弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主          文
1 別紙第1物件目録(1)ないし(3)記載の各土地につき,愛知県収用委員会が平成
14年9月5日付けでした収用裁決中,原告とAとの間で上記各土地の所有者が原
告であると確定した場合の損失補償額2517万9376円とあるのを2821万
4200円と変更する。
2別紙第2物件目録(1),(3)及び(4)記載の各土地につき,愛知県収用委員会が平
成14年9月5日付けでした使用裁決中,原告とAとの間で上記各土地の所有者が
原告であると確定した場合の損失補償額10万7418円とあるのを11万430
0円と変更する。
3 原告とAとの間で,別紙第1物件目録(1)ないし(3),同第2物件目録(1),(3)
及び(4),並びに同第3物件目録(1)記載の各土地の平成14年9月5日現在の所有
者が原告であると確定することを条件として,被告は原告に対し,406万930
6円及びこれに対する平成14年10月5日から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用はこれを5分し,その1を被告の,その余を原告の各負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 愛知県収用委員会が別紙第1物件目録(1)ないし(3)記載の各土地につき平成1
4年9月5日付けでした収用裁決中,原告に対する上記各土地についての損失補償
額2517万9376円とあるのを5060万5610円と変更する。
2 愛知県収用委員会が別紙第2物件目録(1)ないし(4)記載の各土地につき平成1
4年9月5日付けでした使用裁決中,原告に対する上記各土地についての損失補償
額18万6336円(同物件目録(1),(3)及び(4)記載の各土地につき10万741
8円,同目録記載(2)記載の土地につき7万8918円)とあるのを37万4500
円と変更する。
3 被告は原告に対し,4334万9153円及びこれに対する平成14年10月
5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,土地収用法(以下,条文を示すときは「法」ともいう。)に基づき,愛知
県収用委員会(以下「本件委員会」という。)から,登記名義を有する土地につい
て収用及び使用裁決を受けた原告が,同裁決における損失補償額が過少であると主
張して,起業者である被告に対し,法133条に基づき,その変更及び差額の支払
を求めた形式的当事者訴訟である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)
(1) 被告は,昭和59年ころ,愛知県豊田市秋葉町十二丁目地内の市道長興寺野見
線と接続する地点を起点とし,同市トヨタ町地内の市道平山長興寺線と接続する地
点を終点とする全長1359メートルの幹線道路(市道竜宮平山線。以下「本件道
路」という。)の新設工事事業を計画した(甲1)。
(2) そして,被告は,上記事業のための用地取得に着手し,昭和59年12月6
日,本件道路敷地に当たる別紙第1物件目録(1)ないし(3)記載の各土地(以下「本
件収用地」という。)及び工事のために必要な同第2物件目録(1)ないし(4)記載の
各土地(以下,同目録(2)記載の土地を「本件使用地1」,同(1),(3)及び(4)記載
の各土地を併せて「本件使用地2」といい,これらを総称して「本件各使用地」と
いう。)の登記名義人である原告に対して,本件収用地の買収と,本件各使用地の
使用を申し入れたところ,原告は,本件道路予定地の隣接地を替地とする交換を求
めた。そこで,被告は,隣接地の所有者を交えて交渉を重ねたが,合意に至らなか
った(甲1)。
他方,本件収用地,本件各使用地及び別紙第3物件目録(1)ないし(4)記載の各土地
(以下,同目録(1)記載の土地を「本件残地1」,同(2)ないし(4)記載の各土地を併
せて「本件残地2」といい,これらに本件収用地及び本件各使用地を併せて「本件
各土地」という。)の所有権の帰属と,本件各土地の北側にある豊田市平山町二丁
目○番(分筆前)所在の各土地(以下「本件隣地」という。)との境界を巡って,
原告とその兄であるAとの間で紛争が生じたため,Aは,平成12年8月4日,本
件各土地につき,処分禁止の仮処分命令を得た上で,当庁に対し,原告を被告とす
る所有権確認等請求の訴えを提起した(甲1,2の1ないし11)。
(3) そこで,被告は,愛知県知事に対し,上記事業のうち,豊田市秋葉町八丁目地
内から同市平山町地内までの延長433メートル区間の本件道路新設工事(以下
「本件事業」という。)について,法18条に基づき事業認定の申請を行い,愛知
県知事は,被告に対し,本件事業について事業認定を行い(以下「本件事業認定」
という。),平成13年5月29日,その旨告示した(愛知県告示第439号。法
26条1項。甲1)。
次いで,被告は,平成13年7月12日,法36条に基づき,本件各土地の分筆前
の元地2筆について土地調書を作成し(原告及びAは,いずれも立ち会わず,署名
押印のために出頭することもなかったので,被告吏員が立ち会い,署名押印した。
甲4),前後して,同月5日及び同月25日,財団法人日本不動産研究所所属の不
動産鑑定士B及び株式会社愛知不動産経済研究所所属の不動産鑑定士Cによる各不
動産鑑定評価書(以下,それぞれ「B鑑定」,「C鑑定」といい,両者を併せて
「被告側鑑定」という。乙1の1及び2,2)を得て,平成14年1月18日,本
件委員会に対し,本件収用地の収用裁決及び本件各使用地の使用裁決の申請並びに
これらの土地の明渡裁決の申立てを行った(なお,本件隣地の一部である道路敷地
等及び立木についても
収用及び使用裁決の申請並びに明渡裁決の申立てがなされたが,後に,被告が同土
地所有者であるAとの間で土地売買契約等を締結したため,被告は,同年6月5日
付けで,同土地に関する裁決の申請等を取り下げた。甲1,乙3,4)。
被告は,同年3月19日,本件裁決開始決定を代位原因として,元地から本件各土
地への分筆登記手続を行った上,同年4月17日,本件収用地につき収用裁決手続
開始登記を,本件各使用地につき使用裁決手続開始登記をそれぞれ経由した(甲2
の1ないし11)。
(4) 本件委員会は,平成14年9月5日,本件事業のために,収用する土地とこれ
に対する損失補償額,使用する土地とこれに対する損失補償額及び残地に対する補
償の要否等について,次のとおり定めて,権利取得裁決及び明渡裁決を行い(以下
「本件裁決」という。甲1),同裁決は,平成14年9月9日,原告に送達され
た。
ア 収用し,明け渡すべき土地の区域を本件収用地とし,使用し,明け渡すべき土
地のそれを本件各使用地とする。
使用の方法は,本件事業施工中の丁張り及び掘削等作業用地とし,使用の期間は,
平成15年8月6日から平成16年9月5日までとする。
権利取得の時期を平成14年10月5日,明渡しの期限を平成15年8月5日とす
る。
イ 本件各土地の所有権の帰属については,原告とAとの間で争いがあり,名古屋
地方裁判所において所有権確認訴訟の第1審が係属中であって,終了の目処が立た
ない状況であったため,本件委員会は,所有者を確定することが困難であると判断
し,法48条4項ただし書により,物件所有者を不明(ただし,A又は原告のいず
れか)とする。
ウ 本件事業認定告示時点における本件収用地及び本件各使用地の1平方メートル
当たりの土地単価(以下,1平方メートル当たりの土地の単価を単に「単価」とも
いう。)は,地価公示価格,近傍類地の取引価格及び現地調査の結果等を総合的に
比較考量した結果,被告の申し立てた4万0800円(以下「裁決土地単価」とい
う。)が相当である。
エ 本件収用地に対する損失補償額は,裁決土地単価に,収用する土地の面積及び
法71条の修正率(事業認定告示日から権利取得裁決日までの物価変動率)0.9
770(別表1)を相乗して算定した別表2の1の損失補償金額欄記載の金額(合
計2517万9376円)をもって相当と認める。
オ 本件各使用地についての損失補償額は,本件事業認定告示時点における本件各
使用地の期待利回りとして,被告が申し立てた年率5パーセントを採用し,裁決土
地単価にこの年率を乗じて得られた額を年間の使用料単価とした上,これに使用面
積,使用期間及び法72条において準用する法71条の修正率0.9770を乗じ
て算定した別表2の2の損失補償金額欄記載の金額(合計18万6336円)をも
って相当と認める。
カ 立木の収用による補償額については,市場価格等を根拠に,移転料が2万04
27円,同等のものの取得費用が1万6968円が相当であると判断したので,後
者の価格を採用する。
キ 本件各土地全体についての替地の要求については,これを法76条の残地収用
請求であるとしても,あるいは法82条の替地による補償要求であるとしても,要
件を満たさないので,認められない。
ク 残地補償は,残地の面積,形状及び接道状況等の点を検討した結果,不要と判
断する。
(5) 本件収用地については,平成14年10月5日収用を原因として,同月7日名
古屋法務局豊田支局受付第35068号をもって,被告に対する所有権移転登記が
なされ,同時に,Aを債権者とする処分禁止の仮処分登記と被告を権利者とする収
用裁決手続開始登記の抹消登記がされている(甲2の2,5,7)。
また,本件各使用地については,同月5日使用権取得を原因として,同月25日同
支局受付第37495号及び同第37496号をもって,被告を権利者とする使用
裁決手続開始登記の抹消登記がなされている(甲2の3,9ないし11)。
2 争点
(1) 本件収用地及び本件各使用地についての損失補償額は,いくらが相当か。
(2) 残地補償の要否及びその金額。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 本件収用地及び本件各使用地についての損失補償額は,いくらが相当か。
ア 原告
(ア) 本件各土地は,愛知環状鉄道「三河豊田」駅から東北東へ直線距離で2キロ
メートル強,徒歩約30分の地点に位置し,行政条件については,第1種中高層住
宅専用地域,建ぺい率60パーセント,容積率150パーセントであり,環境条件
については,南東方向への傾斜地であって,住宅地域に隣接した宅地見込地地域で
ある。
住宅地域は,隣地にまで及び,住宅及びトヨタ記念病院も隣接しているから,本件
各土地は,登記上の地目は原野又は雑種地であるものの,事実上の宅地として評価
されるべきである。
(イ) 平成13年度の本件各土地に面する路線価は,単価8万2000円であるか
ら,本件収用地の単価は同金額を下らない。また,本件各使用地の単価は,本件収
用地のそれと差異がない。
(ウ) したがって,本件収用地についての損失補償として認められるべき金額は,
5060万5610円(単価8万2000円×面積631.67平方メートル×修
正率0.9770)であり,また,本件各使用地についての損失補償額は,37万
4500円(単価8万2000円×面積86.3平方メートル×期待利廻り年率
0.05×使用期間13/12×修正率0.9770)であり,本件裁決によって
補償すべきものとされた金額は低額に過ぎる。
(エ) 被告が依頼し,本件裁決の基礎とされた被告側鑑定においては,取引事例比
較法で用いた4つの取引事例,開発法で用いた検討形式,分譲価格,投下資本利益
率がいずれも共通しており,それぞれの不動産鑑定士が独自に鑑定したものとして
は不自然である。結論も極めて近接しており,両者は,独立した鑑定としての意味
合いに疑問があり,客観性が低いと考えられる。
(オ) 裁判所による鑑定(鑑定人D。以下「D鑑定」という。)の結果に対して,
被告はるる批判するが,これらは根拠のないものであって,本件収用地の単価は,
少なくともD鑑定を下回ることはない。すなわち,
a D鑑定は,取引事例比較法による標準画地の比準価格を単価4万3200円,
宅地への転換・造成後の想定更地価格からこれに要する費用・投下資本を控除して
求めた開発規準価格を同3万5100円,地価公示価格を規準とした価格を同3万
9100円とした上で,本件各土地の一体画地としての査定価格を同4万3400
円としているが,個別的要因を考慮して修正することは,何ら不自然ではない。
b D鑑定は,標準画地が幅員1.8メートルの未舗装道路に接道するとの状況を
設定した上で,本件各土地が幅員6メートルの道路に接することから,その査定価
格を標準画地のそれよりもプラス40パーセントと評価しているが,本件各土地が
不整形地であることや被告側鑑定が考慮していない傾斜,高低差もあることを踏ま
えて判断しており,不当なものではない。
c 一体画地として評価する場合と個別不動産として評価する場合において,後者
の総和が前者を上回ることも,計算から導かれるものである以上,十分あり得るこ
とである。
d D鑑定は,取引事例比較法による比準価格を算出するに際し,取引事例の一件
(鑑定書添付の[別表1-1]の取引事例№1。以下「事例①」のように表記す
る。)を規範性が劣るとして考慮の対象外としたが,不動産には個性があり,取引
ごとに特殊事情が関わる以上,「安い」あるいは「高い」ものを除外することは,
統計処理として当然である。
e なお,被告は,Aと被告との間で成立した本件隣地の売買代金単価が4万02
00円であったことを参考にすべきである旨主張するが,同土地は保安林に指定さ
れていて,一般に流通価値の乏しい土地であり,また,Aが当時健康を害していた
上,経営上の問題で忙殺されていたため,売り急いでいた可能性があるから,参考
にはならない。
イ 被告
(ア) 不動産の客観的価格なるものは,自然科学的に唯一のものがあるわけではな
く,損失補償額を一義的に確定することは困難であって,ひっきょう,国家が資格
を認定した不動産鑑定士の鑑定結果に依拠し,その経過及び内容に不合理な点がな
い限り,その結果を採用せざるを得ないというべきである。また,これら専門家に
よる鑑定結果が複数存在する場合は,消去法的に最も欠陥の少ないものが採用され
るべきであり,その選択が困難であるときは,相加平均して中庸値を採用すること
もあり得る。
しかるところ,裁決土地単価は,本件事業認定告示日における本件各土地の単価を
4万1300円と評価したB鑑定及び同様に4万0800円と評価したC鑑定に基
づき,これらに修正率0.9770を乗じた価格よりも高い4万0800円を採用
したものであるが,B鑑定は,全国的に信用度の高い財団法人日本不動産研究所に
所属する不動産鑑定士によるもので,その資料及び分析内容は格段に詳細かつ精密
であるから,上記単価は正当である。
(イ)被告側鑑定は,いずれも,本件各土地と本件隣地とを一括して評価した後本
件各土地の単価を算出しているが,これは,これらの土地の所有者が兄弟の関係に
あって,Aも本件各土地について所有権を主張していること,価値的にも差がない
ことなどから,区別しないのが妥当と考えられたことによる。
(ウ) D鑑定については,次のとおり,現地調査の疎漏,矛盾,恣意的見解などの
欠陥が顕著であって,被告側鑑定に比して合理性に乏しく,到底採用できない。
aD鑑定は,取引事例比較法による比準価格の検討過程において,掲記した取引
事例4件のうち1件(事例①)については,画地規模や取引時点等が異なり,規範
性が劣ることを理由に除外し,残りの3件の中庸値を採用しているが,除外された
事例①は,本件各土地に位置的に近く,取引時点も近接しているから,これを除外
することは,恣意的な選択であり,合理性に欠ける。
また,D鑑定が掲記した取引事例4件のうち,2件(事例①及び同②)は,取引事
情(売り急ぎ)の存在が認められるが,取引の経緯,契約内容等が明らかではな
く,補正率も正確を期し難いので,被告側鑑定のように,取引事情のない取引事例
を用いるべきである。
b本件隣地については,Aが,中国大使館の指導に基づき,平成14年4月21
日,単価4万0200円で任意買収に応じている。また,同人は,平成5年に単価
5万3800円の買収事例があったと述べている。したがって,これらも取引事例
として考慮されるべきである。
c D鑑定は,近隣地域の標準画地について,取引事例比較法による比準価格を単
価4万3200円,宅地への転換・造成後の想定更地価格からこれに要する費用・
投下資本を控除して求めた開発規準価格を同3万5100円,地価公示価格を規準
とする価格を同3万9100円としながら,本件各土地の一体画地の単価を,これ
らの金額を超える4万3400円としており,合理的でない。これらの規準価格を
相加平均する方法の方がより合理的である。
d D鑑定は,標準画地について,幅員1.8メートルの未舗装道路に接道すると
の条件を設定した上で,その標準価格を単価3万9100円と評価しているが,被
告側鑑定が設定したのと同じ条件である幅員6メートルの舗装道路に接道する場合
との格差率をプラス40パーセントとしているため,単価は5万4740円となっ
ている。この価格は,被告側鑑定の単価4万5000円と比較して,約22パーセ
ントの開差を有するが,これは上記格差率プラス40パーセントが異例に大きすぎ
るために生じた結果であり,暴論というべきである。一般に,標準価格に乗ずる格
差率の開差考量計算が大きくなればなるほど,鑑定結果に及ぼす影響が大きくな
り,精度は劣る傾向にある。
そもそも,D鑑定が前提とした「幅員1.8メートル未満の赤道に接面する事実上
無道路地」なるものは,付近位置図を精査しても見出せず,地域の現実と背馳する
恣意的想定によって設定されたものにすぎない。
e D鑑定は,本件収用地の単価を4万8000円としているが,これは本件各土
地を一括評価したときの単価4万3400円をさらに上向き修正しており,相当で
ない。買収を理由に分筆されたことや,新設の道路に接する予定であることが考慮
されたのであれば,土地収用に伴う損失補償額は,事業認定の告示日現在をもって
算定されるべきであり,そのときの現況に従って評価すべきであるから,誤りであ
る。
  しかも,D鑑定は,本件各土地を5つに分けた上,それぞれの形状等の個別的
要因の格差の修正を行っているが,その格差バランスの精度が劣っている結果,本
件各土地を一体として評価した場合の総額(約1億0069万円)よりも,5つの
個別価額の合計(約1億0204万円)が上回るという珍現象を呈している。
このことは,一体地を分割した方が価値が高まることを意味しているが,本件残地
1が本件事業による形状悪化を理由として残地補償86万円を要するとしているこ
ととも矛盾する。
(2)残地補償の要否及び金額について
ア 原告
本件収用地は,一団としての本件各土地の中央を貫く位置にあるため,残地部分の
みでは開発は極めて困難となり,特に北側の本件残地1の使用は不可能であり,快
適性阻害及び市場性減退による残地の減価が認められるべきである。その額は,本
件残地1については,同土地の価格の5割を下らないものであり,本件残地2につ
いても同土地の価格の1割は下らない。
したがって,本件残地1については,612万5917円(単価8万2000円×
面積152.93平方メートル×減価割合0.5×修正率0.9770),本件残
地2については,1160万8839円(単価8万2000円×面積1449.0
4平方メートル×減価割合0.1×修正率0.9770)の損失が生じている。
イ被告
(ア) D鑑定は,転換後の最有効使用が戸建て住宅用の敷地であるとの観点に立っ
て,本件残地1の損失額を86万円と査定するが,本件道路は市道竜宮平山線の一
部を構成するもので,今後ますます自動車交通量の増大が見込まれるところ,本件
残地1は,既存の幅員約6メートルの西側道路に接面するだけでなく,本件事業に
よって幅員約16メートルの本件道路に東側で接することになり(この部分の接道
距離は同土地の全外周の約27パーセント),その二面が接道することになるので
あるから,戸建て住宅用地ではなく,将来的には販売店舗用商業施設などを設置す
ることも可能な土地としてその市場性を判断すべきである。したがって,本件残地
1の価格が収用によって減ずるはずがなく,かえって起業利益が生じているという
べきである。
また,本件残地1は,既存の幅員約6メートルの西側道路と概ね等高に接面してい
るから,一体画地としての本件各土地の中では一段と価値の高い土地であるとこ
ろ,D鑑定は,形状等を減算要因として取り上げながら,これを加算要因として考
慮していないという重大な欠点がある。その結果,全外周の約16パーセントしか
接道しない本件残地2よりも低く評価するという不合理な結果となっている。
本件裁決は,残地補償について,「残地の面積及び形状並びに接道状況等の観点か
ら,残地補償を要しないと判断」しており,上記の諸点を考慮して結論を導いたと
考えられるから,正当である。
(イ) なお,残地が複数生じた場合,残地を全体評価すべきか,各個別に評価すべ
きかの理論上の問題もあるが,被収用者が収用前と収用後とで補償金を加えて利害
得失がないようにする建前からすれば,残地補償は全体評価すべきであるところ,
本件裁決の結論は,この考え方からも肯定できる。
第3 当裁判所の判断
1 判断枠組みについて
土地収用法における損失の補償は,特定の公益上必要な事業のために土地が収用さ
れる場合,その収用によって当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復を図るこ
とを目的とするものであるから,完全な補償,すなわち,収用の前後を通じて被収
用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり,金銭をもって補
償する場合には,被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得するこ
とを得るに足りる金額の補償を要するものというべきである(法72条。最高裁判
所昭和48年10月18日第一小法廷判決・民集27巻9号1210頁参照)。
そして,収用する土地に対する補償金の額について,法71条は,「……近傍類地
の取引価格等を考慮して算定した事業の認定の告示の時における相当な価格に,権
利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額とする」旨定めて
いるところ,このように同条による補償金の額は,「相当な価格」という不確定概
念をもって定められているものの,収用委員会に補償の範囲及びその額の認定判断
につき裁量権があると解するのは相当ではなく,補償金の額は,被収用者が近傍に
おいて被収用地と同等の代替地等を取得することを可能とするに足りる金額を補償
すべきであるとの観点から,通常人の経験則及び社会通念に従って,客観的に認定
され得るものであり,かつ認定すべきである。したがって,裁判所は,収用委員会
の認定判断に裁量権
の逸脱濫用があるかどうかを審理判断するのではなく,証拠に基づいて裁決時点に
おける正当な補償額を客観的に認定し,裁決に定められた補償額が認定額と異なる
ときは,裁決に定められた補償額を違法とし,正当な補償額を確定すべきことにな
る(最高裁判所平成9年1月28日第三小法廷判決・民集51巻1号147頁参
照)。
ところで,「正当な補償額」の上記のような性質にかんがみると,被告が指摘する
とおり,同金額は,自然科学上の正確さをもって唯一絶対のものとして算定できる
ものではないから,通常は,対象物件の現状を客観的に把握した上で,社会科学的
観点から一般的にその合理性が承認されている評価手法を駆使し,結論を導く以外
に,これを認識する途はない。したがって,かかる手法に精通していると考えられ
る不動産鑑定士によって評価が行われた場合は,その過程の合理性を検証し,特に
問題が見当たらない場合は,その結論をできる限り尊重すべきであり,仮に結論を
異にする複数の不動産鑑定評価が存在する場合は,それらの合理性を比較検討し,
優劣をつけることができない場合は相加平均し,優劣をつけることができる場合
は,資料を適当に取捨
選択したり,あるいは必要な修正を加えるなどして,最も妥当と考えられる結論を
導くのが相当である。
2適正な損失補償額について
(1) 近隣地域の状況
証拠(甲1,6,乙1の1及び2,2,鑑定の結果)によれば,次の事実が認めら
れる。
ア 本件各土地は,愛知県豊田市の中心市街地の近くにあって,その北側と西側を
大規模住宅団地(通称秋葉団地及び平山豊田団地等)と隣接し,東側を矢作川,南
側をトヨタ記念病院に囲まれた宅地見込地である。
主な地域要因は,以下のとおりである。
(ア) 交通接近条件
本件各土地は,鉄道の最寄り駅である愛知環状鉄道「三河豊田」駅から東北東方向
へ道路距離で約2.8キロメートルの地点に位置する。最寄りのバス停はトヨタ記
念病院停留所であって,約200メートルの距離である。
(イ) 環境条件
本件各土地は,原野・雑種地が大部分の丘陵地状の未利用地であり,トヨタ自動車
の本社に近く,トヨタ記念病院にも隣接し,市立平山幼稚園まで徒歩約6分,市立
平山小学校まで徒歩約20分,平山公園まで徒歩約7分の距離であるなど,利便性
及び住環境は良好である。その地勢は,南東方向への傾斜地であって,住宅団地等
に隣接し,上水道の引込みが可能である。
(ウ) 行政的条件
本件各土地は,都市計画法上の市街化区域に,用途地域については第1種中高層住
居専用地域にそれぞれ指定されている。そして,都市計画により,建ぺい率は60
パーセント,容積率は150パーセントと定められている。また,周辺地域のほと
んどにつき,宅地造成等規制法に基づく宅地造成工事規制区域及び砂防法に基づく
砂防指定地の各指定がなされている。
イ 被告側鑑定及びD鑑定のいずれも,本件各土地の近隣地域の状況について,後
記のとおり,ほぼアに沿った認定をした上で評価を試みており,その基本的な認識
において大きな差異はない。
なお,本件裁決も,ほぼアに沿った認定をした上,地価公示価格,近傍類地の取引
価格及び現地調査の結果等を総合的に比較考量した結果,本件事業認定告示時点に
おける本件各土地の単価について,B鑑定とC鑑定のうち低額である4万0800
円を採用して収用裁決等を申し立てた被告の単価を相当であると判断しており,単
価算出の前提となるべき近隣地域の状況認識において差異はない。
(2) 被告側鑑定の内容
証拠(乙1の1及び2,2)によれば,被告が本件委員会に資料として提出し,本
件裁決の基礎となった被告側鑑定は,本件各土地の単価を次のとおり算出している
事実が認められる。
ア 標準画地の設定
B鑑定及びC鑑定ともに,近隣地域の範囲は,トヨタ記念病院の北側に位置する評
価対象不動産(本件各土地及び本件隣地)周辺の宅地見込地地域一円であるとした
上,標準画地として,以下のような条件を有する豊田市平山町二丁目所在の規模1
200平方メートル程度の長方形地(奥行きと間口の比率は1.5対1)を設定し
ている。
(ア) 街路条件
西側幅員約6メートルの舗装市道
(イ) 系統・連続
普通
(ウ) 環境条件
地勢は南東方向への傾斜地,供給処理施設は上水道,危険・嫌悪施設等なし,利用
状況は住宅地域に隣接した戸建住宅地向きの宅地見込地
(エ) 行政的条件
第一種中高層住居専用地域であって建ぺい率60パーセント,容積率150パーセ
ントの指定を受けている。
イ評価対象土地の個別的要因
B鑑定及びC鑑定ともに,評価対象土地(本件各土地及び本件隣地)は,西側が幅
員約6メートル舗装市道に概ね等高に接面する,間口約40メートル,奥行き約8
3ないし約112メートル,面積規模10020.01平方メートルの不整形地で
あり,概ね中央部に幅4.2メートルから約6メートルの送電線路(東豊田挙母線
第17号,規定電圧7万7000ボルト)のための高圧線下地を含んでいると把握
した上で,標準画地と比較して,規模が大きい不整形地であることによる価格の減
価をマイナス5パーセント,高圧線下地を含むことによるそれをマイナス2パーセ
ント(B鑑定)ないしマイナス3パーセント(C鑑定)と見積り,その結果,評価
対象土地の単価を標準画地の93パーセント(B鑑定)ないし92パーセント(C
鑑定)と評価してい
る。
ウ 取引事例比較法による比準価格
B鑑定及びC鑑定のいずれも,平成11年6月から平成12年3月までに行われた
4件の取引事例(①名鉄三河線「豊田市」駅の南東方向約6キロメートルに位置す
る豊田市松平志賀町四反田,②同駅の南東方向約4.5キロメートルに位置する同
市志賀町下番戸,③愛知環状鉄道「三河豊田」駅の東方向約6キロメートルに位置
する同市九久平町社宮神,④名鉄豊田線「浄水」駅の南方向約800メートルに位
置する同市浄水町南平)の取引単価(①3万0100円,②4万8912円,③6
万0258円,④3万5678円)を基礎として,事情補正,時点補正,標準化補
正,地域要因格差補正をそれぞれ行って算出した価格(①4万0300円(B鑑
定),4万1400円(C鑑定)②4万4000円(B鑑定,C鑑定),③4万9
200円(B鑑定),
4万7200円(C鑑定)④4万6200円(B鑑定),4万5400円(C鑑
定))を算出し,標準画地の単価をその中間値である4万5000円と査定した。
その上で,イで述べた評価対象土地の個別的要因に基づく減価割合を乗じて,その
比準価格を4万1900円(B鑑定)ないし4万1400円(C鑑定)と査定して
いる。
エ 開発法による価格
次に,B鑑定及びC鑑定ともに,評価対象土地を造成し,戸建て住宅を建設して分
譲する場合を想定して,販売(見込)総額と投下(予定)資本を投下資本利益率で
価格時点に割り戻して,評価対象土地の価格を求める開発法による評価を試みてい
る。具体的には,評価対象土地の総面積から公共用地面積を控除した有効面積を3
5区画(B鑑定)ないし36区画(C鑑定)に分けて分譲予定とし,これに分譲単
価3800万円を乗じた金額を販売総額とし,他方,単価1万円(B鑑定)ないし
9500円(C鑑定)に総面積を乗じた宅地造成工事費用,分譲予定区画数に1戸
当たり1440万円(B鑑定)ないし1450万円(C鑑定)を乗じた建築工事
費,販売費及び一般管理費として分譲収入の10パーセントを加えた金額を投下資
本とし,そのそれぞれ
を年15パーセントの投下資本利益率で割り戻し,その差額を総面積で除して,開
発法による単価を3万9000円(B鑑定)ないし3万9100円(C鑑定)と試
算している。
オ 地価公示価格との規準の有無
B鑑定及びC鑑定ともに,本件においては,同一需給圏内の類似地域に規範とする
公示地等がないことを理由に,地価公示価格との規準を行っていない。
カ 評価額の決定
B鑑定及びC鑑定のいずれも,上記の取引事例比較法による比準単価と開発法によ
る単価を比較し,前者は市場性を反映する実証性,規範性が高いのに対し,後者の
算定の基礎となる分譲価格,造成工事費,期間等は想定要素を多く含むため,相対
的に規範性が低いことを理由に,前者をやや重視して,評価対象土地の単価を4万
0700円(B鑑定)ないし4万0600円(C鑑定)と評価し,その上で,本件
各土地は,本件隣地に比べ高圧線下地の面積割合が少ないことから増価率1.5パ
ーセント(B鑑定)ないし0.6パーセント(C鑑定)を乗じて,その単価を4万
1300円(B鑑定)ないし4万0800円(C鑑定)と決定している。
(3) D鑑定の内容
証拠(鑑定の結果)によれば,D鑑定は,本件各土地の単価を次のとおり算出して
いる事実が認められる。
ア 標準画地の設定
D鑑定は,近隣地域を,愛知環状鉄道「三河豊田」駅の北東方約2.8キロメート
ル(道路距離)付近に位置する原野,雑種地状の宅地見込地と把握し,その範囲
を,本件各土地を西端とし,東方約100メートル,北方約100メートル,南方
約10メートルの,以下の条件を有する地域と判定した。
その上で,標準画地を,画地規模が概ね1200平方メートル程度の戸建て住宅向
きの宅地見込地であって,幅員1.8メートル未満の赤道に接面する事実上の無道
路地として設定した。
(ア) 街路条件
外延部には幹線道路も概ね整備されているが,近隣地域においては,幅員約1.8
メートル未満の未舗装赤道が標準的である。
(イ) 交通接近条件
最寄り駅は,北東方向約2.8キロメートルの愛知環状鉄道「三河豊田」駅であ
り,最寄りバス停は,約200メートルの距離にある名鉄バストヨタ記念病院停留
所であり,最寄り商業施設として,約3.7キロメートルの距離にジャスコ豊田
店,約1.6キロメートルの距離にメグリア豊南店があり,最寄り公共施設とし
て,約1.4キロメートルの距離に市立平和小学校,約200メートルの距離にト
ヨタ記念病院がある(いずれも道路距離)。
(ウ) 環境条件
豊田市中心市街地に近く,大規模住宅団地に隣接した,矢作川右岸至近の丘陵地状
の原野,雑種地が大部分の未利用地である。また,トヨタ自動車本社にも近く,ト
ヨタ記念病院に隣接していて,利便性及び住環境は良好である。
標高45ないし53メートルのなだらかな丘陵地状の地勢で,傾斜は概ね6度から
15度程度で,当該地域の中央部分において,外周部(トヨタ記念病院敷地)より
最大で約10メートル低い。周辺一帯は,住宅団地等に隣接し,上水道の引込みが
可能であるところ,豊田市中心市街地に近いことから,周辺団地は,中堅サラリー
マン階層等の一般住宅が多く,住環境の整備された地域であり,また,市街地に隣
接し,周辺街路等もほぼ整備され,急速に宅地化しつつある。
(エ)行政的条件
都市計画法上の市街化区域に,用途地域は第一種中高層住居専用地域にそれぞれ指
定されている。また,都市計画により,建ぺい率は60パーセント,容積率は15
0パーセントと定められ,加えて,周辺地域のほとんどが,宅地造成等規制法によ
る宅地造成工事規制区域及び砂防法による砂防指定地とされている。
イ標準画地の価格
(ア)取引事例比較法による比準単価
D鑑定は,平成12年3月9日から平成13年3月19日までに行われた4件の取
引事例(①愛知環状鉄道「三河豊田」駅から約3.5キロメートルの道路距離にあ
る豊田市平和町二丁目地内,②名鉄三河線「土橋」駅から約1.39キロメートル
の道路距離にある同市聖心町三丁目地内,③愛知環状鉄道「三河上郷」駅から約6
00メートルの道路距離にある同市上郷町郷前地内,④愛知環状鉄道「新豊田」駅
から約1.7キロメートルの道路距離にある同市朝日町四丁目地内)の取引単価
(①1万5306円,②3万9917円,③5万6228円,④7万6590円)
に,事情補正,時点修正,標準化補正,地域格差補正を行い(①3万4500円,
②4万4800円,③4万0800円,④4万3900円),そのうち,画地規
模,取引時点等が異なる
ことから規範性が低いと判断した事例①を除いた3件の中庸値である4万3200
円をもって標準画地の比準価格と決定している。
(イ) 転換後・造成後の想定更地価格からの試算
次に,D鑑定は,中規模の開発区域を造成して宅地分譲を行う場合を想定し,転換
後・造成後の想定更地価格から造成工事費及び販売費・一般管理費等の通常の付帯
費用並びに投下資本収益等を控除して,標準画地の素地価格を求めている。
具体的には,3件の取引事例を基礎とした取引事例比較法によって算出した比準単
価11万1000円,豊田市水源町二丁目地内の共同住宅による賃貸事例を基礎と
した収益還元法(土地残余法)によって算出した収益単価3万9800円,地価公
示価格から規準した単価10万2000円を求めた上,それぞれの性質に照らし
て,比準価格を標準に,収益価格を関連づけ,公示価格を規準とした価格との均衡
にも留意して,転換後・造成後の想定更地価格を単価10万2000円と決定し
た。
その上で,開発想定面積から公共用地33パーセントを控除した有効面積に上記更
地価格を乗じた販売収入から,造成工事単価1万4200円,販売費及び一般管理
費1万0200円(更地価格の10パーセント),造成工事費等に対する金利負担
月数8月と投下資本収益率月率1パーセントを前提とした投下資本収益1136円
をそれぞれ控除した差額を基に,宅地素地購入費等に対する金利負担月数22月と
上記投下資本収益率月率を前提とした対投下資本収益等控除後の価格を求め,これ
に熟成度修正(100分の100)を施して,標準画地の積算単価を3万5100
円と試算している。
(ウ)地価公示価格を規準とした価格
同一需給圏内の類似地域に設定されている宅地見込地の標準地として豊田市上野町
二丁目16番(標準地番号豊田3-1)を選定し,その地価公示価格の単価4万5
300円に基づき,取引事例比較法と同様の手順によって,価格を単価3万910
0円と査定している。
(エ) 標準画地の評価額の決定
以上の3手法による試算価格には開差が生じているところ,比準価格は,現実の不
動産市場において成立した取引価格を基礎に試算したものであって,実証的な価格
であり,転換後・造成後の想定更地価格から求めた価格は,最有効使用の観点から
アプローチした価格であるが,試算過程に想定要因が多いことから規範性は相対的
に劣ることを理由に,より規範性の高い比準価格を標準として,転換後・造成後の
想定更地価格から求めた価格をしんしゃくし,地価公示価格を規準とした価格にも
留意して,標準画地の単価を3万9100円と決定している。
ウ個別的要因を反映した本件各土地(一体画地)の評価額の決定
本件各土地は,西側において幅員6メートルの市道に接面しているところ,これ
は,標準画地が幅員1.8メートル未満の赤道に接面する事実上の無道路地である
ことに比較し,造成及び建築物の建築等が容易であること(40パーセントの増価
要因),他方,不整形地であること(14パーセントの減価要因),傾斜地及び窪
地を含み造成により多くの費用を要すること(5パーセントの減価要因),高圧線
下地を含むこと(3パーセントの減価要因)などの事情を考慮し,これらの相乗積
1.109を標準画地の評価額に乗じて,個別的要因を反映した一体画地としての
本件各土地の単価を4万3400円と求めている。
エ 個別的評価額の決定
一体画地としての本件各土地との比較を行った結果,本件収用地の単価は,ウの単
価に形状等の増価要因(プラス10.5パーセント)を反映させた4万8000
円,本件使用地1のそれは,形状等の減価要因(マイナス18.6パーセント)を
反映させた3万5300円,本件使用地2のそれも,形状等の減価要因(マイナス
18.6パーセント)を反映させた3万5300円,本件残地1のそれは,形状等
の減価要因(マイナス12.8パーセント)を反映させた3万7800円,本件残
地2のそれは,形状等の増・減価要因は見当たらないことから,4万3400円と
決定された。
(4) 各鑑定における合理性の検討
ア B鑑定とC鑑定の関係
前記のとおり,B鑑定とC鑑定とは,いずれも平成13年7月付け(5日と25
日)で作成されたものであるところ,その評価の手法,順序,基礎資料の選択等は
全く同じであり,わずかに,高圧線下地を含むことによる減価割合,開発法におけ
る分譲予定区画数,宅地造成工事費単価,分譲住宅建築工事費,評価対象土地との
比較における本件各土地の増価率等において差異が見られるが,これらも数値的に
は大きなものではないので,結論としても近似した評価額となっている。
その上,両鑑定書(乙1の1及び2,2)を対比すれば明らかなとおり,一言一句
異ならない叙述が相当部分にわたって存在している。
そうすると,被告側鑑定は,それぞれが独立して行われたものではなく,密接な情
報交換の下で行われたか,あるいは一方の鑑定書を見て他方の鑑定書を作成したか
のいずれかである可能性が高いと考えられる。そこで,鑑定の合理性を検討するに
当たっては,B鑑定とC鑑定を独自に論ずる必要性は認められないので,以下にお
いては,原則として,被告側鑑定として一括して取り上げることとする。
イ 標準画地の選定について
法71条は,補償金の額について「……近傍類地の取引価格等を考慮して算定した
事業の認定の告示の時における相当な価格に,……修正率を乗じて得た額とす
る。」と定め,取引事例比較法を基本とする評価方法によるべきことを明らかにし
ているところ,そのための手法である標準地比準評価法は,用途地域を地域的特性
に着目して同一状況地域(換言すれば近隣地域)に区分し,同一状況地域ごとに形
状,地積等個別的要因が標準的と認められる画地(標準画地)を1つ選定し,この
標準画地を評価した上で,当該標準価額から評価対象土地の評価額を求める手法で
ある(昭和37年6月29日閣議決定,改正・昭和42年12月22日閣議決定に
係る「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」,用地対策連絡協議会作成に係る
細則第2に基づく土地評
価事務処理要領参照)。その場合の標準画地は,実在する画地から選定することが
望ましいが,標準画地として適合する画地が実在しない場合に,これを観念の上で
想定してその評価額を求めることは,評価手法として一般的に承認されている。
本件においては,被告側鑑定及びD鑑定のいずれもが,近隣地域の特定の土地を標
準地とせず,本件各土地の一部又は周辺地域における画地規模約1200平方メー
トルの住宅見込地を標準画地と想定しているところ,前記認定のとおり,近隣地域
は,北側と西側を大規模住宅団地に隣接し,東側を矢作川,南側をトヨタ記念病院
に囲まれた地域であり,本件各土地及び本件隣地付近のみが宅地化されていないこ
とからすると,実在する画地から標準画地を選定することは困難であると認められ
るから,上記各鑑定が上記のような標準画地を想定してその評価額を求める手法を
選択したことは,合理的であると認められる。
ウ 標準画地の街路条件設定
前記のとおり,標準画地を想定するに当たり,被告側鑑定とD鑑定は,そのおおよ
その所在,環境条件,行政的条件,画地規模につき,ほぼ同一の条件を設定してい
るが,街路条件については,被告側鑑定が「西側幅員約6メートルの舗装市道」と
しているのに対し,D鑑定は「外延部には,幹線道路も概ね整備されているが,近
隣地域においては,幅員約1.8メートル未満の未舗装赤道が標準的である」とし
ていて,顕著な差異が認められる。
一般に,標準地比準評価法は,同一状況地域ごとに形状,地積等個別的要因が標準
的と認められる画地を選定して,取引事例比較法により求めた価格を基準とし,収
益還元法又は原価法により求めた価格を参考として,その標準地の評価額を求めた
上で,当該標準地の評価額から比準して評価対象土地の評価額を求める方法である
ことからすれば,収集された取引事例が適当なものであり,その補正が適正であ
り,対象不動産の個別的要因による比準が適当であれば,その結果は正当なものと
なるはずであるが,補正や比準が繰り返されれば,その都度誤差の入り込む可能性
が生じ,結果的に精度が落ちることが否定し難いから,できる限り,その地域に標
準的と考えられる条件を設定することが求められることはいうまでもない。
しかるところ,証拠(甲4,乙1の1及び2,2,10)によれば,本件各土地
は,その西側において幅員約6メートルの市道(平山東和苑1号線)に接面してい
るが,その接面距離は概ね20ないし22メートルであり,本件各土地全体の外周
距離約300メートルに対して,およそ6ないし8パーセントであること,実測面
積合計が1601.97平方メートルの大規模土地であること,その周辺一帯は,
概ね丘陵状の原野,雑種地であり,宅地見込地であること,以上の事実が認めら
れ,これによれば,D鑑定が本件各土地の大部分が上記市道から奥まった場所に存
することを理由として標準画地を公道に接面していない中地として想定したこと
は,専門家の判断として合理性を有するというべきである(したがって,D鑑定の
標準画地の設定が地域の現
実と背馳する恣意的なものであるとの被告主張は,採用できない。)。
もっとも,上記のとおり,本件各土地は,その西側において,幅員6メートルの市
道に接面しているのであるから,この点に着目して,街路条件を「西側幅員約6メ
ートルの舗装市道」と設定した被告側鑑定についても,合理性を否定すべきではな
い。
エ取引事例比較法における取引事例の選択
前記のとおり,法71条は,土地等に対する補償金の額を,近傍類地の取引価格等
を考慮して算定した事業認定の告示の時における相当な価格に,所要の修正率を乗
じて得るべきことを定めているところ,取引事例比較法の適用の基礎となる取引事
例は,修正や比準による誤差をできる限り小さくするために,(1)評価対象土地と位
置的に近いなど,評価の条件ができる限り類似していること,(2)取引時点が,でき
る限り事業認定の告示の時に接着していることが望ましいと考えられる。
しかるところ,被告側鑑定の基礎とされた4件の取引事例は,その時期が平成11
年6月から平成12年3月までのものであり,D鑑定が検討の対象とした4件の取
引事例が,平成12年3月9日から平成13年3月19日までのものであることと
比較すると,D鑑定の取引事例の方が本件事業認定告示の日(平成13年5月29
日)に時間的に近接しているが,他方,評価対象土地との距離については,被告側
鑑定の①ないし③の取引事例と比較して,D鑑定の事例②ないし同④のそれがより
遠方にある(もっとも,被告側鑑定の取引事例④はかなり離れた位置にあり,同③
は農地の中に農家住宅が建ち並ぶ地域である。)ことを考慮すると,修・補正又は
比準が適正に行われる限り,取引事例としての適格性については,双方の鑑定に優
劣を付けることはで
きないというべきである。
この点につき,被告は,D鑑定における事例①は,本件各土地に近く,取引時点も
近接しているにもかかわらず,取引事例比較法の基礎資料から除外されていて,そ
の選択が合理的でない旨主張する。しかしながら,標準画地の規模が1200平方
メートル程度であるのに対し,事例①の地積は196平方メートルと僅少であり,
取引時点も他の取引事例に比べて9か月から1年程度古いことに照らすと,これを
除外したことは,専門家による選択の判断として不合理なものとはいえない。
次に,被告は,D鑑定の掲記した4件の取引事例のうち,事例①と同②には売り急
ぎの取引事情が存在することを非難するが,事例①が考慮の対象から外されている
ことは上記のとおりであるし,事例②についても,同事情に基づく補正が適正であ
る限り,基礎資料としたことが合理性を欠くとはいえない。
また,被告は,原告の兄Aが,平成14年4月21日,本件隣地を単価4万020
0円で被告に任意売却している(乙4)ことを考慮すべきである旨主張する。なる
ほど,起業者が任意買収した土地の価格も,一般論としては土地所有者との間で任
意に形成された売買価格として,近傍類地の取引価格になり得るが,任意買収価格
は,収用者側に存する予算の制約,被収用者側に存する利害無視の感情その他の諸
事情を反映して自由な取引市場における土地の売買価格の決定とは異なった側面を
有することがあり得るので,取引事例比較法の基礎資料としての適格性を判断する
に当たっては,かかる要素を慎重に吟味すべきところ,証拠(甲1,乙3)によれ
ば,Aは,当初,被告による用地買収の交渉に応じず,本件委員会における第1回
審理(平成14年4
月24日)においても被告から打診された4万0200円に不満を抱いていたが,
本件事業認定後に中華人民共和国大使館を通じて国民院教務委員会からできる限り
円満に解決するように指導され,健康上の理由もあって,やむなく任意買収に応ず
ることにしたことが認められる。そうすると,本件隣地が本件各土地と近接してい
るとはいえ,一般の取引と異なる特殊事情が存することを否定し難いから,D鑑定
が,本件事業認定告示後の取引であることをも斟酌して,取引事例として基礎資料
にしなかったことが不合理であるとはいえない。
さらに,被告は,Aが述べる平成5年における単価5万3800円の買収事例も考
慮すべきである旨主張するが,取引時期が古く,しかも,その取引についての諸事
情がどのようなものであるか明らかでない(乙3によれば,中部電力が関係した土
地収用であって,法3条17号に基づくものであることがうかがわれる。)から,
これを基礎資料としなかったからといって,合理性が損なわれるものとはいえない
(現に,被告側鑑定においても評価の資料としていない。)。
オ 地価公示価格との規準の有無
地価公示法は,都市及びその周辺の地域等において,標準地を選定し,その正常な
価格を公示することにより,一般の土地の取引価格に対して指標を与え,及び公共
の利益となる事業の用に供する土地に対する適正な補償金の額の算定等に資し,も
って適正な地価の形成に寄与することを目的とするものであり(同法1条),土地
鑑定委員会は,国土交通省令で定める都市計画区域内の標準地について,毎年1
回,国土交通省令で定めるところにより,2人以上の不動産鑑定士又は不動産鑑定
士補の鑑定評価を求め,その結果を審査し,必要な調整を行って,一定の基準日に
おける当該標準地の単位面積当たりの正常な価格を判定し,これを公示するものと
されている(同法2条1項)。そして,不動産鑑定士(補)は,都市計画区域内の
土地について鑑定評価
を行う場合において,当該土地の正常な価格を求めるときは,公示された標準地の
価格(公示価格)を規準としなければならず(同法8条),土地収用法71条の規
定により,都市計画区域内の土地について,当該土地に対する同法71条の事業の
認定の告示の時における相当な価格を算定するときは,公示価格を規準として算定
した当該土地の価格を考慮しなければならない(地価公示法10条)。さらに,こ
こで「公示価格を規準とする」とは,対象土地の価格を求めるに際して,当該対象
土地とこれに類似する利用価値を有すると認められる1又は2以上の標準地との位
置,地積,環境等の土地の客観的価値に作用する諸要因についての比較を行い,そ
の結果に基づき,当該標準地の公示価格と当該対象土地の価格との間に均衡を保た
せることをいうとさ
れている(同法11条)。そうすると,特段の事情のない限り,慎重な手続を経て
正常な価格として公示された地価公示価格は,評価に当たって尊重されるべきもの
である。
しかるところ,前記のとおり,本件各土地は,都市計画法4条2項に規定する都市
計画区域のうち市街化区域内に存するところ(同法5条,7条1項,2項),証拠
(鑑定の結果)によると,豊田市上野町二丁目16番地所在の土地が地価公示地
(標準地番号豊田3-1)として選定されていて,その平成13年1月1日現在の
地価公示価格は単価4万5300円であること,その標準地の街路条件は西側1.
2メートルの未舗装道路,既存住宅地域に隣接する熟成度の高い地域にある畑であ
って,豊田市中心部から2.5キロメートルの交通接近条件にあり,行政的条件は
第1種中高層住居専用地域,建ぺい率60パーセント,容積率は150パーセント
とされていること,以上の事実が認められる。そして,D鑑定は,上記の地価公示
地の条件とその地価公
示価格を基に,時点修正,標準化補正,地域要因の比較を行って標準画地の規準価
格を3万9100円と求めている。
これに対して,被告側鑑定は,前記のとおり,同一需給圏内の類似地域に規範とす
る地価公示地がないため規準は行わないとしている。規範とする地価公示地がない
と判断した根拠は示されていないが,被告側鑑定が,取引事例比較法においては,
無道路地の事例,標準画地より規模が小さい事例,本件事業認定告示の日より相当
古い事例などを基礎資料に採用して比準を行っているにもかかわらず(取引事例①
は,市街地から相当程度離れた農家住宅,農地等が混在する市街化調整区域にある
未舗装道路に接面する土地の取引であり,同②は,画地面積が標準画地の約24パ
ーセントにすぎず,同③は,農地の中に農家住宅が建ち並ぶ地域であり,市街地か
らかなり離れており,同④は無道路地である。また,同②ないし④は,本件事業認
定告示の日より2年
近く前の取引事例である。),住宅地域に隣接した住宅地見込地域である標準画地
の評価に当たり,いかなる理由によって,既存住宅地域に隣接する熟成度の高い地
域に設定され,しかも用途地域等の行政条件の類似した上記地価公示地からの規準
が行えないのか理解し難いといわざるを得ない(仮に,標準画地からの距離が離れ
ていることを理由とするのであれば,上記地価公示地よりも,取引事例④の方がよ
り遠方にあることが説明できない。)。
したがって,標準画地の試算価格を決定するに際し,地価公示価格から規準とした
価格を算出して,これを考慮する手法を採用しているD鑑定は,この点に関する限
り,被告側鑑定より合理性において優るというべきである。
カ 複数の評価手法による評価額の調整
被告側鑑定は,取引事例比較法による比準単価と開発法による単価を算出した上,
規範性の高い前者に重きを置いて評価対象土地の単価を決定している。地価公示地
との比準を行っていないことに対する合理性の評価はオで述べたとおりであるが,
比準単価に重きを置いていること自体は,開発法の基礎資料が想定要素を多く含
み,誤差の入り込む余地が大きいことに照らすと,適正と考えられる。
他方,D鑑定も,取引事例比較法による比準単価,転換後・造成後の想定更地価格
からの試算単価,公示価格を規準とした単価を算出した上,実証性の高い比準単価
を標準として,想定要素を多く含む転換後・造成後の想定更地価格からの試算単価
を斟酌し,公示価格を規準とした単価にも留意して,標準画地の単価を算出してお
り,その基本的発想は被告側鑑定と共通していることに照らすと,適正と考えら
れ,被告側鑑定との間に合理性において優劣は見当たらない。
この点について,被告は,D鑑定における本件各土地の一体画地としての単価が上
記3手法によって算出された単価のいずれをも超えているのは,不合理的である旨
主張する。
しかしながら,前記のとおり,D鑑定の設定した標準画地は,「外延部には,幹線
道路も概ね整備されているが,近隣地域には幅員約1.8メートル未満の未舗装赤
道が標準的である」等と条件を想定した上で,これに適合するように,上記3手法
によって算出された価格を検討して,標準画地の価格を単価3万9100円と決定
した上,後記キのとおり,本件各土地と標準画地とを比較して,西側において幅員
6メートルの市道に接面していることを40パーセントの増価要因,不整形地であ
ることを14パーセントの減価要因,傾斜地及び窪地を含んでいることを5パーセ
ントの減価要因,高圧送電線の線下地を含むことを3パーセントの減価要因と見積
り,これらの相乗積である1.109を乗じて本件各土地の一体画地としての単価
を決定しているから
,上記3手法によって算出された単価のいずれをも上回る結果となったとしても何
ら不思議ではなく,被告の上記主張は誤解というほかない。
キ標準画地から評価対象土地への比準
被告側鑑定は,標準画地から評価対象土地(本件各土地及び本件隣地)へ比準する
に当たり,規模が大きい不整形地であることの減価をマイナス5パーセント,高圧
線下地を含むことによるそれをマイナス2ないし3パーセントと見積もって比準し
ているのに対し,D鑑定は,幅員6メートルの市道に接道していることによる増価
をプラス40パーセント,不整形地であることによる減価をマイナス14パーセン
ト,傾斜地及び窪地を含んでいることによるそれをマイナス5パーセント,高圧線
下地を含むことによるそれをマイナス3パーセントと見積もっていて,両者の間に
顕著な差異が存在するかの如き外観を呈している。しかしながら,前記のとおり,
両者は,元々,標準画地の設定条件を異にしているから,比準に用いる修正率に差
異があるからといっ
て,直ちにその合理性に差異があるというものではなく,問題は,設定条件に適切
な修正率が採用されているか否かである。
この点につき,被告は,D鑑定が採用した,幅員6メートルの市道に接道している
ことによる修正率プラス40パーセントが異例に大きすぎると主張する。しかしな
がら,本件各土地は今後に宅地開発が見込まれる宅地見込地であるところ,宅地開
発に際して公道に接面しているか否かは,その効用及び市場性に大きく影響を及ぼ
す可能性が高いこと,被告側鑑定も,取引事例比較法を適用して公道に面する土地
を無道路地(前記取引事例④)とを比較する際,70分の100,すなわち1.4
28の格差率(42.8パーセントの増価率)を採用していること,被告の提出す
る「公的土地評価の理論と実務」(乙8)においても,幅員6メートルの道路に接
面する評価対象地と同2メートルの道路に接面する標準画地との格差を29パーセ
ントとし,舗装道路
と未舗装道路との格差率は5パーセント程度としていること,これらを総合すれ
ば,D鑑定が,標準画地から本件各土地に比準するに際し,プラス40パーセント
の格差率を採用したことには十分に合理性があると判断できる。
ク 一体画地としての本件各土地の評価額とその個別的評価額
被告側鑑定は,本件各土地と本件隣地から成る評価対象土地の単価を求めた上で,
高圧線下地の面積割合の多寡を考慮して,前者については1.5パーセントないし
0.6パーセントの増加率を乗じた額を加えてその単価を算出している。
これに対して,D鑑定は,本件収用地の状況を,西側道路から本件残地1及び本件
使用地1を介して約12メートル東方に位置し,東西に約18メートル,南北に約
23ないし39メートルの不整形地であり,標高は概ね53メートル,地勢は平
坦,本件隣地との境界付近より若干北垂れに傾斜しており,また,北側部分の一部
約23平方メートルが高圧送電線下地となっていると把握した上,最有効使用の観
点からその形状及び規模を考慮した場合,一体画地との比較においては,やや良好
化するものと判断し,それによる個別格差を10.5パーセントの増価率と見積も
り,これを乗じて単価を4万8000円と決定している。本件各使用地,本件残地
1,2についても同様の作業を行っている。
この点について,被告は,D鑑定がこのような個別的評価を行った結果,本件収用
地の単価が本件各土地のそれよりも上向き修正されており,相当でない(収用を原
因とする分筆や,本件道路に接道することを考慮せずに評価すべきである。)し,
また,個別的評価額の合計が一体画地として評価した場合の総額を上回ることにな
り,不当である旨主張する。なるほど,本件各土地は,同一人の所有に係る一団の
土地であるから,これを構成する個別的部分ごとに評価を行っていない被告側鑑定
が不相当であるとはいえないが,他方,収用による損失補償の対象となるのは本件
収用地であり,鑑定の目的は本件収用地の価格であるから,本件各土地のように規
模が大きい土地の場合に,一体画地としての本件各土地と,本件収用地とを比較し
て,その形状,地積
,利用状況,行政的条件など評価額に影響を与える個別的要因が異なる場合には,
これらを考慮して単価に差異を設けることも専門家の判断として首肯できるとこ
ろ,上記のような本件収用地の形状等に照らせば,一体画地としての本件各土地の
単価に10.5パーセントの増価率を乗じたことが合理性を欠くとはいえない(な
お,D鑑定は,本件事業により新設される本件道路の影響として生ずる起業利益は
考慮しない旨明記している。)し,その結果,個別的価額の総和が一体画地の評価
総額と若干そごするとしても,許容範囲内の誤差というべきである。ちなみに,被
告側鑑定においても,本件各土地と本件隣地を一体評価した上,前者に若干の増加
率を,後者に若干の減価率をそれぞれ乗じて評価額を算出しており,その結果,本
件各土地と本件隣地の
一体価格とこれら個別土地の価格の合計が完全に一致しているわけではない。
(5) 本件収用地に対する適正な補償金額
以上の検討結果によれば,D鑑定の評価方法は合理的であり,被告側鑑定も,地価
公示価格からの規準を行わなかった点を除いて,合理的であると判断するのが相当
である。
そこで,被告側鑑定を基に,上記の規準を行った場合の価格を算定する。まず,D
鑑定による地価公示価格を規準とした価格3万9100円(ただし,地価公示価格
に時点修正及び地域格差を考慮した単価)に,被告側鑑定の前提とした標準画地と
比較した場合の画地条件(道路接面,傾斜及び高低差,高圧線下地,規模が大きい
不整形地)を考慮して,修正率1.226{(1+0.4)×(1-0.05)×
(1-0.03)×(1-0.05)}を乗じた4万7900円(100円以下は
四捨五入。なお,この数値は,D鑑定における地価公示価格に本件収用地の個別要
因を考慮した価格に近似している。)をもって,本件各土地についての被告側鑑定
における地価公示価格による規準価格とみなし,これに,取引事例比較法による価
格(B鑑定は4万1
900円,C鑑定は4万1400円)と開発法による価格(B鑑定は3万9000
円,C鑑定は3万9100円)を総合して検討することとし,その際,開発法によ
る価格は,評価の各段階において多くの想定要素を含むものであるのに対し,取引
事例比較法による比準価格は実証的な価格であり,公示価格を比準した価格も尊重
されるべきであることから,取引事例比較法による価格及び公示価格を比準した価
格を幾分重視し,さらに,本件各土地と本件隣地との高圧線下地の面積等の格差を
考慮すると,被告側鑑定に準拠した本件各土地の単価は,4万4000円と評価す
るのが相当である。そして,被告側鑑定は,本件各土地についての個別要因を検討
していないが,上記計算式のとおり,評価対象土地の不整形地を理由とする減価率
を5パーセントと評
価しているところ,この数値は,D鑑定における本件収用地についての不整形等を
理由とする標準画地からの減価率と同じであるから,上記の単価をもって,被告側
鑑定に準拠した本件収用地の価格とみなすことができる。
その上で,D鑑定による本件収用地の単価4万8000円との平均値を算出すると
4万6000円となり,これに,本件収用地の地積631.67平方メートルを乗
じ,さらに事業認定告示から権利取得裁決まで(約15か月)の修正率0.971
{1-(1-0.9770)×(15÷12)}を乗じた2821万4200円
(100円以下四捨五入)をもって,適正な補償金額と判断する。
 (6) 残地補償の要否及び額について
証拠(甲4,乙10,鑑定の結果)によれば,本件各土地の位置状況は,別紙図面
のとおりであり,そのうち本件残地1は,西側道路に概ね等高で接面しており,そ
の間口は約20メートル,奥行きは最大約9メートルで,ほぼ三角形の不整形地で
あり,本件残地2は,東西に約70メートル,南北に約13ないし23メートルで
ある不整形地であること,本件使用地1は,西側道路から,本件残地1を介して約
10メートル東方に位置し,その画地は東西に約2メートル,南北に約18メート
ルと細長く,標高概ね53メートルの平坦な地勢であり,その北側部分の一部約
6.2平方メートルが高圧送電線の線下地となっていること,また,本件使用地2
は,西側道路から,本件残地1,本件使用地1,本件収用地を介し,約32メート
ル東方に位置し,その
画地は東西に約2メートル,南北に約35メートルと細長く,南東方に傾斜(概ね
15度)していることが認められる。
以上の事実に加え,前記のとおり,本件各土地は,市街地に近接し,周辺街路等も
整備された利便性及び住環境の良好な近隣地域にあって,宅地見込地としての利用
が考えられるとの地域性を考慮すれば,本件残地1については,対象不動産の転換
後の最有効使用方法が戸建て住宅用の敷地であり,当該不動産の形状は相当劣るも
のであって,想定される建物との関係からも効用を十分に発揮することは難しく,
一体画地と比較して,その形状による一般不動産市場での市場性の減退が認められ
るが,本件残地2については,不整形地ではあるものの,その形状及び面積の点か
ら考えても,その利用を阻害されるほどの不整形ではなく,一体画地と比較して
も,その不整形の程度は概ね異ならないから,収用による価値の低下は認められな
いと判断したD鑑定は
,基本的に是認されるべきである(なお,本件使用地1は,被告による使用期間経
過後は,本件残地1と一体利用されることを考慮すれば,本件残地1と同様に残地
補償の対象となり得るが,この点についての原告の主張がないので,本件使用地1
についての残地補償額は判断しない。)。
そうすると,D鑑定が示すとおり,本件残地1だけを取り上げれば,標準画地と比
較して「相当に劣る△25パーセント」と判定できるという判断は相当であるが,
本件使用地1と一体的に考慮すれば,その減価率は24パーセントに止まるものと
判断するのが相当である。
そして,前記のとおり,D鑑定によれば,本件各土地の一体画地としての単価は4
万3400円であったところ,本件収用によって,本件残地1は,11.6パーセ
ント{1-(1-0.24)÷(1-0.14)},単価にすると5030円(1
0円以下四捨五入)の減価が生じていることが認められる。他方,被告側鑑定にお
いては,上記のとおり,本件残地1について個別要因による評価を行っていない
が,本件各土地の一体画地としての単価は4万4000円であったところ,評価対
象土地について不整形地を理由に5パーセントの減価をしていることを考慮すれ
ば,本件収用によって,本件残地1には,20パーセント{1-(1-0.24)
÷(1-0.05)},単価にすると8800円の減価が生じたとみなすことがで
きる。その上で,上記単
価との平均値を算出すると,6920円(10円以下四捨五入)となり,これに面
積152.93平方メートルを乗じ,修正率0.971を乗じた102万7600
円(100円以下は四捨五入)が本件残地1の減価となる。
この点について,被告は,本件道路は市道竜宮平山線の一部を構成するもので,今
後ますます自動車交通量の増大が見込まれるので,本件残地1は住宅適地ではな
く,販売店舗等の適地という観点で市場性を判断すべきであること,東西の2面に
おいて幅員約6メートルと同約16メートルの道路に接することになるから,本件
残地1が本件収用によって価格が減ずることはなく,かえって起業利益が生じてい
る旨主張するが,当該地域が住宅地域への転換した後にさらに路線商業地に移行す
るか否かは不確実であり,移行するとしても相当長期間にわたる熟成を要すると考
えられるから,そのような前提で損失を検討することは相当ではないし,残地が道
路に面することになることを原因とする利益も収用後の事業の遂行により生じうる
利益であって,これら
の起業利益については,法90条によって減価による損失と相殺することが禁止さ
れているから(事業の施行により被収用者のみならず付近住民も同様に利便性の向
上により利益を享受する場合に,残地に生ずる上記のような起業利益を収用損失と
相殺すると,被収用者についてのみ残地において受ける起業利益が吸収されること
になり,均衡を失する。),上記主張は採用できない。
(7) 本件各使用地に対する適正な補償金額
本件各使用地の位置,形状及び状況は,前記のとおりであるところ,証拠(鑑定の
結果)によれば,D鑑定は,本件各使用地は,いずれも形状等が極端に劣るものと
して,これに係る個別的状況を,標準画地と比較してそれぞれ18.6パーセント
{1-(1-0.30)÷(1-0.14)}の減価要因と見積もり,一体画地と
しての本件各土地の評価額に0.814を乗じて,その土地単価を3万5300円
と求めていることが認められる。
しかしながら,上記判断のとおり,本件使用各地は,もともとは同一所有者に帰属
する一団の土地であって,本件事業のために,一定期間使用されるが,その後は本
件使用地1は本件残地1と,本件使用地2は本件残地2と一体的に利用可能である
ことからすると,その単価については,それぞれ本件残地1,本件残地2と一体的
に評価されるべきである。
そうすると,本件使用地1については,その単価は,上記認定のとおり,D鑑定に
準拠すれば,3万8400円{4万3400円×(1-0.116)}(100円
以下は四捨五入)となり,被告側鑑定に準拠すれば,3万5200円{4万400
0円×(1-0.2)}(100円以下は四捨五入)となり,これらの平均値を算
出すると,3万6800円となる。そして,本件使用地2は,一体画地と比較して
も,その不整形の程度は概ね異ならず,宅地利用の観点からもその利用が阻害され
るほどの不整形であるとは認められないところ,その単価は,D鑑定による4万3
400円と被告側鑑定に準拠した4万4000円の平均値である4万3700円と
認められる。
したがって,本件使用地1の使用に係る損失補償額は,本件各使用地の期待利回り
を年率5パーセントとし(甲1),これに使用面積36.55平方メートル,使用
期間13か月,修正率0.971を乗じて算出すると,適正な補償金額は7万07
00円(100円以下は四捨五入)となり,本件裁決による補償金額7万8918
円を上回らないのに対し,本件使用地2(使用面積49.75平方メートル)につ
いて,同様に計算すると,11万4300円(100円以下は四捨五入)となる。
3結論
以上の次第で,原告の本訴各請求は,本件収用地についてなされた本件収用裁決
中,原告とAとの間で前記各土地の所有者が原告であると確定した場合の損失補償
額2517万9376円を2821万4200円と変更することを求め,本件使用
地2についてなされた本件使用裁決中,原告とAとの間で前記各土地の所有者が原
告であると確定した場合の損失補償額10万7418円とあるのを11万4300
円と変更することを求め,原告とAとの間で上記各土地及び本件残地1の土地の所
有者が原告であると確定することを条件として(前記のとおり,被告はこれらの土
地の所有者を確知し得ないところ,主文にかかる条件を付すことは,原告の合理的
意思に反するものではないと解される。),上記各損失補償額の差額である304
万1706円及び本件
残地1についての損失補償額102万7600円の合計406万9306円並びに
これに対する権利取得時期である平成14年10月5日から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,この範囲
で認容することとし,その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,
訴訟費用の負担につき,行訴法7条,民訴法61条,64条を適用し,仮執行宣言
の申立てについては,相当でないものとして却下して,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
 裁判長裁判官  加   藤   幸   雄
 裁判官  舟   橋   恭   子
 裁判官  平   山       馨
(別紙物件目録,各別表,別紙図面はいずれも添付省略)

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