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主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1)控訴人は,被控訴人に対し,金1123万2105円及びこれに対する平
成15年11月13日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払
え。
(2)被控訴人のその余の請求を棄却する。
2 控訴人の被控訴人に対する申立てを棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを2分し,その1を被控訴人の負担と
し,その余を控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 被控訴人は,控訴人に対し,2894万4505円及びこれに対する平成16年
12月27日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え(民事
訴訟法260条2項の規定に基づく申立て)。
第2 事案の概要
 1 本件の概要
(1)本件は,自己所有の土地を売却し,その売買代金等を資金にして,自宅を
建築した被控訴人が,その取引の相手方であり土地建物の売買・建築工
事の設計施工を業とする株式会社である控訴人に対し,①売買契約の債
務不履行に基づく約定損害金請求(後記3の(1)),②不法行為に基づく損害
賠償,不当利得に基づく利得の返還又は契約に基づく過払代金相当額返
還の請求(後記3の(2)),③土地売買契約に基づく残代金請求(後記3
の(3)),④建築請負契約の付随的債務の債務不履行に基づく損害賠償請
求(後記3の(4)),⑤不法行為に基づく損害賠償請求(後記3の(5)),及び,⑥
土地売買契約に基づく残代金請求(後記3の(6))をする事案の控訴審であ
る。
(2)原審は,上記①ないし⑥を認めた上で,控訴人の主張する消滅時効の抗
弁を一部認めたが,弁済の抗弁については故意又は重大な過失による時
機に後れた防御方法の提出に当たるとしてその主張及び立証を認めなか
った。
(3)控訴人は,原判決を不服として控訴して,原審で提出を認められなかった
主張及び立証を控訴審において再度提出した。
(4)また,控訴人は,民事訴訟法260条2項により,給付物の返還及び損害
賠償を求める申立てをする。
2 証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実
(1)被控訴人は,平成8年6月28日,控訴人に対し,被控訴人所有の別紙物
件目録1記載の土地(以下「本件土地1」という。)を,次の約定で売り渡す
契約をした(以下「契約1」という。甲1)。
ア 売買代金(代金額については争いがある。)の支払時期
(ア) 契約締結時 500万円
(イ) 平成10年4月末日まで 残額
イ 所有権移転登記手続,土地引渡し
 所有権移転登記手続は売買代金全額と引換えにし,土地引渡しは所
有権移転の時期までにする。
ウ 契約違反による解除
(ア) 売主(被控訴人)又は買主(控訴人)において本契約に違反したとき
は,その相手方は,催告の上,本件契約を解除することができる。
(イ) 前項の契約解除に伴う賠償額は,売買代金の20パーセント相当額
とする。
  (2)控訴人は,平成8年9月30日,被控訴人との間で,被控訴人の自宅建物の
建物建築工事を,代金2900万円(消費税抜き),代金支払時期を契約時
に300万円,完成時に残額とする約定で,請け負う契約をした(以下「契約
2」という。甲2)。
  (3)控訴人は,平成9年2月18日,被控訴人に対し,別紙物件目録2,3記載の
各土地(以下,「本件土地2」,「本件土地3」という。)を,売買代金は坪当た
り20万円として計算された611万円(本件土地2につき388万8000円,
本件土地3につき222万2000円)とし,代金支払時期を平成9年11月末
日とする約定で売り渡す契約をした(以下「契約3」という。甲3)。
  (4)控訴人は,平成11年3月1日,被控訴人との間で,被控訴人の自宅敷地の
土地造成工事を代金798万円(消費税込み),代金支払時期を完成後とす
る約定で,請け負う契約をした(以下「契約4」という。甲4)。
(5)被控訴人は,平成11年11月30日,控訴人に対し,被控訴人所有の別紙
物件目録4,5記載の各土地(以下,「本件土地4」,「本件土地5」という。)
を売買代金(代金額については争いがある。)の支払時期を契約時に586
万5000円,移転登記完了までに残額とする約定で売り渡す契約をした
(以下「契約5」という。甲5)。
(6)控訴人は,平成11年ころ,本件土地2を被控訴人から代金388万8000
円,支払時期を移転登記完了時までとする約定で買い戻す契約をした(以
下「契約6」という。甲6)。
3 争点及びこれに対する当事者の主張
(1)約定損害金請求権の存否
(被控訴人の主張)
ア 本件土地1に関する契約1の売買代金額は坪当たり12万円で計算さ
れた4817万8181円(契約書(甲1)に代金として3974万7000円とあ
るのは誤記である。)であり,控訴人は,代金の全額を支払わない限り土
地の引渡しがされず,また所有権移転登記手続ができないにもかかわら
ず,代金未払のうちに本件土地1を分筆して,被控訴人からA,B及び控
訴人名義にそれぞれ所有権移転登記手続を完了させ,占有も移転させ
た。
イ 控訴人が契約1の代金未払のうちに引渡し及び所有権移転登記手続を
したことは債務不履行に当たる。すなわち,契約1は,引渡し及び所有権
移転登記を代金全額の支払と引き換えとしていること(甲1の6条,7条)
の反面解釈及び信義則上,買主は代金全額支払までは対象となる不動
産の引渡しも所有権移転登記手続もしてはならないという義務が発生し
ているから,控訴人が代金未払のうちに引渡し及び所有権移転登記手
続をしたことは債務不履行となる。
  よって,被控訴人は,控訴人に対し,上記の契約1の約定に基づき,売
買代金(だたし,契約書上の金額の範囲とする。)の20パーセントに該当
する約定損害金794万9400円及びこれに対する訴状送達の日の翌日
である平成15年11月13日から支払済みまで商事法定利率年6分の割
合による遅延損害金の支払を求める。
ウ 控訴人は,下記のとおり,契約1を解除せずに約定損害金の請求をす
ることは主張自体失当であると主張するが,上記2の(1)ウ(イ)の条項は
文言上は解除に伴う損害賠償の予定額を規定しているものの,同(ア)の
条項は民法に定められた債務不履行の場合の催告解除を規定した当然
の規定であることから,同(イ)の条項の意味は,実際の損害額の算定を
巡る争いを避けるために,現に生じた損害の証明をしなくとも一定の損
害賠償金額を請求できるように,債務不履行の損害賠償の予定額を合
意したところにある。そして,債務不履行の場合には,解除して損害賠償
請求することも,解除せず損害賠償請求することもできるのであり,解除
をしなければ損害賠償請求ができないわけではないから,被控訴人は解
除をすることなく上記2の(1)ウ(イ)の条項に基づく損害賠償をすることが
できる(最高裁判決昭和63年11月25日判例時報1301号95頁参
照)。なお,本件においては,解除しても既に契約目的の不動産は第三
者に売買されて被控訴人に戻ることはないから,解除してもしなくても損
害賠償請求の金額に差異はない。
(控訴人の主張)
ア 契約1の売買代金額は坪当たり9万9000円で計算された3974万70
00円であり,契約書(甲1)に記載されたとおりである。また,土地の売買
契約において,買主側が代金を支払わないうちに占有移転及び所有権
移転登記手続をしたことは,買主の債務不履行とはならない。占有移転
及び所有権移転登記手続は売主の債務であり,買主の債務ではない。
仮に買主が勝手にそのような行為をしたとしても,それは不法行為の問
題であって債務不履行ではない。したがって,被控訴人の上記の主張は
それ自体失当である。
イ 上記2の(1)ウ(イ)の条項に基づく約定損害賠償請求は,契約の解除を
前提とするものであるが,被控訴人は契約1を解除していないから,その
前提を欠いており,主張自体失当である。
 被控訴人が引用する最高裁判決は,本件とは事案を異にし,ただちに
は妥当しない。仮にその論理によるとしても,損害発生事実の主張・立証
は必要となるはずであるがそれはなされていない。被控訴人は,契約目
的の不動産が第三者に売買されて被控訴人に戻ることはないというが,
そのことが直ちに控訴人に債務不履行責任としての損害発生事実の主
張をしたことにはならない。
ウ 本件土地1の分筆登記をしたのは被控訴人自身である。
(2)不法行為等に基づく損害賠償金請求権の存否(1)
(被控訴人の主張)
ア 控訴人は,本件土地1に関する契約1を締結する際,本件土地2,3を
通路部分として被控訴人が控訴人のために取得する義務があり,かつ,
被控訴人が建築を予定する自宅の出入りにも必要であるかのように被
控訴人を欺罔して,被控訴人に対し,通路にしかならず本来ならば最高
価格でも契約1の土地代金額と同じ坪当たり12万円が相当である本件
土地2,3(本件土地3につき133万5200円)を坪当たり20万円で計算
された611万円(本件土地2につき388万8000円,本件土地3につき2
22万2000円。)で買い受けさせる契約3を締結した。
イ 控訴人は,契約3について不正があったことを認め,本件土地2を被控
訴人から契約3と同価格(388万8000円)で買い戻すために契約6を締
結した。
ウ 本件土地3も本来なら最高価格でも契約1の土地代金と同じ坪当たり1
2万円(133万5200円)が相当であるから,それを坪当たり20万円(2
22万2000円)という不当な高額で契約させたことにより,被控訴人は8
9万円を下らない損害を受けた。
エ よって,被控訴人は,控訴人に対して,不法行為に基づき損害賠償金8
9万円及びこれに対する不法行為の後である平成15年11月13日から
支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求
める。
オ また,上記89万円は控訴人の不当利得であるから,被控訴人は,不
当利得に基づく返還請求権としても主張する。さらに,契約3の契約内容
は最高額でも坪当たり12万円で計算した133万5200円が本来であ
り,それを坪当たり20万円で計算した222万2000円で契約書を作成さ
せられたことにより過払金89万円が生じたものであるから,契約3に基
づく過払金返還請求権としても主張する。
(控訴人の主張)
ア 被控訴人に契約3に基づく代金支払の事実がなければ,被控訴人の損
害の発生はないことになるところ,被控訴人は代金支払の事実を主張し
ておらず,主張自体失当である。
イ 坪当たり20万円とする代金額で売買契約が成立しているから,法律上
の原因に欠けるところはなく,また,控訴人に差額を返還する義務もな
い。
(3)未払代金請求権の存否(1)
(被控訴人の主張)
ア 控訴人は,本件土地1に関する契約1について,本来坪当たり12万円
の売買であるべきところ,契約書(甲1)では坪当たり9万9000円で計算
されているという坪単価の違いを認め,その差額を支払う修正をするた
め,本件土地4,5に関する契約5を締結した。なお,契約1の締結当時
は道路部分となる本件土地4,5は無償提供という約束だったが,価格
修正のために同各土地につき被控訴人から控訴人に対する売買の形式
を取ることになったものである。
イ 契約1は本来売買代金が4817万8181円であるべきところが契約書
に843万1181円少ない3974万7000円と記載されていたものであっ
て,その差額843万1181円を修正するために契約5が締結されたもの
であるから,契約5の売買代金は843万1181円である(なお,契約書
(甲5)には誤って724万8940円と記載された。)。
ウ よって,被控訴人は,控訴人に対して,契約5の代金のうちその代金額
843万1181円から契約書上の代金額724万8940円を差し引いた11
8万2241円及びこれに対する弁済期の後である平成15年11月13日
から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払
を求める(なお,上記除かれた契約書上の代金額724万8940円につい
ては後記(6)の契約5において請求する。)。
(控訴人の主張)
 被控訴人の主張自体不分明である。
(4)債務不履行による損害賠償請求権の存否
(被控訴人の主張)
ア 控訴人は,被控訴人の自宅建物に関する契約2に基づき,その建物の
配管,配線に関する図面を被控訴人に交付していない。
イ 被控訴人は,控訴人にこれらの図面の交付を再三にわたり求めたが,
控訴人はこれに応じない。
ウ よって,被控訴人は,控訴人に対して,契約2の付随的債務の債務不
履行に基づく損害賠償金として50万円(新たに建物や敷地の配線・配管
を調査して図面を作成することを別業者に依頼した場合に,最低限度必
要と思われる額。)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成1
5年11月13日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅
延損害金の支払を求める。
(控訴人の主張)
 被控訴人の主張を争う。被控訴人は図面の引渡しを求めていない。
(5)不法行為に基づく損害賠償請求権の存否(2)
(被控訴人の主張)
 被控訴人は,上記の各契約を含む別紙不法行為の一覧(但し,「原告」と
あるのを「被控訴人」と,「被告」とあるのを「控訴人」と,それぞれ読みかえ
る。)に記載の一連の不正,及び,宅地建物取引業者でもある控訴人が,
被控訴人に対して,これまで上記の契約関係についての清算内容を説明し
ようとしない不誠実な対応(調停及び本件訴訟における対応を含む。)によ
り精神的苦痛を受けたので,その慰謝料として300万円及びこれに対する
不法行為の後である平成15年11月13日から支払済みまで商事法定利
率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(控訴人の主張)
 被控訴人の主張を争う。
(6)未払代金等請求権の存否(2)
(被控訴人の主張)
ア 本件土地1に関する契約1(なお,請求する売買代金額は契約書上の3
974万7000円の範囲とする。),本件土地4,5に関する契約5(なお,
請求する売買代金額は契約書上の724万8940円の範囲とする。)及
び本件土地2に関する契約6(売買代金額は388万8000円である。)に
基づく控訴人の被控訴人に対する未払代金の合計は5088万3940円
である。控訴人は,このうち,平成8年9月11日に500万円,平成10年
4月11日に731万円及び平成10年7月から平成11年2月にかけて合
計218万1100円(以上合計1449万1100円)を支払ったから,控訴
人の未払代金額は3639万2840円となる。
イ 被控訴人の自宅建物に関する契約2(請負代金額は消費税込みで29
87万円である。),本件土地2,3に関する契約3(売買代金額は611万
円である。)及び被控訴人の自宅敷地の土地造成工事に関する契約4
(請負代金額は消費税込みで798万円である。)に基づく被控訴人の未
払代金の合計は4396万円である。被控訴人は,このうち,平成8年9月
30日に300万円,平成11年7月1日に999万9265円及び平成11年
10月22日に580万円(以上合計1879万9265円)を支払ったから,被
控訴人の未払代金額は2516万0735円となる。
ウ 被控訴人は,平成16年6月1日到達の本件訴えの変更の申立書をも
って上記アとイの各未払代金を対当額で相殺する旨の意思表示をした。
エ よって,被控訴人は,控訴人に対して,上記アの被控訴人の控訴人に
対する未払代金債権3639万2840円から,上記イの控訴人の被控訴
人に対する未払代金債権2516万0735円を控除した1123万2105円
及びこれに対する弁済期の後である平成15年11月13日から支払済み
まで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(控訴人の主張)
ア 被控訴人がいかなる法的根拠に基づいて請求するのか不明である。
イ 控訴人が,平成8年9月11日,被控訴人に500万円を払ったこと,及
び,被控訴人が,平成8年9月30日,控訴人に300万円を支払ったこと
を認める。
(7)請求原因のまとめ
(被控訴人の主張)
  したがって,被控訴人は,控訴人に対して,上記(1)ないし(6)の合計2475
万3746円及びこれに対する平成15年11月13日から支払済みまで商事
法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。
(控訴人の主張)
  被控訴人の主張を争う。
(8)消滅時効の抗弁の成否
(控訴人の主張)
ア 仮に被控訴人の主張する上記(5)の不法行為の事実があったとしても,
それに基づく損害賠償請求権は遅くとも平成15年1月末日には消滅時
効が完成している。その他,被控訴人の主張のうち上記(2)の不法行為に
よる損害賠償請求に関するものについても,同様に,消滅時効が完成し
ている。
イ 控訴人は,平成16年5月20日到達の準備書面をもって上記の各消滅
時効の援用の意思表示をした。
(被控訴人の主張)
ア 消滅時効の完成を争う。控訴人は宅地建物取引業者であって誠実に
不動産売買契約を遂行すべき立場にあり,被控訴人は不動産取引に疎
い老人であることからしても,不法行為をして,何度修正を求めても応じ
ようとしなかった控訴人が時効の援用をすることは信義則上許されず,
また,権利の濫用である。
イ 被控訴人が契約1ないし6の不正による損害及び加害者を知ったの
は,被控訴人代理人弁護士が,平成15年4月10日に不動産登記簿謄
本を取り寄せた結果,契約1の土地が代金未払のうちに分筆されて他人
に売却されていること,控訴人が宅地建物取引業者でありながら違法に
契約3の他人物売買をしていることを被控訴人に指摘し,また,平成10
年の被控訴人の確定申告が虚偽の内容でなされていることを指摘したと
きである。
(9)控訴人の新たな防御方法提出の可否
(控訴人の主張)
ア 控訴人が原審において平成16年9月7日以降に提出した主張及び立
証(弁済の抗弁)は,時機に後れた防御方法ではない。控訴人に故意又
は重大な過失はなく,訴訟を遅延させるものでもない。したがって,これら
を却下した原判決は法令の解釈適用を誤った違法がある。
イ 被控訴人の主張は,請求の原因自体が特定しておらず,その意味で主
張自体失当であった。そのため,控訴人は,被控訴人の主張上の問題
点を整理して示し,被控訴人に是正を求めると共に,原審裁判所に対し
てしかるべき訴訟指揮を求めた。しかし,原審裁判所は何らの主張整理
を促すことなく,一方的に控訴人に対し,無意味かつ不当な釈明を求め,
これを釈明命令という形式で強制した。
  控訴人としては,被控訴人の請求は金銭請求であることしか理解できな
かった。被控訴人は6件の契約関係を主張するものの,それらの相互の
法律関係及び請求の趣旨との法律関係は不明なままであった。しかも,
債務不履行責任を求めるのか,不法行為責任を求めるのかもあいまい
な部分があった。
  控訴人の提出した乙号証のうち,特に乙3ないし6,乙11,乙12号証の
2は控訴人が被控訴人に対し金銭の支払をしたことに対する被控訴人
作成の領収証である。これらの提出については,被控訴人の主張,請求
原因が定まらなければ,立証趣旨が定まらず,安易に提出できるもので
はない。もし,被控訴人の請求が個別的契約関係についての債務不履
行の主張であるとすれば,それぞれの特定された契約についての弁済
の抗弁の証拠として提出することになる。しかし,そもそもそれ以前に主
張自体が失当とされればあえて提出する必要性すらない。また,契約の
無効,取消若しくは解除が問題となれば,これを争った上で,仮定的に支
払済代金の返還を求めることになるが,これが原状回復の請求となるの
か,予備的相殺の抗弁の問題となるのかは,被控訴人の主張・立証の
構成,内容いかんによって変わってくることがらである。
したがって,被控訴人の法的主張が整理されない以上,反論としての
主張をする余地はなく,そのような状況下で漫然と証拠を提出することは
考えられなかった。
それにもかかわらず,控訴人が平成16年10月1日以降に主張,立証
をしたのは,原審裁判所にあるべき訴訟指揮を求めることを止め,将来
の控訴審の審理に備え,できるだけ早期に裁判所の目に触れる機会を
提示しておくべきと判断したからである。
原審裁判所は,被控訴人の主張に対してしかるべき釈明権を行使す
べきであったのであり,釈明権不行使の違法がある。自らその違法を犯
しながら,控訴人が防御のための主張・証拠を提出しなかったことを時機
に後れたとするのは論理的に矛盾している。主張・証拠を提出させなか
ったのは原審裁判所自身と評価できる。
ウ 民事訴訟法157条が適用されるためには,これにより訴訟の完結を遅
延させることとなると認められることが必要である。しかし,控訴人が提
出した上記の書証は即時取調可能である上,控訴人代表者本人の尋問
も出頭は確実であるし,陳述書も提出しており,尋問事項も明示している
のであるから,何ら訴訟を遅延させるものではない。控訴人は,重要な
証拠調である人証調の期日(平成16年10月21日)の前に相当な期間
をおいて主張,立証を提出している。また,申請証拠を全部却下すべき
ではない。それぞれの主張ないし証拠の内容に照らし判断すべきであ
る。
(被控訴人の主張)
ア 控訴人は,被控訴人の再三にわたる求釈明(控訴人と被控訴人との間
の各取引に伴う代金支払の清算等に関する事項を内容とするもの)にも
応じず,裁判所の平成16年4月28日付け及び同年7月28日付けの各
釈明命令にも応じないものであるので,以後,控訴人による不当な訴訟
を遅延させないために,控訴人からの新たな主張,立証は一切許される
べきではない。
イ 控訴人は,被控訴人の主張が不明確であるので釈明に応じる必要がな
かった旨を主張するが,訴状の請求の原因において,未払代金の支払
請求,債務不履行による損害賠償請求及び不法行為に基づく損害賠償
請求であることは明記されており,控訴人が釈明命令に応じる必要もな
いほど不明確な主張ではない。また,被控訴人は,平成16年5月31日
付け準備書面,同日付け訴え変更の申立書等により主張を補充して,よ
り明確に法的主張をしてきた。そして,平成16年6月8日付け準備書面
では,原審裁判所に対し,被控訴人の主張に不明確な点があれば求釈
明されたい旨を申し出たが,原審裁判所は被控訴人の主張に不明確な
点がないと判断して求釈明をしなかった。したがって,被控訴人の主張
が不明確なため求釈明に応じる必要がないとの控訴人の主張は認めら
れない。
ウ 控訴人が新たに主張,立証しようとする事項は,これまでに容易に主張
し証拠の提出ができたものばかりである上,被控訴人が控訴人に対して
控訴人・被控訴人間の契約書及びこれに関する領収書等の文書送付嘱
託を申し立てた際には,控訴人は必要性なしとしてその送付を拒絶した
ものであり,後日都合のいい証拠のみを提出することは信義則上許され
ない。さらに,その提出しようとする領収書類は,裏付けとなる金員の交
付関係を明らかにする書類が何ら提出されておらず,被控訴人としては
これらの証拠が採用された場合にはその存在及び裏付けについて争う
こととなり,争点整理を始めからやり直すこととなって,訴訟の完結を明
らかに著しく遅延させることになる。
(10)違法不当な訴訟手続
(控訴人の主張)
ア 原審裁判所は,裁判官が代わったにもかかわらず,平成16年10月21
日の第4回口頭弁論期日において弁論更新手続を行わず(民事訴訟法
249条違反),また,弁論準備手続に付しておきながらその目的たる争
点及び証拠の整理を全く行わず(同法168条違反),かつ,弁論準備手
続の結果陳述手続を行わなかった(同法173条違反)。そうであるのに,
これらをしたことにして不実の口頭弁論調書を作成したものであって重大
な違法がある。
イ 原審裁判所は,被控訴人の主張事実につき不分明の点が多数あるに
もかかわらず,全く釈明権を行使しないまま判決において根拠もなく事案
の概要及び被控訴人の主張を整理したものであって,その違法性は甚
だしい。
(11)原状回復等の給付申立て
(控訴人の主張)
ア 給付物の返還請求
(ア) 被控訴人は,平成16年12月20日,仮執行宣言付きの原判決に
基づき,控訴人の業務請負先2者(岐阜県及び中津川市)及び取引先
金融機関1社(C銀行中津川支店)を第三債務者とする債権差押命令
の申立てをし,同月21日ころ,第三債務者らに同命令が送達された。
(イ) 控訴人は,同月22日,被控訴人に対し,原判決主文第1項記載の
債務全額に相当する金額(同月27日までの遅延損害金を含む2394
万4505円)を同月27日をもって仮に支払う旨の通知をしたが,被控
訴人は,和解をしないのであれば仮の支払は受領しないとして受領を
拒否した。
(ウ) そこで,控訴人は,同月27日,同額を弁済供託した。
(エ) よって,民事訴訟法260条2項に基づき,被控訴人に対して,上記
の金額及びこれに対する遅延損害金の支払を求める。
イ 損害賠償請求
(ア) 被控訴人は,自ら債権差押命令を申し立てておきながら,控訴人の
任意の支払については受領を拒んだ。これは,被控訴人の債権差押
命令の申立てが,控訴人に対する嫌がらせのためのみの目的でなさ
れたことを示している。控訴人は,この債権差押命令申立てにより,自
己の業務請負先及び取引先金融機関に対し支払能力について不安
を与えたばかりでなく,銀行取引約定に基づく期限の利益喪失事由に
該当する事実を発生させられ,経済的信用失墜を受けた。
(イ) 上記による控訴人の損害(債権者ないし取引先に対する経済的信
用の失墜による損害及び会社としての将来の経営上の不安による損
害)は低く見積もっても500万円を下らない。
(ウ) よって,民事訴訟法260条2項に基づき,損害の賠償を求める。
  (被控訴人の主張)
ア 給付物の返還請求
 供託は,民事訴訟法260条2項にいう給付に含まれない。同項は,判
決の変更の場合,給付を受けたものを返還することを定めているが,被
控訴人は供託により給付を受けておらず,返還する給付物がない。ま
た,被控訴人には,判決確定までは,原判決により認められた金額を受
領する義務はないから,受領を拒絶したことにより利息を含めて返還義
務が発生するとするならば不当な結果となる。
イ 損害賠償請求
 勝訴者が敗訴者から全く任意弁済の提案がない場合に,仮執行宣言
付き判決をもって債権執行をすることは当然の権利行使であり,敗訴者
も覚悟すべきことであって,債権差押は違法ではない。控訴人は,被控
訴人が嫌がらせとして債権執行をしたと主張するが,そもそも被控訴人
が債権執行するまで一度も控訴人から任意弁済の提案はなく,被控訴
人はやむなく権利確保のために債権執行をした。
 しかも,控訴人による供託の事実を確認後,被控訴人は直ちに債権差
押を取り下げている。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)約定損害金請求権の存否について
(1)被控訴人は,本件土地1に関わる契約1について,売買代金全額の支払
と土地の引渡し及び所有権移転登記手続とが同時履行となっているにもか
かわらず,引渡し及び所有権移転登記手続が先に行われたことをもって,
買主である控訴人に売買契約上,または,信義則上の義務違反による債
務不履行があるから,上記の特約に基づき損害賠償を請求すると主張す
る。
  しかし,双務契約における同時履行の抗弁とは,当事者間の公平の原則
から,当事者の一方が,相手方がその債務の履行を提供するまでは自己
の債務の履行を拒むことができるというに留まるのであり(民法533条),
一方当事者が同時履行の抗弁を行使することなく自己の債務を先履行し
た場合に,履行の提供をしていない当事者に反対債務の受領を禁じるもの
ではないから,買主である控訴人が代金未払のうちに引渡し及び移転登記
を受けたというそのことのみをもって信義則違反ということはできない。そし
て,控訴人と被控訴人間の契約1において,引渡し及び所有権移転登記手
続の時期を代金全額の支払と引換としたことが,それ自体から,当事者双
方に上記の双務契約における同時履行の抗弁を与える以上に,当事者双
方に,同時履行でなければ反対債務の受領をしてはならないとの義務を定
めた趣旨であるとは解することができず,他にこれを認めるべき的確な事
情はない。
(2)したがって,被控訴人が主張する債務不履行は認めることができず,その
余について判断するまでもなく,被控訴人が主張する約定損害金請求は理
由がない。
2 争点(2)不法行為等に基づく損害賠償金請求権の存否(1)について
(1)被控訴人は,本件土地2,3に関わる契約3の代金額について,最高価格
でも坪当たり12万円が相当と主張し,被控訴人の陳述書(甲26)には,
「私が売った土地1が坪12万円(契約書では坪9万9000円)に対し,通路
としての価値しかない土地2,3が坪20万円となるのは,あまりに不当」と
述べる部分がある。しかし,証拠(甲7,14の①,②,26)によれば,本件
土地1は地目が田であるのに対して,本件土地2,3は地目が宅地であり,
本件土地2,3は,契約3の締結時に現に公衆用道路として使用されていた
ものではなく,契約3により被控訴人が取得した後に控訴人に提供して道
路用地とする目的で契約したというのであるから,本件土地2,3が本件土
地1と同程度あるいはそれ以下の価格で取り引きされることが相当であると
は認めることができず,他に,本件土地2,3について契約3で定められた
価格が不相当であることを認めるに足る証拠はない。
(2)したがって,その余について判断するまでもなく,契約3についての被控訴
人の過払金返還請求は理由がない。  
3 争点(3)未払代金請求権の存否(1)について
(1)被控訴人は,本件土地4,5に関わる契約5の売買代金は843万1181
円が正しい,すなわち,契約1は本来坪当たり12万円で計算された4817
万8181円の売買であったところ,契約書(甲1)には坪当たり9万9000円
で計算された3974万7000円が記載されるという誤りがあったことから,
当初無償で提供するはずだった本件土地4,5を契約1の差額である843
万1181円で売却することとなったと主張する。そして,被控訴人の陳述書
(甲26)には,控訴人の担当者との間で本件土地1は坪当たり12万円で合
意していた,控訴人の代表者も,平成11年8月ころ,本件土地1は坪当た
り12万円で契約したものであることを認めてくれたが,既に本件土地1は
第三者に売却されており会社の決算も済んでいるので契約締結をやり直す
ことはできないとして,その調整として,被控訴人が無償で提供することとな
っていた道路用地をその差額分で購入するという形で調整するから許して
欲しいと言ったので,被控訴人はこれに応じたとの記載がある。そして,証
拠(甲1,5)によれば,被控訴人と控訴人との間で平成8年6月18日に締
結された契約1の契約書(甲1)では,同契約の特約で,売主(被控訴人)が
買主(控訴人)に道路用地を提供するとなっていたものが,平成11年11月
30日に締結された契約5の契約書(甲5)では,特記事項として,本件土地
4,5について,「上記土地は道路として提供する。」との記載があることか
ら,道路用地を控訴人が被控訴人から有償で取得したものと認めることが
できる。
(2)しかし,被控訴人の上記の陳述書によれば,道路用地が契約5で有償で
取引された経過について,被控訴人自身は契約1の締結時に道路部分の
土地の無償提供を了解した記憶がなく,契約書(甲1)の当該特約部分は
自分が署名押印した当時は書いてなかった記憶であるとして不満を述べて
いることが認められるのであるから,同人が無償で提供する義務のあった
本件土地4,5を契約1の差額相当分で売買する形にするとの控訴人代表
者の説明に応じたとの説明は直ちに信用することはできない。また,証人D
の供述によれば,契約1の差額相当分で本件土地4,5の売買を意図した
とする契約5の締結を控訴人と交渉したのは同人であるところ,当初の契
約1で合意額と契約書記載額とに相違があったことを発端として新たに契
約5を締結させたとの経緯でありながら,契約5の合意金額と契約書記載
額の相違を確認していないというのであって不自然であり,その説明する
経緯も直ちに信用することができない。そして,他に契約1が契約書の記載
と異なり本来坪当たり12万円で契約されたものであり,これを修正するた
めに契約5の売買代金が843万1181円と合意されたという被控訴人の供
述を裏付けるに足る的確な証拠はない。
(3)したがって,契約5の未払代金として118万2241円及びその遅延損害金
の支払を求める被控訴人の請求は理由がない。
4 争点(4)債務不履行による損害賠償請求権の存否について
(1)被控訴人は,被控訴人の自宅建物の建築請負契約である契約2の付随
的債務として,控訴人に,建物の配管,配線に関する図面を被控訴人に交
付する義務があると主張する。そして,証拠(甲21)によれば,控訴人は,
被控訴人に対して,契約2に基づき,案内図・配置図,面積表,1階平面
図,2階平面図,立面図,かなばかり図の合計6枚の図面を交付しているこ
とが認められるところ,これ以外に建物の配管,配線に関する図面を交付
する義務が建築請負契約から当然に生ずるものとは認められず,他に,控
訴人に被控訴人が指摘する図面を交付する義務があったことを認めるに
足る証拠はない。
(2)したがって,図面交付による債務不履行に基づく損害賠償を求める被控
訴人の請求は理由がない。
5争点(5)不法行為に基づく損害賠償請求権の存否(2)について
(1)被控訴人は,控訴人には一連の契約等に不正があったと主張し,被控訴
人の上記の陳述書及び同人の供述,証人Dの供述には,これに沿う部分
があることが認められる。しかし,上記3の(2)のとおり,被控訴人が主張する
控訴人の一連の不正の発端である契約1の代金額についてはこれを認め
るに足る証拠がないのであり,その余の点についても,被控訴人らの供述
を裏付けるに足る的確な証拠はない。
(2)したがって,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の一連の不
法行為に基づく損害賠償を求める被控訴人の請求は理由がない。
6 争点(6)未払代金等請求権の存否(2)について
(1)証拠(甲1,5,6,12,13,14の①)によれば,契約1(売買代金3974万
7000円),契約5(売買代金724万8940円)及び契約6(売買代金388
万8000円)により控訴人が被控訴人に支払うべき売買代金合計が5088
万3940円となること,本件土地4,5及び2について被控訴人から控訴人
へ所有権移転登記が終了していることを認めることができる。そして,上記
第2の2(1),(5)及び(6)のとおり契約1,契約5及び契約6の売買代金支払時
期は遅くとも所有権移転登記時とされていることからすると,上記の売買代
金はいずれも履行期が到来していることが明らかである。
(2)被控訴人は,このうち1449万1100円の支払を受けたことを自認し,ま
た,このうち2516万0735円については自己の控訴人に対する債務と相
殺したとして消滅したことを自認するから,控訴人の未払残代金は1123万
2105円となる。
7 争点(9)控訴人の新たな防御方法提出の可否ついて
(1)弁論の全趣旨により認められる本件訴訟前の当事者間の交渉の経緯及
び原審の審理経過は,以下のとおりである。
ア 被控訴人は,本件訴えの提起前である平成15年4月18日ころ,控訴
人に,両者間の取引に伴う清算関係について尋ねる文書を送付した。こ
れに対して,控訴人は,同年4月28日ころ,代金関係などの清算はすべ
て完了していると回答した。これに納得しなかった被控訴人は,控訴人を
相手方として民事調停を申し立てたが,控訴人は,全て解決,終了済み
と理解しており,調停に応ずる意思はないとの答弁書を提出して期日に
出席しなかったために調停手続は終了した。そこで,被控訴人は,本件
訴えを提起し,原審の審理当初から,控訴人に対して,お互いの金銭授
受関係がすべて清算済みというのであれば,その内容を明確にせよとの
求釈明を繰り返した(被控訴人の平成16年1月21日付け準備書面,同
年2月24日付け準備書面,同年3月23日付け準備書面他)。しかし,控
訴人は,これに応じなかった。
イ 原審裁判所は,弁論準備手続中である平成16年4月28日,控訴人に
対して,期限を同年5月28日として以下の釈明を命じた。
① 被控訴人主張の各契約についてその存否及び内容に関する控訴人
の主張を明らかにし,存在を認めるものについては,締結の時期,関
係者,内容について具体的主張をなすこと。
② 控訴人主張の清算関係について
Ⅰ 主張の清算関係の内容を明確にし,その時期,当事者,具体的内
容を特定すること。
Ⅱ 特に双方及び関係者間で授受された金員があればその額,授受
の時期,趣旨を明確にすること。
③ 上記①,②に関し,契約及び清算関係の存在,内容に関する書証が
あれば全て提出すること。但し,既に甲号証として提出済みのもの及
び手元にないものを除く。
④ 各契約ないし契約書及び清算関係についてその関連性の有無に関
する控訴人の主張を明らかにし,関連があると主張する範囲でその内
容を明示すること。
ウ 控訴人は,同年5月7日,原審裁判所に対して,釈明権の行使は,あく
までも,事案の真相究明や迅速かつ適正な紛争解決を図るために,必
要な範囲で公平になされるべきであって,当事者や裁判所による証拠漁
りに亘ってはならないから,釈明権を行使する場合には必要性と相当性
とを備えていなければならず,その対象となる事項(求釈明事項)は,個
別具体的でなければならないとした上で,上記求釈明①について,必要
と認める限度において既に主張している,裁判所は,被控訴人主張のど
のような要件事実に対する控訴人のいかなる主張が不明瞭,不完全,
矛盾しているというのかを明らかにされたいと回答し,同②及び③につい
て,そもそも控訴人は清算関係の主張は全くしていないと回答し,同④に
ついて,被控訴人主張のどの要件事実ないし立証若しくは控訴人主張
のどのことがらに関するものをいうのか理解できないと回答した。
エ 原審裁判所は,同年5月11日に,再度,控訴人に対して,上記の釈明
命令に応じるよう促し,同時に,代金関係等の清算については,控訴人
訴訟代理人自身が,平成15年4月28日付けで清算はすべて完了して
いる旨の書面を被控訴人訴訟代理人に送付した上,同書面を平成16年
1月19日付け準備書面に添付して主張を行っていること,被控訴人訴訟
代理人からの,控訴人がすべて清算済みというのであれば早急にその
清算関係とそれを裏付ける資料を提出されたい旨の主張に対して控訴
人が積極的な反論をしていないことを指摘した。
  これに対して,控訴人は,上記釈明命令は弁論主義に反し,立証責任
の分配の原則に違背し,訴訟の複雑化,遅延を招く不適法にして不当な
ものであるとして異議を申立て,また,上記釈明命令の取り消しを求め,
釈明には応じなかった。原審裁判所は,平成16年6月8日の第2回弁論
準備手続においても,控訴人に対して上記釈明命令への応答を求めた
が,控訴人は,請求原因との関連性が分からない,必要性について理解
できないとして釈明をしなかった。
  被控訴人は,同年5月31日に,控訴人に対して,被控訴人が控訴人宛
てに作成した領収書等の提出を求める文書送付嘱託を申立て,原審裁
判所が同年6月15日にこれを採用したが,控訴人は,同年7月2日に,
応じる理由も必要もないと思料するとして,送付しない旨の回答をした。
被控訴人は,控訴人が送付嘱託に応じないのであれば,今後文書送付
嘱託で提出を求められた書面を自分に有利な証拠として提出することは
信義則上許されず,また,時機に後れた防御方法となると主張した上
で,今後争点整理を続行することは困難であるので,早急に人証調をさ
れたいと主張した。
オ 控訴人は,同年6月7日,上記釈明命令の取消を求めて名古屋高等裁
判所に抗告を申し立てたが,同年7月20日に抗告は却下された。(な
お,控訴人は,同月23日,特別抗告及び許可抗告の申立てをしたが,
許可抗告については,同年9月8日に名古屋高等裁判所が許可しない
旨の決定をした。特別抗告については,同年10月20日に最高裁判所
が棄却した。)
カ 原審裁判所は,同年7月28日,控訴人に対して,上記釈明命令と同一
内容の釈明を,期限を同年8月31日として再度命じた。これに対して,
控訴人は,裁判所において,まず被控訴人主張にかかる事実及び法的
根拠につき争点整理されたいと意見を述べ,釈明を行わなかった。
  同年9月7日に行われた第4回弁論準備手続期日において,控訴人
は,人証の採用は本件の争点が明確になっていないために異議がある
と述べたが,原審裁判所は,同日,弁論準備手続を終結して,人証(被
控訴人本人及び証人1名)を採用し,次回期日(同年10月21日)にこれ
を取り調べることとした。
キ 控訴人は,弁論準備手続終結後である同年10月1日から18日までの
間に,弁済の抗弁を主張する準備書面を裁判所に提出し,書証として乙
1号証ないし14号証を提出し,控訴人代表者本人尋問の申請書を提出
したが,被控訴人は,上記の準備書面及び証拠の提出は時機に後れた
防御方法の提出であり,これらを採用することは訴訟の完結を遅延させ
るとして却下を求めた。
ク 被控訴人は,同年5月11日までに,訴状,準備書面(同年1月21日付
け,2月4日付け,2月24日付け,3月23日付け)を提出し,更に同年7
月28日までの間に,準備書面(同年5月17日付け,5月31日付け,6月
8日付け,6月9日付け,7月8日付け)のほか,同年5月31日付けの訴
えの変更の申立書を提出している。これらの準備書面及び訴えの変更
申立書により被控訴人が主張する内容は,上記第2の3(1)ないし(7)の各
争点の被控訴人の主張欄に記載のとおりである。
被控訴人は,その後,原審で,同年9月18日付け及び10月15日付
け準備書面を提出しているが,同年9月18日付け準備書面は,同年5
月31日付け準備書面の控訴人の消滅時効援用の抗弁に対して,「慰謝
料300万円以外は不法行為に基づく請求ではない」と記載したものを,
「慰謝料300万円及び契約3以外は不法行為に基づく請求ではない」と
訂正したに過ぎず,新たな主張をしたものではない。また,同年10月15
日付け準備書面は,控訴人が同年10月1日以降に提出した新たな主
張,立証について,時機に後れた防御方法であって却下すべきであると
の意見を記載したものである。
ケ 原審裁判所は,同年10月21日の第4回口頭弁論期日において,控訴
人が同年10月1日以降に提出した新たな主張,立証をすべて制限して,
弁論準備手続終結時に予定された人証(被控訴人本人及び証人D)の
みを取り調べて,同日弁論を終結した。
(2)以上の経過に照らすと,控訴人は,被控訴人から,主として被控訴人との
間の取引の清算関係についての反論の主張及び立証を求められ,原審裁
判所からも清算関係についての主張立証をせよと2回に亘って釈明命令を
受け,更に,被控訴人から領収書等の文書送付嘱託の申立てがなされた
のに対しても応答しなかったにもかかわらず,2回目の釈明命令の期限で
ある同年8月31日を1か月以上経過した弁論準備手続終結後に,新たに
弁済の主張及び立証を提出しようとしたものであり,かつ,その提出しよう
とする内容は,弁済の抗弁及びこれを裏付ける領収書であって,上記の本
件訴訟前の対応からすると,控訴人がその主張及び立証の提出を早期に
行うことが不可能あるいは著しく困難であるとは考えられないものであるか
ら,時機に後れた主張及び立証ということができる。
  控訴人は,時機に後れた主張,立証とはいえない理由として,被控訴人の
請求が特定しておらず,控訴人には理解できないにもかかわらず原審裁判
所が主張整理をしなかった,あるいは,弁済の立証は,請求原因が定まら
なければ安易に提出できるものではない,主張自体失当であれば敢えて提
出する必要すらなかった,相殺の抗弁ではなく支払済代金の返還請求とな
る可能性もあった等と指摘するが,上記のとおり,被控訴人の請求は複数
に亘るものの,個々の請求の訴訟物は特定しているといえるものであり,
代理人弁護士に委任している控訴人がこの請求に対して弁済の抗弁を出
すことができないほど複雑かつ不明確な主張が放置されたものとは認めら
れない。控訴人としては,被控訴人の主張するところが主張自体失当と理
解し,あるいは,後日法律構成が変更となる可能性があったとしても,遅く
とも,原審裁判所の再度の釈明命令の期間満了時までには,予備的にせ
よ弁済の抗弁を提出することに何ら支障があったものとは認めることができ
ず,控訴人の上記の指摘はいずれも採用できない。
(3)そして,上記の本件訴訟前の交渉経過,及び,控訴人が原審裁判所の第
1回目の釈明命令の釈明事項②及び③に対して,そもそも控訴人は清算
関係の主張は全くしていないと回答し,被控訴人の文書送付嘱託について
必要性なしとの回答をしていることに照らすと,時機に後れたことにつき,
控訴人に故意又は重大な過失があるものと見るのが相当である。
(4)更に,時機に後れた防御方法として却下するためには,新たな主張及び
立証の提出が,訴訟の完結を遅延させるものであることを要するところ,被
控訴人は,控訴人が提出する弁済の抗弁が採用された場合,これを争い,
控訴人が提出しようとする書証の成立もすべて否認して,金員の移動状況
を明らかにする取引台帳,銀行取引明細書等の裏付け資料の提出を求め
る予定であると主張しているものであり,被控訴人は,控訴人担当者から
何度もいろいろな書類に押印をさせられたと述べていること(甲26),控訴
人が主張しようとする弁済の抗弁の内容は,控訴人が被控訴人に代わって
被控訴人の税務申告をした際の譲渡代金の受領状況欄の記載(甲20)と
も一致しないことが窺えることに照らすと,控訴人の弁済の抗弁及びこれに
関する書証の提出を認めた場合には,これにつき,なお,主張及び立証を
双方の当事者に尽くさせる必要があることが認められるのであり,したがっ
て,これらは訴訟の完結を遅延させるものと認められる。
(5)以上によれば,控訴人の新たな主張及び立証を制限した原審裁判所の訴
訟指揮を違法ということはできない。
(6)控訴人は,申請証拠を全部却下すべきではなく,それぞれの主張ないし
証拠の内容に照らし判断すべきであるとも主張するが,上記の経緯に照ら
すと,控訴人が平成16年10月1日以降に提出した証拠は一律に時機に
後れた防御方法と見るべきであるから,控訴人の上記の主張を採用するこ
とはできない。
(7)なお,控訴人は,控訴審において,原審で却下された新たな主張及び立
証を再度提出したものであるが,上記の経緯に照らし,控訴審においても
時機に後れた防御方法と見るべきであるから,その主張及び立証を認めな
かったものである。
8 争点(10)原審裁判所の違法不当な訴訟手続について
(1)控訴人は,原審裁判所が弁論更新手続を行わず,弁論準備手続におい
て争点及び証拠の整理を行わず,弁論準備手続終了後の弁論において結
果陳述手続を行わなかったにもかかわらず,これらを行った旨の口頭弁論
調書を作成したと主張するが,これらを認めるに足る証拠はない。
(2)また,控訴人は,原審裁判所に釈明権不行使のまま判決をした違法があ
ると主張するが,上記のとおり被控訴人の請求は特定しているものである
から,原審裁判所に,これに対する釈明義務があったものとは認められな
い。
9 争点(11)原状回復等の給付申立てについて
(1)給付物の返還請求
 民事訴訟法260条2項は,本案判決を変更する場合に,その判決の仮執
行宣言に基づき被告が給付したものの返還を原告に命じることができると
するところ,同条にいう給付とは,返還を命じる当然の前提として,原告が
現実に受領したことを要すると解すべきである。これを本件について見る
に,証拠(甲31ないし44,45の①ないし③,46の①,②,乙16,17ない
し23)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,仮執行宣言付きの原判
決に基づき,平成16年12月20日に債権差押命令の申立てをして,同日,
岐阜地方裁判所多治見支部により債権差押命令が出されたことから,控訴
人が,同月27日,同日までの遅延損害金を含む2394万4505円を弁済
供託したものであることが認められるが,被控訴人がこれを現実に受領し
たことを認めるに足る証拠はない。したがって,本判決が原判決を変更する
としても,被控訴人に給付物の返還義務があるものとは認められない。
(2)損害賠償請求
 上記のとおり,被控訴人は,仮執行宣言付きの原判決に基づき債権差押
命令を行ったものであるから,原判決が変更され,債権差押命令がその根
拠を失った場合には,被控訴人は債権差押命令により控訴人に生じた損
害について賠償をすべき責任があり,このことは,後日,被控訴人が債権
差押命令を取り下げたとしても遡って消滅するものではない。
 しかし,被控訴人の請求は,上記のとおり,未払残代金1123万2105円
及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度でなお理由があり,この
限度では,なお仮執行宣言付きの原判決は維持されることとなるのである
から,上記の債権差押命令自体が根拠を失うものではなく,したがって,控
訴人が主張するとおり上記の債権差押命令により控訴人に経済的な信用
の失墜があったとしても,なお,被控訴人が控訴人に賠償すべき損害があ
るものとは認められない。
第4 結論
 よって,被控訴人の請求は,控訴人に対して,契約1,5及び6に基づき,未払
残代金1123万2105円及びこれに対する弁済期の後である平成15年11月1
3日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を
求める限度で認容し,その余は棄却すべきであるから,これと異なる原判決を変
更することとし,控訴人の民事訴訟法260条2項の規定に基づく申立ては理由
がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第2部
裁判長裁判官    熊 田 士 朗
裁判官    多見谷 寿 郎
裁判官    堀 内 照 美
(別紙 物件目録及び不法行為の一覧 省略)

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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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