弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件上告を棄却する。
       当審における未決勾留日数中40日を本刑に算入する。
         理    由
 弁護人滝谷滉の上告趣意は,単なる法令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法
405条の上告理由に当たらない。
 所論にかんがみ,本件における窃盗罪の成否につき,職権で判断する。
 1 原判決の認定及び記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。
 (1) 被害者は,本件当日午後3時30分ころから,大阪府内の私鉄駅近くの公
園において,ベンチに座り,傍らに自身のポシェット(以下「本件ポシェット」と
いう。)を置いて,友人と話をするなどしていた。
 (2) 被告人は,前刑出所後いわゆるホームレス生活をし,置き引きで金を得る
などしていたものであるが,午後5時40分ころ,上記公園のベンチに座った際に
,隣のベンチで被害者らが本件ポシェットをベンチ上に置いたまま話し込んでいる
のを見掛け,もし置き忘れたら持ち去ろうと考えて,本を読むふりをしながら様子
をうかがっていた。
 (3) 被害者は,午後6時20分ころ,本件ポシェットをベンチ上に置き忘れた
まま,友人を駅の改札口まで送るため,友人と共にその場を離れた。被告人は,被
害者らがもう少し離れたら本件ポシェットを取ろうと思って注視していたところ,
被害者らは,置き忘れに全く気付かないまま,駅の方向に向かって歩いて行った。
 (4) 被告人は,被害者らが,公園出口にある横断歩道橋を上り,上記ベンチか
ら約27mの距離にあるその階段踊り場まで行ったのを見たとき,自身の周りに人
もいなかったことから,今だと思って本件ポシェットを取り上げ,それを持ってそ
の場を離れ,公園内の公衆トイレ内に入り,本件ポシェットを開けて中から現金を
抜き取った。
 (5) 他方,被害者は,上記歩道橋を渡り,約200m離れた私鉄駅の改札口付
近まで2分ほど歩いたところで,本件ポシェットを置き忘れたことに気付き,上記
ベンチの所まで走って戻ったものの,既に本件ポシェットは無くなっていた。
 (6) 午後6時24分ころ,被害者の跡を追って公園に戻ってきた友人が,機転
を利かせて自身の携帯電話で本件ポシェットの中にあるはずの被害者の携帯電話に
架電したため,トイレ内で携帯電話が鳴り始め,被告人は,慌ててトイレから出た
が,被害者に問い詰められて犯行を認め,通報により駆けつけた警察官に引き渡さ
れた。
 2 以上のとおり,【要旨】被告人が本件ポシェットを領得したのは,被害者が
これを置き忘れてベンチから約27mしか離れていない場所まで歩いて行った時点
であったことなど本件の事実関係の下では,その時点において,被害者が本件ポシ
ェットのことを一時的に失念したまま現場から立ち去りつつあったことを考慮して
も,被害者の本件ポシェットに対する占有はなお失われておらず,被告人の本件領
得行為は窃盗罪に当たるというべきであるから,原判断は結論において正当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21
条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田
宙靖)

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