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平成21年10月21日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10012号審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日平成21年9月30日
判決
原告第一電子工業株式会社
同訴訟代理人弁理士杉村憲司
同杉村興作
同徳永博
同来間清志
同高梨玲子
被告特許庁長官
同指定代理人長崎洋一
同岡本昌直
同森川元嗣
同小林和男
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2007−28588号事件について平成20年12月1日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,名称を「コネクタ」とする発明につき特許出願(特願2002
−224340)したところ,特許庁から拒絶査定を受けたので,これを不服とし
て審判請求をしたが,請求不成立の審決を受けたことから,その審決の取消しを求
める事案である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成14年8月1日,上記発明につき特許出願し,その後の平成19年
3月23日付けで手続補正書(甲8)を提出したが,同年9月12日付けで拒絶査
定を受けた。そこで,原告は,同年10月18日付けで審判請求をするとともに,
同年11月16日付けで手続補正書(甲7。以下「本件補正」という)を提出し。
た。
特許庁は,審理の結果,平成20年12月1日付けで,本件審判請求は成り立た
ないとの審決をし,同月16日,その謄本を原告に送達した。
2本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の請求項1に係る発明は,次のとおりである(甲6,8。なお,請求
項は1ないし4まで存在するが,請求項2ないし4に関する部分は,以下,省略す
る。。)
「フレキシブルプリント基板(FPC)又はフレキシブルフラットケーブル(F
FC)と着脱自在に嵌合するコネクタであって,該フレキシブルプリント基板又は
前記フレキシブルフラットケーブルと接触する接触部,および基板に接続する接続
部を有する所要数のコンタクトと,該コンタクトが保持・固定されるとともに前記
フレキシブルプリント基板又は前記フレキシブルフラットケーブルが挿入される嵌
合口を有するハウジングと,前記フレキシブルプリント基板(FPC)又は前記フ
レキシブルフラットケーブル(FFC)を前記コンタクトに押圧するスライダーと
を備えるコネクタにおいて,
前記コンタクトの前記接触部である第1接触部と接続部との間に弾性部と支点部
とを設けるとともに前記第1接触部と前記弾性部と前記支点部と前記接続部とを略
クランク形状に配置し,かつ,前記接続部と対向する位置に前記弾性部から延設さ
れた押受部を設け,該押受部の先端に突出部を設け,前記スライダーには長手方向
に連設した細長形状をした押圧部を設けるとともに,所要数の前記コンタクトの突
出部と係合する係止孔を別個独立に設け,前記押圧部が前記コンタクトの接続部と
押受部との間で回動自在に前記スライダーを前記ハウジングに装着し,前記突出部
により,前記スライダー回動時における前記スライダーの中央部の前記フレキシブ
ルプリント基板(FPC)又は前記フレキシブルフラットケーブル(FFC)の挿
入方向への膨れを防止することを特徴とするコネクタ」。
3本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の請求項1に係る発明は,次のとおりである(以下「本願補正発明」
。。,,という下線部分は補正に係る部分であるその余の請求項に関する部分は以下
省略する。。)
「フレキシブルプリント基板(FPC)又はフレキシブルフラットケーブル(F
FC)と着脱自在に嵌合するコネクタであって,該フレキシブルプリント基板又は
前記フレキシブルフラットケーブルと接触する接触部,および基板に接続する接続
部を有する所要数のコンタクトと,該コンタクトが保持・固定されるとともに前記
フレキシブルプリント基板又は前記フレキシブルフラットケーブルが挿入される嵌
合口を有するハウジングと,前記フレキシブルプリント基板(FPC)又は前記フ
レキシブルフラットケーブル(FFC)を前記コンタクトに押圧するスライダーと
を備えるコネクタにおいて,
前記コンタクトの前記接触部である第1接触部と接続部との間に弾性部と支点部
とを設けるとともに前記第1接触部と前記弾性部と前記支点部と前記接続部とを略
クランク形状に配置し,かつ,前記接続部と対向する位置に前記弾性部から延設さ
れた押受部を設け,該押受部の先端に突出部を設け,前記スライダーには長手方向
に連設した細長形状をした押圧部を設けるとともに,所要数の前記コンタクトの突
出部と係合する係止孔を別個独立に設け,前記押圧部が前記コンタクトの接続部と
押受部との間で回動自在に前記スライダーを前記ハウジングの嵌合口とは反対側に
装着し,前記突出部により,前記スライダー回動時における前記スライダーの中央
部の前記フレキシブルプリント基板(FPC)又は前記フレキシブルフラットケー
ブル(FFC)の挿入方向への膨れを防止することを特徴とするコネクタ」。
4審決の理由
審決は,本願補正発明は,特開平10−208810号公報(甲1。以下「引
用例1」という)に記載された発明(以下「引用発明」という)並びに特開20。。
02−42939号公報(甲2。以下「引用例2」という)及び特開平11−3。
1561号公報(甲3。以下「引用例3」という)の各発明に基づいて当業者が。
容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許
出願の際独立して特許を受けることができないとして本件補正を却下するととも
に,本件補正前の本願発明について,本願発明は本願補正発明において減縮した発
明特定事項の限定を解除するものに相当するから,本願補正発明に対する理由と同
様の理由により,引用例1ないし3に記載された各発明に基づいて当業者が容易に
発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受け
ることができないと判断した。
審決が本願補正発明につき認定した引用発明等の内容,一致点及び相違点並びに
容易想到性の判断内容は,次のとおりである(なお,以下において引用した審決中
の当事者及び公知文献等の表記は,本判決の表記に統一した。。)
(1)引用発明の内容
「フレキシブル・プリンテッド・サーキット(FPC)あるいはフレキシブル・フラット・
ケーブル(FFC)が差し込まれるコネクタ1であって,FPCあるいはFFCとパッド42
を介して接触する接触部16,基板50に表面実装されるSMT部15を有する複数の接触子
10と,接触子10が収容されるとともにFPCあるいはFFCが挿入される開口を有するハ
ウジング20と,FPCあるいはFFCのパッド42を接触子10の接触部16と適切な接圧
をもって接続させるレバー30とを備えるコネクタ1において,
接触部16とSMT部15との間に支点となる支柱13を設けるとともに,接触部16と
支点となる支柱13とSMT部15とを略クランク形状に配置し,かつSMT部15と対向す
る位置に支点となる支柱13から延設された回転ビーム11を設け,回転部31が接触子10
のSMT部15と回転ビーム11との間で回動自在となるようにレバー30をハウジング20
の開口とは反対側に取り付けたコネクタ」。
(2)本願補正発明との対比
ア引用発明と本願補正発明の一致点
「フレキシブルプリント基板(FPC)又はフレキシブルフラットケーブル(FFC)と着
脱自在に嵌合するコネクタであって,フレキシブルプリント基板又はフレキシブルフラットケ
ーブルと接触する接触部,および基板に接続する接続部を有する所要数のコンタクトと,コン
タクトが保持・固定されるとともにフレキシブルプリント基板又はフレキシブルフラットケー
ブルが挿入される嵌合口を有するハウジングと,フレキシブルプリント基板(FPC)又はフ
レキシブルフラットケーブル(FFC)をコンタクトに押圧するスライダーとを備えるコネク
タにおいて,
コンタクトの接触部である第1接触部と接続部との間に支点部を有する部材を設けるととも
に第1接触部と支点部を有する部材とを略クランク形状に配置し,かつ,接続部と対向する位
置に支持部から延設された押受部を設け,押圧部がコンタクトの接続部と押受部との間で回動
自在にスライダーをハウジングの嵌合口とは反対側に装着したコネクタ」。
イ引用発明と本願補正発明の相違点
(ア)相違点1
「本願補正発明では,押受部の先端に突出部を設け,スライダーには,所要数のコンタクト
の突出部と係合する係止孔を別個独立に設けるとともに,長手方向に連設した細長形状をした
押圧部を設け,突出部により,スライダー回動時におけるスライダーの中央部のFPC又はF
FCの挿入方向への膨れを防止しているのに対し,引用発明では,この発明特定事項を備えて
いない点」。
(イ)相違点2
「支点を有する部材が,本願補正発明では,弾性部であるのに対し,引用発明では,弾性部
であるか否か不明である点」。
ウ相違点に関する容易想到性の判断
(ア)相違点1について
「引用発明のコネクタは,スライダーが係止孔を有しない板状となっている。
そして,係止孔を有しない板状のスライダーを用いた場合に,端子数が多くなりスライダー
の幅方向長さが長くなると,スライダーの強度をアップするためにスライダーを厚く強度のあ
るものとする必要があり,これがコネクタの低背位化を図る際の技術的課題となるが,この課
題自体は,本願出願前周知の課題である(例えば,特開2001−307805号公報,特開
2001−357918号公報参照のこと。)
してみると,引用発明も,レバーを用いているため,レバーを厚く強度のあるものとする必
要があり低背位化を図る必要があるという周知の課題を有するものである」。
「引用例2には,次の発明が記載されていると言い換えることができる。
『コンタクトの押受部の先端に突出部を設け,スライダーには,コンタクトの突出部と係合す
,,,る係止孔を別個独立に設け長手方向に連設した細長形状をした押圧部を設け突出部により
スライダー回動時におけるスライダーの中央部の膨れを防止したコネクタ』。
また,引用例2に記載された発明は『低背化を達成でき,しかも蓋部材の撓みを防止して,
フレキシブル基板に対する確実な導通を達成できるフレキシブル基板用コネクタを提供するこ
とを目的とする』‥‥ものである。。
さらに,引用例1及び2に記載された発明は,いずれもコンタクトを有するコネクタという
同一の技術分野に属する発明である。
したがって,引用発明が有する低背位化を図るという周知の課題を解決するために,引用発
明の押受部とスライダーに,低背化を達成した引用例2に記載された発明を適用することは,
当業者が容易に想到し得たものである」。
(イ)相違点2について
「引用例3には,次の発明が記載されていると言い換えることができる。
『第1接触部と接続部との間に,弾性部を設けたコネクタのコンタクト』。
そして,引用発明と引用例3に記載された発明とは,いずれも,コンタクトを有するコネク
タという同一の技術分野に属する発明であるから,引用発明の第1接触部と接続部の間に設け
た支点部を有する部材を,引用例3に記載された発明に倣って弾性部とすることは,当業者が
容易になし得たものである」。
エ顕著な作用効果の有無
「本願補正発明の奏する効果は,引用例1乃至3に記載された発明から当業者が予測できた
範囲内のものである。
よって,本願補正発明は,引用例1乃至3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明を
することができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特
許を受けることができないものである」。
オ結論
「以上のとおりであるから,本件補正は,
平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前
の特許法17条の2第5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用
する同法53条1項の規定により却下すべきものである」。
第3原告主張の取消事由
審決は,次に述べるとおり,本願補正発明の認定及び判断に誤りがあるから,取
り消されるべきである。
1一致点の認定の誤り(取消事由1)
(1)審決における一致点の認定のうち「第1接触部と支点部を有する部材とを,
略クランク形状に配置」する構成は,本願補正発明の「接続部」に相当する部材を
欠いたものであるから,一致点の認定を誤っている。
(2)審決において,本願補正発明と引用発明とが「支点部を有する部材」を具備
する点で一致すると認定している点は,誤りである。
すなわち,引用例1の請求項1及び段落【0010】には「支柱と上ビームと,
の接続部を支点として」との記載があり,引用例1の図2(a)及び(b)には,剛体と
して踏ん張る役割を持つ支柱13の上端と上ビームとの連結(あるいは境界)ライ
ン位置を支点として,接触ビーム12と接触ビームに対向するベースビーム14と
の間隔を変位させることが示されている。さらに,引用例1では,図2(a)及び(b)
に示されるように,接触子10のベースビーム14のほとんどの部分がハウジング
20内に挿入されて固定されており,それに伴って,支柱13の,ハウジング20
の嵌合口側の面(図2(a)及び(b)では支柱13の右側の面)がハウジング20の部
分に当接されていることから,レバー30を押し下げることにより回転ビーム11
を押し上げ,これに伴って支柱13の上端位置を支点として,接触ビーム12が支
柱13をほとんど弾性変形させることなく押し下げられる構成であることは明らか
である。
,「」,(),「。そして支柱とは広辞苑第5版の1145頁甲9にささえる柱・棒
つっかい柱。つっぱり」という意味であることが記載されていることからも明ら。
かなように,物を支えるための部分又は部材であって,外力によって形状を変えに
くい剛体で形成されるのが一般的であり,支柱を,外力によって容易に形状が変わ
,。る弾性体で形成することは物を支える観点からも意図されないものと考えられる
これに対し,本願補正発明は,接触部と接続部との間に,本願当初明細書の図4
(A)及び(B)に示すコンタクトからも明らかなように,接続部側,引用例1の支柱
13でいえば,支柱の下端に支点を設け,この支点は,変形しやすいように,くび
れを設けて薄くしたものであり,また,コンタクトの支点以外の支柱の部分は,ハ
ウジングには固定されず,弾性材料でできているため,FPCの挿入・接触時に支
柱全体が弾性変形することにより,接触部と接触部に対向する部分との間隔の変位
を大きくすることができるのである。
このように,本願補正発明が「コンタクトの接触部である第1接触部と接続部,
との間に『弾性部』と『支点部』とを設けるとともに第1接触部と『弾性部』と,
『支点部』と接続部とを略クランク形状に配置」したものであるのに対し,引用発
,「『』『』明はコンタクトの接触部である第1接触部と接続部との間に支点と支柱
を設けるとともに第1接触部と『支点』と『支柱』と接続部とを略クランク形状に
配置」したものであり,また,引用発明の支点は,支柱と上ビームとの接続部に存
在することから,引用発明に,本願補正発明のような弾性部を設ける概念はなく,
引用発明の「支点となる支柱」が「支点部」および「弾性部」からなる支柱相当,
部分を一体として設けることに意味がある本願補正発明の支柱相当部分のうちの
「支点部」のみに相当するとする審決の上記一致点の認定には誤りがある。
(3)被告の反論に対する再反論
ア被告の反論1(1)について
被告が主張するように,引用発明は「接触部と支点部を有する部材とを略クラ,
ンク形状に配置」する構成を有するものではない。したがって,審決において,本
願補正発明と引用発明の一致点の認定に誤りがあることは,被告がこれを錯誤であ
ると認めるとおり,明らかな事実である。
イ被告の反論1(2)について
引用発明の「支点部を有する部材」とは,引用例1の請求項1及び段落【001
0】に記載されているとおり,具体的には,上に「支点部」があり,その下に「支
柱」がある構成を有するものであるところ,本願補正発明は,第1接触部と弾性部
と支点部と接続部とを略クランク形状に配置するとの記載から,上に「弾性部」が
あり,その下に「支点」がある構成を有するものである。これら「支点」及び「弾
性部」の配置は,安定した接続を得るためのコンタクトの動き(作用)を決定付ける
重要なものであり「支点部を有する部材」として一括りにされるべきものではな,
く,本願補正発明と引用発明との構成の違いは正確に比較されるべきである。
2相違点1の認定の誤り(取消事由2)
(1)本願補正発明は,突出部を設けることでスライダー回動時におけるスライダ
ーの中央部のFPC又はFFCの挿入方向への膨れを防止する作用があるばかりで
はなく,後記第5の1(1)の段落【0022】に「また,前記スライダー16を回
動した際に,前記スライダー16の回動に対する反発力が強く,前記スライダー1
『』,6の中央部が図1(B)の矢印ロ方向に膨れてしまうことを防ぐようにする為に
前記コンタクト14の突出部26が係合する前記係止孔30が別個独立に設けられ
ている。前記係止孔30を別個独立に設けることで,前記スライダー16の強度ア
ップや回動時の変形を防止している」と記載されているとおり,前記突出部に加え
て,かかる突出部が係合する係止孔を設けることにより,スライダー回動時におけ
るスライダーの中央部のFPC又はFFCの挿入方向への膨れを,係止孔を設けな
い構成に比べてより一層防止することができ,また,係止孔を別個独立に設けるこ
とによって,コンタクトとコンタクトとの間に壁をつくり,スライダーの強度をア
ップさせることができるものである。よって,この点についても相違点に含めるべ
きであって,上記の点を相違点としていない審決の認定は,誤りである。
(2)被告の反論に対する再反論
この点について,被告は,後記第4の2のとおり,係止孔に関する原告の主張は
,。特許請求の範囲に何ら特定して記載されておらず発明特定事項にない旨主張する
しかしながら,本願補正発明の「所要数の前記コンタクトの突出部と係合する係止
孔を別個独立に設け」という必須の発明特定事項は,上記段落【0022】に記載
の「前記スライダー16の中央部が図1(B)の矢印「ロ」方向に膨れてしまうこと
」。,,を防ぐようにするという効果を奏するものであるしたがって本願補正発明は
突出部を設けることに加えて,この突出部が係合する係止孔を設けることにより,
スライダー回動時におけるスライダーの中央部のFPC又はFFCの挿入方向への
膨れを,係止孔を設けない構成に比べてより一層防止することができ,また,本願
明細書(甲7)に明示的な記載はないが,明細書の記載全体を考慮すれば,係止孔
を別個独立に設けることによって,スライダーのコンタクトとコンタクトとの間に
壁をつくることは明らかであり,これによって,スライダーの強度をアップさせる
ことができるものであることも明白である。
3相違点2の認定の誤り(取消事由3)
前記1において説明したとおり,引用発明は,コンタクトの接触部である第1接
触部と接続部との間に「支点」と「支柱」を設けるとともに第1接触部と「支点」
と「支柱」と接続部とを略クランク形状に配置し,この「支柱」は,物を支えるた
めに,外力によって形状を変えにくい剛体で形成されるべきものであり「支柱と,
上ビームとの接続部」を「支点」としている以上,上記「支柱」が「弾性部」でな
いことは明らかである。
したがって,審決が「引用発明では,弾性部であるか否か不明である点」を相,
違点と認定したことは,誤りである。
4相違点1の判断の誤り(取消事由4)
(1)引用例2に記載された発明は,後記第5の4(1)の段落【0005】に記載
されているように,本願補正発明のコネクタに用いるコンタクトの構成とは大きく
異なり,相対向する固定片部及び弾性片部を有するフォーク状接触子を有するコネ
クタであって,前記弾性片部上にフレキシブル基板を差し込み,このフレキシブル
基板と固定片部との隙間において蓋部材7を回動させると,加圧部の矩形断面の長
辺が隙間内で立ち上がり,これにより,加圧部がフレキシブル基板を直接下方に押
圧して弾性片部に加圧する構成を有するフロントロックタイプのコネクタである。
ここで,引用例2に記載されたフロントロックタイプのコネクタとは,本願補正発
明並びに引用例1及び3に記載されたバックロックタイプのコネクタと大きく異な
る構成を有するものである。すなわち,原告作成の「模式図(甲10)に示され」
ているように,バックロックタイプのコネクタは,例えば本願補正発明のように,
テコの原理を利用し,支点部を支点として,押受部が押圧部により押し上げられる
ことで第1接触部がFPC側に押圧される構成を有するのに対し,フロントロック
タイプのコネクタは,上述したように,加圧部が,直接,フレキシブル基板を加圧
することでフレキシブル基板を弾性片部に押圧する構成を有する。
このように,本願補正発明のコンタクトは,下側にある固定された接続部をベー
スとして,押圧部による押圧力が接続部からの反力として押受部に伝達されるのに
対し,引用例2に記載された発明のコンタクトは,加圧部が上側にある固定片部の
ストッパをベースとして回動し,固定片部をベースとして加圧部による加圧力が固
定片部からの反力として,FPCを介して弾性片部に伝達されるものである。
したがって,コンタクトの動作に着目すれば,引用例2に記載された発明の「弾
性片部35」が本願補正発明の「押受部」に相当し,また,コンタクトの作用に着
目すれば,上記「弾性片部35」は本願補正発明の「接触部」に相当するものであ
る。また,引用例2に記載された発明の「固定片部33」は,コンタクトの動作及
び作用に注目すれば,本願補正発明の「接続部」に相当するものであるため「固,
定片部33」が弾性変形する本願補正発明の「押受部」に相当するとの審決の認定
は明らかに誤りである。以上のように,引用例2に記載された発明は,バックロッ
クタイプとは動作及び作用が全く異なるフロントロックタイプのコネクタであり,
バックロックタイプの引用発明にフロントロックタイプの引用例2の技術的事項を
適用することは当業者が容易に想到し得たものではない。
これは,引用発明が,後記第5の1(2)の段落【0007【0008】及び図】,
11においてフロントロックタイプのコネクタを除外していることからも裏付けら
れる。
,,,,(2)また引用例2では透孔40を設けることにより蓋部材の撓みを防止し
加圧部の逃げを防止する点については何ら記載されておらず,かえって,後記第5
の4(1)の段落【0024】に記載されているように,蓋部材の成形時に金属製の
ワイヤを埋め込むことによって,蓋部材の撓みを防止し,加圧部の逃げを防止して
いることから,透孔40が蓋部材の撓みを防止しているものではないことが明らか
である。一方,前記2(2)のとおり,本願補正発明は,突出部を設けることに加え
て,この突出部が係合する係止孔を設けることにより,スライダー回動時における
スライダーの中央部のFPC又はFFCの挿入方向への膨れを,係止孔を設けない
構成に比べてより一層防止することができ,また,本願明細書(甲7)に明示的な
記載はないが,係止孔を別個独立に設けることによって,スライダーのコンタクト
とコンタクトとの間に壁をつくることは,明細書全体を考慮すれば明らかであり,
これによって,スライダーの強度をアップさせることができるものである。以上の
ように,引用例2の透孔40にはそのようは効果はないから,引用例2の透孔40
は本願補正発明の係止孔と作用効果が異なっている。
(3)また,低背位化の点からいえば,フロントロックタイプの引用例2のコネク
タは,フレキシブル基板と固定片部との隙間に位置するFPCの分だけバックロッ
クタイプのものより必然的に厚くなり,バックロックタイプの引用発明のコネクタ
は,コンタクトを埋め込んでいる分,本願補正発明よりも厚くなり,さらに,引用
例3のコネクタは,押圧部が回動軸を中心に回動しているため,さらに,より低背
位化できるという観点からいえば,押圧部が回動軸を持たずにある程度軸移動しな
がら回動する構成である本願補正発明よりも厚くなるものであるから,引用例2の
技術的事項を引用発明に適用することは困難である。
(4)なお,上記認定における周知の課題を示すために被告によって挙げられた周
(。「」。)知例である特開2001−307805号公報甲4以下周知例1という
及び特開2001−357918号公報(甲5。以下「周知例2」という)に記。
載された発明も,いずれもフロントロックタイプのコネクタであり,また,厚肉化
することなく独立係止孔にすることによって強度を向上させる点については何ら記
載がなく,本願補正発明にいう低背位化とはレベルが大きく異なるものである。
したがって,この点に関する審決の判断は,誤りである。
(5)被告の反論に対する再反論
ア被告の反論4(1)について
引用例2に記載された発明においては,その明細書の図10に示されるように,
スライダー側にFPCを挿入してからスライダーを回動させると,加圧部がFPC
を押圧することにより,FPCが下側の弾性片部に押し付けられ,その結果,弾性
片部が若干下側に押し下げられるのであって,そもそも,引用例2に記載された発
明について固定片部と弾性片部が「押圧部により互いに間隔を広げられる」,「」「」
との認定は誤りである「固定片部」は固定することを,そして「弾性片部」は弾。,
性変形することを意図しているのであるから,単に押圧部によりこれら2つの片部
間の間隔を広げるとの認定はこのような意図を無視するものである。なお,被告に
よる「押圧部により互いに間隔を広げられる部材の一方の部材」という表現は,2
つの片部のいずれか一方が押圧部により広げられる場合のみならず,2つの片部の
いずれもが押圧部により広げられる場合も含まれると解される表現であるが,少な
くとも本願補正発明の場合には,接続部側が広げられることはなく,押受部が持ち
上がるだけであり,その意味においても,認定に誤りがあるといわざるを得ない。
また,引用例2に記載された発明の「固定片部」は,ハウジングに固定されるか
らこそ「固定」片部と表記されているのであるから,この「固定片部」が,押圧部
により上に押し上げられて移動可能な本願補正発明の「押受部」に相当するとする
認定には無理がある。
前記(1)のとおり,引用例1の図11には,従来技術として,フロントロックタ
イプのコネクタであって,回転部材を回転させることで,回転部材がFPCを接触
部に加圧する構成を有するコネクタが挙げられ,このような構成は,回転部材と同
期してFPC自体も接点に対して回転することにより,接点とFPCの位置ずれが
発生しやすいという問題点があることも記載されている(後記第5の1(2)の段落
【0007】参照。これは,引用発明のバックロックタイプのコネクタに,引用)
例2のフロントロックタイプのコネクタを組み合わせることの阻害要因にほかなら
ない。
イ被告の反論4(2)について
引用発明のバックロックタイプのコネクタは,被告主張のとおり,スライダーを
回動させることで,押受部を上に持ち上げ,スライダー側の2つのビーム間の間隔
を広げているのに対し,引用例2のフロントロックタイプのコネクタは,その図5
に示されるように,FPCが差し込まれていない状態でスライダーを回動させたと
ころで,スライダーが,スライダー側の2つの片部間の間隔を広げることはありえ
ない。すなわち,引用例2の図10に示されるように,スライダー側にFPCを挿
入し,スライダーを回動させて初めて,FPCが下側の接触部に押し付けられ,そ
の結果,スライダー側の下側の片部が若干下に押し下げられるだけである。
したがって引用例2のフロントロックタイプのコネクタは被告主張の上記ス,,「
ライダーを回動させることでスライダー側の間隔が広げられ,その結果,接触部と
FPC又はFFCとを電気接触させる」という構造など有しておらず,上記「引用
例1のバックロックタイプのコネクタと引用例2のフロントロックタイプのコネク
タとは,‥‥スライダーを回動させることでスライダー側の間隔が広げられ,その
結果,接触部とFPC又はFFCとを電気接触させる点で共通する構造を有するも
のである」という被告の認定は誤りである。。
また,被告の「フロントロックタイプ」の周知例1及び2に示される周知の技,
術的課題が,フロントロックタイプのコネクタと比較して既に少なくともFPC分
は薄い「バックロックタイプ」の引用発明のコネクタに内在するという主張には何
ら根拠がなく,結び付けが強引であって,論理に飛躍がある。
ウ被告の反論4(4)について
引用例1に関しては,後記第5の1(2)の段落【0015】に「この図2(a)に,
付いては図1で構成してある通りであるが,接触子10は接触子10に設けられた
係止部16がコネクタ1のレバー30の操作や取り扱いにおいて十分な保持力を有
」,,,,しているとの記載がありしたがって引用発明は図2(a)に示されるように
ベースビーム14をハウジング20に完全に埋め込むことによって,ベースビーム
14に設けられた「係止部(図2(a)の参照符号17で示される部分に相当。係止
部16は係止部17の誤記と考えられる」が,レバー操作等に対する保持力を発。)
揮するものであることがわかる。一方,本願補正発明に関しては,クランク形状の
一点を構成する支点が下側にある以上,延設部全体がハウジングに埋め込まれる場
合など想定されないのは明らかである。よって,バックロックタイプの引用例1の
コネクタは,コンタクトを埋め込んでいる分,本願補正発明よりも厚くなるという
原告の主張に誤りはない。
5相違点2の判断の誤り(取消事由5)
(1)前記1(2)で説明したように,引用発明の支柱はハウジングに当接されてい
ることから,仮に支柱を弾性部としたところで,この弾性部が本願補正発明のそれ
のように十分に弾性変形することはできないため,支柱部を弾性部とすること自体
に意味はないというべきである。したがって,引用発明に引用例3に記載された発
明の技術的事項を適用することによって,容易想到であるとした審決の判断には誤
りがある。
(2)被告の反論に対する再反論
引用発明において,ベースビーム14をハウジング20に完全に埋め込んでいる
限り,ベースビーム14と支柱13との連結位置のハウジング20の嵌合口側の面
は必ずハウジング20に当接されているのであるから,仮に,被告が主張するよう
に,支柱が弾性体で構成されたとしても,ベースビーム14と支柱13との連結位
置を支点として支柱が変形することなど,決してありえない。
したがって「引用発明の第1接触部と接続部の間に設けた支点部を有する部材,
を,引用例3に記載された発明に倣って弾性部とすることは,当業者が容易になし
得たものである」という審決の判断は誤りである。さらに,仮に,引用発明の第1
接触部と接続部の間に設けた支点部を有する部材を,引用例3に記載された発明に
倣って弾性部としたとしても,本願補正発明を想到できたものではないことも明ら
かである。
第4被告の反論
次のとおり,審決の認定判断には誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理
由がない。
1取消事由1(一致点の認定の誤り)に対して
(1)本願補正発明と引用発明とは「‥‥接触部と支点部を有する部材と接続部,
とを略クランク形状に配置‥‥」する点で一致するものであり,審決の「‥‥接触
部と支点部を有する部材とを略クランク形状に配置‥‥」との記載は「‥‥接触,
部と支点部を有する部材と接続部とを略クランク形状に配置‥‥」と記載すべきと
ころを錯誤したものである。このことは,審決において,クランク形状についての
接続部を相違点として挙げていないことからも明らかである。
,,,「」(2)原告は前記第3の1(2)において審決が引用発明の支点となる支柱
が本願補正発明の「支点部」と「弾性部」とからなる支柱相当部分のうちの「支点
部」のみに相当すると認定したとの認識の下に,審決においては,本願補正発明と
引用発明とが「支点部を有する部材」を具備する点で一致すると認定している点は
誤りである旨主張する。
しかしながら,審決においては,本願補正発明と引用発明との対比の項で,引用
発明の「支点となる支柱13」のうち「支点」は,本願補正発明の「支点部」に相
当するとし,また,引用発明の「支点となる支柱13」と本願補正発明の「弾性部
と支点部」とは「支点部を有する部材」である点で一致することから,審決にお,
いては,両者が「支点部を有する部材」を具備する点で一致するとしているのであ
る。このように,審決においては,原告が主張するように,引用発明の「支点とな
る支柱13」が本願補正発明の支柱相当部分のうちの「支点部」のみに相当すると
しているものではないのであって,原告の主張は審決を正解しないものであり,失
当である。
2取消事由2(相違点1の認定の誤り)に対して
(1)本願補正発明の発明特定事項に「前記突出部により,前記スライダー回動時
における前記スライダーの中央部の前記フレキシブルプリント基板(FPC)又は
()」前記フレキシブルフラットケーブルFFCの挿入方向への膨れを防止すること
,,「」とあるように本願補正発明においてはスライダーの中央部の膨れを防止する
のは「突出部」によることは明確に特定されているが,スライダーに別個独立に設
けた係止孔により「スライダーの膨れを防止する」ことは特定されていない。
(2)また「係止孔を別個独立に設けることによって,コンタクトとコンタクト,
との間に壁をつくり,スライダーの強度をアップさせること」についても,本願の
特許請求の範囲に何ら特定して記載されたものではない。この点に関しては,後記
【】,「,第5の1(1)の段落0022に前記係止孔30を別個独立に設けることで
前記スライダー16の強度アップや回動時の変形を防止している」なる記載はあ。
るが「‥‥コンタクトとコンタクトとの間に壁をつくり,スライダーの強度をア,
ップさせることができる」ことについては,記載すらされていない。このように,
原告の主張する点は発明特定事項にないものであり,相違点に挙げる必要はないか
ら,原告の主張は理由がない。
3取消事由3(相違点2の認定の誤り)に対して
審決では,相違点2において,引用発明の「支点部を有する部材」が弾性部であ
るか否か不明であるとしている。これは,引用例1には支柱13が「弾性部」であ
ると明記されていないためであるから,認定に誤りはない。
4取消事由4(相違点1の判断の誤り)に対して
(1)本願補正発明の「押受部」と引用例2に記載された発明の「固定片部33」
はスライダーとの関係においてスライダーの回動によりスライダーの押圧部引,,(
用例2の「加圧部48)によって,それぞれ対向する部材である本願補正発明の」
「接続部24」及び引用例2の「弾性片部35」との間隔を広げられる構造をなす
一方の部材である点で一致するものである。したがって,引用例2に記載された発
明の「固定片部33」が本願補正発明の「押受部」に相当するとした審決の認定に
誤りはない。
なお,原告が主張するように,コンタクトの動作や作用に着目した部材間の相当
関係があるとしても,その相当関係は審決の認定判断に影響するものではない。
(2)また,回動式スライダーを備えたコネクタは,フロントロックタイプ,バッ
クロックタイプを問わず,端子数が多くなるという技術の流れに対応するため,フ
レキシブル基板のコネクタの接触部への接触圧を保持する必要性から,回動式スラ
イダーの強度を確保しなければならないという共通の問題点を有するものである。
,,(【】,【】。)この課題自体は例えば周知例1甲4の段落00110013参照
や,周知例2(甲5の段落【0011【0014】参照)に示されているように】,。
本願出願前周知の技術的課題である。引用例1のバックロックタイプのコネクタと
引用例2のフロントロックタイプのコネクタとは,スライダーを回動させる位置こ
そ相違するが,スライダーを回動させることでスライダー側の間隔が広げられ,そ
の結果,接触部とFPC又はFFCとを電気接続させる点で共通する構造を有する
ものである。しかも,スライダーの回動時におけるスライダー中央部の膨れを防止
する機能を有する引用例2に記載された発明を,同じく回動するスライダーを備え
る引用発明に適用することを阻害する要因も存在しない。
したがって,引用発明に内在する,フレキシブル基板のコネクタの接触部への接
触圧を保持した上で,低背位化を図るという課題を解決するために,引用発明の押
受部とスライダーに,フレキシブル基板のコネクタの接触部への接触圧を保持した
上で,低背位化を図るという課題を解決した引用例2に記載された発明のストッパ
を有する固定片部,透孔及び加圧部を有する蓋部材といったスライダー周りの構造
を適用することは,当業者が容易に想到し得たものである。
よって,審決における相違点1の判断に誤りはない。
(3)原告は引用例2の透孔40の作用効果が本願補正発明の係止孔とは作用効果
,,「,が異なる旨主張しているが本願補正発明の発明特定事項に前記突出部により
前記スライダー回動時における前記スライダーの中央部の前記フレキシブルプリン
ト基板(FPC)又は前記フレキシブルフラットケーブル(FFC)の挿入方向へ
の膨れを防止すること」とあるように,本願補正発明においては「スライダーの,
中央部の膨れを防止する」のは「突出部」であることを明確に特定しているが,ス
ライダーに別個独立に設けた係止孔により「スライダー中央部の膨れを防止し,押
圧部の逃げを防止する」ことは特定されていない。したがって,原告の主張は,本
願の特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
(4)本願補正発明においては「該コンタクトが保持・固定される‥‥ハウジン,
グ」とあるように,コンタクトはハウジングに保持・固定されるとあるのみで,コ
ンタクトがどのようにハウジングに保持・固定されるかについて特定するものでな
いから,コンタクトを埋め込むためにコネクタが厚くなる旨の原告の主張は,特許
請求の範囲の記載に基づかない主張である。
5取消事由5(相違点2の判断の誤り)に対して
引用例3に記載された発明の「連結部3c」は,接触子3が「金属板を打ち抜い
て製作されたものであり(後記第5の5(1)の段落【0018】参照)や「接触」。
子3の弾性復元力によって結線状態を維持する(後記第5の5(1)の段落【00」
30】参照)に示されているように,金属板からなり弾性復元力を有するもので。
あることから,接触子3の一部分を構成する「連結部3c」も,金属板からなり弾
性復元力を有するものであることは明らかである。また「回動部材4の圧接部4,
bが,上側接触片3aの隅部3aの周縁を一層加圧し,上側接触片3aが弾性変2
形し,その接触部3aが偏平電線8の上面にさらに圧接し,上側接触片3aと下1
側接触片3bとの間で偏平電線8を挟持する(後記第5の5(1)の段落【003。」
】。),「」0参照に示されるように接触部3aと結線部3bとの間の連結部3c14
は支点部を有する部材である。
しかも,引用例3には「弾性復元する接触子3の接触部3aと結線部3bと,14
の間に設けた前後に移動可能な連結部3cを設けたこと」が示されているといえる
ことから,引用例3に記載された発明の「連結部3c」は,前後に移動可能なもの
である。
以上のように,引用例3に記載された発明は,引用発明と,コンタクトを構成す
る上側部材の支点部を有する部材からみて一方側をスライダーの回動により上方に
持ち上げることにより,上側部材の他方側をフレキシブル基板側に押し下げるバッ
クロックタイプのコネクタである点で共通するものである。
したがって,審決において「引用発明の第1接触部と接続部の間に設けた支点部
を有する部材を,引用例3に記載された発明に倣って弾性部とすることは,当業者
が容易になし得たものである」とした相違点2の判断に誤りはない。。
しかも,引用発明の「支点部を有する部材」に,引用例3に記載された発明の前
後に移動可能な支点部を有する部材である連結部3cを適用するに際して連「」,「
結部3c」を有する接触子3を前後に移動できる形でハウジングに組み込むことは
当業者が当然に行うことである。
したがって,審決における相違点2の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1)本願補正発明の内容
証拠(甲7,8)によれば,本願明細書には次の記載がある(なお,段落【00
09】及び【0020】の下線部分は,本件補正に係るものである。。)
「発明の属する技術分野】【
本発明は,携帯電話やノートパソコンやデジタルカメラ等に使用されるコネクタに関するも
ので,特にフレキシブルプリント基盤(以下『FPC』という)やフレキシブルフラットケー
(段落ブル(以下『FFC』という)にコンタクトを押し付ける機構に関するものである。」
【0001)】
「従来の技術】【
携帯電話やCCDカメラ等に使用されるコネクタは,狭ピッチで極薄(所謂軽薄短小)であ
り,主にハウジングとコンタクトとスライダーとから構成され,ハウジングとスライダーとで
FPC又はFFCを挟持する構造である。ハウジングとスライダーとでFPC又はFFCを保
持する方法には,色々考えられるが,中でもハウジングにFPC又はFFCを挿入した後にス
段落0ライダーを挿入しFPC又はFFCをコンタクトに押し付ける構造のものが多い。」(【
002)】
「ハウジングには,コンタクトが挿入される所要数の挿入孔が設けられるとともにFPC又
はFFCが挿入される嵌合口が設けられている。
コンタクト64は図6のように略コ字形状をしており,主にFPC40又はFFCと接触す
る接触部22と基盤等に接続する接続部24とハウジング62に固定される固定部42とから
。,。」構成されているこのコンタクト64は圧入等によってハウジング62に固定されている
(段落【0003)】
「発明が解決しようとする課題】【
近年,この種のコネクタ60には,より低背位化の要求が強くなってきているが,上述した
構造のコネクタ60では,図6(B)のように6層(ハウジング62の厚み方向両側の壁・コン
タクト64の接触部22と受け部70の厚さ・スライダー66の押圧部68の厚さ・FPC4
0又はFFCの厚さ)構造になっている。低背位化を考えると,コンタクト64の受け部70
を省略し,5層(ハウジング62の厚み方向両側の壁・コンタクト64の接触部22の厚さ・
スライダー66の押圧部68の厚さ・FPC40又はFFCの厚さ)構造にすることはできる
が,各部位の強度や仕様等からこれ以上低背位化が出来ないといった解決すべき課題があっ
(段落【0005)た。」】
「また,上述のような構造のコネクタ60では,ハウジング62の嵌合口18側のみで,F
PC40又はFFCの挿入とコンタクト64の接触部22をFPC40又はFFCに押し付け
る動作を行っているので,コネクタが小型化すればするほど作業性が悪いと言った問題点もあ
(段落【0006)る。」】
「さらにまた,コネクタ60のピッチの狭小化が要求された場合,従来の構造のようにコン
(段落【0タクト64を一方向から挿入したのでは,コネクタの狭小化にも限界があった。」
007)】
「本発明は,このような従来の問題点に鑑みてなされたもので,各部位の強度や仕様等を損
なうことなく,スライダー16でFPC40又はFFCを確実にコンタクト14の接触部22
に押圧することができ,作業性がよく,ピットの狭小化や低背位化が可能なコネクタを提供せ
(段落【0008)んとするものである。」】
「課題を解決するための手段】【
,,上記目的の低背位化はFPC40又はFFCと着脱自在に嵌合するコネクタ10であって
該FPC40又は前記FFCと接触する接触部22,および基盤に接続する接続部を有する所
要数のコンタクト14と,該コンタクト14が保持・固定されるとともに前記FPC40又は
前記FFCが挿入される嵌合口18を有するハウジング12と,前記FPC40又は前記FF
Cを前記コンタクト14に押圧するスライダー16とを備えるコネクタ10において,前記コ
ンタクト14の前記接触部である第1接触部22と接続部24との間に弾性部34と支点部3
2とを設けるとともに前記第1接触部22と前記弾性部34と前記支点部32と前記接続部2
4とを略クランク形状に配置し,かつ,前記接続部24と対向する位置に前記弾性部34から
延設された押受部20を設け,該押受部20の先端に突出部26を設け,前記スライダー16
には長手方向に連設した細長形状をした押圧部を別個独立に設け,前記押圧部36が前記コン
タクト14の接続部22と押受部20との間で回動自在に前記スライダー16を前記ハウジン
グ12の嵌合口とは反対側に装着し,前記突出部により,前記スライダ回動時における前記ス
ライダーの中央部の前記FPC40又は前記FFCの挿入方向への膨れを防止することにより
(段落【0009)達成できる。」】
「前記突出部26は,前記スライダー16の押圧部36が前記コンタクト14の接続部24
方向へ移動しないようにするため設けられる。このように前記突出部26を設けることで,前
記スライダー16の押圧部36を前記コンタクト14の押受部20と接続部24との間で回動
させるとき前記スライダー16の回動に対する反発力が強い為に,前記スライダー16の中央
部が図1(B)の矢印『ロ』方向に膨れてしまうことを防ぐことが出来る。
また,本発明では,前記スライダー16の押圧部36の形状を細長形状にする。例えば,前
記細長形状は楕円形にすると良い。このように細長形状にすることで,前記スライダー16を
回動した際に,確実に前記コンタクト14の押受部20を上方に押し上げ,前記接触部22を
(段落【0010)前記FPC40又は前記FFCに容易に接触させることができる。」】
「さらに,本発明では,前記スライダー16には,所要数の前記コンタクト14の突出部2
6と係合する前記係止孔30を別個独立に設ける。このように前記係止孔30を別個独立に設
(段落【001けることで,前記スライダー16を強固で,確実に回動することができる。」
1)】
「作用】【
前記FPC40又はFFCが前記ハウジング12の嵌合口18内に挿入された後に,前記ス
ライダー16の押圧部36が前記コンタクト14の接続部24と押受部36(判決中;20の
誤り)との間で回動すると,前記押受部20が前既押圧部36によって押し上げられることで
前記コンタクト14の支点部32を支点にし,前記コンタクト14の弾性部34が前記第1接
触部22側に傾くことによって,前記第1接触部22が前記FPC40又は前記FFC側に押
(段落【0013)圧される。」】
「‥‥。該スライダー16は,主に前記ハウジング12の嵌合口とは反対側に回動可能に装
着される軸28部分と,前記コンタクト14の押受部20を押圧する押圧部36と,前記コン
(【】)タクト14の突出部26が係合する係止孔30とを備えている‥‥。」段落0020
「前記押圧部36は,前記コンタクト14の押受部20に押し付ける部分であり,その形状
(段落【0021)としては細長形状にする。‥‥」】
「また,前記スライダー16を回動した際に,前記スライダー16の回動に対する反発力が
強く,前記スライダー16の中央部が図1(B)の矢印『ロ』方向に膨れてしまうことを防ぐよ
うにする為に,前記コンタクト14の突出部26が係合する前記係止孔30が別個独立に設け
られている。前記係止孔30を別個独立に設けることで,前記スライダー16の強度アップや
(段落【0022)回動時の変形を防止している」】
「発明の効果】【
以上の説明から明らかなように,本発明の前記コネクタ10によると,次のような優れた効
果が得られる。
(1)前記スライダー16を前記ハウジング12の前記コンタクト14の接続部24側で回動
させることで,前記コンタクト14,141の第1接触部22を前記FPC40又は前記FF
Cに接触させる構造にしているので,前記ハウジング12の嵌合口18に前記スライダー16
を挿入することがなく,前記スライダー16の厚み分だけ前記コネクタ10の低背位化が可能
になった。
(2)前記コンタクト14の押受部20の先端に前記突出部26を設けているので,前記スラ
イダー16の押圧部36を前記コンタクト14の押受部20と接続部24との間で回動させる
とき前記スライダー16の回動に対する反発力が強くても,前記スライダー16の中央部が矢
印『ロ』方向に膨れてしまうことを防ぐことが出来る。
(3)前記スライダー16の押圧部36の形状を細長形状(長軸と短軸がある)にしているの
で,前記スライダー16を回動した際に,確実に前記コンタクト14,141の押受部20を
上方に押し上げ,前記第1接触部22を前記FPC40又は前記FFCに容易に接触させるこ
とができる。
(4)前記スライダー16には所要数の前記コンタクト14,141の突出部26と係合する
前記係止孔30を設け,該係止孔30を別個独立にしているので,前記スライダー16を強固
(段落【0025)で,確実に回動することができ,かつ,変形を生じない。‥‥。」】
(2)引用発明の内容
証拠(甲1)によれば,引用例1には次の記載がある。
「【】,()発明の属する技術分野本発明はFPCフレキシブル・プリンテッド・サーキット
あるいはFFC(フレキシブル・フラット・ケーブル)と基板を接続するコネクタに関し,特
に基板の上にコネクタが搭載されたとき,FPCあるいはFFCが基板に対し水平方向にコネ
クタに差し込まれ,そのときFPCあるいはFFCの接詮部が上面にあるような構成を持つ基
(段落【0001)板とFPCあるいはFFCを接続するためのコネクタに関する。」】
「従来の技術】従来の低挿抜力コネクタには,いわばU形状のコンタクトの間にスライド【
部材や回転部材によりFPCを挿入し嵌合する例や,L形状のコンタクトを変位させてFPC
(段落【0002)に圧力を加えて勘合する構造を有するものがある。」】
「‥‥。次に,U形状のコンタクトを用いて,回転部材によりFPCを嵌合させている例を
(段落【0004)図11を参照して説明する。」】
「U形状を有するコンタクト104の接触部には隙間がありその間にFPCを差込,回転部
材105を回転させると接触部が接近してFPCを加圧するような構造のものがある(例え。
(段落【0005)ば,実開平6−77186,特開平7−142130)‥‥」】
「回転部材を用い,回転前は回転部材とバネの接触部の間に隙間がありその間にFPCを差
込,回転後回転部材と接触部が接近してFPCを加圧するような構造の問題点は前述のコネク
タと同様に回転部材と同期してFPC自体も接点に対して回転することにより,やはり接点と
(段落【0007)FPCの位置ずれが発生しやすいことである。」】
「。しかも以上の2つの構造のコネクタは共通の問題として高さを少なくできない問題がある
これはU形状コンタクトの中にFPCと絶縁部材を挟み込むかあるいはコンタクトの上面から
接触のバネ部に間接的に力を与える構造のため,どうしても絶縁部材の厚さを余計に必要とす
る。‥‥。そのために力を受ける絶縁部材を厚くする必要がある。さらに高さも高くなるので
小型化も難しい。また,コネクタの接点を下方向に変位させるためにハウジングなどの壁を外
(段落【00側にも設ける必要があり,さらにコネクタ全体が大きくなり小型化が難しい。」
08)】
「最近の装置の小型化に伴い小さな高密度化されたコネクタが必要となっている。本発明は
操作性を改善あるいは損なわずに,小型化及び高密度化を実現するコネクタを提供する事にあ
(段落【0009)る。」】
「発明の実施の形態】次に本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本【
発明の最良の実施の形態である。コネクタ1はほぼH形状を寝かした形をする接触子10を係
止し保持している。また,ハウジング20と接触子10の開放した片側には自由に回転する様
に取り付けられたレバー30を備えている。接触子10においてレバー30を取り付けた方と
反対側の開放部にはFPC(あるいはFFC)40が挿入される。ここで通常FFCは,ベー
スフィルム43上に接触子10の接触部16と接触するパッド42が形成され,ベースフィル
(段落【0013)ム43のパッド42の反対側には補強板41が接着されている。」】
「‥‥。また,ここでは基板50にSMT(サーフェス・マウント・テクノロジー)部が半
田付けで基板50の基板パッド51に表面実装されている。この図2(a)については図1で
構成してある通りであるが,接触子10は接触子10に設けられた係止部16がコネクタ1の
レバー30の操作や取り扱いにおいて十分な保持力を有している。レバー30は回転ビーム1
1の仮想回転中心18を中心に回転する。このレバー30が基板50に対し大きな角度をもっ
て位置している時は開放状態(FPCとの接触がない,即ち回転ビームが持ち上がらない状)
態となる様レバー30の回転部31の肉厚がL1となっている。そしてレバー30を回転させ
てレバー30が基板50に対し平行になるようにした時(図2(b)の状態)回転ビーム11
が持ち上がり,逆に接触ビーム12が下がりFPC40のパッド42と接触部16が接触する
様にレバー30の回転部31の肉厚をL2を設定している。ここではレバーの回転部の肉厚の
(段落【0015)大小関係は,L1<L2となっている。」】
「次に図2(b)を参照すると,レバー30を回転させ前述の様に回転ビームが持ち上がり
接触ビーム12が下がり接触部16とFPC40のパッド42が適切な接圧をもって接続して
いる。ここで分かる様に回転ビーム11と接触ビーム12は支点となる支柱13を中心に変位
する。当然のことながら支柱13の幅はこのテコの原理が働く様ある程度幅を細くしておく必
(段落要があるが,一方で強度的に操作時に発生する応力に耐えるように設計する。‥‥。」
【0016)】
「回転ビーム11と接触ビーム12の関係については,図2(a(b)で説明した内容の),
動作をするように寸法設定をする。即ち,回転ビーム11が変位したときにその変位に対し所
(段落【00定の変位が接触ビーム12に発生するように支柱13の厚さや幅を調節する。」
19)】
「発明の効果】本発明の低挿抜力コネクタは,コネクタを薄く構成できるという効果があ【
る。そのため基板等の上に高密度な実装が可能になる。その理由は,レバーを回転させる等の
手段によりコンタクトをてこの原理により変位させレバーと反対側から差し込まれたFPCま
たはFFCを挟み込むことにより接触力を発生させ,コネクタのコンタクトとFPCまたはF
FCの接詮部とを接続しているからである。即ち,FPCの挿入側にはレバーなどを構成する
必要がないためその分薄く構成できる。また,ハウジングに力が加わらないのでハウジングの
(段落【0029)強度を高める必要がなくハウジングの肉厚も薄くできる。」】
(3)以上の本願補正発明と引用発明の記載内容からすれば,一致点の認定につき
次のとおり判断することができる。
ア原告は,前記第3の1(1)において,審決が認定した一致点のうち「第1,
接触部と支点部を有する部材とを略クランク形状に配置」とした構成は,本願補正
発明の「接続部」に相当する部材を欠いたものであり,一致点の認定を誤ったもの
であると主張する。
しかしながら,審決の一致点の認定に関する記載の前後の脈略からすれば,審決
は,本願補正発明と引用発明との一致点を「‥‥接触部と支点部を有する部材と接
続部とを略クランク形状に配置‥‥」と認定したことは明らかであり,審決書中の
「‥‥接触部と支点部を有する部材とを略クランク形状に配置‥‥」との記載は,
本来「‥‥接触部と支点部を有する部材と接続部とを略クランク形状に配置‥‥」
と記載すべきところを「接続部と」という文言を脱落したにすぎない単なる誤記で
あることは明らかである。したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。
イ原告は,前記第3の1(2)及び同(3)イにおいて,審決において,本願補正
発明と引用発明とが「支点部を有する部材」を具備する点で一致すると認定してい
る点は誤りである旨主張する。
しかしながら,本願補正発明は「第1接触部と接続部との間に弾性部と支点部,
とを設けるとともに前記第1接触部と前記弾性部と前記支点部と前記接続部とを略
クランク形状に配置し」た構成を有するものであるから,クランク形状の中心に位
置する「弾性部」と「支点部」が「支点部を有する部材」という概念で表現できる
ことは明らかである。そして,引用発明においても,上記(2)の段落【0016】
に「ここで分かる様に回転ビーム11と接触ビーム12は支点となる支柱13を中
。」,「」心に変位するとの記載があることからも分かるように引用発明の支柱13
には「支点」となる箇所があることが明らかであり,この部分を「支点部を有する
部材」という概念で表現することが可能である。したがって,本願補正発明と引用
発明とが「支点部を有する部材」を具備する点で一致するとした審決の認定に誤り
はない。
ウ(ア)この点,原告は,前記第3の1(2)のとおり,審決が,引用発明の「支点
となる支柱」が本願補正発明の「支点部」と「弾性部」とからなる支柱相当部分の
うちの「支点部」のみに相当すると認定したなどと主張するが,審決がそのような
認定をしていないことは説示上明らかであり,この点に関する原告の主張は理由が
ない。
(イ)また,原告は,前記第3の1(2)及び同(3)イにおいて,引用発明では,上
に「支点部」がありその下に「支柱」がある構成を有するものであるのに対し,本
願補正発明は,上に「弾性部」がありその下に「支点」がある構成を有するもので
あるところ,これら「支点」及び「弾性部」の配置は,安定した接続を得るためのコ
ンタクトの動き(作用)を決定付ける重要なものであり「支点部を有する部材」,
として一括りにされるべきものではないこと,実際,引用例1の図2からすれば,
引用発明の「ベースビーム14」のほとんどが「ハウジング20」内に挿入されて
固定されており「支柱13」の一部もハウジング20の一部に当接されているこ,
と「支柱」とは外力によって形状を変えにくい剛体で形成されていることを意味,
するのであるから,引用発明は弾性部と支点部を有する本願補正発明とは明らかに
異なる構成である旨主張する。
しかしながら,上記(2)の段落【0016】の「ここで分かる様に回転ビーム1
1と接触ビーム12は支点となる支柱13を中心に変位する。当然のことながら支
柱13の幅はこのテコの原理が働く様ある程度幅を細くしておく必要があるが,一
方で強度的に操作時に発生する応力に耐えるように設計する」との記載及び段落。
【0019】の「回転ビーム11が変位したときにその変位に対し所定の変位が接
触ビーム12に発生するように支柱13の厚さや幅を調整する」との記載から,。
引用発明の支柱13には支点となる箇所が存在するとともに,回転ビーム11と接
触ビーム12が変位するための弾性部分を有することが窺われる。このように,支
柱13には支点と弾性部分があって,支柱の上方回転ビーム11と接触ビーム12
を変位させるものであることからして,支柱13において支点の上方が弾性変位す
,,るものであって本願補正発明と同様の支点部と弾性部分との位置関係であること
すなわち,支柱13において,支点の上方が弾性を持っていると認定することが可
能である。したがって,引用発明も,本願補正発明と同様に,支柱には「支点」と
「弾性部」があり,上から「弾性部「支点部」及び「支柱」の順序で構成されて」,
いるものと認定することも可能であるから,本願補正発明と引用発明との間に構成
上原告が主張するような大きな相違があるとはいえない。
(ウ)さらに,原告が指摘する広辞苑(甲9)においても「支柱」とは「ささえる
柱,棒」との意味であると記述されているにすぎず,それが剛体を意味するとの記
載はなく,したがって,引用例1における「支柱」についても,回転ビーム11及
び接触ビーム12を支える部材であるという程度の意味と解するのが相当であっ
て,弾性変形するものではない剛体に限定することは相当ではない。
(エ)確かに,原告が指摘するように,引用例1の図2においては「ベースビー,
ム14」のほとんどが「ハウジング20」内に挿入されて固定されており「支柱,
13」の一部もハウジング20の一部に当接されている様子が記載されているが,
それより上方の部分はハウジング20に固定されておらず,その支点の上方が弾性
変形するのであるから,原告が主張するような不都合は何ら生じないこと,引用例
1の図1においては,支柱13がハウジング20に当接されていない部分が図2に
示されるものより長く上方に延びており,弾性変形の可能な部分が十分に残されて
,,,いる様子が記載されていること以上の点からすれば引用例1の図2の記載から
直ちに支柱13が弾性変形しないとする原告の主張は失当である。
以上のとおりであるから,審決で「支点部を有する部材」として一致点を認定し
た点に誤りはない。
2取消事由2(相違点1の認定の誤り)について
(1)本願補正発明の特許請求の範囲には「所要数の前記コンタクトの突出部と,
係合する係止孔を別個独立に設け」との記載はあるが,それ以上に,原告が主張す
るような「スライダーのコンタクトとコンタクトの間に壁をつくること「係止孔」,
を設けることにより,スライダー回動時におけるスライダーの中央部のFPC又は
FFCの挿入方向への膨れを防止することができる」旨の記載はないから,本願補
正発明と引用発明との対比において,これらの点を相違点としなかった審決の認定
に誤りはない。
(2)確かに,原告が主張するように,前記1(1)の段落【0022】の記載から
すれば,係止孔を別途独立に設けることによってスライダーのコンタクトとコンタ
クトの間に壁ができること,それによってスライダー16の強度アップや回動時の
変形を防止し得ることが窺われるが,そうであるとしても,審決は,相違点1にお
いて,本願補正発明と引用発明との相違点として「係止孔を別途独立に設ける」こ
とを認定しているのであるから,発明特定事項の相違点の認定としては,上記認定
で過不足はなく,この点に関する原告の主張は採用することができない。
3取消事由3(相違点2の認定の誤り)について
原告は,前記第3の3のとおり,引用発明では「支柱と上ビームとの接続部」,
を「支点」としている以上,上記「支柱」が「弾性部」でないことは明らかである
として,相違点2につき,支点部を有する部材が,引用発明では,弾性部であるか
否か不明であるとした審決の認定は誤りである旨主張する。
しかしながら,引用例1には「支柱」が弾性体であるとも剛体であるとも記載,
がないから,審決が,引用発明の「支点を有する部材」が弾性部であるか否か不明
であると認定したことには何ら誤りはない。
この点,原告は,引用発明の「支柱」は弾性部でないことは明らかであると主張
するが,前記1(3)ウ(イ)で判断したとおり,引用発明の「支柱」が全く弾性部を
有する可能性のない剛体と解釈することはできず,かえって,引用例1の記載を精
査すれば,引用発明の「支柱13」には支点と弾性部分があって,支柱の上方回転
ビーム11と接触ビーム12を変位させるものであると認定することもできるか
ら,この点に関する原告の主張は採用することができない。
4取消事由4(相違点1の判断の誤り)について
(1)引用例2の内容
証拠(甲2)によれば,引用例2には次の記載がある。
「ところが,近年,携帯電話やDVD等の用途でコネクタの高さを例えば1mm以下とする
ようなさらなる低背化が要求されている。低背化のために蓋部材の厚みをさらに薄くすると,
蓋部材を閉じたときに,加圧部がフォーク状接触子の間からその開放側へ逃げるようにして撓
む傾向にある。その結果,加圧部がフレキシブル基板を弾性片部に押圧する力が弱くなり,導
(段落【0003)通不良を起こすおそれがある。」】
「本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり,低背化を達成でき,しかも蓋部材の撓み
を防止してフレキシブル基板に対する確実な導通を達成できるフレキシブル基板用コネクタを
(段落【0004)提供することを目的とする。」】
「課題を解決するための手段及び発明の効果】上記目的を達成するため,請求項1記載の【
発明は,開口部を有する合成樹脂製のハウジングと,上記開口部に臨むように配列され,且つ
それぞれ相対抗する固定片部と弾性片部を有する複数のフォーク状接触子と,所定の回動軸線
の回りに回動して上記開口部を開閉する合成樹脂製の蓋部材とを備えるフレキシブル基板用コ
ネクタにおいて,上記所定の回動軸線に近接する蓋部材の一端縁に設けられ,上記蓋部材に閉
じられた状態で,弾性片部に接するフレキシブル基板と固定片部との間に狭持され且つフレキ
シブル基板を弾性片部に加圧する加圧部をさらに備え,固定片部は蓋部材が閉じられた状態で
加圧部が固定片部の延びる方向に逃げるのを防止するストッパを含むことを特徴とするもので
(段落【0005)ある。」】
「51は蓋部材7に埋設された第1の補強部材としての金属製のワイヤであり,ワイヤ51
の両端部には一対の第1の係合部としての係止突起Cが設けられている。各係止突起Cは,ハ
ウジング4に固定される第2の補強部材としての金属板からなる対応する補強タブ10の第2
の係合部としてのロック溝50に係止されて,蓋部材7の閉じ状態をロックする。ワイヤ51
(段落【0009)の係止突起Cとロック溝50とでロック機構が構成される。」】
「45は蓋部材7に埋設された第3の補強部材としての金属製のワイヤである。ワイヤ45
。,,の両端部には一対の回動支軸Aが設けられている5354はそれぞれ対応するワイヤ45
51の中間部47,52の一部55,59を蓋部材7の外部に露出させるために蓋部材7に設
けられた開口である。ハウジング4の対向する側板部8,9は,挿抜空間3の両側部を区画し
ている。側板部8,9の前端面には,一対の固定孔11が開口している(図1では示されて。
いないが,図2及び図2のIII−III線に沿う断面図である図3を参照)各固定孔11は蓋。
部材7の両側方へ突出する一対の回動支軸Aをそれぞれ支持するための補強タブ10を前側か
(段落【0010)ら収容して固定するものである。」】
「図1,図2及び図2のV−V線に沿う断面図である図5を参照して,第2の接触子23は
金属部材からなり,ハウジング4の挿脱空間3に後側から挿入されて固定されている。図5を
参照して,第2の接触子23は,係止突起付きの固定片部33と,固定片部33の下方に位置
する弾性片部35と,主体部36と,リード部37とを備えている。固定片部33は,ハウジ
ング4の上部の固定孔32に後側から挿入されて固定される。弾性片部35は,ハウジング4
の下板部16の上面に形成された収容溝34に後側から収容される。主体部36は固定片部3
3と弾性片部35の後端部を連結する。リード部37は,主体部36から後ろ斜め下方へ延び
(段落【0015)て基板表面に半田付けされる。」】
「‥‥。また,固定片部33の前端38の最前部には,弾性片部35側へ突出する突起から
,。なるストッパが61が形成されこのストッパ61に隣接して係合凹部62が形成されている
(段落【001係合凹部62は弾性片部の山形突起41に対向して設けられている。‥‥」
7)】
「‥‥。蓋部材7の第1の端縁42には,図5に示すように第2の接触子23の前端38を
出入りさせるための複数の透孔40が横並びに配置されている。図7において透孔40よりも
(段落【0018)第1の端縁42側にある部分が加圧部48を構成している。」】
「加圧部48は蓋部材7を閉じ位置に変位させる際,図9に示すように,第2の接触子23
の弾性片部35上に配置されたFPC2と固定片部33との間に挟持された状態で,FPC2
を弾性片部35に加圧するものである。加圧部48は図10に示す蓋部材7の閉じ状態で弾性
片部35の山形突起41に対向する加圧面63を有している。また,蓋部材7の閉じ状態で,
加圧面63の背面64が第2の接触子23の固定片部33の係合凹部62に当接することによ
り,弾性片部35からFPC2を介して加圧部48に与えられる弾性反発力を固定片部33に
(段落【0019)受けさせるようにしている。」】
「加圧部48は略矩形をなす断面を持っており,その一辺である加圧面63は蓋部材7の閉
じ状態で弾性片部35の山形突起41に対向する部分であり,この加圧面63に隣接する一辺
である蓋部材7の端面65は蓋部材7の開放状態で弾性片部35の山形突起41に対向する部
(段落【0020)分である。‥‥」】
「本実施の形態では,蓋部材7を閉じるときに固定片部33の係合凹部62に加圧部62を
当接させると共にストッパ61により加圧部48の逃げ(第2の接触子23の開放方向への逃
げ)を防止する。これにより,加圧部48を山形突起41に位置合わせした状態で,蓋部材7
の撓みを防止することができる。したがって,低背化のために蓋部材の肉厚が薄くなって蓋部
材7の変形強度が低くなった場合にも,加圧部48によりFPC2を弾性片部35の山形突起
41に確実に強く押圧して,FPC2と第2の接触子23との確実な導通を達成できる。蓋部
(段落【0023)材7がハウジング4から外れることもない。」】
「‥‥。さらに,蓋部材7の成形時に一部が埋め込まれた金属製のワイヤ45が蓋部材7を
幅方向(左右方向)に貫通して蓋部材7の撓みを防止できるので,加圧部48の逃げをより確
(段落【0024)実に防止して,高い接触圧力を得ることができる。」】
「‥‥。また,上記実施の形態では,第1及び第2の接触子22,23を交互に配列するコ
ネクタとしたが,これに限らず,第2の接触子23のみを配置するコネクタとしても良い。さ
(段落【0026)らに,回動支持部14をハウジング4に設けても良い。」】
(2)引用例2の上記の記載によれば,引用例2の発明は「低背化を達成でき,,
しかも蓋部材の撓みを防止してフレキシブル基板に対する確実な導通を達成できる
フレキシブル基板用コネクタを提供することを目的とする」ものであり,その目的
を達成するために,引用例2には,審決が認定したとおり「コンタクトの押受部,
の先端に突出部を設け,スライダーには,コンタクトの突出部と係合する係止孔を
,,,別個独立に設け長手方向に連設した細長形状をした押圧部を設け突出部により
スライダー回動時におけるスライダーの中央部の膨れを防止したコネクタ」とい。
う発明が記載されていると認められる。
そして,引用発明と引用例2に記載された上記発明は,いずれもコンタクトを有
するコネクタという同一の技術分野に属する発明であるから,引用発明において,
コンタクトの押受部に突出部を設け,さらに,スライダーにコンタクトの突出部と
係合する係止孔を別個独立に設けて,コンタクトに設けた突出部により,スライダ
ー回動時におけるスライダー中央部のFPC又はFFCの挿入方向への膨れを防止
するようにするという効果を達成するために,上記引用例2に記載された発明の技
術的事項を適用することは,当業者が容易に想到し得たものであるというべきであ
る。
(3)この点について,原告は,前記第3の4のとおり主張するので,以下,検討
する。
ア原告は,前記第3の4(1)のとおり,引用例2の「固定片部」が,本願補正
発明の「押受部」に相当するとした審決の認定は誤りであると主張する。
しかしながら,引用例2に記載の「固定片部33」については,前記(1)の段落
【0019】に「また,蓋部材7の閉じ状態で,加圧面63の背面64が第2の,
接触子23の固定片部33の係合凹部62に当接することにより,弾性片部35か
らFPC2を介して加圧部48に与えられる弾性反発力を固定片部33に受けさせ
るようにしている」と記載されているように「固定片部33」は「加圧部48」。,
。,,からの力を受ける部材であることが明らかである一方本願補正発明においては
前記1(1)の段落【0021】に「前記押圧部36は,前記コンタクト14の押,
受部20に押し付ける部分でありと記載されているとおり押受部20は押,」,「」「
」。,「」圧部36からの力を受ける部材であるしたがって引用例2の固定片部33
も,本願補正発明における「押受部20」と同様にスライダー(引用例2における
蓋部材7)の押圧部(引用例2における「加圧部48)からの力を受ける点で共通」
しているのであるから,審決が,引用例2に記載された発明の「固定片部33」が
本願補正発明の「押受部」に相当すると認定した点が誤りであるとはいえない。
したがって,この点に関する原告の主張を採用することはできない。
イまた,原告は,前記第3の4(1)のとおり,引用例2に記載された発明は,
バックロックタイプとは動作及び作用が全く異なるフロントロックタイプのコネク
タであり,バックロックタイプの引用発明にフロントロックタイプの引用例2の技
術的事項を適用することは当業者が容易に想到し得たものではないとも主張する。
しかしながら,まず,上記(2)で認定したとおり,引用発明及び引用例2に記載
された発明はいずれもコンタクトを有するコネクタという同一の技術分野に属する
発明であるところ,前記1(1)の記載から明らかなとおり,本願補正発明は「フ,
ロントロックタイプのコネクタ」の低背位化という課題を解決するために「バッ,
」,,クロックタイプのコネクタを採用したものであり押受部の先端に突出部を設け
スライダーには突出部と係合する係止孔を別個独立に設けることによって,低背位
化と同時にスライダーの中央部の膨れを防止することができる発明である。また,
前記1(2)の記載から明らかなとおり,引用発明は「フロントロックタイプのコ,
ネクタ」の高さを低くし小型化するという課題を解決するために「バックロック,
タイプのコネクタ」を採用したものである。一方,前記(1)の記載から明らかなと
おり,引用例2に記載された発明は「フロントロックタイプのコネクタ」の低背,
位化を達成するという課題を解決するために「フロントロックタイプ」のコネク,
タにおいて,押受部の先端に突出部を設け,突出部と係合する係止孔を別個独立に
設けることについての発明であり,引用例2に記載された発明では,そのようにす
ることによって,本願補正発明や引用発明と共通する課題である低背位化とともに
蓋部材7の撓みを防止するものである。
このように「フロントロックタイプのコネクタ」と「バックロックタイプのコ,
ネクタ」とは,コンタクトを有するコネクタという同一の技術分野における,同様
の課題解決手段の選択の相違にすぎないというべきであるから,バックロックタイ
プの引用発明にフロントロックタイプの引用例2に記載された技術的事項を適用す
ることに阻害要因はないというべきである。したがって「フロントロックタイプ,
のコネクタ」と「バックロックタイプのコネクタ」の相違を過大視して,当業者が
容易に想到し得たものではないとの原告の主張は採用することができない。
ウさらに,原告は,前記第3の4(2)のとおり,引用例2の透孔40は本願補
正発明の係止孔と作用効果が異なっている旨主張するが,そもそも原告の主張する
本願補正発明の作用効果が引用発明の作用効果に比して格別のものであるとは認め
られないから,この点に関する原告の主張に理由がないことは明らかである。
,,仮に本願補正発明の係止孔に原告が主張するような作用効果があったとしても
引用例2の透孔40にも,同様の作用効果があると認められるから,いずれにして
,。,【】も原告の主張は採用することができないすなわち前記(1)の段落0023
の記載から,蓋部材7が膨れようとしたした場合にも,ストッパ61が加圧部48
に当接することで膨れを防止していることが窺われる。また,段落【0018】の
記載及び図7のVIII−VIII線に沿う断面を示す図8の記載から,透孔40の縁部に
加圧部48が構成されていることが窺われる。したがって,ストッパ61が加圧部
48に当接して膨れを防止していることは,言い換えれば,ストッパ61が透孔4
0に係合して膨れを防止していると認めることができる。また,透孔40と透孔4
0の間には壁が構成されていることは,図7等から明らかである。以上の点からす
れば,引用例2に記載された発明において,蓋部材7が膨れようとした場合にも,
ストッパ61が透孔40に係合することで膨れを防止し,また,蓋部材7自身の強
度も壁によって保持されている点は,本願補正発明と同じである。
なお,原告は,引用例2に記載された発明においては,蓋部材7の成形時に一部
が埋め込まれた金属製のワイヤ45が蓋部材7を幅方向(左右方向)に貫通して蓋
部材7の撓みを防止している旨主張するが,前記(1)の段落【0024】に記載さ
れているとおり,金属製のワイヤ45は,加圧部48の逃げをより確実に防止して
高い接触圧力を得るためのものであって,透孔40に加えて,ワイヤ45が,蓋部
材7の膨れをより防止することはあったとしても,そのことが,透孔40によって
膨れを防止することを否定するものではないことは明らかであるから,この点に関
する原告の主張も採用することはできない。
エ最後に,原告は,前記第3の4(3)のとおり,低背位化の点からいえば,フ
ロントロックタイプの引用例2のコネクタは,フレキシブル基板と固定片部との隙
間に位置するFPCの分だけバックロックタイプのものより必然的に厚くなり,ま
,,,たバックロックタイプの引用発明のコネクタはコンタクトを埋め込んでいる分
本願補正発明よりも厚くなるものであるから,引用例2の技術的事項を引用発明に
適用することは困難である旨主張する。
,,,しかしながら引用発明に引用例2に開示された技術的事項を適用することは
同一技術分野に属し,当業者にとって容易であることから,それにより低背位化が
達成される以上,仮に,本願補正発明のコネクタが,引用例の個々のコネクタに比
べて低背位化したものであったとしても,これによって引用発明に引用例2の技術
的事項を適用すること自体が困難になるということはできない。したがって,この
点に関する原告の主張も採用することができない。
(4)以上のとおり,審決における相違点1の判断には,誤りはない。
5取消事由5(相違点2の判断の誤り)について
(1)引用例3の内容
証拠(甲3)によれば,引用例3には次の記載がある。
「接触子3は,金属板から打ち抜いて製作されたものであり,上下に対向する一対の接触片
3a,3bと,それらを連結する連結部3cとを有している。上側接触片3aは,挿入口5か
ら挿入される偏平電線に圧接される下方へ突出した接触部3a1と,回動部材4の後述の圧接
部4bにその周縁が圧接される隅部3a2とを有し,下側接触片3bは,ハウジング2の挿入
口5の下側の係止凹部2bに係止される係止部3b1と,前記接触部3a1との間で挿入され
た偏平電線を挟持する上方へ突出した接触部3b2と,回動部材4の円弧状の回動支持部4c
(段落が係合する回動溝部3b3と,回路基板に接続される結線部3b4とを有している。」
【0018)】
「次に,図6(b)に示されるように,回動部材4を,時計回りに回動操作し,これによっ
て,回動部材4の圧接部4bが,上側接触片3aの隅部3a2の周縁に圧接し,上側接触片3
(段落【002aを弾性変形させてその接触部3a1を,偏平電線8の上面に押圧させる。」
9)】
「さらに,回動部材4を,時計回りに回動操作することにより,図6(c)に示されるよう
に,回動部材4の圧接部4bが,上側接触片3aの隅部3a2の周縁を一層加圧し,上側接触
片3aが弾性変形し,その接触部3a1が偏平電線8の上面にさらに圧接し,上側接触片3a
。,,と下側接触片3bとの間で偏平電線8を挟持するこの状態では回動部材4の圧接部4bが
上側接触片3aの隅部3a2の頂点P2を乗り越えた位置にあり,接触子3の弾性復元力によっ
(段落【003て結線状態を維持する方向(図6の右方向)への力が作用することになる。」
0)】
「その後,回動部材4を,時計回りにさらに回動操作して図6(d)に示されるように,回
動の終点,すなわち,倒れ姿勢になると,接触子3の弾性復元力によって,回動部材4に作用
(段落【00する結線状態を維持する水平方向の力が一層大きくなり,ロック状態となる。」
31)】
「なお,図6(d)のロック状態から偏平電線8を意図的に外す場合には,回動部材4に反
時計回りの力を加えればよく,これによって,上述とは逆の動作で回動部材4が回動始点に復
(段落【0032)帰して図6(a)に示される開放状態とされる。」】
(2)以上の記載によれば,引用例3に記載された発明の「接触子3」は金属板か
らなり弾性復元力を有するものであることから,接触子3の一部分を構成する「連
結部3c」も金属板からなり弾性復元力を有するものであることは明らかである。
14また,上記(1)の段落【0030】の記載からすれば,接触部3aと結線部3b
「」。,との間の連結部3cは支点部を有する部材であることも明らかであるそして
引用例3に記載された発明と引用発明とは,コンタクトを有するコネクタという同
一の技術分野に関する発明であり,コンタクトを構成する上側部材の支点部を有す
る部材からみて一方側をスライダーの回動により持ち上げることにより,上側部材
の他方側をフレキシブル基板側に押し下げるバックロックタイプのコネクタである
点で共通している。
したがって,審決において「引用発明の第1接触部と接続部の間に設けた支点部
を有する部材を,引用例3に記載された発明に倣って弾性部とすることは,当業者
が容易になし得たものである」とした相違点2の判断に誤りはなく,この点に関。
する原告の主張は理由がない。
この点について,原告は,前記第3の5のとおり,引用発明においては,ベース
ビーム14がハウジング20に完全に埋め込んでいること,及び支柱13の一部が
ハウジング20の嵌合口側の面に当接されていることを理由として,仮に,引用発
明の第1接触部と接続部の間に設けた支点部を有する部材を,引用例3に記載され
た発明に倣って弾性部としたとしても,本願補正発明を想到できたものではない旨
主張するが,引用発明においても「支点部を有する部材」において支点部の上方,
が弾性変位するものであって,本願補正発明と引用発明は同様の支点部と弾性部の
位置関係を有することは,前記1(3)ウ(イ)において認定したとおりであるから,
この点に関する原告の主張も採用することができない。
6結論
以上のとおり,原告の主張する審決取消事由はいずれも理由がないので,原告の
請求は棄却を免れない。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
東海林保
裁判官
矢口俊哉

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