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裁判例


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主文
1被告は,P1株式会社に対し,46万6790円及びこれに対する
同社にその支払を請求した日の翌日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員の支払を請求せよ。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告
の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,P1株式会社(以下「P1」という。)に対し,46万6790円
及びこれに対する平成19年7月21日から支払済みまで年5分の割合による
金員の支払を請求せよ。
第2事案の概要等
本件は,練馬区の住民である原告が,同区の執行機関である被告に対し,平
成19年4月22日に行われた練馬区議会議員選挙(以下「本件選挙」とい
う。)における候補者9名(原告を含む。)が,P1との間において選挙運動
のために使用する自動車の借入契約を締結し,公職選挙法(以下「公選法」と
いう。)及び練馬区の条例に基づき同区から当該自動車の使用に係る費用につ
きいわゆる公費負担を受けたことに関し,同社は,同区に対して,公費負担の
対象外の費用相当額を含めた過大な金額の請求をし,公費負担の対象外の費用
相当額を含む過大な金額の支払を受けたものであり,同区は,同社に対し,不
法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を有しているにもかか
わらず,その行使を怠っている旨主張して,地方自治法283条1項,242
条の2第1項4号の規定に基づき,①主位的には不法行為に基づく損害賠償請
求権に基づき,②予備的には不当利得返還請求権に基づき,同社に対して46
万6790円及びこれに対する平成19年7月21日(同区が同社に対して前
記の公費負担に係る金員を最後に支払った日の翌日)から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求するよう求める事案である。
1関係法令の定め
(1)公選法の定め
ア公選法141条1項は,地方公共団体の議会の議員及び長等の選挙にお
いては,候補者1人について,主として選挙運動のために使用される自動
車(道路交通法2条1項9号に規定する自動車をいい,その構造上宣伝を
主たる目的とするものを除く。以下「選挙運動用自動車」という。)1台,
拡声機1そろい等のほかは,使用することができない旨を定めている(1
号)。
イ公選法141条8項は,市の議会の議員又は長の選挙については,市は,
衆議院(小選挙区選出)議員等の選挙における取扱いに係る同条7項の規
定に準じて,条例で定めるところにより,公職の候補者の同条1項の自動
車の使用について,無料とすることができる旨を定めている。
ウ公選法266条1項は,同法中の市に関する規定は,特別区に適用する
旨を定めている。
(2)練馬区議会議員および練馬区長の選挙における選挙運動の公費負担に関す
る条例(平成6年練馬区条例第34号。乙2。以下「本件条例」という。)
の定め
ア本件条例1条は,同条例は,公選法141条8項等の規定に基づき,練
馬区議会議員及び練馬区長の選挙における選挙運動用自動車の使用等の公
費負担に関して必要な事項を定めるものとしている。
イ本件条例2条本文は,練馬区議会議員及び練馬区長の選挙における候補
者は,6万4500円に,その者につき公選法86条の4第1項等の候補
者の届出のあった日から当該選挙の期日の前日までの日数を乗じて得た金
額の範囲内で,選挙運動用自動車を無料で使用することができる旨を定め
ている。
ウ本件条例3条は,前記イの適用を受けようとする者は,道路運送法3条
1号ハに規定する一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者(以下「一般
乗用旅客自動車運送事業者」という。)その他の者との間において選挙運
動用自動車の使用に関し有償契約を締結し,練馬区選挙管理委員会(以下
「区選管」という。)の定めるところにより,その旨を区選管に届け出な
ければならない旨を定めている。
エ本件条例4条2号イは,練馬区は,前記ウの契約が一般乗用旅客自動車
運送事業者との運送契約以外の選挙運動用自動車の借入契約である場合,
候補者が当該契約に基づき当該契約の相手方に支払うべき金額のうち,当
該選挙運動用自動車のそれぞれにつき,選挙運動用自動車として使用され
た各日についてその使用に対し支払うべき金額(当該金額が1万5300
円を超える場合には,1万5300円)の合計金額を,当該相手方からの
請求に基づき,当該相手方に支払う旨を定めている。
2前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない。)
(1)当事者等
ア原告は,練馬区の住民であり,被告は,同区の執行機関である。
イ原告,P2,P3,P4,P5,P6,P7,P8及びP9は,いずれ
も,本件選挙(告示日・平成19年4月15日,選挙の期日・同月22
日)において候補者の届出をした者である(これらの者を総称して,以下
「本件候補者9名」という。)。
(2)選挙運動用自動車の借入契約等
ア本件候補者9名は,P1との間において,それぞれ,①借入期間を平成
19年4月15日から同月21日までの7日間,②契約金額を,P8を除
く8名については10万7100円(1日当たり1万5300円),P8
については10万1500円(1日当たり1万4500円)とする,選挙
運動用自動車の借入契約(これらの契約を総称して,以下「本件各借入契
約」という。)を締結し,区選管に対し,同月15日,その旨の届出をし
た(乙6の1∼9)。
イP1は,練馬区に対し,平成19年4月24日から5月7日までの間に,
本件候補者9名それぞれの選挙運動用自動車の使用に係る費用の公費負担
として,前記ア②の各契約金額相当額(合計95万8300円)の支払を
請求した(乙8の1∼6。なお,前記1に掲げた法令の定めに基づく,選
挙運動用自動車の借入契約による使用に係る費用の公費負担の制度を,以
下「本件制度」という。)。
(3)練馬区による公費負担
ア練馬区長から本件制度に係る支出命令の事務を委任されている区選管事
務局長は,平成19年4月25日,本件制度に基づく公費負担として総額
5855万3808円の支出負担行為をした。
イ区選管事務局長は,①P4については,平成19年5月2日,②P3に
ついては,同月8日,③原告,P8及びP9については,同月10日,④
P2,P5及びP6については,同月26日,⑤P7については,同年7
月17日,本件制度に基づく公費負担として,いずれも前記(2)イの請求
額と同額(合計95万8300円)をP1に対して支払うよう支出命令を
した(乙8の1∼6。これらの命令を総称して,以下「本件各支出命令」
という。)。
ウ練馬区収入役(平成19年6月26日以降は練馬区会計管理者)は,同
年5月9日から同年7月20日までの間に,本件各支出命令に基づき,P
1に対し,前記(2)イの請求額と同額(合計95万8300円)を支払っ
た(これらの支払を総称して,以下「本件各支出行為」という。)。
(4)住民監査請求及び本件訴えの提起
ア原告は,練馬区監査委員に対し,平成21年2月23日,①原告につい
ての本件制度に基づく公費負担につき,P1が6万1950円を過大請求
しており,原告が過大請求分の返還を申し出たにもかかわらず,区選管が
これを受領しないのは,違法,不当である,②本件選挙における他の候補
者等についても同様の過大請求がされている可能性があるため,調査の上,
過大請求がある場合は返還請求を行うこと等を求める,などとする住民監
査請求(乙9。以下「本件監査請求」という。)をした。
イ練馬区監査委員は,平成21年4月20日,本件制度に基づく公費負担
につき,P1が公費負担の対象とならない費用相当額も請求して支払を受
けていたとの原告の主張に沿う事情は認められず,同区による当該公費負
担に係る支出に違法,不当な点は認められないなどとして,本件監査請求
を棄却する旨の決定をし(甲1),同日,原告に対し,監査の結果の通知
をした。
ウ原告は,平成21年5月19日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
3争点
練馬区が,P1に対し,P1が本件候補者9名の選挙運動用自動車の使用に
つき本件制度に基づく公費負担の対象外の費用相当額を含めて不正な請求をし
その支払を受けたことを理由として,不法行為に基づく損害賠償請求権又は不
当利得返還請求権を有するか否か。
4争点に対する当事者の主張の要点
(1)原告の主張の要点
ア本件各借入契約における契約金額には,①事前メンテナンス料(車両本
体を選挙運動用の特殊な使用方法に耐え得るように整備するための費用),
②免責補償制度加入料(車両補償及び対物補償の免責額を補償するための
費用),③上乗せ補償制度加入料(車両補償,対物補償及び搭乗者補償を
増額するための費用),④積載物補償加入料(選挙運動における特装によ
る事故被害を補償するための費用),⑤NOC補償加入料(P1の責任に
よらない事故等が発生した場合のノンオペレーションチャージ〔車両の修
理等により生じた損失の一部を借主に負担させるもの〕を補償するための
費用)及び⑥キャリアオプションが含まれており,これらは,本件制度に
基づく公費負担の対象となる選挙運動用自動車の「使用に対し支払うべき
金額」(本件条例4条2号イ)には当たらないというべきである。
イ(ア)本件各借入契約においては,契約金額中における選挙運動用自動車の
「使用に対し支払うべき金額」及び前記ア①∼⑥の各費用それぞれの内
訳が明らかでない。そこで,本件各借入契約におけるそれぞれの契約金
額と,本件各借入契約により借り入れられたのと同車種の自動車をP1
における一般レンタカー向け料金表の「安心コース」(甲16)による
借入契約に基づいて7日間借り入れた場合の料金額との差額をもって,
本件制度に基づく公費負担の対象外の金額(前記ア①∼⑥の費用の合計
額)であると評価すべきである。
(イ)前記(ア)に従い,本件各借入契約に係る公費負担として支出された金
額のうち,本件制度に基づく公費負担の対象外というべき費用に相当す
る金額を計算すると,後記a∼eのとおり,合計46万6790円とな
る。
a原告,P4,P5及びP7(選挙運動用自動車として「○」を使
用)について
各6万1950円(10万7100円−4万5150円)ずつ
bP8(選挙運動用自動車として「○」を使用)について
6万4575円(10万7100円〔原告の主張金額〕−4万25
25円)
cP6及びP9(選挙運動用自動車として「○」を使用)について
各3万6940円(10万7100円−7万0140円)ずつ
dP3(選挙運動用自動車として「○」を使用)について
5万7750円(10万7100円−4万9350円)
eP2(選挙運動用自動車として「○」を使用)について
2万2785円(10万7100円−8万4315円)
ウP1の練馬区に対する前記イ(イ)の各費用相当額の請求は,公費負担の
対象についての区選管からの回答を自己に都合の良いように解釈した上で
された不正なものというべきであり,また,同社に対して同請求どおりの
金額を支払うべきものとした本件各支出命令及びこれを前提とする本件各
支出行為は違法,無効というべきであるから,練馬区は,同社に対して,
合計46万6790円の不法行為に基づく損害賠償請求権(主位的請求関
係)又は不当利得返還請求権(予備的請求関係)を有しているというべき
である。
(2)被告の主張の要点
ア本件候補者9名の選挙運動用自動車の使用に係る費用の本件制度に基づ
く公費負担につき,手続面での瑕疵は認められない。
イ区選管は,本件制度に基づく公費負担について,①公費負担の対象とな
る選挙運動用自動車として使用した各日についてその「使用に対し支払う
べき金額」(本件条例4条2号イ)とは,原則として選挙運動用自動車の
借入契約の「基本料金」を指す,②車両にかかわる保険・補償制度,事前
メンテナンス料等についても,基本料金に含まれるものであれば,本件条
例において定められた上限額の範囲内(1日当たり1万5300円)は公
費負担の対象となる,③看板,放送設備,キャリア等のいわゆる付帯設備
については,公費負担の対象とはならない,との取扱いを行っており,レ
ンタカー会社等からの公費負担に関する問い合わせに対しても,当該取扱
いを説明していた。なお,そのような取扱いは,東京都の他の特別区にお
いても同様であった。
また,区選管は,以上のほかに「基本料金」に含まれてはならない費用
について詳細な定めや指導はしておらず,本件選挙時に東京都から公選法
141条8項の解釈等につき通知や指導がされたこともなかった。
ウP1は,基本料金の設定に当たり,前記のような区選管の取扱いを確認
し,これに適合するように商品を作ったものである。
前記イ②のとおり,車両にかかわる保険・補償制度,事前メンテナンス
料等についても,基本料金に含まれるものであれば公費負担の対象となる
ものであるところ,P1の選挙運動用自動車の「基本料金」(本件各借入
契約の契約金額)には,①事前メンテナンス料,②免責補償制度加入料,
③上乗せ補償制度加入料,④積載物補償加入料及び⑤NOC補償加入料が
含まれるから,これらの費用を含んだ「基本料金」全部が公費負担の対象
となる。なお,⑥キャリアオプションについては,原告に対して無償のサ
ービスとして提供されたものであり,同社からその費用は請求されていな
いから,公費負担が問題となる余地はない。
エ以上のとおりであるから,本件候補者9名の選挙運動用自動車の使用に
係る費用についての本件制度に基づく公費負担は,いずれも適法なもので
あり,練馬区が,P1に対し,不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利
得返還請求をすべき根拠はない。
第3当裁判所の判断
1本件監査請求の適法性(監査請求期間の遵守)について
(1)本件監査請求の趣旨
本件監査請求の内容(前記第2の2(4)ア)等に照らせば,本件監査請求
のうち本件候補者9名についての本件制度に基づく公費負担に関する部分は,
本件訴えにおいて原告が主張している練馬区のP1に対する①不法行為に基
づく損害賠償請求権又は②不当利得返還請求権が存在していることを前提と
して,これらの請求権の行使を怠る事実を改める等のために必要な措置を講
ずべきことを請求するものであるということができる(以下,本件監査請求
のうち,上記①の行使を怠る事実に関する監査請求を「本件不法行為に係る
監査請求」といい,上記②の行使を怠る事実に関する監査請求を「本件不当
利得に係る監査請求」という。)。
(2)本件不法行為に係る監査請求について
本件不法行為に係る監査請求については,練馬区監査委員が同監査請求に
係る怠る事実の監査を遂げるためには,本件制度の下におけるP1の行為が
不法行為に該当するか否かを明らかにすれば足り,本件各支出命令の内容等
について検討しなければならないとしても,本件各支出命令が財務会計法規
に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にはないとい
うことができるから,上記監査請求については,地方自治法242条2項の
規定は適用されないと解するのが相当である(最高裁平成10年(行ヒ)第
51号同14年7月2日第三小法廷判決・民集56巻6号1049頁参照)。
したがって,本件不法行為に係る監査請求については,同項本文に規定する
監査請求期間を問題にする余地はないというべきである。
(3)本件不当利得に係る監査請求について
ア本件不当利得に係る監査請求は,本件各支出命令及び本件各支出行為が
違法であって,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不
行使をもって財産の管理を怠る事実とする住民監査請求であるということ
ができるから,本件各支出命令又は本件各支出行為がされた日を基準とし
て,地方自治法242条2項の規定を適用すべきものと解するのが相当で
ある(最高裁昭和57年(行ツ)第164号同62年2月20日第二小法
廷判決・民集41巻1号122頁参照)。
既に述べたとおり,本件各支出命令がされたのは,平成19年5月2日
から同年7月17日までの間であり,本件各支出行為がされたのは,同年
5月9日から同年7月20日までの間であるから,平成21年2月23日
にされた本件不当利得に係る監査請求は,同項本文に定める期間を経過し
た後にされたものといわざるを得ない。
イそうすると,本件不当利得に係る監査請求については,地方自治法24
2条2項ただし書にいう正当な理由の有無を検討すべきことになるところ,
普通地方公共団体又は特別区の住民が相当の注意力をもって調査を尽くし
ても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該普通地方公共団体又
は特別区の執行機関,職員等の財務会計上の行為の存在又は内容を知るこ
とができなかった場合には,上記正当な理由の有無は,特段の事情のない
限り,当該普通地方公共団体又は特別区の住民が相当の注意力をもって調
査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることが
できたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって
判断すべきものである(最高裁平成10年(行ツ)第69号,第70号同
14年9月12日第一小法廷判決・民集56巻7号1481頁参照)。
ウ争いのない事実,前提事実,証拠(甲1,2,5,11,乙1,6の1
∼9,8の1∼6,9,12の1∼9,14,16,証人P10,調査嘱
託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,①本件候補者9名の選挙運動用自
動車の使用に係る「選挙運動用自動車の使用等の契約届出書」及びそれに
添付されている本件各借入契約の契約書の写し(乙6の1∼9),本件各
支出行為の基礎となった本件各支出命令の命令書及びこれに添付されたP
1の練馬区長に対する本件各借入契約に係る公費負担の請求書(乙8の1
∼6),本件候補者9名それぞれの作成に係る「選挙運動用自動車使用証
明書(自動車)」(乙12の1∼9)のいずれにおいても,本件各借入契
約における契約金額の内訳(当該契約金額の中に前記第2の4(1)アのよ
うな諸費用が含まれている旨)は全く記載されていないこと,②区選管作
成の本件選挙に係る公費負担の手引(乙1)を見ても,区選管が,本件制
度に基づく公費負担につき後記2(1)アのような取扱いをしていたことを
うかがわせるような記載はないこと,③平成20年11月14日,本件選
挙と同時期の平成19年4月に行われた東京都墨田区長選挙及び同区議会
議員選挙の際の選挙運動用自動車の使用に係る費用の公費負担につき,い
わゆる水増し請求を疑われる可能性があるとして,同区長が公費負担に係
る金額を同区に返還し,あるいは,同区議会議員等がその返還手続を進め
ているなどとする新聞報道がされたこと,④原告は,前記③の報道をきっ
かけとして,本件制度に基づく公費負担についても同種の問題があるので
はないかと考えるに至り,平成21年1月,P1に対し,本件各借入契約
のうち原告に係るものにおける契約金額の内訳につき電話で問い合わせを
したところ,P1から,同月27日,上記契約金額(10万7100円)
中には,事前メンテナンス料,免責補償制度加入料,上乗せ補償制度加入
料,積載物補償加入料,NOC補償加入料及びキャリアオプションが含ま
れている旨が記載された回答書(甲2)のファックス送信を受けたこと,
⑤原告は,同年2月3日,区選管に対し,原告による選挙運動用自動車の
使用に係る費用の公費負担につき,P1が「選挙運動用自動車本体」以外
の料金を請求していることが分かったので,これを返還したいとの申出を
したが,区選管は,原告に対し,原告から直接返還金を受領することは原
則としてできない旨伝えたこと,⑥そこで,原告は,同月23日,本件監
査請求をしたことが認められる。
エ前記ウの各事実に,本件において,本件監査請求がされるまでの間に,
本件選挙における選挙運動用自動車の使用に係る費用の公費負担につき法
令上問題がある旨の指摘をする報道等がされたようなことをうかがわせる
資料は見当たらないことを併せ考慮すれば,①本件は,練馬区の住民が相
当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足り
る程度に本件各支出命令及び本件各支出行為の内容を知ることができなか
った場合に該当するものというべきであり,②また,本件監査請求は,練
馬区の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に
当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間
内にされたものというべきである。したがって,本件不当利得に係る監査
請求が地方自治法242条2項本文に定める期間を経過した後にされたこ
とについては,同項ただし書にいう正当な理由があるというべきである。
(4)小括
以上のとおりであるから,本件不法行為に係る監査請求及び本件不当利得
に係る監査請求(本件監査請求のうち本件訴えに関係する部分)は,適法な
ものというべきである。
2争点に対する判断
(1)認定事実
前提事実,証拠(甲2,7,11,乙1,14∼16,証人P10,調査
嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア区選管作成の本件選挙に係る公費負担の手引(乙1)においては,選挙
運動用自動車の借入契約による使用に係る費用の本件制度に基づく公費負
担の対象は「選挙運動用自動車として使用した各日の料金」の合計金額で
あるとされているが,具体的にどのようなものがこれに含まれるかについ
ては明記されていなかったところ,区選管は,①上記の「選挙運動用自動
車として使用した各日の料金」とは,原則として選挙運動用自動車の借入
契約の「基本料金」を指す,②車両にかかわる保険・補償制度(一般の自
動車借入契約において,借主が任意で加入するものとされているか否かは
問わない)に関する料金,事前メンテナンス料等についても,「基本料
金」に含まれるものであれば,本件条例において定められた上限額の範囲
内(1日当たり1万5300円)は,すべて公費負担の対象となる,③看
板,放送設備,キャリア等のいわゆる付帯設備については,公費負担の対
象とはならない,との取扱いをしていた。
イP1は,区選管に対し,本件制度に基づく公費負担の対象につき問い合
わせ,区選管から,車両にかかわる保険・補償制度に関する料金,事前メ
ンテナンス料等についても,「基本料金」に含まれるものであれば,本件
条例において定められた上限額の範囲内は公費負担の対象となる旨の回答
を得た上で,選挙運動用自動車の借入契約につき,当該自動車の使用料や,
後記ウのような保険・補償制度へのいわゆる加入料とともに,①事前メン
テナンス料,②免責補償制度加入料,③上乗せ補償制度加入料,④積載物
補償加入料及び⑤NOC補償加入料をも「基本料金」の中に一体のものと
して組み込む形で料金体系を定めた。
ウいわゆるレンタカー業者と一般の顧客との間における自動車借入契約
(以下「一般向けの自動車借入契約」という。)に適用される「基本料
金」には,自動車の使用料に加えて,当該自動車の運転により発生した交
通事故による損害を一定の限度においててん補するための保険・補償制度
への加入料が含まれているのが通常であり,例えば,P1の「安心コー
ス」では,対人補償は無制限(自賠責3000万円を含む),対物補償は
5億円(免責額は5万円),車両補償は時価額(免責額は原則5万円であ
るが,一部の車種については10万円となっている。)などとされている。
一方,P1では,一般向けの自動車借入契約においては,前記イ②及び③
(免責補償制度加入料,上乗せ補償制度加入料)は,「基本料金」には含
まれない,いわゆる任意加入の保険・補償制度のための費用と位置付けら
れており,また,前記イ①,④及び⑤は,選挙運動用自動車の借入契約に
特有のものとなっている。
エP1は,練馬区に対し,本件候補者9名についての本件制度に基づく公
費負担として,本件各借入契約における契約金額と同額の支払を請求し,
同区からその支払を受けたものであるところ,本件各借入契約における契
約金額は,前記イのような選挙運動用自動車の借入契約の「基本料金」を
基に算定されたものであり,その中に含まれている前記イ①∼⑤の各費用
の金額の具体的な内訳を特定することはできない。
なお,P1は,原告に対しては,その使用に係る選挙運動用自動車に加
えて,キャリアオプションの提供をしたところ,これは,無償のサービス
品として提供されたものであって,その費用は,原告に係る選挙運動用自
動車の借入契約における契約金額中に含まれておらず,練馬区において,
その費用に相当する金額の公費負担はしていない(P1が原告に対する回
答書〔甲2〕に前記1(3)ウ④のとおり記載したのは,キャリアオプショ
ンについても回答書に明記するようにとの原告からの要請に応じたもので
ある。)。
(2)主位的請求について
前記(1)によれば,P1は,本件制度に基づく公費負担の対象についての
区選管からの回答(区選管における実際の運用)を踏まえ,選挙運動用自動
車の借入契約の料金体系を定め,これに基づいて本件候補者9名との間にお
いて本件各借入契約を締結し,練馬区に対して本件制度に基づく公費負担と
して各契約金額相当額の支払の請求をして,その支払を受けたものであって,
このような本件の事実経過に照らせば,仮に,本件各借入契約における各契
約金額の中に,客観的に見れば本件制度に基づく公費負担の対象とならない
費用が含まれていたとしても,各契約金額相当額の支払を請求するに当たり
P1側に不法行為の成立要件である故意又は過失があったとまでは認め難い
というべきである。
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の主位的請求には,
理由がない。
(3)予備的請求について
ア本件制度に基づく公費負担の対象について
(ア)①前記第2の1のとおり,公選法266条1項,141条8項は,特
別区は,条例で定めるところにより,特別区の議会の議員の選挙につき
その候補者の選挙運動用自動車の「使用」を無料とすることができる旨
を定め,本件条例2条本文は,練馬区議会議員選挙における候補者は,
所定の金額の範囲内で選挙運動用自動車を「無料で使用すること」がで
きる旨を定め,同条例4条2号イは,同区は,同区議会議員選挙におけ
る候補者が選挙運動用自動車の借入契約に基づき当該契約の相手方に支
払うべき金額のうち選挙運動用自動車の「使用に対し支払うべき金額」
(上限は1日当たり1万5300円)を,当該相手方からの請求に基づ
いて支払う旨を定めている。このような本件制度に関する規定の文理に
照らせば,本件制度に基づく公費負担の対象の中心を成すのは,本件選
挙における候補者が選挙運動用自動車の借入契約に基づき当該契約の相
手方に支払うべき金額のうち,当該自動車の使用の対価に当たる部分,
すなわち,当該自動車の使用料(賃料)であることが明らかというべき
である。②また,前記(1)ウのとおり,一般向けの自動車借入契約の
「基本料金」に,当該自動車の運転により発生した交通事故による損害
を一定の限度においててん補するための保険・補償制度への加入料が含
まれているのは,自動車の使用には必然的に交通事故発生の危険が伴う
ものであるため,そのような危険の発生に対する相応の備えをしておく
ことが,当該自動車を使用する借主においても,貸主であるレンタカー
会社(自動車損害賠償保障法3条のいわゆる運行供用者に当たると解さ
れる。)においても,一般に必要不可欠であるということができ,交通
事故の被害者の速やかな救済という面からも望ましいためであると解さ
れる。このような事情は,選挙運動用自動車の借入契約に関しても,何
ら異なるところはないと考えられるから,一般向けの自動車借入契約に
おける「基本料金」に含まれる水準の保険・補償制度への加入料に相当
する金額も,社会通念上,当該自動車の「使用」のために必要不可欠な
ものとして,前記の選挙運動用自動車の「使用に対し支払うべき金額」
に含まれると解するのが相当である。
(イ)一方,一般向けの自動車借入契約において「基本料金」に含まれない
任意加入のものと位置付けられている保険・補償制度に加入するための
費用や,選挙運動用自動車に看板等を取り付けるための費用などは,交
通事故等から生ずる損害についての特別な補償等を付加したり,当該自
動車に特別な設備を付加したりするための費用にほかならず,これらに
相当する金額は,社会通念上,当該自動車の「使用」のために必要不可
欠なものとはいい難いものであって,前記の選挙運動用自動車の「使用
に対し支払うべき金額」には含まれないものと解するのが相当である。
そして,このことは,当該自動車の借入契約において,これらの特別な
費用を含めて「基本料金」が設定されている場合であっても,異なると
ころはないというべきである(このように解さないと,容易に制度の潜
脱が可能となり,妥当ではないというべきである。)。
(ウ)これを本件についてみるに,①事前メンテナンス料は,借入契約の目
的となる自動車を選挙運動用自動車としての使用に耐え得る状態に整備
するための費用とされるところ,それがそのような性格の作業に係るも
のとして相当とされる範囲内のものであれば,これに相当する金額は,
社会通念上,当該自動車を選挙運動用に使用するために必要不可欠なも
のということができる場合もあると考えられ,そのようなものは,本件
条例4条2号イにいう選挙運動用自動車の「使用に対し支払うべき金
額」に含まれると解され,本件制度に基づく公費負担の対象となるもの
というべきである。
一方,②免責補償制度加入料(車両補償及び対物補償の免責額を補償
するための費用),③上乗せ補償制度加入料(車両補償,対物補償及び
搭乗者補償を増額するための費用),④積載物補償加入料(選挙運動に
おける特装による事故被害を補償するための費用)及び⑤NOC補償加
入料(P1の責任によらない事故等が発生した場合のノンオペレーショ
ンチャージ〔車両の修理等により生じた損失の一部を借主に負担させる
もの〕を補償するための費用)は,交通事故等から生ずる損害について
の特別な補償等を付加するための費用であるというほかなく,これらに
相当する金額は,社会通念上,当該自動車の「使用」のために必要不可
欠なものとはいい難いと考えられるから,前記の選挙運動用自動車の
「使用に対し支払うべき金額」には含まれないものと解するのが相当で
あり,本件制度に基づく公費負担の対象とはならないというべきである。
なお,⑥原告に提供されたキャリアオプションは,前記(1)エのとお
り無償のサービス品であって,練馬区において,その費用に相当する金
額の公費負担はしていないから,この点に関する原告の主張は,その前
提を欠き,失当といわざるを得ない。
イ本件各支出命令及び本件各支出行為が違法,無効となる範囲等について
(ア)前記アにおいて述べたような本件制度に関する規定の文言や制度の内
容に照らせば,本件制度の適用を受けるためには,選挙運動用自動車の
使用に係る費用の公費負担の前提として,当該自動車の借入契約におい
て,公費負担の対象となる費用(前記ア(ア)①及び②)に関する契約金
額と,その対象とならない費用(同③)に関する契約金額とを,明確に
区別して約定することが求められていることが明らかというべきであっ
て,本件制度の下で練馬区が適法に支払をすることができるのは,本件
制度に基づく公費負担の対象となるもの(本件条例4条2号イにいう選
挙運動用自動車の「使用に対し支払うべき金額」)に含まれると明確に
認められる金額のみであると解するのが相当である。
(イ)これを本件についてみるに,本件各借入契約における契約金額は,い
ずれも,本件制度に基づく公費負担の対象となるべき選挙運動用自動車
の使用料等(相当とされる事前メンテナンス料を含む。)や一般向けの
自動車借入契約における「基本料金」に含まれる水準の保険・補償制度
への加入料に相当する金額と,その対象外である免責補償制度加入料,
上乗せ補償制度加入料,積載物補償加入料及びNOC補償加入料に相当
する金額とが混然一体として定められたものであって,契約上,これら
の内訳を特定することができないものであるから,練馬区がこのような
本件各借入契約における契約金額相当額につき本件制度に基づく公費負
担として支払をすることは,違法というべきである。したがって,本件
各支出命令及び本件各支出行為は,原告のその余の主張について判断す
るまでもなく,その全部が関係法令の定めに違反するものとして,違法
であって,無効なものであるといわざるを得ない。
ウ小括
(ア)そうすると,P1は,練馬区から,法律上の原因なく本件各借入契約
の契約金額に相当する金額(合計95万8300円)の支払を受けて利
益を受け,そのために同区に同額の損失を及ぼしたものというべきであ
る。したがって,同区が,P1に対し,原告が予備的請求において主張
する限度である合計46万6790円(原告,P4,P5及びP7につ
き各6万1950円,P8につき6万4575円,P6及びP9につき
各3万6940円,P3につき5万7750円,P2につき2万278
5円)の不当利得返還請求権を有していることは明らかである。
そして,練馬区の長である被告は,同区がP1に対して前記不当利得
返還請求権を有するにもかかわらず,その行使を怠っているということ
ができる。
(イ)一方,原告は,本件各支出行為に係る最後の支払がされた日の翌日で
ある平成19年7月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金の支払をもするよう求めているが,P1の不当利得返還
債務は債権者の請求を受けた時から遅滞に陥るものであるから(民法4
12条3項),練馬区は,P1に対し,同債務の履行を請求した日の翌
日からの遅延損害金の支払を請求することができるにとどまるというべ
きである(なお,仮に,予備的請求に係る附帯請求中に,平成19年7
月21日から同区がP1に前記不当利得返還債務の履行を請求した日ま
での間については民法704条前段の利息の支払を請求するよう求める
趣旨を含むとしても,主位的請求につき判示したところ〔前記(2)〕に
照らすと,P1が同条前段にいう悪意の受益者に当たるとまではいい難
いから,前記の結論を左右するものではない。)。
3結論
以上の次第であって,原告の主位的請求は,理由がないからこれを棄却し,
予備的請求は,主文1項の限度で理由があるからその限度でこれを認容し,そ
の余を棄却し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,
64条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官八木一洋
裁判官田中一彦
裁判官髙橋信慶

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