付したことをもつて確定日
附のある通知をしたと解することができ、しかも、この通知が東京都下水道局長に
到達した時刻は、本件仮差押命令が同局長に送達された時刻より先であるから、上
告人は本件債権の譲受をもつて被上告人に対抗しうるものというべきであり、本件
仮差押命令の執行不許の宣言を求める上告人の本訴請求は正当として認容すべきで
ある。
 しかるに原判決は、民法四六七条二項は債権譲渡の対抗要件として「確定日附あ
る証書による通知」を必要とすることを定めた規定であり、右の「確定日附ある証
書による通知」とは、債権譲渡あるいはその通知のいずれかについて確定日附があ
れば足りるとする趣旨であつて、同一債権の譲受人相互の間の優劣は、確定日附と
して表示されている日附の先後のみを基準として決すべきであると解し、本件債権
譲渡証書上の確定日附と本件仮差押命令が第三債務者たる東京都下水道局長に送達
された日時とは同一の日であつてその先後を定めることができないから、上告人と
被上告人との優劣を決することはできないとして、結局、上告人の本訴請求を排斥
しているが、右は民法四六七条の解釈を誤つたものというべきであり、その違法は
原判決の結論に影響のあることが明らかである。それゆえ、右の違法をいう論旨は
理由があるから、原判決を破棄し、上告人の本訴請求を棄却した第一審判決を取り
消したうえ、その請求を認容すべきである。
 よつて、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁
判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸   上   康   夫

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