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判決 平成14年11月29日 神戸地方裁判所 平成10年(ワ)第55号 損害
賠償請求事件
          主文
 1 被告は,原告らに対し,2855万円及びこれに対する平成6年4月1日か
ら完済まで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担
とする。
 4 この判決の1項は仮に執行することができる。
          事       実
第1当事者の求める裁判
 1 原告ら(請求の趣旨)
  (1) 被告は,原告らに対し,7590万4378円及びこれに対する平成6年
4月1日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。
  (3) この判決は仮に執行することができる。
2 被告(請求の趣旨に対する答弁)
  (1) 原告らの請求を棄却する。
  (2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第2 当事者の主張
 1 原告ら(請求原因)
  (1) 本件請負契約
   ア 原告らは,平成5年7月22日,被告との間で,別紙第1物件目録記載
の建物のうち,車庫を除いた部分(以下「本件建物」という。)の設計・施工・監
理につき,請負代金を6024万0050円とする建築請負契約(以下「本件建築
請負契約」という。)を締結した(甲1)。
イ 被告は,平成6年3月31日,原告らに対し,本件建物を建築して引き
渡した。請負代金は,本件請負契約締結後数回改訂され,原告らは被告に対し,合
計6765万3920円の請負代金を支払った。
   ウ 原告らは,本件建物建築資金の一部を住宅金融公庫からの融資でまかな
っており,本件建築請負契約では,住宅金融公庫の融資住宅設計審査手続に合格す
ることが前提となっていた(甲2)。
(2) 本件建物の瑕疵
本件建物の設計・施工・監理には,次のような瑕疵が存在する。
   ア 本件建物基礎の設計上の瑕疵
 本件建物基礎の設計には,次のような瑕疵が存在する。
(ア)建築基準法施行令38条2項は,「建築物には,異なる構造方法に
よる基礎を併用してはならない。ただし,建築物の構造,形態および地盤の状況を
考慮した構造計算または実験によって構造耐力上安全であることが確かめられた場
合においては,この限りではない。」と規定している。
  ところが,本件建物は,何ら構造計算等によって構造耐力上の安全性
が確かめられないまま,北側部分を造成地盤の上に布基礎を支持基盤として,南側
を車庫の天井スラブのコンクリートを基礎として,二つの異なる構造方法による基
礎の上に建築されており(別紙第2図面参照),本件建物基礎は建築基準法施行令
38条2項に違反している。
    (イ) 本件建物敷地地盤は,本件建物建築工事に先立ち,平成5年8月1
2日,株式会社Aによるスウェーデン式サウンデイング試験(以下「SS試験」と
いう。)がなされ,同月18日,その結果が被告に報告されている。
上記報告書には,「調査の結果から,表面からよく締まった土質であ
るが,石を多く含んでいたので,石に当たりデーターが高く出ているが,データー
程の締まりはないと思われる。それと一部に緩いところもあるので,何らかの基礎
補強が必要と思われる。」旨記載されていた(甲4)。
被告は,本件建物敷地地盤が上記のような性質のものであることを認
識しながら,地盤改良工事を行ったり,本件建物の基礎を杭基礎やベタ基礎で設計
する等,地震による被害を最小限に止めるような配慮を何らなさずに,構造耐力上
の安全性に劣る布基礎での設計を行っている。
(ウ) 原告らは,本件建物敷地の地盤が,東西の長さが10mもないの
に,東側には6mもの鉄筋コンクリート製の擁壁が建設されていることから(別紙
第3図面参照),地震による被害や不同沈下による被害を心配し,本件建築請負契
約の締結過程で,被告に対し,地震や台風等の天災が起きても建物が崩れないよう
な基礎工事を行うように要求し,被告もこれを了解した。
      ところが,本件建物の基礎設計は,大震災がきても被害を最小限に止
めるような配慮が何らされていない。
    (エ) 株式会社AのSS試験報告書(甲4)には,本件建物敷地は,「何
らかの基礎補強」が必要であると記載されている。この「何らかの基礎補強」と
は,「地盤改良又は杭基礎」のことを指している(B証言)。ところが,被告は,
株式会社Aの意見を無視して,本件建物の布基礎の基礎幅を広げるだけの考慮しか
していない。
イ 本件建物の施工上の瑕疵
    (ア) 建設省告示,公庫仕様書
 本件建物はツーバイフォー工法による住宅である。ツーバイフォー工
法については,構造耐力上の安全性を確保するため,昭和57年1月18日建設省
告示第56号(甲3,以下「建設省告示」という。)枠組壁工法の技術的基準が定
められ,公庫仕様書(甲14)も同様な定めをしている。
    (イ) 本件建物の施工上の瑕疵
      本件建物には,次のとおり建設省告示,公庫仕様書に違反する等,施
工上の瑕疵が多数存在する。
 a 釘打ちの違反
  本件建物の室内壁の石膏ボード,2階浴室の天井裏の石膏ボード,
2階南側小屋の仕切壁,2階南側小屋の妻壁の添立枠の釘打ち間隔が,建設省告
示,公庫仕様書で定められている間隔よりも広く,それに違反している。さらに,
2階小屋裏に施工されている棟木に対する垂木の繋ぎ方が,建設省告示,公庫仕様
書では,「CN75」を3本打つことが定められているのに,それが守られていな
い。
 b 垂木繋ぎの欠落
 2階小屋裏で主要構造材の垂木繋ぎが施工されておらず,本件建物
の上部が非常に弱くなっていて,建設省告示,公庫仕様書に違反している。
 c 根太繋ぎの欠落
 2階南側小屋床の根太には,根太繋ぎが欠落している。
 d 垂木繋ぎの振れ止めの欠落
 2階南側小屋裏で設計図書にも書かれた垂木繋ぎの振れ止めが欠落
しており,建設省告示,公庫仕様書にも違反している。
  e 妻側壁の上枠ランバーの頭繋ぎの繋ぎ位置の誤り
       2階小屋裏で妻側壁の上枠ランバーの頭繋ぎの継ぎ手位置が,上枠
ランバーの位置と重なっている。
 f コンクリートのかぶり厚さの不足
 コンクリートのかぶり厚さについては,建築基準法施行令79条に
よって規定されているが,本件建物は,その厚さが不足している部分がある。
 g 野地板の貼り方違反
 2階屋根の野地板(合板)が千鳥貼りに貼られておらず,建設省告
示,公庫仕様書に違反している。
 h 1階床下の基礎
 1階床下(階段下の北側)の基礎の一部が,コンクリート基礎のは
ずがコンクリートブロック造になっており,設計図と相違している。
 i 1階床下で土台がずれている箇所がある。
ウ 監理の瑕疵
本件建物の施工には,前記イ(イ)aないしiのような瑕疵があるにもか
かわらず,被告は,何ら工事施工者に注意を与えたり,建築主に報告していない。
(3) 本件建物の被害
    本件建物にはその設計・施工・監理に重大な瑕疵が存在し,本件建物が構
造上非常に弱いものになっていた。そのため,本件建物は,阪神・淡路大震災前か
ら,あるいは阪神・淡路大震災を契機に,次のような被害が生じた。
   ア 本件建物の床は,1階,2階ともに定性的,定量的にも同方向に傾斜し
ている。
   イ 本件建物の1階,2階の垂直材が傾斜している。
   ウ 本件建物の土台と基礎が,最大で70㎜も離れて隙間が生じている。
   エ 本件建物のたて枠木の頭つなぎランバーが床根太から脱着して,回り縁
の部分に隙間が生じている。
   オ 本件建物は,車庫と接続している1階,2階の接続部分で,大きく挙動
変位している。
   カ 2階南側小屋裏で,屋根垂木と根太が脱着している。
   キ 2階廊下の北側壁天井と壁の間に大きな隙間が生じている。
   ク 本件建物基礎部分に多数の亀裂が生じている。
   ケ 本件建物敷地土砂が東へ移動し,土間コンクリートに亀裂が生じてい
る。
コ 本件建物と車庫部分のつなぎ階段が大きく破壊している。
   サ 本件建物外壁に多数の亀裂が生じている。
(4) 被告の責任
本件建物の設計,施工,監理には前記(2)のような多数の瑕疵があり,それ
を原因として,本件建物には,阪神・淡路大震災前から,あるいは阪神・淡路大震
災を契機に,前記(3)のような被害が生じたのであるから,被告は,原告らに対し,
民法415条(債務不履行),民法634条(瑕疵担保責任),民法715条(不
法行為)に基づき,その損害を賠償すべき責任がある。
(5) 原告の損害
   ア 主位的主張
(ア)取壊し,建替え費用  5760万8378円
    a 基礎について
本件建物基礎の再利用は不可能であり,本件建物は新規に造り替え
なければならない。その場合の基礎はベタ基礎又は杭基礎とし,基礎立ち上がり部
分を地中梁として施工し,車庫外壁と接合し,一体基礎として造り替える必要があ
る。
b 本件建物本体について
本件建物の屋根,小屋は全面的に組み替えが必要で,補修は不可能
である。1階,2階の壁たて枠木と頭つなぎ部分の隙間部分の補修は不可能であ
る。室内壁,外壁下地の構造用合板の枠木からの浮き上がりの補修は不可能であ
る。
     c まとめ
       本件建物は全面的に立て替える必要があり,本件建物の取壊し及び
建替え費用として,5760万8378円を要する。
(イ) 建物賃料相当損害金  620万円
 本件建物には,原告ら2家族が居住している。本件建物の取り壊し,
建替え期間中は,原告ら2家族が借家に住む必要がある。1家族当たりの賃料相当
損害金は,次のとおり合計310万円となり,2家族で620万円である。
     a 賃料月額35万円で,5か月分賃料175万円
     b 仲介手数料35万円
     c 敷引100万円
(ウ) 引越費用  112万円
1家族当たり56万円の2家族分
(エ) 登記費用  39万円
      ① 本件建物の滅失登記,抵当権抹消登記に要する必要,② 建替建
物の表示登記,所有権保存登記,抵当権設定登記に要する費用
    (オ) 慰藉料  900万円
原告ら(2家族合計7名)は,本件建物引渡し後,特に平成7年1月
17日の阪神・淡路大震災後は,本件建物が大きく傾いていることから,本件建物
に居住して多大の不安と精神的苦痛を被っている。
      そのため,原告らが本件建物の欠陥被害により被った損害は,1年間
当たり少なくとも100万円を下らず,現時点まで9年間分,合計900万円を下
らない。
(カ) 調査費用  188万6000円
      原告らは,本件建物の瑕疵について主張,立証するため,一級建築士
等に調査を依頼し,その費用として合計188万6000円を要した。
(キ) 弁護士費用  760万円
(ク) 合 計8380万4378円
      以上の(ア)ないし(キ)の合計8380万4378円
イ 予備的主張
(ア) 補修費用  1575万円
鑑定人甲作成の鑑定書(以下「甲鑑定書」という。)によると,本件
建物基礎の補修費用は1050万円であり,鑑定人乙作成の鑑定書(以下「乙鑑定
書」という。)によると,本件建物本体の補修費用は525万円であり,本件建物
の補修費用の合計は1575万円(消費税を含む)である。
(イ) 慰藉料  1372万円
次のa,bの合計1372万円
     a 欠陥建物への居住による慰藉料  900万円
       前記ア(オ)と同旨
     b 経済価値下落による慰藉料  472万円
本件建物の建替をしないのであれば,本件建物の補修を行ったとし
ても,当初から瑕疵(欠陥)のなかった建物になるわけではなく,本件建物は,瑕
疵(欠陥)のない建物と比較して,当然経済的価値が下落している。そこで,それ
らの事情を慰藉料斟酌事情として加味し,慰藉料として,補修費用の3割相当額4
72万円を請求する。
(ウ) 調査費用  188万6000円
前記ア(カ)と同旨
(エ) 弁護士費用  313万円
(オ) 合 計3448万6000円
以上の(ア)ないし(エ)の合計3448万6000円
(6) 結 論
よって,原告らは,民法715条,415条,634条に基づき,被告に
対し,損害賠償金8380万4378円の内金7590万4378円(予備的に3
448万6000円),及びこれに対する平成6年4月1日(本件建物引渡の翌
日)から完済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 被告(請求原因に対する認否,反論)
(1) 請求原因(1)(本件請負契約)は認める。
  (2) 請求原因(2)(本件建物の瑕疵)について
ア 請求原因(2)ア(本件建物基礎の設計上の瑕疵)について
(ア) 請求原因(2)アは否認ないし争う。
(イ) 本件建物基礎には,次のとおり設計上の瑕疵はない。
     a 車庫の基礎(ベタ基礎),本件建物の基礎(布基礎)はいずれも直
接基礎であり,建築基準法施行令38条2項でいう異種基礎には当たらない。それ
ゆえ,本件建物基礎は,建築基準法施行令38条2項に違反しない。乙鑑定書も同
意見である。
b 木造住宅の基礎については,一般的には鉛直荷重を検討すれば十分
であり,被告は鉛直荷重の検討を行っている。
     c 被告は,SS試験報告書(甲4)に照らして,本件建物の布基礎の
ベース幅を,標準ベース幅である360㎜から450㎜ないし900㎜の幅広のも
のに変更している。
     d 被告は,車庫の天井スラブに本件建物の荷重負担がないようにする
ために,基礎梁構造としている。
     e 株式会社は,本件建物敷地造成工事をした際,本件建物敷地の深さ
GL0.6mから2.1m(厚さ1.5m)にわたって,セメント系固化剤を地盤に混
入する工事を行っており,本件建物敷地の表層地盤改良工事を実施している。した
がって,本件建物の基礎を布基礎としても,構造耐力上の安全性を十分に備えてい
る。
     f ベタ基礎の車庫でさえ7㎝不同沈下しており,本件建物をベタ基礎
で設計しても,現在と同程度の不同沈下が発生したと考えられる。
     g 本件建物敷地は,東側の6m擁壁の底盤が約半分敷地内にはいって
おり(別紙第4図面参照),本件建物の下に鋼管杭を打っても東側擁壁の底盤に当
たるため,本件建物基礎を杭基礎にすることは不可能である。
h 二重に跨る基礎を併用した建物に地震が発生した場合,当該建物に
発生する挙動変位を予測することは不可能である。
イ 請求原因(2)イ(本件建物の施工上の瑕疵)について
(ア) 請求原因(2)イ(イ)a(釘打ちの違反)について
a 「添立枠」の釘打ちにばらつきがあること,「棟木に対する垂木の
繋ぎ方」について,釘打ちにバラツキがあることは認めるが,その余は争う。
b 仮に釘打ちに何らかの不備があったとしても,それにより本件建物
が傾斜したものではないし,構造的異常の発生は見受けられない。
(イ) 請求原因(2)イ(イ)b(垂木繋ぎの欠落)について
a 垂木繋ぎが施工されていない事実は認める。
     b しかし,上記未施工に基因する構造的異常の発生は見受けられず,
本件建物の上部が非常に弱くなっている事実はない。なお,垂木繋ぎの補修は可能
である。
(ウ) 請求原因(2)イ(イ)c(根太繋ぎの欠落)について
a 根太繋ぎが施工されていない事実は認める。
     b しかし,上記未施工に基因する構造的異常の発生は見受けられな
い。なお,根太繋ぎの補修は可能である。
(エ) 請求原因(2)イ(イ)d(垂木繋ぎの振れ止めの欠落)について
垂木繋ぎの振れ止めが未施工であることは認める。しかし,上記未施
工に基因する構造的異常の発生は見受けられない。なお,補修は可能である。
(オ) 請求原因(2)イ(イ)e(妻側壁の上枠ランバーの頭繋ぎの継ぎ手位置
の誤り)について
妻側壁の上枠ランバーの位置が,頭繋ぎの継ぎ手位置と重なっている
ことは認める。しかし,上記重なりに基因する外壁モルタルのクラックは発生して
おらず,また,構造的異常も見受けられない。なお,補修は可能である。
(カ) 請求原因(2)イ(イ)f(コンクリートのかぶり厚さの不足)は否認す
る。
(キ) 請求原因(2)イ(イ)g(野地板の貼り方違反)は否認する。
(ク) 請求原因(2)イ(イ)h(1階床下の基礎)について
1階床下の基礎が設計図と相違していることは認める。当初の設計で
は洗面所の配管点検用に作られた開口部であったところ,階段下を収納部とするた
め,その部分を開口部とする必要がなくなり,ブロック基礎にて穴埋めしたことか
ら,設計図と違うブロック基礎になったのである。構造的に何ら問題はなく,基礎
の変形も見られない。
(ケ) 請求原因(2)イ(イ)i(土台のずれ)は否認する。
ウ 請求原因(2)ウ(監理の瑕疵)は否認ないし争う。
(3) 請求原因(3)(本件建物の被害)について
ア 認 否
本件建物が被告の設計・施工・監理の瑕疵で被害が生じた事実は否認す
る。本件建物は,阪神・淡路大震災で被害が生じたものである。なお,本件建物の
現状が請求原因(3)のアないしコ(もっとも,同ウの隙間は最大で38㎜である。)
であることは認める。
イ 反 論
    (ア) 本件建物には不同沈下が生じているが,その原因は,予想を上回る
阪神・淡路大震災の地震動によって,本件建物東側の高さ6メートルの鉄筋コンク
リート製擁壁(別紙第3図面参照)が揺らされて,本件建物を支えている砂質地盤
に剪断破壊が生じ,塑性状態となった地盤の沈下により生じたものである。
    (イ) 本件建物の不同沈下の結果も,被告が本件建物建築前に実施したS
S試験の結果と異なっているので,本件建物の不同沈下の発生は予見不可能であ
り,被告の設計・施工・監理上の瑕疵により不同沈下が生じたものではない。それ
ゆえ,被告には,不同沈下により生じた本件建物の被害については,何の責任もな
い。
(4) 請求原因(4)(被告の責任)は争う。
(5) 請求原因(5)(原告の損害)について
ア 請求原因(5)ア(主位的主張)は争う。
イ 請求原因(5)イ(予備的主張)について
    (ア) 請求原因(5)イ(ア)(補修費用)のうち,次a,bの補修費用は認め
るが,その余は否認ないし争う。
 a 被告が施工に瑕疵があることを認めている項目について,被告が補
修費用を負担することは認める。
    b ガレージと住宅部分の接合部における拡大した被害(破損)の補修
費用についても,被告が負担することを認める。
(イ) 請求原因(5)イ(イ)(ウ)(エ)は否認ないし争う。
          理  由
第1 本件請負契約の締結等
   請求原因(1)(本件請負契約)は,当事者間に争いがない。
第2 本件建物の瑕疵
1 本件建物基礎の設計上の瑕疵の検討
(1) 事実の認定
証拠(甲1,甲2,甲4,甲12,甲15~18〔枝番を含む〕,甲24
~26,甲30,甲32の1~3,甲33,甲41の1・2,甲43の1~4,甲
45の1~4,乙1,乙3,乙4の1・2,乙20〔一部〕,乙21~23,証人
B〔一部〕,証人D,原告X本人,甲鑑定書,乙鑑定書),及び弁論の全趣旨によ
ると,次の事実が認められる。
ア 本件建物敷地の宅地造成工事
(ア) 原告らは,平成5年7月16日,本件建物敷地を含む周辺土地を開
発したC株式会社(50%を越える被告株式を保有する被告の親会社)から,本件
建物敷地を代金1億0300円で購入した。
      平成5年7月当時,本件建物敷地の南側にはコンクリート製の車庫が
あり,東側には,高さが6mと4mの鉄筋コンクリート製擁壁が存在した(別紙第
3参照)。
(イ) ところで,株式会社は,平成2年10月から平成3年3月にかけ
て,本件建物敷地を含む4区画の宅地造成工事をしている(乙4の1・2)。
      本件建物敷地は,元々の地盤の上に盛土がされ,その後,東側擁壁
(高さ6mと4m)を建設するために,古い盛土が掘削され,再度埋め戻しがされ
ている(別紙第4図面参照)。本件建物敷地は,東西の長さが10m足らずである
のに,東側には4mないし6mもの鉄筋コンクリート製擁壁が築造されているので
ある(別紙第3図面参照)。
      なお,本件建物東側が6mの擁壁で,車庫東側が4m擁壁となってい
る(別紙第3図面参照)。それゆえ,本件建物敷地は,6m以上にわたり盛土され
ているものである(別紙第4図面参照)。
    (ウ) 株式会社は,本件建物敷地造成工事をした際,本件建物敷地の深さ
GL0.6mから2.1m(厚さ1.5m)にわたって,セメント系固化剤を地盤に混
入する工事を行い(乙4の1・2),本件建物敷地の表層地盤改良工事も実施して
いる。
イ 原告らの地盤改良工事の希望,株式会社AのSS試験報告書等
(ア) 原告らは,本件建物敷地の地盤が,東西の長さが10mもないの
に,東側には6mもの擁壁が建設されていることから(別紙第3図面参照),地震
や台風等による被害や不同沈下による被害を心配し,本件建築請負契約の締結過程
で,被告に対し,地震や台風等の天災が起きても建物が崩れないような基礎工事を
行うように要求し,被告もこれを了解した。
      そして,その結果,当初作成されたのが甲第24号証の見積書(平成
5年7月18日付け)であり,そこには地盤改良工事費用として100万円が計上
されていた。
(イ) ところで,被告は,本件建物建築工事に先立ち,平成5年8月,株
式会社AにSS試験を依頼し,株式会社Aは,同月18日,その調査結果を被告に
報告している。
      株式会社Aは,その報告書(甲4)の中で,「調査の結果から,表面
からよく締まった土質であるが,石を多く含んでいたので,石に当たりデーターが
高く出ているが,データー程の締まりはないと思われる。それと一部に緩いところ
もあるので,何らかの基礎補強が必要と思われる。」旨報告している(甲4-9
頁)。
      この「何らかの基礎補強」とは,地盤改良工事を行うか,本件建物の
基礎を杭基礎にすることを指している。株式会社Aは,本件建物を建築するに際し
ては,地盤改良工事をするか,本件建物の基礎を杭基礎にするようにとの趣旨で,
「何らかの基礎補強が必要と思われる。」と報告したのである(証人B〔被告本社
の技術推進部土木管理課長〕が,平成12年11月1日付け証人調書3,26,2
7,41,42頁で,そのように証言している)。
(ウ)ところが,被告担当者は,上記報告書のうちの「何らかの基礎補強
が必要と思われる。」の部分を削除して,改ざんし(甲26-9頁),原告らに対
し,上記改ざんした報告書を交付して,「思ったよりも良い地盤ですね。地盤改良
の必要はありません。」と嘘を言って,地盤改良工事を実施せず,先に計上してい
た地盤改良工事費用100万円を削ってしまったのである(甲25)。
    (エ) 被告担当者がこのような報告書の改ざんをしたのは,次の理由によ
るものと思われる。
     a 被告担当者は,平成5年8月15日,株式会社Aから何らかの基礎
補強が必要である旨指摘されたが(甲4),同年9月15日,再度建築費用の見積
もり(甲25,7320万2610円)をしたところ,同年7月18日の見積もり
(甲24,6480万6050円)よりも,800万円以上(上記地盤改良費用を
含めれば900万円以上)も建築費用が増加していた。
     b そこで,被告担当者は,少しでも安い見積もりを行おうとして,作
為的に株式会社Aの報告書(甲4)の内容を改ざんし(甲26),地盤改良費用を
削除し,地盤改良工事も行わなかったし,高価な杭基礎による基礎工事ではなく,
安価な布基礎による基礎工事を行うことにしたものと思われる。
   ウ 本件建物の基礎
(ア)このようにして,被告は,株式会社AのSS試験報告書(甲4)の
内容を無視し,本件建物を建築するに際し,地盤改良工事をしなかったし,本件建
物の基礎を,杭基礎は勿論のこと,ベタ基礎にもせずに,構造耐力上の安全性に劣
る布基礎で施工した。
    (イ) そして,被告は,何ら構造計算等によって構造耐力の安全性を確か
めることなく,本件建物の北側部分を造成地盤の上に布基礎を支持基盤として,そ
の南側部分を車庫の天井スラブのコンクリートを基礎として,2つの異なる構造方
法による基礎設計をし,本件建物を建築したのである(別紙第2図面参照)。
    (ウ) なお,車庫の上部はピロティ部分で,その上は本件建物の2階とな
っている。車庫の基礎が別紙第2図面記載の青色で,ベタ基礎であり,本件建物の
基礎が同図面記載の赤色部分で,布基礎である。被告は,本件建物の布基礎と車庫
躯体との間に,アンカー筋等による緊結も施していない。
    (エ) 以上の次第で,被告は,本件建物基礎の設計に当たり,構造耐力上
の安全性に対する配慮を著しく欠いていたといわざるを得ない。
   エ 本件建物建築後の被害状況
    (ア) 阪神・淡路大震災前の被害状況
a 2階の居間と食堂の境界のフローリングの盛り上がり
      原告らは,本件建物引渡時から数日後,車庫と本件建物1階とが接
する部分の上部に当たる本件建物2階の居間と食堂の境界等(乙3参照)におい
て,歩行時にフローリングのきしみや凹凸が目立ち始め,日が経過するとともに当
該部分のフローリングが盛り上がってくるのが認められた。
 そこで,原告らが被告に連絡し,被告担当者は,平成6年5月31
日,本件建物を調査し,当該部分のフローリングをはがしたところ,フローリング
の下地であるモルタルの盛り上がりが認められた。そこで,同担当者は,当該部分
のモルタルを削り取って平坦にし,広範囲にわたってフローリングを張り直した
(甲15の1~5,甲45の1~4,乙3参照)。
b 車庫の天井スラブ上のピロティ周辺部のクラック
車庫の天井スラブ上のピロティ周辺部には,本件建物引渡しから約
半月位後から,クラックやモルタルの剥離が出始め,本件建物引渡しから約2か月
後には,1㎜以上の亀裂からヘアクラックと呼ばれる細かい亀裂まで多数のクラッ
クが発生した(甲16の1~11,甲17)。
そこで,原告らは,被告に連絡し,当該部分の補修を依頼したとこ
ろ,被告担当者は,平成6年12月ころ,ピロティ天井部分の石膏ボードを貼り替
え,ピロティ床部分に防水工事を行った。
(イ) 阪神・淡路大震災による被害状況
本件建物は,阪神・淡路大震災によって大きな被害を生じた。なかで
も,車庫と本件建物との接合部分及びその上部,並びにピロティ周辺部の被害が最
も酷かった(甲鑑定書,乙鑑定書)。
   オ E邸建物の基礎,その被害状況
     本件建物敷地の北側にE邸が建っている。E邸建物敷地の東側も,本件
建物敷地の東側擁壁と同様約6mの擁壁になっている。E邸建物の敷地地盤の強度
は,本件建物敷地地盤の強度とほぼ同一である(甲32及び33〔枝番を含
む〕)。
     Eも,原告らと同様,E邸建物敷地の東側が6mの擁壁となっており,
同敷地地盤の強度に不安を持っていた。そこで,E邸建物を建築した業者(F工業
株式会社)は,被告とは異なり,Eの意向を尊重して,昭和50年代に,E邸建物
の基礎を杭基礎とし,深さ8mまで杭を打ち込んでE邸建物を建築した(甲32及
び33〔枝番を含む〕)。
     E邸建物の敷地も,阪神・淡路大震災により不同沈下した。しかし,E
邸建物の基礎が杭基礎であったため,同建物は,本件建物よりも約10年も前に建
てられた建物であるのに,本件建物とは異なり,阪神・淡路大震災による被害が最
小限でくい止められた。
(2) 検 討
ア 本件建物基礎の設計上の瑕疵の存在を窺わせる諸事実等
(ア) 原告らは,本件建物敷地の地盤が,東西の長さが10mもないの
に,東側には6mもの擁壁が建設されていることから,地震による被害や不同沈下
による被害を心配し,本件建築請負契約の締結過程で,被告に対し,地震や台風等
の天災が起きても建物が崩れないような基礎工事を行うように要求し,被告もこれ
を了解している(前記(1)イ(ア))。
      したがって,本件建築請負契約は,地震による被害を最小限に食い止
められるように注意して,建物の設計・施工・監理を行うことが契約内容となって
いたものといえる。
  さらに,株式会社Aも,SS試験報告書の中で,本件建物敷地は,
「何らかの基礎補強が必要と思われる。」旨報告し,被告に対し,地盤改良工事を
行うか,本件建物の基礎を杭基礎にすることを指摘していた(前記(1)イ(イ))。
      ところが,被告担当者は,あろうことか上記報告書の内容を改ざん
し,株式会社Aの指摘や原告らの要求を無視して,本件建物敷地の地盤改良工事を
実施せず,本件建物の基礎を杭基礎やベタ基礎にもせずに,構造耐力上の安全性の
劣る布基礎で設計している(前記(1)イ(ウ),同ウ(ア))。
      まことに遺憾な被告の対応である。
    (イ) しかも,被告は,何ら構造計算等によって構造耐力上の安全性を確
かめることなく,本件建物の北側部分を造成地盤の上に布基礎を支持基盤として,
その南側部分を車庫の天井スラブのコンクリートを基礎として,2つの異なる構造
方法による基礎設計をし,本件建物を建築したのである(別紙第2図面参照)。
      その上,被告は,本件建物の布基礎と車庫躯体の間に,アンカー筋等
による緊結も施していない(前記(1)ウ(ウ))。
(ウ)ところで,本件建物のように,二重に跨る基礎の上に1つの建物が
建築されている場合,基礎地盤の強弱が一様ではないので,不同沈下を起こしやす
く,また,地震が発生した場合には,地盤の強弱によって各基礎地盤の振動周期が
異なるので,異なる振動が1つの建物に伝わり,当該建物に挙動変位が発生しやす
くなる。
      したがって,被告は,本件建物の設計に際して,例えば,造成地盤の
基礎をベタ基礎とし,基礎立ち上がり部分を地中梁として施工し,これを車庫外壁
とケミカルアンカーで接合させる等,造成地盤と車庫部分の基礎を一体化させ,地
震動の伝達を均一にするか,逆に,造成地盤上の建物と車庫上の建物とを別の建物
として建築し,これをエキスパンションジョイントで緊結し,異なる地震動が相互
の建物に干渉しないように配慮すべきであった。
  さらに,被告は,株式会社Aの指摘に従い,原告らの要求も踏まえ
て,本件建物敷地の地盤改良工事を行い,本件建物の基礎を杭基礎とすべきであっ
た。そうすれば,杭基礎によっているE邸建物のように,阪神・淡路大震災による
被害が最小限でくい止められたものと思われる(前記(1)オ)。
(エ) ところが,被告は,本件建物敷地の地盤改良工事をしなかったし,
本件建物の基礎を構造耐力上弱い布基礎とし,布基礎とガレージ躯体の間に,アン
カー筋等による緊結も施さなかった(前記(1)ウ(ア)(ウ))。
      そのため,本件建物は,完成間もなくから,基礎が二重に跨っている
部分(車庫と本件建物との接合部分及びその上部,車庫の天井スラブ上のピロティ
周辺部)に目立った被害が発生し,阪神・淡路大震災でも上記部分の被害が最も酷
かった(前記(1)エ)。
      本件建物敷地北側のE邸は,東側に本件建物敷地とほぼ同じ高さの擁
壁があり,敷地の不同沈下が生じているが,杭基礎で施工されていたために,被害
が最小限で食い止められている(前記(1)オ)。
   イ 当裁判所の判断
    (ア) 建築基準法施行令38条1項違反
      建築基準法施行令38条1項は,「建築物の基礎は,建築物に作用す
る荷重及び外力を安全に地盤に伝え,かつ,地盤の沈下又は変形に対して構造耐力
上安全なものとしなければならない。」と規定している。
しかし,前記アで指摘した諸事実に照らせば,本件建物の基礎は,構
造耐力上の安全性に対する配慮を欠いているものであり,「建築物に作用する荷重
及び外力を安全に地盤に伝え,かつ,地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全
なもの」とは認められず,建築基準法施行令38条1項に違反しており,設計上の
瑕疵があるものといわざるを得ない。
      甲鑑定書8頁の3でも,本件建物基礎に問題があった旨が指摘されて
いる。
(イ) 本件建築請負契約の債務不履行
      原告らは,本件建物敷地の地盤が,東西の長さが10m足らずである
のに,東側には6mもの擁壁が建設されていることから,地震による被害や不同沈
下による被害を心配し,本件建築請負契約の締結過程で,被告に対し,地震や台風
等の天災が起きても建物が崩れないような基礎工事を行うように要求し,被告もこ
れを了解していた(前記(1)イ(ア))。したがって,本件建築請負契約は,地震によ
る被害を最小限に食い止められるように注意して,建物の設計・施工・監理を行う
ことが契約内容となっていたといえる。
ところが,被告は,本件建物敷地の地盤改良工事を実施せず,本件建
物の基礎を杭基礎やベタ基礎にもせずに,構造耐力上の安全性の劣る布基礎で設計
している。しかも,本件建物の布基礎と車庫躯体との間に,アンカー筋等による緊
結も施していない(前記(1)ウ(ア)(ウ))。したがって,被告は,本件建築請負契約
の内容を誠実に履行しているものとは認められず,本件建築請負契約の債務不履行
が認められる。
      それゆえ,かかる観点からしても,本件建物の基礎は,設計上の瑕疵
があるものといわざるを得ない。
ウ 被告主張の検討
(ア) 布基礎のベース幅の拡張,車庫のスラブ上に基礎梁を設置
a 被告は,「本件建物の基礎設計につき,布基礎のベース幅を広げた
り,車庫のスラブ上に基礎梁を設置するという配慮をしている。」と主張する。
     b 確かに,被告担当者は,株式会社AのSS試験報告書での指摘「何
らかの基礎補強が必要」を受けて,本件建物の布基礎のベース幅を,標準ベース幅
である360㎜から450㎜ないし900㎜の幅広のものに変更している。また,
ガレージの天井スラブに本件建物の荷重負担がないようにするために,基礎梁構造
としている。
     c そして,布基礎のベース幅を広げれば,基礎の地盤に接する面積が
広くなるため,基礎から地盤に伝達される荷重が分散され,圧密沈下を防止する効
果は期待できる。
       しかし,本件建物の基礎部分を車庫と一体化させなければ,不同沈
下及び一つの建物に対する異なる地震動の伝達という問題は何ら解決されない。
     d また,車庫のスラブ上に基礎梁を設置すれば,車庫上の本件建物2
階部分の鉛直荷重に対する応力を得るという効果が期待できる。
       しかし,本件建物の基礎部分を車庫と一体化させなければ,不同沈
下及び一つの建物に対する異なる地震動の伝達という問題は何ら解決できないばか
りか,これにより,本件建物の基礎部分が一体化されていないにもかかわらず,車
庫部分と本件建物2階部分の一体性が強化された結果となり,逆に本件建物の地震
動に対する応答が強められ,むしろ今回の阪神・淡路大震災に対する被害を拡大さ
せる方向に働いてしまっている。
e したがって,被告が,本件建物の基礎設計につき,布基礎のベース
幅を広げたり,車庫のスラブ上に基礎梁を設置したからといって,本件建物の異な
る構造方法による基礎に対する配慮をしていることにはならない。
(イ) 株式会社が実施した地盤改良工事
     a 被告は,「株式会社は,本件建物敷地造成工事をした際,本件建物
敷地の深さGL0.6mから2.1m(厚さ1.5m)にわたって,セメント系固化剤
を地盤の混入する工事を行っており,本件建物敷地の表層地盤改良工事を実施して
いる。したがって,本件建物の基礎を布基礎としても,構造耐力上の安全性を十分
に備えていた。」と主張する。
b しかし,株式会社が行った地盤改良は,せいぜいGL0.6mから
2.1mまでの厚さ1.5mにすぎない。ところが,本件建物敷地は,東西が10m
の長さもないのに,東側擁壁は6mもあり,6m以上にわたって盛土されており
(前記(1)ア(イ),別紙第4図面参照),上記程度の深さの地盤改良では不十分であ
る。
しかも,その地盤改良工事の方法も,一旦土を取り除くのではな
く,単に地盤改良材を投入して攪拌しているにすぎず(前記(1)ア(ウ)),果たし
て,本件建物敷地全体にわたって本当に1.5mの厚さで地盤改良がなされている
か,不確かであるし,投入された地盤改良材の量も不明である。
       実際,乙第1号証の資料2-1-1(株式会社AのSS試験報告
書)を見ても,深さGL0.6mから2.1m部分のN値及びqa値(長期許容支持
力度)は,他の部分と比べて高い値は出ていない。
     c それゆえ,被告が主張する地盤の改良が果たしてどれほどの効果が
あったのか,また,地盤改良と呼ぶに値する工事であったのか,大いに疑問である
といわざるを得ない。
したがって,株式会社が,本件建物敷地造成工事をした際,本件建
物敷地の表層地盤改良工事を実施しているからといって,本件建物の基礎を布基礎
としても,構造耐力上の安全性を十分に備えているとはいえず,被告の前記aの主
張も採用できない。
(ウ) ベタ基礎と不同沈下
a被告は,「ベタ基礎の車庫でさえ7㎝不同沈下しており,本件建物
をベタ基礎で設計しても,現在と同程度の不同沈下が発生したと考えられる。」と
主張する。
b しかし,当裁判所は,被告が本件建物をベタ基礎で設計していれ
ば,本件建物の不同沈下の発生を防ぐことができたと認定しているのではない。被
告が布基礎部分をベタ基礎とし,基礎立ち上がり部分を地中梁として施工し,車庫
外壁と接合して一体基礎としていれば,本件建物の現状のような被害は発生してい
なかったと認定しているのである。
c しかも,甲鑑定人は,「車庫より北側の直接基礎(布基礎のこと)
は,車庫の沈下よりも約5㎝以上多く沈下した。」と鑑定しており(甲鑑定書8頁
3参照),被告が主張するように,「本件建物をベタ基礎で設計しても,現在と同
程度の不同沈下が発生した。」などとはいえない。
d それゆえ,被告の前記aの主張も採用できない。
(エ) 杭基礎施工の可能性
     a 被告は,「本件建物敷地には,東側の6m擁壁の底盤が約半分敷地
内に入っており(別紙第4図面参照),本件建物の下に鋼管杭を打っても東側擁壁
の底盤に当たるため,本件建物基礎を杭基礎にすることは不可能である。」と主張
する。
     b しかし,本件建物基礎を杭基礎にすることが不可能であるとは認め
られない。その理由は,次のとおりである。
(a) 甲鑑定人は,本件建物を補修するには,本件建物全体の直接基
礎(布基礎とベタ基礎)の不同沈下を是正するため,本件建物の基礎を全面にわた
ってアンダーピニング工法によって杭基礎とすることである,と鑑定している。
        アンダーピニング工法とは,基礎の下にジャッキをセットし,建
物荷重を反力として鋼管杭を支持層まで圧入し,必要箇所の圧入が完了後,圧入し
た杭の支持力を反力として,建物をジャッキアップする工法である(証人D,甲鑑
定書)。
        甲鑑定人は,本件建物敷地には,東側の6m擁壁の底盤が約半分
敷地内に入っているが,それでも,本件建物敷地に鋼管杭を打ち込み,本件建物基
礎を全面的に杭基礎にすることによって,本件建物を補修することができると鑑定
しているのである。
(b) 被告は,本件訴訟の当初から,本件建物の補修には,本件建物
の全面的な建替えまでは必要なく,本件建物及びその基礎の不同沈下について,ア
ンダーピニング工法による補修が可能であると主張していた(被告の平成10年1
2月1日付け準備書面28頁)。
すなわち,被告自身が,本件建物の基礎を全面にわたってアンダ
ーピニング工法によって杭基礎とすることが可能であると,終始一貫して主張して
いたものである。
(c) 本件建物の北側に位置するE邸も,その東側に6mの擁壁が存
在する(したがって,擁壁の底盤が敷地内に入っているものと思われる)が,E邸
建物の基礎は杭基礎で出来ており,深さ8mまで杭を打ち込んでE邸建物が建設さ
れている(前記(1)オ)。
それゆえ,同じ地盤条件にある本件建物敷地についても,杭基礎
で建物を建築することが可能であると認められる。
2本件建物の施工上の瑕疵の検討
証拠(甲1~3,甲12~14,甲19~22,甲27の1~4,甲28,
甲38,甲40,乙1,証人鈴木眞治,証人D,甲鑑定書,乙鑑定書),及び弁論
の全趣旨によると,次の事実が認められる。
  (1) 建設省告示,公庫仕様書
 本件建物はツーバイフォー工法による住宅である。ツーバイフォー工法に
ついては,昭和57年1月18日建設省告示第56号枠組壁工法の技術的基準(甲
3)が定められ,筋かいに代えて構造耐力を確保するために構造用合板を用い,釘
打ちのピッチも一定間隔(外周部100㎜,その他200㎜)以下で行わなければ
ならない等,厳格な規制が定められている。公庫仕様書(甲14)も同様な定めを
している。
  (2) 施工上の瑕疵と認められる箇所
    本件建物には,次のとおり建設省告示,公庫仕様書に違反する等,施工上
の瑕疵が存在する。
 ア 釘打ちの違反
     ツーバイフォー工法は,釘打ちによって構造耐力を持たせるものであ
り,構造上釘打ちは非常に重要である。ところが,本件建物は,次の箇所で所定の
釘打ちが守られていない。
(ア) 室内壁の石膏ボード
建設省告示(第4の十四の(6)),公庫仕様書(10・6・4・1の
2)では,ボードの周辺は100㎜,中央部分では200㎜以内に釘を打たなけれ
ばならない旨定められているが,本件建物では,定められた間隔を越えて釘が打た
れている箇所が随所に見られる。
(イ) 2階浴室の天井裏の石膏ボード
本件建物は,2階浴室の天井裏の石膏ボードの釘打ち間隔が非常に広
い。当該部分は主要構造部分ではないが,建設省告示(第4の十四の(6)),公庫仕
様書(10・6・4・1の2)では,当該部分について,釘の種類とその間隔を規
定している。その内容は,構造用合板と同様,外周辺部で100㎜,中央部分で2
00㎜以内間隔となっている。それに比較すると,2階浴室の天井裏の石膏ボード
では,はるかに釘打ちの間隔が広い。
(ウ) 2階南側小屋の妻壁の添立枠
2階南側小屋の妻壁の添立枠の釘止めが,建設省告示(第6の4),
公庫仕様書(4・9・2・2の2のハ)どおりの間隔で打たれていない。規定では
150㎜間隔で「千鳥」に打たなければならない旨定められているが,本件建物で
は概ね200㎜間隔で打たれている。
(エ) 棟木に対する垂木の繋ぎ方
2階小屋裏に施工されている棟木に対する垂木の繋ぎ方が,建設省告
示(第6の九の(2)),公庫仕様書(4・9・2・3の2)に違反して施工されてい
る。規定では,垂木から棟木への釘打ちは,「CN75」を3本打つことが定めら
れているのに,それが守られていないのである。
イ 垂木繋ぎの欠落
垂木繋ぎは,屋根面が棟木を挟んで開かなく(壊れなく)するための部
材であり,屋根のキングポストの剛性を高めるための部材である。ところが,本件
建物の2階小屋裏で垂木繋ぎが施工されておらず,当該部材が欠落することによっ
て,本件建物の上部が弱くなっている。この垂木繋ぎの欠落は,建設省告示第6の
三,公庫仕様書4・9・2・7に違反している。
ウ 根太繋ぎの欠落
2階南側小屋床の根太には,根太繋ぎが欠落している。
エ 垂木繋ぎの振れ止めの欠落
     2階南側小屋裏で,設計図書にも書かれた垂木繋ぎの振れ止めが欠落し
ており,建設省告示第6の六,公庫仕様書4・9・1の3にも違反している。
オ 妻側壁の上枠ランバーの頭繋ぎの繋ぎ位置の間違い
     2階小屋裏で妻側壁の上枠ランバーの頭つなぎの継ぎ手位置が,上枠ラ
ンバーの位置と重なっている。
カ コンクリートのかぶり厚さの不足
 建築基準法施行令79条は,鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さ
は,布基礎の立ち上がり部分にあっては4㎝以上でなければならないと規定してい
る。ところが,本件建物の布基礎立ち上がり部分は,コンクリートのかぶり厚さが
4㎝未満の所が何カ所かある(甲40)。
(3) 施工上の瑕疵と認められない箇所
原告らは,本件建物(居宅部分)の次の箇所についても,施工上の瑕疵と
主張するが,施工上の瑕疵とは認められない。
ア 2階南側小屋の仕切壁の釘間隔
原告らは,「2階南側小屋の仕切壁(構造用耐力壁)の釘間隔が,建設
省告示や公庫仕様書で定められた間隔よりも広い間隔で施工されている。」と主張
する。
     しかし,2階南側小屋の仕切壁は構造用耐力壁ではなく,その下部の2
F壁が耐力壁である。小屋裏内部の間仕切り壁や棟違いを形成するケーブルトラス
トには合板を張る必要がなく,建設省告示や公庫仕様書には釘打ち間隔の規定もな
い。
イ 野地板の貼り方
原告らは,「2階の屋根の野地板(合板)が千鳥貼りに貼られておら
ず,建設省告示,公庫仕様書に違反している。」と主張する。しかし,2階の屋根
の野地板(合板)が千鳥貼りに貼られており,何ら問題がない。
ウ 1階床下(階段下の北側)の基礎
原告らは,「1階床下(階段下の北側)の基礎の一部が,コンクリート
基礎のはずがコンクリートブロック造になっており,設計図と相違している。」と
主張する。
しかし,1階床下(階段下の北側)は,当初の設計では洗面所の配管点
検用に作られた開口部であったところ,階段下を収納部とするため,その部分を開
口部とする必要がなくなり,ブロック基礎にして穴埋めをしたのである。
     したがって,1階床下(階段下の北側)の基礎の一部を,設計図とは異
なるコンクリートブロック造にしたからといって,当該部分が施工上の瑕疵である
とは認められない。
エ土台のずれ
原告は,「1階床下で土台がずれている箇所がある。」と主張するが,
1階床下で土台がずれている箇所があるものとは認められない。
第3 本件建物被害の現状
1 争いのない事実等
  (1) 本件建物の被害の現状が,請求原因(3)のアないしサ(もっとも,同ウの
隙間は,原告らは最大で70㎜と主張し,被告は最大でも38㎜と主張する。)で
あることは,当事者間に争いがない。
  (2) そして,乙鑑定書10頁によると,請求原因(3)ウの隙間は,40㎜程度
であることが認められる。
2 事実の認定
   証拠(甲12,甲18,甲29,甲30,甲43の1~4,甲46,乙1,
証人D,原告X本人,甲鑑定書,乙鑑定書)及び弁論の全趣旨によると,次の事実
が認められる。
  (1) 本件建物敷地地盤は,阪神・淡路大震災を契機として,敷地西側で最大
2.7㎝,同東側の擁壁天端で3.5㎝,いずれも東側に移動するとともに,敷地内
で最大12.6㎝の不同沈下が発生した。特に車庫より北側の布基礎は,車庫の沈下
よりも5㎝以上多く沈下した。
    これらの地盤変形と強い地震動によって,本件建物は構造上の損傷を受け
た。これらの損傷の中で,最大の被害箇所は,車庫と本件建物の接合部で,東側擁
壁側に大きな不同沈下が生じ,本件建物に大きな被害が生じた。
  (2) すなわち,最大の被害箇所は,不同沈下の大きい1階の台所・食堂の擁壁
側の隅部に隣接する車庫屋上に直接取り付けられていた出窓部分である(乙鑑定書
-資料1の1-2頁〔1階平面図〕参照)。
本件建物の布基礎部分が車庫の沈下よりも約5㎝以上多く沈下したため,
上記出窓部分が車庫屋上の鉄筋コンクリートスラブと衝突し,出窓部分の壁面全面
にモルタルの大きな亀裂を伴う損傷を生じた。
    また,出窓の取り付く壁面と直交している1階の台所・食堂と東側壁面に
も,モルタルの大きな亀裂を伴う損傷を発生させている(乙鑑定書-資料2の20
頁の写真参照)。
    さらに,本件建物基礎と車庫に上る階段部分が大きく破損している(甲1
2-写真257,甲43の1・2〔写真〕参照)。
(3) 本件建物敷地地盤の沈下によって本件建物の布基礎に不同沈下が発生し,
1階の台所・食堂の東側擁壁側を中心に大きな不同沈下が生じ,布基礎に取り付け
られている土台と1階床組との間に隙間が生じている(乙鑑定書-資料2の12~
15頁〔写真015~023〕参照)。
  (4) 本件建物全体が東側擁壁側に大きく傾いている。風が強い日などには,あ
ちこちで軋みかつ揺れる。居間は歩いただけで床が揺れる。家の傾きのため,ドア
が勝手に開いたり閉じたりする。壁と床の間に隙間ができ,特に冬場は隙間風がひ
どい。浴室の排水溝が浴室の西にあるため排水が悪くなり,洗い場まで排水が溢れ
てくる。1階の台所・食堂では,窓枠が壊れているため,シャッターを閉じたまま
で,明かりを取り入れることもできない。
(5) なお,本件建物の小屋裏の内部においては,阪神・淡路大震災前からの施
工瑕疵が存在しており,釘打ちの不足,妻壁の一体化の不備,垂木繋ぎの未施工及
び振れ止めの未施工等の補修工事が必要となっていた。
第4 本件建物瑕疵と本件建物被害との因果関係
1 本件建物が不同沈下を起こしたメカニズム
証拠(乙1,証人B,甲鑑定書)によると,次の事実が認められる。
  (1) 本件建物は,阪神・淡路大震災により,不同沈下を生じている。
 (2) その原因は,阪神・淡路大震災の地震動によって,本件建物の東側の高さ
6メートルの鉄筋コンクリート製の擁壁が揺らされて,本件建物を支えている敷地
地盤に剪断破壊が生じ,塑性状態となった地盤の沈下により生じたものである。
2 本件建物瑕疵と本件建物被害との因果関係
前記第2の1(2)(本件建物基礎の設計上の瑕疵の検討),同第2の2(2)
(本件建物の施工上の瑕疵と認められる箇所),同第3(本件建物被害の現状)に
よると,次のとおり認定することができ,本件建物の設計上の瑕疵,施工上の瑕疵
と本件建物被害との間には,相当因果関係が存在することが認められる。
(1) 本件建物のように,二重に跨る基礎の上に1つの建物が建築されている場
合,基礎地盤の強弱が一様ではないので,不同沈下を起こしやすく,また,地震が
発生した場合には,地盤の強弱によって各基礎地盤の振動周期が異なるので,異な
る振動が1つの建物に伝わり,当該建物に挙動変位が発生しやすくなる。
    したがって,被告が,本件建物の設計に際して,例えば,造成地盤の基礎
をベタ基礎とし,基礎立ち上がり部分を地中梁として施工し,これを車庫外壁とケ
ミカルアンカーで接合させる等,造成地盤と車庫部分の基礎を一体化させ,地震動
の伝達を均一にするか,逆に,造成地盤上の建物と車庫上の建物とを別の建物とし
て建築し,これをエキスパンションジョイントで緊結し,異なる地震動が相互の建
物に干渉しないように配慮しておれば,本件建物の現状のような大きな被害(不同
沈下による被害)は生じておらず,被害を最小限でくい止めることができた。
さらに,被告が本件建物敷地の地盤改良工事を行い,本件建物の基礎を杭
基礎としておけば,これ又,杭基礎によっているE邸建物のように,本件建物の被
害(不同沈下による被害)を最小限でくい止めることができたものと思われる。
(2) ところが,被告は,本件建物敷地の地盤改良工事をしなかったし,本件建
物の基礎を構造耐力上弱い布基礎とし,布基礎とガレージ躯体の間に,アンカー筋
等による緊結も施さなかった(本件建物の設計上の瑕疵)。
    そのため,本件建物は,完成間もなくから,基礎が二重に跨っている部分
(車庫と本件建物との接合部分及びその上部,車庫の天井スラブ上のピロティ周辺
部)に目立った被害が発生し,阪神・淡路大震災でも上記部分の被害が最も酷かっ
た。
以上によると,本件建物の上記のような設計上の瑕疵により,本件建物の
不同沈下による被害が,現状のように発生又は拡大したことが認められる。
(3) さらに,本件建物には,釘打ちの違反,垂木繋ぎの欠落,根太繋ぎの欠
落,垂木繋ぎの振れ止めの欠落,妻側壁の上枠ランバーの頭繋ぎの継ぎ手位置の間
違い,コンクリートのかぶり厚さの不足等,6つの施工上の瑕疵が存在する。本件
建物は,上記6つの施工上の瑕疵のため,瑕疵のない場合に比べて,当然,構造上
弱いものになっていた。
以上によると,本件建物の上記施工上の瑕疵により,本件建物の不同沈下
による被害が,現状のように拡大したことを否定できない。
第5 被告の責任
以上の第1ないし第4の認定判断によると,本件建物の設計・施工・監理に
は前記第2のような瑕疵があり,それを原因として,本件建物には,阪神・淡路大
震災前から,前記第3の被害の一部が発生し,阪神・淡路大震災を契機に,前記第
3のような被害が発生又は拡大したことが認められるので,被告は,原告らに対
し,民法415条(債務不履行),民法634条(瑕疵担保責任),民法715条
(不法行為)に基づき,その損害を賠償すべき責任がある。
第6 原告の損害
1 主位的主張の検討
甲鑑定書によると,本件建物の補修には,本件建物の全面的な建替えまでは
必要なく,本件建物及びその基礎の不同沈下による被害について,アンダーピニン
グ工法による補修が可能であることが認められる。
   それゆえ,本件建物の全面的な建替えを前提とする原告の損害主張(主位的
主張)は,その前提が認められず理由がない。
2 予備的主張の検討
(1) 補修費用  1575万円
甲鑑定書によると,本件建物基礎の補修費用に1050万円(消費税込
み)を要し,乙鑑定書によると,本件建物本体の補修費用に525万円(消費税込
み)を要するので,本件建物の補修費用の合計は1575万円(消費税を含む)を
要することが認められる。
(2) 慰藉料  900万円
ア 欠陥住宅居住による慰藉料 700万円
(ア) 証拠(甲12,甲18,甲30,甲43の1~4,甲46,原告X
本人,甲鑑定書,乙鑑定書)によると,次の事実が認められる。
     a 本件建物の被害の現状は,前記第3の2(4)で認定したとおりであ
る。
     b 原告ら親子2世帯(合計7人)は,平成7年1月17日の阪神・淡
路大震災から現在に至るまで,7年10か月間にわたり,地震により大きな被害を
受けた本件建物に居住し,不快で非健康的な生活を送ってきた。
     c 特に,本件建物全体が東側の擁壁側に大きく傾いているため,原告
ら及びその家族は,平衡感覚がおかしくなり,時には眩暈をおこすことがあり,む
かつきを覚えることもある。
(イ) 上記(ア)の事実に照らせば,原告らが,阪神・淡路大震災から現在
まで7年10か月間にわたり本件建物に居住し,不快で非健康的な生活を送ってき
たことによる慰藉料は,合計700万円(1年間あたり100万円弱の7年10か
月分)と認めるのが相当である。
   イ 経済価値下落による慰藉料  200万円
本件建物の建替えをしないのであれば,アンダーピニング工法(建物を
ジャッキアップして建物の不同沈下を是正する修理方法)により本件建物の補修を
行ったとしても,本件建物は,当初から瑕疵(欠陥)のなかった建物になるわけで
はなく,瑕疵(欠陥)のない建物と比較して,当然経済的価値が下落している。
     そこで,それらの事情を慰藉料斟酌事情として加味し,経済価値下落に
よる慰藉料として,本件建物の請負代金6765万3920円の約3%である20
0万円を認める。
(3) 調査費用  120万円
    原告らは,本件建物の瑕疵について主張,立証するため,一級建築士のD
及び大成基礎設計株式会社に本件建物の瑕疵の調査を依頼し,その費用として合計
188万6000円を要した(甲9~11,甲47〔以上につき枝番を含む〕,証
人D)。
そして,D建築士らの意見が100%正しかったものとはいえないこと
や,同建築士らの調査が100%本件訴訟の主張,立証に役立ったものとは認めら
れないこと等も考慮して,上記調査費用188万6000円の約3分の2である1
20万円の限度で,被告の不法行為と相当因果関係のある原告の調査費用の損害と
認める。
(4) 弁護士費用  260万円
以上の(1)ないし(3)の損害合計2595万円の約1割である260万円を
もって,被告の不法行為と相当因果関係のある原告の弁護士費用の損害と認める。
(5) 損害合計  2855万円
以上の(1)ないし(4)の合計2855万円が,被告に損害賠償責任のある原
告の損害合計である。
第7 結 論
   以上によると,原告の本件損害賠償請求は,下記金員の支払を求める限度で
理由があるので,これを認容し,その余は理由がないので棄却し,主文のとおり判
決する。
                  記
   損害賠償金2855万円,及びこれに対する平成6年4月1日(本件建物引
渡の翌日)から完済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金
 
    神戸地方裁判所第2民事部
        裁判官 紙 浦 健 二
    別紙第1   物件目録
  芦屋市翠ヶ丘町72番地22
 家屋番号    72番22
       種類・構造    木造スレート葺2階建居宅
       床面積    1 階 105.16平方メートル
                2 階 134.77平方メートル
 附属建物符号1
       種類・構造    鉄筋コンクリート造陸屋根平家建車庫
       床面積    35.25平方メートル

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