弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成27年3月27日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成24年(ワ)第21128号売買代金請求事件
口頭弁論終結日平成27年1月19日
判決
神戸市<以下略>
原告兼松株式会社
同訴訟代理人弁護士大野聖二
同小林英了
同訴訟復代理人弁護士本橋たえ子
東京都港区<以下略>
被告ソフトバンクBB株式会社
同訴訟代理人弁護士高橋元弘
同末吉亙
主文
1被告は,原告に対し,256万8409.18USドル及びこ
れに対する平成24年6月9日から支払済みまで年6分の割合に
よる金員を支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。
3この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
本件は,被告との間で物品の売買に関する基本契約(以下「本件基本契
約」という。)を締結した原告が,被告に対し,原告は,本件基本契約に基
づく個別契約を被告と締結して,ADSLモデム用チップセット及びDSLA
M用チップセットを被告に納入したが,被告が上記チップセットの売買代金の
一部を支払わないと主張して,同契約に基づき,残代金256万8409.1
8USドル及びこれに対する平成24年6月9日(支払期日後の日)から支払
済みまでの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案で
ある。
被告は,「本件基本契約には,原告の納入する物品並びにその製造方法及び
その使用方法が第三者の特許権を侵害しないこと,及び同物品に関して第三者
との間で特許権侵害を理由とする紛争が生じた場合,原告の費用と責任におい
て解決し,又は被告に協力し,被告に一切迷惑をかけないこと,原告がこれら
に違反した場合には被告に生じた損害を賠償する義務を負うことが規定されて
いるところ,原告の納入した物品及びその使用方法等がウィ-ランインコー
ポレイテッドの有する特許権を侵害するものであり,かつ,原告が同社との間
の紛争を解決することができなかったため,被告は,ライセンス料として2億
円の支払を余儀なくされ,同額の損害を被った」旨主張した上,平成24年6
月7日付け通知書により,債務不履行による損害賠償債権(損害賠償金2億円
及びこれに対する同年3月17日〔ライセンス料支払の日の翌日〕から同年5
月30日〔相殺適状日の前日〕までの商事法定利率年6分の割合による遅延損
害金245万9016円に係る債権)を自働債権として,原告の売買代金債権
と対当額で相殺したとして,原告の請求を争っている。
1前提事実等(証拠等を付記しない事実は,当事者間に争いがない。書証の枝
番は,省略することがある。)
(1)当事者等
ア原告は,電子部品,食品,鉄鋼製品,プラント等の販売等を行う株式会
社である。
イ被告は,電気通信事業法に基づく電気通信事業等を行う株式会社であり,
平成19年3月31日に,BBテクノロジー株式会社より現在の名称に商
号変更した。
(2)本件基本契約の締結
原告は,平成17年12月19日,被告との間で,被告を買主,原告を売
主として本件基本契約を締結した。本件基本契約には,次の内容の約定があ
る(甲1)。
ア本件基本契約は,被告を買主,原告を売主として締結される個々の物品
に関する個別契約に適用される。〔1条1項〕
イ本件基本契約における物品とは,被告の発注に基づき原告から被告に納
入される資材,物品(ソフトウェアを含む)をいう。〔1条3項〕
ウ被告は,原告に対し,被告の定める様式の注文書により,個別契約の申
込みを行う。〔3条1項〕
エ原告は,被告に対し,注文書受領後5営業日以内に,当該申込みに対す
る諾否を通知する。ただし,当該期間内に原告から通知がなされない場合
には,当該期間の満了日をもって承諾の意思表示がなされたものとみなす。
〔3条3項〕
オ原告は,被告に対し,物品の引渡しを完了した月の翌月の3営業日目ま
でに請求書を提出して売買代金を請求し,被告は,原告に対し,個別契約
に定める支払条件により代金を支払う。〔12条〕
カ原告は,被告に納入する物品並びにその製造方法及び使用方法が,第三
者の工業所有権,著作権,その他の権利を侵害しないことを保証する。
〔18条1項〕
キ原告は,物品に関し,第三者との間で知的財産権侵害を理由とする紛争
が生じた場合,自己の費用と責任でこれを解決し,又は被告に協力し,被
告に一切の迷惑をかけないものとする。被告に損害が生じた場合には,原
告は,被告に対し,その損害を賠償する。〔18条2項〕
ク原告又は被告が,本件基本契約及び個別契約に基づく債務を履行しない
ことにより相手方に損害を与えた場合,相手方に対し,同損害を賠償する
責任を負う。〔24条〕
(3)被告の提供するサービス及びチップセット
被告は,平成13年9月より,高速データ通信を可能にするADSLサー
ビスを提供している。ADSLサービスを提供するためには,加入者宅にA
DSL機能を搭載したADSLモデムを,電話局内に複数のADSLモデム
機能を一つの筐体に収めたDSLAMをそれぞれ設置し,使用する必要があ
る。ADSLモデム及びDSLAMは,デジタル信号を電話回線で送受信可
能なアナログ信号に変換する(変調)機能,及びアナログ信号をデジタル信
号に変換する(復調)機能を有しており,これらの機能を実現する装置が,
ADSLモデム及びDSLAMに搭載されるチップセットと呼ばれるもので
ある。ADSL通信に用いられるチップセットは,CPU,DSP及びAF
Eからなるデータの受渡しを管理する一群のLSIセットのことであり,A
DSL通信を制御するソフトウェアも含まれている。
(4)被告によるチップセットの購入
被告は,本件基本契約の締結以降,原告からチップセットを購入している。
被告は,本件基本契約を締結した当初から,ConexantSyste
ms,Inc.(以下「コネクサント社」という。)が製造したチップセ
ットを原告から購入していたが,コネクサント社が,平成20年10月にブ
ロードバンド関連製品事業をIkanosCommunications,
Inc.(以下「イカノス社」という。)に譲渡して以降は,イカノス社
が製造するチップセットを原告から購入してきた。被告が原告から購入した
イカノス社製のチップセットとその納品数は,以下のとおりである。(なお,
下記イのDSLAM用チップセットは,後記(5)の個別契約に係るものと同
一である。)
アADSLモデム用チップセット(以下,下記CPU,DSP,AFE
(型番「GS3780-174-001ZD」又は「GS3780-
174-001ZDZ」)の一つずつの組合せを,「本件ADSLモ
デム用チップセット」という。)
(ア)チップ種別CPU
型番GZH-0500-PCAA
納品数17万4000個
(イ)チップ種別DSP
型番AA4-7777-PCBB
納品数17万1000個
(ウ)チップ種別AFE
型番GS3780-174-001ZD
納品数10万7280個
(エ)チップ種別AFE
型番GS3780-174-001ZDZ
納品数6万5520個
イDSLAM用チップセット(以下,下記CPU一つ,DSP及びAF
E三つずつの組合せを「本件DSLAM用チップセット」といい,本件
ADSLモデム用チップセットと本件DSLAM用チップセットを総称
して「本件チップセット」という。)
(ア)チップ種別CPU
型番GZZ-8000-HIA
納品数1万1625個
(イ)チップ種別DSP
型番GS7566-850-101W
納品数3万3375個
(ウ)チップ種別AFE
型番GS3820-850-001CC
納品数3万3375個
(5)個別契約の締結
被告は,平成23年5月12日,原告に対し,チップセットにつき,以下
の注文書を送付し,同月19日,原告と被告との間で同物品の売買に関する
個別契約(以下「本件個別契約」という。)が成立した。原告と被告は,
本件個別契約において,売買代金の支払期日を被告による物品の検収後4か
月を経過した月の末日とすること,並びに物品の納入日を平成23年12月
12日,平成24年1月6日及び同月13日の3回に分けることを合意した
(甲2)。
ア品名DSP_GS7566-850-101W(以下「本件物品
1」という。)
単価110.60USドル
数量3万3375個
金額369万1275USドル
イ品名AFE_GS3820-850-001CC(以下「本件物品
2」という。)
単価47.40USドル
数量3万3375個
金額158万1975USドル
ウ品名CPU_GZZ-8000-HIA(以下「本件物品3」とい
い,本件物品1ないし3を併せて「本件各物品」という。)
単価19.80USドル
数量1万1625個
金額23万0175USドル
(6)物品の納品
原告は,本件個別契約に基づき,被告に対し,以下のとおり本件各物品を
納入した(甲3~5)。
ア平成23年12月12日
本件物品15876個
本件物品25829個
本件物品31538個
イ平成24年1月6日
本件物品11万5124個
本件物品21万5171個
本件物品35462個
ウ平成24年1月13日
本件物品11万2375個
本件物品21万2375個
本件物品34625個
(7)被告の支払等
ア被告は,原告に対し,平成23年12月12日に納入された本件各物品
の売買代金全額95万6632.60USドルを支払った。
イ原告は,平成24年1月18日,被告に対し,平成24年1月6日及び
同月13日に納入した本件各物品の請求書を送付した。同月6日及び同月
13日に納入した本件各物品の売買代金は454万6792.40USド
ルであり,その支払期限は同年5月31日であった(甲6)。
ウ被告は,平成24年6月8日,原告に対し,同年1月6日及び同月13
日に納入した本件各物品の売買代金として198万4346.23USド
ルを支払った。
(8)本件紛争
被告は,ウィ-ランインコーポレイテッド(Wi-LANInc.)
から,本件チップセットに関し,同社の有する以下の9件の特許権(以下,
「本件特許権1」ないし「本件特許権9」といい,本件特許権1ないし9
を併せて「本件各特許権」という。また,本件各特許権に係る特許を,そ
の番号に対応して「本件特許1」などといい,本件特許1ないし9を併せ
て「本件各特許」という。)のライセンスの申出(以下,この申出を契機
とした本件各特許に関する紛争を「本件紛争」ということがある。)を受
けたと主張して(なお,上記ライセンスの申出が,本件チップセットを問題
としていたのか,同チップセットを組み込んだモデムを問題としていたのか,
被告のサービスを問題としていたのかは,証拠上,明らかでない。),平成
22年12月9日,原告に対し,本件各特許に関する調査協力を要請した
(乙1,3,17)。
ア本件特許権1
特許番号第3480313号
発明の名称ディジタル加入者線伝送方法及びxDSL装置
出願番号特願平10-144913
出願日平成10年5月26日
公開番号特開平11-341153
公開日平成11年12月10日
登録日平成15年10月10日
イ本件特許権2
特許番号第3480466号
発明の名称ディジタル加入者線伝送方法及びxDSL装置
出願番号特願2002-269682
分割の表示特願平10-144913の分割
出願日平成10年5月26日
公開番号特開2003-163648
公開日平成15年6月6日
登録日平成15年10月10日
ウ本件特許権3
特許番号第3480467号
発明の名称ディジタル加入者線伝送方法及びxDSL装置
出願番号特願2002-269683
分割の表示特願平10-144913の分割
出願日平成10年5月26日
公開番号特開2003-115814
公開日平成15年4月18日
登録日平成15年10月10日
エ本件特許権4
特許番号第3698145号
発明の名称ディジタル加入者線伝送方法,xDSL装置及びxDSL
システム
出願番号特願2003-35972
出願日平成15年2月14日
分割の表示特願2002-269683の分割
原出願日平成10年5月26日
公開番号特開2003-283704
公開日平成15年10月3日
登録日平成17年7月15日
オ本件特許権5
特許番号第3480469号
発明の名称ディジタル加入者線伝送方法
出願番号特願2003-35973
分割の表示特願2002-269683の分割
出願日平成10年5月26日
公開番号特開2003-298550
公開日平成15年10月17日
登録日平成15年10月10日
カ本件特許権6
特許番号第3573152号
発明の名称ディジタル加入者線伝送方法及びxDSL装置
出願番号特願2003-35974
出願日平成15年2月14日
分割の表示特願2002-269683の分割
原出願日平成10年5月26日
公開番号特開2003-289290
公開日平成15年10月10日
登録日平成16年7月9日
キ本件特許権7
特許番号第3449373号
発明の名称ディジタル加入者線伝送方法及びxDSL装置
出願番号特願2003-35975
分割の表示特願2002-269683の分割
出願日平成10年5月26日
登録日平成15年7月11日
ク本件特許権8
特許番号第3622510号
発明の名称ディジタル加入者線伝送方法,ADSLトランシーバ,チ
ャンネルアナリシステ方法及びADSL装置
出願番号特願平10-172464
出願日平成10年6月19日
公開番号特開2000-13520
公開日平成12年1月14日
登録日平成16年12月3日
ケ本件特許権9
特許番号第3685166号
発明の名称ディジタル加入者伝送システム
出願番号特願2002-269684
出願日平成14年9月17日
分割の表示特願平10-172464の分割
原出願日平成10年6月19日
公開番号特開2003-115815
公開日平成15年4月18日
登録日平成17年6月10日
(9)ライセンス契約の締結
被告は,平成24年2月23日,ウィ-ランインコーポレイテッド及び
その子会社であるWi-LANInternationalJapan
Inc.(以下,両者を併せて「Wi-LAN社」という。)との間で,
別紙A記載の特許権(これには本件各特許権が含まれる。)とWi-LAN
社が被告にライセンスすることができる一定範囲のその余の特許権につき,
ライセンス契約(以下「本件ライセンス契約」という。)を締結し,同年
3月16日,Wi-LAN社に対し,ライセンス料として2億円(なお,こ
の金員を約定どおり支払えば,別紙A記載の特許権に関しては更なる支払を
要しないこととされた。)を支払った(乙10,16)。
(10)発明の内容
ア本件特許1に係る明細書(本件特許1は平成15年6月30日以前にさ
れた出願に係るものであるから,本件特許1に係る明細書は特許請求の範
囲を含むものである〔平成14年法律第24号附則1条2号,3条1項,
平成15年政令第214号〕。以下,本件特許2ないし9に係る明細書に
ついても同様である。参照の便宜のため,本判決の末尾に本件特許1に係
る特許公報の写しを別添1として添付する。)の「特許請求の範囲」にお
ける請求項1ないし4(以下,請求項1記載の発明を「本件特許発明1
-1(方法1)」,請求項2の発明を「本件特許発明1-2(方法
2)」,請求項3の発明を「本件特許発明1-3(装置1)」,請求項
4の発明を「本件特許発明1-4(装置2)」といい,これらを併せて
「本件特許発明1」という。)の記載は,次のとおりである
(ア)本件特許発明1-1(方法1)
「ISDNピンポン伝送の漏話雑音の影響を受ける既存の電話回線を
高速データ通信回線として利用し,DMTシンボル10個分の時間を4
00HzのTCMクロストークの1周期と合わせることなく該DMTシ
ンボルを送信するディジタル加入者線伝送方法において,ISDNの4
00Hz位相情報もしくは局側から伝送された400Hz位相情報によ
り,受信したDMTシンボルがFEXT区間かNEXT区間かそれ以外
かを判定するステップと,該判定結果より受信FEXT区間シンボルの
リファレンス信号点との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出する
ステップと,該算出された各キャリア毎のS/Nから各キャリア毎に伝
送するビット数を算出し,FEXT区間用ビットマップを作成するステ
ップとを有し,該作成されたFEXT区間用ビットマップをスライディ
ングウインドウの内側のビットマップとして使用して,スライディング
ウインドウの内側のDMTシンボルでデータ伝送を行うことを特徴とす
るディジタル加入者線伝送方法。」
(イ)本件特許発明1-2(方法2)
「ISDNピンポン伝送の漏話雑音の影響を受ける既存の電話回線を
高速データ通信回線として利用し,DMTシンボル10個分の時間を4
00HzのTCMクロストークの1周期と合わせることなく該DMTシ
ンボルを送信するディジタル加入者線伝送方法において,ISDNの4
00Hz位相情報もしくは局側から伝送された400Hz位相情報によ
り,受信したDMTシンボルがFEXT区間かNEXT区間かそれ以外
かを判定するステップと,該判定結果より受信NEXT区間シンボルの
リファレンス信号点との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出する
もしくは受信FEXT区間シンボルのリファレンス信号点との差を積分
して各キャリア毎のS/Nを算出するステップと,該算出された各キャ
リア毎のS/Nから各キャリア毎に伝送するビット数を算出し,NEX
T区間用ビットマップとFEXT区間用ビットマップを作成するステッ
プとを有し,該作成されたNEXT区間用ビットマップとFEXT区間
用ビットマップをスライディングウインドウのそれぞれ外側と内側のビ
ットマップとして使用してデータ伝送を行うことを特徴とするディジタ
ル加入者線伝送方法。」
(ウ)本件特許発明1-3(装置1)
「ISDNピンポン伝送の漏話雑音の影響を受ける既存の電話回線を
高速データ通信回線として利用し,DMTシンボル10個分の時間を4
00HzのTCMクロストークの1周期と合わせることなく該DMTシ
ンボルを送信するxDSL装置において,ISDNの400Hz位相情
報もしくは局側から伝送された400Hz位相情報により,受信したD
MTシンボルがFEXT区間かNEXT区間かそれ以外かを判定する位
相判定器と,該位相判定器出力により受信FEXT区間シンボルのリフ
ァレンス信号点との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出するFE
XT区間S/N測定器と,該FEXT区間S/N測定器の出力から各キ
ャリア毎に伝送するビット数を算出し,FEXT区間用ビットマップを
作成する伝送bit数換算器とを有し,該作成されたFEXT区間用ビ
ットマップをスライディングウインドウの内側のビットマップとして使
用して,スライディングウインドウの内側のDMTシンボルでデータ伝
送を行うことを特徴とするxDSL装置。」
(エ)本件特許発明1-4(装置2)
「ISDNピンポン伝送の漏話雑音の影響を受ける既存の電話回線を
高速データ通信回線として利用し,DMTシンボル10個分の時間を4
00HzのTCMクロストークの1周期と合わせることなく該DMTシ
ンボルを送信するxDSL装置において,ISDNの400Hz位相情
報もしくは局側から伝送された400Hz位相情報により,受信したD
MTシンボルがFEXT区間かNEXT区間かそれ以外かを判定する位
相判定器と,該位相判定器出力により受信NEXT区間シンボルのリフ
ァレンス信号点との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出するNE
XT区間S/N測定器および受信FEXT区間シンボルのリファレンス
信号点との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出するFEXT区間
S/N測定器と,該NEXT区間S/N測定器の出力およびFEXT区
間S/N測定器の出力から各キャリア毎に伝送するビット数を算出し,
NEXT区間用ビットマップおよびFEXT区間用ビットマップを作成
する伝送bit数換算器とを有し,該作成されたNEXT区間用ビット
マップおよびFEXT区間用ビットマップをスライディングウインドウ
のそれぞれ外側と内側のビットマップとして使用してデータ伝送を行う
ことを特徴とするxDSL装置。」
イ本件特許2に係る明細書(参照の便宜のため,本判決の末尾に本件特許
2に係る特許公報の写しを別添2として添付する。)の「特許請求の範
囲」における請求項1ないし4(以下,請求項1の発明を「本件特許発
明2(方法1)」,請求項2の発明を「本件特許発明2(方法2)」,
請求項3の発明を「本件特許発明2(装置1)」,請求項4の発明を
「本件特許発明2(装置2)」といい,これらを併せて「本件特許発明
2」という。)の記載は,以下のとおりである。
(ア)本件特許発明2(方法1)
「TCM400Hzの前半のサイクル,後半のサイクルでISDNか
らの近端漏話(NEXT)や遠端漏話(FEXT)の影響を受ける電話
回線を経由して,DMTシンボル69個を1つのSuperFram
eとし,該SuperFrameの境界を示すSyncSymbo
lを送信するディジタル加入者線伝送方法において,前記Super
Frame5個を1つの単位とし,その単位をTCM400Hz(2.
5ms)の整数倍に合わせ,このSuperFrame5個の境界を
加入者側に送信するために,4番目のSyncSymbolをインバ
ースSyncSymbolとして,加入者側のFEXT区間に送信す
ることを特徴とするディジタル加入者線伝送方法。」
(イ)本件特許発明2(方法2)
「TCM400Hzの前半のサイクル,後半のサイクルでISDNか
らの近端漏話(NEXT)や遠端漏話(FEXT)の影響を受ける電話
回線を経由して,DMTシンボル69個を1つのSuperFram
eとし,該SuperFrameの境界を示すSyncSymbo
lを送信するディジタル加入者線伝送方法において,前記Super
Frame5個を1つの単位とし,その単位をTCM400Hz(2.
5ms)の整数倍に合わせ,このSuperFrame5個の境界を
局側へ通知するために,1番目のSyncSymbolをインバース
SyncSymbolとして,局側のFEXT区間に送信することを
特徴とするディジタル加入者線伝送方法。」
(ウ)本件特許発明2(装置1)
「TCM400Hzの前半のサイクル,後半のサイクルでISDNか
らの近端漏話(NEXT)や遠端漏話(FEXT)の影響を受ける電話
回線を経由して,DMTシンボル69個を1つのSuperFram
eとし,該SuperFrameの境界を示すSyncSymbo
lを送信するxDSL装置において,前記SuperFrame5個
を1つの単位とし,その単位をTCM400Hz(2.5ms)の整数
倍に合わせ,このSuperFrame5個の境界を加入者側に送信
するために,4番目のSyncSymbolをインバースSync
Symbolとして,加入者側のFEXT区間に送信する手段を有する
ことを特徴とするxDSL装置。」
(エ)本件特許発明2(装置2)
「TCM400Hzの前半のサイクル,後半のサイクルでISDNか
らの近端漏話(NEXT)や遠端漏話(FEXT)の影響を受ける電話
回線を経由して,DMTシンボル69個を1つのSuperFram
eとし,該SuperFrameの境界を示すSyncSymbo
lを送信するxDSL装置において,前記SuperFrame5個
を1つの単位とし,その単位をTCM400Hz(2.5ms)の整数
倍に合わせ,このSuperFrame5個の境界を局側へ通知する
ために,1番目のSyncSymbolをインバースSyncSy
mbolとして,局側のFEXT区間に送信する手段を有することを特
徴とするxDSL装置。」
ウ本件特許3に係る明細書(参照の便宜のため,本判決の末尾に本件特許
3に係る特許公報の写しを別添3として添付する。)の「特許請求の範
囲」における請求項1及び3(以下,請求項1の発明を「本件特許発明
3(方法)」,請求項3の発明を「本件特許発明3(装置)」といい,
これらを併せて「本件特許発明3」という。)の記載は,以下のとおり
である。
(ア)本件特許発明3(方法)
「電話回線を高速データ通信回線として利用してデータ通信するディ
ジタル加入者線伝送方法において,通信を行うためのトレーニング中に,
受信したDMTシンボルが,NEXT(近端漏話)区間もしくはFEX
T区間(遠端漏話)に完全に入らないDMTシンボルをS/N測定対象
外とし,NEXT区間に入っているDMTシンボルを用いて,NEXT
区間でのS/N測定し,FEXT区間に入っているDMTシンボルを用
いて,FEXT区間でのS/N測定するステップを有することを特徴と
するディジタル加入者線伝送方法。」
(イ)本件特許発明3(装置)
「xDSL装置において,通信を行うためのトレーニング中に,受信
したDMTシンボルが,NEXT(近端漏話)区間もしくはFEXT区
間(遠端漏話)に完全に入らないDMTシンボルをS/N測定対象外と
し,NEXT区間に入っているDMTシンボルを用いて,NEXT区
間でのS/N測定し,FEXT区間に入っているDMTシンボルを用い
て,FEXT区間でのS/N測定する測定手段を有することを特徴とす
るxDSL装置。」
エ本件特許4に係る明細書(参照の便宜のため,本判決の末尾に本件特許
4に係る特許公報の写しを別添4として添付する。)の「特許請求の範
囲」における請求項1ないし3,5,6及び8(以下,請求項1の発明
を「本件特許発明4-1(方法1)」,請求項2の発明を「本件特許発
明4-2(方法2)」,請求項3の発明を「本件特許発明4-3(方法
3)」,請求項5の発明を「本件特許発明4-5(方法4)」,請求項
6の発明を「本件特許発明4-6(装置3)」,請求項8の発明を「本
件特許発明4-8(装置4)」といい,これらを併せて「本件特許発明
4」という。)の記載は,以下のとおりである。
(ア)本件特許発明4-1(方法1)
「電話回線を高速データ通信回線として利用してDMTシンボルを用
いて通信するためのトレーニングを行うディジタル加入者線伝送方法に
おいて,スライディングウィンドウのNEXT区間とFEXT区間を相
手側へ通知するシンボルとして,そのシンボルの4値QAM信号点が9
0°異なるシンボルを伝送することを特徴とするディジタル加入者線伝
送方法。」
(イ)本件特許発明4-2(方法2)
「電話回線を高速データ通信回線として利用してDMTシンボルを用
いて通信するためのトレーニングを行うディジタル加入者伝送方法にお
いて,相手側からの前記DMTシンボルを復調し,90°異なる位相差
を持つ2種類の信号点を用いて,スライディングウィンドウのNEXT
区間とFEXT区間を検出することを特徴とするディジタル加入者線伝
送方法。」
(ウ)本件特許発明4-3(方法3)
「電話回線を高速データ通信回線として利用してDMTシンボルを用
いて通信するためのトレーニングを行うディジタル加入者線伝送方法に
おいて,スライディングウィンドウのNEXT区間とFEXT区間を通
知するDMTシンボルとして,特定の周波数キャリアを選択して,4Q
AMの信号点のうち,位相を90°ずらした2つの信号点を変調して伝
送することを特徴とするディジタル加入者線伝送方法。」
(エ)本件特許発明4-5(方法4)
「電話回線を高速データ通信回線として利用してDMTシンボルを用
いて通信するためのトレーニングを行うディジタル加入者線伝送方法に
おいて,受信したDMTシンボルを復調し,90°異なる位相差を持つ
2種類の信号点を用いて,スライディングウィンドウのNEXT区間と
FEXT区間を識別することを特徴とするディジタル加入者線伝送方
法。」
(オ)本件特許発明4-6(装置3)
「xDSL装置において,スライディングウィンドウのNEXT区間
とFEXT区間を通知するDMTシンボルとして,特定の周波数キャリ
アを選択して,4QAMの信号点のうち,位相を90°ずらした2つの
信号点を変調して伝送する手段を有することを特徴とするxDSL装置。
(カ)本件特許発明4-8(装置4)
「xDSL装置において,受信したDMTシンボルを復調し,90°
異なる位相差を持つ2種類の信号点を用いて,スライディングウィンド
ウのNEXT区間とFEXT区間を識別する手段を有することを特徴と
するxDSL装置。」
オ本件特許5に係る明細書(参照の便宜のため,本判決の末尾に本件特許
5に係る特許公報の写しを別添5として添付する。)の「特許請求の範
囲」における請求項1(以下「本件特許発明5」という。)の記載は,
以下のとおりである。
「ISDNピンポン伝送からの漏話の影響を受ける電話回線を高速デー
タ通信回線として利用して,DMTシンボル69個を1つのSuper
Frameとし,このSuperFrame5個を1つの単位とし,4
00Hz(2.5ms)の整数倍と合わせて,246μsの1DMTシン
ボルで伝送するディジタル加入者線伝送方法において,1シンボル目のD
MTシンボルが400Hzの先頭に同期している場合,400Hz1周期
のサンプル数である2760サンプルにおけるN個目のシンボルの先頭を
示すサンプルの値が,加入者側FEXT区間を示すサンプル値(a)内に
シンボル全てが入るシンボルの先頭を示すサンプルの値より小さい,又は
FEXT区間を示すサンプルの値(a)と加入者側NEXT区間を示すサ
ンプル値の(b)を加算したサンプル値を超えた場合,そのN番目のシン
ボルがFEXTの区間に該当し,該2760サンプル中のN個目のシンボ
ルの先頭を示すサンプル値が,加入者側FEXT区間を示すサンプル値
(a)内にサンプルのシンボル全てが入るシンボルの先頭を示すサンプル
値以上でFEXT区間を示すサンプル値(a)と加入者側NEXT区間を
示すサンプル値(b)を加算したサンプル値以下なら,そのN番目のシン
ボルがNEXTの区間に該当することを識別することを特徴とするディジ
タル加入者線伝送方法。」
カ本件特許6に係る明細書(参照の便宜のため,本判決の末尾に本件特許
6に係る特許公報の写しを別添6として添付する。)の「特許請求の範
囲」における請求項1及び2(以下,請求項1の発明を「本件特許発明
6-1(方法)」,請求項2の発明を「本件特許発明6-2(装置)」
といい,これらを併せて「本件特許発明6」という。)の記載は,以下
のとおりである。
(ア)本件特許発明6-1(方法)
「ISDNピンポン伝送の漏話雑音の影響を受ける電話回線を高速
データ通信回線として利用してデータ通信を行うディジタル加入者線
伝送方法において,FEXT区間のみデータ伝送する方式でのスライ
ディング・ウインドの外側のシンボルとして,パイロット・トーンを
送信することを特徴とするディジタル加入者線伝送方法。」
(イ)本件特許発明6-2(装置)
「ISDNピンポン伝送の漏話雑音の影響を受ける電話回線を高速デ
ータ通信回線として利用してデータ通信を行うxDSL装置において,
FEXT区間のみデータ伝送する方式でのスライディング・ウインドの
外側のシンボルとして,パイロット・トーンを送信する手段を有するこ
とを特徴とするxDSL装置。」
キ本件特許7に係る明細書(参照の便宜のため,本判決の末尾に本件特許
7に係る特許公報の写しを別添7として添付する。)の「特許請求の範
囲」における請求項1ないし6(以下,請求項1の発明を「本件特許発
明7-1(方法1)」,請求項2の発明を「本件特許発明7-2(方法
2)」,請求項3の発明を「本件特許発明7-3(方法3)」,請求項
4の発明を「本件特許発明7-4(装置1)」,請求項5の発明を「本
件特許発明7-5(装置2)」,請求項6の発明を「本件特許発明7-
6(装置3)」といい,これらを併せて「本件特許発明7」という。)
の記載は,以下のとおりである。
(ア)本件特許発明7-1(方法1)
「電話回線を高速データ通信回線として利用して通信するディジタル
加入者線伝送方法において,通信を開始するために行うトレーニング中
に,受信側がFEXT区間に受信できるようなタイミングで,送信側か
らトレーニングシーケンスの切り換えを示す信号を送信することを特徴
とするディジタル加入者線伝送方法。」
(イ)本件特許発明7-2(方法2)
「電話回線を高速データ通信回線として利用して通信するディジタル
加入者線伝送方法において,通信を開始するために行うトレーニング中
に,受信側がFEXT区間に受信できるようなタイミングで,送信側か
らトレーニングシーケンスの切り換えを示す信号の先頭を送信すること
を特徴とするディジタル加入者線伝送方法。」
(ウ)本件特許発明7-3(方法3)
「電話回線を高速データ通信回線として利用して通信するディジタル
加入者線伝送方法において,通信を開始するために行うトレーニング中
に,受信側がFEXT区間に受信できるようなタイミングで,送信側か
らトレーニングシーケンスの切り換えを示すシンボルの先頭を送信する
ことを特徴とするディジタル加入者線伝送方法。」
(エ)本件特許発明7-4(装置1)
「xDSL装置において,通信を開始するために行うトレーニング中
に,受信側がFEXT区間に受信できるようなタイミングで,送信側か
らトレーニングシーケンスの切り換えを示す信号を送信する手段を有す
ることを特徴とするxDSL装置。」
(オ)本件特許発明7-5(装置2)
「xDSL装置において,通信を開始するために行うトレーニング中
に,受信側がFEXT区間に受信できるようなタイミングで,送信側か
らトレーニングシーケンスの切り換えを示す信号の先頭を送信する手段
を有することを特徴とするxDSL装置。」
(カ)本件特許発明7-6(装置3)
「xDSL装置において,通信を開始するために行うトレーニング中
に,受信側がFEXT区間に受信できるようなタイミングで,送信側か
らトレーニングシーケンスの切り換えを示すシンボルの先頭を送信する
手段を有することを特徴とするxDSL装置。」
ク本件特許8に係る明細書(参照の便宜のため,本判決の末尾に本件特許
8に係る特許公報の写しを別添8として添付する。)の「特許請求の範
囲」における請求項1及び2(以下,請求項1の発明を「本件特許発明
8-1(方法)」,請求項2の発明を「本件特許発明8-2(装置)」
といい,これらを併せて「本件特許発明8」という。)の記載は,以下
のとおりである。
(ア)本件特許発明8-1(方法)
「TCM-ISDNからのノイズ環境下におけるトランシーバトレ
ーニングを行うディジタル加入者線伝送方法において,シングルビッ
トマップでイニシャライゼーションを行う場合,スライディングウィ
ンドウのFEXT区間のみでトレーニングを行うことを特徴とするデ
ィジタル加入者線伝送方法。」
(イ)本件特許発明8-2(装置)
「TCM-ISDNからのノイズ環境下における電話回線をデータ通
信回線として利用するADSL装置において,ADSL装置のトレーニ
ング時,スライディングウィンドウのFEXT区間のみ,ADSL装置
の信号を送出する手段を有することを特徴とするADSL装置。」
ケ本件特許9に係る明細書(参照の便宜のため,本判決の末尾に本件特許
9に係る特許公報の写しを別添9として添付する。)の「特許請求の範
囲」における請求項1(以下「本件特許発明9」という。)の記載は,
以下のとおりである。
「既存の電話回線を介して局側の装置と加入者側の装置が通信を行うデ
ィジタル加入者線伝送システムにおいて,局側装置(ATU-C),加入
者側装置(ATU-R)それぞれ独立したハイパーフレームカウンタ(5
01)を有し,そのハイパーフレームカウンタがDMTシンボルクロック
を連続して所定回数カウントすることでDMTシンボル数のカウントを行
い,カウント値を用いてスライディングウインドウDEC(503)によ
りスライディングウインドウのFEXTR,NEXTR,FEXTC,N
EXTCの区間の特定を行う手段を有することを特徴とするディジタル加
入者線伝送システム。」
(11)構成要件の分説
ア本件特許発明1を構成要件に分説すると,別紙構成要件目録1記載のと
おりである(以下,各構成要件をその符号に対応して「構成要件1A
(方法1)」などという。)。
イ本件特許発明2を構成要件に分説すると,別紙構成要件目録2記載のと
おりである(以下,各構成要件をその符号に対応して「構成要件2A
(方法1)」などという。)。
ウ本件特許発明3を構成要件に分説すると,別紙構成要件目録3記載のと
おりである(以下,各構成要件をその符号に対応して「構成要件3A
(方法)」などという。)。
エ本件特許発明4を構成要件に分説すると,別紙構成要件目録4記載のと
おりである(以下,各構成要件をその符号に対応して「構成要件4A
(方法1)」などという。)。
オ本件特許発明5を構成要件に分説すると,別紙構成要件目録5記載のと
おりである(以下,各構成要件をその符号に対応して「構成要件5A
(方法)」などという。)。
カ本件特許発明6を構成要件に分説すると,別紙構成要件目録6記載のと
おりである(以下,各構成要件をその符号に対応して「構成要件6A
(方法)」などという。)。
キ本件特許発明7を構成要件に分説すると,別紙構成要件目録7記載のと
おりである(以下,各構成要件をその符号に対応して「構成要件7A
(方法1)」などという。)。
ク本件特許発明8を構成要件に分説すると,別紙構成要件目録8記載のと
おりである(以下,各構成要件をその符号に対応して「構成要件8A
(方法)」などという。)。
ケ本件特許発明9を構成要件に分説すると,別紙構成要件目録9記載のと
おりである(以下,各構成要件をその符号に対応して「構成要件9A」
などという。)。
(12)相殺の意思表示
被告は,平成24年6月7日付け通知書により,原告に対し,原告の本件
基本契約18条違反により,被告には,被告がWi-LAN社に支払ったラ
イセンス料相当額である2億円の損害が発生したとして,同契約24条に基
づく損害賠償債権(損害賠償金2億円及びこれに対する同年3月17日から
同年5月30日までの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金245万
9016円に係る債権)と,原告の被告に対する本件各物品の売買代金債権
とを,相殺適状の日である同月31日に,対当額で相殺するとの意思表示を
した。
平成24年5月31日時点の円USドル為替レートは,1USドル=78.
93円であった。
(13)本件各特許に関連する技術事項(乙12,62,弁論の全趣旨)
アADSL
ADSL(AsymmetricDigitalSubscrib
erLine)は,xDSLという技術の一つである。xDSLとは,
電話回線(=メタル線)を用いて高速デジタルデータ通信を実現する技術
の総称であり,xDSLのうち,上り速度(加入者側から局側への通信速
度)と下り速度(局側から加入者側への通信速度)が非対称であるのがA
DSLである。
イモデム
ADSLサービスは,ADSL技術をサポートするモデムを利用して提
供される。モデムは,電話回線を使ってアナログ通信を行うための装置で
あり,通信を行うためには,電話回線を挟んで両端にモデムを設置する必
要がある。モデムの配下には,パソコンなどのコンピュータが接続される
ところ,コンピュータとモデムとの間のやりとりはディジタル信号で行わ
れることから,通信を行う際,送信側のモデムはコンピュータから送出さ
れたディジタル信号をアナログ信号に変換(変調)して電話回線に送信し,
これを受信した受信側のモデムはアナログ信号をディジタル信号に変換
(復調)して,接続されているコンピュータに送出する。
ウDMT方式
ADSLには,CAP(CarrierlessAmplitude
andPhasemodulation)方式とDMT(Discr
eteMulti-Tonemodulation)方式という変調
方式がある。ADSLのITU-T(ITU-Telecommunic
ationstandardizationsector。国際電気
通信連合(ITU)の電気通信標準化部門。)勧告として,下り伝送が6
Mビット/秒程度のG.dmtと1.5Mビット/秒程度のG.lite
が存在するが,いずれも変調方式としてDMT方式を採用しており,日本
でもDMT方式が採用されている。DMT方式は,上り・下りとも複数の
搬送波(キャリア)を用いることを特徴とするものである。G.dmtの
下り方向(局側から加入者側)への変復調を見ると,DMT方式では,別
紙【図1】のように1.104MHzの周波数帯域をΔf(=4.312
5kHz)間隔の255個のマルチキャリア♯1~255に周波数分割す
る。そして,通信に先立って行われるトレーニングにおいて,各キャリア
のSN比(伝送したい信号とノイズの比率)を測定し,SN比に応じて各
キャリアにおいて4-QAM(2ビットずつ送信する変調方式),16-
QAM(4ビットずつ送信する変調方式),64-QAM(6ビットずつ
送信する変調方式),128-QAM(7ビットずつ送信する変調方式)
などのいずれの変調方式でデータを送信するかを決定する。別紙【図2】
のように,SN比が小さい(ノイズの影響が大きい)キャリアには,4-
QAMを割り当て,順次SN比が大きくなる(ノイズの影響が小さくな
る)につれて,ビット数の多い変調方式でデータを送信する。キャリアご
とに定めたビット数のことをビットマップという。なお,変調するごとに
送信されるデータの一区切りをシンボルという。
エ漏話
電話回線の構造と特性によりADSLに影響が及ぼされることがある。
電話回線は,別紙【図3】のように,例えば4つの銅線(回線)を1カッ
ドとし,更にカッドが複数集まってユニットを構成し,ユニットが複数集
まってケーブルを構成する。このように回線が隣接して存在するために,
ある回線から信号が漏れ,これによって通信が阻害される(ノイズが発生
する)ことがある。これを「漏話(CrossTalk)」という。
オAnnex.Cについて
ISDNもメタル回線を利用して通信を行うことから,日本ではISD
Nによる漏話が,ADSLを利用する上で問題となっており,これを解決
する技術を規定したものがAnnex.Cである。
(ア)ISDN
ISDNでは,常に同じ周期(400Hz。1周期は1秒/400H
z=2.5ミリ秒(ms))で下り信号と上り信号を切り替えて,送
信・受信を繰り返す。具体的には,ISDNの1周期の前半で下り信号
(局側から加入者側へ)を,後半で上り信号(加入者側から局側へ)を
送信しており,これをピンポン伝送方式という。ピンポン伝送方式は,
時分割方向制御方式(TimeCompressionMulti
plexing(TCM))とも呼ばれ,このピンポン伝送を用いるI
SDNのことはTCM-ISDNとも呼ばれる。
(イ)信号の減衰
メタル回線を伝わる電気信号の減衰は,その距離が遠くなれば遠くな
るほど顕著にあらわれる。
ISDNの上り信号は,加入者側に近い伝送路では減衰していないた
めADSL信号に与える漏話の影響が大きくなるが,局側に近い伝送路
では減衰しているため漏話の影響が小さくなる。逆にISDNの下り信
号(局側から加入者側への信号)は,局側に近い伝送路では減衰してい
ないため漏話の影響が大きくなるが,加入者側に近い伝送路では減衰し
ているためADSL信号に与える漏話の影響が小さくなる(別紙【図
4】参照)。
また,ADSLの上り信号は,加入者側の伝送路では減衰していない
ためISDNからの漏話の影響を受けにくいが,局側の伝送路では減衰
しているため漏話の影響を受けやすくなる。逆に,ADSLの下り信号
は,局側の伝送路では減衰していないためISDNからの漏話の影響を
受けにくいが,加入者側の伝送路では減衰しているため漏話の影響を受
けやすくなる(別紙【図5】参照)。
(ウ)ISDNからの漏話によるADSL信号に対する影響
a局側にあるDSLAMがADSL上り信号を受信する場合
ISDN1周期の前半では,ISDN下り信号を送信していること
から,ADSL上り信号はISDN下り信号から漏話の影響を強く受
けることとなる。このことを,漏話の原因となるISDN信号の発信
源が受信側(この場合は局側)からみて近いことから「近端漏話(N
earEndCrosstalk(NEXT))」という。一方,
ISDNの1周期の後半では,ISDN上り信号(加入者側から局側
への信号)を送信していることから,ADSL上り信号はISDN上
り信号から漏話の影響を受けることとなる。このことを,漏話の原因
となるISDN信号の発信源が受信側(この場合は局側)からみて遠
いことから「遠端漏話(FarEndCrosstalk(FE
XT))」という。
局側からみた近端漏話の影響を受ける区間(ISDNの前半区間)
を「(ATU-C(=DSLAM)における)NEXT区間」又は
「NEXTC区間」といい,遠端漏話の影響を受ける区間(ISDN
の後半区間)を「(ATU-C(=DSLAM)における)FEXT
区間」又は「FEXTC区間」という。
b加入者側にあるADSLモデムがADSL下り信号を受信する場合
ADSL下り信号は,ISDNの1周期の前半ではISDN下り信
号から漏話の影響を受ける(ISDN下り信号の発信源は受信側(こ
の場合は加入者側)からみて遠いので,この場合は遠端漏話(FEX
T))ことになり,また後半ではISDN上り信号からの漏話の影響
を強く受ける(ISDN上り信号の発信源は受信側(この場合は加入
者側)からみて近いので,この場合は近端漏話(NEXT))ことと
なる。このように,加入者側からみた場合には,ISDNの1周期の
前半で遠端漏話(FEXT)の影響を受け,後半で近端漏話(NEX
T)の影響を受けることとなり,それぞれを,「(ATU-R(=A
DSLモデム)における)FEXT区間」又は「FEXTR区間」,
及び,「(ATU-R(=ADSLモデム)における)NEXT区
間」又は「NEXTR区間」という。
2争点
(1)本件基本契約18条1項違反の成否
ア本件チップセットはAnnex.Cに準拠し,その規格仕様書に開示さ
れた構成を有するか
イ本件各特許権との抵触の有無
(ア)本件特許権2との抵触の有無
(イ)本件特許権3との抵触の有無
(ウ)本件特許権4との抵触の有無
(エ)本件特許権1との抵触の有無
(オ)本件特許権9との抵触の有無
(カ)本件特許権7との抵触の有無
(キ)本件特許権8との抵触の有無
(ク)本件特許権5との抵触の有無
(ケ)本件特許権6との抵触の有無
ウ本件特許2は無効理由を有するか
(2)本件基本契約18条2項違反の成否
(3)相殺の成否
第3争点に対する当事者の主張
1争点(1)(本件基本契約18条1項違反の成否)について
(1)争点(1)ア(本件チップセットはAnnex.Cに準拠し,その規格仕様
書に開示された構成を有するか)について
(被告の主張)
アADSL規格の一つであるAnnex.Cは日本向けの規格であり,
特段の事情のない限り,本件チップセットはこれに準拠しているもので
ある。
被告は,原告に対し,本件チップセットが本件各特許に抵触しているか
否かの見解を提示するよう要請した際,本件チップセットがAnnex.
Cに関する特許であるとするWi-LAN社の見解を伝えたが,原告から
も,本件チップセットを製造するイカノス社からも,本件チップセットが
Annex.Cに記載の通信方法を採用していない部分があるとの見解は
示されていない。また,本件チップセットと同一のチップセットを製造,
販売していたコネクサント社は,Wi-LAN社との間で,本件各特許権
を含む特許権のライセンス契約を締結していた。これらの状況に鑑みれば,
本件チップセットがAnnex.Cに記載の通信方法を実現する機能を有
していることは明らかである。
イ本件ADSLモデム用チップセットは,Argon550という商品
名のチップセットであるが,Argon550のリリースノート(乙4
4)には,本件ADSLモデム用チップセットがAnnex.Cに準拠
していることを前提に,Annex.Cに基づく通信を行う場合の不具
合の解消等を行ったことが記載されている。すなわち,本件ADSLモ
デム用チップセットは,Annex.Cに準拠していることは明らかで
ある。
また,本件DSLAM用チップセットの納品書兼検査票等である甲3の
1の請求書・品名欄には「OCTANEPLUS-DSP(GS7566
-850-101W)」との記載があり,これは乙45の表37の「DS
Pパッケージ/部品番号」欄下段の部品番号と一致する。また,甲3の2
の請求書・品名欄には「OCTANEPLUS-AFE(GS3820-
850-001CC)」との記載があり,これは乙45の表37の「AF
Eパッケージ/部品番号」欄の部品番号と一致する。したがって,乙45
には,本件DSLAM用チップセットの使用が記載されており,乙45の
表37には,このチップセットがAnnex.Cをサポートしていること
が記載されている。また,イカノス社製の本件DSLAM用チップセット
フォームウェアのバージョン情報は「Y67.29.68」であるところ,
これはコネクサント社がバージョン「Y67.29.67」において発生
した特定の不具合を解消するためにパイロットトーン電力値を変更したも
のであり,それ以外はバージョン「Y67.29.67」と同じである。
そして,バージョン「Y67.29.67」のリリースノートには,An
nex.Cに準拠していることを前提に,Annex.Cに基づく通信を
行う場合の不具合の解消等を行ったことが記載されているから,本件DS
LAM用チップセットがAnnex.Cに準拠していることは明らかであ
る。
ウ時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて
原告は,平成27年1月9日付け第13準備書面の主張,及び乙63号
証ないし乙66号証による立証が時機に後れたものであると主張する。し
かし,DSLAMは局舎側に存在することから,DSLAMのファームウ
ェアのバージョンを確認するには,電話局に確認をとる必要があった。よ
って,被告に故意又は重過失はない。また,訴訟の完結を遅延させるもの
でもない。
エ製品の構成について
本件チップセットはAnnex.Cに準拠しているから,本件DSLA
M用チップセットを搭載したDSLAM(以下「本件DSLAM」とい
う。)及び本件ADSLモデム用チップセットを搭載したADSLモデ
ム(以下「本件ADSLモデム」といい,本件DSLAMと併せて「本
件製品」という。)はAnnex.Cの規格仕様書(乙13。以下「本
件規格仕様書」という。)に記載の構成を有する。
(原告の主張)
ア否認する。
(ア)被告は,イカノス社の対応や,コネクサント社がWi-LAN社と
ライセンス契約を締結していたことを根拠として,本件チップセットが
Annex.Cに記載の通信方法を実現する機能を有していると主張す
るが,いずれの事情も,本件チップセットがAnnex.Cに準拠して
いることを示すものではない。
(イ)被告は,本件チップセットがAnnex.Cに準拠していることの
根拠として,乙44号証の記載を挙げるところ,乙44号証には「Gs
panPlus/Gspan/A.x/C.xの4タイプのスピードに
対応する」との,「Annex.Cに固有の変更」との記載があるが,
本件チップセットがAnnex.Cに準拠しているのか,Annex.
Cのどの部分が具体的にサポートされているのかについて何ら示されて
いない。また,被告は,乙45の表37にAnnex.Cをサポートし
ているとの記載があることを挙げるが,かかる記載からはAnnex.
Cのどの部分が具体的にサポートされているのか不明である。そもそも,
乙44号証及び乙45号証は,イカノス社製のチップセットが初めて被
告に納品された平成21年よりも4,5年前に作成された文書であり,
また,いずれもコネクサント社製のチップセットの仕様を記載したもの
であって,イカノス社製の本件チップセットの仕様を示すものではない。
そして,乙44号証及び乙45号証には,それぞれ「仕様は予告なく変
更されることがある。」,「コネクサントは,・・・予告なく本文書に
変更を加える場合がある。」との記載があり,仕様が変更された可能性
も否定できない。
(ウ)また,被告は,本件チップセットのファームウェアのバージョンを
根拠に,本件チップセットがAnnex.Cに準拠していると主張する。
しかし,本件チップセットのファームウェアのバージョンについては,
これを調査したとする報告書があるのみで,調査を行ったチップセット
が原告から供給を受けたイカノス社製性のチップセットであることを示
す客観的証拠はない。さらに,被告は,本件チップセットのファームウ
ェアのバージョンは「Y67.29.68」であり,Annex.Cに
準拠しているとするバージョンである「Y67.29.67」とほぼ同
一であると主張するが,両者が同一であることにつき何ら根拠は示され
ていない。
イ時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて
被告の平成27年1月9日付け第13準備書面の主張,及び乙63号証
ないし乙66号証による立証は時機に後れたものとして却下されるべきで
ある。本訴訟は,訴訟提起から2年近くの期間が経過して,平成26年8
月4日までに被告が本件各特許権との抵触の有無に関する全ての主張,立
証を終え,その後,同年12月24日に弁論準備手続を終結し,平成27
年1月19日の口頭弁論期日において審理が終結されることとなっていた。
そして,被告は,平成26年10月15日の弁論準備手続期日においても,
本件各特許権との抵触の有無に関する追加の主張,立証の予定はないと述
べたにもかかわらず,その後になって上記主張,立証を追加したものであ
る。したがって,上記主張,立証が時機に後れたものであることにつき,
被告には重大な過失がある。
被告は,乙63号証の提出が後れた理由につき,DSLAMのファーム
ウェアのバージョンについては,電話局に確認する必要があったなどと弁
解しているが,かかる弁解は,平成26年8月4日までに提出できなかっ
た理由にはならない。
ウ製品の構成について
仮に,本件チップセットがAnnex.Cに準拠しているとしても,被
告が本件製品の構成を主張するに当たり基礎としている本件規格仕様書に
は,下記(2)に述べるとおり,被告の主張する全ての構成が開示されてい
るわけではない。
さらに,仮に,本件規格仕様書に被告の主張する構成が開示されている
としても,本件規格仕様書には,「この勧告に従うかどうかは任意であ
る。」との記載があり,本件規格仕様書において開示されている構成はA
DSL通信に必須のものとはいえないから,本件製品がその構成を有する
ともいえない。
(2)争点(1)イ(本件各特許権との抵触の有無)について
(被告の主張)
ア争点(1)イ(ア)(本件特許権2との抵触の有無)について
(ア)本件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMは,本件特許
発明2(装置1)の技術的範囲に属し,また,本件DSLAM用チップ
セットないし本件DSLAMを使用した伝送方法は,本件特許発明2
(方法1)の技術的範囲に属する。
a本件チップセットはAnnex.Cに準拠するものであるから,本
件DSLAMは別紙本件製品等構成目録2記載1の構成を有する(以
下,各構成をその符号に対応して「構成2a(1)」などとい
う。)。
b構成要件2A(方法1)及び2A(装置1)について
構成要件2A(方法1)及び2A(装置1)の「TCM400Hz
の前半のサイクル,後半のサイクル」について,TCMのサイクルは
400Hz,すなわち毎秒400周期であるから,2.5ms(ミリ
秒)となる。したがって,構成要件2A(方法1)及び2A(装置
1)の「TCM400Hzの前半のサイクル,後半のサイクルでIS
DNからの近端漏話(NEXT)や遠端漏話(FEXT)の影響を受
ける電話回線を経由して,」とは,その1周期が2.5ミリ秒である
時分割制御伝送方式を使用したISDNの1周期の前半と後半とで,
近端漏話(NEXT)や遠端漏話(FEXT)の影響を受ける電話回
線を経由することを意味する。
一方で,構成2a(1)の「TCM-ISDN期間」とは,Ann
ex.Cの「TTR期間」と同義である。TTRとは,「TCM-I
SDNのタイミング基準」のことであり,その1周期は2.5ミリ秒
である。したがって,「TCM-ISDN期間」とは,時分割制御伝
送方式を使用したISDNの1周期のことを指し,その期間は2.5
ミリ秒であるから,構成要件2A(方法1)及び2A(装置1)の
「TCM400Hzの前半のサイクル,後半のサイクル」に該当する。
また,構成2a(1)の「NEXTノイズを受信」する,「FEXT
ノイズを受信する」とは,構成要件2A(方法1)及び2A(装置
1)の「ISDNからの近端漏話(NEXT)や遠端漏話(FEX
T)の影響を受ける」ことと同義である
よって,本件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMは,
構成要件2A(装置1)を充足し,また,本件DSLAM用チップセ
ットないし本件DSLAMを用いた伝送方法は,構成要件2A(方法
1)を充足する。
c構成要件2B(方法1)及び2B(装置1)について
構成2b(1)の「スーパーフレーム5つをハイパーフレームと
し,」は,構成要件2B(方法1)及び2B(装置1)の「Supe
rFrame5個を1つの単位とし,」に該当する。また,構成2
b(1)では,「ハイパーフレームはTCM-ISDN期間の34倍
に合わせて」いるところ,「TCM-ISDN期間」は,構成要件2
B(方法1)及び2B(装置1)の「TCM400Hz(2.5m
s)」で当たるから,構成2b(1)の「ハイパーフレームはTCM
-ISDN期間の34倍に合わせて」は,構成要件2B(方法1)及
び2B(装置1)の「その単位をTCM400Hz(2.5ms)の
整数倍に合わせ」に該当する。
よって,本件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMは,
構成要件2B(装置1)を充足し,また,本件DSLAM用チップセ
ットないし本件DSLAMを用いた伝送方法は,構成要件2B(方法
1)を充足する。
d構成要件2C(方法1)及び2C(装置1)について
構成2cの「このハイパーフレームの境界」は,構成要件2C(方
法1)及び2C(装置1)の「このSuperFrame5個の境
界」に該当する。
よって,本件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMは,
構成要件2C(装置1)を充足し,また,本件DSLAM用チップセ
ットないし本件DSLAMを用いた伝送方法は,構成要件2C(方法
1)を充足する。
e構成要件2D(方法1)及び2D(装置1)について
構成2a(1)のシンクシンボルの送信を行い,構成2b(1)の
ハイパーフレーム構造を規定し,構成2c(1)のインバースシンク
シンボルを送信しているのは,本件DSLAMの構成要素のうちの本
件DSLAM用チップセットである。したがって,本件DSLAM用
チップセットが,構成要件2D(装置1)の「xDSL装置」に該当
する。そうではないとしても,本件DSLAMが,構成要件2D(装
置1)の「xDSL装置」に該当する。
よって,本件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMは,
構成要件2D(装置1)を充足し,また,本件DSLAM用チップセ
ットないし本件DSLAMを用いた伝送方法は,構成要件2D(方法
1)の「ディジタル加入者線伝送方法」を充足する。
f以上のとおり,本件DSLAM用チップセットないし本件DSLA
Mは,本件特許発明2(装置1)の技術的範囲に属し,また,本件D
SLAM用チップセットないし本件DSLAMを使用した伝送方法は,
本件特許発明2(方法1)の技術的範囲に属する。
(イ)本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモデムは,
本件特許発明2(装置2)の技術的範囲に属し,また,本件ADSLモ
デム用チップセットないし本件ADSLモデムを使用した伝送方法は,
本件特許発明2(方法2)の技術的範囲に属する。
a本件チップセットはAnnex.Cに準拠するものであるから,本
件ADSLモデムは別紙本件製品等構成目録2記載2の構成を有する
(以下,各構成をその符号に対応して「構成2a(2)」などとい
う。)。
b構成要件2A(方法2)及び2A(装置2)について
構成2a(2)が,構成要件2A(方法2)及び2A(装置2)に
該当することは,上記(ア)bと同様である。
よって,本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモ
デムは,構成要件2A(装置2)を充足し,また,本件ADSLモデ
ム用チップセットないし本件ADSLモデムを用いた伝送方法は,構
成要件2A(方法2)を充足する。
c構成要件2B(方法2)及び2B(装置2)について
構成2b(2)が,構成要件2B(方法2)及び2B(装置2)に
該当することは,上記(ア)cと同様である。
よって,本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモ
デムは,構成要件2B(装置2)を充足し,また,本件ADSLモデ
ム用チップセットないし本件ADSLモデムを用いた伝送方法は,構
成要件2B(方法2)を充足する。
d構成要件2C(方法2)及び2C(装置2)について
構成2c(2)が,構成要件2C(方法2)及び2C(装置2)に
該当することは,上記(ア)dと同様である。
よって,本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモ
デムは,構成要件2C(装置2)を充足し,また,本件ADSLモデ
ム用チップセットないし本件ADSLモデムを用いた伝送方法は,構
成要件2C(方法2)を充足する。
e構成要件2D(方法2)及び2D(装置2)について
構成2a(2)のシンクシンボルの送信を行い,構成2b(2)の
ハイパーフレーム構造を規定し,構成2c(2)のインバースシンク
シンボルを送信しているのは,本件ADSLモデムの構成要素のうち
の本件ADSLモデム用チップセットである。したがって,本件AD
SLモデム用チップセットが,構成要件2D(装置2)の「xDSL
装置」に該当する。そうではないとしても,本件ADSLモデムが,
構成要件2D(装置2)の「xDSL装置」に該当する。
よって,本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモ
デムは,構成要件2D(装置2)を充足し,また,本件ADSLモデ
ム用チップセットないし本件ADSLモデムを用いた伝送方法は,構
成要件2D(方法2)を充足する。
f以上のとおり,本件ADSLモデム用チップセットないし本件AD
SLモデムは,本件特許発明2(装置2)の技術的範囲に属し,また,
本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモデムを使用
した伝送方法は,本件特許発明2(方法2)の技術的範囲に属する。
(ウ)まとめ
したがって,本件チップセットは,本件特許権2の直接侵害品であり,
仮に本件製品が直接侵害品であっても,本件チップセットは本件製品の
生産にのみ用いる物であるから,間接侵害品である。よって,本件チッ
プセットは,Wi-LAN社の特許権の直接侵害品ないし間接侵害品で
あるから,原告は本件基本契約18条1項に違反したものである。
また,本件DSLAMを使用すること,本件ADSLモデムを貸し渡
す若しくは譲り渡すこと,及びこれらを用いて伝送を行うことは,本件
特許権2の侵害行為となるから,この点からも,原告が本件基本契約1
8条1項に違反したことは明らかである。
(エ)原告主張に対する反論
aシンクシンボルとスーパーフレームの境界について
原告は,本件規格仕様書には,シンクシンボルがスーパーフレーム
の境界を示していることについての記載がないと主張する。
しかし,本件規格仕様書の「表C.1/G.992.1-サブフレ
ーム(下り)」には,本件DSLAMからADSLモデムに対する送
信につき,シンクシンボルは,DMTシンボル番号0から344のう
ち,♯68,137,206,275,344のDMTシンボルであ
ることが記載されており(但し,#275はインバースシンクシンボ
ル),一つのスーパーフレームは69個のDMTシンボルから構成さ
れているから,各スーパーフレームの最後のDMTシンボルは,♯6
8,137,206,275,344のDMTシンボルである。した
がって,シンクシンボルは,一つのスーパーフレームの最後のDMT
シンボルであり,スーパーフレームの境界を示していることは明らか
である。また,本件規格仕様書の「表C.2/G.992.1-サブ
フレーム(上り)」には,本件ADSLモデムからDSLAMに対す
る送信についても同様の記載がある。
bインバースシンクシンボルについて
原告は,本件規格仕様書には,インバースシンクシンボルが,4番
目又は1番目のシンクシンボルであるかについて記載がないと主張す
る。
しかし,本件規格仕様書には,上記のとおり,本件DSLAMから
ADSLモデムに対する送信については,♯275のDMTシンボル,
すなわち4番目のシンクシンボルがインバースシンクシンボルである
ことが,また,本件ADSLモデムからDSLAMに対する送信につ
いては,♯68のDMTシンボル,すなわち1番目のシンクシンボル
がインバースシンクシンボルであることが記載されている。
イ争点(1)イ(イ)(本件特許3との抵触の有無)について
(ア)本件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMは,本件特許
発明3(装置)の技術的範囲に属し,また,本件DSLAM用チップセ
ットないし本件DSLAMを使用した伝送方法は,本件特許発明3(方
法)の技術的範囲に属する。
a本件チップセットはAnnex.Cに準拠するものであるから,本
件DSLAMは別紙本件製品等構成目録3記載1の構成を有する(以
下,各構成をその符号に対応して「構成3a(1)」などとい
う。)。
b構成要件3A(方法)及び3A(装置)について
本件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMは,構成要件
3A(装置)の「xDSL装置」に該当する。
また,構成3a(1)の「電話回線を使い高速データ通信を行う技
術であるADSLを用いてデータ通信を行う」は,構成要件3A(方
法)の「電話回線を高速データ通信回線として利用してデータ通信す
る」に該当する。
よって,本件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMは,
構成要件3A(装置)を充足し,また,本件DSLAM用チップセッ
トないし本件DSLAMを用いた伝送方法は,構成要件3A(方法)
を充足する。
c構成要件3B(方法)及び3B(装置)について
構成3b(1)が,構成要件3B(方法)及び3B(装置)に該当
することは明らかである。
d構成要件3C(方法)及び3C(装置)について
本件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMが,構成要件
3C(装置)の「xDSL装置」に該当し,また,本件DSLAM用
チップセットないし本件DSLAMを用いた伝送方法が,構成要件3
C(方法)の「ディジタル加入者線伝達方法」に該当することは,上
記bと同様である。
よって,本件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMは,
構成要件3C(装置)を充足し,また,本件DSLAM用チップセッ
トないし本件DSLAMを用いた伝送方法は,構成要件3C(方法)
を充足する。
e以上のとおり,本件DSLAM用チップセットないし本件DSLA
Mは,本件特許発明3(装置1)の技術的範囲に属し,また,本件D
SLAM用チップセットないし本件DSLAMを使用した伝送方法は,
本件特許発明3(方法1)の技術的範囲に属する。
(イ)本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモデムは,
本件特許発明3(装置)の技術的範囲に属し,また,本件ADSLモデ
ム用チップセットないし本件ADSLモデムを使用した伝送方法は,本
件特許発明3(方法)の技術的範囲に属する。
a本件チップセットはAnnex.Cに準拠するものであるから,本
件ADSLモデムは別紙本件製品等構成目録3記載2の構成を有する
(以下,各構成をその符号に対応して「構成3a(2)」などとい
う。)。
b構成要件3A(方法)及び3A(装置)について
本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモデムは,
構成要件3A(装置)の「xDSL装置」に該当する。
また,構成3a(2)の「電話回線を使い高速データ通信を行う技
術であるADSLを用いてデータ通信を行う」は,構成要件3A(方
法)の「電話回線を高速データ通信回線として利用してデータ通信す
る」に該当する。
よって,本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモ
デムは,構成要件3A(装置)を充足し,また,本件ADSLモデム
用チップセットないし本件ADSLモデムを用いた伝送方法は,構成
要件3A(方法)を充足する。
c構成要件3B(方法)及び3B(装置)について
構成3b(2)が,構成要件3B(方法)及び3B(装置)に該当
することは明らかである。
d構成要件3C(方法)及び3C(装置)について
本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモデムが,
構成要件3C(装置)の「xDSL装置」に該当し,また,ADSL
モデム用チップセットないし本件ADSLモデムを用いた伝送方法が,
構成要件3C(方法)の「ディジタル加入者線伝達方法」に該当する
ことは,上記bと同様である。
よって,本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモ
デムは,構成要件3C(装置)を充足し,また,本件ADSLモデム
用チップセットないし本件ADSLモデムを用いた伝送方法は,構成
要件3C(方法)を充足する
e以上のとおり,本件ADSLモデム用チップセットないし本件AD
SLモデムは,本件特許発明3(装置1)の技術的範囲に属し,また,
本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモデムを使用
した伝送方法は,本件特許発明3(方法1)の技術的範囲に属する。
(ウ)まとめ
したがって,本件チップセットは,本件特許権3の直接侵害品であり,
仮に本件製品が直接侵害品であっても,本件チップセットは本件製品の
生産にのみ用いる物であるから,間接侵害品である。よって,本件チッ
プセットは,Wi-LAN社の特許権の直接侵害品ないし間接侵害品で
あるから,原告は本件基本契約18条1項に違反したものである。
また,本件DSLAMを使用すること,本件ADSLモデムを貸し渡
す若しくは譲り渡すこと,及びこれらを用いて伝送を行うことは,本件
特許権3の侵害行為となるから,この点からも,原告が本件基本契約1
8条1項に違反したことは明らかである。
(エ)原告の主張に対する反論
a通信を行うためのトレーニング中における処理について
原告は,SN比の測定はトレーニングの区間よりも後の期間で行わ
れていると主張する。
しかし,トレーニングについては,「ADSLをはじめとするxD
SLで,モデムの電源投入時などに回線状況を調べ,最適な通信速度
を決定する処理を指す。ADSLは通信に複数の搬送波を用いている。
トレーニング時は,モデムと交換局舎にあるDSLAMが通信し合い,
搬送波のある周波数帯ごとに雑音や信号減衰量を調べて,各搬送設に
乗せられる情報量を決定する。トレーニングによってADSLのリン
ク速度(物理レベルの通信速度)か決まる。」(乙40)とされてい
るから,SN比の測定も含めて,ADSLにおけるトレーニングに含
まれることは明らかである。
bS/N測定対象外とするDMTシンボルについて
原告は,本件規格仕様書には,FEXT区間のS/N推定のための
シンボルであるが,その一部がNEXT区間に含まれるもの,及びN
EXT区間のS/N推定のためのシンボルであるが,その一部がFE
XT区間に含まれるものが記載されていると主張する。
しかし,原告は,TTRC(ATU-Cで使用されるタイミング基
準)が,別紙【図6】(本件規格仕様書図C.5)のとおり,TTR
からSC(=55×0.9058μs)分オフセットされていること
を理解していない。別紙【図6】から分かるように,TTRCの
「0」の区間(谷の区間)の後端部はFEXTR区間であり,原告が,
FEXT区間のS/N推定のためのシンボルであるが,その一部がN
EXT区間に含まれるものであると指摘するDMTシンボル(本件規
格仕様書の「図C.19/G.992.1-S/N推定のためのハイ
パーフレーム内のシンボルパターン-下り」の10,71,81,1
42,213及び284番のDMTシンボル)はいずれも,FEXT
R区間に完全に入るものである。
また,TTRR(ATU-Rで使用されるタイミング基準)が,別
紙【図7】のとおり,更にSR(42×0.9058μs)分オフセ
ットされることも理解していない。別紙【図7】から分かるように,
TTRRの「1」の区間(山の部分)の後端部はFEXTC区間であ
り,原告が,NEXT区間のS/N推定のためのシンボルであるが,
その一部がFEXT区間に含まれるものであると指摘するDMTシン
ボル(本件規格仕様書の「図C.20/G.992.1-S/N推定
のためのハイパーフレーム内のシンボルパターン-上り」の76,1
47,218及び289番のDMTシンボル)はいずれも,FEXT
C区間に完全に入るものである。
ウ争点(1)イ(ウ)(本件特許権4との抵触の有無)について
(ア)本件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMは,本件特許
発明4-6(装置3)の技術的範囲に属し,また,本件DSLAM用チ
ップセットないし本件DSLAMを使用した伝送方法は,本件特許発明
4-1(方法1)及び本件特許発明4-3(方法3)の技術的範囲に属
する。
a本件チップセットはAnnex.Cに準拠するものであるから,本
件DSLAMは別紙本件製品等構成目録4記載1の構成を有する(以
下,各構成をその符号に対応して「構成4a」などという。)
b構成要件4A(方法1),4G(方法3)及び4G(装置3)につ
いて
本件DSLAMは,「非対称デジタル加入者線(ADSL)の送受
信機」(構成4a)であるから,構成要件4G(装置3)の「xDS
L装置」に当たることは明らかである。
そして,構成4aの「ADSL」は電話回線を高速データ通信回線
として利用するものであり,また,DMTシンボルを用いて通信を行
うためのトレーニングを行うものであるから,本件DSLAMを用い
た伝送方法は,構成要件4A(方法1)及び4G(方法3)の「電話
回線を高速データ通信回線として利用してDMTシンボルを用いて通
信するためのトレーニングを行うディジタル加入者線伝送方法」を充
足する。
c構成要件4B(方法1),4H(方法3)及び4H(装置3)につ
いて
本件DSLAMは,構成4b記載のとおり,スライディング・ウィ
ンドウのFEXTR区間内のシンボルであるFEXTRシンボルを示
す座標(+,+)のDMTシンボルを送信し,また,スライディン
グ・ウィンドウのNEXTR区間内のシンボルであるNEXTRシン
ボルを示す座標(+,-)のDMTシンボルを送信する(別紙【図
8】(本件規格仕様書図C.6)参照)。
ここで,構成4bの「座標(+,+)」及び「座標(+,-)」と
は,下記表(乙48)のとおり,4値QAM信号座標を示しており,
その信号点が90°異なるシンボルである(本件規格仕様書には,4
値QAM信号座標における180度位相反転により,当該座標のうち
+が-にマッピング,-が+にマッピングされると記載されているこ
とから,一方のみを+から-にマッピングすれば90°位相が異なる
こととなる。)
d2i+1,d2i+210進法による分類Xi,Yi
000++
011+-
102-+
113--
したがって,構成4bの「座標(+,+)」及び「座標(+,
-)」は,構成要件4B(方法1)の「そのシンボルの4値QAM信
号点が90°異なるシンボル」,構成要件4H(方法3)及び4H
(装置3)の「4QAMの信号点のうち,位相を90°ずらした2つ
の信号点」に該当する。
また,「座標(+,+)」及び「座標(+,-)」は,DMTシン
ボルとして送信されるが,ADSLはDMT変調方式を採用しており,
送信時においてDSLAM及びADSLモデムは変調して伝送するの
であるから,本件DSLAMは,「座標(+,+)」及び「座標(+,
-)」を変調して伝送しているものである。さらに,本件DSLAM
は,構成4b記載のとおり,「座標(+,+)」及び「座標(+,
-)」を,プロファイル(本件規格仕様書に記載されている6種類の
動作モード)1及び2の場合は48番目のキャリア,プロファイル4
~6の場合は48番目のキャリア又は24番目のキャリアを選択して
当該各座標をエンコード(変調)して伝送するから(別紙【図9】参
照),「特定の周波数キャリアを選択して」(構成要件4H(方法
3)及び4H(装置3))を充足する。
よって,本件DSLAMは,構成要件4H(装置3)を充足し,本
件DSLAMを用いた伝送方法は,構成要件4B(方法1)及び4H
(方法3)を充足する。
d構成要件4C(方法1),4I(方法3)及び4I(装置3)につ
いて
本件DSLAMは,「xDSL装置」であり,また,本件DSLA
Mを用いた伝送方法は,「ディジタル加入者線伝送方法」であるから,
本件DSLAMは,構成要件4I(装置3)を充足し,本件DSLA
Mを用いた伝送方法は,構成要件4C(方法1)及び4I(方法3)
を充足する。
e以上のとおり,本件DSLAM用チップセットないし本件DSLA
Mは,本件特許発明4-6(装置3)の技術的範囲に属し,また,本
件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMを使用した伝送方
法は,本件特許発明4-1(方法1)及び4-3(方法3)の技術的
範囲に属する。
(イ)本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモデムは,
本件特許発明4-8(装置4)の技術的範囲に属し,また,本件ADS
Lモデム用チップセットないし本件ADSLモデムを使用した伝送方法
は本件特許発明4-2(方法2)及び4-5(方法4)の技術的範囲に
属する。
a本件チップセットはAnnex.Cに準拠するものであるから,本
件ADSLモデムは別紙本件製品等構成目録4記載2の構成を有する
(以下,各構成をその符号に対応して「構成4d」などという。)。
b構成要件4D(方法2),4M(方法4)及び4M(装置4)につ
いて
本件ADSLモデムは,「非対称デジタル加入者線(ADSL)の
送受信機」(構成4d)であるから,構成要件4M(装置4)に該当
することは明らかである。
そして,ADSLは電話回線を高速データ通信回線として利用する
ものであり,また,DMTシンボルを用いて通信を行うためのトレー
ニングを行うものであるから,本件ADSLモデムを用いた伝送方法
は,構成要件4D(方法2)及び4M(方法4)の「電話回線を高速
データ通信回線として利用してDMTシンボルを用いて通信するため
のトレーニングを行うディジタル加入者線伝送方法」を充足する。
c構成要件4E(方法2),4N(方法4)及び4N(装置4)につ
いて
上記(ア)cのとおり,本件DSLAMは,スライディング・ウィン
ドウのFEXTR区間内のシンボルであるFEXTRシンボルを示す
座標(+,+)のDMTシンボルを送信し,また,スライディング・
ウィンドウのNEXTR区間内のシンボルであるNEXTRシンボル
を示す座標(+,-)のDMTシンボルを送信する(構成4b)から,
これを受信した本件ADSLモデムが,「DMTシンボルを復調」
(構成要件4E(方法2),4N(方法4)及び4N(装置4))す
ることは明らかである。また,「座標(+,+)」及び「座標(+,
-)」は,4値QAM信号点が90°異なるシンボルであることも上
記(ア)cのとおりであるから,「90°異なる位相差を持つ2種類の
信号点」(構成要件4E(方法2),4N(方法4)及び4N(装置
4))に該当する。
そして,本件ADSLモデムは,スライディング・ウィンドウのF
EXTR区間内のシンボルであるFEXTRシンボルを示す座標(+,
+)のDMTシンボル,及び,スライディング・ウィンドウのNEX
TR区間内のシンボルであるNEXTRシンボルを示す座標(+,
-)のDMTシンボルからTTRCの位相情報を検出し,当該位相情
報から,NEXTC区間とFEXTC区間を検出する(構成4e)か
ら,「90°異なる位相差を持つ2種類の信号点を用いて,スライデ
ィングウィンドウのNEXT区間とFEXT区間を検出」(構成要件
4E(方法2))及び「90°異なる位相差を持つ2種類の信号点を
用いて,スライディングウィンドウのNEXT区間とFEXT区間を
識別」(構成要件4N(方法4)及び4N(装置4))を行っている。
よって,本件ADSLモデムは,構成要件4N(装置4)を充足し,
また,本件ADSLモデムを用いた伝送方法は,構成要件4E(方法
2)及び4N(方法4)を充足する。
d構成要件4F(方法2),4O(方法4)及び4O(装置4)につ
いて
本件ADSLモデムは,「xDSL装置」であり,また,本件AD
SLモデムを用いた伝送方法は,「ディジタル加入者線伝送方法」で
あるから,本件ADSLモデムは,構成要件4O(装置4)を充足し,
また,本件ADSLモデムを用いた伝送方法は,構成要件4F(方法
2)及び4O(方法4)を充足する。
e以上のとおり,本件ADSLモデム用チップセットないし本件AD
SLモデムは,本件特許発明4-8(装置4)の技術的範囲に属し,
また,本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモデム
を使用した伝送方法は,本件特許発明4-2(方法2)及び4-5
(方法4)の技術的範囲に属する。
(ウ)まとめ
したがって,本件チップセットは,本件特許権4の直接侵害品であり,
仮に本件製品が直接侵害品であっても,本件チップセットは本件製品の
生産にのみ用いる物であるから,間接侵害品である。よって,本件チッ
プセットは,Wi-LAN社の特許権の直接侵害品ないし間接侵害品で
あるから,原告は本件基本契約18条1項に違反したものである。
また,本件DSLAMを使用すること,本件ADSLモデムを貸し渡
す若しくは譲り渡すこと,及びこれらを用いて伝送を行うことは,本件
特許権4の侵害行為となるから,この点からも,原告が本件基本契約1
8条1項に違反したことは明らかである。
(エ)原告の主張に対する反論
aオプションの構成であることについて
原告は,A24信号(24番目のキャリアの座標のエンコーディン
グ)及びA48信号(48番目のキャリアの座標のエンコーディン
グ)が構成要件4B等及び構成要件4E等のDMTシンボルに該当す
るとしても,A24信号及びA48信号をサポートしないプロファイ
ル3の構成が観念できる以上,A24信号及びA48信号の構成はA
nnex.Cに必須の構成ではないと主張する。しかし,プロファイ
ル3の場合も,本件DSLAMは,スライディングウィンドウのNE
XT区間とFEXT区間を相手方へ通知するシンボルとして,特定の
周波数キャリアを選択し,4QAMの信号点のうち,位相を90°ず
らした二つの信号点を変調して伝送している(別紙【図10】参照)。
b構成要件4B等及び構成要件4E等について
原告は,本件規格仕様書によれば,TTRCの位相情報とスライデ
ィングウインドウのNEXT区間/FEXT区間とは一致していない
と主張するが,この主張は,TTRCが「1」の区間がFEXT区間,
TTRCが「0」の区間がNEXT区間に相当することを前提にする
ものであり,かかる前提が誤りであることは上記イ(エ)で述べたとお
りである。
また,原告は,本件規格仕様書には,TTR表示信号であるA24
信号及びA48信号が,スライディングウインドウのNEXT区間/
FEXT区間を通知,検出するためのシンボルであるかについて何ら
記載がないと主張する。
しかし,構成要件4Bの「スライディングウィンドウの・・・FE
XT区間」とは,その全てが受信側FEXT区間内のシンボルであり,
「スライディングウィンドウのNEXT区間」とは,受信側NEXT
区間を含んだシンボルを意味するところ,Annex.Cに規定され
ているDSLAMの送信するFEXTRシンボルは,その全てがFE
XTR区間内のシンボルを示し,NEXTRシンボルは,NEXTR区
間を含んだシンボルを指すから,Annex.Cの「FEXTRシン
ボル」及び「NEXTRシンボル」はそれぞれ,構成要件4Bの「ス
ライディングウィンドウの・・・FEXT区間」及び「スライディン
グウィンドウのNEXT区間」に該当する。そして,Annex.C
では,座標(+,+)がFEXTRシンボルを,座標(+,-)がN
EXTRシンボルを示しており,本件DSLAMが「スライディング
ウィンドウのNEXT区間/FEXT区間を通知」していることは明
らかである。一方で,本件ADSLモデムは,DSLAMから受信し
たDMTシンボルを復調し,90°異なる位相差を持つ2種類の信号
点を用いてTTRCを検出し,このTTRCからTTRRを生成して,
上り方向のハイパーフレームとTTRRを同期するとともに,ハイパ
ーフレームの先頭からR-REVERB1の送信を開始し,また,R
-REVERB1に入った直後からカウンタを開始して,このカウン
タに従って,FEXTC又はNEXTCを識別している(別紙【図1
1】参照)。そして,FEXTC及びNEXTCは,上記同様,それ
ぞれ構成要件4E等のスライディングウィンドウのFEXT区間及び
NEXT区間に該当するから,本件ADSLモデムも,「受信したD
MTシンボルを復調し,90°異なる位相差を持つ2種類の信号点を
用いて,スライディングウィンドウのNEXT区間/FEXT区間を
識別していることは明らかである。
エ争点(1)イ(エ)(本件特許権1との抵触の有無)について
(ア)本件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMは本件特許発
明1-3(装置1)の技術的範囲に属し,また,本件DSLAM用チッ
プセット,ないし本件DSLAMを使用した伝送方法は本件特許発明1
-1(方法1)の技術的範囲に属する。
a本件チップセットはAnnex.Cに準拠するものであるから,本
件DSLAMは別紙本件製品等構成目録1記載1の構成を有する(以
下,の各構成をその符号に対応して「構成1a」などという。)。
b構成要件1A(方法1)及び1A(装置1)について
「ISDNピンポン伝送の漏話雑音の影響を受ける既存の電話回線
を高速データ通信回線として利用」(構成要件1A(方法1)及び1
A(装置1))とは,時分割制御伝送方式(TCM)を採用するIS
DNの漏話雑音の影響を受ける電話回線を利用して高速データ通信を
行うことを意味する。
一方,本件DSLAMは,構成1a記載のとおり,TCM方式を採
用したISDNのデータ・ストリームのためにNEXTノイズ及びF
EXTノイズを受ける既存の電話回線を利用してADSL方式により
通信(高速データ通信)を行い,DMTシンボルを送信するのである
から,「ISDNピンポン伝送の漏話雑音の影響を受ける既存の電話
回線を高速データ通信回線として利用」(構成要件1A(方法1)及
び1A(装置1))してDMTシンボルを送信している。
また,「400HzのTCMクロストークの1周期」(構成要件1
A(方法1)及び1A(装置1))は2.5ミリ秒であるところ,本
件DSLAMが送信するDMTシンボルは,345個のDMTシンボ
ルがTTRの32周期と一致し(構成1a),TTRの1周期は2.
5ミリ秒である。345のDMTシンボルを32周期で除すると,約
10.78となるから,本件DSLAMは,「DMTシンボル10個
分の時間を400HzのTCMクロストークの1周期と合わせること
なく該DMTシンボルを送信する」(構成要件1A(方法1)及び1
A(装置1))を満たす。
よって,本件DSLAMは,構成要件1A(装置1)を充足し,ま
た,本件DSLAMを用いた伝送方法は,構成要件1A(方法1)を
充足する。
c構成要件1B(方法1)及び1B(装置1)について
本件DSLAMは,構成1b記載のとおり,局舎から受信したTT
Rにより,受信したDMTシンボルがFEXTC区間かNEXTC区
間かを判定しており,そのような判定をする位相判定器を備えている。
そして,TTRの1周期は2.5ミリ秒であり,400Hz位相情報
(2.5ミリ秒)と同義であるから,本件DSLAMは,「ISDN
の400Hz位相情報もしくは局側から伝送された400Hz位相情
報により,受信したDMTシンボルがFEXT区間かNEXT区間か
それ以外かを判定する位相判定器」(構成要件1B(装置1))を充
足し,本件DSLAMを用いた伝送方法は,「ISDNの400Hz
位相情報もしくは局側から伝送された400Hz位相情報により,受
信したDMTシンボルがFEXT区間かNEXT区間かそれ以外かを
判定するステップ」(構成要件1B(方法1))を充足する。
d構成要件1C(方法1)及び1C(装置1)について
構成要件1C(方法1)は,「該判定結果より受信FEXT区間シ
ンボルのリファレンス信号点との差を積分して各キャリア毎のS/N
を算出するステップと,」との構成であり,構成要件1C(装置1)
は,「該位相判定器出力により受信FEXT区間シンボルのリファレ
ンス信号点との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出するFEX
T区間S/N測定器と,」との構成である。
一方,本件DSLAMは,構成1c記載のとおり,受信されたFE
XTCシンボルからSN比を算出しているが,具体的にいかなる方法
でSN比を算出するかについて,Annex.Cに規定はない。しか
し,本件チップセットの具体的な内容を熟知しているイカノス社が,
本件特許発明1に関して,具体的にこれを実施していないと指摘して
いないのは,本件DSLAM用チップセットによるSN比の測定にお
いて,受信FEXT区間シンボルのリファレンス信号点との差を積分
して各キャリア毎のS/Nを算出するからに他ならず,また,ADS
LトレーニングにおいてSN比を算出するに当たっては,送信する信
号と受信する信号との差を積分して算出することは一般的であり,む
しろそれ以外の方法は考えられない。
よって,本件DSLAMは,構成要件1C(装置1)を充足し,ま
た,本件DSLAMを用いた伝送方法は,構成要件1C(方法1)を
充足する。
e構成要件1D(方法1)及び1D(装置1)について
本件DSLAMは,構成1d記載のとおり,算出されたSN比から,
各キャリア毎に伝送するビット数を算出し,FEXT区間用ビットマ
ップ(ビットマップ-FC)を作成するから,当該機能を有する「伝
送bit数換算器」を有することも明らかである。
よって,本件DSLAMは,「該FEXT区間S/N測定器の出力
から各キャリア毎に伝送するビット数を算出し,FEXT区間用ビッ
トマップを作成する伝送bit数換算器とを有し,」(構成要件1D
(装置1))を充足し,また,本件DSLAMを用いた伝送方法は,
「該算出された各キャリア毎のS/Nから各キャリア毎に伝送するビ
ット数を算出し,FEXT区間用ビットマップを作成するステップと
を有し,」(構成要件1D(方法1))を充足する。
f構成要件1E(方法1)及び1E(装置1)について
構成要件1E(方法1)及び1E(装置1)は,「該作成されたF
EXT区間用ビットマップをスライディングウインドウの内側のビッ
トマップとして使用して,スライディングウインドウの内側のDMT
シンボルでデータ伝送を行う」との構成要件である。ここで,「スラ
イディングウインドウの内側のDMTシンボル」とは,受信側にとっ
てのFEXT区間に受信するDMTシンボルのことである。
一方で,構成1d記載のとおり,本件DSLAMで作成されたビッ
トマップ-FCは,ADSLモデムに送信され,FEXTビットマッ
プ・モードを選択した場合,ADSLモデムは,受信したビットマッ
プ-FCをFEXTCシンボルのビットマップとして使用して,FE
XTCシンボルでデータ伝送を行う(構成1e)。そして,FEXT
Cシンボルとは,すべてがFEXTC区間内のシンボルを意味し,F
EXTC区間とは,DSLAMとってのFEXT区間を意味すること
から,FEXTCシンボルは,「スライディングウインドウの内側の
DMTシンボル」(構成要件1E(方法1)及び1E(装置1))に
該当する。また,本件DSLAMで作成されたビットマップ-FCは,
FEXTCシンボルのビットマップとして使用されるから,「該作成
されたFEXT区間用ビットマップ」に該当し,「スライディングウ
インドウの内側のビットマップとして使用」(構成要件1E(方法
1)及び1E(装置1))されているといえる。
よって,本件DSLAMは,構成要件1E(装置1)を充足し,ま
た,本件DSLAMを用いた伝送方法,構成要件1E(方法1)を充
足する。
g構成要件1F(方法1)及び1F(装置1)について
本件DSLAMは,「xDSL装置」(構成要件1F(装置1))
であり,また,本件DSLAMを用いた伝送方法は,「ディジタル加
入者線伝送方法」(構成要件1F(方法1))であるから,本件DS
LAMは,構成要件1F(装置1)を充足し,また,本件DSLAM
を用いた伝送方法は,構成要件1F(方法1)を充足する。
h以上のとおり,本件DSLAM用チップセットないし本件DSLA
Mは,本件特許発明1-3(装置1)の技術的範囲に属し,また,本
件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMを使用した伝送方
法は,本件特許発明1-1(方法1)の技術的範囲に属する。
(イ)本件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMは,本件特許
発明1-4(装置2)の技術的範囲に属し,また,本件DSLAM用チ
ップセットないし本件DSLAMを使用した伝送方法は,本件特許発明
1-2(方法2)の技術的範囲に属する。
a構成要件1G(方法2)及び1G(装置2)について
上記(ア)bと同様に,本件DSLAMは,構成要件1G(装置2)
を充足し,また,本件DSLAMを用いた伝送方法は,構成要件1G
(方法2)を充足する。
b構成要件1H(方法2)及び1H(装置2)について
上記(ア)cと同様に,本件DSLAMは,構成要件1H(装置2)
を充足し,また,本件DSLAMを用いた伝送方法は,構成要件1H
(方法2)を充足する。
c構成要件1I(方法2)及び1I(装置2)について
上記(ア)dで主張したとおり,本件DSLAM用チップセットによ
るSN比の測定においては,受信NEXT区間シンボルのリファレン
ス信号点との差を積分して各キャリアのS/Nを算出,若しくは受信
FEXT区間シンボルのリファレンス信号点との差を積分して各キャ
リアのS/Nを算出していることは明らかであるから,本件DSLA
Mは,「該位相判定器出力により受信NEXT区間シンボルのリファ
レンス信号点との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出するNE
XT区間S/N測定器および受信FEXT区間シンボルのリファレン
ス信号点との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出するFEXT
区間S/N測定器と,」(構成要件1I(装置2))を充足し,また,
本件DSLAMを用いた伝送方法は,「該判定結果より受信NEXT
区間シンボルのリファレンス信号点との差を積分して各キャリア毎の
S/Nを算出するもしくは受信FEXT区間シンボルのリファレンス
信号点との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出するステップ
と,」(構成要件1I(方法2))を充足する。
d構成要件1J(方法2)及び1J(装置2)について
本件DSLAMは,構成1j記載のとおり,前記算出されたSN比
から,各キャリア毎に伝送するビット数を算出し,NEXT区間用ビ
ットマップ(ビットマップ-NC)とFEXT区間用ビットマップ
(ビットマップ-FC)を作成するから,当該機能を有する「伝送b
it数換算器」を有することも明らかである。
よって,本件DSLAMは,「該NEXT区間S/N測定器の出力
およびFEXT区間S/N測定器の出力から各キャリア毎に伝送する
ビット数を算出し,NEXT区間用ビットマップおよびFEXT区間
用ビットマップを作成する伝送bit数換算器とを有し,」(構成要
件1J(装置2))を充足し,また,本件DSLAMを用いた伝送方
法は,「該判定結果より受信NEXT区間シンボルのリファレンス信
号点との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出するもしくは受信
FEXT区間シンボルのリファレンス信号点との差を積分して各キャ
リア毎のS/Nを算出するステップと,」(構成要件1J(方法
2))を充足する。
e構成要件1K(方法2)及び1K(装置2)について
構成要件1K(方法2)及び1K(装置2)は,「該作成されたN
EXT区間用ビットマップとFEXT区間用ビットマップをスライデ
ィングウインドウのそれぞれ外側と内側のビットマップとして使用し
てデータ伝送を行う」との構成要件である。ここで,スライディング
ウインドウの内側のビットマップとは,受信側にとってのFEXT区
間に受信するDMTシンボルを送信する際に用いるビットマップであ
り,スライディングウインドウの外側のビットマップとは,受信側に
とってのNEXT区間で受信するDMTシンボルを送信する際に用い
るビットマップである。
一方,構成要件1j記載のとおり,本件DSLAMで作成されたビ
ットマップ-NC及びビットマップ-FCは,ADSLモデムに送信
され,デュアルビットマップ・モードを選択した場合,ADSLモデ
ムは,受信したビットマップ-NC及びビットマップ-FCを,NE
XTCシンボル及びFEXTCシンボルのビットマップとして使用し
て,NEXTCシンボル及びFEXTCシンボルでデータ伝送を行う
(構成1k)。そして,上記(ア)fで主張のとおり,ビットマップ-
FCは,スライディングウインドウの内側のDMTシンボルのビット
マップとして使用されるから,「スライディングウインドウの・・・
内側のビットマップ」(構成要件1K(方法2)及び1K(装置
2))に該当する。また,NEXTCシンボルとは,NEXTC区間
を含んだシンボルを意味し,NEXTC区間とは,DSLAMにとっ
てのNEXT区間を意味することから,NEXTCシンボルは,DS
LAM(受信側)にとってのNEXT区間で受信するDMTシンボル
(=「スライディングウインドウの・・・外側」のDMTシンボル)
である。そして,ビットマップ-NCは,構成1k記載のとおり,N
EXTCシンボルを送信する際に使用されるから,「スライディング
ウインドウの・・・外側のビットマップ」(構成要件1K(方法2)
及び1K(装置2))に該当する。
よって,本件DSLAMは,構成要件1K(装置2)を充足し,ま
た,本件DSLAMを用いた伝送方法は,構成要件1K(方法2)を
充足する。
f構成要件1L(方法1)及び1L(装置1)について
本件DSLAMは,「xDSL装置」であり,また,本件DSLA
Mを用いた伝送方法は,「ディジタル加入者線伝送方法」であるから,
本件DSLAMは,構成要件1L(装置1)を充足し,また,本件D
SLAMを用いた伝送方法は,構成要件1L(方法1)を充足する。
g以上のとおり,本件DSLAM用チップセットないし本件DSLA
Mは,本件特許発明1-4(装置2)の技術的範囲に属し,また,本
件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMを使用した伝送方
法は,本件特許発明1-2(方法2)の技術的範囲に属する。
(ウ)本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモデムは本
件特許発明1-3(装置1)の技術的範囲に属し,また,本件ADSL
モデム用チップセットないし本件ADSLモデムを使用した伝達方法は
本件特許発明1-1(方法1)の技術的範囲に属する。
a本件チップセットはAnnex.Cに準拠するものであるから,本
件ADSLモデムは別紙本件製品目録1記載2の構成を有する(以
下,各構成をその符号に対応して「構成1a’」などという。)。
b構成要件1A(方法1)及び1A(装置1)について
本件ADSLモデムは,構成要件1a’記載のとおり,TCM方式
を採用したISDNのデータ・ストリームのためにNEXTノイズ及
びFEXTノイズを受ける既存の電話回線を利用してADSL方式に
より通信(高速データ通信)を行い,DMTシンボルを送信するから,
上記(ア)bで主張のとおり,「ISDNピンポン伝送の漏話雑音の影
響を受ける既存の電話回線を高速データ通信回線として利用」(構成
要件1A(方法1)及び1A(装置1))してDMTシンボルを送信
しているといえる。
また,本件ADSLモデムが,「DMTシンボル10個分の時間を
400HzのTCMクロストークの1周期と合わせることなく該DM
Tシンボルを送信する」(構成要件1A(方法1)及び1A(装置
1))ことは,上記(ア)bと同様である。
よって,本件ADSLモデムは,構成要件1A(装置1)を充足し,
また,本件ADSLモデムを用いた伝送方法は,構成要件1A(方法
1)を充足する。
c構成要件1B(方法1)及び1B(装置1)について
本件ADSLモデムは,構成1b’記載のとおり,DSLAMから
受信したTTRにより,受信したDMTシンボルがFEXTR区間か
NEXTR区間かを判定しており,そのような判定をする位相判定器
を備えている。そして,TTRは,「TCM-ISDNのタイミング
基準」のことであり,その1周期は2.5ミリ秒であるから,400
Hz位相情報と同義である。
よって,本件ADSLモデムは,「ISDNの400Hz位相情報
もしくは局側から伝送された400Hz位相情報により,受信したD
MTシンボルがFEXT区間かNEXT区間かそれ以外かを判定する
位相判定器と,」(構成要件1B(装置1))を充足し,また,本件
ADSLモデムを用いた伝送方法は,「ISDNの400Hz位相情
報もしくは局側から伝送された400Hz位相情報により,受信した
DMTシンボルがFEXT区間かNEXT区間かそれ以外かを判定す
るステップと,」(構成要件1B(方法1))を充足する。
d構成要件1C(方法1)及び1C(装置1)について
本件ADSLモデムは,構成1c’記載のとおり,FEXTビット
マップ・モードの場合,受信されたFEXTRシンボルからSN比を
算出しているが,具体的にいかなる方法でSN比を算出するかについ
て,Annex.Cには規定がない。しかし,上記(ア)dで述べたと
ころと同様の理由で,本件ADSLモデム用チップセットによるSN
比の測定においては,受信FEXT区間シンボルのリファレンス信号
点との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出しているといえる。
よって,本件ADSLモデムは,「該位相判定器出力により受信F
EXT区間シンボルのリファレンス信号点との差を積分して各キャリ
ア毎のS/Nを算出するFEXT区間S/N測定器と」(構成要件1
C(装置1))を充足し,また,本件ADSLモデムを用いた伝送方
法は,「該判定結果より受信FEXT区間シンボルのリファレンス信
号点との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出するステップ
と,」(構成要件1C(方法1))を充足する。
e構成要件1D(方法1)及び1D(装置1)について
本件ADSLモデムは,構成1d’記載のとおり,算出されたSN
比から,各キャリア毎に伝送するビット数を算出し,FEXT区間用
ビットマップ(ビットマップ-FR)を作成するから,当該機能を有
する「伝送bit数換算器」を有することも明らかである。
よって,本件ADSLモデムは,「該FEXT区間S/N測定器の
出力から各キャリア毎に伝送するビット数を算出し,FEXT区間用
ビットマップを作成する伝送bit数換算器とを有し,」(構成要件
1D(装置1))を充足し,また,本件ADSLモデムを用いた伝送
方法は,「該算出された各キャリア毎のS/Nから各キャリア毎に伝
送するビット数を算出し,FEXT区間用ビットマップを作成するス
テップとを有し,」(構成要件1D(方法1))を充足する。
f構成要件1E(方法1)及び1E(装置1)について
構成1d’記載のとおり,本件ADSLモデムで作成されたビット
マップ-FRは,DSLAMに送信され,FEXTビットマップ・モ
ードを選択した場合,DSLAMにおいて,受信したビットマップ-
FRをFEXTRシンボルのビットマップとして使用して,FEXTR
シンボルでデータ伝送を行う(構成1e’)。そして,FEXTRシ
ンボルとは,すべてがFEXTR区間内のシンボルを意味し,FEX
TR区間とは,ADSLモデムにとってのFEXT区間を意味するこ
とから,FEXTRシンボルは,「スライディングウインドウの内側
のDMTシンボル」(構成要件1E(方法1)及び1E(装置1))
に該当する。また,本件ADSLモデムで作成されたビットマップ-
FRは,FEXTRシンボルのビットマップとして使用されるから,
「該作成されたFEXT区間用ビットマップ」に該当し,「スライデ
ィングウインドウの内側のビットマップとして使用」(構成要件1E
(方法1)及び1E(装置1))されているといえる。
よって,本件ADSLモデムは,構成要件1E(装置1)を充足し,
また,本件ADSLモデムを用いた伝送方法は,構成要件1E(方法
1)を充足する。
g構成要件1F(方法1)及び1F(装置1)について
本件ADSLモデムは,「xDSL装置」であり,また,本件AD
SLモデムを用いた伝送方法は,「ディジタル加入者線伝送方法」で
あるから,本件ADSLモデムは,構成要件1F(装置1)を充足し,
また,本件ADSLモデムを用いた伝送方法は,構成要件1F(方法
1)を充足する。
h以上のとおり,本件ADSLモデム用チップセットないし本件AD
SLモデムは,本件特許発明1-3(装置1)の技術的範囲に属し,
また,本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモデム
を使用した伝送方法は,本件特許発明1-1(方法1)の技術的範囲
に属する。
(エ)本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモデムは本
件特許発明1-2(装置2)の技術的範囲に属し,また,本件ADSL
モデム用チップセットないし本件ADSLモデムを使用した伝達方法は
本件特許発明1-4(方法2)の技術的範囲に属する。
a構成要件1G(方法2)及び1G(装置2)について
上記(ウ)bと同様に,本件ADSLモデムは,構成要件1G(装置
2)を充足し,また,本件ADSLモデムを用いた伝送方法は,構成
要件1G(方法2)を充足する。
b構成要件1H(方法2)及び1H(装置2)について
上記(ウ)cと同様に,本件ADSLモデムは,構成要件1H(装置
2)を充足し,また,本件ADSLモデムを用いた伝送方法は,構成
要件1H(方法2)を充足する。
c構成要件1I(方法2)及び1I(装置2)について
上記(ウ)dで主張したとおり,本件ADSLモデム用チップセット
によるSN比の測定においては,受信NEXT区間シンボルのリファ
レンス信号点との差を積分して各キャリアのS/Nを算出,若しくは
受信FEXT区間シンボルのリファレンス信号点との差を積分して各
キャリアのS/Nを算出していることは明らかであるから,本件AD
SLモデムは,「該位相判定器出力により受信NEXT区間シンボル
のリファレンス信号点との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出
するNEXT区間S/N測定器および受信FEXT区間シンボルのリ
ファレンス信号点との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出する
FEXT区間S/N測定器と,」(構成要件1I(装置2))を充足
し,また,本件ADSLモデムを用いた伝送方法は,「該判定結果よ
り受信NEXT区間シンボルのリファレンス信号点との差を積分して
各キャリア毎のS/Nを算出するもしくは受信FEXT区間シンボル
のリファレンス信号点との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出
するステップと,」(構成要件1I(方法2))を充足する。
d構成要件1J(方法2)及び1J(装置2)
本件ADSLモデムは,構成1j’記載のとおり,,前記算出され
たSN比から,各キャリア毎に伝送するビット数を算出し,NEXT
区間用ビットマップ(ビットマップ-NR)とFEXT区間用ビット
マップ(ビットマップ-FR)を作成するから,当該機能を有する
「伝送bit数換算器」を有することも明らかである。
よって,本件ADSLモデムは,「該NEXT区間S/N測定器の
出力およびFEXT区間S/N測定器の出力から各キャリア毎に伝送
するビット数を算出し,NEXT区間用ビットマップおよびFEXT
区間用ビットマップを作成する伝送bit数換算器とを有し,」(構
成要件1J(装置2))を充足し,また,本件ADSLモデムを用い
た伝送方法は,「該判定結果より受信NEXT区間シンボルのリファ
レンス信号点との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出するもし
くは受信FEXT区間シンボルのリファレンス信号点との差を積分し
て各キャリア毎のS/Nを算出するステップと,」(構成要件1J
(方法2))を充足する。
e構成要件1K(方法2)及び1K(装置2)
構成要件1j’記載のとおり,本件ADSLモデムで作成されたビ
ットマップ-NR及びビットマップ-FRは,DSLAMに送信され,
デュアルビットマップ・モードを選択した場合,DSLAMは,受信
したビットマップ-NR及びビットマップ-FRを,NEXTRシンボ
ル及びFEXTRシンボルのビットマップとして使用して,NEXT
Rシンボル及びFEXTRシンボルでデータ伝送を行う(構成1
k’)。そして,上記(ウ)fで主張のとおり,ビットマップ-FRは,
スライディングウインドウの内側のDMTシンボルのビットマップと
して使用されるから,「スライディングウインドウの・・・内側のビ
ットマップ」(構成要件1K(方法2)及び1K(装置2))に該当
する。また,NEXTRシンボルとは,NEXTR区間を含んだシン
ボルを意味し,NEXTR区間とは,ADSLモデムにとってのNE
XT区間を意味することから,NEXTRシンボルは,ADSLモデ
ム(受信側)にとってのNEXT区間で受信するDMTシンボル(=
「スライディングウインドウの・・・外側」のDMTシンボル)であ
る。そして,ビットマップ-NRは,構成1k’記載のとおり,NE
XTRシンボルを送信する際に使用されるから,「スライディングウ
インドウの・・・外側のビットマップ」(構成要件1K(方法2)及
び1K(装置2))に該当する。
よって,本件ADSLモデムは,構成要件1K(装置2)を充足し,
また,本件ADSLモデムを用いた伝送方法は,構成要件1K(方法
2)を充足する。
f構成要件1L(方法2)及び1L(装置2)について
本件ADSLモデムは,「xDSL装置」であり,また,本件AD
SLモデムを用いた伝送方法は,「ディジタル加入者線伝送方法」で
あるから,本件ADSLモデムは,構成要件1L(装置2)を充足し,
また,本件ADSLモデムを用いた伝送方法は,構成要件1L(方法
2)を充足する。
g以上のとおり,本件ADSLモデム用チップセットないし本件AD
SLモデムは,本件特許発明1-4(装置2)の技術的範囲を属し,
また,本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモデム
を使用した伝送方法は,本件特許発明1-2(方法2)の技術的範囲
に属する。
(オ)まとめ
したがって,本件チップセットは,本件特許権1の直接侵害品であり,
仮に本件製品が直接侵害品であっても,本件チップセットは本件製品の
生産にのみ用いる物であるから,間接侵害品である。よって,本件チッ
プセットは,Wi-LAN社の特許権の直接侵害品ないし間接侵害品で
あるから,原告は本件基本契約18条1項に違反したものである。
また,本件DSLAMを使用すること,本件ADSLモデムを貸し渡
す若しくは譲り渡すこと,及びこれらを用いて伝送を行うことは,本件
特許権1の侵害行為となるから,この点からも,原告が本件基本契約1
8条1項に違反したことは明らかである。
(カ)原告の主張に対する反論
a「位相情報」について,
原告は,NDMTは単なるカウンタ値であって位相を示すものではな
いと主張するが,NDMTは400Hz位相情報により同期されたDM
Tシンボルのカウンタ値である。
b「それ以外を判定する」
原告は,Annex.Cの方法は,FEXT区間,NEXT区間の
いずれでもないものを判定しないと主張する。
しかし,本件規格仕様書の「C.7.8.3R-MEDLEY
(10.7.8の補足)」に記載されている下記の式から,FEXT
C区間,NEXTC区間のいずれでもないものが判定されることは明
らかである。
また,本件規格仕様書の「C.7.6.2C-MEDLEY(1
0.6.6の補足)」に記載されている下記の式から,FEXTR区
間,NEXTR区間のいずれでもないものが判定されることは明らか
である。
c構成要件1C等「リファレンス信号点との差を積分して各キャリア
毎のS/Nを算出する」について
原告は,構成要件1C等の「S/N」が,送信信号と受信信号との
差(雑音)を積分したものであるとの前提に立ち,SN比は送信信号
と雑音(ノイズ)との比であるから,SN比の算出方法が異なると主
張する。しかし,構成要件1C(方法1)における「該判定結果より
受信FEXT区間シンボルのリファレンス信号点との差を積分して各
キャリア毎のS/Nを算出する」とは,当該差を積分し,さらにその
値とリファレンス信号点との比を算出するものと解すべきことは明ら
かであるから,算出方法に相違はない。
また,原告は,送信信号と受信信号との差を積分する以外の方法に
よりSN比を算出することがあるとして,上記方法が一般的で,むし
ろそれ以外の方法は考えられないとする被告の主張を論難する。しか
し,SN比の算出に積分を用いないということは,ある一時点の一つ
の受信信号のみを計測し,これと送信信号との差を雑音(ノイズ)と
して,SN比を求めることを意味するが,アナログ伝送される雑音の
影響は時々刻々と変化することから,一時点の送信信号と受信信号の
差のみでは,正確なSN比は測れず,そのようなSN比の算出はあり
えない。また,原告が送信信号と受信信号との差を積分する以外の方
法の記載があるものとして挙げる文献(甲44~46)には,雑音
(ノイズ)の算出についての言及がなく,送信信号と受信信号との差
を積分せずにSN比を算出しているかは不明であるし,少なくとも,
甲44では,外来ノイズPSDの単位が「dBm/Hz」となってお
り,帯域幅1ヘルツ当たりのノイズ電力量(デシベル)により雑音
(ノイズ)を表しているから,1点の送信信号と受信信号の差により
雑音(ノイズ)を算出したものではないことが明らかである。
オ争点(1)イ(オ)(本件特許権9との抵触の有無)について
(ア)本件チップセットを用いた伝送システム(以下「本件伝送システ
ム」という。)は本件特許発明9の技術的範囲に属する。
a本件チップセットはAnnex.Cに準拠するものであるから,本
件チップセットを用いた伝送システムの構成は別紙本件製品等構成目
録9記載の構成を有する(以下,各構成をその符号に対応して「構
成9a」などという。)。
b構成要件9Aについて
本件伝送システムは,構成9a記載のとおり,既存の電話回線を介
して本件DSLAMと本件ADSLモデムが通信を行う非対称ディジ
タル加入者線伝送システムであり,本件DSLAM及び本件ADSL
モデムは,それぞれ「局側の装置」及び「加入者側の装置」(構成要
件9A)に該当する。
よって,本件伝送システムは,「既存の電話回線を介して本件DS
LAMと本件ADSLモデムが通信を行う非対称ディジタル加入者線
伝送システムにおいて,」(構成要件9A)を充足する。
c構成要件9B及び9Cについて
本件DSLAMは,構成9b・c記載のとおり,C-PILOT1
に入った直後に,NSWF(スライディング・ウィンドウ・フレーム)
カウンタを0から開始し,各DMTシンボルの送信の後にNSWFカウ
ンタをモジュロ345でインクリメント,すなわち,C-PILOT
1に入った直後に,NSFWを0からスタートし,1ずつ増してカウン
トし,345個目(NSFW=344)までカウントしたら,再度0か
らカウントする処理を行うカウンタを有している。そして,当該カウ
ントに従って,FEXTRまたはNEXTRのいずれかのシンボルで,
後続のシンボルをすべて送信することを決定する。したがって,本件
DSLAMは,DMTシンボルを連続して345番目までカウントし
(=「DMTシンボルクロックを連続して所定回数カウントすること
でDMTシンボル数のカウントを行い」(構成要件9C)),当該カ
ウントに従ってFEXTR又はNEXTRのいずれかのシンボルで送
信することを決定する(=「カウント値を用いてスライディングウイ
ンドウDEC(503)によりスライディングウインドウのFEXT
R,NEXTR,・・・の区間の特定を行う」(構成要件9C))独
自のカウンタを有している。
また,本件ADSLモデムは,構成9b・c記載のとおり,R-R
EVERB1に入った直後に,そのNSWFカウンタを開始し,各DM
Tシンボルの送信の後にNSWFカウンタを0からモジュロ345でイ
ンクリメント,すなわち,R-REVERB1に入った直後に,NS
FWを0からスタートし,1ずつ増してカウントし,345個目(NS
FW=344)までカウントしたら,再度0からカウントする処理を
行うカウンタを有している。そして,当該カウントに従って,FEX
TCまたはNEXTCのいずれかのシンボルで,後続のシンボルをす
べて送信することを決定する。したがって,本件ADSLモデムは,
DMTシンボルを連続して345番目までカウントし(=「DMTシ
ンボルクロックを連続して所定回数カウントすることでDMTシンボ
ル数のカウントを行い」(構成要件9C)),当該カウントに従って
FEXTC又はNEXTCのいずれかのシンボルで送信することを決
定する(=「カウント値を用いてスライディングウインドウDEC
(503)によりスライディングウインドウの・・・FEXTC,N
EXTCの区間の特定を行う」(構成要件9C))独自のカウンタを
有している。
よって,本件伝送システムは,構成要件9B及び9Cを充足する。
d構成要件9Dについて
本件伝送システムが,「ディジタル加入者線伝送方法」であること
は明らかであるから,構成要件9Dを充足する。
e以上のとおり,本件伝送システムは本件特許発明9の技術的範囲に
属する。
(イ)まとめ
したがって,本件チップセットは,本件特許権9の直接侵害品であり,
仮に本件伝送システムの生産及び使用が直接侵害行為であっても,本件
チップセットは本件伝送システムの生産にのみ用いる物であるから,間
接侵害品である。よって,本件チップセットは,Wi-LAN社の特許
権の直接侵害品ないし間接侵害品であるから,原告は本件基本契約18
条1項に違反したものである。
また,本件チップセットを使用して本件伝送システムを生産し,又は
本件伝送システムを用いて伝送を行うことが,本件特許権9の侵害行為
となるから,この点からも,原告が本件基本契約18条1項に違反した
ことは明らかである。
(ウ)原告の主張に対する反論
a構成要件9Bについて
原告は,DSLAM(ATU-C)とADSLモデム(ATU-
R)のカウンタは,互いに同じ値を持つように制御されているから,
それぞれ独立したものではないと主張する。しかし,「独立した」と
は,単に異なるハードウェアにおいて,物理的に独立したカウンタを
有していることを指すから,原告の主張は失当である。
b構成要件9Cについて
原告は,本件規格仕様書においては,FEXTR,NEXTR,F
EXTC,NEXTCの区間の特定を行うことは何ら開示されていな
いと主張する。しかし,構成要件9Cは「スライディングウインドウ
のFEXTR,NEXTR,FEXTC,NEXTCの区間の特定を行
う」と記載されており,「FEXTR,NEXTR,FEXTC,NE
XTCの区間の特定」ではない。そして,スライディングウインドウ
の区間の特定とは,送信シンボルが,完全にFEXTR区間又はFE
XTC区間に含まれるシンボルであるのか,その一部がNEXTR区
間又はNEXTC区間に含まれるのかの特定を行うことを意味するか
ら,本件DSLAMが,FEXTR又はNEXTRのいずれかを決定
し,本件ADSLモデムが,FEXTC又はNEXTCのいずれかを
決定することは,「スライディングウインドウのFEXTR,NEX
TR,FEXTC,NEXTCの区間の特定を行う」に該当する。
カ争点(1)イ(カ)(本件特許権7との抵触の有無)について
(ア)本件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMは,本件特許
発明7-4(装置1),7-5(装置2)及び7-6(装置3)の技術
的範囲に属し,また,本件DSLAM用チップセットないし本件DSL
AMを使用した伝送方法は,本件特許発明7-1(方法1),7-2
(方法2)及び7-3(方法3)の技術的範囲に属する。
a本件チップセットはAnnex.Cに準拠するものであるから,本
件DSLAMは別紙本件製品等構成目録7記載の構成を有する(以
下,各構成をその符号に対応して「構成7a」などという。)
b構成要件7A(方法1ないし3)及び7A(装置1ないし3)につ
いて
本件DSLAMは,構成7a記載のとおり,電話回線を高速データ
通信回線として利用して通信する非対称ディジタル加入者線伝送を行
う送受信機(xDSL装置)であるから,「xDSL装置におい
て,」(構成要件7A(装置1ないし3))を充足し,また,本件D
SLAMを用いた伝送方法は,「電話回線を高速データ通信回線とし
て利用して通信するディジタル加入者線伝送方法において,」(構成
要件7A(方法1ないし3))を充足する。
c構成要件7B(方法1ないし3)及び7B(装置1ないし3)につ
いて
構成要件7B(方法1)は,「通信を開始するために行うトレーニ
ング中に,受信側がFEXT区間に受信できるようなタイミングで,
送信側からトレーニングシーケンスの切り換えを示す信号を送信す
る」との構成であり,構成要件7B(方法2)及び7B(方法3)は,
構成要件7B(方法1)の「信号」の部分が,それぞれ「信号の先
頭」及び「シンボルの先頭」となっている。また,構成要件7B(装
置1)は,「通信を開始するために行うトレーニング中に,受信側が
FEXT区間に受信できるようなタイミングで,送信側からトレーニ
ングシーケンスの切り換えを示す信号を送信する手段を有する」との
構成であり,構成要件7B(装置2)及び7B(装置3)は,構成要
件7B(装置1)の「信号」の部分が,それぞれ「信号の先頭」及び
「シンボルの先頭」となっている。
一方,本件DSLAMは,構成7b記載のとおり,トレーニングに
おける各シーケンスのうち,C-RATES1の最初のシンボルをハ
イパーフレームの初めと同期し,C-RATES1に入るタイミング
をADSLモデムに知らせるため,C-SEGUE1の最初のシンボ
ルをFEXTR区間内に送信するところ,C-SEGUE1の最初の
シンボルは,「トレーニングシーケンス」であるC-RATES1の
切り替えを本件DSLAM(=「送信側」)からADSLモデム(=
「受信側」)に示す信号に該当する。また,FEXTR区間とは,A
DSLモデムにおけるFEXT区間のことであるから,本件DSLA
Mは,受信側であるADSLモデムがFEXT区間に受信できるよう
なタイミングで,トレーニングシーケンスC-RATES1の切り替
えを示す信号であるC-SEGUE1の最初のシンボルを送信してい
るものである(別紙【図11】参照)。そして,シンボルは信号の一
種であり,最初のシンボルは「信号の先頭」(構成要件7B(方法
2)及び7B(装置2)),及び「シンボルの先頭」(構成要件7B
(方法3)及び7B(装置3))に該当する。
よって,本件DSLAMは,構成要件7B(方法1ないし3)を充
足し,また,本件DSLAMを用いた伝送方法は,構成要件7B(装
置1ないし3)を充足する。
d構成要件7C(方法1ないし3)及び件7C(装置1ないし3)に
ついて
本件DSLAMは,「xDSL装置」であり,本件DSLAMを用
いた伝送方法は,「ディジタル加入者線伝送方法」であるから,本件
DSLAMは,構成要件7C(装置1ないし3)を充足し,また,本
件DSLAMを用いた伝送方法は,構成要件7C(方法1ないし3)
を充足する。
e以上のとおり,本件DSLAM用チップセットないし本件DSLA
Mは,本件特許発明7-4(装置1),7-5(装置2)及び7-6
(装置3)の技術的範囲に属し,また,本件DSLAM用チップセッ
トないし本件DSLAMを使用した伝送方法は,本件特許発明7-1
(方法1),7-2(方法2)及び7-3(方法3)の技術的範囲に
属する。
(イ)まとめ
したがって,本件DSLAM用チップセットは,本件特許権7の直接
侵害品であり,仮に本件DSLAMが直接侵害品であっても,本件DS
LAM用チップセットは本件DSLAMの生産にのみ用いる物であるか
ら,間接侵害品である。よって,本件DSLAM用チップセットは,W
i-LAN社の特許権の直接侵害品ないし間接侵害品であるから,原告
は本件基本契約18条1項に違反したものである。
また,本件DSLAM用チップセットを使用してDSLAMを使用す
ること,及びこれらを用いて伝送を行うことは,本件特許権7の侵害行
為となるから,この点からも,原告が本件基本契約18条1項に違反し
たことは明らかである。
(ウ)原告の主張に対する反論
a構成要件7B「トレーニングシーケンスの切り替えを示す信号」に
ついて
原告は,トレーニング区間はC-REVERB1からC-SEGU
E1までの区間であり,それ以後の区間であるC-RATES1はト
レーニングシーケンスではないと主張する。しかし,上記イ(エ)で述
べたところと同様に,構成要件7Bの「通信を行うためのトレーニン
グ」は,少なくともSN比の測定を行う区間までのことをいうもので
あり,SN比の測定を行う区間であるC-MEDLEYよりも前の区
間であるC-RATES1がトレーニングシーケンスに該当すること
は明らかである(別紙【図11】参照)。
b構成要件7B「受信側がFEXT区間に受信できるようなタイミン
グ」について
原告は,FEXTR区間はあくまで推定される区間であり,受信側
のFEXT区間と同一ではなく,DSLAM(ATU-C)が送信す
るタイミングとADSLモデム(ATU-R)が受信するタイミング
も,DSLAMとADSLモデム間の信号の伝送遅延のため,同一で
はないと主張する。
しかし,Annex.Cにおいては,伝送遅延も考慮に入れて受信
側FEXT区間を推定しており,FEXTR区間が受信側FEXT区
間であることは明らかである。
キ争点(1)イ(キ)(本件特許権8との抵触の有無)について
(ア)本件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMは本件特許発
明8-2(装置)の技術的範囲に属し,また,本件DSLAM用チップ
セットないし本件DSLAMを使用した伝送方法は本件特許発明8-1
(方法)の技術的範囲に属する。
a本件チップセットはAnnex.Cに準拠するものであるから,本
件DSLAMは別紙本件製品等構成目録8記載1の構成を有する(以
下,各構成をその符号に対応して「構成8a」などという。)。
b構成要件8A(方法)及び8A(装置)について
本件DSLAMは,構成8a記載のとおり,TCM-ISDNのデ
ータ・ストリームによって,ノイズの影響を受け,当該環境下におい
て送受信機(=トランシーバ)トレーニングを行う非対称ディジタル
加入者線伝送を行うADSL装置であるから,本件DSLAMは,
「TCM-ISDNからのノイズ環境下における電話回線をデータ通
信回線として利用するADSL装置において,」(構成要件8A(装
置))を充足し,また,本件DSLAMを用いた伝送方法は,「TC
M-ISDNからのノイズ環境下におけるトランシーバトレーニング
を行うディジタル加入者線伝送方法において,」(構成要件8A(方
法))を充足する。
c構成要件8B(方法)及び8B(装置)について
本件DSLAMは,構成8b記載のとおり,プロファイル3により
イニシャライゼーションを行う場合,送受信機トレーニングにおいて
NEXTRシンボルの中で信号を送信せず,FEXTRシンボルの中
でのみ信号を送信するところ,ここで,プロファイル3とは,上り信
号(ADSLモデムからDSLAMへの送信)はビットマップ-FC
のみを,下り送信(DSLAMからADSLモデムへの送信)はビッ
トマップ-FRのみを使用する動作モードのことであるから,この場
合,1種類のビットマップ(ビットマップ-FR)によりトレーニン
グを行うことを意味する。そして,本件DSLAMは,構成8b記載
のとおり,FEXTRシンボル(=すべてがFEXTR区間内のシン
ボル)中でのみ信号を送信するのであるから,本件DSLAMを用い
た伝送方法では,「シングルビットマップでイニシャライゼーション
を行う場合(=プロファイル3の場合),スライディングウィンドウ
のFEXT区間のみでトレーニングを行う」のであり,本件DSLA
Mはかかる手段を有している。
よって,本件DSLAMは,「ADSL装置のトレーニング時,ス
ライディングウィンドウのFEXT区間のみ,ADSL装置の信号を
送出する手段」(構成要件8A(装置))を充足し,また,本件DS
LAMを用いた伝送方法は,「シングルビットマップでイニシャライ
ゼーションを行う場合,スライディングウィンドウのFEXT区間の
みでトレーニングを行う」を充足する。
d構成要件8C(方法)及び8C(装置)について
本件DSLAMは,「ADSL装置」であり,本件DSLAMを用
いた伝送方法は,「ディジタル加入者線伝送方法」であるから,本件
DSLAMは,構成要件8C(装置)を充足し,また,本件DSLA
Mを用いた伝送方法は,構成要件8C(方法)を充足する。
e以上のとおり,本件DSLAM用チップセットないし本件DSLA
Mは,本件特許発明8-2(装置)の技術的範囲に属し,また,本件
DSLAM用チップセットないし本件DSLAMを使用した伝送方法
は,本件特許発明8-1(方法)の技術的範囲に属する。
(イ)本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモデムは本
件特許発明8-2(装置)の技術的範囲に属し,また,本件ADSLモ
デム用チップセットないし本件ADSLモデムは本件特許発明8-1
(方法)の技術的範囲に属するか。
a本件チップセットはAnnex.Cに準拠するものであるから,本
件ADSLモデムは別紙本件製品等構成目録8記載2の構成を有する
(以下,各構成をその符号に対応して「構成8a’」などとい
う。)
b構成要件8A(方法)及び8A(装置)について
本件ADSLモデムは,構成8a’記載のとおり,TCM-ISD
Nのデータ・ストリームによって,ノイズの影響を受け,当該環境下
において送受信機(=トランシーバ)トレーニングを行う非対称ディ
ジタル加入者線伝送を行うADSL装置であるから,本件ADSLモ
デムは,上記(ア)bと同様に,構成要件8A(装置)を充足し,また,
本件ADSLモデムを用いた伝送方法は,構成要件8A(方法)を充
足する。
c構成要件8B(方法)及び8B(装置)について
本件ADSLモデムは,構成8b’記載のとおり,FEXTビット
マップ・モードによりイニシャライゼーションを行う場合,送受信機
トレーニングにおいてNEXTCシンボルの中で信号を送信せず,F
EXTCシンボルの中でのみ信号を送信するところ,ここで,FEX
Tビットマップ・モードとは,ビットマップ-NCが無効であること,
すなわち,ビットマップ-FCのみを使用して信号を送信するモード
を意味する。そして,本件ADSLモデムは,構成8b’記載のとお
り,FEXTCシンボル(=すべてがFEXTC区間内のシンボル)
中でのみ信号を送信するのであるから,本件ADSLモデムを用いた
伝送方法では,「シングルビットマップでイニシャライゼーションを
行う場合(=FEXTビットマップ・モードの場合),スライディン
グウィンドウのFEXT区間のみでトレーニングを行う」(構成要件
8B(方法)及び8B(装置))のであり,本件ADSLモデムはか
かる手段を有している。
よって,本件ADSLモデムは,構成要件8B(装置)を充足し,
また,本件ADSLモデムを用いた伝送方法は,構成要件8B(方
法)を充足する。
d構成要件8C(方法)及び8C(装置)
本件ADSLモデムは,「ADSL装置」であり,本件ADSLモ
デムを用いた伝送方法は,「ディジタル加入者線伝送方法」であるか
ら,本件ADSLモデムは,構成要件8C(装置)を充足し,また,
本件ADSLモデムを用いた伝送方法は,構成要件8C(方法)を充
足する。
e以上のとおり,本件ADSLモデム用チップセットないし本件AD
SLモデムは,本件特許発明8-2(装置)の技術的範囲に属し,ま
た,本件ADSLモデム用チップセットないし本件ADSLモデムを
用いた伝送方法は,本件特許発明8-1(方法)の技術的範囲に属す
る。
(ウ)まとめ
本件チップセットは,本件特許権8の直接侵害品であり,仮に本件製
品が直接侵害品であっても,本件チップセットは本件製品の生産にのみ
用いる物であるから,間接侵害品である。よって,本件チップセットは,
Wi-LAN社の特許権の直接侵害品ないし間接侵害品であるから,原
告は本件基本契約18条1項に違反したものである。
また,本件DSLAMを使用すること,本件ADSLモデムを貸し渡
す若しくは譲り渡すこと,及びこれらを用いて伝送を行うことは,本件
特許権8の侵害行為となるから,この点からも,原告が本件基本契約1
8条1項に違反したことは明らかである。
(エ)原告の主張に対する反論
a構成要件8B(方法)について
原告は,「トレーニング」に,ノイズの状況を調べ,各周波数帯域
の伝達ビット数を決める処理が含まれるところ,本件規格仕様書には,
このような処理が,FEXT区間のみで行われることの記載がないと
主張する。
原告の主張する処理は,Annex.CにおけるC-MEDLEY
及びR-MEDLEYのことであるが,本件規格仕様書の「C.7.
6.2C-MEDLEY(10.6.6の補足)」には,「bit
map-NRが無効(FEXTビットマップ・モード)の場合,AT
U-Cは,FEXTRシンボルの中でのみ信号を送信し,ATU-R
は,受信されたFEXTRシンボルからSN比を推定する。・・・プ
ロファイル3の場合,ATU-Cは,NEXTRシンボルで信号を送
信しない。」とあり,本件DSLAMにおいて,プロファイル3の場
合に,上記処理がスライディングウィンドウのFEXT区間でのみ行
われることが記載されている。また,本件規格仕様書の「C.7.8.
3R-MEDLEY(10.7.8の補足)」には,「bitma
p-NCが無効(FEXTビットマップ・モード)の場合,ATU-
Rは,FEXTCシンボルの中でのみ信号を送信し,ATU-Cは,
受信されたFEXTCシンボルからSN比を推定する。」とあり,本
件ADSLモデムにおいて,FEXTビットマップ・モードの場合,
上記処理がスライディングウィンドウのFEXT区間のみで行われる
ことが記載されている。したがって,原告の主張は失当である。
b構成要件8B(装置)について
(a)原告は,本件規格仕様書上,DSLAM(ATU-C)におい
て,C-PILOTn及びC-QUIENTnの区間にNEXTR
シンボルを送信しないとは記載されていないと主張する。
しかし,本件規格仕様書の「C.7.4.1C-PILOT1
(10.4.2の補足)」には,本件DSLAMがC-PILOT
1においてパイロットトーンとしてTTR表示信号を送信すること
が記載されており,また,「C.7.6チャンネル分析(ATU
-C)(10.6の補足)」のには,「C.3.4で定義されたプ
ロファイルを使用しないモデム,およびプロファイル1,2,4,
5,6を使用するモデムの場合,ATU-Cは,パイロット・トー
ンを除き,NEXTRシンボルを送信しない。プロファイル3の場
合,ATU-Cは,NEXTRシンボルで信号を送信しな
い。・・・C.3.4で定義されたプロファイルを使用しないモデ
ム,およびプロファイル1を使用するモデムの場合,bitmap
-NRが無効(FEXTビットマップ・モード)のとき,ATU-
Cは,パイロット・トーンを除き,NEXTRシンボルを送信しな
い。プロファイル3の場合,ATU-Cは,NEXTRシンボルで
信号を送信しない。」との記載があるから,本件DSLAMは,プ
ロファイル3によりイニシャライゼーションを行う場合,C-PI
LOT1においてもパイロットトーンをNEXTRシンボルで送信
しない。
また,本件規格仕様書の「C.7.4.1C-PILOT1
(10.4.2の補足)」には,プロファイル3の場合,TTR表
示信号は,連続するFEXTRシンボルの最初と最後のシンボルと,
連続するFEXTRシンボルの他のシンボルで送信することが記載
されていることから,本件DSLAMは,プロファイル3によりイ
ニシャライゼーションを行う場合,C-PILOT1においてもT
TR表示信号をNEXTRシンボルで送信しない。
さらに,本件規格仕様書の「C.7.4.2C-PILOT1
A(10.4.3の補足)には,「C-PILOT1Aには,2つ
の信号があり,C-PILOT1で送信される信号と同じである
(C.7.4.1を参照)。」との記載があるから,本件DSLA
Mは,プロファイル3によりイニシャライゼーションを行う場合,
C-PILOT1Aにおいてもパイロットトーン及びTTR表示信
号をNEXTRシンボルで送信しない。
加えて,本件規格仕様書の「C.7.1ハイパーフレームによ
るイニシャライゼーション(10.1.5の差し替え)」には,
「C.3.4で定義されたプロファイルを使用しないモデム,およ
びプロファイル1を使用するモデムの場合,次の場合を除き,AT
U-Cは,NEXTR信号としてパイロット・トーンのみを送信す
る。・・・C-QUIETn。この間,信号は送信されない。」と
の表記に続き,「プロファイル3の場合,ATU-Cは,NEXT
Rシンボルの中で信号を送信しない。」と記載されているから,本
件DSLAMは,プロファイル3によりイニシャライゼーションを
行う場合,C-QUIETnにおいても信号をNEXTRシンボル
で送信しない。
したがって,本件規格仕様書上,DSLAM(ATU-C)にお
いて,C-PILOTn及びC-QUIETnの区間にNEXTR
シンボルを送信しないことが明記されている。
(b)原告は,本件規格仕様書上,ADSLモデム(ATU-R)に
おいて,R-QUIETnの区間にNEXTCシンボルを送信する
か否かは記載されていないと主張する。
しかし,本件規格仕様書の「C.7.5送受信機トレーニング
-ATU-R(10.5の補足)」には,NEXTCシンボルを送
信するとは記載されておらず,一方で,「C.7.1ハイパーフ
レームによるイニシャライゼーション(10.1.5の差し替
え)」には,「FEXTビットマップ・モードでは,ATU-Rは,
NEXTCシンボル区間の間,信号を送信しない。」と記載されて
いるから,R-QUIETnを含めてNEXTCシンボルを送信し
ないことは明らかである。
cオプションの構成について
原告は,DSLAMにおいてプロファイル3の構成を選択するか,
また,ADSLモデムにおいてビットマップ-NCを無効とする構成
を採用するかは任意であるとするが,これらの構成を選択ないし採用
していないとすれば,平成23年当時に,イカノス社及び原告におい
てその旨が指摘されていたはずである。そうすると,これらの指摘が
なされていない以上,本件チップセットにおいてプロファイル3の構
成を選択し,ビットマップ-NCを無効とする構成を採用していたこ
とは明らかである。
ク争点(1)イ(ク)(本件特許権5との抵触の有無)について
(ア)本件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMを使用した伝
送方法は本件特許発明5の技術的範囲に属する。
a本件チップセットはAnnex.Cに準拠するものであるから,本
件DSLAMは別紙本件製品等構成目録5記載の構成を有する(以
下,各構成をその符号に対応して「構成5a」などという。)
b構成要件5A(方法)について
本件DSLAMは,構成5a記載のとおり,TCM方式を採用した
ISDNのデータ・ストリームのためにNEXTノイズ及びFEXT
ノイズを受ける既存の電話回線を利用してADSL方式により通信
(高速データ通信)を行うから,本件DSLAMを用いた伝送方法は,
構成要件5A(方法)の「ISDNピンポン伝送の漏話雑音の影響を
受ける既存の電話回線を高速データ通信回線として利用」した「ディ
ジタル加入者線伝送方法」に該当する。
また,本件DSLAMを用いた伝送方法は,構成5a記載のとおり,
DMTシンボル69個を1つのスーパーフレームとし,このスーパー
フレーム5個をハイパーフレーム(=「1つの単位」)とし,TTR
クロック(=2.5ms)(=「400Hz(2.5ms)」)の3
4倍(=「整数倍」)と合わせて,246μsの1DMTシンボルで
伝送している(別紙【図12】参照)。
よって,本件DSLAMを用いた伝送方法は,構成要件5A(方
法)を充足する。
c構成要件5B(方法)について
構成要件5B(方法)において,400Hzの34周期と,345
DMTシンボルが一致している場合,1DMTシンボルは272(=
2760×34÷345)サンプルとなる。そして,「400Hz1
周期のサンプル数である2760サンプルにおけるN個目のシンボル
の先頭を示すサンプル値」は,1個目のシンボルの先頭を示すサンプ
ル値を「0」とした場合,「272×(N-1)」で表される。ただ
し,12番目以降のDMTシンボルについて,「272×(N-
1)」で計算されるサンプルの値が,400Hz1周期のサンプル数
である2760を超えてしまうことに鑑みると,「400Hz1周期
のサンプル数である2760サンプルにおけるN個目のシンボルの先
頭を示すサンプル値」は,「272×(N-1)」を2760で除し
た余り(整数)とすべきであり,これを計算式で表すと「272×
(N-1)mod2760」(=Sとする。)となる。
そして,「加入者側FEXT区間を示すサンプル値(a)内にシン
ボル全てが入る」とは,DMTシンボルの後尾のサンプルの値がaよ
りも小さいことであるから,「S+271<a」で表される。また,
「N個目のシンボルの先頭を示すサンプルの値が,・・・FEXT区
間を示すサンプルの値(a)と加入者側NEXT区間を示すサンプル
値の(b)を加算したサンプル値を超えた場合」とは,式「S>a+
b」で表される。したがって,構成要件5B(方法)の「400Hz
1周期のサンプル数である2760サンプルにおけるN個目のシンボ
ルの先頭を示すサンプルの値が,加入者側FEXT区間を示すサンプ
ル値(a)内にシンボル全てが入るシンボルの先頭を示すサンプルの
値より小さい,又はFEXT区間を示すサンプルの値(a)と加入者
側NEXT区間を示すサンプル値の(b)を加算したサンプル値を超
えた場合,そのN番目のシンボルがFEXTの区間に該当」とは,
「S+271<a」又は「S>a+b」を充足する場合に,N番目の
シンボルがFEXT区間に該当することを意味する。
また,「該2760サンプル中のN個目のシンボルの先頭を示すサ
ンプル値が,加入者側FEXT区間を示すサンプル値(a)内にサン
プルのシンボル全てが入るシンボルの先頭を示すサンプル値以上」は,
「S+271≧a」で表され,「該2760サンプル中のN個目のシ
ンボルの先頭を示すサンプル値が,・・・FEXT区間を示すサンプ
ル値(a)と加入者側NEXT区間を示すサンプル値(b)を加算し
たサンプル値以下」とは,式「S≦a+b」で表される。よって,構
成要件5B(方法)の「該2760サンプル中のN個目のシンボルの
先頭を示すサンプル値が,加入者側FEXT区間を示すサンプル値
(a)内にサンプルのシンボル全てが入るシンボルの先頭を示すサン
プル値以上でFEXT区間を示すサンプル値(a)と加入者側NEX
T区間を示すサンプル値(b)を加算したサンプル値以下なら,その
N番目のシンボルがNEXTの区間に該当する」とは,「S+271
<a」又は「S>a+b」を充足する場合以外の場合を意味する。
これに対し,本件DSLAMは,構成5b記載のとおり,ハイパー
フレームの先頭のDMTシンボル(Ndmt=0)は,TTRの先頭,
すなわち400Hzの先頭に同期している。また,Ndmtには,0か
ら344までの番号が振られており,DMTシンボルの順序(番目)
はNdmt+1で表されるから,本件DSLAMの「S=272×Ndm
tmod2760」は,構成要件5B(方法)の「400Hz1周期
のサンプル数である2760サンプルにおけるN個目のシンボルの先
頭を示すサンプル値」に当たる。
また,構成5bの「if{(S+271<a)or(S>a+
b)}」は,Ndmt番目のDMTシンボルがFEXTR区間であるこ
とを本件DSLAMにおいて識別するための式であり,「a」及び
「b」は,それぞれFEXTR区間及びNEXTR区間を示すサンプ
ル値であるから,構成要件5B(方法)の「400Hz1周期のサン
プル数である2760サンプルにおけるN個目のシンボルの先頭を示
すサンプルの値が,加入者側FEXT区間を示すサンプル値(a)内
にシンボル全てが入るシンボルの先頭を示すサンプルの値より小さい,
又はFEXT区間を示すサンプルの値(a)と加入者側NEXT区間
を示すサンプル値の(b)を加算したサンプル値を超えた場合,その
N番目のシンボルがFEXTの区間に該当」に当たる。
さらに,本件DSLAMでは,構成5b記載のとおり,「if
{(S+271<a)or(S>a+b)}」以外は,NEXTR区
間(ADSLモデムにおけるNEXT区間のこと)と識別するから,
構成要件5B(方法)の「該2760サンプル中のN個目のシンボル
の先頭を示すサンプル値が,加入者側FEXT区間を示すサンプル値
(a)内にサンプルのシンボル全てが入るシンボルの先頭を示すサン
プル値以上でFEXT区間を示すサンプル値(a)と加入者側NEX
T区間を示すサンプル値(b)を加算したサンプル値以下なら,その
N番目のシンボルがNEXTの区間に該当することを識別する」に該
当する。
したがって,本件DSLAMを伝送方法は,構成要件5B(方法)
を充足する。
d構成要件5C(方法)について
本件DSLAMを用いた伝送方法は,「ディジタル加入者線伝送方
法」であるから,構成要件5C(方法)を充足する。
e以上のとおり,本件DSLAM用チップセットないし本件DSLA
Mを使用した伝送方法は,本件特許発明5の技術的範囲に属する。
(イ)まとめ
したがって,本件DSLAM用チップセットを用いた伝送方法は,本件
特許権5の侵害行為となり,本件DSLAMチップセットは当該伝送方法
にのみ用いる物であるから,間接侵害品である。よって,本件DSLAM
用チップセットは,Wi-LAN社の特許権の間接侵害品であるから,原
告は本件基本契約18条1項に違反したものである。
また,本件DSLAM用チップセットや本件DSLAMを使用すること
は,本件特許権5の侵害行為となるから,この点からも,原告が本件基本
契約18条1項に違反したことは明らかである。
(ウ)原告の主張に対する反論
a構成要件5B「400Hz1周期のサンプル数である2760サンプ
ル」について
原告は,本件規格仕様書では,400Hz1周期当たりのサンプル数
が5520サンプルであると主張する。しかし,原告の指摘するサンプ
ル数は,あくまで下り用のDMTシンボルのサンプル数であり,400
Hz1周期のサンプル数を示したものではない。
b構成要件5B「加入者側FEXT区間を示すサンプル値(a)内にシ
ンボルすべてが入るシンボル」について
原告は,本件規格仕様書には,「加入者側FEXT区間を示すサンプ
ル値(a)内にシンボルすべてが入るシンボル」が,具体的にどのシン
ボルであるのかについて記載がないと主張する。しかし,本件規格仕様
書には,下記の式とともに別紙【図13】が参照されており,図の2本
の破線のうち,左側のものがサンプル値(a),左側の破線から右側の
破線までがサンプル値(b)に当たるから,「加入者側FEXT区間を
示すサンプル値(a)内にシンボルすべてが入るシンボル」が具体的に
どのシンボルであるかが明記されているといえる。
thenFEXTRシンボル
thenNEXTRシンボル
ケ争点(1)イ(ケ)(本件特許権6との抵触の有無)について
(ア)本件DSLAM用チップセットないし本件DSLAMは,本件特許
発明6-2(装置)の技術的範囲に属し,また,本件DSLAM用チッ
プセット,ないし本件DSLAMを使用した伝送方法は,本件特許発明
6-1(方法)の技術的範囲に属する。
a本件チップセットはAnnex.Cに準拠するものであるから,本
件DSLAMは別紙本件製品等構成目録6記載の構成を有する(以
下,各構成をその符号に対応して「構成6a」などという。)。
b構成要件6A(方法)及び6A(装置)について
本件DSLAMは,構成6a記載のとおり,TCM方式を採用した
ISDNのデータ・ストリームのためにNEXTノイズ及びFEXT
ノイズを受ける既存の電話回線を利用してADSL方式により通信
(高速データ通信)を行い送信するxDSL装置であるから,「IS
DNピンポン伝送の漏話雑音の影響を受ける既存の電話回線を高速デ
ータ通信回線として利用」してデータ通信を行うxDSL装置に該当
する。
したがって,本件DSLAMは,「ISDNピンポン伝送の漏話雑
音の影響を受ける電話回線を高速データ通信回線として利用してデー
タ通信を行うxDSL装置において,」(構成要件6A(装置))を
充足し,また,本件DSLAMを利用した伝送方法は,「ISDNピ
ンポン伝送の漏話雑音の影響を受ける電話回線を高速データ通信回線
として利用してデータ通信を行うディジタル加入者線伝送方法におい
て,」(構成要件6A(方法))を充足する。
c構成要件6B(方法)及び6B(装置)について
構成要件6B(方法)及び6B(装置)の「FEXT区間のみデー
タ送信する方式でのスライディング・ウインドの外側のシンボル」と
は,受信側がNEXT区間で受信されるシンボルのことを意味するか
ら,構成要件6B(方法)及び6B(装置)は,FEXT区間のみデ
ータ伝送をする方式で,受信側がNEXT区間で受信されるシンボル
として,パイロット・トーンを送信するとの構成要件である。
これに対して,本件DSLAMは,構成6b記載のとおり,ビット
マップ-NRが無効(FEXTビットマップ・モード)の場合,NE
XTRシンボルとしてパイロット・トーンを送信するところ,ビット
マップ-NRが無効であるから,FEXTビットマップ・モードとは,
ビットマップ・モード-FRのみを使用して信号を送信することを意
味する。そして,ビットマップ-FRは,FEXTRシンボルを送信
する際に使用されるビットマップであり,FEXTRシンボルは,す
べてがFEXTR区間内のシンボルであるから,FEXTビットマッ
プ・モードとは,受信側であるADSLモデムがFEXT区間で受信
されるようにデータ伝送をする方式を意味する。また,本件DSLA
Mでは,受信側であるADSLモデムがFEXT区間で受信されるよ
うにデータ伝送をする方式で,NEXTRシンボル,すなわち,受信
側であるADSLモデムがNEXT区間で受信されるシンボルとして,
パイロット・トーンを送信している。
したがって,本件DSLAMは,構成要件6B(装置)を充足し,
本件DSLAMを用いた伝送方法は,構成要件6B(方法)を充足す
る。
d構成要件6C(方法)及び6C(装置)について
本件DSLAMは,「xDSL装置」であり,本件DSLAMを用
いた伝送方法は,「ディジタル加入者線伝送方法」であるから,本件
DSLAMは構成要件6C(装置)を充足し,また,本件DSLAM
を用いた伝送方法は構成要件6C(方法)を充足する。
e以上のとおり,本件DSLAM用チップセットないし本件DSLA
Mは,本件特許発明6-2(装置)の技術的範囲に属し,また,本件
DSLAM用チップセットないし本件DSLAMを使用した伝送方法
は,本件特許発明6-1(方法)の技術的範囲に属する。
(イ)まとめ
したがって,本件DSLAM用チップセットは,本件特許権6の直接
侵害品であり,仮に本件DSLAMが直接侵害品であっても,本件DS
LAM用チップセットは本件DSLAMの生産にのみ用いる物であるか
ら,間接侵害品である。よって,本件DSLAM用チップセットは,W
i-LAN社の特許権の直接侵害品ないし間接侵害品であるから,原告
は本件基本契約18条1項に違反したものである。
また,本件DSLAMを使用すること,及びこれらを用いて伝送を行
うことは,本件特許権6の侵害行為となるから,この点からも,原告が
本件基本契約18条1項に違反したことは明らかである。
(ウ)原告の主張に対する反論
原告は,「FEXT区間のみデータ送信する方式でのスライディン
グ・ウィンドの外側のシンボル」について,プロファイルを使用しない
モデム,及びプロファイル1を使用するモデムについてのみ,NEXT
Rシンボルとしてパイロット・トーンのみを送信することが記載されて
いるが,プロファイルの選択は任意であると主張する。しかし,プロフ
ァイルを使用しないものではなく,かつ,プロファイル1を選択してい
ないのであれば,平成23年当時に,イカノス社及び原告においてその
旨が指摘されていたはずである。そうすると,これらの指摘がなされて
いない以上,少なくとも本件チップセットにおいて,プロファイル1の
構成を選択していたことは明らかである。
コ間接侵害についての原告主張に対する反論
原告は,本件チップセットがAnnex.Cに準拠しているとしても,
本件チップセットはAnnex.C以外の規格にも対応しているから,本
件製品は,特許法101条1号及び4号の「その方法の使用にのみ用いる
物」ではないと主張する。
しかし,特許発明に係る方法の使用に用いる物に,当該特許発明を実施
しない使用方法自体が存する場合であっても,当該特許発明を実施しない
機能のみを使用し続けながら,当該特許発明を実施する機能は全く使用し
ないという使用形態が,その物の経済的,商業的又は実用的な使用形態と
して認められない限り,その物を製造,販売等することによって侵害行為
が誘発される蓋然性が極めて高いことに変わりはないというべきであるか
ら,なお「その方法の使用にのみ用いる物」に当たると解されるところ,
Annex.CはISDN環境下における規格であり,日本におけるIS
DNのエリアカバー率は平成14年の段階で約97%であって,本件製品
において,Annex.Cに準拠した通信を全く使用しないという使用形
態は想定されていないことからすれば,本件製品は「その方法の使用にの
み用いる物」に該当するというべきである。
(原告の主張)
ア争点(1)イ(ア)(本件特許権2との抵触の有無)について
(ア)被告は,本件規格仕様書の記載を根拠として,本件特許権2との抵
触を主張する。しかし,本件規格仕様書には,少なくとも,①「Sup
erFrameの境界を示すSyncSymbolを送信する」こ
と(構成要件2A(方法1),2A(装置1),2A(方法2)及び2
A(装置2)),②「4番目のSyncSymbolをインバースS
yncSymbolとして,加入者側のFEXT区間に送信する」
「1番目のSyncSymbolをインバースSyncSymbo
lとして,局側のFEXT区間に送信する」こと(構成要件2C(方法
1),2C(装置1),2C(方法2)及び2C(装置2)。)が記載
されておらず,これらの構成がAnnex.Cに準拠する場合に必須と
なる構成であることは示されていない。
(イ)シンクシンボルとスーパーフレームの境界について
被告は,「DSLAMは,スーパーフレームを構成するDMTシンボ
ルの最後のDMTシンボルにおいて,スーパーフレームの境界を示すシ
ンクシンボルを送信する」,「ADSLモデムは,スーパーフレームを
構成するDMTシンボルの最後のDMTシンボルには,スーパーフレー
ムの境界を示すシンクシンボルを送信する」などと主張するが,本件規
格仕様書には,一部のスーパーフレーム内にシンクシンボルと呼ばれる
シンボルが設けられていることは開示されているものの,当該シンクシ
ンボルがスーパーフレームの境界を示しているかどうかについては何ら
記載がない。
(ウ)インバースシンクシンボルについて
被告は,「DSLAMでは,ハイパーフレームの境界を示すため,4
番目のスーパーフレームにインバースシンクシンボルを使用し」,「A
DSLモデムは,ハイパーフレームの境界を示すため,1番目のスーパ
ーフレームにインバースシンクシンボルを使用し」などと主張するが,
構成要件2C(装置1)及び2C(方法1)は,4番目のSyncS
ymbolをインバースSyncSymbolとする旨規定している
のであって,4番目のスーパーフレームにインバースシンクシンボルを
使用することを規定しているものではない。また,本件規格仕様書には,
インバースSyncSymbolが用いられることは記載されている
ものの,それが4番目のSyncSymbolであるかについては何
ら記載がない。同様に,構成要件2C(装置2)及び2C(方法2)は,
1番目のSyncSymbolをインバースSyncSymbol
とする旨規定しているのであって,1番目のスーパーフレームにインバ
ースシンクシンボルを使用することを規定しているものではないし,本
件規格仕様書には,インバースSyncSymbolが用いられるこ
とは記載されているもののそれが1番目のSyncSymbolであ
るかについては何ら記載がない。
イ争点(1)イ(イ)(本件特許権3との抵触の有無)について
(ア)被告は,本件規格仕様書の記載を根拠として,本件特許権3との抵
触を主張する。しかし,本件規格仕様書には,少なくとも,①通信を行
うためのトレーニング中に,受信したDMTシンボルを測定対象外とし,
S/N測定を行うこと(構成要件3B(方法)及び3B(装置)。以
下「構成要件3B等」という。),②受信したDMTシンボルが,N
EXT区間もしくはFEXT区間に完全に入りきらないDMTシンボル
をS/N測定対象外とすること(構成要件3B等)が記載されておらず,
これらの構成がAnnex.Cに準拠する場合に必須となる構成である
ことは示されていない。
(イ)通信を行うためのトレーニング中における処理について
本件規格仕様書の「C.7.4送受信機トレーニングATU-C
(10.4の補足)」には,「C-PILOTnおよびC-QUIEN
Tnを除き,C-REVERB1からC-SEGUE1への送受信機ト
レーニングの間,bitmap-NRが有効(デュアルビットマップ・
モード)の場合,ATU-Cは,FEXTRとNEXTRの両方のシン
ボルを送信する。」との記載があることから,Annex.Cの規格上,
DSLAMにおけるトレーニング期間は,C-REVERB1からC-
SEGUE1の区間である。一方で,本件規格仕様書の「C.7.6.
2C-MEDLEY(10.6.6の補足)」の記載によれば,SN
比の推定に用いるDMTシンボルの決定処理及びSN比の推定処理は,
C-SEGUE1の後の区間であるC-MEDLEYの区間において行
われる。また,ADSLモデムの動作に関しても,本件規格仕様書の
「C.7.5送受信機トレーニングATU-R(10.5の補
足)」には,「R-QUIENTnを除き,R-REVERB1からR
-SEGUE1への送受信機トレーニングの間,bitmap-NCが
有効(デュアルビットマップ・モード)の場合,ATU-Rは,FEX
TCとNEXTCの両方のシンボルを送信し,」との記載があることか
ら,Annex.Cの規格上,ADSLモデムにおけるトレーニング期
間は,R-REVERB1からR-SEGUE1の区間である。一方で,
本件規格仕様書には,SN比の推定に用いるDMTシンボルの決定処理
及びSN比の推定処理は,R-SEGUE1の後の区間であるR-ME
DLEYの区間において行われると記載されている。
よって,本件規格仕様書には,通信を行うためのトレーニング中に,
受信したDMTシンボルを測定対象外とし,S/N測定を行うことが記
載されていない。
(ウ)S/N測定対象外とするDMTシンボルについて
構成要件3B等では,「受信したDMTシンボルが,NEXT(近端
漏話)区間もしくはFEXT区間(遠端漏話)に完全に入らないDMT
シンボルをS/N測定対象外とし」と規定されているところ,本件規格
仕様書には,FEXT区間のS/N推定のためのシンボルであるが,そ
の一部がNEXT区間に含まれるもの(本件規格仕様書の「図C.19
/G.992.1-S/N推定のためのハイパーフレーム内のシンボル
パターン-下り」の10,71,81,142,213及び284番の
DMTシンボル。),及びNEXT区間のS/N推定のためのシンボル
であるが,その一部がFEXT区間に含まれるもの(本件規格仕様書の
「図C.20/G.992.1-S/N推定のためのハイパーフレーム
内のシンボルパターン-上り」の76,147,218及び289番の
DMTシンボル。)が記載されている。
ウ争点(1)イ(ウ)(本件特許権4との抵触の有無)について
(ア)被告は,本件規格仕様書の記載を根拠として,本件特許権4との抵
触を主張する。しかし,本件規格仕様書には,少なくとも,①スライデ
ィングウィンドウのNEXT区間とFEXT区間を相手方へ通知するシ
ンボルとして,4値QAM信号点が90°異なるシンボルを伝送するこ
と(構成要件4B(方法1),4H(方法3)及び4H(装置3)。以
下「構成要件4B等」という。),及び90°異なる位相差を持つ2
種類の信号点を用いて,スライディングウィンドウのNEXT区間とF
EXT区間を検出すること(構成要件4E(方法2),4N(方法4),
4N(装置4)。以下「構成要件4E等」という。)が記載されてい
ない。また,②4値QAM信号点が90°異なるシンボルを用いて,ス
ライディングウィンドウのNEXT区間とFEXT区間を通知ないし検
出することはオプションの構成であるから,これらの構成がAnnex.
Cに準拠する場合に必須となる構成であることは示されていない。
(イ)構成要件4B等及び構成要件4E等について
被告は,本件規格仕様書に記載のA24信号及びA48信号が,トレ
ーニングシーケンスC-Pilot1の際に送受信されるものであり,
構成要件4B等及び構成要件4E等のDMTシンボルに該当する旨主張
する。しかし,本件規格仕様書の「C.7.4.1C-PILOT1
(10.4.2の補足)」には,「2番目の信号は,NEXTR/FE
XTR情報の送信に使用されるTTR表示信号である。ATU-Rは,
この信号からTTRCの位相情報を検出することができる」との記載が
あり,TTR信号としてA24信号及びA48信号が定められているも
のの,当該A24信号及びA48信号が,C-Pilot1の区間内で
どのように送受信されるのか(当該区間のどのタイミングで送受信され
るのか)については何ら記載がない。また,本件規格仕様書によれば,
TTRC(ATU-C(DSLAM)で使用されるタイミング基準)の
位相情報とスライディングウィンドウのNEXT区間/FEXT区間と
は一致していない。
したがって,上記被告の主張は失当である。
(ウ)オプションの構成であること
仮に,A24信号及びA48信号が,構成要件4B等及び構成要件4
E等のDMTシンボルに該当するとしても,A24信号又はA48信号
を送受信する構成はオプションにすぎない。本件規格仕様書には,動作
モードとして,プロファイル1~6が定義されており,このうち,プロ
ファイル3が設定される場合,TTR表示信号としては,B48信号,
B24信号,C-REVERB6-31のいずれかから選択されるが,
これらの信号がスライディングウィンドウのNEXT区間/FEXT区
間を通知,検出するためのシンボルであるとの記載はない。そして,A
nnex.Cの規格上,プロファイルの選択は任意であるから,上記プ
ロファイル3の構成が観念できる以上,A24信号及びA48信号の構
成はAnnex.Cに必須の構成ではない。
エ争点(1)イ(エ)(本件特許権1との抵触の有無)について
(ア)被告は,本件規格仕様書の記載を根拠として,本件特許権1との抵
触を主張する。しかし,本件規格仕様書には,少なくとも,①「400
Hz位相情報により,受信したDMTシンボルがFEXT区間かNEX
T区間かそれ以外かを判定する」こと(構成要件1B(方法1),1B
(装置1),1H(方法2),1H(装置2)。以下「構成要件1B
等」という。),②「受信FEXT区間シンボルのリファレンス信号
点との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出する」こと(構成要件
1C(方法1),1C(装置1),1I(方法2),1I(装置2)。
以下「構成要件1C等」という。)が記載されておらず,これらの構
成がAnnex.Cに準拠する場合に必須となる構成であることは示さ
れていない。
(イ)構成要件1B等について
被告の主張は,本件規格仕様書記載の計算式(構成1b,1h,1
b’,及び1h’に記載の各計算式。)に基づくものと解されるが,同
計算式は,フレームカウンターの値であるNDMTからシンボルの値がF
EXTとNEXTのいずれかであるかを決定するものではあるが,ND
MTは単なるカウンタ値であって,位相を示すものではないから,「I
SDNの400Hz位相情報」ではないし,「局側から伝送された40
0Hz位相情報」でもない。また,構成要件1B等は,「FEXT区間
かNEXT区間かそれ以外かを判定する」ことを規定しているところ,
同計算式は,FEXT区間とNEXT区間のいずれかを判定するもので
あり,「それ以外かを判定する」ものではない。
(ウ)構成要件1C等について
構成要件1C等の構成が本件規格仕様書で開示されていないことは,
被告も認めている。被告は,イカノス社が本件特許権1に係る発明を実
施していないことを指摘していないことを理由に,構成要件1C等に記
載の方法でSN比を算出している旨主張するが,明らかに失当である。
また,被告は,SN比の算出に当たって,送信信号と受信信号との差を
積分して算出することは一般的であるなどと主張するが,SN比とは受
信信号と雑音との比であって,送信信号と受信信号との差(雑音)を積
分したものではないし,他の方法によりSN比を算出することも開示さ
れている(甲44~46)。
オ争点(1)イ(オ)(本件特許権9との抵触の有無)について
(ア)被告は,本件規格仕様書の記載を根拠として,本件特許権9との抵
触を主張する。しかし,本件規格仕様書には,少なくとも,①局側装置
(ATU-C),加入者側装置(ATU-R)がそれぞれ独立したハイ
パーフレームカウンタ(501)を有」すること(構成要件9B),②
「スライディングウインドウDEC(503)によりスライディングウ
インドウのFEXTR,NEXTR,FEXTC,NEXTCの区間の特
定を行う」こと(構成要件9C)が記載されていない。
(イ)構成要件9Bについて
本件規格仕様書上,DSLAM(ATU-C)とADSLモデム(A
TU-R)のカウンタは,ATU-CとATU-Rの間のハイパーフレ
ームのアラインメントを維持するために,互いに同じ値を持つように制
御されており,それぞれが独立したものではない。
(ウ)構成要件9Cについて
本件規格仕様書の「C.7.4.1C-PILOT1(10.4.
2の補足)」及び「C.7.5.2R-REVERB1(10.5.
2の補足)」には,「スライディング・ウインドウ機能とこのカウンタ
に従って,ATU-Cは,FEXTRまたはNEXTRのいずれかのシ
ンボルで,後続のシンボルを全て送信することを決定する。」,「スラ
イディング・ウインドウとこのカウンタに従って,ATU-Rは,FE
XTCまたはNEXTCのいずれかのシンボルで,後続のシンボルを全
て送信することを決定する。」と規定されている。ここで,DSLAM
(ATU-C)とADSLモデム(ATU-R)は,互いに独立した別
個の装置であり,「スライディングウインドウDEC(503)」に相
当する構成があるとすれば,それは,DSLAM(ATU-C)とAD
SLモデム(ATU-R)の各々に備えられていることとなる。そして,
本件規格仕様書では,DSLAM(ATU-C)は,FEXTR又はN
EXTRのいずれかを決定することが記載されているものの,FEXT
R,NEXTR,FEXTC,NEXTCの区間の特定を行うことは何ら
示されていない。同様に,本件規格仕様書では,ADSLモデム(AT
U-R)は,FEXTc又はNEXTCのいずれかを決定することが記
載されているものの,FEXTR,NEXTR,FEXTC,NEXTC
の区間の特定を行うことは何ら示されていない。
カ争点(1)イ(カ)(本件特許権7との抵触の有無)について
(ア)被告は,本件規格仕様書の記載を根拠として,本件特許権7との抵
触を主張する。しかし,本件規格仕様書には,少なくとも「受信側がF
EXT区間内で受信できるようなタイミングで,送信側からトレーニン
グシーケンスの切り替えを示す」信号またはシンボルを送信すること
(構成要件7B(方法1~3)及び7B(装置1~3)。以下「構成
要件7B等」という。)が記載されておらず,この構成がAnnex.
Cに準拠する場合に必須となる構成であることは示されていない。
(イ)被告は,「本件DSLAMは,受信側であるADSLモデムがFE
XT区間に受信できるようなタイミングで,トレーニングシーケンスC
-RATES1の切り替えを示す信号であるC-SEGUE1の最初の
シンボルを送信している。」と主張するが,上記イで述べたとおり,ト
レーニング区間は,C-REVERB1からC-SEGUE1までの区
間であり,それ以後の区間であるC-RATES1はトレーニングシー
ケンスではない。
また,本件規格仕様書において,FEXTR区間は「ATU-Cによ
って推定されるATU-RにおけるTCM-ISDNFEXT区間」
と記載されており,あくまで推定される区間であって,受信側のFEX
T区間と同一ではなく,DSLAMとADSLモデム間の信号の伝達遅
延により,DSLAM(ATU-C)が送信するタイミングとADSL
モデム(ATU-R)が受信するタイミングも同一ではないから,本件
規格仕様書には,FEXTR区間内が「受信側がFEXT区間内で受信
できるようなタイミング」であることについて何ら記載がない。
キ争点(1)イ(キ)(本件特許権8との抵触の有無)について
(ア)被告は,本件規格仕様書の記載を根拠として,本件特許権8との抵
触を主張する。しかし,本件規格仕様書には,少なくとも,①「スライ
ディングウィンドウのFEXT区間のみでトレーニングを行うこと」
(構成要件8B(方法)),②「ADSL装置のトレーニング時,スラ
イディングウィンドウのFEXT区間のみ,ADSL装置の信号を送出
する」こと(構成要件8B(装置))が記載されておらず,③仮に記載
があったとしても,それはオプションの構成であるから,これらの構成
がAnnex.Cに準拠する場合に必須となる構成であることは示され
ていない。
(イ)構成要件8B(方法)について
被告は,「8b本件DSLAMは,プロファイル3によりイニシャ
ライゼーションを行う場合,送受信機トレーニングにおいてNEXTR
シンボルの中で信号を送信せず,FEXTRシンボルの中でのみ信号を
送信する」,「8b’本件ADSLモデムは,FEXTビットマップ・
モードでイニシャライゼーションを行う場合,送受信機トレーニングに
おいてNEXTCシンボルの中で信号を送信せず,FEXTCシンボル
の中でのみ信号を送信する」と主張する。しかし,「トレーニング」と
は,「ADSLの伝送に使う多数の周波数帯域(これをビンと呼ぶ)ご
とにノイズの状況などを調べ,そのビンで伝送するビット数を決める」
ことを意味するところ,単に信号(シンボル)を送信するという処理の
みならず,ノイズの状況を調べ,各周波数帯域の伝送ビット数を決める
処理も含まれるから,「FEXTRシンボルの中でのみ信号を送信す
る」,「FEXTCシンボルの中でのみ信号を送信する」だけでは,
「FEXT区間のみでトレーニングを行う」ことには当たらない。そし
て,本件規格仕様書には,上述したトレーニングがスライディングウィ
ンドウのFEXT区間のみで行われることについての記載はない。
(ウ)構成要件8B(装置)について
本件規格仕様書上,DSLAM(ATU-C)では,C-PILOT
n及びC-QUIETnの区間においてNEXTRシンボルを送信しな
いとは記載されておらず,同様に,ADSLモデム(ATU-R)では,
R-QUIETnの区間においてNEXTCシンボルを送信するか否か
は記載されていない。トレーニング区間であるC-PILOTn,C-
QUIETn及びR-QUIETnの区間に,FEXTRシンボルにお
いて信号を送信することは否定されていないのであるから,本件規格仕
様書に,「ADSL装置のトレーニング時,スライディングウィンドウ
のFEXT区間のみ,ADSL装置の信号を送出する」ことは記載され
ていない。
(エ)オプションの構成であること
仮に,構成要件8B(方法)及び8B(装置)の構成が,本件規格仕
様書に開示されていたとしても,これらの構成はオプションにすぎない。
本件規格仕様書の「C.7.4送受信機トレーニングATU-C
(10.4の補足)」には,DSLAMの動作に関して,「プロファイ
ル3の場合,ATU-Cは,NEXTRシンボルの中で信号を送信しな
い」と記載されているところ,プロファイルの選択は任意である。また,
本件規格仕様書の「C.7.5送受信機トレーニングATU-R
(10.5の補足)」には,ADSLモデムの動作に関して,「ATU
-Rは,・・・bitmap-NCが無効(FEXTビットマップ・モ
ード)の場合,NEXTCシンボルを送信しない。」と記載されている
ところ,同じく本件規格仕様書の「C.4.5FEXTのビットマッ
ピング(7.16の差し替え)」には,「FEXTビットマッピング・
モードは,デュアル・ビットマッピング技術(C.4.4)を使用して,
FEXTの間だけデータを送信する。オプションとして,上りと下りの
FEXTのビットマッピング・モードを別々に制御するために,モデム
は,bitmap-NCとは独立してbitmap-NRを有効または
無効とする」とされており,ビットマップ-NCを無効とする構成はオ
プションである。
ク争点(1)イ(ク)(本件特許権5との抵触の有無)について
(ア)被告は,本件規格仕様書の記載を根拠として,本件特許権5との抵
触を主張する。しかし,本件規格仕様書には,少なくとも,構成要件5
B(方法)における①「400Hz1周期のサンプル数である2760
サンプル」,②「400Hz1周期のサンプル数である2760サンプ
ルにおけるN個目のシンボルの先頭を示すサンプルの値」を用いている
こと,③「加入者側FEXT区間を示すサンプル値(a)内にシンボル
全てが入るシンボル」を用いることが記載されておらず,これらの構成
がAnnex.Cに準拠する場合に必須となる構成であることは示され
ていない。
(イ)400Hz1周期のサンプル数について
本件規格仕様書においては,1DMTシンボルは544サンプルであ
り,また,ハイパーフレームはDMT345シンボルである。そして,
ハイパーフレームは400Hzの34周期に相当する。したがって,4
00Hz1周期当たりのサンプル数は5520(=544×345/3
4)であるから,構成要件5B(方法)の「400Hz1周期のサンプ
ル数である2760サンプル」とは異なる。
(ウ)N個目のシンボルの先頭を示すサンプルの値について
被告は,「12番目のDMTシンボルは,式『272×(N番目-
1)』で計算するとサンプルの値が『2992』となり,『400Hz
1周期のサンプル数である2760サンプル』を超えてしまう。そこで,
『400Hz1周期のサンプル数である2760サンプルにおけるN個
目のシンボルの先頭を示すサンプルの値』は,式『272×(N番目-
1)』を2760で除した余り(整数)としなければならない」と主張
するが,上述のとおり,400Hz1周期のサンプル数は2760サン
プルではない。また,構成要件5B(方法)の「400Hz1周期のサ
ンプル数である2760サンプルにおけるN個目のシンボルの先頭を示
すサンプルの値」との文言は,400Hz1周期が2760サンプルで
あるとした場合にN個目のシンボルの先頭を示すサンプルの値と理解す
るのが合理的であり,被告の主張は失当である。
(エ)加入者側FEXT区間を示すサンプル値(a)内にシンボル全てが
入るシンボルについて
構成要件5B(方法)の加入者側FEXT区間を示すサンプル値
(a)内にシンボル全てが入るシンボル」が具体的にどのシンボルであ
るかについて,本件規格仕様書には記載がなく,被告もこの点について
何ら言及していない。
ケ争点(1)イ(ケ)(本件特許権6との抵触の有無)について
(ア)被告は,本件規格仕様書の記載を根拠として,本件特許権6との抵
触を主張する。しかし,本件規格仕様書には,少なくとも,①「FEX
T区間のみデータを伝送する方式でのスライディング・ウインドの外側
のシンボルとして,パイロット・トーンを送信する」こと(構成要件6
B(方法),6B(装置))が記載されておらず,また,②仮に記載が
あったとしても,それはオプションの構成であるから,この構成がAn
nex.Cに準拠する場合に必須となる構成であることは示されていな
い。
(イ)「FEXT区間のみデータ伝送する方式でのスライディング・ウイ
ンドの外側のシンボル」について
被告は,特許明細書(乙1の6)の段落【0041】及び図7の記載
を根拠として,「スライディングウインドウの内側のシンボルは,受信
側がFEXT区間で受信されるシンボルである。したがって,構成要件
6B(方法)・同(装置)の『FEXT区間のみデータ伝送する方式で
のスライディング・ウインドの外側のシンボル』とは,受信側がNEX
T区間で受信されるシンボルのことを意味する」と主張する。しかし,
上記図7には,スライディング・ウインドの内側のシンボル(判決注:
(5)の左から1番目シンボル)の一部が,受信側のNEXT区間(送信
側のFEXT区間)で受信されており,また,スライディング・ウイン
ドの外側のシンボル((5)の左から5番目のシンボル)の一部が,受信
側のFEXT区間(送信側のNEXT区間)で受信されている。よって,
スライディング・ウインドウの内側のシンボルは,受信側がFEXT区
間で受信されるシンボルではなく,スライディング・ウインドの外側の
シンボルが,受信側がNEXT区間で受信されるシンボルであるとして
展開される被告の主張は誤りである。
(ウ)オプションの構成であること
仮に,スライディング・ウインドの外側のシンボルが,受信側がNE
XT区間で受信されるシンボルを意味するとしても,「FEXT区間の
みデータを伝送する方式でのスライディング・ウインドの外側のシンボ
ルとして,パイロット・トーンを送信する」構成はオプションにすぎな
い。本件規格仕様書には,動作モードとしてプロファイル1~6が定義
されているが,当該プロファイルを使用しないモデム,及びプロファイ
ル1を使用するモデムについてのみ,NEXTRシンボルとしてパイロ
ット・トーンのみを送信することが記載されている。そして,Anne
x.Cの規格上,プロファイルの選択は任意であり,あるプロファイル
をサポートする(しない)場合に限り実行される構成は,必須の構成で
あるとはいえない。
コ間接侵害について
本件チップセットは,Annex.C以外の規格,例えばAnnex.
AやGspanにも対応しているから,本件チップセットを搭載した本件
DSLAM及び本件ADSLモデムは,特許法101条1号及び4号の
「その方法の使用にのみ用いる物」には当たらない。
(3)争点(1)ウ(本件特許2は無効理由を有するか)について
(被告の主張)
原告は,本件特許2は無効理由を有すると主張するが,以下のとおり,原
告の主張には理由がない。
ア公知文献について
原告が根拠として挙げる文献(甲48~50。以下,証拠番号に対応
して「甲48文献」などという。)はいずれも国際電気通信連合(IT
U-T)の会合の資料とされる文書であるが,これらの公知性は明らかで
はない。
イ容易想到性について
(ア)相違点1について
原告は,本件特許発明2(方法1)と甲48文献に開示されている発
明(以下「甲48発明」という。)とは,「一つのスーパーフレーム
に含まれるDMTシンボルの個数が,本件特許発明2(方法1)では6
9個であるのに対し,甲48発明では68個である点」(相違点1)で
相違するところ,甲49文献及び甲50文献には,一つのスーパーフレ
ームに69個のDMTシンボルが含まれることが開示されているから,
相違点1に係る構成は,当業者が容易に想到し得ると主張し,本件特許
発明2(装置1),本件特許発明2(方法2)及び本件特許発明2(装
置2)についても,同様の主張をする。
しかし,甲48文献,甲49文献及び甲50文献はいずれも,1シン
ボルを250マイクロ秒とし,10シンボルを2.5ミリ秒として,T
CM-ISDN1周期に合わせた構成を開示しているところ,甲48発
明は,DMTシンボル68個を1スーパーフレームとし,5個のスーパ
ーフレーム(340シンボル)を1スーパー・スーパーフレームとして,
TCM400Hz(2.5ms)の34倍に合わせているのに対し,甲
49文献及び甲50文献記載の技術は,DMTシンボル69個を1スー
パーフレームとして,10個のスーパーフレームを1スーパー・スーパ
ーフレーム(690シンボル)として,TCM400Hz(2.5m
s)の69倍に合わせている。すなわち,甲49文献及び甲50文献記
載の技術においては,5個のスーパーフレームを1単位としても,86.
25ミリ秒(=250マイクロ秒×69個×5個)となり,TCM40
0Hz(2.5ms)の整数倍にならない。
そうすると,本件特許発明2(方法1)の構成要件2Aが,「前記S
upreFrame5個を1つの単位とし,その単位をTCM400
Hz(2.5ms)の整数倍に合わせ」との構成を含むものである以上,
甲48発明に,甲49文献及び甲50文献記載の技術を組み合わせたと
しても,相違点1に係る構成を容易に想到できないことは明らかであり,
本件特許発明2(装置1),本件特許発明2(方法2)及び本件特許発
明2(装置2)についても同様である。
そもそも,本件特許発明2は,甲48文献,甲49文献及び甲50文
献に記載された,1DMTシンボル当たり250μSとし,TCMC
ross-talkの1周期とDMTシンボル10個分の時間を合わせ
る構成の課題を解決するものであり,かかる構成を前提とした文献を組
み合わせても,容易に想到することができない。
(イ)相違点2について
原告は,本件特許発明2(方法1)と甲48文献とは,「本件特許発
明2(方法1)では,SuperFrame5個の境界を加入者側に
送信するために4番目のシンクシンボルをインバース・シンクシンボル
とするのに対し,甲48発明では,スーパー・スーパーフレームの最終
フレームを示すために5番目のシンクシンボルをインバース・シンクシ
ンボルとする点」(相違点2)で相違するところ,ハイパーフレームな
いしスーパー・スーパーフレームの境界を示すために,5個のシンクシ
ンボルのうち何番目のシンクシンボルをインバースシンクシンボルとし
て選択するかは,当業者の設計事項にすぎないと主張し,本件特許発明
2(装置1),本件特許発明2(方法2)及び本件特許発明2(装置
2)についても,同様の主張をする。
しかし,甲48発明は,本件特許発明2(方法1)のようなフレーム
構造を有しない以上,FEXT区間で受信できるシンクシンボルを特定
することはできず,何番目のシンクシンボルをインバースシンクシンボ
ルとするかについて,甲48発明に基づいて想到することはできない。
このことは,本件特許発明2(装置1),本件特許発明2(方法2)及
び本件特許発明2(装置2)についても,同様である。
(原告の主張)
本件特許発明2(方法1)は,本件特許2の出願(原出願)前に頒布され
た刊行物である甲48文献記載の発明(甲48発明)に基づき,当業者が容
易に想到できたものである。
ア甲48文献には,以下の発明(甲48発明)が開示されている。
aTCM-ISDNによるFEXT/NEXTの影響を受ける電話回線,
すなわち,TCM400Hzの前半のサイクル,後半のサイクルでI
SDNからの近端漏話(NEXT)や遠端漏話(FEXT)の影響を
受ける電話回線を経由して,シンボル68個を1つのスーパーフレー
ムとし,各スーパーフレームの最後のシンボルの位置にシンクシンボ
ルを挿入して送信するディジタル加入者線伝送方法であって,
bスーパー・スーパーフレームは,スーパーフレーム5個を1つの単位
とし,その単位(85ミリ秒)は,TCM400Hz(2.5ms)
の整数倍(34倍)に合わせられており,
cATU-C(局側ADSL装置)は,スーパー・スーパーフレームの
最終フレームを加入者側に示すために,5番目のシンクシンボルをイ
ンバース・シンクシンボルとし,加入者側のFEXT区間(FEXT
R区間)において,4個の下りビットマップAデータシンボル(DS
-A)を送信する。
c’ATU-R(加入者側ADSL装置)は,スーパー・スーパーフレ
ームの最終フレームを局側に示すために,5番目のシンクシンボル
をインバース・シンクシンボルとし,局側のFEXT区間(FEX
TC区間)において,4個の下りビットマップBデータシンボル
(US-B)を送信する。
イ本件特許発明2(方法1)
(ア)相違点
本件特許発明2(方法1)と甲48発明は,以下の点で相違し,その
余の点で一致する。
a一つのスーパーフレームに含まれるDMTシンボルの個数が,本件
特許発明2(方法1)では69個であるのに対し,甲48発明では6
8個である点(相違点1)
b本件特許発明2(方法1)では,SuperFrame5個の境
界を加入者側に送信するために4番目のシンクシンボルをインバー
ス・シンクシンボルとするのに対し,甲48発明では,スーパー・ス
ーパーフレームの最終フレームを示すために5番目のシンクシンボル
をインバース・シンクシンボルとする点(相違点2)
(イ)相違点の容易想到性
a相違点1について
本件特許2の出願(原出願)前に頒布された甲49文献及び甲50
文献には,一つのスーパーフレームに69個のDMTシンボルが含ま
れることが開示されている。
よって,シンボルを伝送するための構成単位であるハイパーフレー
ム,ないしスーパー・スーパーフレームと呼ばれるフレーム構造にお
いて,当該フレーム構造に含まれるシンボルの個数に若干の変更を加
えて69個のシンボルとすることは,上記の公知文献に基づき,当業
者が適宜なし得る設計事項にすぎない。
b相違点2について
甲48発明において,インバースシンクシンボルを設けているの
は,シンボルを伝送するための構成単位であるスーパー・スーパーフ
レームの最終フレームを加入者側に示すためであり,これは当該スー
パー・スーパーフレームの境界を示すことに他ならない。また,本件
特許2の明細書において,インバースシンクシンボルを4番目のスー
パーフレーム内に設けることの技術的意義は何ら示されていない。
よって,インバースシンクシンボルが当該スーパー・スーパーフ
レームのどのフレーム内に設けられているとしても,加入者側は,イ
ンバースシンクシンボルを受信することで,当該スーパー・スーパー
フレームの境界を認識することができるのであるから,ハイパーフレ
ーム,ないしスーパー・スーパーフレームの境界を示すために,5個
のシンクシンボルのうちの何番目のシンクシンボルをインバースシン
クシンボルとして選択するかは,当業者が適宜なし得る設計事項にす
ぎない。
(ウ)以上によれば,本件特許発明2(方法1)は,甲48発明に基づき,
当業者が容易に想到できたものといえる。
ウ本件特許発明2(装置1)
本件特許発明2(装置1)は,カテゴリーが異なる点を除けば,本件特
許発明2(方法1)と実質的に同一の構成である。したがって,上記イと
同様の理由により,本件特許発明2(装置1)は,甲48発明に基づき,
当業者が容易に想到できたものといえる。
エ本件特許発明2(方法2)
(ア)本件特許発明2と甲48発明は,以下の点で相違し,その余の点で
一致する。
a一つのスーパーフレームに含まれるDMTシンボルの個数が,本件
特許発明2(方法2)では69個であるのに対し,甲48発明では,
68個である点(相違点1)
b本件特許発明2(方法2)では,SuperFrame5個の境
界を局側に送信するために,4番目のSyncSymbolをイン
バースSyncSymbolとして局側のFEXT区間に送信する
のに対し,甲48発明は,かかる構成を開示していない点(相違点
2)
(イ)相違点の容易想到性
a相違点1について
相違点1にかかる構成が,当業者が容易に想到し得るものであるこ
とは,上記イ(イ)a記載のとおりである。
b相違点2について
上記イ(イ)b記載のとおり,ハイパーフレーム,ないしスーパー・
スーパーフレームの境界を示すために,5個のシンクシンボルのうち
の何番目のシンクシンボルをインバースシンクシンボルとして選択す
るかは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。また,甲48発
明におけるインバースシンクシンボルは,被告の主張に従えば当該ス
ーパー・スーパーフレームの境界を示すものであり,局側におけるシ
ンボルの受信タイミングを定めるものであるから,当該インバースシ
ンボルを,ISDNからの漏話の影響が小さな局側FEXT区間に送
信するように構成することは,当業者において容易になしうる設計事
項にすぎない。
(ウ)以上によれば,本件特許発明2(方法2)は,甲48発明に基づき,
当業者が容易に想到できたものといえる。
オ本件特許発明2(装置2)
本件特許発明2(装置2)は,カテゴリーが異なる点を除けば,本件特
許発明2(方法2)と実質的に同一の構成である。したがって,上記エと
同様の理由により,本件特許発明2(装置2)は,甲48発明に基づき,
当業者が容易に想到できたものといえる。
カまとめ
したがって,本件特許発明2はいずれも,甲48発明に基づき当業者が
容易に想到できたものであるから,特許法29条2項により特許を受ける
ことができず,本件特許2は,同法123条1項2号に該当し,無効にさ
れるべきものである。
2争点(2)(本件基本契約18条2項違反の成否)について
(被告の主張)
(1)本件基本契約18条2項に基づく原告の義務
原告は,本件基本契約18条2項に基づき,少なくとも,①第三者が保有
する特許権を侵害しないこと,具体的には特許請求の範囲記載の発明の技術
的範囲に納入した物品が含まれないことや,当該特許が無効であることなど
の抗弁があることを明確にし,また,②当該第三者から特許権の実施許諾を
得て,当該第三者に対してライセンス料を支払うなどして,当該第三者から
の差止め及び損害賠償請求により被告が被る不利益を回避する義務を負って
いた。
(2)原告の義務違反
被告は,原告に対し,本件各特許と本件チップセットの関連性に関する技
術分析を依頼するとともに,Wi-LAN社との間でライセンス契約を締結
する場合に備えてライセンス料の算定に必要な料率に関する情報の提供を求
めたが,原告は,本件チップセットが本件各特許に抵触しているか否かの見
解を提示せず,また,ライセンス料に関する情報も提供しなかった。そして,
原告は,自ら又はイカノス社をして,Wi-LAN社との間でライセンス契
約を締結するということもしなかったことから,被告においてWi-LAN
社と本件ライセンス契約を締結することになったのである。したがって,原
告は,その費用と責任において紛争を解決することができず,被告に迷惑を
掛けることとなったのであり,本件基本契約18条2項に違反したことは明
らかである。
なお,原告が提示すべきであったライセンス料に係る情報とは,①Wi-
LAN社の提示した特許のロイヤルティ料率に関する実例(訴外コネクサン
ト社と訴外Wi-LAN社との間のライセンス契約におけるロイヤルティ料
率を含む。),②イカノス社が第三者と締結しているライセンス契約におけ
るロイヤルティ料率の実例,③訴外Wi-LAN社が提示した特許と同様の
特許権に関する標準的なロイヤルティ料率を示す実例その他の資料などであ
る。
本件各特許は,いずれもAnnex.Cの制定に関わった富士通株式会社
(以下「富士通」という。)の出願に係るものであり,また,日本電気株式
会社(以下「NEC」という。)や住友電工ネットワーク株式会社(以下
「住友電工」という。)等の日本企業や,コネクサント社もライセンスを
受けており,回避が困難であることが想定された。そして,Wi-LAN社
は,被告に対してライセンスの申出をするに当たり,①早期ライセンス,②
交渉された又は遅延したライセンス,③訴訟後のライセンスの3段階に分け,
後者になるほどライセンス料が高くなるとしており,被告としては,紛争が
長引けば高額のライセンス料の支払を余儀なくされるばかりか,訴訟になれ
ばADSLサービスを停止するリスクを負うことになることから,紛争を早
期に解決することが極めて重要であった。なお,原告から技術解析等を求め
られたイカノス社は,平成23年3月22日に行われた会議において,コネ
クサント社やNEC等が詳細な技術的検討を経た上でライセンス契約を締結
しているとして,Wi-LAN社の主張が妥当なものである可能性が高いこ
と,ライセンス契約は被告がWi-LAN社と締結すべきことを述べていた
ものである。
(3)原告の主張に対する反論
ア本件基本契約18条2項の解釈について
原告は,本件紛争の最終決定権が原告に留保されていたなどと主張する
が,そのような事実はなく,本件基本契約18条2項は原告の義務を規定
したにすぎず,権利を規定するものではない。
イイカノス社による技術分析結果の提供について
(ア)原告は,イカノス社が本件各特許と本件チップセットの関連性に関
する技術分析結果を提供したと主張するが,イカノス社は,本件各特許
に係る発明がADSLモデムに関するものであるか,DSLAMに関す
るものであるかという観点のコメントしか行っていない。なお,イカノ
ス社は,本件各特許以外のWi-LAN社の特許については使用してい
ないとコメントしており,かかる発言は,実質的に,本件チップセット
が本件各特許に抵触することを認めていたものといえる。
(イ)また,原告は,イカノス社が技術的な検討をするに当たり,被告か
ら部品表,回路図,仕様書などの必要な資料が提供されなかったと主張
する。しかし,本件チップセットが本件各特許と抵触するか否かの検討
に当たって,本件チップセット以外の図面は不要である。仮に,部品表,
回路図,仕様書が必要であったとしても,イカノス社はコネクサント社
からそれらを受領済みであり,その後変更は加えられていないから,改
めて被告から提供を受ける必要はない。
(ウ)原告は,平成23年7月20日のイカノス社による分析結果につい
て,イカノス社製のDSLAM用チップセットが初めて被告に納入され
たのは同年12月以降のことであるから,この時点でDSLAM用チッ
プセットに関する見解を示す必要はなかったなどと主張するが,被告は,
同年5月,原告に対し,DSLAM用チップセットを発注していたので
あるから,DSLAM用チップセットについての見解を示す必要があっ
たことは明らかである。
ウライセンス料に関する情報について
原告は,本件各特許に関してはFRAND宣言がなされていたから,W
i-LAN社にはFRAND条件でライセンスを提供する義務があり,ラ
イセンス料に関する情報は,被告においてWi-LAN社に要求すれば足
るのであって,原告に提供を求める必要はないと主張する。しかし,FR
AND宣言に基づく義務は,標準化に参加した企業,個人に課せられるも
のであり,また,特許を譲渡した企業が特許声明書を提出していたとして
も,譲渡先にまで効力が及ぶものではないから,標準化に参加しておらず,
またFRAND宣言をした当人でもないWi-LAN社は,FRAND宣
言に基づく義務を負わない。
エ帰責事由について
原告は,Wi-LAN社からのライセンス料の提示額が減額されたこと
や,Wi-LAN社がパテントトロールであり,差止請求に関心がないこ
とから,本件ライセンス契約を締結した時点では,いまだ被告においてW
i-LAN社との間でライセンス契約を締結する必要性はなかったと主張
する。しかし,Wi-LAN社からの提示額が減額されたのは,当初の提
示額はコネクサント社製のチップセットも含めたものであったところ,コ
ネクサント社製のチップセットは許諾済みであることをWi-LAN社に
対して示したことが理由である。また,パテントトロールが差止請求に関
心がないというのは原告の独自の主張である。
(原告の主張)
(1)原告の義務について
原告が,本件基本契約18条2項に基づき義務を負っていたことは否認す
る。
原告と被告との間では,両社が本件紛争の対応協議を開始した当初から,
本件基本契約18条2項に基づき,原告の費用と責任において本件紛争を解
決するとの合意がなされており,最終的な決定権限は原告に留保されていた。
すなわち,本件基本契約18条2項には,第三者との間に紛争が生じた場合
の原告の債務の内容として,「自己の費用と責任においてこれを解決」する
ことと,「被告に協力し,被告に一切の迷惑をかけない」ことが選択的に規
定されており,したがって,原告の債務は,選択権を有する債務者により定
められることになる(民法406条)。そして,原告は,平成23年2月2
1日付けの書簡において,債権者である被告に対し,「自己の費用と責任に
おいてこれを解決する」ことを選択したものである。
(2)原告の義務違反について
ア技術分析結果の提供について
被告は,原告が技術分析結果を提供していないと主張するが,イカノス
社においてこれを提供している。そもそも,イカノス社が詳細な技術的検
討を行うことができなかったのは,イカノス社の要求にもかかわらず,被
告が被告の販売するモデム装置の部品表,回路図及び仕様書等の必要な資
料を提供しなかったからである。また,イカノス社製のDSLAM用チッ
プセットが初めて被告に納入されたのは,平成23年12月以降のことで
あるから,イカノス社が技術分析結果を提示した同年7月ないし11月の
時点において,DSLAM用チップセットに関する見解を示す必要はなか
った。
イライセンス料に関する資料の提供について
被告は,原告がライセンス料の算定に必要な情報を提供しなかったと主
張する。しかし,本件各特許に関しては,ITUに対しFRAND宣言が
なされている以上,Wi-LAN社にはFRAND条件でライセンスを提
供する義務が課されているから,被告は,ライセンス料の算定に必要な情
報をWi-LAN社に要求すれば足り,原告に提供を求める必要はない。
したがって,原告においてライセンス料の算定に必要な情報を提供する義
務はない。また,仮に,原告がライセンス料の算定に必要な情報を提供す
る義務を負っていたとしても,原告は,コネクサント社に対してWi-L
AN社との間のライセンス契約の情報開示を求めるとともに,イカノス社
に対してもライセンス料の情報を提供するよう要求し続けていたのであり,
原告として最善を尽くしていたのであるから,上記義務を果たしたという
べきである。
ウ(ア)被告は,本件各特許は,ADSLの規格の制定に関わった富士通の
出願に関わるものであり,著名な日本企業もライセンスを受けていたこ
とから,回避が困難であることが想定されたと主張するが,かかる事実
と本件チップセットが本件各特許権の侵害品であるか否かは無関係であ
る。
(イ)また,被告は,ライセンス料の高額化やADSLサービス停止のリ
スクから,紛争を早期に解決することが重要であったと主張する。しか
し,被告がWi-LAN社とライセンス契約を締結した平成24年3月
時点では,Wi-LAN社による詳細な調査違反は行われておらず,か
えって,Wi-LAN社による提示額が当初の480万米ドルから29
0万米ドルとかなり減額がなされており,依然としてWi-LAN社が
いうところの「早期ライセンス」の段階であったのであるから,被告に
おいてライセンス契約を締結する必要性は全くなかった。また,Wi-
LAN社は,世界的に著名なパテントトロールであり,差止請求に関心
を有していないことは明らかであるから,ADSLサービス停止のリス
クもありえない。
(ウ)被告は,イカノス社が,平成23年3月22日の会議において,コ
ネクサント社や日本電気株式会社等が詳細な技術的検討を経た上でライ
センス契約を締結しているとして,Wi-LAN社の主張が妥当なもの
である可能性が高いこと,ライセンス契約は被告がWi-LAN社と締
結すべきことを述べていたと主張する。しかし,イカノス社は,同年1
月20日の会議において,NECが早期の段階でライセンス契約を締結
したこと,住友電工は技術的な検討が終了しないままライセンス契約を
締結したことを述べており,イカノス社の発言が確定的なものでなかっ
たことは明らかである。また,被告においてライセンス契約を締結すべ
きとの発言についても,イカノス社は「最良のビジネスソリューション
は,ソフトバンクとWi-LANとのライセンス契約かもしれないと考
えている。」と述べただけである。この発言は,Wi-LAN社が被告
をターゲットとして交渉していたこと,また,Wi-LAN社が問題と
している製品の大半がコネクサント社のライセンス許諾品であり,かつ,
日本の特許権のみが対象となっていたことから,イカノス社よりも被告
が交渉を行うのが妥当であるとの自社の見解を述べたにすぎない。そも
そも,イカノス社の発言は非公式なものであり,また,本件紛争につい
ては,原告に最終決定権が留保されていたのであるから,イカノス社の
発言は原告による本件紛争の解決に影響を及ぼすものではない。
エ原告による本件紛争の解決が不可能となったのは,原告に本件紛争の最
終的な決定権限が留保されていたにもかかわらず,被告が,原告の意向を
無視して,独自にWi-LAN社と本件ライセンス契約を締結したためで
あり,被告の一方的な行為を原因とするものであるから,原告の責に帰す
べき事由はない。
3争点(3)(相殺の成否)について
(被告の主張)
被告は,原告が本件基本契約18条1項及び2項に違反したことにより,W
i-LAN社に対して支払った2億円相当の損害を被った。
(1)被告が本件ライセンス契約を締結したのは,上記2記載のとおり,イカ
ノス社において本件チップセットが本件各特許権の侵害品であることを認め
ており,Wi-LAN社からもライセンス契約の締結を迫られていたことか
ら,差止め及び損害賠償のリスクを回避するためにやむを得なかったためで
ある。したがって,本件チップセットが現実に本件各特許権の侵害品である
か否かにかかわらず,原告の本件基本契約18条違反と,被告が被った2億
円のライセンス料相当額の損害に因果関係があることは明らかである。イカ
ノス社製のADSLモデム用チップセットに対して課される実施料相当額や,
Wi-LAN社からの本件各特許権に基づく差止請求を回避するために要す
る費用などを考慮すると,ライセンス料として支払った2億円は極めて合理
的である。
(2)原告は,本件各特許権1以外の14件の特許権,ないしコネクサント社
製のチップセットも本件ライセンス契約に含まれていると主張する。しかし,
被告において検討した結果,上記14件の特許は実施していないことが判明
しており,また,コネクサント社製のチップセットは既にWi-LAN社か
ら実施許諾を得ていたのであるから,これらも対象とするものであれば,被
告は本件ライセンス契約を締結していない。つまり,上記14件の特許権や,
コネクサント社製のチップセットが含まれていたとしても,これによりライ
センス料が高額になったというものではなく,被告がWi-LAN社に対し
て支払った2億円のライセンス料全額が本件ライセンス契約チップセットに
係るものであり,同額が原告の本件基本契約18条違反に基づく損害である
ことは明らかである。
(原告の主張)
(1)本件ライセンス契約には,本件各特許権以外に14件の特許権も含まれ
ているところ,これら14件の特許権は,Wi-LAN社においてAnne
x.Cに関するものとして挙げておらず,また,本件でも問題とされていな
いことから,本件チップセットと無関係であることは明らかである。また,
本件ライセンス許諾では,期限付きライセンス特許として,Wi-LAN社
及びその子会社が保有しており,または将来保有することになる特許権等に
ついて,「SoftbankBroadbandServices」を
対象とした実施許諾がなされているところ,「SoftbankBroa
dbandServices」には光ファイバー通信を含む被告のブロー
ドバンドサービスに関する全ての被告製品ないしサービスが含まれている。
したがって,本件ライセンス契約に基づくライセンス料には,本件チップセ
ットとは無関係なサービスに係る部分もあり,同部分は原告による本件基本
契約18条違反と相当因果関係がない。また,本件ライセンス契約の対象製
品には,イカノス社の供給に係る本件チップセットだけでなく,コネクサン
ト社の供給に係るチップセットも含まれている。したがって,本件ライセン
ス契約に基づくライセンス料には,同チップセットに係る部分もあり,同部
分は原告による本件基本契約18条違反と相当因果関係がない。
被告は,被告がWi-LAN社に支払った2億円のライセンス料は,全て
本件チップセットに係るものであると主張するが,その場合,本件チップセ
ットの販売額から算定される実施料率は20%を超えるものとなり,本件各
特許権の合理的なロイヤルティ率は,以下の計算のとおり,0.483%を
上回ることはないから,上記実施料率は極めて不合理である。
0.483%(合理的なロイヤルティ率)
=5%(規格必須特許全体の実施料率の上限値)
×1/3(被告製品であるBBModemでは,少なくとも三つの標
準規格が採用されている。)
×9/31(ADSL規格では少なくとも31件の必須特許が存在す
る。)
(2)過失相殺
被告は,本件ライセンス契約を締結するに当たり,本件各特許権との抵触
の有無について議論を尽くしておらず,また,Wi-LAN社に対し,本件
ライセンス契約の対象となった特許権のうち,本件各特許権を除く14件の
特許権について,本件チップセットがこれらの特許権の侵害品ではないこと
を主張していない。さらに,上記(1)のとおり,不合理に高額なライセンス
料を受け入れたものである。これらの事情は,被告の過失を基礎付けるもの
として斟酌されるべきである。
(3)損害額についての予備的な主張
仮に,原告に本件基本契約18条2項違反があり,これにより被告がWi
-LAN社に対して支払った2億円のライセンス料に関し,原告が負担すべ
きものがあるとしても,それは原告が販売したイカノス社製のチップセット
により惹起される特許権侵害を回避するために取得したライセンスの範囲に
限られる。被告の主張によれば,被告の提供するADSLサービスにおいて
用いられたADSLモデムの累積総数は718万8940台(ADSLの規
格としてAnnex.Aを採用した284万1455台を含む。)であり,
これに将来購入予定のADSLモデム(12万1000台)を加えると,本
件ライセンス契約の対象であるADSLサービスで用いられるADSLモデ
ムの総数は,730万9940台となる。また,被告の提供するADSLサ
ービスにおいて用いられたDSLAMの累積総数は33万6857台である
から,上記ADSLモデムとの合計台数は764万6797台となる。一方
で,このうち本件チップセットが搭載されたものは18万2125台(AD
SLモデム17万1000台,DSLAM1万1125台)である。また,
本件ライセンス契約には,本件特許権1ないし9のほかに,本件チップセッ
トとは無関係な14件の特許権が含まれている。
以上を考慮すれば,原告が負担すべき金額は186万3951円(=2億
円×(18万2125台/764万6797台)×(9件/23件))であ
る。
第4当裁判所の判断
1争点(1)(本件基本契約18条1項違反の成否)について
(1)争点(1)ア(本件チップセットはAnnex.Cに準拠し,その規格仕様
書に開示された構成を有するか)について
ア被告は,ADSL規格の一つであるAnnex.Cは,日本向けの規格
であり,特段の事情のない限り,本件チップセットはこれに準拠している
と主張する。しかし,そもそも,被告のいう「準拠」が技術的にいかなる
内容をいうのか明確とは言い難い。また,この点をひとまず措くとしても,
Annex.Cが日本向けの規格であり,本件チップセットが日本の事業
者である被告に納入されたことのみから,当然に本件チップセットがこれ
に「準拠」していると認めることは困難である。この点,被告が証拠とし
て提出したADSL技術に関する書籍(乙12。「わかりやすいADSL
技術」45頁)にも,「伝送方式にCAP,DMT(G.dmtor
G.lite),さらにDMTの中でもAnnex.Cを使用するかどう
かは,ADSL事業者やISPによります。」との記載があるし,被告自
身,ADSLの規格として,Annex.A(乙12〔28頁〕では,北
米仕様とされている。)のみを採用していた時期があることを認めている
ところである(被告第10準備書面2頁)。
また,被告は,乙44号証及び乙45号証の書面の記載を根拠に,本件
チップセットがAnnex.Cに「準拠」していると主張する。しかし,
仮に,これらの書面に記載された製品と,本件チップセットの商品名や製
品番号が一致するとしても,乙44号証は平成17年に,乙45号証は平
成16年にコネクサント社が作成したものであり,いずれも被告が原告を
通じてイカノス社製のチップセットを購入する約4,5年前のものである
ことからすれば,イカノス社製の本件チップセットが上記書面に記載され
た仕様を有するものと直ちに認めることはできない。イカノス社がコネク
サント社の事業を承継したことは,上記認定を直ちに左右するものとはい
えない。そして,上記書面には,「Annex.Cに固有の変更」との記
載や,「サポート」の欄に「AnnexesAandC」との記載
があるのみで,その根拠や内容などが客観的に明らかではないことからも,
上記書面は被告の主張を裏付けるものとは言い難い(上記書面の記載から
も被告のいう「準拠」の具体的意義は明らかでない。この点をひとまず措
くとしても,「準拠」の対象は,Annex.Cのみでなく,Annex.
Aでもあるはずである。)。
さらに,被告は,本件DSLAM用チップセットのファームウェアのバ
ージョンが「Y67.29.68」であり,これは,Annex.Cに
「準拠」しているコネクサント社製のDSLAM用チップセットのファー
ムウェアのバージョン「Y67.29.67」において発生した特定の不
具合を解消するためにパイロットトーン電力値を変更したものであって,
それ以外はコネクサント社製のものと同じであるから,本件DSLAM用
チップセットはAnnex.Cに「準拠」していると主張する。しかし,
証拠(乙63,64の2)によっても,ファームウェアのバージョンが
「Y67.29.68」と,ファームウェアのバージョンが「Y67.2
9.67」であるものが,被告の主張する点を除き同一の仕様を有してい
ると直ちに認めることはできず,被告の主張は採用することができない。
イ時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて
原告は,被告の平成27年1月9日付け第13準備書面の主張,及び乙
63号証ないし乙66号証による立証は時機に後れたものとして却下され
るべきである旨の申立てをするが,上記書面及び書証の内容,本訴訟の経
過等に鑑みても,被告に上記書面を陳述させ,上記書証を取り調べること
により,本訴訟の完結を遅延させるものとは認められないから,原告の同
申立ては採用しない。
ウ本件製品の構成について
仮に,本件チップセットがAnnex.Cに「準拠」しているとしても,
本件規格仕様書に,「この勧告に従うかどうかは任意である。」(「Co
mpliancewiththisRecommendation
isvoluntary」)との記載があることには争いがないから,
本件規格仕様書が勧告する構成のすべてが,Annex.Cに必須の構成
であると認めることはできず,ほかに被告の主張に係る本件製品の構成が
Annex.Cに必須のものと認めるに足りる証拠はない。
また,前記アで説示したとおり,本件チップセットがAnnex.Cに
「準拠」しているとしても,同チップセットは,Annex.Aにも「準
拠」しているはずであるから,Annex.Cの規格にのみ用いられると
ころのいわゆる専用品であると認めるには足りない。
エ被告は,裁判所の釈明に対し,本件チップセットが本件各特許に係る発
明の技術的範囲に属することにつき,本件チップセット自体を解析した上
での立証を行うつもりがないことを明らかにしている(当審第14回弁論
準備手続調書)。
そして,被告は,本件チップセットの具体的構成についても,本件製品
中の本件チップセット以外の部分の具体的構成についても,具体的な技術
上の裏付けを伴った主張立証を行おうとしないのであり,後記2(1)で認
定する事実経過(殊に,被告が被告のサービスや本件製品中の本件チップ
セット以外の部分の具体的構成につき,原告及びイカノス社に情報を提供
することを拒否したこと)をも踏まえると,仮に,本件製品の構成に関す
る被告の主張の全部又は一部に理由があるとしたところで,直ちに当該構
成が専ら本件チップセットにより実現されていると認めることは,困難と
いうほかはない。
(2)争点(1)イ(本件各特許権との抵触の有無)について
上記(1)で検討したところによれば,本件チップセットがAnnex.C
に「準拠」していることも,本件規格仕様書に開示された構成を有すること
も,認めるには足りず,また,同チップセットがAnnex.Cの規格にの
み用いる物であると認めるにも足りない。
したがって,本件チップセットが本件各特許権の直接侵害品ないし間接侵
害品であるとか,同チップセットの使用が本件各特許権の侵害行為となると
いう被告の主張は,その前提を欠き,採用することができない。
よって,被告による本件基本契約18条1項違反の主張は,その余の点に
ついて検討するまでもなく,理由がない。
2争点2(本件基本契約18条2項違反の成否)について
(1)前記前提事実及び後掲の証拠(下記認定に反する部分は,採用すること
ができない。)並びに弁論の全趣旨によれば,原告,被告及びイカノス社と
の間の交渉経過として,以下の事実が認められる。
ア被告は,平成22年12月9日,原告に対し,本件各特許権に関する調
査の協力依頼をした。具体的には,①チップ・ベンダであるコネクサント
社及びイカノス社とWi-LAN社とのライセンスの有無及びライセンス
条件,②Wi-LAN社からコネクサント社及びイカノス社に対するライ
センスの申出の有無及び交渉状況,③特許抵触に関する見解及び対応方針
についてであった。被告は,原告に協力を依頼するに際し,上記①及び②
の項目の回答期限を同月15日,上記③の項目の回答期限を同月22日と
し,同項目については,コネクサント社及びイカノス社と協議した上で回
答するよう求めた(乙3)。(なお,原告は,平成23年1月11日付け
のメール(甲29)を根拠に,上記回答期限については,被告の指示に従
いイカノス社への連絡を見合わせ,本件紛争に対する対応の協議は,被告
からイカノス社に対する連絡を待って平成23年に開始されたと主張する。
同メールには,「SoftbankBBからの調査依頼書の回答はSof
tbankBBからの指示待ちで,それまでは保留とさせていただく旨の
Mail.」との記載があるが,これは原告の従業員間のやりとりにすぎ
ず,被告の了解を前提にしたものと認めることはできない。確かに,甲2
9号証に引用されているメールには,被告の従業員であるAによる「なお,
チップ・ベンダへは,それぞれ当方より打診いたします。※チップ・ベン
ダへの頭出しが完了するまでコンタクトはお控えください。」との記載が
存在するが,このメールは,平成22年12月7日に送信されたものであ
り,被告が原告に対し協力を依頼するよりも前のことである。そして,同
月9日にAから送られたメールには,「過日,お願いした件,正式書面に
て改めてご協力要請させて頂きます。」とあり(甲29),この正式書面
は,被告から原告に対し送付された同日付け「知的財産権の侵害に関する
調査協力のお願い」(乙3),すなわち,被告の原告に対する協力依頼に
係る書面であると解されるから,上記のとおり,被告は,協力依頼の内容
として,原告においてチップ・ベンダであるコネクサント社及びイカノス
社と協議することを求めている以上,同月7日付けのAのメールの記載は
既に意味を失っていたものと認められ,このことは原告において明白であ
ったといえる。)
イ原告,被告及びイカノス社は,平成23年1月20日,以下のとおり,
三者間で協議を行った(甲10)。
(ア)被告は,原告及びイカノス社に対し,Wi-LAN社からの要求内
容を開示した。Wi-LAN社は,被告に対し,ライセンス交渉として,
以下の三つの進め方を提案していた。
①EarlyLicense
特許の抵触の有無を協議せずにライセンスを実施する。
ライセンス内容:5年間,総額480万USドル
条件:平成23年3月15日までに合意すること
②NegotiatedorDelayedLicense
特許の抵触の有無を被告とWi-LAN社間で判断する
①の場合よりもライセンス料は高額になる。
③裁判により特許の抵触の有無を争う
(イ)イカノス社は,被告に対し,平成21年に,NTTのADSLモデ
ムを設計,製造していたNEC及び住友電工に対しWi-LAN社から
ライセンスの提案があったこと,この提案に対し,NECは早い段階で
ライセンス料を支払い,また,住友電工は技術的な検証の終了を待たず
にライセンス料を支払い,いずれも解決したことを報告した。
(ウ)被告は,原告に対し,以下の事項などを要求した。
①本件紛争に対する原告としての方向性の明示(平成23年2月4
日まで)
②本件チップセットにおける本件各特許発明の実施の有無(同月4
日まで)
③本件各特許の無効に関する資料調査(同月14日まで)
ウ原告と被告は,平成23年1月25日,以下のとおり,協議を行った
(甲30,乙27)。
(ア)原告は,被告に対し,原告における進捗状況として,①コネクサン
ト社とイカノス社に対し正式な対応依頼を申し入れたこと,②コネクサ
ント社から,本件各特許について,コネクサント社分は既にライセンス
契約済みであるが,イカノス社分は同契約に含まれないとの回答があっ
たことを報告した。
(イ)原告は,被告に対し,①ライセンス契約を締結するか,訴訟で争う
かについての原告の最終判断は,本件各特許の技術の使用の有無が明確
になってから行うこと,②Wi-LAN社との対応主体につき,他のチ
ップ販売先への影響を理由に,イカノス社がWi-LAN社への対応当
事者になる可能性があることを説明した。
(ウ)原告は,被告に対し,Wi-LAN社が提案しているライセンス料
480万USドルの算定根拠を質問し,これに対し,被告は,算定根拠
はないと思われるとの回答をした。
(エ)被告は,原告に対し,①本件各特許の技術の使用の有無につき,原
告の回答期限が平成23年2月4日であることを前提に,コネクサント
社及びイカノス社に対して同事項の回答期限を明確にすること,②コネ
クサント社に対し,本件各特許につき既にライセンス契約が締結されて
いるのかを再度確認し,締結されている場合は,正式な回答書面とその
ことを確認できる資料を提出するよう要求することを依頼した。
エ原告は,平成23年2月10日,被告に対し,書面にて以下の内容を報
告した(乙6)。
(ア)コネクサント社は,平成21年12月22日に,Wi-LAN社と
の間でライセンス契約を締結しており,本件各特許が含まれている。
(イ)上記ライセンス契約における特許の許諾範囲には,コネクサント社
が過去に販売した全ての製品が含まれるが,イカノス社が販売した製品
は含まれない。
(ウ)コネクサント社は,上記ライセンス契約の写しを提供する用意があ
るが,Wi-LAN社との間における守秘義務の対象であるため,提供
にはWi-LAN社の承諾が必要となる。
(エ)原告は,イカノス社に対し,本件各特許とイカノス社製のチップセ
ットとの関連性に関する技術解析,及び技術解析の結果を踏まえた上で
の本件紛争に対する対処案の回答を求めている。
(オ)原告は,イカノス社から,被告製品の技術情報の入手を依頼されて
いる。
オ原告と被告は,平成23年2月17日,以下のとおり,協議を行った
(乙18の1)。
(ア)原告は,被告に対し,原告における進捗状況として,イカノス社に
対し本件紛争に関する責任を全面的にイカノス社が負う旨を伝えている
が,イカノス社からこれに対する回答がないことを報告した。
(イ)被告は,原告に対し,原告が対応方針を明確にすれば,被告もそれ
に合わせて調整を行うが,そうでなければ,被告としては様々な可能性
を含め検討する必要があり,その結果原告の意思に反する可能性がある
ことを説明するとともに,本件各特許の技術の使用の有無が明らかにな
らない場合でも,原告としての対応方針を同月21日までに明確にする
よう求めた。
カ原告は,平成23年2月21日,被告に対し,本件基本契約18条2項
に基づき,原告の責任において本件紛争を解決するよう最善を尽くすこと
を述べるとともに,将来のイカノス社に対する責任追及の観点から,イカ
ノス社の関与なく,Wi-LAN社と直接解決することを差し控えるよう
求めた(乙7)。
キ(ア)原告は,平成23年2月22日,被告に対し,イカノス社からの要
請に基づき,被告のモデムに関する,①部品表,②回路図,③モデム仕
様書(被告のArgon550を使用したモデムの仕様書)の提供を求
めた。なお,部品表と回路図については,コネクサント社から受領した
資料が存在するが,古いものであり,現状の設計と同じかどうかが不明
であるとのことであった(甲12の1)。
(イ)原告は,平成23年2月24日,被告に対し,上記資料の提供を再
度要求した(甲12の2)。
(ウ)被告は,平成23年2月25日,原告に対し,イカノス社製チップ
及びOS部分の仕様に基づき,技術的検討が可能であると考えること,
及び提供を希望する詳細設計書は,被告において準備が不可能であり,
モデムベンダーと交渉をしているが,提出する旨の同意は得られていな
いことを報告するとともに,モデムの技術資料を要請する意図をイカノ
ス社に確認すること,及び同資料の提出の遅延が,イカノス社における
対応の遅れの理由とされるのを回避することを要請した(甲12の3)。
ク原告と被告は,平成23年3月2日,協議を行い,本件紛争に対する対
応方針を確認した。原告は,被告に対し,引き続きイカノス社を動かして
Wi-LAN社と交渉していく方針であることから,Wi-LAN社が示
した回答期限である同月15日を過ぎてライセンス金額が大きくなった場
合には,原告において負担する旨を伝えた(乙23)。
ケ原告,被告及びイカノス社は,平成23年3月22日,以下のとおり,
三者間で協議を行った(乙8)。
(ア)イカノス社は,被告に対し,①NEC及び住友電工が詳細な技術分
析の結果として,Wi-LAN社とライセンス契約を締結していること
から,Wi-LAN社の主張が妥当なものである可能性が高いこと,②
イカノス社において,多くの時間とリソースを費やして技術的分析を行
うことは望んでいないこと,③コネクサント社製のチップセットについ
ては既にライセンス契約が締結されており,同チップセットに比べると
イカノス社製のチップセットの供給量は少なく,また,日本の特許権が
対象となっていることから,被告とWi-LAN社とのライセンス契約
が最良の解決であると考えていることを伝えた。
(イ)被告は,原告及びイカノス社に対し,同月14日にWi-LAN社
に連絡を取り,Wi-LAN社の主張の大半が,既にライセンス契約を
締結しているコネクサント社製のチップセットに関連していることを伝
え,コネクサント社とのライセンス契約の条件を開示するよう求めてい
ることを報告した。
コ原告,被告及びイカノス社は,平成23年4月26日,三者間で協議を
行った。被告は,コネクサント社とWi-LAN社との間のライセンス契
約書(金銭的部分を除く。)のコピーを入手したこと,及びWi-LAN
社との間で交渉を開始したことを報告し,三者間で,ライセンス料,算定
根拠,期間等の観点から検討が必要であることが確認された。イカノス社
は,本件各特許に対する標準的な料率に関する情報を準備し,提示するこ
とを述べた(乙9)。
サ原告,被告及びイカノス社は,平成23年6月24日,三者間で協議を
行った。被告は,Wi-LAN社が日本での災害に鑑みて請求額を430
万USドルに引き下げたが,同額についての具体的な計算式は提示されて
いないことを報告するとともに,イカノス社に対し,本件各特許とは別の
3件の特許に係る技術を使用しているかの確認,及びロイヤルティ算定の
ための本件チップセットの価格を基準にした提案を要請した。イカノス社
はこれらを行うことを同意した(乙28)。
シ被告は,平成23年7月11日,原告に対し,イカノス社から本件各特
許とは別の3件の特許の調査,及びロイヤルティ率の提示について何ら回
答がないことを報告するとともに,今後も,本件基本契約18条に基づき,
Wi-LAN社との交渉は被告が行い,原告に対しては協力の要請と過去
発注分の求償を行うことを伝えた(乙18の3)。
ス(ア)原告,被告及びイカノス社は,平成23年7月13日,三者間で協
議を行い,本件紛争に関し,Wi-LAN社との連絡は被告が担当して
全員が共同でサポートする体制を維持することを確認した。イカノス社
は,被告に対し,数日以内に本件各特許と本件チップセットに関する技
術的検討の結果を提示することを述べるとともに,合理的なロイヤルテ
ィ率については,具体的な数字を提示することは困難であるが,被告の
ADSL設備に使用されるADSLチップセットの約90%をコネクサ
ント社製のチップセットが占めていることから,コネクサント社製のチ
ップセットに適用されるロイヤルティ率に基づき検討することが有意義
と考えられるとして,同ロイヤルティ率を突き止めるよう努力し,翌週
までに結果を報告すると述べた(乙29)。
(イ)イカノス社は,平成23年7月20日,被告に対し,コネクサント
社チップセットに係るロイヤルティ率についての新たな情報を発見する
ことができなかったことを報告した(甲31)。
セイカノス社は,平成23年7月20日,及び同年8月2日の三者間での
協議において,技術分析の結果を報告した。イカノス社は,本件各特許と
は別の3件の特許(特許番号3717363,4391702,3732
707)については,これらの技術を使用していないとの報告を,本件特
許1,2,4,6及び9については,これらの特許がDSLAMに関連す
る特許であり,イカノス社が提供したCPEの機能に必要な技術とは無関
係であるとの報告を行った。本件特許3,5,7及び8についての報告は
なかった(甲13,乙20,30)。
ソ原告,被告及びイカノス社は,平成23年10月12日,三者間で協議
を行った。被告は,Wi-LAN社からさらに追加の特許を提示されたこ
とを報告するとともに,Wi-LAN社が,Annex.Cを使用する被
告のシステムがWi-LAN社のAnnex.C関連の特許を侵害すると
主張している旨を補足した上で,イカノス社に対し,本件各特許のクレー
ムについての侵害の有無を区別するため,更なる技術解析を要請した。こ
れに対し,イカノス社は,Wi-LAN社の主張が妥当である部分につい
ては,掘り下げるつもりはないと付言した(甲14)。
タ原告,被告及びイカノス社は,平成23年10月26日,三者間で協議
を行った。被告は,イカノス社に対し,本件チップセットが本件各特許権
を侵害しているか否かを理解するため,及びWi-LAN社に対するアプ
ローチの方法を改善するため,分析結果のポイントを明確にした資料の提
示を求めた。イカノス社は,被告に対し,本件各特許が被告のサービスに
関連するか否かについての被告の分析を共有することを求めたが,被告は
これを拒否し,被告とモデムベンダー及びDSLAMベンダーとの議論に
基づき,本件各特許はチップに関連するものであると考えている旨回答し
た(甲15)。
チイカノス社は,平成23年11月15日,被告に対し,技術分析の結果
として資料を送付した。被告は,同月24日,イカノス社に対し,同資料
には本件各特許についての新しい実質的な説明はなく,Wi-LAN社と
の交渉において,同資料をどのように使用することができるのか不明であ
るとして,説明をもとめた(乙21,31)。
ツ原告,被告及びイカノス社は,平成23年12月13日,三者間で協議
を行った。被告は,Wi-LAN社の提示額が290万USドルまで減額
されたこと,この金額に論理的な根拠がないことを報告した(甲28)。
テ原告は,平成24年2月7日,被告に対し,イカノス社の回答を待つよ
う要請したが,被告は,同日,被告においてイカノス社の動向を考慮しな
いとして,これを拒否した(甲16,乙32)。
(2)本件基本契約18条2項に基づく義務
本件基本契約18条2項の文言によれば,同項は,原告が納品した物品に
関して,第三者が有する知的財産権の侵害が問題となった場合に,原告がと
るべき包括的な義務を規定したものと解すべきである。この点,原告は,本
件基本契約18条2条は「自己の費用と責任においてこれを解決」する債務
と,「被告に協力し,被告に一切の迷惑をかけない」債務を選択的に規定し
たものであり,選択権を有する原告は,前者の債務を選択したから,本件紛
争の解決件は原告に留保されていたものであると主張するが,同項の文言を
曲解したものであり,採用することはできない。
一方,被告は,原告が,本件基本契約18条2項に基づき,少なくとも①
第三者が保有する特許権を侵害しないこと,具体的には特許請求の範囲記載
の発明の技術的範囲に納入した物品が含まれないことや,当該特許が無効で
あることなどの抗弁があることを明確にし,また,②当該第三者から特許権
の実施許諾を得て,当該第三者に対してライセンス料を支払うなどして,当
該第三者からの差止め及び損害賠償請求により被告が被る不利益を回避する
義務を負っていたと主張する。しかし,同項の文言のみから,直ちに原告の
負うべき具体的な義務が発生するものと認めることはできず,上述のとおり,
同項は,原告がとるべき包括的な義務を定めたものであって,原告が負う具
体的な義務の内容は,当該第三者による侵害の主張の態様やその内容,被告
との協議等の具体的事情により決まるものと解するのが相当である。
(3)本件基本契約18条2項に基づく原告の具体的義務について
ア被告はWi-LAN社から,本件各特許権のライセンスの申出を受けて
いたこと(前記前提事実(8)及び上記(1)イ。なお,Wi-LAN社のライ
センスの申出が,本件チップセットあるいは本件製品を問題としていたの
か,被告のサービスを問題としていたのかは,証拠上,明らかでない。),
被告は,原告に対し協力を依頼した当初から,本件チップセットが本件各
特許と抵触するか否かについての回答を求めていたこと(上記(1)ア),
原告,被告及びイカノス社の間において,ライセンス料,その算定根拠等
の検討が必要であることが確認され,イカノス社において,必要な情報を
提示する旨を回答していたこと(上記(1)コ)に鑑みれば,原告は,本件
基本契約18条2項に基づく具体的な義務として,①被告においてWi-
LAN社との間でライセンス契約を締結することが必要か否かを判断する
ため,本件各特許の技術分析を行い,本件各特許の有効性,本件チップセ
ットと本件各特許との抵触等についての見解を,裏付けとなる資料と共に
提示し,また,②被告においてWi-LAN社とライセンス契約を締結す
る場合に備えて,合理的なライセンス料を算定するために必要な資料等を
収集,提供しなければならなかったものと認めるのが相当である。
これに対し,被告は,原告が自ら又はイカノス社をして,Wi-LAN
社から特許権の実施許諾を得てライセンス料を支払うことにより,被告が
被る不利益を回避する義務をも負っていたと主張する。しかし,上記(1)
で認定した原告と被告との間の交渉の経緯及び内容,並びに上記1説示の
とおり,本件ライセンス契約が締結される以前はおろか,現段階に至って
も,本件チップセットが本件各特許権の侵害品であるか否かは明らかでは
ないことに鑑みても,本件基本契約18条2項に基づく具体的な義務とし
て,原告において,自ら又はイカノス社をして,Wi-LAN社との間で
ライセンス契約を締結すべきであったとまで認めることはできない。
イ技術分析について
(ア)上記(1)セ及びチで認定したとおり,イカノス社は,平成23年7月
及び同年11月,被告に対し,技術分析の結果を報告しているものの,
証拠(乙20,21)によれば,その内容は,単に本件各特許がDSL
AMに関連するものであるとか,イカノス社が提供したCPEの機能に
必要な技術とは無関係であるとの簡単な意見を付したものにすぎず,お
よそ詳細な技術分析を行ったものとはいえないし,本件証拠上,上記イ
カノス社の意見を客観的に裏付ける資料の存在も認めることはできない。
(イ)これに対し,原告は,イカノス社において詳細な分析ができなかっ
たのは,被告が部品表等の必要な資料を提供しなかったことが原因であ
ると主張する。
確かに,イカノス社は,原告を介して,被告に対し,被告の部品表等
の資料の開示を求めていたものの(上記(1)キ),本件各特許の有効性,
本件チップセットと本件各特許との抵触等を調査するに当たっての上記
資料の必要性は必ずしも明らかではない。そして,上記(1)キのとおり,
開示を求められた被告においても,上記資料の必要性に疑問を呈し,イ
カノス社に対してその意図を確認するよう原告に求めているところ,イ
カノス社から上記資料の必要性について回答がなされたと認めるに足り
る証拠はない。そうすると,単にイカノス社が上記資料の開示を求めて
いたというだけでは,技術分析における上記資料の必要性を認めること
はできず,原告の主張は採用することができない。
(ウ)また,原告は,イカノス社製のDSLAM用チップセットが初めて
被告に納入されたのは平成23年12月以降のことであるから,イカノ
ス社が技術分析の結果を提示した同年7月ないし11月の時点において,
本件各特許がDSLAMに関連するものであることが分かれば,本件チ
ップセットと本件各特許との抵触に関する見解をそれ以上示す必要はな
かったなどとも主張する。
しかし,イカノス社の報告自体が客観的な資料により裏付けられたも
のとはいえないことは,上述のとおりである。そして,前記前提事実
(3)及び(5)認定のとおり,ADSLサービスにおいてはADSLモデム
用及びDSLAM用のいずれのチップセットも使用されるところ,被告
と原告は,平成22年12月から被告のADSLサービスに係るWi-
LAN社との間の紛争について協議を重ねていたこと(上記(1)ア),
被告が,平成23年5月の時点で,原告に対してDSLAM用チップセ
ットを発注していることに鑑みれば,原告及びイカノス社は,遅くとも,
平成23年11月に行った技術分析結果の報告の際には,本件DSLA
M用チップセットに関してもその見解を示す必要があったものと認める
のが相当である。
(エ)以上によれば,イカノス社において報告された技術分析の結果は十
分なものであるとはいえず,その他,本件証拠上,原告又はイカノス社
が,本件各特許の有効性や本件チップセットと本件各特許との抵触等に
ついの見解を,裏付けとなる資料と共に提示したものと認めることはで
きないから,原告には本件基本契約18条2項の違反があるというべき
である。
ウライセンス料の算定に関する情報の提供について
(ア)被告が,ライセンス料の算定に関する情報を必要としていたことは,
上記(1)コ,サ及びスで認定したとおりであるところ,これに対し,イ
カノス社は,本件各特許に対する標準的な料率に関する情報を提示する
ことを述べたものの,結局,合理的なロイヤルティ率については,具体
的な数字を提示することは困難であるとして,提示することができず,
次に,コネクサント社製のチップセットに適用されるロイヤルティ率に
基づく検討を提案し,同ロイヤルティ率を突き止めようとするも,こち
らも新たな情報を発見することができなかったと報告するにとどまって
いる(上記(1)ス)。そうすると,原告又はイカノス社から,被告に対
し,ライセンス料の算定に関する情報が提供されたと認めることはでき
ない。
(イ)これに対し,原告は,本件各特許についてはITUにFRAND宣
言がなされており,Wi-LAN社において,被告に対しライセンス料
を算定するための情報を提供すべき義務があるから,原告においてかか
る情報を提供する必要はなかったと主張する。
しかし,原告が,本件基本契約18条2項に基づき,上記情報を提供
する義務を負うことと,Wi-LAN社に上記情報を提供する義務があ
るか否かは無関係であるから,原告の主張は主張自体失当である。
(ウ)また,原告は,仮に,原告にライセンス料を算定するための情報を
提供する義務があったとしても,継続的にコネクサント社やイカノス社
へ情報提供を要求していたから,この義務を果たしていたと主張する。
しかし,本件基本契約18条2項に基づく原告の義務は,単なる努力
義務ではないし,例えば,被告は,本訴訟において,ライセンス料の算
定に関する資料として,①Wi-LAN社の提示した特許のロイヤルテ
ィ料率に関する実例,②イカノス社が第三者と締結しているライセンス
契約におけるロイヤルティ料率の実例,③訴外Wi-LAN社が提示し
た特許と同様の特許権に関する標準的なロイヤルティ料率を示す実例そ
の他の資料を挙げているところ(これらがおよそ不合理なものとはいえ
ない。),イカノス社が第三者と締結しているライセンス契約における
ライセンス料率の実例はイカノス社に回答を委ねるとしても,本件各特
許のライセンス料に関する実例や,本件各特許と同様の特許権に関する
標準的なライセンス料率の資料などは,原告において,自ら,又はコネ
クサント社及びイカノス社以外の他社の協力を仰ぎ,資料の収集,調査
等を行うことが不可能なものとはいえないから,コネクサント社やイカ
ノス社に対して継続的に情報提供を要求しただけではおよそ最善を尽く
したとはいえない。
(エ)以上によれば,原告は,被告においてWi-LAN社とライセンス
契約を締結する場合に備えて,合理的なライセンス料を算定するための
資料の提供を怠ったものといえるから,原告には本件基本契約18条2
項の違反がある。
3争点3(相殺の成否)について
被告は,被告がWi-LAN社に対してライセンス料2億円の支払を余儀な
くされたことと,原告による本件基本契約18条2項違反との間に,相当因果
関係がある旨主張する。
しかし,前記1説示のとおり,本件チップセットが本件各特許権の侵害品で
あるか否かが明らかではない以上,本件ライセンス契約が締結された時点にお
いて,客観的に見て,被告においてWi-LAN社との間でライセンス契約を
締結すること,及びライセンス料として2億円を支払う必要性があったと認め
ることはできない。
この点,被告は,Wi-LAN社からライセンス契約を迫られており,差止
め及び損害賠償のリスクを回避するためにやむを得なかったと主張するが,本
件証拠上,Wi-LAN社から,被告に対し,本件チップセットが本件各特許
権の侵害品であることについて,何らかの具体的な根拠を示されたと認めるこ
とはできないし,Wi-LAN社が被告にライセンスの申出をしてから,本件
ライセンス契約までの約1年3か月の間,Wi-LAN社が被告に対して具体
的に何らかの法的手続をとる態度を示した事実も認めることはできない。また,
Wi-LAN社は,被告に対し,当初の提案において,時間の経過に伴いライ
センス料が高額になることを示唆しているものの(上記2(1)イ),一貫して
提示するライセンス料の具体的根拠を示しておらず(上記2(1)ウ及びツ),
結局のところ,当初の提示額よりも大幅にライセンス料を減額している(上記
2(1)ツ)。そうすると,本件ライセンス契約が締結された時点で,被告にお
いて,本件チップセットを使用等することによる本件各特許権の侵害の成否や,
提示されているライセンス料の根拠が不透明であることを措いて,直ちにライ
センス契約を締結しなければならない事情があったと認めることはできない。
なお,被告は,イカノス社において本件チップセットが本件各特許権の侵害品
であることを認めていたと主張し,その根拠として,イカノス社が,NEC及
び住友電工とWi-LAN社とのライセンス契約の経緯に鑑み,Wi-LAN
社の主張が妥当なものである可能性が高いなどと述べていることなどを挙げる
が,被告が挙げる事実は,技術分析などの調査を経ずに述べられた単なる見通
しにすぎず,直ちにイカノス社において,本件チップセットが本件各特許権の
侵害品であることを自認していたことを基礎付けるものと認めることはできな
い。そもそも,被告自身,本件チップセットが本件各特許の侵害品であるか否
かについてのイカノス社の見解が明らかではないからこそ,イカノス社に対し
技術分析をするよう求めていたものとみるべきである。その他,被告は,本件
各特許がAnnex.Cの制定に関わった富士通の出願に係るものであること
や,NECや住友電工がWi-LAN社とライセンス契約を締結していたこと
など縷々主張するが,いずれも本件ライセンス契約を締結する必要性があった
ことを直ちに基礎付けるものとはいえない。
上記検討したところによれば,被告は,法的根拠が明らかとは言い難いWi
-LAN社の要求に対して,原告の同意のないまま,同要求に任意に従ったに
すぎず,法的に見て,ライセンス料2億円の支払を余儀なくされたと評価する
ことは,困難である。
したがって,原告による本件基本契約18条2項違反と,被告の主張に係
るライセンス料2億円相当額の損害の全部又は一部との間に相当因果関係を認
めることはできないから,被告がした相殺の意思表示に係る自働債権は,その
存在の証明がなく,同意思表示は,効力を有しないものというほかはない。
4原告の売買代金請求権について
原告が,平成24年1月6日及び同月13日,被告に対し,本件各物品を納
入し,その売買代金が454万6792.40USドルであり,支払期限が同
年5月31日であったこと,被告が,同年6月8日,原告に対し,上記売買代
金として198万4346.23USドルを支払ったことは前記前提事実(7)
のとおりである。そして,上記既払金は,上記売買代金に対する支払期限の翌
日である同月1日から同月8日までに発生した商事法定利率年6分の割合によ
る遅延損害5963.01USドル(=4,546,792×0.06×8/
366),上記売買代金の元本の順番に充当されるべきものと認められるから,
充当後の上記売買代金の残額は,256万8409.18USドルとなる。し
たがって,原告は,被告に対し,上記売買代金の残額である256万8409.
18USドル及びこれに対する同月9日から支払済みまでの年6分の割合によ
る遅延損害金の支払を求めることができる。
第5結論
以上によれば,原告の請求はすべて理由があるから,その全部を認容するこ
ととし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
嶋末和秀
裁判官
西村康夫
裁判官
本井修平
構成要件目録1
1本件特許発明1-1(方法1)
1A(方法1)
ISDNピンポン伝送の漏話雑音の影響を受ける既存の電話回線を高速デ
ータ通信回線として利用し,DMTシンボル10個分の時間を400Hz
のTCMクロストークの1周期と合わせることなく該DMTシンボルを送
信するディジタル加入者線伝送方法において,
1B(方法1)
ISDNの400Hz位相情報もしくは局側から伝送された400Hz位
相情報により,受信したDMTシンボルがFEXT区間かNEXT区間か
それ以外かを判定するステップと,
1C(方法1)
該判定結果より受信FEXT区間シンボルのリファレンス信号点との差を
積分して各キャリア毎のS/Nを算出するステップと,
1D(方法1)
該算出された各キャリア毎のS/Nから各キャリア毎に伝送するビット数
を算出し,FEXT区間用ビットマップを作成するステップとを有し,
1E(方法1)
該作成されたFEXT区間用ビットマップをスライディングウインドウの
内側のビットマップとして使用して,スライディングウインドウの内側の
DMTシンボルでデータ伝送を行う
1F(方法1)
ことを特徴とするディジタル加入者線伝送方法。
2本件特許発明1-2(方法2)
1G(方法2)
ISDNピンポン伝送の漏話雑音の影響を受ける既存の電話回線を高速デ
ータ通信回線として利用し,DMTシンボル10個分の時間を400Hz
のTCMクロストークの1周期と合わせることなく該DMTシンボルを送
信するディジタル加入者線伝送方法において,
1H(方法2)
ISDNの400Hz位相情報もしくは局側から伝送された400Hz位
相情報により,受信したDMTシンボルがFEXT区間かNEXT区間か
それ以外かを判定するステップと,
1I(方法2)
該判定結果より受信NEXT区間シンボルのリファレンス信号点との差を
積分して各キャリア毎のS/Nを算出するもしくは受信FEXT区間シン
ボルのリファレンス信号点との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出
するステップと,
1J(方法2)
該算出された各キャリア毎のS/Nから各キャリア毎に伝送するビット数
を算出し,NEXT区間用ビットマップとFEXT区間用ビットマップを
作成するステップとを有し,
1K(方法2)
該作成されたNEXT区間用ビットマップとFEXT区間用ビットマップ
をスライディングウインドウのそれぞれ外側と内側のビットマップとして
使用してデータ伝送を行う
1L(方法2)
ことを特徴とするディジタル加入者線伝送方法。
3本件特許発明1-3(装置1)
1A(装置1)
ISDNピンポン伝送の漏話雑音の影響を受ける既存の電話回線を高速デ
ータ通信回線として利用し,DMTシンボル10個分の時間を400Hz
のTCMクロストークの1周期と合わせることなく該DMTシンボルを送
信するxDSL装置において,
1B(装置1)
ISDNの400Hz位相情報もしくは局側から伝送された400Hz位
相情報により,受信したDMTシンボルがFEXT区間かNEXT区間か
それ以外かを判定する位相判定器と,
1C(装置1)
該位相判定器出力により受信FEXT区間シンボルのリファレンス信号点
との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出するFEXT区間S/N測
定器と,
1D(装置1)
該FEXT区間S/N測定器の出力から各キャリア毎に伝送するビット数
を算出し,FEXT区間用ビットマップを作成する伝送bit数換算器と
を有し,
1E(装置1)
該作成されたFEXT区間用ビットマップをスライディングウインドウの
内側のビットマップとして使用して,スライディングウインドウの内側の
DMTシンボルでデータ伝送を行う
1F(装置1)
ことを特徴とするxDSL装置。
4本件特許発明1-4(装置2)
1G(装置2)
ISDNピンポン伝送の漏話雑音の影響を受ける既存の電話回線を高速デ
ータ通信回線として利用し,DMTシンボル10個分の時間を400Hz
のTCMクロストークの1周期と合わせることなく該DMTシンボルを送
信するxDSL装置において,
1H(装置2)
ISDNの400Hz位相情報もしくは局側から伝送された400Hz位
相情報により,受信したDMTシンボルがFEXT区間かNEXT区間か
それ以外かを判定する位相判定器と,
1I(装置2)
該位相判定器出力により受信NEXT区間シンボルのリファレンス信号点
との差を積分して各キャリア毎のS/Nを算出するNEXT区間S/N測
定器および受信FEXT区間シンボルのリファレンス信号点との差を積分
して各キャリア毎のS/Nを算出するFEXT区間S/N測定器と,
1J(装置2)
該NEXT区間S/N測定器の出力およびFEXT区間S/N測定器の出
力から各キャリア毎に伝送するビット数を算出し,NEXT区間用ビット
マップおよびFEXT区間用ビットマップを作成する伝送bit数換算器
とを有し,
1K(装置2)
該作成されたNEXT区間用ビットマップおよびFEXT区間用ビットマ
ップをスライディングウインドウのそれぞれ外側と内側のビットマップと
して使用してデータ伝送を行う
1L(装置2)
ことを特徴とするxDSL装置。
構成要件目録2
1本件特許発明2(方法1)
2A(方法1)
TCM400Hzの前半のサイクル,後半のサイクルでISDNからの近
端漏話(NEXT)や遠端漏話(FEXT)の影響を受ける電話回線を経
由して,DMTシンボル69個を1つのSuperFrameとし,該
SuperFrameの境界を示すSyncSymbolを送信する
ディジタル加入者線伝送方法において,
2B(方法1)
前記SuperFrame5個を1つの単位とし,その単位をTCM4
00Hz(2.5ms)の整数倍に合わせ,
2C(方法1)
このSuperFrame5個の境界を加入者側に送信するために,4
番目のSyncSymbolをインバースSyncSymbolとし
て,加入者側のFEXT区間に送信する
2D(方法1)
ことを特徴とするディジタル加入者線伝送方法。
2本件特許発明2(方法2)
2A(方法2)
TCM400Hzの前半のサイクル,後半のサイクルでISDNからの近
端漏話(NEXT)や遠端漏話(FEXT)の影響を受ける電話回線を経
由して,DMTシンボル69個を1つのSuperFrameとし,該
SuperFrameの境界を示すSyncSymbolを送信する
ディジタル加入者線伝送方法において,
2B(方法2)
前記SuperFrame5個を1つの単位とし,その単位をTCM4
00Hz(2.5ms)の整数倍に合わせ,
2C(方法2)
このSuperFrame5個の境界を局側へ通知するために,1番目
のSyncSymbolをインバースSyncSymbolとして,
局側のFEXT区間に送信する
2D(方法2)
ことを特徴とするディジタル加入者線伝送方法。
3本件特許発明2(装置1)
2A(装置1)
TCM400Hzの前半のサイクル,後半のサイクルでISDNからの近
端漏話(NEXT)や遠端漏話(FEXT)の影響を受ける電話回線を経
由して,DMTシンボル69個を1つのSuperFrameとし,該
SuperFrameの境界を示すSyncSymbolを送信する
xDSL装置において,
2B(装置1)
前記SuperFrame5個を1つの単位とし,その単位をTCM4
00Hz(2.5ms)の整数倍に合わせ,
2C(装置1)
このSuperFrame5個の境界を加入者側に送信するために,4
番目のSyncSymbolをインバースSyncSymbolとし
て,加入者側のFEXT区間に送信する手段を有する
2D(装置1)
ことを特徴とするxDSL装置。
4本件特許発明2(装置2)
2A(装置2)
TCM400Hzの前半のサイクル,後半のサイクルでISDNからの近
端漏話(NEXT)や遠端漏話(FEXT)の影響を受ける電話回線を経
由して,DMTシンボル69個を1つのSuperFrameとし,該
SuperFrameの境界を示すSyncSymbolを送信する
xDSL装置において,
2B(装置2)
前記SuperFrame5個を1つの単位とし,その単位をTCM4
00Hz(2.5ms)の整数倍に合わせ,
2C(装置2)
このSuperFrame5個の境界を局側へ通知するために,1番目
のSyncSymbolをインバースSyncSymbolとして,
局側のFEXT区間に送信する手段を有する
2D(装置2)
ことを特徴とするxDSL装置。
構成要件目録3
1本件特許発明3(方法)
3A(方法)
電話回線を高速データ通信回線として利用してデータ通信するディジタル
加入者線伝送方法において,
3B(方法)
通信を行うためのトレーニング中に,受信したDMTシンボルが,NEX
T(近端漏話)区間もしくはFEXT区間(遠端漏話)に完全に入らない
DMTシンボルをS/N測定対象外とし,NEXT区間に入っているDM
Tシンボルを用いて,NEXT区間でのS/N測定し,FEXT区間に入
っているDMTシンボルを用いて,FEXT区間でのS/N測定するステ
ップを有する
3C(方法)
ことを特徴とするディジタル加入者線伝送方法。
2本件特許発明3(装置)
3A(装置)
xDSL装置において,
3B(装置)
通信を行うためのトレーニング中に,受信したDMTシンボルが,NEX
T(近端漏話)区間もしくはFEXT区間(遠端漏話)に完全に入らない
DMTシンボルをS/N測定対象外とし,NEXT区間に入っているDM
Tシンボルを用いて,NEXT区間でのS/N測定し,FEXT区間に
入っているDMTシンボルを用いて,FEXT区間でのS/N測定する測
定手段を有する
3C(装置)
ことを特徴とするxDSL装置。
構成要件目録4
1本件特許発明4-1(方法1)
4A(方法1)
電話回線を高速データ通信回線として利用してDMTシンボルを用いて通
信するためのトレーニングを行うディジタル加入者線伝送方法において,
4B(方法1)
スライディングウィンドウのNEXT区間とFEXT区間を相手側へ通知
するシンボルとして,そのシンボルの4値QAM信号点が90°異なるシ
ンボルを伝送する
4C(方法1)
ことを特徴とするディジタル加入者線伝送方法。
2本件特許発明4-2(方法2)
4D(方法2)
電話回線を高速データ通信回線として利用してDMTシンボルを用いて通
信するためのトレーニングを行うディジタル加入者伝送方法において,
4E(方法2)
相手側からの前記DMTシンボルを復調し,90°異なる位相差を持つ2
種類の信号点を用いて,スライディングウィンドウのNEXT区間とFE
XT区間を検出する
4F(方法2)
ことを特徴とするディジタル加入者線伝送方法。
3本件特許発明4-3(方法3)
4G(方法3)
電話回線を高速データ通信回線として利用してDMTシンボルを用いて通
信するためのトレーニングを行うディジタル加入者線伝送方法において,
4H(方法3)
スライディングウィンドウのNEXT区間とFEXT区間を通知するDM
Tシンボルとして,特定の周波数キャリアを選択して,4QAMの信号点
のうち,位相を90°ずらした2つの信号点を変調して伝送する
4I(方法3)
ことを特徴とするディジタル加入者線伝送方法。
4本件特許発明4-5(方法4)
4M(方法4)
電話回線を高速データ通信回線として利用してDMTシンボルを用いて通
信するためのトレーニングを行うディジタル加入者線伝送方法において,
4N(方法4)
受信したDMTシンボルを復調し,90°異なる位相差を持つ2種類の信
号点を用いて,スライディングウィンドウのNEXT区間とFEXT区間
を識別する
4O(方法4)
ことを特徴とするディジタル加入者線伝送方法。
5本件特許発明4-6(装置3)
4G(装置3)
xDSL装置において,
4H(装置3)
スライディングウィンドウのNEXT区間とFEXT区間を通知するDM
Tシンボルとして,特定の周波数キャリアを選択して,4QAMの信号点
のうち,位相を90°ずらした2つの信号点を変調して伝送する手段を有
する
4I(装置3)
ことを特徴とするxDSL装置。
6本件特許発明4-8(装置4)
4M(装置4)
xDSL装置において,
4N(装置4)
受信したDMTシンボルを復調し,90°異なる位相差を持つ2種類の信
号点を用いて,スライディングウィンドウのNEXT区間とFEXT区間
を識別する手段を有する
4O(装置4)
ことを特徴とするxDSL装置。
構成要件目録5
5A(方法)
ISDNピンポン伝送からの漏話の影響を受ける電話回線を高速データ通信回
線として利用して,DMTシンボル69個を1つのSuperFrameと
し,このSuperFrame5個を1つの単位とし,400Hz(2.5
ms)の整数倍と合わせて,246μsの1DMTシンボルで伝送するディジ
タル加入者線伝送方法において,
5B(方法)
1シンボル目のDMTシンボルが400Hzの先頭に同期している場合,40
0Hz1周期のサンプル数である2760サンプルにおけるN個目のシンボル
の先頭を示すサンプルの値が,加入者側FEXT区間を示すサンプル値(a)
内にシンボル全てが入るシンボルの先頭を示すサンプルの値より小さい,又は
FEXT区間を示すサンプルの値(a)と加入者側NEXT区間を示すサンプ
ル値の(b)を加算したサンプル値を超えた場合,そのN番目のシンボルがF
EXTの区間に該当し,該2760サンプル中のN個目のシンボルの先頭を示
すサンプル値が,加入者側FEXT区間を示すサンプル値(a)内にサンプル
のシンボル全てが入るシンボルの先頭を示すサンプル値以上でFEXT区間を
示すサンプル値(a)と加入者側NEXT区間を示すサンプル値(b)を加算
したサンプル値以下なら,そのN番目のシンボルがNEXTの区間に該当する
ことを識別する
5C(方法)
ことを特徴とするディジタル加入者線伝送方法。
構成要件目録6
1本件特許発明6-1(方法)
6A(方法)
ISDNピンポン伝送の漏話雑音の影響を受ける電話回線を高速データ通
信回線として利用してデータ通信を行うディジタル加入者線伝送方法にお
いて,
6B(方法)
FEXT区間のみデータ伝送する方式でのスライディング・ウインドの外
側のシンボルとして,パイロット・トーンを送信する
6C(方法)
ことを特徴とするディジタル加入者線伝送方法。
2本件特許発明6-2(装置)
6A(装置)
ISDNピンポン伝送の漏話雑音の影響を受ける電話回線を高速データ通
信回線として利用してデータ通信を行うxDSL装置において,
6B(装置)
FEXT区間のみデータ伝送する方式でのスライディング・ウインドの外
側のシンボルとして,パイロット・トーンを送信する手段
6C(装置)
を有することを特徴とするxDSL装置。
構成要件目録7
1本件特許発明7-1(方法1)
7A(方法1)
電話回線を高速データ通信回線として利用して通信するディジタル加入者
線伝送方法において,
7B(方法1)
通信を開始するために行うトレーニング中に,受信側がFEXT区間に受
信できるようなタイミングで,送信側からトレーニングシーケンスの切り
換えを示す信号を送信する
7C(方法1)
ことを特徴とするディジタル加入者線伝送方法。
2本件特許発明7-2(方法2)
7A(方法2)
電話回線を高速データ通信回線として利用して通信するディジタル加入者
線伝送方法において,
7B(方法2)
通信を開始するために行うトレーニング中に,受信側がFEXT区間に受
信できるようなタイミングで,送信側からトレーニングシーケンスの切り
換えを示す信号の先頭を送信する
7C(方法2)
ことを特徴とするディジタル加入者線伝送方法。
3本件特許発明7-3(方法3)
7A(方法3)
電話回線を高速データ通信回線として利用して通信するディジタル加入者
線伝送方法において,
7B(方法3)
通信を開始するために行うトレーニング中に,受信側がFEXT区間に受
信できるようなタイミングで,送信側からトレーニングシーケンスの切り
換えを示すシンボルの先頭を送信する
7C(方法3)
ことを特徴とするディジタル加入者線伝送方法。
4本件特許発明7-4(装置1)
7A(装置1)
xDSL装置において,
7B(装置1)
通信を開始するために行うトレーニング中に,受信側がFEXT区間に受
信できるようなタイミングで,送信側からトレーニングシーケンスの切り
換えを示す信号を送信する手段を有する
7C(装置1)
ことを特徴とするxDSL装置。
5本件特許発明7-5(装置2)
7A(装置2)
xDSL装置において,
7B(装置2)
通信を開始するために行うトレーニング中に,受信側がFEXT区間に受
信できるようなタイミングで,送信側からトレーニングシーケンスの切り
換えを示す信号を送信する手段を有する
7C(装置2)
ことを特徴とするxDSL装置。
6本件特許発明7-6(装置3)
7A(装置3)
xDSL装置において,
7B(装置3)
通信を開始するために行うトレーニング中に,受信側がFEXT区間に受
信できるようなタイミングで,送信側からトレーニングシーケンスの切り
換えを示すシンボルの先頭を送信する手段を有する
7C(装置3)
ことを特徴とするxDSL装置。
構成要件目録8
1本件特許発明8-1(方法)
8A(方法)
TCM-ISDNからのノイズ環境下におけるトランシーバトレーニング
を行うディジタル加入者線伝送方法において,
8B(方法)
シングルビットマップでイニシャライゼーションを行う場合,スライディ
ングウィンドウのFEXT区間のみでトレーニングを行う
8C(方法)
ことを特徴とするディジタル加入者線伝送方法。
2本件特許発明8-2(装置)
8A(装置)
TCM-ISDNからのノイズ環境下における電話回線をデータ通信回線
として利用するADSL装置において,
8B(装置)
ADSL装置のトレーニング時,スライディングウィンドウのFEXT区
間のみ,ADSL装置の信号を送出する手段
8C(装置)
を有することを特徴とするADSL装置。
構成要件目録9
9A
既存の電話回線を介して局側の装置と加入者側の装置が通信を行うディジタル
加入者線伝送システムにおいて,
9B
局側装置(ATU-C),加入者側装置(ATU-R)それぞれ独立したハイ
パーフレームカウンタ(501)を有し,
9C
そのハイパーフレームカウンタがDMTシンボルクロックを連続して所定回数
カウントすることでDMTシンボル数のカウントを行い,カウント値を用いて
スライディングウインドウDEC(503)によりスライディングウインドウ
のFEXTR,NEXTR,FEXTC,NEXTCの区間の特定を行う手段
9D
を有することを特徴とするディジタル加入者線伝送システム。
本件製品等構成目録1
1本件DSLAM
1a
TCM-ISDNのデータ・ストリームは,TTR期間に送信され,CO
(局舎)は,TTR期間の前半にストリームを送信し,RT(宅内)は,
TTR期間の後半に送信するため,本件DSLAMは,TTR期間の前半
にISDNからNEXTノイズを受け,TCM-ISDN期間の後半にI
SDNからFEXTノイズを受ける既存の電話回線を利用してDMTシン
ボルを送信する。
本件DSLAMが送信するDMTシンボルは,345個のDMTシンボル
がTTRの32周期と一致している。
1b
局側から受信したTTRと5つのスーパーフレームと同期させ(TTRと
同期した5つのスーパーフレームを「ハイパーフレーム」という),ハイ
パーフレームは,0から344までの番号が振られた345個のDMTシ
ンボルから構成される。本件DSLAMは,次の式により,受信したNd
mt番目のDMTシンボルが,FEXTC区間かNEXTC区間かそれ以外
かを判定する。
1c
本件DSLAMは,FEXTビットマップ・モードの場合,受信されたF
EXTCシンボルからSN比を算出する。
1d
本件DSLAMは,前記算出されたSN比から,各キャリア毎に伝送する
ビット数を算出し,FEXT区間用ビットマップ(ビットマップ-FC)
を作成し,ADSLモデムに送信する。
1e
FEXTビットマップ・モードを選択した場合,ADSLモデムは,受信
したビットマップ-FCをFEXTCシンボルのビットマップとして使用
して,FEXTCシンボルでデータ伝送を行う。
1g
TCM-ISDNのデータ・ストリームは,TTR期間に送信され,CO
(局舎)は,TTR期間の前半にストリームを送信し,RT(宅内)は,
TTR期間の後半に送信するため,本件DSLAMは,TTR期間の前半
にISDNからNEXTノイズを受け,TCM-ISDN期間の後半にI
SDNからFEXTノイズを受ける既存の電話回線を利用してDMTシン
ボルを送信する。
本件DSLAMが送信するDMTシンボルは,345個のDMTシンボル
がTTRの32周期と一致している。(以上構成1aと同じ)
1h
局側から受信したTTRと5つのスーパーフレームと同期させ(TTRと
同期した5つのスーパーフレームを「ハイパーフレーム」という),ハイ
パーフレームは,0から344までの番号が振られた345個のDMTシ
ンボルから構成される。本件DSLAMは,次の式により,受信したNd
mt番目のDMTシンボルが,FEXTC区間かNEXTC区間かそれ以外
かを判定する。
1i
本件DSLAMは,デュアルビットマップ・モードの場合,受信されたF
EXTCシンボル及びNEXTCシンボルからSN比を算出する。
1j
本件DSLAMは,前記算出されたSN比から,各キャリア毎に伝送する
ビット数を算出し,NEXT区間用ビットマップ(ビットマップ-NC)
とFEXT区間用ビットマップ(ビットマップ-FC)を作成し,ADS
Lモデムに送信する。
1k
デュアルビットマップ・モードを選択した場合,ADSLモデムは,受信
したビットマップ-NC及びビットマップ-FCを,NEXTCシンボル及
びFEXTCシンボルのビットマップとして使用して,NEXTCシンボ
ル及びFEXTCシンボルでデータ伝送を行う。
2本件ADSLモデム
1a’
TCM-ISDNのデータ・ストリームは,TTR期間に送信され,CO
(局舎)は,TTR期間の前半にストリームを送信し,RT(宅内)は,
TTR期間の後半に送信するため,本件ADSLモデムは,TTR期間の
前半にISDNからFEXTノイズを受け,TTR期間の後半にISDN
からNEXTノイズを受ける既存の電話回線を利用してDMTシンボルを
送信する。
本件ADSLモデムが送信するDMTシンボルは,345個のDMTシン
ボルがTTRの32周期と一致している。
1b’
DSLAMから受信したTTRと5つのスーパーフレームと同期させ(T
TRと同期した5つのスーパーフレームを「ハイパーフレーム」という),
ハイパーフレームは,0から344までの番号が振られた345個のDM
Tシンボルから構成される。本件ADSLモデムは,次の計算式により,
受信したNdmt番目のDMTシンボルが,FEXTR区間かNEXTR区
間かそれ以外かを判定する。
1c’
本件ADSLモデムは,FEXTビットマップ・モードの場合,受信され
たFEXTRシンボルからSN比を算出する。
1d’
本件ADSLモデムは,前記算出されたSN比から,各キャリア毎に伝送
するビット数を算出し,FEXT区間用ビットマップ(ビットマップ-F
R)を作成し,DSLAMに送信する。
1e’
FEXTビットマップ・モードを選択した場合,DSLAMは,受信した
ビットマップ-FRをFEXTRシンボルのビットマップとして使用して,
FEXTRシンボルでデータ伝送を行う。
1g’
TCM-ISDNのデータ・ストリームは,TTR期間に送信され,CO
(局舎)は,TTR期間の前半にストリームを送信し,RT(宅内)は,
TTR期間の後半に送信するため,本件ADSLモデムは,TTR期間の
前半にISDNからFEXTノイズを受け,TTR期間の後半にISDN
からNEXTノイズを受ける既存の電話回線を利用してDMTシンボルを
送信する。
本件ADSLモデムが送信するDMTシンボルは,345個のDMTシン
ボルがTTRの32周期と一致している。
1h’
DSLAMから受信したTTRと5つのスーパーフレームと同期させ(T
TRと同期した5つのスーパーフレームを「ハイパーフレーム」という),
ハイパーフレームは,0から344までの番号が振られた345個のDM
Tシンボルから構成される。本件ADSLモデムは,次の計算式により,
受信したNdmt番目のDMTシンボルが,FEXTR区間かNEXTR区
間かそれ以外かを判定する。(以上構成1b’と同じ)
1i’
本件ADSLモデムは,デュアルビットマップ・モードの場合,受信され
たFEXTRシンボル及びNEXTRシンボルからSN比を算出する。
1j’
本件ADSLモデムは,前記算出されたSN比から,各キャリア毎に伝送
するビット数を算出し,NEXT区間用ビットマップ(ビットマップ-N
R)とFEXT区間用ビットマップ(ビットマップ-FR)を作成し,D
SLAMに送信する。
1k’
デュアルビットマップ・モードを選択した場合,DSLAMは,受信した
ビットマップ-NR及びビットマップ-FRを,NEXTRシンボル及びF
EXTRシンボルのビットマップとして使用して,NEXTRシンボル及
びFEXTRシンボルでデータ伝送を行う。
本件製品等構成目録2
1本件DSLAM
2a(1)
TCM-ISDN期間の前半にISDNからNEXTノイズを受信し,T
CM-ISDN期間の後半にISDNからFEXTノイズを受信する電話
回線を経由して,DMTシンボル69個を1つのスーパーフレームとし,
当該スーパーフレームの境界を示すシンクシンボルを送信する本件チップ
セットを搭載したDSLAMであり,
2b(1)
前記スーパーフレーム5つをハイパーフレームとし,当該ハイパーフレ
ームはTCM-ISDN期間の34倍に合わせており,
2c(1)
このハイパーフレームの境界を示すため,4番目のスーパーフレームに
インバースシンクシンボルを使用して加入者側のFEXT区間に送信す
る,
2d(1)ことを特徴とする本件チップセットを搭載したDSLAM。
2本件ADSLモデム
2a(2)
TCM-ISDN期間の前半にISDNからFEXTノイズを受信し,T
CM-ISDN期間の後半にISDNからNEXTノイズを受信する電話
回線を経由して,DMTシンボル69個を1つのスーパーフレームとし,
当該スーパーフレームの境界を示すシンクシンボルを送信する本件チップ
セットを搭載したADSLモデムであり,
2b(2)
前記スーパーフレーム5つをハイパーフレームとし,当該ハイパーフレー
ムはTCM-ISDN期間の34倍に合わせており,
2c(2)
このハイパーフレームの境界を示すため,1番目のスーパーフレームにイ
ンバースシンクシンボルを使用して局側のFEXT区間に送信する,
2d(2)
ことを特徴とする本件チップセットを搭載したADSLモデム。
本件製品等構成目録3
1本件DSLAM
3a(1)
電話回線を使い高速データ通信を行う技術であるADSLを用いて,デー
タ通信を行う本件チップセットを搭載したDSLAMにおいて,
3b(1)
通信を行うためのトレーニング中に,DSLAMに搭載された本件チップ
セットによりSN比を測定する場合において,受信したDMTシンボルが,
DSLAM側からみたFEXT区間及びNEXT区間に完全に入らないD
MTシンボルを使用せず,NEXT区間に入っているDMTシンボルを用
いてNEXT区間のSN比を測定し,FEXT区間に入っているDMTシ
ンボルを用いて,FEXT区間でのSN比を測定する
3c(1)
ことを特徴とする伝送方法を行う装置。
2本件ADSLモデム
3a(2)
電話回線を使い高速データ通信を行う技術であるADSLを用いて,デー
タ通信を行う本件チップセットを搭載したADSLモデムにおいて,
3b(2)
通信を行うためのトレーニング中に,ADSLモデムに搭載された本件チ
ップセットによりSN比を測定する場合において,受信したDMTシンボ
ルが,DSLAM側からみたFEXT区間及びNEXT区間に完全に入ら
ないDMTシンボルを使用せず,NEXT区間に入っているDMTシンボ
ルを用いてNEXT区間のSN比を測定し,FEXT区間に入っているD
MTシンボルを用いて,FEXT区間でのSN比を測定する
3c(2)
ことを特徴とする伝送方法を行う装置。
本件製品等構成目録4
1本件DSLAM
4a
本件DSLAMは,非対称デジタル加入者線(ADSL)の送受信機であ
り,DMTシンボルを用いて通信をするためのトレーニングを行う。
4b
本件DSLAMは,トレーニングシーケンス「C-Pilot1」の際に,
スライディング・ウィンドウのFEXTR区間内のシンボルであるFEX
TRシンボルを示す座標(+,+)のDMTシンボルを送信し,また,ス
ライディング・ウィンドウのNEXTR区間内のシンボルであるNEXT
Rシンボルを示す座標(+,-)のDMTシンボルを送信する。FEXT
Rシンボル及びNEXTRシンボルは,プロファイル1及び2の場合は4
8番目のキャリア,プロファイル4~6の場合は48番目のキャリア又は
24番目のキャリアを選択して当該各座標をエンコード(変調)して伝送
する。
2本件ADSLモデム
4d
本件ADSLモデムは,非対称デジタル加入者線(ADSL)の送受信機
(xDSL装置)であり,DMTシンボルを用いて通信をするためのトレ
ーニングを行う。
4e
本件ADSLモデムは,DSLAMから伝送されたスライディング・ウィ
ンドウのFEXTR区間内のシンボルであるFEXTRシンボルを示す座
標(+,+)のDMTシンボル,及び,スライディング・ウィンドウのN
EXTR区間内のシンボルであるNEXTRシンボルを示す座標(+,
-)のDMTシンボルからTTRCの位相情報を検出する。本件ADSL
モデムは当該位相情報から,NEXTC区間とFEXTC区間を検出する。
本件製品等構成目録5
5a
TCM-ISDNのデータ・ストリームは,TTR期間に送信され,CO(局
舎)は,TTR期間の前半にストリームを送信し,RT(宅内)は,TTR期
間の後半に送信するため,本件DSLAMは,TTR期間の前半にISDNか
らNEXTノイズを受け,TCM-ISDN期間の後半にISDNからFEX
Tノイズを受ける既存の電話回線を利用して通信する非対称ディジタル加入者
線伝送を行う送受信機(ADSL装置)である。
本件DSLAMからADSLモデムへの伝送にはハイパーフレーム構造が用
いられる。ハイパーフレームは,5つのスーパーフレームから構成されており,
1つのスーパーフレームは,69個のDMTシンボルから構成されている。1
DMTシンボルの長さは264μsである。スーパーフレーム5個分85ms
は,TTRクロック(=2.5ms)の34倍と一致する。
5b
本件DSLAMは,C-PILOT1に入った直後に,NSWF(スライディン
グ・ウィンドウ・フレーム)カウンタを0から開始し,各DMTシンボルの送
信の後にNSWFカウンタをモジュロ345でインクリメントする。ハイパーフ
レームは,0から344までの番号が振られた345個のDMTシンボルから
構成される。ハイパーフレームの先頭のDMTシンボルは,TTRの先頭に同
期している。
本件DSLAMでは,以下の計算式に基づき,送信するDMTシンボルがFE
XTRシンボルなのか,NEXTRシンボルであるかを識別する。
本件製品等構成目録6
6aTCM-ISDNのデータ・ストリームは,TTR期間に送信され,CO
(局舎)は,TTR期間の前半にストリームを送信し,RT(宅内)は,T
TR期間の後半に送信するため,本件DSLAMは,TTR期間の前半にI
SDNからNEXTノイズを受け,TCM-ISDN期間の後半にISDN
からFEXTノイズを受ける既存の電話回線を利用して通信する非対称ディ
ジタル加入者線伝送を行う送受信機(ADSL装置)である。
6b本件DSLAMは,ビットマップ-NRが無効(FEXTビットマップ・モ
ード)の場合,NEXTRシンボルとしてパイロット・トーンを送信する
本件製品等構成目録7
7a
本件DSLAMは,既存の電話回線を高速データ通信回線として利用して通信
する非対称ディジタル加入者線伝送を行う送受信機(xDSL装置)である。
7b
本件DSLAMは,通信を開始するためのトレーニングを行う。
本件DSLAMは,トレーニングにおける各シーケンスのうち,C-RATE
S1の最初のシンボルをハイパーフレームの初めと同期し,C-RATES1
に入るタイミングをADSLモデムに知らせるため,C-SEGUE1の最初
のシンボルをFEXTR区間内に送信する。
本件製品等構成目録8
1本件DSLAM
8a
TCM-ISDNのデータ・ストリームは,TTR期間に送信され,CO
(局舎)は,TTR期間の前半にストリームを送信し,RT(宅内)は,
TTR期間の後半に送信するため,本件DSLAMは,TTR期間の前半
にISDNからNEXTノイズを受け,TCM-ISDN期間の後半にI
SDNからFEXTノイズを受ける既存の電話回線を利用して通信する非
対称ディジタル加入者線伝送を行う送受信機(ADSL装置)である。
本件DSLAMは,かかる環境下において,送受信機トレーニングを行う。
8b
本件DSLAMは,プロファイル3によりイニシャライゼーションを行う
場合,送受信機トレーニングにおいてNEXTRシンボルの中で信号を送
信せず,FEXTRシンボルの中でのみ信号を送信する。
2本件ADSLモデム
8a’
TCM-ISDNのデータ・ストリームは,TTR期間に送信され,CO
(局舎)は,TTR期間の前半にストリームを送信し,RT(宅内)は,
TTR期間の後半に送信するため,本件ADSLモデムは,TTR期間の
前半にISDNからFEXTノイズを受け,TTR期間の後半にISDN
からNEXTノイズを受ける既存の電話回線を利用して通信する非対称デ
ィジタル加入者線伝送を行う送受信機(ADSL装置)である。
本件ADSLモデムは,かかる環境下において,送受信機トレーニングを
行う。
8b’
本件ADSLモデムは,FEXTビットマップ・モードでイニシャライゼ
ーションを行う場合に,送受信機トレーニングにおいてNEXTCシンボ
ルの中で信号を送信せず,FEXTCシンボルの中でのみ信号を送信する。
本件製品等構成目録9
9a
既存の電話回線を介して本件DSLAMと本件ADSLモデムが通信を行う非
対称ディジタル加入者線伝送システムにおいて,
9b・c
本件DSLAMは,C-PILOT1に入った直後に,NSWF(スライディン
グ・ウィンドウ・フレーム)カウンタを0から開始し,各DMTシンボルの送
信の後にNSWFカウンタをモジュロ345でインクリメントする。スライディ
ング・ウィンドウ機能とこのカウンタに従って,本件DSLAMは,FEXT
RまたはNEXTRのいずれかのシンボルで,後続のシンボルをすべて送信す
ることを決定する。
本件ADSLモデムは,R-REVERB1に入った直後に,そのNSWFカウ
ンタを開始し,各DMTシンボルの送信の後にNSWFカウンタを0からモジュ
ロ345でインクリメントする。スライディング・ウィンドウとこのカウンタ
に従って,本件ADSLモデムは,FEXTCまたはNEXTCのいずれかの
シンボルで,後続のシンボルをすべて送信することを決定する。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
ATU-C送信機
ATU-R送信機
CO(局舎)
0≤伝播遅延≤16UI
受信ISDN送信ISDN
受信ISDN送信ISDN
フレーム
1UI=3.125μs
FEXTRおよびNEXTRは、ATU-Cによって推定される。
FEXTCおよびNEXTCは、ATU-Rによって推定される。
TTRTCM-ISDNのタイミング基準
TTRCATU-Cで使用されるタイミング基準
受信されたTTRCATU-Rで受信されたTTRC
TTRRATU-Rで使用されるタイミング基準
SC55×0.9058μs:TTRからTTRCへのオフセット
SR-42×0.9058μs:受信されたTTRCからTTRRへのオフセット
受信された
TTRC
フレーム
0≤伝播遅延≤18.5UI
フレームフレーム
【図7】
ATU-C送信機
ATU-R送信機
CO(局舎)
0≤伝播遅延≤16UI
受信ISDN送信ISDN
受信ISDN送信ISDN
フレーム
1UI=3.125μs
受信された
TTRC
フレーム
0≤伝播遅延≤18.5UI
フレームフレーム
ATU-C送信機
ATU-R送信機
CO(局舎)
0≤伝播遅延≤16UI
受信ISDN送信ISDN
受信ISDN送信ISDN
フレーム
1UI=3.125μs
FEXTRおよびNEXTRは、ATU-Cによって推定される。
FEXTCおよびNEXTCは、ATU-Rによって推定される。
TTRTCM-ISDNのタイミング基準
TTRCATU-Cで使用されるタイミング基準
受信されたTTRCATU-Rで受信されたTTRC
受信された
TTRC
フレーム
0≤伝播遅延≤18.5UI
フレームフレーム
FEXTR
【図8】
【図9】
ハイパーフレーム=345シンボル
漏話区間
ATU-C
Tフレーム
スライディン
グ・ウィンド
ウ・バッファ
スライディング・ウィンドウ
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛