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神戸地方裁判所 平成14年11月28日判決 平成13年(わ)第809号,同第
819号 恐喝被告事件
              主       文  
被告人Aを懲役1年6月に,被告人Bを懲役2年に処する。
被告人両名に対し,いずれも3年間それぞれその刑の執行を猶予する。
理       由
(罪となるべき事実)
被告人Aは,株式会社C代表取締役Dから,その取引先の株式会社Eに対する約
350万円の工事請負代金債権の支払を受けられずに困っている旨聞知するや,そ
の取立を買って出て同人からその旨の依頼を受け,被告人Bと共謀の上,平成13
年7月5日午後7時40分ころ,神戸市a区b町c丁目d番e号所在の前記株式会
社E事務所において,前記株式会社Eの代表取締役F(当時61歳)に対し,こも
ごも前記工事請負代金債権の支払を強く求めた上,被告人Bにおいて「お前車ある
やろ。早よ車出さんかい。」「わしも若衆3人おるんや。このまま帰ったら飯食わ
れへん。店潰したるぞ。がたがたにしてしまうぞ。お前の頭かち割ったろか。」な
どと怒鳴りつけて前記工事請負代金債権の支払を求めるとともにその支払の担保と
して前記F管理に係る普通乗用自動車1台の交付方を要求し,もしその要求に応じ
なければ,前記Fの身体,財産又は前記株式会社Eの財産,営業等にいかなる危害
を加えるかも知れない気勢を示して脅迫し,その旨同人を畏怖させ,よって,同日
午後8時20分ころ,神戸市a区f町g丁目h番i号所在のjの北側路上におい
て,同人から同人管理に係る前記普通乗用自動車1台(時価約650万円相当)の
交付を受け,もって,これを喝取したものである。
(証拠の標目)
省略
(補足説明)
1 被告人両名の各弁護人は,被告人Aは株式会社C代表取締役Dの依頼により同
社の株式会社Eに対する工事請負代金を同社代表取締役Fから取立てようとして,
その支払の担保として同人から判示自動車の提供を受けたものであり,被告人Bは
被告人Aに付き添ってその交渉の席に同席したものに過ぎず,被告人両名において
金員を恐喝する意図はなかったし,その旨の共謀も,恐喝行為もないから,被告人
両名はいずれも無罪である旨主張し,被告人両名は当公判廷においてこれに沿う供
述をするところ,前掲関係各証拠によれば,判示犯罪事実は十分に認定できるので
あるが,その理由につき,補足して説明を加える。
2 前掲関係各証拠によれば,次の事実が認められる。
(1)株式会社Cは株式会社Eに対し約350万円の工事請負代金債権を有してい
たが,弁済期は既に到来していたにもかかわらず,支払が得られず,株式会社Cの
代表取締役Dは,弁護士にその取立を依頼することを試みたものの,費用が高額な
ために断念し,あるいは,自ら何度も足を運んで株式会社Eの代表取締役Fに支払
を請求したが支払が得られない状態が続き,Dは,支払が受けられないのはFが元
暴力団の幹部であるためであるとして,「その筋の人」(暴力団関係者)に取立を
依頼するほかないと考えるに至った。
 (2) 被告人Aは,平成13年6月9日ころ,取引先である株式会社Cの事務所に
おいて,Dから,同社は株式会社Eに対し工事請負代金の未収金が約350万円あ
り,ずいぶん長い間支払催促してきたが支払ってくれない旨聞き及び,債権取立を
してもよい旨Dに申し出たところ,同人から株式会社Eの代表者Fは元暴力団の幹
部である旨説明を受けた。
 (3) 被告人Aは,前記債権取立につき,義理の兄(妻の実兄)であり現役の暴力
団員であるGに相談し,同月末ころ,Gと連れ立って前記株式会社Cの事務所にお
いて,Dと面談し,DはGとはたまたま以前からの知り合いであったこともあっ
て,同人が現役の暴力団員であることを認識した上で,取立に必要な説明を行うな
どして,G及び被告人Aに前記債権の取立を依頼し,両名はこれを引き受けた。そ
の後,DはGに対し関係書類を交付した。
 (4) 同年7月4日,被告人Aは,Gから,電話で,「同月3日にFに会って債権
取立を行うため,被告人Bと一緒に株式会社Eの事務所に出掛けたが,不在で会え
なかった,同月5日にFと面会する旨約束したが,当日は別の用事で自分は行けな
いので,代わりに行って欲しい。」旨言われ,これを了承した。
(5) 同月5日,被告人両名は連れ立って前記株式会社Eの事務所に赴き,同所応
接セットにFと向かい合って座り,同所において,前記債権の取立交渉を開始した
が,約1時間ほどの間,被告人らにおいて支払を強く請求したのに対し,Fは元請
人からまだ支払を受けていないなどとしてこれに応じなかった。
 (6) 同日午後7時40分ころ,同所において,Fに対し,被告人Bにおいて,判
示の各脅迫文言を申し向けて,同人を畏怖させ,判示のとおり,同人管理に係る普
通乗用自動車1台(トヨタセルシオ白色)の交付を受けた。
  以上のとおり認められる。
3 被告人両名の各弁護人は,被告人らは依頼を受けた債権取立の権利実行の意思
でFとの間で取立交渉をしたに過ぎず,被告人らには恐喝の故意も共謀もないし,
恐喝行為もない旨主張するところ,株式会社Cは株式会社Eに対し弁済期の既に到
来した約350万円の工事請負代金債権を有していたこと,Dから,被告人両名が
前記債権の取立の依頼を受け,Fとの間でその取立の交渉に及んだことは前認定の
とおりであるけれども,Fは元暴力団の幹部であって通常の手段では取立は難し
く,したがって,「その筋の人」(暴力団関係者)に取立を依頼するほかないと考
えるに至ったDが,その事情を明らかにして被告人A及び同被告人を介して紹介さ
れた暴力団員であるGに取立を依頼し,被告人AがGに依頼された被告人Bととも
にFから取立に及んだ前認定の経過に照らすと,被告人らから判示の脅迫を受けた
旨の証人Fの公判供述及び被告人Aの前掲検察官調書の信用性は十分であって,そ
のような事実は一切なかった旨の被告人Aの公判供述並びに被告人Bの公判供述及
び同被告人の検察官に対する供述調書は,当初の一時間ほどは,通常の支払要求交
渉が続き,「元請けから支払がないから払えない」とそれまで長期間にわたりDに
対してとっていたと同様の態度を示していたFが,なぜ突然被告人らによる車の交
付方の要求に応じるに至ったのか了解し難く,措信できない。そうすると,被告人
らの本件犯行は,債権取立という権利の実行にあたり,社会通念上許容されない程
度の恐喝手段を用いた場合に該当するというべきであるから,本件が正当な債権取
立行為の範囲内の行為である旨の弁護人らの主張は理由がなく,恐喝罪が成立する
ものと優に認められる。
  また,各弁護人は,恐喝行為があったとする時間帯,場所,交渉経過等に照ら
すと,被告人らがFを畏怖させることのなかったことは明白であるというが,F及
びHの各公判供述並びに前記被告人Aの検察官調書によると,その程度は強度のも
のではなかったにせよ,Fが被告人らの脅迫により恐怖心を抱いたことは優に認定
できるのであって,判示の脅迫文言が,人を畏怖させるに足りる脅迫行為に該当す
ることは明らかというべきである。
  さらに,被告人両名の各弁護人は,F及び被告人Aにおいて署名押印して,
「判示自動車を351万5214円の決済が出来る日まで預かって貰い,現金と引
き替えに返して貰う」旨の記載のある覚書と題する書面が作成されていること,前
記株式会社Eの事務所から自動車交付場所までFは一人で別の車を運転して移動し
たところ,その間,警察署等に駆け込んだり,携帯電話による110番通報も可能
であったのにそのような行動をとっていないこと,被害届が事件の4日後である平
成13年7月9日にまず内妻においてなされたこと等の事実は,Fが判示自動車を
任意に交付したことを示す事実であるというが,これらの事実は弁護人ら主張のよ
うな事実を推認させるものとはいえない。
4 以上のとおり,前掲関係各証拠によれば,判示犯罪事実を認めるに十分である
から,各弁護人の主張は理由がない。
(法令の適用)
 罰    条 各刑法60条,249条1項
 宣 告 刑 被告人Aにつき,懲役1年6月
        被告人Bにつき,懲役2年
 刑の執行猶予 各刑法25条1項(いずれも3年間その刑の執行を猶予)
(量刑の理由) 
 本件は,判示の経過で,債権取立の依頼を受けた被告人両名が共謀の上,被害者
から支払の担保として自動車1台の交付を受けこれを喝取した恐喝の事案であると
ころ,本件犯行は暴力団関係者の関与の下に,社会通念上許容されない恐喝手段を
用いて行われた債権取立行為と認められるからその犯情は軽いとはいえず,被告人
Bにおいては一貫して,被告人Aにおいては公判段階において,被害者にはめられ
たとして反省の態度を示さないことなどを併せ考慮すると,被告人らの刑事責任は
それぞれ重いというべきであるが,本件犯行の背景には,被害者が元請けからの支
払が一部未払であるなどといういささか理不尽な理由で工事請負代金の支払をしな
かった経過が認められるところ,被害者のこのような態度が本件犯行を誘発した側
面も否定できない上,いまだにその支払はなされていないこと,脅迫の程度はさほ
ど強度であったとまでは認められないこと,被害品は還付されたこと,被害者は正
当な理由なく3度証人喚問に応じず不出頭を繰り返すなどしたもので,被告人らに
対する刑事罰を求める意思は必ずしも強いとは認められないこと,未決勾留がそれ
ぞれ相当期間に及んだこと,被告人Aには罰金前科を除き前科がないこと,被告人
Bは罰金前科のほか懲役前科2犯があるが,その最終懲役前科は約14年前のもの
であることなど,被告人両名のために斟酌すべき事情も認められるので,これらの
事情を総合勘案し,それぞれ主文のとおり量定した上,いずれもその刑の執行を猶
予することとした。
  よって,主文のとおり判決する。
 平成14年11月28日
神戸地方裁判所第11刑事係甲
裁 判 官  杉森研二

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