弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人小林多計士、同田中久の上告理由について
 同一不動産を目的とする後順位仮登記担保権者は、先順位仮登記担保権者の被担
保債権を弁済するにつき、民法五〇〇条にいう「正当ノ利益」を有する者にあたる
と解するのが相当である。したがつて、先順位仮登記担保権者が債務者の履行遅滞
により代物弁済予約完結の意思表示をし、又は停止条件が成就したのちにおいても、
その換価処分がされるまでは、後順位仮登記担保権者は、債務の全額(換価に要し
た相当費用額を含む。)を弁済して、先順位仮登記担保権者に当然に代位し、債務
者に対する求償権の範囲内において、先順位仮登記担保権者の有する債権及びその
担保の一切を取得することができる。そして、後順位仮登記担保権者が先順位仮登
記担保権者に対する右代位弁済の効果として先順位仮登記担保権者の有する抵当権
及び仮登記担保権を取得したときは、後順位仮登記担保権者は、先順位仮登記担保
権者に対し、その代位による附記登記を請求することができることはいうまでもな
いが、後順位仮登記担保権者が自己の債権について債務者に履行遅滞があつたこと
により代物弁済予約完結の意思表示をし、又は停止条件が成就したときは、その取
得した目的不動産の処分権の行使による換価手続の一環として、右代位による附記
登記請求権を放棄したうえ、先順位仮登記担保権者に対して抵当権設定登記及び仮
登記の抹消登記手続を請求することもまたできると解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、(一)訴外D
自動車株式会社(以下「D自動車」という。)は、昭和三五年九月三日訴外E産業
株式会社(以下「E産業」という。)との間で「D中古自動車指定販売店契約」を
締結し、右契約上の債権を担保するために、訴外Fから、その所有する本件不動産
について、代物弁済予約形式の仮登記担保権及び根抵当権の設定を受け、同月一四
日その仮登記及び設定登記を経由した。上告人は、昭和四一年二月一五日、D自動
車からE産業に対する右販売店契約上の売掛金債権一四九万〇八三二円及びこれを
被担保債権とする右仮登記担保権、根抵当権の譲渡を受け、その移転の附記登記を
経由した。(二)被上告人は、昭和三六年一二月七日、訴外G工業株式会社(以下「
G工業」という。)との間で継続的手形貸付等の契約を締結し、右契約上の債権を
担保するために、昭和三七年六月一一日Fから本件不動産について代物弁済予約形
式の仮登記担保権、根抵当権及び停止条件付賃借権の設定を受け、翌一二日その登
記を経由した。(三)被上告人は、昭和三九年五月一九日G工業に対する右契約上の
債権のうち九八二万三〇〇〇円の代物弁済として本件不動産を取得する旨の代物弁
済予約完結の意思表示をし、Fに対して仮登記の本登記手続を求める訴訟を提起し
た。(四)上告人は、昭和四一年五月一八日E産業の履行遅滞を理由に代物弁済予約
完結の意思表示をしたが、同日現在の本件不動産の価額は一八〇〇万円であるのに
対して上告人の債権の元本及び遅延損害金の合計は一五八万六五三一円であるにも
かかわらず、上告人は評価清算をしなかつたので、同年六月一八日被上告人は、上
告人に対して上告人のE産業に対する同日までの債権の元本及び遅延損害金の合計
一六三万八七二二円を弁済提供し、上告人がその弁済を受領することが不能の状態
にあつたため、同年七月一二日弁済供託した。(五)被上告人のFに対する前記仮登
記の本登記手続請求訴訟は、被上告人の勝訴に確定し、被上告人は、本件不動産に
つき仮登記の本登記を経由した。以上の事実が認められるというのである。右事実
関係のもとにおいて、上告人の被上告人に対する本件仮登記の本登記手続について
の承諾を求める請求は理由がなく、被上告人の上告人に対する本件根抵当権設定登
記及び仮登記(各移転の附記登記を含む。)の抹消登記手続請求の理由があること
は、前記説示に照らして明らかである。これと結論において同旨の原審の判断は、
正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    吉   田       豊
            裁判官    本   林       讓

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