弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人等の負担とする。
         事    実
 控訴人等代理人は「原判決を取消す。被控訴会社が昭和二十五年三月二十三日別
紙目録記載の者に対してした解雇の意思表示の効力を停止する。被控訴会社は別紙
目録記載の者が被控訴会社の従業員としてする業務を妨害してはならない。被控訴
会社は別紙目録記載の者に、それぞれ同目録記載の賃金を支払わなければならな
い。訴訟費用は第一、二審とも被控訴会社の負担とする。」との判決を求め、被控
訴会社代理人は、主文第一項同旨の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張は、
 控訴人等代理人において、
 一、 原判決の事実摘示中、申請理由の要旨として第二の(ニ)の(い)に記載
(記録二五九丁裏二行目以下)せられている主張は撤回する。またその(三)のう
ち「或は三月三十一日迄に……(中略)……不当である」(記録二六一丁裏二行目
から五行目にわたる)という部分は、事情として述べたものである。
 二、 原判決の事実摘示中、申請理由の要旨として第二の(四)に記載(記録二
六一丁裏八行目以下)せられている主張は、被控訴会社の申入れによつて定められ
た昭和二十五年三月二十二日の協議会を、被控訴会社が正当の事由なくして、一方
的に開催を不可能にしたことは、不当労働行為であるから、これに伴う本件解雇の
意思表示も無効であるというに帰着する。
 三、 被控訴会社の二の抗弁(労働基準法第二〇条違反について)に対し、被控
訴会社が、その主張する通りの供託をしたことは認めるが、その他の事実は否認す
る。被控訴会社において控訴人等を解雇するには、労働協約第三七条第三号・第三
九条・就業規則第七〇条四号・五号・第七一条・労働基準法第二〇条によつて、平
均賃金三カ月分を現実に提供すべく、その提供の場所は、債権者である控訴人等の
住所であるべきところ、被控訴会社は昭和二十五年三月二十七日に、その金員を現
実に提供しなかつたから、即時解雇の効力は発生しなかつたものである。
 四、 原判決事実摘示中、申請理由の要旨として、第二の(ニ)に記載(記録二
六〇丁表四行目以下)せられている「その協議は、協約第八条・第三七条に関する
協議事項とその内容を一にするから、協約第一三二条が準用される結果」というの
は、解釈上協約第一三二条が準用せられる結果の意味である。
 五、 被控訴会社の四の主張に対し、昭和二十三年十一月十九日就業規則が改訂
せられ、会社と組合とが協議する旨のいわゆる「協議事項」が削除せられ、「申合
せ事項」なるものができたことは認めるが、この「申合せ事項」は就業規則の一部
であるから、労働協約の一部をなすものでないと述べ、
 疏明として、甲第一から第七号証、第八号証の一から五、第九から第十一号証、
第十二号証の一から三、第十三号証の一から五、第十四号証の一と二、第十五号証
の一から四、第十六号証の一と二、第十七号証の一から三、第十八から第二十四号
証を提出し、原審証人A、B、C、D、当審証人E、原審並びに当審証人F(原審
一、二回、当審一、二回)の各証言を援用し、乙号証に対し、第一から第四号証は
いずれもその成立を認める。第五号証の一と二、第六号証の成立は知らない。第七
号証、第八号証の成立を認める。第九号証の一と二、第十号証、第十一号証の一
と、四から四十一と四十三の成立はいずれも知らない(第十一号証の二、三、四十
二の成立は認ある)第十二号証の一の成立を認め、同号証の二の成立は知らない。
第十三号証の一から十六と、十九((イ)と(ロ))から二十六の成立は、いずれ
も知らない(第十三号証の十七、十八の成立は認める)第十四から第十七号証の成
立は、いずれも知らない。第十八号証の一と二の成立は認める。なお乙第三号証、
第四号証第、七号証、第八号証、第十一号証の四十二を援用すると述べた。
 被控訴会社代理人において、
 一、 昭和二十五年四月二十八日控訴人等の所属する日本曹達労働組合が、会社
再建計画に基いて、被控訴会社が採つた人員整理、並びにそれに関連する措置を承
認したかち、権利保護要件を欠くところの本件仮処分の申請は、却下さるべきであ
るという主張は撤回する。
 二、 原判決の事実摘示中、被控訴会社の答弁として記載せられている「申請理
由第二(法律上の主張について)(C)労働基準法第二〇条違反について」の項目
について、次のように補充する。
 (1) 労働基準法第二〇条によれば、使用者が労働者を解雇しようとする場合
において、三十日前に予告をしないときは、三十日分以上の平均賃金を支払わなけ
ればならない旨規定せられている。本条の立法趣旨は、労働者が解雇せられた場
合、その労働者をして経済上の不安なく、就労の機会を得させる目的から、民法の
原則を修正し、一カ月の予告の期間をおき、若しくは三十日分以上の平均賃金を支
払うことを使用者に命じたものであるから、就業規則に、会社が従業員を解雇する
には、三カ月分の平均賃金を支給する趣旨の規定を設けたからといつて、それが直
ちに労働基準法第二〇条に定められているところの使用者が即時に支払わなければ
ならない予告手当に代るはけでわない。したがつてこの場合三十日分の予告手当を
即時に支払えば労働基準法第二〇条により即時解雇もできるのである。
 (2) 控訴人等は労働基準法第九三条を援用して、三カ月分の予告手当を支払
わなければ、即時解雇の効力は生じないと主張するけれども、被控訴会社は、本件
解雇に当り、就業規則に定められている三カ月分の予告手当を支払う旨明示し、そ
の支払方法についてだけ、労働基準法第二〇条にしたがい三十日分は即時に支払う
が残額は三カ月以内に支払うことを通告したに過ぎないから、別段被解雇者を就業
規則に定められている基準に達しない労働条件で、解雇したことにはならない。殊
に被控訴会社としては、原判決の事実摘示にあるように昭和二十五年三月二十九日
被解雇者に対し、平均賃金の三カ月分全額を支払う旨通知し、その支払準備を完了
しているのであるから、労働基準法第二〇条にいさゝかも違反しない。
 (3) 控訴人等は右予告手当の支払は、債務の本旨にしたがい、現実になされ
たものでないと主張するけれども、被控訴会社としては、原判決の事実摘示にある
ように、通知の都度a工場の内外にこれを掲示し、且つ放送して、予告手当の支払
場所がa工場なることを明示し、それに必要な現金を準備していたのであるが、控
訴人等の被解雇者は、いずれも解雇の効力を争い、予告手当を受領する意思のない
ことが明白であつたので、同年四月二十三日被控訴会社において、弁済供託したも
のである。
 (4) 解雇予告手当の性質は、賃金に準ずべきものであるから、賃金の支払が
いわゆる取立債務に属し、したがつてその支払場所が、使用者の事業場であること
は、わが国一般の事例であつて、控訴人等と被控訴会社間の労働契約もまた軌を一
にするものであるから、本件解雇予告手当の支払場所をa工場として通告したこと
は、何等違法でない。
 三、 就業規則中に、前記のように「三カ月前に予告するか、又は三カ月分の平
均賃金を支払わなければ、会社は自己の都合により組合員を解雇できない」という
規定はあるが、労働協約の中には、そのような規定はない。
 四、 昭和二十三年十一月十九日就業規則を改訂して、現行就業規則を制定した
際、会社と組合と協議する旨のいわゆる「協議事項」を削除して、「申合せ事項」
とした。この申合せ事項は、労働協約の一部をなすものであるから、労働協約自体
が失効した現在では、この申合せ事項も効力を失つたものであると述べ、
 疏明として、乙第一から第四号証、第五号証の一と二、第六から第八号証、第九
号証の一と二、第十号証、第十一号証の一から四十三、第十二号証の一と二、第十
三号証の一から二十六(十九は(イ)と(ロ))、第十四から第十七号証、第十八
号証の一と二を提出し、原審証人G、H、I、当審証人Jの各証言を援用し、甲号
証に対し、第一、二号証は成立を認める。第三号証の成立は知らない。第四から第
七号証の成立を認める。第八号証の一から五の成立は知らない。第九から第十一号
証、第十二号証の一から三、第十三号証の一から五、第十四号証の一と二、第十五
号証の一から四は、いずれもその成立を認める。第十六号証の一と二の成立は知ら
ない。第十七号証の一から三、第十八号証はいずれもその成立を認める。第十九か
ら第二十三号証の成立は知らない。第二十四号証の成立は認める。なお第二号証、
第四号証、第七号証、第九号証、第十号証、第十一号証を援用すると述べた。
         理    由
 一、 被控訴会社は苛性曹達その他工業薬品を製造する会社で、肩書地に本店を
おき、新潟県aその他に工場を有し、控訴人等は被控訴会社の従業員としてa工場
に勤務し、且つ会社の従業員をもつて組織せられている日本曹達労働組合の組合員
であつたこと。被控訴会社から昭和二十五年三月二十三日控訴人等宛に、書面をも
つて解雇通知が発せられ、その頃控訴人等に到達したこと。その後控訴人等が就業
を拒否せられ、従業員として待遇を受けていないことは、いずれも当事者間に争い
がない。
 二、 よつて被控訴会社が前記解雇通知によつて、控訴人等を解雇したことの効
力について判断するに、
 (1) 控訴人等は被控訴会社が労働組合と協議決定しないで、一方的に控訴人
等を解雇したことは、被控訴会社と労働組合との間に、昭和二十四年十一月十六日
に締結せられた労働協約の第八条、第三七条一項三号二項、第一三二条一項の趣旨
に違反し、その解雇は無効であると主張する。
 しかし被控訴会社と労働組合との間に、これより前、昭和二十三年九月五日労働
協約が締結せられ、その有効期間を一カ年(昭和二十四年九月四日迄)と定めた
が、期間満了の前になつて、双方協議の結果、新たに労働協約を制定することと
し、とりあえず従前の労働協約の有効期間を一カ月延長することを合意し、新協約
案の作成に当つたが、両者の意見がまとまりそうもないので、更にその有効期間を
昭和二十四年十一月十五日まで延長することを合意した。しかしそれでも新協約案
がまとまらないため、有効期間経過の翌日たる同年十一月十六日両者間において、
確認書という書面(甲第十二号証の一)を作成したことは、当事者間に争いがな
い。
 そして成立に争いのない甲第十二号証の一から三、乙第七号証、同第八号証、原
審証人Gの証言により成立を認め得る乙第五号証の一、二、同第六号証、同第十号
証と、原審証人G、同Hの各証言を綜合すれば、被控訴会社としては、昭和二十四
年九月四日をもつて有効期間が満了となる前記労働協約につき、有効期間の満了と
なる前から、連合軍総司令部経済科学局労働課の示唆をも織込んだ新労働協約を締
結したい考えから、昭和二十四年八月二十六日組合に対し、会社案を示して協議を
申入れ、協約案がまとまつても、その調印前協約案を総司部に提出するよう指示を
受けていたので、組合側にそのことを明示した上、協議を重ねたが、容易に妥結す
るに至らないので、前記のように労働協約の有効期間を再度延期して協議をつづけ
た結果、全面的に意見の一致を見ることはできなかつたが、大部分について協議が
まとまつたので、有効期間満了の翌日なる昭和二十四年十一月十六日、双方におい
て、意見の一致した部分を明確にするため、前記確認書(甲第十二号証の一)を作
成したけれども、協約案を総司令部に提出しなければならないので、同年十二月二
十一日双方の意見が一致した部分につき、これを条文化した協約案(乙第七号証)
を作成した。しかしこれは協約案であるため、双方ともこれには署名もしなかつた
し、作成日附も空白のまゝとし、別に双方の間で、「会社はこの労働協約締結につ
いて、調印前、連合軍総司令部経済科学局労働課に提出するよう指令を受けている
ので、会社と組合はこの協約に仮調印し、右手続が完了後正式に調印するものとす
る」との書面を作成しその日附を従前の労働協約の有効期間満了の翌日なる「昭和
二十四年十一月十六日」にさかのぼらせた日附にし、これに双方の代表者が記名捺
印し、その後昭和二十五年一月十三日、被控訴会社からその協約案を総司令部に提
出したところ、同年二月九日頃会社及び組合に対し、それぞれ勧告があつたので、
会社はその線に従つた労働協約を締結する意図のもとに、同年二月十七日組合に対
し、協約案についての協議を申入れたが(乙第十号証)、たまたま組合との間に越
冬資金や退職金のことで紛争があつたのと、続いて会社から本件係争の従業員の整
理を含む再建計画の発表をしたので、両者の協議は中断の形となり、同年五月に二
回協議会を開いただけで、まだ労働協約は締結されないまゝである事情を推認し得
る。
 控訴人等は、会社と組合との間で昭和二十四年十二月二十一日作成した書面(乙
第七号証)は、新しい労働協約であつて、会社も組合も奥付をもつてその二とを確
認し、且つ総司令部に提出手続完了後、正式調印する旨の書面を作成し、会社と組
合の各代表者が記名調印したものである。もつとも労働組合法第一四条には、労働
協約に署名を要するよう規定せられているが、慣行上記名捺印をもつて代え得るも
のと解されるし、会社も組合もこれまで前記書面を労働協約と認めていたものであ
るから、労働協約としての効力があると主張するけれども控訴人等において労働協
約と主張する書面(乙第七号証)の作成せられた事情が、前記の通りであるからに
は、会社と組合との双方に無協約状態を避けようとする意図のあつたことは充分窺
い得るが、前記書面に<要旨第一>労働協約としての効力を持たせる意思があつたも
のとは推認できないのみならず、労働組合法第一四条によれば、労働協
約は書面に作成した上、更に協約当事者が、その書面に署名することを、労働協約
の効力発生の要件とし、しかもこの場合の署名について、商法中署名すべき場合に
おける如く、記名捺印を以て、これに代え得る旨の規定の存しない以上、労働協約
については、その内容となつている事項が、協約当事者の真の最後的意思であるこ
とを確認する方法として、協約当事者がその書面に自から署名することを絶対の要
件としているものと解されるから、協約当事者の署名を欠く書面(乙第七号証)
に、労働協約としての効力は認められない。
 したがつて労働協約自体が存在しない以上、本件解雇の意思表示が、労働協約に
違反するという控訴人等の主張は理由がない。
 (2) 次に控訴人等は、被控訴会社が労働組合と協議しないで、一方的に控訴
人等を解雇したことは、昭和二十三年十一月十九日に改訂せられた就業規則第七〇
条、及び同日別に作成せられた「就業規則に関する申合せ事項」の十二に違反する
と主張する。
 ところで成立に争いのない乙第一から第四号証、原審証人Gの証言によつて成立
を認め得る乙第六号証と、原審証人G、同Hの各証言を綜合すれば、昭和二十三年
九月五日に労働協約の改訂を見たが(乙第一号証)当時の就業規則(乙第二号証)
には、従業員と会社との関係以外に、会社と組合との関係についての規定まで含ま
れていたが、被控訴会社においては会社と組合との関係は、これを労働協約中に規
定すべきものであるとの見解の下に、この就業規則から、会社が一定の事項につき
組合と協議すべき旨の協議約款を除外することとし、組合の同意を得て昭和二十三
年十一月十九日新しい就業規則(乙第三号証)を定め、就業規則からかゝる協議約
款を除外したこと、そしてこの除外した協議約款については、組合と協議の上、就
業規則とは別に、同日「就業規則に関する申合せ事項」と題する書面(乙第四号
証)を作成し、その「十二」において、就業規則第七〇条第四号及び第五号につい
ては、組合と協議する旨の定めをし、結局(イ)事業の縮少または廃止の止むなき
に至つたとき(就業規則七〇条四号)又は(ロ)その他事業経営上止むを得ない都
合のあるとき(同条五号)でも、会社において従業員を解雇するには、組合と協議
する旨定めたことを認め得る。しかしながら右認定の如き「就業規則に関する申せ
事項」と題する書面(乙第四号証)を作成するに至つた事情より判断すればこの申
合せ事項は、名称は「就業規則に関する申合せ事項」となつているが、この申合せ
をした会社及び組合の意見は、これを以て就業規則に属せざるものとし、これを以
て労働協約に附属する申合せと解したことを推認するに難くない。そうだとすれ
ば、この「就業規則に関する申合せ事項」は、労働協約が効力を失つた昭和二十四
年十一月十五日に、労働協約とともに効力を失つたものと解されるから、前記申合
せ事項が、就業規則の一部として効力のあることを前提とする控訴人等の主張は採
用し難い。
 (3) 更に控訴人等は、被控訴会社が三カ月の予告期間もおかず、昭和二十五
年三月二十三日付の書面をもつて、解雇予告手当平均九十日分の内、三十日分は即
時支払い、残り六十日分は三カ月以内に支払う旨附記し、同月二十七日限り控訴人
等を解雇する旨通知たしたのは、労働基準法第二〇条、労働協約第三九条、就業規
則第七一条に、違反すると主張するが、成立に争いのない甲第九から第十一号証、
乙第十三号証の十七、十八、原審証人Iの証言によつて成立を認め得る乙第十三号
証の二から十五、同号証の十九(イ)(ロ)、二十、同第十五号証、同第十六号証
と、原審証人G、同Iの各証言を綜合すれば、被控訴会社は昭和二十五年三月二十
三日控訴人等に対し「昭和二十五年三月二十七日限り解雇する。解雇予告手当は平
均賃金の九十日分を支払うこととし、内三十日分は即時に支払い、残り六十日分は
三カ月以内に支払う」旨通知し、その書面は同月二十七日までに、控訴人等に到達
した。そして被控訴会社としては、前記平均賃金の内三十日分について、即時に支
払ができるよう現実に資金を準備し得たが、残り六十日分についても、資金の調達
を急ぎ、全額を現実に準備できたので、同月二十九日被解雇者に対しa工場におい
て解雇予告手当の全額を即時支払う旨通知しその請求をした者に対しては、解雇予
告手当の全額を支払つたが、同年四月二十日までに請求しなかつた者に対する解雇
予告手当は、同月二十四日その全額を新潟地方法務局高田支局に供託したことが疏
明せられる。
 <要旨第二>惟うに労働基準法第二〇条は使用者が労働者を解雇しようとする場
合、使用者は労働者に対し三十日前に予告すべきものとし、三十日前に
予告しないときは、原則として三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない
旨規定する。而して法が使用者に対しこの三十日分以上の平均賃金の支払をなすべ
きことを命じたのは、労働者が予告期間を設けざる解雇によつて、突如生活上の脅
威に曝されることを防止せんとするにある以上、その支払又は提供は、解雇の効力
発生要件と解すべきであり、従つて使用者が労働者に対し一定の日時を限り、解雇
すべき旨の意思表示をなすときは、右の平均賃金はこの日時迄に支払われ、又は提
供されることを要するものと解すべきである。今本件についてみるに被控訴会社は
昭和二十五年三月二十三日、控訴人等に対し前示認定の如き解雇及び三十日分の平
均賃金につき、即時支払う旨の通知をなし、三十日分の平均賃金については直ちに
支払の準備を完了したものであるが、解雇手当は賃金に準ずべきものとして、その
支払場所は、使用者の事業場と認めるのが相当であるから、本件解雇手当の支払場
所は、被控訴会社のa工場であると解すべく、而して右の三十日分の平均賃金即時
支払の通知は、単にその支払を通知したものでなく、即時支払うことを言明して、
その支払の準備あることを通知して、その受領を催告したものと推認されるから、
畢竟被控訴会社は、解雇の日と定めた昭和二十五年三月二十七日迄に、三十日分の
平均賃金を控訴人等に対し提供したものなることを窺われる。したがつて本件解雇
が労働基準法第二〇条に違反するとの控訴人等の主張は採用に値いしない。
 次に就業規則第七一条によれば、事業の縮少又は廃止の止むなきに至つたとき、
その他事業経営上止むを得ない都合のあるとき、解雇された場合においては、三月
以前に予告をなすか、又は三月分の平均賃金を支給す<要旨第三>る旨の規定のある
ことは、当事者間に争いのないところである。而してこの三月分の平均賃金中、三
十日分については、労働基準法第二〇条により、その支払が解雇の効力
発生要件であることは、前段所論の如くであるが、しかしこれは予告期間を設けざ
る解雇につき、少くとも三十日分の平均賃金を得せしんとする労働基準法の右規定
の強行法的性格に基いて、然るものといゝ得るに止まり、これを超える解雇予告手
当の支払を就業規則において定めた場合、この超える部分については理論上必ずし
もこれを労働基準法第二〇条と同様に解することを要するものでなく、就業規則自
体の制定の経過、その文言等に徴して、その意義を決することを要する。即ちその
支払が解雇の効力発生要件たるか、或いは被解雇者がその支払を請求する権利を有
するに止まるかは、就業規則自体について決すべきところ、右就業規則第七一条自
体よりすれば同条は被解雇者を経済的脅威に対し保護せんとするにあることはいう
迄もないが、その文言よりするも、同条の趣旨は、被解雇者に対して三月分の平均
賃金の支払請求権を附与したに止まるものと解される。然らば被控訴会社において
解雇の日と定めた昭和二十五年三月二十七日迄に、三十日分を超える平均賃金の支
払又はその提供をなさなかつたとしても、このことは何等本件の解雇の効力に影響
なきものというべく、したがつて右就業規則違反を根拠とする控訴人等の主張は採
用に値いしない。
 されば控訴人等に対する本件解雇をもつて、労働基準法第二〇条、及び就業規則
第七一条に違反するという主張は当らないし、当時労働協約が存在しなかつたこと
は、前記二(1)の通りであるから、その有効なることを前提とする控訴人等の主
張も採用し得ない。
 (4) 控訴人等は、昭和二十五年三月二十二日の協議会を、会社側が一方的に
開催できないようにしたのは、団体交渉を為すべきことを、正当の理由なく拒んだ
ことに帰著し、即ち不当労働行為であつて、かゝる行為を伴つた本件解雇は違法で
あると主張するけれども、原審証人Gの証言によれば、その開催直前組合がストラ
イキに入つたため、やむを得ず協議会の開催を延期した事情が疏明せられるから、
この点に関する控訴人等の主張も亦理由がない。
 (5) 控訴人等は本件解雇をもつて、経営権の濫用であると主張するが、この
点についての疏明が不十分だし、かえつて当審証人Jの証言により成立を認め得る
乙第十四号証、第十七号証と、原審証人G、当審証人Jの各証言を綜合すれば、被
控訴会社の支柱となつている事業は、化学部門中、a工場の、DDT、グリコー
ル、四塩化炭素等であるが昭和二十四年春頃から製品価格が暴落し、その上有効需
要が激減したので、毎月滞貨が増加し、昭和二十三年末の未払債務は八千万円程度
であつたものが、昭和二十四年末には二億九千万円を超え、その上借入金は五億七
千万円もあつて、人件費の支払にも困る状態で、昭和二十五年に入つても、業績は
益々悪くなるばかりで、配置転換や経費節約などをしても、どうにもならないの
で、売行の悪い製品を中止することにし、それに伴つて人員整理をするに至つた事
情が疏明せられるから、この点に関する控訴人等の主張も採用し難い。
 三、 控訴人等において、本件解雇を無効と主張する点についての判断が以上の
通りだとすれば、結局無効の原因について疏明がないことになり、しかも保証を立
てさせて、控訴人等の仮の地位を定むべき場合でもないから、その申請を却下した
原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。
 よつて民事訴訟法第三八四条によつて、本件控訴を棄却することとし、控訴費用
の負担について、同法第八九条、第九三条第一項、第九五条を適用して、主文の通
り判決する。
 (裁判長判事 松田二郎 判事 河合清六 判事 岡崎隆)

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