弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護土堤千秋の上告理由第一点について。
 原判決及び原判示の引用した第一審判決によれば、所論の点に関する原判示は次
の如く理解することができる。すなわち、原判決は、上告会社の被傭者である女中
Dは客からの預り品受渡の仕事を分担していたこと、また同じく被傭者であるEは
玄関番をしていたものではあるが、客からの預り品受渡の仕事にも携つていたもの
であること、そして右DはFから本件鞄を受取り、次いでこれをいつもの例に従つ
て右Eに引渡し、かくて本件亡失事故を惹起するに至つたものであることを認定し
た上、本件事故は、上告会社の事実上の経営者であるGの責任の点はともあれ、右
D及びE両名の各職務の執行について惹起されたものであると判示しているのであ
る。さすれば、原判決には、民法七一五条を適用するについて何らの遺漏なく、そ
こに所論の違法あるを見出し得ない。それ故所論は採用できない。
 同第二点について。
 しかし、所論の点に関する原判決挙示の証拠によれば、本件鞄在中の金子は五五
万円であり、これよりEの窃取した金子は五一万七千円であることが認定でき、こ
の場合右Eを取り調べなければ、右事実が認定できないわけのものではない。所論
はひつきよう原審の専権に属する証拠の取捨選択及び事実認定を非難するものであ
つて、採るに足りない。
 同第三点について。
 しかし、所論原判示の事実は、証人Fの証言自体で認められないこともない(所
論原判示括弧内の説示は原判決の蛇足的説明に過ぎない。)。所論もひつきよう原
審の自由に任かされている証拠の自由な評価及びこれに基いてなされた事実認定を
非難するだけのものであつて採るを得ない。
 同第四点について。
 しかし、原判決は、被上告人の同行者Fの過失を判示のように認定した上、その
過失を斟酌して本件損害賠償額は金三十万円を以て相当とすると判示しているので
あり(実損害額五一万七千円を二一万七千円だけ軽減している)、この判断に民法
七二二条が裁判所に認めた自由裁量権を逸脱したかどを認め得べくもない。そして、
この場合所論商法五九五条の法意によつて上告人の責任の範囲が当然に軽減さるべ
きものだとする根拠も見出し得ない。所論もまた採用の限りでない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    高   木   常   七

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