弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原告が被告に対し雇傭契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
二 被告は原告に対し昭和六三年四月一日以降毎月二一日限り月額金三三万九六〇
〇円の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。
       事実及び理由
第一 原告の請求
 主文第一項ないし第三項と同旨
第二 事案の概要
 本件は、通常解雇された労働者が、解雇の無効を主張し、雇傭契約上の権利を有
する地位にあることの確認と、解雇後の賃金の支払を求めた事案である。
一 当事者
1 被告は、千葉県(以下「県」という。)が資本の四〇パーセントを出資して設
立したいわゆる第三セクター方式の会社であり、県が策定するレクリエーション都
市整備計画に則り、レクリエーション都市の開発を図り、地域経済の発展、住民福
祉の向上に寄与することを目的として、施設の建設・分譲・賃貸借・維持・管理及
び運営等の事業を営む株式会社である。(争いがない。)
 被告は、県から蓮沼海浜公園の管理を許可され、同公園管理の受託業務のほか、
同公園内のプール、テニスコート、駐車場、ガーデンハウス等を経営しているとこ
ろ、プール、テニスコート、駐車場の利用料金の決定には県の許可が必要であり、
県における被告の所管は都市部である。(甲六、二三、証人A(以下「A」とい
う。))
2 原告は、昭和六二年六月一日被告に雇傭され、同月二五日以降被告営業本部次
長の地位にあった。(争いがない。)
 原告は、もと株式会社千葉日報社の記者であり、県政記者であった。原告は、当
時のB(以下「B」という。)県都市部長の紹介により被告に雇傭された。(証人
A、原告本人)。
二 本件解雇
 被告は、同六三年三月一八日原告に対し、原告が被告の就業規則三五条一号及び
五号に該当し、三六条四号の懲戒解雇に該当すべきところ、特に同規則三二条の通
常解雇とする旨が記載された解雇通知書を交付し、解雇の意思表示をした(以下
「本件解雇」という。)。(争いがない。)
三 原告の賃金の額等
 原告の本件解雇時の賃金月額は三三万九六〇〇円であり、原被告間の雇傭契約に
は被告が原告に対し毎月二一日限り当月分の賃金を支払う旨の約定があった。(争
いがない。)
四 本件解雇に関係のある就業規則の規定
 被告の就業規則の規定のうち本件解雇に関係がある規定は、次のとおりである。
(甲九)
1 三二条(解雇)
 職員が次の各号の一に該当するときは、解雇する。
(一) 精神または身体の障害若しくは病気により業務に耐えられないと認められ
るとき
(二) 勤務成績または能率が著しく不良で就業に適さないと認められるとき
(三) 会社の経営上やむを得ない事由があるとき
2 三五条(懲戒)
 職員が次の各号の一に該当するときは、懲戒を行う。
(一) 職務上の指示命令に従わないときまたは会社の諸規定に違反したとき
(二) 会社の名誉、信用をき損したとき
(三)、(四)(省略)
(五) その他特に不都合な行為があったとき
3 三六条(懲戒の種類)
 懲戒は次の四種とし、情状によりこれを適用する。
(一) 訓戒 始末書をとり将来を戒める。
(二) 減給 法定の範囲内において給与を減額する。
(三) 出勤停止 七日以内出勤を停止し、この間の給与を支給しない。
(四) 懲戒解雇 予告期間を設けることなく即時に解雇する。(以下省略)
4 五条(遵守事項)
職員は次の事項を守らなければならない。
(一) 会社の名誉をき損し、または利益を害さないこと
(二) 会社の秩序または職場の規律をみださないこと
(三) 業務上の機密を漏らさないこと
(四) (省略)
五 本件の争点
 本件の主要な争点は、①本件解雇は、通常解雇の事由である「会社の経営上やむ
を得ない事由があるとき」(就業規則三二条三号)に該当するか、②就業規則三二
条所定の通常解雇の事由に該当しなくとも、被傭者を通常解雇することができる
か、③本件解雇は解雇権の濫用に該当するか、である。
 これらの争点に関する当事者の主張の概要は次のとおりである。
1 被告の主張
(一) 原告は、県が被告を査察するために自己を派遣したかの如く振る舞い、次
のとおり、被告経営者に対する批判、人事に対する介入等自己の職責を逸脱した非
常識な言動を繰返し、その結果、被告社内の秩序を乱し、被告業務の円滑な遂行を
妨げた。
(1) 原告は、昭和六二年六月二六日開催の営業会議において、開会直後に「既
往の営業方針というものを読んでみたが、毎月稼働率四〇パーセントの目標を繰り
返すのみで、達成の手段について具体策がない。到底営業方針とはいえない。」と
発言し、営業担当のC(以下「C」という。)常務取締役に向かい、「経営者とし
ての意見を聞きたい。」詰問した。これに対し、D(以下「D」という。)専務取
締役が本日の議題に反するとして発言の中止を求めたが、原告は、これを聞き入れ
ず、更に大声を張り上げ、「四〇パーセントというのが単に目標として放置したま
まで良いのか。」と被告の役員に詰問したりし、このため営業会議は混乱した。
(2) 原告は、同年一一月一六日すぎころ事務室において、E(以下「E」とい
う。)総務課長代理が同月一六日の営業会議で決定されたウオターガーデンの利用
料金値上案を、株主である県に検討して貰うため起案中であったところ、かねてこ
れに反対していたことから、E総務課長代理に対し、「そんな作業をやっても県は
認めない、無駄だ。」と述べて、その作業を妨害し、かつ、利用料金の増額を決定
した経営陣を批判した。
(3) 原告は、そのころ、千葉県船橋市内の料理店三田浜において、ガーデンハ
ウスの幹部を更迭する旨の暴言を吐き、また、ガーデンハウスの調理場を総入替え
する旨述べ、このため、ガーデンハウスの幹部間に動揺が生じ、調理場職員が非常
に動揺した。
(4) 原告は、そのころ、ガーデンハウスにおいて、F(以下「F」という。)
支配人代理に対し、ガーデンハウスの調理場を総入替えする旨述べた。
(5) 原告は、同六三年の新年会の席において、被告従業員Gに対して言うが如
くして公然と、「俺は月額七〇万円である会社から誘われているのだが、知事が行
けと言うからここに来たのだ。」とか言い、また、他の者に対し、「社長が何と言
おうと県の方では今年六月に新社長を用意している。今度は俺の息のかかった人を
県から連れて来る。」と暴言を吐き、人事権に介入した。
(6) 原告は、同年二月一三日ガーデンハウス事務所において、同ハウスのF支
配人代理に対し、真実は総務部長を県から招聘する話などなかったのに、「四月か
ら総務部長が県から来るが、その者に対し会社は給料四〇万円ちょっとで受け入れ
る用意をしている。四〇万円の給料は高すぎる。俺が県の総務課に働きかけて二〇
万円ちょっとで俺の息のかかった者を連れてくる、このことは県の方でも了解して
くれた。」と暴言を吐き、人事権に介入した。
(7) 原告は、同六二年一二月中旬事務所において、E総務課長代理に対し、
「社員の中で俺のやり方に不満を持っているのはFとお前だけだ。会社組織に対す
る考え方が古い、考えを変えなければ会社に居られないようにしてやる。」と言
い、同六三年三月二日本社会議室においてE総務課長代理に対し、「堪忍袋の緒が
切れた、議会での根回しは終わったのだ、会社の内情を議会にバラしてやる。君が
改めない限り会社に居られないようにしてやる。」と言い、日ごろ原告の行動に批
判的な同人を脅迫した。
(8) 原告は、同年一月七日営業会議において、冒頭から、代表者であったA社
長及びD専務取締役その他の経営者に対し、「昨年一二月末までに会社の経営理念
と組織の改善を要求しているが、未だ出て来ない。社長ら経営者は何を考えている
のか。」と大声で怒鳴りたて、原告の直属の上司であるH(以下「H」という。)
営業本部長から、「経営者に対する批判は社員のなすべきことではない。また、本
日の議題でもない。」として再三にわたり発言の中止を求められたが、全く耳を傾
けず、議事の進行を妨害した。
(9) 原告は、翌八日ガーデンハウス分科会において、冒頭から、D専務取締役
に対し、「経営者は会社業務の現状把握が不十分、五か年経営計画についての展望
がない。このままでは会社は行き詰まってしまう。今のうちに経営者と社員の責任
は明確にすべきだ。」と述べて、D専務取締役に詰め寄り、H営業本部長から制止
されたが、発言を中止せず、議事の進行を妨害した。
 (この点に関し、原告は、D専務取締役に対し、「経営者の会社業務の現状認識
は不十分である。このままでは会社は行き詰まってしまう。経営者と社員の責任は
明確にすべきである。」と述べたものであると答弁する。)
(10) 原告は、同年一月二五日開催された同六三年予算会議において、冒頭か
ら、A社長に対し、「機構改革はその後どうなっているのか、経営姿勢がなってい
ない、一刻も早く事業部制を敷き経営に関する責任体制を明確にせよ。」と大声で
述べて詰問し、議事の進行を妨害した。
 (この点に関し、原告は、「各部門別に独立採算制を目指し、機構改革をしなけ
れば、業績を伸ばすことは確実に無理である。」と述べたものであると答弁す
る。)
(11) 原告は、同年二月三日のガーデンハウス分科会において、若手社員を前
にして、経営者は全く無能力者だなどと経営者を批判する暴言を吐き、注意したH
営業本部長に血相を変えて反発し、制止したI(以下「I」という。)支配人に対
しても喰ってかかり、このため本題に入らないまま流会となった。
(12) 原告は、同年二月二五日の営業本部会議において、「I支配人提案の六
三年度ガーデンハウスの予算案によれば、稼働率四〇パーセントとは甘すぎる、絶
対不可能である。」と述べて、自説の三五パーセントを主張して譲らず、H営業本
部長の注意に対し、「自分は責任を持てないので支配人の主張する予算数字につい
ては書類が回ってきても判子は押さない。」と言って、議事の進行を妨害した。
 (この点に関し、原告は、右営業本部会議において、I支配人が昭和六三年度ガ
ーデンハウスの予算案において稼働率を四〇・九パーセントと設定し、これに対し
原告が稼働率を三八パーセントないし三九パーセントとすべきであると主張し、意
見が対立し、原告が大声を出した、そして、原告が、「具体的な裏付けなくして四
〇・九パーセントとするなら次長としては責任を持てないので、その旨私の意見を
付記しておいて欲しい。」と述べたと答弁する。)
(13) 原告は、同六二年一一月中旬から同年一二月初旬にかけて、A社長及び
D専務取締役に対し、公然と名指しでその報酬を批判し、また、退職したC常務取
締役の退職金の見直しを主張し、A社長及びD専務取締役にその都度説諭された
が、全く反省の色を見せず、その都度反抗した。
(この点に関し、原告は、A社長に対し直接に高額な報酬の是正を直言したことは
あるが、営業会議や社内の公の場で発言したことはないと答弁する。)
(二) 被告は、原告の右の言動はそれ自体十分懲戒解雇事由に該当するものと考
えたが、不馴れな営業部門に入って日も浅い原告の立場を考え、単なる注意にとど
め、原告を懲戒しなかった。ところが、原告の言動を見聞した被告の支配人、支配
人代理等業務執行の中枢をなす管理職に動揺が生じ始めた。ここにおいて、被告も
この問題を放置することができなくなり、これを鎮めるため、A社長らが原告を説
諭したが、原告はこれに従わず、後記(三)(2)ないし(4)記載のとおり反抗
的な態度にでた。これらの原告の言動は、管理職の反発を招き、そのまま原告の雇
傭を継続すると、管理職が辞職することは確実であり、被告の存続が危うくなるこ
とから、被告は原告を解雇したのである。
(三) 被告が解雇理由として主張する事由は、次のとおりである。
(1) 原告は、昭和六二年九月ころ、被告の取締役の報酬及び退職金が県住宅供
給公社の理事長に比較し不当に高額なのは被告従業員の労働意欲を失わせる原因と
即断し、右公社の理事長に対し、A社長は月額八一万円の報酬を受けているが、理
事長は何程かと尋ね、理事長からその報酬が月額五五万円であることを聞き出し、
A社長ら被告の取締役が高額な報酬及び退職金を取っていると外部に対し批判し
た。
(2) 原告は、同六三年二月二六日D専務取締役から被告の経営権・人事権を侵
害する諸行為に関し注意を受けると、これに対抗して、B都市部長に対し、A社長
には社費につき不正使用があると申出て、暗にその更迭を促した。
(3) 原告は、右のD専務取締役からの注意に対し、「やめればいいんでしょ
う。」と反発し、その後同月二九日には、A社長及びD専務取締役の経営能力の低
さを批判し、更には天下り役員が高額な役員報酬及び退職金を受けているのは許さ
れないとか、両名は社費に関し公私混同があるので県、県議会などを通して県民の
意見を求めて行く旨記載した書面を提出し、上司に反抗し、県に対する影響力を仄
めかした。
(4) A社長は、同年三月一〇日B都市部長の意向のもとに、再度原告を諭した
ところ、原告は、「自分の行為は間違っていない。」と言った後、不正に入手した
社印使用簿のコピーをテーブルの上に出し、A社長に対し、「これはなんですか、
支払伝票を勝手に差し換えている、これは正に文書偽造であり訴えてやる。」、
「一方的に自分に反省を求めるとは何事か、不当行為で訴えてやる。こうなったら
自分は徹底的に戦う。」と述べ、上司に対し暴言を吐いた。
(5) 原告は、被告の経営者が明確な経営理念を示さず高額な報酬を受け取って
いるのは、親方日の丸的な考えのもとに被告を経営しているからであると考え、同
年一一月ころから同年一二月二九日にかけて四回にわたりA社長及びD専務取締役
に対し、経営理念の開示を求め、最終会議の席において、A社長に対し、四時間半
にわたり異常とも思える執念で経営理念の開示を何回となく求め、遂にA社長をし
て、「僕の意見が通らないなら僕は社長を辞める。」と発言させるに至った。
 原告は、自己の望んでいた経営理念を示さないA社長に失望し、同人を更迭する
理由を探し求めた。
(6) 原告の前記各言動は、被告経営者に対する批判、被告の経営権・人事権に
対する不当な干渉に止まらず、被告代表者Aの更迭を直接または間接に目的とした
ものであり、しかもそれは原告の矯正し難い独善的・排他的性格に由来するもので
ある。
2 原告の主張
(一) 被告は、県の関連会社であり、元来税金の出資によって設立され、業務も
県の施策の実現を目指すものであり、公共的色彩の強いものであるから、天下り役
員が高額な役員報酬を得ているとすれば、一私企業の問題として済まされることで
はない。
 したがって、原告が県の関連の同種会社や公社の役員と比較するための調査をし
たとしても何ら問題はなく、その際に被告の役員報酬額が同種会社や公社に伝わっ
たとしても、被告の信用や名誉を失墜することはない。
(二) 原告が被告内部で経営の問題点や体質に意見を述べ、改善策を出すこと
は、営業本部次長の職責上むしろ当然のことであり、何ら問題はない。
(三) 被告の役員に対する報酬の高額なこと及び公私混同等についての批判は、
原告の雇傭当時から一般従業員の間にあり、特に原告が積極的に批判を展開し、従
業員の間にそのような傾向を強めたことはない。
(四) 原告は、始末書の提出を求められる根拠がないことを明らかにするため、
所感を提出したものであり、また、根拠がないにもかかわらず一方的に始末書を提
出すべきことを命じ、これに応じなかったことをもって解雇事由とすることはでき
ない。
(五) 以上のとおり、本件解雇は解雇権の濫用として無効である。
第三 争点に対する判断
一 被告主張の各事由について
1 昭和六二年六月二六日開催の営業会議における発言、詰問について
 証人F及び同Aは、被告の右主張に沿う供述をし、甲三八の一(A作成の上申
書)にも同趣旨の記載がある。
 しかし、証人F及び同Aの右供述、甲三八の一の記載は、証拠(甲二二の三、乙
二〇、証人J、同K、原告本人)に照らしてにわかに信用することができない。
 かえって、前掲各証拠によれば、原告は、同会議においてC常務に対し、議題に
関連して、営業方針や稼働率四〇パーセントを達成できない理由の分析をしている
かどうかについて質問し、これについて自己の意見を述べたにすぎず、役員を批判
したことはなく、同会議が混乱したこともなかったことが認められる。
2 ウオターガーデンの利用料金値上案の起案に関するE総務課長代理に対する妨
害及び経営者批判について
 甲三八の一(A作成の上申書)には、被告の右主張に沿う記載があるが、右記載
は、証拠(証人J)に照らしてにわかに信用することができない。
 かえって、右証拠によれば、原告や営業本部に所属するJは、ウオターガーデン
の利用料金値上につき許可権を有する県都市整備課を訪れた際、同課の職員から値
上許可には消極であるとの意向を洩らされことから、原告がこれをE総務課長代理
に伝えたにすぎず、原告が同総務課長代理の作業を妨害したことはないことが認め
られる。また、右の程度の行為をもって、原告が利用料金の増額を決定した経営陣
を批判したともいえないことは明らかである。
3 料理店三田浜におけるガーデンハウスの幹部更迭の発言、及びガーデンハウス
の調理場の総入替えの発言について
 証人F及び同Aは、被告の右主張に沿う供述をし、甲三八の一(A作成の上申
書)にも同趣旨の記載がある。
 しかし、証人F及び同Aの右供述、甲三八の一記載が伝聞であることは右供述及
び記載に照らして明らかであるところ、他にこれを裏付けるに足りる的確な証拠は
ないから、右供述及び記載はにわかに信用することができない。そして、右のよう
な発言をしたことは原告本人において強く否定するところである。
4 ガーデンハウスにおけるF支配人代理に対するガーデンハウスの調理場の総入
替えの発言について
 証人Fは、原告は、昭和六二年暮れの宴会シーズンのころガーデンハウスにおい
てF支配人代理に対し、自分が紹介した利用客の八〇パーセント位がガーデンハウ
スの料理がまずいと言っている、それではまずいから調理場を代えようと述べたこ
とを供述している。
 なるほど、証拠(甲二六、二八、証人F、同A、同J、原告本人)によれば、原
告は、ガーデンハウスの利用客に対するアンケート結果ではガーデンハウスの料理
に不満が多かったことから、同年一一月一六日の営業会議においてそのことを発言
したこと、A社長は、その際、メニュー検討委員会で検討するようにとの指示を与
えたことが認められる。したがって、原告がF支配人代理に対し、自分が紹介した
利用客の八〇パーセント位がガーデンハウスの料理がまずいと言っていると述べた
ことが推測されるところであるが、原告がそれ以上に調理場を代えようと述べた点
については、A社長がメニュー検討委員会で検討するようにとの指示を与えた段階
において、原告が右のような発言をするとは通常考えられないところであるから、
にわかに信用することができない。
 なお、甲三八の一(A作成の上申書)には、原告がそのころガーデンハウスにお
いて調理長Lに対し、ガーデンハウスの調理場を総入替えしてやると述べたとの記
載があるが、右記載は証拠(原告本人)に照らしてにわかに信用することはできな
い。
5 昭和六三年の新年会の席における発言について
 証人Fは、被告の右主張に沿う供述をし、甲三八の一(A作成の上申書)にも同
趣旨の記載がある。
 しかし、他にこれを裏付けるに足りる的確な証拠はないから、右供述及び記載は
にわかに信用することができない。
6 昭和六三年二月一三日のガーデンハウス事務室におけるF支配人代理に対する
暴言及び人事権の介入について
 証人Fは、被告の右主張に沿う供述をし、甲三八の一(A作成の上申書)にも同
趣旨の記載がある。
 しかし、他にこれを裏付けるに足りる的確な証拠はないから、右供述及び記載は
にわかに信用することができない。
7 同六二年一二月中旬及び同六三年三月二日のE総務課長代理に対する脅迫につ
いて
 証人Fは、同六三年一月E総務課長代理から、原告が同人に対し「会社で俺に逆
らうのはお前とFだけだ。首にしてやる。」と述べた旨、被告の右主張に沿う供述
をし、また、甲三八の一(A作成の上申書)には、被告の右供述に沿う記載があ
る。
 しかし、証人Fの右供述及び甲三八の一の右記載は、証拠(原告本人)に照らし
てにわかに信用することができない。
8 昭和六三年一月七日の営業会議における発言、経営者批判及び議事進行の妨害
について
 証人Hは、一部被告の右主張に沿う供述をし、甲三八の一(A作成の上申書)に
は、被告の右主張に沿う記載がある。
 しかし、右営業会議の席において被告の右主張に沿うような発言をしたことは、
原告本人及び証人Jにおいて強く否定するところである。そして、他に的確な証拠
はないから、証人Hの右供述及び甲三八の一の記載はにわかに採用することができ
ない。
9 昭和六三年一月八日のガーデンハウス分科会における発言、経営者批判及び議
事進行の妨害について
 原告が、右ガーデンハウス分科会において、D専務取締役に対し、「経営者の会
社業務の現状認識は不十分である。このままでは会社は行き詰まってしまう。経営
者と社員の責任は明確にすべきである。」と述べたことは、原告において自認する
ところである。
 証人Hは、この点に関し、これと同趣旨を供述するほか、原告はH営業本部長か
ら再三経営者批判をやめるように制止されて、ようやくその場は収まった旨供述
し、また、甲三八の一(A作成の上申書)には、被告の右主張に沿う記載がある。
 しかし、証人Hの供述によれば、原告がその際にD専務取締役に詰め寄ったと
か、H営業本部長から制止されたにもかかわらず、発言を中止せず、議事の進行を
妨害したことは窺えないところであるから、この点に関する甲三八の一の記載は信
用することができない。
10 昭和六三年一月二五日の同年度予算会議における発言及び議事進行の妨害に
ついて
 原告が、右予算会議の席において、「各部門別に独立採算制を目指し、機構改革
をしなければ、業績を伸ばすことは確実に無理である。」と述べたことは、原告に
おいて自認するところである。この点に関し、甲三八の一(A作成の上申書)に
は、被告の右主張に沿う記載があるが、右記載はにわかに信用することができず、
原告が自認する以上の事実を認めることはできない。
11 昭和六三年二月三日のガーデンハウス分科会の席における経営者批判の暴言
及び会議の流会について
 証人Hは、一部被告の右主張に沿う供述をし、甲三八の一(A作成の上申書)に
は、被告の右主張に沿う記載がある。
 しかし、右分科会に出席したこと自体原告において強く否定するところであり、
証人Jも同趣旨を供述している。そして、他に原告が右分科会に出席し、右のよう
な発言をしたことを認めるに足りる的確な証拠はないから、証人Hの右供述、甲三
八の一の記載はにわかに採用し難い。
12 昭和六三年二月二五日の営業本部会議における稼働率に関する発言及び議事
の進行妨害について
 右営業本部会議において、I支配人が昭和六三年度ガーデンハウスの予算案にお
いて稼働率を四〇・九パーセントと設定し、これに対し原告が稼働率を三八パーセ
ントないし三九パーセントとすべきであると主張し、意見が対立し、原告が大声を
出したこと、そして、原告が、「具体的な裏付けなくして四〇・九パーセントとす
るなら次長としては責任を持てないので、その旨私の意見を付記しておいて欲し
い。」と述べたことは原告において自認するところである。
 証人Hは、この点に関し、被告の右主張に沿う供述をし、また、甲三八の一(A
作成の上申書)には、同趣旨の記載がある。
 しかし、証人Hの右供述及び甲三八の一の右記載は、証拠(甲四七、証人J、原
告本人)に照らしてにわかに採用することができない。
13 役員報酬等の批判(被告の主張(一)(13)及び(三)(1))について
 被告の右主張のうち、(一)(13)の主張を認めるに足りる証拠はない。もっ
とも、原告がAに対し直接に高額な報酬の是正を直言したことがあることは原告に
おいて自認するところである。
 ところで、証拠(甲二三、証人F、同J、同K、原告本人)によれば、次の事実
が認められる。
(一) 原告は、被告の従業員の間に役員の報酬及び退職金が高額であるとの批判
があり、特に被告の中間管理職からの批判が強かったことから、昭和六二年九月A
社長に対し、役員の報酬については社員の間に不満が強いので、同年一〇月に予定
されている役員報酬の増額を止めるように進言した。しかし、A社長らは、同年一
〇月から役員報酬を一律に月額四万円増額し、A社長の報酬月額は約八一万円とな
った。
(二) 原告は、同年一〇月ころ県住宅供給公社の理事長に対し、A社長は月額八
一万円の報酬を受けているが、理事長の報酬はどのくらいかと尋ね、理事長からそ
の報酬が月額五五万円であることを聞き出した。
以上の事実が認められ、右認定に反する証人Aの供述はにわかに信用することがで
きない。
14 A社長及びD専務取締役に対する経営理念の開示要求について
 証拠(甲一二の一、二、甲一三、乙三〇、原告本人)によれば、原告は、昭和六
二年一一月二回にわたって開かれた経営計画策定のための打合せの席において、経
営理念の導入を提案し、その必要はないと主張するA社長と対立し、二回目の打合
せの席において四時間半にわたり議論をし、遂にA社長をして、「僕の意見が通ら
ないなら僕は社長を辞める。」とまで発言させるに至ったことが認められる。
 しかし、原告が右打合せ会の席においてA社長に対し経営理念の開示を執拗に要
求したことを認めるに足りる証拠はない。
15 原告の言動に対する管理職の意見等について
 証人Hは、原告の言動は被告には社長が二人いるという印象を社内に与え、社員
間に動揺が見られるようになったこと、M営業部長、F支配人代理から原告のいる
会社では勤務できない、会社を辞めたいという意向が出されたことを供述してい
る。
 そして、証拠(証人F)によれば、F支配人代理は、原告が自己の地位を脅かす
言辞を吐いていると考え、もし原告のこのような言動が許されるのであれば、被告
を辞めたいと考えたことがあること、M営業部長、E総務課長代理も、Fと同様に
原告の言動に批判的であったことが認められるが、それを越えて、証人Hの供述に
かかる事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
 なお、証拠(乙二五の一、被告代表者)によれば、I支配人、M営業本部部長、
F支配人代理、E総務課長代理、L調理長ら二四名は、平成元年七月一九日被告代
表者に対し、原告の復職には反対であり、原告が復職したときは辞職を考えざるを
えないとの趣旨を記載した嘆願書を提出したことが認められるが、この事実から、
これらの者が一様に本件解雇前から原告が在職している限りは辞職するとの意向で
あったものと認めることはできない。
16 Aらによる注意とこれに対する原告の対応について
 証拠(甲一七、三二、三三の一、二、乙三の一ないし四、乙四、一七の一、二、
一八、一九、証人H(一部)、同A(一部)、原告本人(一部))によれば、次の
事実が認められる。
(一) D専務取締役は、常務会の決定に基づき、昭和六三年二月二六日役員室に
おいてH常務取締役同席のうえ、原告に対し、原告の従前の言動を取上げ、次の趣
旨を注意した。①会議の中ばかりではなく社内の一般事務室内でとかく経営者批判
をし、また、上司との会話の中でも相手を上司と認識しない激しい発言をしてい
る、これらの言動は職場の秩序または規律を乱すことである、②若い社員に給料を
上げてやる、中間管理職・役員など相手にするな、不満があれば解消してやるなど
と言っている、およそ営業本部次長の職務から離れた言動をしているのは遺憾であ
る、③調理員にかかわる不穏な言動があるやに外部から耳に入っている、総務部長
の後任人事にも言及している。
 これに対し、原告は、注意されたようなことはしていないと述べて反発し、後れ
て同席したA社長に対し、「会社の収益が下がったのに、役員報酬を上げるとは何
事だ。」、「三月に辞めろということですね。」と発言し、手荒くドアを閉めて退
席した。
(二) 原告は、同月二九日、前記注意に関して、役員報酬が高額であること、従
業員の間に役員の社費に関する公私混同の批判があること、役員の経営能力が低い
と批判するかのように記載し、更に、役員の報酬・退職金、役員の公私混同など会
社の実態をまとめ、県、県議会などを通して県民の意見を求めて行く旨記載した所
感(甲一七、乙四)を提出した。
(三) 原告は、同年三月一日紹介者のB都市部長に対し、前記のとおりD専務取
締役らから注意を受けたこと及びこれに対し前記所感を提出したことを報告したう
え、B都市部長の質問に答え、役員報酬やA社長の公私混同について話した。
(四) A社長は、B都市部長の意向のもとに、同月一〇日役員室においてD専務
取締役及びH常務取締役同席のうえ、原告に対し、前記所感を提出したことに関し
社員のとるべき態度行動ではなく甚だ遺憾であると述べたうえ、原告の現在の心境
について尋ねた。原告は、これに対し、反省はしていないとの趣旨の発言をした
後、社印使用簿のコピー(甲三三の一、二)をテーブルの上に出し、A社長に対
し、「これはなんですか、支払伝票を勝手に差し換えている、これは正に文書偽造
であり訴えてやる。」、「一方的に自分に反省を求めるとは何事か、不当行為で訴
えてやる。こうなったら自分は徹底的に戦う。」と述べた。そこで、A社長は、原
告に対し、一週間待つから再考して欲しいと述べた。
(五) A社長は、同月一七日役員室においてD専務取締役及びH常務取締役同席
のうえ、原告と面談したところ、原告から言動の行き過ぎについて反省するとの発
言があったことから、先ずその反省を書面にして貰いたいと述べた。これに対し、
原告は、書面の提出を拒否したため、A社長は、「私の提示に従わないのであれば
辞めて貰うしかない。明日決定を出す。」と述べた。
(六) 原告は、その後、B都市部長らの説得に応じ、始末書(甲三二)を作成し
たが、これを直接A社長らに提出せず、B都市部長に預け、A社長に提出すること
を依頼した。A社長は、B都市部長からの右始末書の受領を拒絶し、本件解雇の意
思表示をした。
以上の事実が認められ、証拠(証人H、同A、原告本人)中右認定に反する部分は
前掲各証拠に照らしてにわかに信用することができない。
 なお、D専務が原告に注意した点のうち、③の事実があったと認められないこと
は前示のとおりであり、また、①のうち、原告が社内の一般事務室内でとかく経営
者批判をしていた事実、②の事実については、これを認めるに足りる証拠はない。
17 原告の県が被告を査察するために自己を派遣したかの如き振る舞いについて
 この点に関する被告の主張(被告の主張(一)(3)ないし(7))が認められ
ないことは前示のとおりである。また、証人Hは、原告には、県が被告を査察する
ために自己を派遣したかの如き言動があったことを供述するが、にわかに信用する
ことができない。
 もっとも、原告がもと株式会社千葉日報社の県政記者であり、B都市部長の紹介
で被告に雇庸されたことは前記のとおりであり、証拠(甲二三、二四の一、証人
J、原告本人)によれば、原告は、もと株式会社千葉日報社の県政記者であった関
係から県庁内に知人・友人が多かったこと、原告は、被告の営業のため県庁の各部
局に出入りし、また、被告のスカイサイクル施設導入、ログハウス建設計画、ジュ
ニアアストロン大会開催のためしばしば県都市部ほかの関係部局に陳情に行ってい
たこと、これらの計画はいずれも実現されたことが認められ、右事実によれば、被
告従業員において原告が県に対する影響力があるのではないかと思ったことが窺え
なくはないが、この事実をもって原告において県が被告を査察するために自己を派
遣したかの如く振る舞ったとはいえない。
18 A社長の更迭について
 原告が、昭和六二年一一月経営計画策定のための打合せの席において、経営理念
の導入を提唱してA社長と対立し、A社長をして、「僕の意見が通らないなら僕は
社長を辞める。」と発言させるに至ったこと、原告が昭和六三年三月一日B都市部
長に対しA社長の公私混同について話したことは前示のとおりである。
 しかし、右事実をもって、原告が自己の望んでいた経営理念を示さないAに失望
し、同人の更迭を意図したとまで認めることはできない。そして、他にこの点に関
する被告の主張を認めるに足りる証拠はない。
二 各種会議における経営者批判、人事に対する介入、役員報酬の公然批判、A社
長の公私混同の批判等について
 被告主張の解雇理由の検討に先立ち、その前提となる右の点について検討する。
1 各種会議における経営者に対する批判について
 被告主張の、各種会議における発言、経営者批判及び議事進行の妨害、ウオター
ガーデンの利用料金値上案の起案に関するE総務課長代理に対する経営者批判の事
実を認めるに足りる証拠がないことは前示のとおりである。
 原告が、昭和六三年一月八日のガーデンハウス分科会において、D専務取締役に
対し、「経営者の会社業務の現状認識は不十分である。このままでは会社は行き詰
まってしまう。経営者と社員の責任は明確にすべきである。」と述べたことは、そ
の文言からすれば、被告経営者を批判したものということができる。また、原告が
同月二五日の同六三年度予算会議において、「各部門別に独立採算制を目指し、機
構改革をしなければ、業績を延ばすことは確実に無理である。」と述べたことは、
後記認定の経緯に照らせば、やはり被告経営者を批判したものということができ
る。
 ところで、証拠(甲一〇、一二の一、二、一三、一四、一九、二〇、二三、五三
乙一五の一ないし四、三〇、原告本人)によれば、次の事実が認められる。
(一) 被告の売上高は、昭和六〇年度は五億四四六二万円余であったが、同六一
年度は五億三〇一一万円、同六二年度は五億三四一五万円余にすぎず、頭打ちの状
態であり、利益額は、同六〇年度は一五八五万円余であったが、同六一年度は五〇
五万円余、同六二年度は一九九万円余に落ち込んだ。被告の経理担当者は、同六二
年度の下期収支見通しは非常に厳しいと判断していた。原告は、前記のとおり、被
告の従業員の間に役員の報酬及び退職金が高額であるとの批判があったことと、被
告の経営状態がこのような状態であったことから、前記のとおり同六二年九月A社
長に対し同年一〇月に予定されている役員報酬の増額を止めるよう進言していた
が、それにもかかわらず、同年一〇月役員報酬が増額された。
(二) 原告は、同年一一月営業会議等において経営計画の策定を提案し、A社長
に採用され、経営計画の策定に関与することとなった。ところが、前記のとおり同
月二回にわたって開かれた経営計画策定のための打合せの席において原告が強く提
案した経営理念の導入は、A社長の採用するところとならなかった。また、原告
は、同月の営業会議等においてA社長が提案した施設料金の値上案に対し、安易な
値上であるとして反対し、値上案のうちガーデンハウスの料金値上は見送られるこ
ととなった。
(三) 昭和六三年一月八日のガーデンハウス分科会及び同月二五日の同六三年度
予算会議においては、いずれも昭和六三年度予算編成が議題とされており、また、
その当時五か年計画の策定作業も行われている。
 右認定事実と、証拠(原告本人)によれば、原告の前記発言は、いずれも原告が
構成員であったガーデンハウス分科会及び予算会議において、その議題とされてい
た昭和六三年度予算編成、五か年計画の策定に関してされたものであり、これらに
おいては会社業務の現状認識が不可欠であり、機構改革も関連するものであるか
ら、原告の前記発言がその職責を逸脱したものとはいえない。そして、前記役員報
酬の増額、施設料金の値上案等には経営者の会社業務の現状認識に不十分なものが
あったことが窺われるところであるから、原告の前記発言が先に述べたとおり役目
の批判にわたり、仮にやや穏当を欠く点があったとしても、むしろ原告の職務熱心
の現れとみる余地があるものというべきである。
2 人事に対する介入について
 被告主張の人事に対する介入の事実を認めるに足りる証拠がないことは前示のと
おりである。
3 役員報酬等の公然批判について
 被告主張の、原告が公然とA社長等の報酬・退職金を批判したことを認めるに足
りる証拠がないことは前示のとおりである。
4 A社長の公私混同の批判について
 原告が、昭和六三年三月一日紹介者のB都市部長に対し注意を受けたことなどを
報告した際に、同都市部長の質問に答え、A社長の公私混同について話したことは
前示のとおりである。
 証拠(甲一七、二三、三三の一、二、証人A、同K、原告本人)によれば、次の
事実が認められる。
(一) 原告は、被告の中間管理職等からA社長には公私混同があるとの強い批判
を聞いた。原告が聞いたA社長の公私混同は、①A社長が行き付けの飲食店の開店
二周年祝に交際費から二万円を支出したこと、②A社長が蓮沼事業所に行くたびに
深夜まで飲み歩き、その飲食費を社費で支出したこと、③A社長が二〇〇〇円前後
の書籍代まで社費で支出したことなどであった。原告は、このため、昭和六二年一
二月ころD専務取締役に対し、従業員の間にA社長に公私混同があるとの批判があ
るので、A社長に対しその旨進言されるように述べたことがあった。
(二) 原告は、被告従業員から入手した社印使用簿(甲三三の一、二)を入手
し、当初は同六三年二月二七日の欄に予算会議飲食代の支出の記載があったが、後
にこれが予算会議時飲食代の支出の記載がないものに差し換えられていたことか
ら、飲食費を社費で支出したものと考えた。
(三) そして、原告は、同年三月一日B都市部長に対し右の各事実を話した。と
ころで、A社長の右(一)①ないし③の支出が同人の職務と全く関係がないとか、
被告の儀礼上の観点を考慮しても許されないものであるとかの事実を認めるに足り
る的確な証拠はない。そうとすれば、A社長の右(一)①ないし③の支出は、公私
混同の疑いが残るものであり、また、その支出の妥当性に問題があるとしても、社
長交際費等の社費の使用に関して公私混同があるものと認めることはできない。ま
た、証拠(証人A)によれば、前記(二)の支出は飲食した個人が負担する予定の
ものが誤って社費で支払われたものであり、これを是正し、飲食した個人が負担し
たものであることから、社印使用簿が差し換えられたものであることが認められる
(なお、経理や社印使用簿について誤った処理をした場合、これを是正する際に経
理に関する書類や社印使用簿を作成し直すことが許されるのは当然である。)。そ
して、原告がA社長の右各支出が公私混同であると信じたことが相当の理由があっ
たことを認めるに足りる証拠もない。
三 被告主張の解雇理由について
1 役員報酬の批判について
 原告が、昭和六二年一〇月ころ県住宅供給公社の理事長に対し、A社長は月額八
一万円の報酬を受けているが、理事長の報酬はどのくらいかと尋ね、理事長からそ
の報酬か月額五五万円であることを聞き出したことは前示のとおりであるところ、
原告の従前の行動等に照らすと、原告は同理事長に対し被告役員の報酬が高額であ
ることを批判したものと認められる。
 ところで、前記二1の事実と、証拠(甲一七、乙四、三〇、原告本人)によれ
ば、次の事実を認めることができる。
(一) 被告は、前記のとおり年間売上高が五億三〇〇〇万円ないし五億四〇〇〇
万円、利益が昭和六一年度五〇五万円余の会社であり、同六二年度は利益が大幅に
落ち込んでいた。
(二) 被告の役員報酬は、同六二年一〇月に引き上げられた結果、社長の報酬月
額は県の副知事のそれを、常務取締役の報酬月額も県の出納長のそれを上回り、県
住宅供給公社の理事長の報酬月額五五万円を上回った。
(三) 被告の役員報酬は、本件解雇後、同六三年度は一律一割減額され、また、
現在の被告代表者の報酬月額は約六四万円であり、他の役員の報酬はそれよりも低
額である。
右認定事実によれば、昭和六二年度当時の被告の役員の報酬はその経営規模、経営
状態や県の公社等に比較して高額であったことが認められる。
 被告の役員報酬の額は、その性質上、業務上の機密に属するものといえないし、
被告の役員報酬の額が他に知れることが被告の信用に影響しその利益を害する性質
のものともいえない。
 したがって、原告が県住宅供給公社の理事長に対しA社長の報酬が高額であるこ
とを批判したことが、会社の経営上やむを得ない事由があるときに該当するとはい
えない。
2 A社長の更迭について
 原告がA社長の更迭を意図したことを認めるに足りる証拠がないことは前示のと
おりである。
3 A社長らの注意に対する反発、暴言について
 原告が、D専務取締役からの注意に反発し、かえって、役員報酬が高額であるこ
と、従業員の間に役員の社費に関する公私混同の批判があること、役員の経営能力
が低いと批判するかのように記載し、更に、役員の報酬・退職金、役員の公私混同
など会社の実態をまとめ、県、県議会などを通して県民の意見を求めて行く旨記載
した所感を提出し、B都市部長に対しこれらを報告したこと、A社長の注意に対し
ても、反省の態度はなく、かえって、社印使用簿に関し文書偽造であり訴えてやる
とか、不当行為で訴えてやるなどと述べたこと、その後、自己の言動の行き過ぎに
ついて反省するとの発言があったが、始末書の提出を拒否し、その後始末書を作成
したものの、結局は被告に提出しなかったことは前示のとおりである。
 原告の右の言動は、D専務取締役及びA社長らの注意に対し、反省することな
く、反抗し、かえって役員の経営能力等を批判し、右の注意及び社印使用簿に関し
て暴言を吐いたものということができる。
 しかし、D専務取締役及びA社長らの注意は原告が会議の中で経営者批判をした
ことを除いては理由のなかったものであり、原告は、自己が会議の中で経営者を批
判したこと、A社長に対し役員報酬について批判したこと、D専務取締役に対しA
社長の公私混同を批判したことから、自己に対し注意に及んだものと判断し、これ
までの行き掛かり上、一時的な感情に流れて反発し、前記所感を提出し、暴言を吐
いたものと認められ、原告にはその後は反省の様子も見えたのである。そして、原
告が前記所感に、役員の報酬・退職金、役員の公私混同など会社の実態をまとめ、
県、県議会などを通して県民の意見を求めて行く旨記載したことについても、真実
その意思があったものとも認められないところである。これらの事情を考慮する
と、原告の右の言動に、職場の規律を維持し業務の円滑な遂行を図るうえで原告を
解雇することが真にやむを得ないと認められるような事情は認められないというべ
きである。
 したがって、原告の右の言動は、会社の経営上やむを得ない事由があるときに該
当するとはいえない。
4 以上のとおり、被告が主張する解雇理由は、一つ一つを検討しても、また、こ
れを併せ考えても、会社の経営上やむを得ない事由があるときに該当するとはいえ
ない。
四 通常解雇の事由に該当しなくとも通常解雇することができるか、解雇権の濫用
について
 被告の就業規則三二条の規定に徴すると、被告は右の就業規則を制定することに
よって自ら解雇権を行使しうる場合を就業規則所定の事由がある場合に限定したも
のと解されるから、そのいずれにも該当しない事由により解雇することは許されな
いものというべきである。
 もっとも、就業規則において懲戒解雇事由をもって通常解雇をなしえないと明確
に定められている場合を除いては、懲戒解雇事由に該当する事由がある場合には通
常解雇をすることができる旨を定めているものと解するのが相当である。証拠(甲
九)によれば、被告の就業規則において懲戒解雇事由をもって通常解雇をなしえな
いと明確に定められていないことが認められるから、被告の就業規則は懲戒解雇事
由に該当する事由がある場合には通常解雇をすることができる旨を定めているもの
と解すべきである。
 そこで、被告主張の各事由に関し証拠上認められ、または、原告において自認す
る事由が懲戒解雇事由に該当するか否かについて、以下検討する。
1 昭和六三年一月八日のガーデンハウス分科会、同月二五日の同六三年度予算会
議における経営者に対する批判について
 原告の右会議における発言が被告経営者を批判したものということができるが、
原告の前記発言がその職責を逸脱したものとはいえないし、仮にやや穏当を欠く点
があったとしても、むしろ原告の職務熱心の現れとみる余地があることは前示のと
おりである。
 したがって、原告の前記発言をもって、会社の秩序または職場の規律を乱したも
のとはいえない。
2 県住宅供給公社の理事長に対する役員報酬の批判について
 被告の役員報酬の額が、その性質上、業務上の機密に属するものといえないし、
被告の役員報酬の額が他に知れることが被告の信用に影響しその利益を害する性質
のものともいえないことは前示のとおりである。
3 A社長の公私混同の批判について
 原告が、昭和六三年三月一日紹介者のB都市部長に対し注意を受けたことなどを
報告した際に、同都市部長の質問に答え、A社長の公私混同について話したこと、
しかし、A社長に社長交際費等の社費の使用に関して公私混同があるものと認めら
れないことは前示のとおりである。
 しかし、右はA社長の名誉を毀損するおそれはあるものの、直ちに会社の名誉を
毀損したり、会社の利益を害するものとはいえない。また、その告知の相手方、機
会等に照らすと、会社の秩序または職場の規律を乱すものともいえない。
4 A社長らの注意に対する反発、暴言について
 原告が、D専務取締役及びA社長らの注意に対し、反省することなく、反抗し、
かえって役員の経営能力等を批判し、右の注意及び社印使用簿に関して暴言を吐い
たことは前示のとおりである。
 原告の右の言動は、会社の秩序または職場の規律を乱すものということができる
から、被告の就業規則五条二号、三五号一号、三六条四号に定める懲戒解雇事由に
当たるものである。
 しかし、前示の事情に照すときは、原告に対し解雇をもってのぞむことは、社会
観念上相当なものとはいえないから、本件解雇は解雇権の濫用として無効である。
(裁判官 丸山昌一)

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