弁護士法人ITJ法律事務所

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○ 主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
被告が原告に対してした、別紙目録記載物件の所有権移転登記につき課税されるべ
き登録免許税額を金二、二五五、五〇〇円とする認定処分のうち、金一、〇四三、
〇〇〇円を超える部分を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
(本案前)
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
(本案)
主文同旨。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、大阪地方裁判所昭和四一年(ケ)第二二二号競売事件において、別紙
目録記載の物件を競落し、昭和四五年二月五日競落許可決定を受けた。その当時右
物件の固定資産税課税台帳に登録された価額(以下台帳価額という)は金一七、〇
五一、〇〇〇円であり、その所有権移転登記について課税されるべき登録免許税額
は金八五二、五〇〇円であつたところ、原告において右税額の納付を遅らせている
うち、右台帳価格について評価替があつたことを理由として、被告は、昭和四五年
八月二四日、裁判所の嘱託による登記申請をした原告に対し、右登録免許税を金
二、二五五、五〇〇円と認定したので、原告は、右税額を納付したうえ、同年一一
月三〇日、大阪国税不服審判所長に対し、原告のした本件認定処分につき審査請求
をしたところ棄却された。
2 しかしながら、本件認定処分は、法律およびこれにもとづく政令、条例に改正
がなく、また本件物件の時価も競落許可決定当時から特別に変動していないにもか
かわらず、台帳価格の評価替という地方公共団体の長の行政処分により、登録免許
税が、競落許可決定当時の二倍以上にも増加する結果となるものであるから、憲法
八四条に違反した違法があり、また税額を過大に認定した違法があるといわなけれ
ばならない。
二 被告の答弁および主張
(本案前の主張)
被告は抗告訴訟の対象となる行政処分をしていない。
一般に登録免許税の納税義務は、登記、登録などの時に成立し(国税通則法一五条
二項一一号)、その税額は、右納付義務の成立と同時に特別の手続を要しないで確
定する(同法一五条三項五号)。そして、登録免許税法一〇条一項、同法附則七条
および同法施行令附則三項によれば、台帳価格のある不動産についてはその台帳価
格が課税標準とされており、税額は、右法令の規定により客観的に確定しているの
である。本件において、被告は、原告が本件物件につき、何ら特別の手続を要せ
ず、台帳価格により客観的に確定している登録免許税額を自主的に納入した領収書
と、この額を登録免許税額として記載した大阪地方裁判所の本件物件の所有権移転
登記嘱託書を受理し(大阪法務局北出張所昭和四五年八月二四日受付第二九五二四
号)、右領収書により、登録免許税の納付を確認したうえ登記をしたにすぎず、原
告が主張するような課税標準および税額についての認定処分は行なつていない。
したがつて、原告の本件訴は訴訟の目的を欠き不適法であるから却下されるべきで
ある。
(本案についての答弁および主張)
一 1請求原因1の事実中、被告が、登録免許税の認定処分をしたことを否認し、
その余の事実を認める。
2 同2の主張を争う。
二 仮りに、被告が本件において原告が主張するとおり登録免許税額の認定処分を
したとしても、それは次の理由により適法である。
本件物件の原告への所有権移転登記に要する登録免許税額は、本件競落許可決定当
時においては、昭和四四年度の台帳価格金一七、〇五一、〇〇〇円を課税標準と
し、その千分の五十にあたる金八五二、五〇〇円であつたが(登録免許税法一〇条
一項、同法附則七条、同法施行令附則三項一号)、原告は、この納付を遅延し、昭
和四五年五月二日に至つてこれを納付しようとしたものであるところ、同法施行令
附則三項二号により、右日時においては昭和四四年度の台帳価格を課税標準とする
ことができなくなつたので、大阪地方裁判所の指示により、昭和四五年度の台帳価
格金四五、一一〇、六〇〇円の千分の五十にあたる金二、二五五、五〇〇円を登録
免許税として国に納付し、同裁判所がその領収書を貼付し、かつ右課税標準および
税額を記載した本件物件の所有権移転登記嘱託書を被告に提出した。被告は、同法
一〇条一項、同法附則七条、同法施行令附則三項二号にもとづき、右課税標準およ
び税額を適正と認めたものであるから、本件認定処分は適法である。
また原告は、本件認定処分は課税標準を過大に認定した違法がある旨主張するが、
一般に課税標準の根拠となつている台帳価格は、市中における実際の取引価格に比
べて著しく低廉であることは公知の事実であるから、原告の主張は失当である。
第三 証拠(省略)
○ 理由
(被告の本案前の主張についての判断)
一 国税通則法(昭和四六年法律第八九号による改正前のもの。以下同じ。)一五
条二項一一号によれば、登録免許税の納税義務は、登記、登録などの時に成立し、
同法一五条三項五号によれば、その税額は、右納付義務の成立と同時に特別の手続
を要しないで確定することとされている。しかしながら、登録免許税法九条、同法
別表第一によれば、申請の件数、不動産の筆数等を課税標準とし、右国税通則法に
規定されているとおり、特別の手続を要しないで、納税義務の成立と同時に税額が
確定するものもあるが、登録免許税法一〇条一項、同法別表第一の第一号には、不
動産所有権移転登記の場合の課税標準は当該登記の時における不動産の価格による
旨規定されており、不動産の価額とは、当該不動産の客観的な交換価値をあらわす
時価と解すべきであるから、この場合は、右国税通則法の規定にかかわらず、その
時価を何らかの方法で確定しなければ、課税標準および税額が具体的に確定しない
といわねばならない。ところで登録免許税法附則七条、同法施行令附則三項によれ
ば、右の場合、当該不動産に台帳価格があるときには、登記申請日が一月一日から
三月三一日までの場合には前年一二月三一日現在の、四月一日から一二月三一日ま
での場合にはその年の一月一日現在における各台帳価格を課税標準とすることがで
きるとされているけれども、右規定から直ちに、課税標準および税額が確定してい
るとはいえないし、また登記申請者または登記嘱託をした官公署が、登記申請書ま
たは登記嘱託書に、当該不動産の台帳価格を課税標準として記載するとともに、登
録免許税額を記載し(不動産登記法二五条二項、同法施行細則三八条)、納税義務
者がこれに基ずく税額を納付したからといつて(登録免許税法二三条)、これによ
つて課税標準および税額が具体的に確定したということができない。なぜなら、同
法附則七条は、台帳価格を基礎として政令で定める価格によることができると規定
し、必ずしも台帳価格によらねばならないとは規定していないし、たとえ当事者が
台帳価格を課税標準として選択しても登記官は、同法施行令附則四項により、当該
不動産について、増築、改築、損壊、地目の変換その他これらに類する特別の事情
(以下これらを特別事情という)の有無を審査し、これがある場合には、台帳価格
を基礎としつつ、当該事情を考慮して課税標準価格を認定する権限を有しているの
である。したがつて、登記官によつて、右特別事情の有無が検討され、それが存在
しないことが明らかとなり、台帳価格を課税標準とすることが正当であると認定さ
れるまでは、課税標準および税額は不確定の状態にあるといわねばならないからで
ある。
もつとも、右の場合特別事情が存在しないときには、登記官は、登記申請書または
登記嘱託書に記載された課税標準および税額を正当とする明示の処分をしないであ
ろうが、実質的にはこれを正当と認定しているのであるから、この場合、形式的な
面だけをとらえて、登記官の課税標準および税額の認定処分が存在しないと解すべ
きではなく、黙示による課税標準および税額の認定処分があつたものと解するのを
相当とし、この黙示の認定処分により課税標準および税額が確定するというべきで
ある。そして、登記官による課税標準および税額に関する明示の認定処分がなされ
ずに、登記がなされた場合は、常に、当事者の選択した課税標準およびこれにもと
ずく税額を正当と認める旨の登記官による黙示の認定処分があつたとみるべきであ
る。
もし、右の場合に、形式的な面のみをとらえて、登記官による課税標準および税額
の認定処分が存在しないとするならば、当該不動産の時価が、納税者の主観では特
別事情により、台帳価格よりも著しく低額の場合であるにもかかわらず、官公署が
納税義務者と見解を異にし、登記嘱託書に台帳価格を課税標準として記載した場合
(この場合納税義務者の見解をこれに反映させることは法的に保障されていな
い)、納税義務者においても、登記を急ぐ関係上、やむなくこれに従わざるをえ
ず、これにもとずく税額を納付し、登記官においても特別事情が存在しないと判断
して、これらを相当と認めた場合において、納税者の救済方法としては、登録免許
税法三一条二項により、登録機関に対し、過誤納金の還付につき、納税地の所轄税
務署長に通知することを請求し、この請求が却下された場合にはじめてこの却下処
分を、審査請求および行政事件訴訟の対象とする方途が考えられる。しかしなが
ら、この場合の実質的な争点は、登記官による黙示の課税標準および税額の認定処
分の当否であるからこれを不動産登記法一五二条による審査請求の対象とすること
は同法の予想するところではなく、むしろ、このような迂路をたどることなく、右
黙示の認定処分をもつて、直接国税不服審判所長に対する審査請求の対象となしう
る方途を認めることが、国税通則法七五条一項五号の趣旨に適合するし、このよう
に解することにより登録免許税法二六条一項の規定による登記機関の課税標準およ
び税額についての明示の認定処分(当該不動産につき台帳価格がない場合、台帳価
格があつても特別事情がある場合の登記官の課税標準および税額の認定(同法施行
令附則三、四項)もこれにあたる)に不服がある場合に、これを直接、国税不服審
判所長に対する審査請求および行政事件訴訟の対象となしうること(国税通則法七
五条一項五号、一一四条)との間に均衡がえられるであろう(いいかえれば、登記
官の課税標準および税額についての明示の認定処分がなされた場合と、黙示の認定
処分がなされた場合の争訟方法に関し、両者を別異に取扱わねばならない合理的理
由を見出し難いのである)。
二 そこで右に説示したところを本件にあてはめて検討を加える。
当事者間に争いのない事実に、成立に争いのない甲第一ないし第四号証、第五号証
の一、二を総合すると、事実の経過は次のとおりである。
原告は昭和四五年二月五日、大阪地方裁判所昭和四一年(ケ)第二二二号不動産競
売事件において、本件物件を代金一二、〇一〇、〇〇〇円で競落し、同日競落許可
決定を受け、同裁判所から、その所有権移転登記に要する登録免許税額が、本件物
件の昭和四四年度の台帳価格金一七、〇五一、〇〇〇円の千分の五十(登録免許税
法施行令附則三項一号、同法別表第一号(二)二)にあたる金八五二、五〇〇円で
あり、これを国に納付するよう指示されたのに右納付を遅延し、漸く同年五月二日
に至り、右金額を納付しようとしたところ、同法施行令附則三項二号により、右昭
和四四年度の台帳価格を課税標準とすることができなくなり、同裁判所から、あら
ためて本件物件の昭和四五年度の台帳価格金四五、一一〇、六〇〇円の千分の五十
にあたる金二、二五五、五〇〇円を納付するように指示を受けた。原告は、右台帳
価格が競落価格よりも高額であるためこれに不服であつたが、所有権移転登記を急
ぐ事情もあつて右税額を国に納付した。そこで同裁判所は、同四五年八月二四日、
被告に対し、右課税標準および税額を記載した登記嘱託書と、右税額納付の領収証
書とを提出し、被告において同日、これを受理したうえ、課税標準および税額につ
き明示の認定処分をすることなく、原告に対する本件物件の所有権移転登記を了し
た。
以上の事実を前示の説示に照せば、被告は右同日、本件物件の所有権移転登記のた
めの登録免許税の課税標準を金四五、一一〇、六〇〇円とし、その税額を金二、二
五五、五〇〇円とする黙示の認定処分(以下本件認定処分という)をしたといわね
ばならない。
したがつて、被告の本案前の主張は採用できない。
(本案についての判断)
一 原告が、昭和四五年一一月三〇日、大阪国税不服審判所長に対して、被告のし
た本件認定処分につき審査請求をして棄却された事実は当事者間に争いがない。
二 そこで以下本件認定処分の適否について検討する。
1 原告は、台帳価格の評価替は、地方公共団体の長の行政処分であるからこれに
よつて税額が増加する結果になるのは、憲法八四条に規定する租税法律主義に違反
すると主張する。しかし、前示の事実経過によれば被告の本件認定処分は、登録免
許税法一〇条一項、ならびに同法附則七条、およびこれによる委任命令たる同法施
行令附則三項二号にもとずいていることが明らかであり、本件物件の昭和四五年度
の台帳価格を課税標準とすることは法令に根拠を有するのであるから、原告の右主
張は到底採用できない。
2 また原告は、本件認定処分には、課税標準および税額を過大に認定した違法が
ある旨主張するが、一般に台帳価格は特別の事情のない限り、時価よりも低額であ
ることは公知の事実であり、しかも本件登記時における本件物件の台帳価格が、当
時の時価(競落価格は偶然の事情によつて定まることが多く、しかも時価よりも低
額であることは当裁判所にけんちよであるからこれをもつて客観的な時価と解する
ことは妥当でない)よりも高額であるような特別事情は、本件に表われた全証拠に
よつても見出し難く、また右台帳価格が前年度のそれに比し、約二・七倍になるこ
とも近時の地価の上昇傾向に照して、ありうることであるから、このことをもつ
て、右台帳価格が時価よりも高額であるとはいえず、結局被告の本件認定処分によ
る課税標準および税額は相当であるというべきである。
三 以上によれば、被告のした本件認定処分は適法であり、原告の被告に対する本
訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を
適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 下出義明 藤井正雄 石井彦寿)
(別紙省略)

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