弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人山口幾次郎の上告理由について。
 商人の行為はその営業のためにするものと推定され、商人の営業のためにする行
為は商行為となるから、宅地建物取引業者である被上告人が上告人の本件法律事件
に関して法律事務を取り扱つた行為は、被上告人の営業のためにするものと推定さ
れて商行為となり、したがつて、右法律事務の取扱につき報酬支払の約定がなくて
も、被上告人は商法五一二条により上告人に対し相当額の報酬請求権を有するので
ある。しかし、被上告人の右法律事務の取扱が商行為になるからといつて、直ちに
それが弁護士法七二条に触れるものということはできない。けだし、弁護士法七二
条は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、かつ、業として、他人の法律事件に
関して法律事務の取扱等をすることを禁止しているのであり(最高裁昭和四四年(
あ)第一一二四号、同四六年七月一四日大法廷判決・刑集二五巻五号六九〇頁参照)、
右の「業として」というのは、反復的に又は反復の意思をもつて右法律事務の取扱
等をし、それが業務性を帯びるにいたつた場合をさすと解すべきであるところ、一
方、商人の行為は、それが一回であつても、商人としての本来の営業性に着目して
営業のためにするものと推定される場合には商行為となるという趣旨であつて、商
人がその営業のためにした法律事務の取扱等が一回であり、しかも反復の意思をも
つてしないときは、それが商行為になるとしても、法律事務の取扱等を業としてし
たことにはならないからである。そして、原審の適法に確定した事実によると、被
上告人のした法律事務の取扱は、本件行為のみであり、しかもそれを反復の意思を
もつてしたものとは認められないというのであるから、これを弁護士法七二条に触
れるものとすることはできない。そうすると、被上告人の本件行為を商行為である
とする一方、右行為が弁護士法七二条に触れないとした原審の判断は正当である。
その他原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官大塚喜一郎の反対意見
があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官大塚喜一郎の反対意見は次のとおりである。
 弁護士法七二条が、弁護士でない者の「報酬を得る目的で」かつ「業としてした」
法律事務の取扱等を禁止している規定であることは、多数意見のとおりである。し
かし、多数意見が、商人のする法律事務の取扱等が商行為となり、報酬請求権を伴
うようなものであつても、そのことから直ちにはその行為を右の「業としてした」
ものということはできず、したがつて弁護士法七二条に触れる行為とはいえないと
する点には賛成することができない。
 思うに、商法五〇三条、五一二条が、行為の回数を問わず、ある行為を商行為と
してこれにつき特別な定めをする所以は、その行為に本来の性質上、営利性はもち
ろん反復性が内在しているためにこれに相応した定めをすることを相当としている
からであり、商人のした行為が商行為とされるのも、たとえ一回であつても、その
営利性、反復性の故にこれを商行為とし、それに応じた法律上の取扱いをすること
を相当とするからにほかならないと解される。そうすると、商人のした法律事務の
取扱等は、一回であつてもそれが商行為となる以上、弁護士法七二条の関係におい
て、その法律事務の取扱等には営利性、反復性があり、「業としてした」ものに当
たるというべきである。また、多数意見引用の当裁判所大法廷判決は、弁護士法七
二条に触れる行為の要件として、「業としてした」ことを要するとするに当たつて
「同条は、たまたま縁故者が紛争解決に関与するとか、知人のため好意で弁護士を
紹介するとか、社会生活上当然の相互扶助的協力をもつて目すべき行為までも取締
りの対象とするものではない。」(刑集二五巻五号六九三頁)と判示するが、商行
為として報酬請求権を伴うような行為は、右にいう「社会生活上当然の相互扶助的
協力行為」とは性質上相容れないのであり、右判決の趣旨に照らすと、むしろ、こ
れを「業としてした」行為と見るのを相当とする。
 そうすると、宅地建物取引業者である被上告人のした行為中、弁護士法七二条に
いう他人の法律事件に関する法律事務の取扱いに当たるものは、同条に触れ、上告
人から被上告人への右行為の委任も無効であり、これについての被上告人の報酬請
求権も生じないと解すべきであるところ、原審が、被上告人の行為中、回答文・答
弁書の作成、和解交渉(原判決理由二の(9)、(11)、(12))の各行為は、弁護
士法七二条にいう他人の法律事件に関する法律事務の取扱いに当たり、かつ、商行
為であるとしながら、一方においてそれは「業としてした」ものでなく同条に触れ
ないとし、右行為について被上告人に報酬請求権を認めたのは、弁護士法七二条の
解釈、適用を誤つた違法があるといわなければならない(なお、原審は、被上告人
がたまたま知人である上告人から本件業務の処理を依頼された事実を前提として、
弁護士法七二条に触れないとしているが、もしこの事実に重きをおくとすれば、む
しろ、本件委託業務に対する商法五〇三条二項の推定が破れ、ひいて同法五一二条
の適用ができないことになるであろう。)。
 よつて、論旨は前述の限度で理由があり、原判決は破棄を免れないところ、弁護
士法七二条に触れる被上告人の前記行為を除いて被上告人の報酬額を定めるために
更に審理を要するから、本件を原審に差し戻すべきである。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    小   川   信   雄
            裁判官    吉   田       豊

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