弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件上告を棄却する。                    
       上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人近藤惠嗣の上告理由について
一 本件は、特許権者である被上告人が当該特許についてされた無効審決の取消し
を請求するものであるところ、原審の適法に確定した事実関係及び本件訴訟の経緯
の概要は、次のとおりである。
 1 被上告人は、名称を「D」とするE(以下「本件発明」という。)の特許権
者である。本件発明に係る特許(以下「本件特許」という。)について、特許出願
の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲第一
項及び第二項の記載は、別紙一のとおりである。
 2 上告人は、平成五年九月一四日、特許庁に対し、本件特許を無効にすること
について審判を請求し、平成五年審判第一八〇四一号事件として審理された結果、
平成七年一二月二二日、本件明細書の特許請求の範囲第一項及び第二項に記載され
た発明に係る特許を無効にすべき旨の審決(以下「本件無効審決」という。)がさ
れた。被上告人は、平成八年二月八日、本件無効審決の取消しを求める本件訴訟を
提起した。被上告人は、平成八年一一月一三日、本件明細書の特許請求の範囲の記
載等を訂正することについて審判を請求し、平成八年審判第一九二六六号事件とし
て審理された結果、本件訴訟の原審口頭弁論終結の前である平成九年一月八日、右
訂正をすべき旨の審決(以下「本件訂正審決」という。)がされ、確定した。本件
訂正審決により、本件明細書の特許請求の範囲第一項及び第二項の記載は、別紙二
のとおりに訂正された。
 二
【要旨】特許を無効にすべき旨の審決(以下「無効審決」という。)の取消しを求
める訴訟の係属中に、当該特許権について、特許出願の願書に添付された明細書の
特許請求の範囲が、明細書を訂正すべき旨の審決(以下「訂正審決」という。)に
より減縮され、訂正審決が確定した場合には、当該無効審決を取り消さなければな
らないものと解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。
 審決に対する訴え(以下「審決取消訴訟」という。)において、審判の手続で審
理判断されなかった公知事実との対比における無効原因は審決を違法とし又はこれ
を適法とする理由として主張することができないことは、当審の判例とするところ
である(最高裁昭和四二年(行ツ)第二八号同五一年三月一〇日大法廷判決・民集
三〇巻二号七九頁)。明細書の特許請求の範囲が訂正審決により減縮された場合に
は、減縮後の特許請求の範囲に新たな要件が付加されているから、通常の場合、訂
正前の明細書に基づく発明について対比された公知事実のみならず、その他の公知
事実との対比を行わなければ、右発明が特許を受けることができるかどうかの判断
をすることができない。そして、このような審理判断を、特許庁における審判の手
続を経ることなく、審決取消訴訟の係属する裁判所において第一次的に行うことは
できないと解すべきであるから、訂正後の明細書に基づく発明が特許を受けること
ができるかどうかは、当該特許についてされた無効審決を取り消した上、改めてま
ず特許庁における審判の手続によってこれを審理判断すべきものである。
 もっとも、訂正後の明細書に基づく発明が無効審決において対比されたのと同一
の公知事実により無効とされるべき場合があり得ないではないが、特許法は、一二
三条一項八号において、一二六条四項に違反して訂正審決がされたことが特許の無
効原因となる旨を規定するから、右のような場合には、これを理由として改めて特
許の無効の審判によりこれを無効とすることが予定されているというべきである。
 三 そうすると、本件訂正審決による本件明細書の特許請求の範囲の前記訂正の
うち、ロール軸交叉装置及びロール間隙調整装置が所定のロールに分けて備えられ
る構成が付加された点並びに各ロール周速及び各ロール間のバンクの回転について
の構成が付加された点は、特許請求の範囲の減縮に当たるものであるから、本件無
効審決はこれを取り消すべきものである。
 したがって、本件無効審決を取り消した原審の判断は、結論において是認するこ
とができる。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大出峻郎 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋
一友 裁判官 藤井正雄)
(別紙一)
 第一項 ゴム及びプラスチック等の高分子用カレンダーにおいて、第一ロールR
1と第二ロールR2とを略水平に並列し、該第二ロールR2の下側または上側に第
三ロールR3を第二ロールR2と平行でかつ第一ロールR1と略直交状に配置し、
該第三ロールR3の横側で第一ロールR1と反対側に第四ロールR4を第三ロール
R3と略水平でかつ第二ロールR2と略直交状に並置し、この第四ロールR4の下
側または上側で前記第二ロールR2と反対側に第五ロールR5を第四ロールR4と
平行でかつ第三ロールR3と略直交状に配置し、更に第五ロールR5の下側または
上側で前記第二ロールR2と反対側に第六ロールR6を第四ロールR4及び第五ロ
ールR5と平行でかつ第三ロールR3と略直交状に設置したことを特徴とする六本
ロールカレンダーの
構造。
 第二項 ゴム及びプラスチック等の高分子用カレンダーにおいて、第一ロールR
1と第二ロールR2とを略水平に並列し、該第二ロールR2の下側または上側に第
三ロールR3を第二ロールR2と平行でかつ第一ロールR1と略直交状に配置し、
該第三ロールR3の横側で第一ロールR1と反対側に第四ロールR4を第三ロール
R3と略水平でかつ第二ロールR2と略直交状に並置し、この第四ロールR4の下
側または上側で前記第二ロールR2と反対側に第五ロールR5を第四ロールR4と
平行でかつ第三ロールR3と略直交状に配置し、更に第五ロールR5の下側または
上側で前記第二ロールR2と反対側に第六ロールR6を第四ロールR4及び第五ロ
ールR5と平行でかつ第三ロールR3と略直交状に設置した六本ロールカレンダー
の構造において、第一ロールR1と第二ロールR2との間に高分子材料を投入して
両ロール間で圧延し、これを第二ロールR2のロール表面に沿って後方に送り、次
に第二ロールR2と第三ロールR3との間で圧延して、順次第三ロールR3と第四
ロールR4との間で圧延し、更に第四ロールR4と第五ロールR5との間で圧延し
て、最後に第五ロールR5と第六ロールR6との間で圧延することを特徴とする六
本ロールカレンダーの使用方法。
(別紙二)
 第一項 ゴム及びプラスチック等の高分子用カレンダーにおいて、第一ロールR
1と第二ロールR2とを略水平に並列し、該第二ロールR2の下側または上側に第
三ロールR3を第二ロールR2と平行でかつ第一ロールR1方向と略直交状に配置
し、該第三ロールR3の横側で第一ロールR1と反対側位置に第四ロールR4を第
三ロールR3と略水平でかつ第二ロールR2方向と略直交状に並置し、この第四ロ
ールR4の下側または上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール軸交叉装置
を備えた第五ロールR5を第四ロールR4と略平行でかつ第三ロールR3方向と略
直交状に配置し、更に第五ロールR5の下側または上側で前記第二ロールR2と反
対側位置にロール間隙調整装置を有する第六ロールR6を第四ロールR4及び第五
ロールR5と平行でかつ第三ロールR3と略直交状に設置し、各ロール周速を第一
ロールR1から順次後方に行くに従って速くしたことを特徴とする六本ロールカレ
ンダーの構造。
 第二項 ゴム及びプラスチック等の高分子用カレンダーにおいて、第一ロールR
1と第二ロールR2とを略水平に並列し、該第二ロールR2の下側または上側に第
三ロールR3を第二ロールR2と平行でかつ第一ロールR1方向と略直交状に配置
し、該第三ロールR3の横側で第一ロールR1と反対側位置に第四ロールR4を第
三ロールR3と略水平でかつ第二ロールR2方向と略直交状に並置し、この第四ロ
ールR4の下側または上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール軸交叉装置
を備えた第五ロールR5を第四ロールR4と略平行でかつ第三ロールR3方向と略
直交状に配置し、更に第五ロールR5の下側または上側で前記第二ロールR2と反
対側位置にロール間隙調整装置を有する第六ロールR6を第四ロールR4及び第五
ロールR5と平行でかつ第三ロールR3と略直交状に設置し、各ロール周速を第一
ロールR1から順次後方に行くに従って速くした六本ロールカレンダーの構造にお
いて、第一ロールR1と第二ロールR2との間に高分子材料を投入して両ロール間
で圧延し、これを第二ロールR2のロール表面に沿って後方に送り、次に第二ロー
ルR2と第三ロールR3との間で圧延して、順次第三ロールR3と第四ロールR4
との間で圧延し、更に第四ロールR4と第五ロールR5との間で圧延して、最後に
第五ロールR5と第六ロールR6との間で圧延する各ロール間のバンクの回転が順
次反対方向となることを特徴とする六本ロールカレンダーの使用方法。

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