弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成26年3月27日判決言渡同日判決原本交付裁判所書記官
平成24年(ワ)第13709号損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日平成26年2月6日
判決
原告株式会社パナバック
同訴訟代理人弁護士碩省三
同紺谷宗一
被告株式会社德岡
同訴訟代理人弁護士中島宏治
同乕田喜代隆
同稲田堅太郎
同高橋昌子
同西田敦
主文
1被告は,原告に対し,197万0457円及びこれに対する平成24年1
2月23日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用はこれを4分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担
とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告に対し,943万2959円及びこれに対する平成24年
12月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5%の割合による金員
を支払え。
2被告は,原告に対し,別紙謝罪広告目録記載1の謝罪広告を同目録記載2
の要領に従い,同目録記載3の新聞及び掲載場所並びに掲載回数で掲載せよ。
第2事案の概要
1前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)
(1)当事者
原告は,清涼飲料水等の輸出入,国内販売等を目的とする株式会社である。
被告は,酒類,食料品等の輸出入,卸小売販売等を目的とする株式会社である。
(2)登録商標
原告は,以下のアからウまでの登録商標(以下それぞれを「本件商標1」など
という。)に係る商標権(以下それぞれを「本件商標権1」などという。)を有
している。
ア本件商標1
登録番号第3272479号
登録商標別紙商標目録記載1のとおり
出願年月日平成6年10月21日
登録年月日平成9年3月12日
更新登録平成19年5月1日
商品及び役務の区分第32類
指定商品ビール,清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,
乳清飲料
イ本件商標2
登録番号第5385550号
登録商標別紙商標目録記載2のとおり
出願年月日平成22年6月18日
登録年月日平成23年1月21日
商品及び役務の区分第32類
指定商品ビール,清涼飲料
ウ本件商標3
登録番号第5216613号
登録商標別紙商標目録記載3のとおり
出願年月日平成20年1月23日
登録年月日平成21年3月19日
商品及び役務の区分第32類
指定商品ビール,清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,
乳清飲料
(3)被告の行為等
ア原告商品の仕入れ
被告は,平成23年11月,ドイツ連邦共和国を本店所在地とする
(以下「カイザードーム社」とい
う。)から,別紙正面視商品写真掲載のノンアルコールビール(以下「原告商品」
という。)7110カートン(1カートン24缶,計17万0640缶)を仕入
れた(乙5)。
これら原告商品は,元々原告がカイザードーム社へ発注したものであったが,
原告がこれを受領しなかった後,カイザードーム社からの要請を受け,被告が購
入するに至った。
イ被告商品の販売
被告は,アのとおり仕入れた原告商品につき,別紙正面視商品写真の正面部分
はそのままとする一方,輸入者が原告であることのほか品名・原材料などが記載
された側面表示部分に,輸入者が被告であることなどを記載したシールを貼付し
(以下,シール貼付後の商品を「被告商品」という。),さらにその梱包ケース
の原告会社名などが記載された部分に被告会社名及び本店所在地を記載したシー
ルを貼付の上,5130カートンを,平成23年12月12日から平成24年3
月22日に販売を中止するまでの間,以下のとおり販売した(甲3~5,乙5)。
(ア)店舗販売1カートン当たり999円にて2958カートン
(イ)卸販売1カートン当たり957.6円にて1440カートン
(ウ)通販サイト販売2カートン当たり2980円にて732カートン
別紙側面視商品写真は,左側がシール貼付前の原告商品,右側がシール貼付後
の被告商品であり,また,別紙梱包ケース写真は,左側が原告商品を梱包したシ
ール貼付前の梱包ケースであり,右側が被告商品を梱包したシール貼付後の梱包
ケースである。
ウ指定商品の範囲
被告商品(ノンアルコールビール)は,本件商標1,同2及び同3の指定商品
の範囲に含まれる。
エ原告による原告商品の販売
原告は,被告が被告商品を販売した当時,原告商品を販売していた(甲23,
弁論の全趣旨)。
2原告の請求
原告は,被告による被告商品の販売が本件商標権1,同2及び同3を侵害する
ものであるとして,商標権侵害の不法行為に基づき,943万2959円の損害
賠償(訴状において原告の請求した損害賠償額は798万7075円であったが,
平成25年4月22日送達の準備書面1において787万9960円に減縮し,
さらに平成25年9月3日送達の請求の趣旨拡張申立書において943万295
9円に拡張した。)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成24年12
月23日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求
めている。
3争点
(1)本件商標権1,同2及び同3侵害の有無等(争点1)
(2)原告の損害(争点2)
(3)信用回復措置(商標法39条,特許法106条)の必要性(争点3)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(本件商標権1,同2及び同3侵害の有無等)について
【原告の主張】
(1)本件商標権1及び同2の侵害
被告は,本件商標1及び同2が付された被告商品を販売し,本件商標権1及び
同2を侵害した。
被告は,「」の欧文字からなる商標に関する事情を縷々主張するが,
他の商標に関する事情が,本件商標権1及び同2の侵害の成否を左右するもので
はない。
(2)本件商標権3の侵害
被告は,被告商品の梱包ケースについて,本件商標3の付された部分をシール
で貼付し,これを見えなくした上で被告商品を販売しているが,これも本件商標
権3を侵害するものといえる。
【被告の主張】
(1)本件商標権1及び同2の侵害
被告商品には,「PRIMESELECT」及び「」の欧文字のほか,
「」の欧文字からなる商標が使用されているが,同商標は,カイザー
ドーム社が1980年に当時の西ドイツで商標登録し,1983年以降,世界規
模で販売を拡大してきた商品に付されていたものである。そのため,被告商品を
他商品と識別する際に最も重要な商標は,「」である。その一方,
「PRIMESELECT」及び「」の文字は他のノンアルコールビール
にも類似商標が使用されており,独自の識別性を持たず,あくまで「」
という商品の特徴を補完して説明するにすぎない。そして,被告は,製造元であ
るカイザードーム社から被告商品を輸入し,販売するものであるから,並行輸入
として許容され,商標権侵害には当たらない。
また,原告は「PROSTEL」の商標も商標登録していたが,カイザードーム社
からの無効審判請求において,不正の目的(商標法4条1項19号)によるもの
と認定の上で無効とされている。原告が,同商標登録につき,不正の目的が
あったとして無効とされていながら,同商標を付した被告商品について,他の商
標に係る権利を行使することは権利の濫用というべきである。
(2)本件商標権3の侵害
争う。
2争点2(原告の損害)について
【原告の主張】
(1)商標法38条1項又は同条2項によって算定される損害額
商標法38条1項又は同条2項のいずれか高く算定される金額が被告商品の販
売によって原告の被った損害の額である。
ア商標法38条2項による算定
(ア)被告が,被告商品5130カートンを販売して得た金額は,店頭販
売分295万5042円(999円×2958カートン),卸販売分137万8
944円(957.6円×1440カートン)及び通販サイト販売分109万0
680円(1490円×732カートン)の計542万4666円である。
他方,被告は,被告商品を1カートン当たり2.82ユーロで仕入れたもので
あり,当時の為替レートである1ユーロ=105.16円で計算すると,これら
5130カートンの仕入れ総額は152万1307円となる。
そのため,被告が被告商品の販売によって得た利益は,販売金額542万46
66円から仕入れ額152万1307円を控除した390万3359円であり,
商標法38条2項により,同額が原告の被った損害といえる。
(イ)被告の主張する他の費用については争う。【被告の主張】欄(2)ア
①のうち,シール貼付作業代金について,被告は見積書(乙20)を提出するの
みで,費用支出の証拠はない。また,同②から⑧までの費用についても,見積書
(乙21,22)が提出されるにとどまっている上,その作成日は平成22年1
0月及び11月であり,被告による被告商品の販売時期とは異なっている。
イ商標法38条1項による算定
原告商品1缶当たりの利益は,19.09円(売値56.45円-仕入原価35.
31-配送費2.05円)であるため,これに被告の販売数量である12万31
20缶(24缶×5130カートン)を乗じた235万0360円が,商標法3
8条1項によって算定される損害額である。
(2)値下げにより被った損害額
原告は,平成24年2月2日,はまゆう物産株式会社(以下「はまゆう物産」
という。)から,原告商品約4000ないし6000カートンの購入を打診され
て代金交渉に入ったが,同月16日,はまゆう物産から,被告が1缶15円から
20円での販売を申し入れている旨抗議を受け,さらに被告が1缶10円に下げ
てきた,被告の提示額以下にするなら買ってもよい旨連絡があったため,結局1
缶20円まで値下げして原告商品6400カートンを販売せざるを得なかった。
原告商品の販売価格は1缶当たり平均約56円であるため,1缶当たり36円
値下げして販売することを余儀なくされたもので,その合計は6400カートン
(15万3600缶)分の552万9600円である。これは原告商品の販売交
渉中に,被告が被告商品の安売りを原告の得意先に働きかけたことによるもので
あり,被告商品の販売による商標権侵害と因果関係のある損害といえる。
この点,被告は3分の1ルール,つまり,賞味期限との関係による値下げで
あった旨主張するが,食品業界の一部にしか通用しないルールであり,原告商品
には全く適用がない。現に原告は,はまゆう物産への販売以降も,はまゆう物産
以外に対しては,1缶当たり約50円で原告商品を販売しており,3分の1ルー
ルによる値下げがなかったことは明らかである。
(3)寄与度減額の主張に対する反論
原告は,10年以上にわたって,本件商標1を付したノンアルコールビールを
次々と発表し,相当な時間と費用を費やして広告,販売をしてきた上,中でも特
に高品質なノンアルコールビールに本件商標2を付加し,原告商品を作り出した
ものである。被告は,被告商品にとって最も重要な商標は,「」であ
る旨主張するものの,同商標の付されたノンアルコールビールはドイツでは一定
の評価を得ているかもしれないが,日本の市場では全く認知されていない。
したがって,被告商品の顧客吸引力は,本件商標1及び同2に由来することが
明らかであり,他の要素による減額を考える余地はない。
(4)小括
したがって,原告は,上記(1)アと(2)をあわせた943万2959円(=3
90万3359円+552万9600円)の損害を被ったものであり,また,上
記(1)イによる損害算定を前提にしても,787万9960円(=235万03
60円+552万9600円)の損害を被ったといえる。
【被告の主張】
(1)損害の不発生及び寄与度減額
原告は,被告商品の元になった原告商品をカイザードーム社から引き取らな
かったのであるから,原告がこれら商品を追加販売することはあり得ず,また,
「」の商標登録が無効とされたのであるから,被告の行為いかんに
関わらず,原告が販売利益を得ることはなかったのであり,原告に損害は発生
していないし,商標法38条1項又は同条2項適用の前提を欠いている。
また,仮に損害が発生するとしても,前記1【被告の主張】欄(1)記載の事
情や,原告が被告商品の元となった原告商品を販売できなくなった原因が原告
の側にあるという点においても,被告の行為の結果への寄与度は極めて小さく,
後記(2)での算定額から大幅な減額がされるべきといえる。
(2)商標法38条1項又は同条2項に基づく損害算定について
原告の主張する損害額を争う。
ア商標法38条2項による算定
被告商品の販売に当たっては,その仕入額である152万1307円のほか,
以下の費用が発生した。
①シール製作代金及びシール貼付作業代金
被告は,原告商品に輸入者が被告であることなどが記載されたシールを貼付し
て被告商品としたものであるが,そのシール製作代金として17万4163円,
シール貼付作業代金として108万0720円の合計125万4883円を要し
た。
②外貨運送申請料1万5300円
(=5100円×3コンテナ)
③コンテナ運送料6万0000円(=2万円×3コンテナ)
④通関手数料3万5400円
(=1万1800円×3コンテナ)
⑤取扱手数料4万5000円
(=1万5000円×3コンテナ)
⑥食品届出手数料6000円
⑦コンテナ出入出庫料5万6880円
(=8円×7110カートン)
⑧保管料14万2220円
(=5円×4期×7110カートン)
⑨店舗販売分配送料金11万8201円
(=単価39.96円×2958カートン)
⑩通販サイト配送料金18万3000円
(=単価250円×732カートン)
⑪積み戻した1980カートン分の被告商品に要した費用
輸出手数料3万1791円
保管料11万8800円
(=5円×12期×1980カートン)
輸出通関料5900円
取扱手数料1万0000円
バンニング料5万9400円
(=30円×1980カートン)
ラッシング料3万0000円
コンテナ運送料1万9000円
したがって,被告が被告商品の販売によって得た利益は,売上げの総額である
542万4666円から,仕入額152万1307円のほか,上記費用を控除し
て算定すべきであり,これが商標法38条2項による損害額である。
イ商標法38条1項による算定
原告商品の販売価格,費用及び単位数量当たりの利益は知らない。
(3)値下げによる損害について
被告がはまゆう物産に対し,被告商品の販売を申し入れたことはなく,1缶当
たり15円から20円との条件を提示したことも,さらに1缶当たり10円へと
値下げしたこともない。仮にそのような事実があれば,はまゆう物産は1缶20
円で原告と取引するのではなく,1缶10円に下げた被告と取引したものと思わ
れる。
また,原告とはまゆう物産との交渉経過については知らないが,仮に原告の主
張するような値下げがされたのだとしても,それは食品流通業界におけるいわゆ
る3分の1ルール,すなわち,製造日から賞味期限までの3分の2の時点(販売
期限)が近づいていたことを主たる要因とするもので,被告の行為に起因するも
のではない。
したがって,原告商品の値下げ分を商標権侵害による損害とする原告の主張は
理由がない。
3争点3(信用回復措置(商標法39条,特許法106条)の必要性)につ
いて
【原告の主張】
原告は,被告による商標権侵害の結果,被告商品を原告商品と誤認混同して購
入した多数の消費者から苦情を受けるなど,業務上の信用を著しく害されたため,
その信用を回復するのに必要な措置として,別紙謝罪広告目録記載1の謝罪広告
を同目録記載2の要領に従い,同目録記載3の新聞及び掲載場所並びに掲載回数
で掲載する必要がある。
【被告の主張】
争う。
第4当裁判所の判断
1争点1(本件商標権1,同2及び同3侵害の有無等)について
(1)本件商標権1及び同2侵害の有無
ア本件商標1は,「PRIMESELECT」の欧文字を上段に,これと称呼及
び観念を同じくする「プライムセレクト」の片仮名文字を下段に横書きしてな
る商標であり,また,本件商標2は,「ピュアアンドフリー」の片仮名文字を上
段に,これと称呼及び観念を同じくする「」の欧文字を下段に横
書きしてなる商標である。
そして,別紙正面視商品写真のとおり,被告商品の缶表面には,本件商標1の
うち上段の「PRIMESELECT」と同一の欧文字からなる標章(以下「被告標章1」
という。)及び本件商標2のうち下段の「」と同一の欧文字から
なる標章(以下「被告標章2」という。)が付されている。
したがって,被告による被告商品の販売は,本件商標1と同一又は類似する文
字商標である被告標章1,及び本件商標2と同一又は類似する文字商標である被
告標章2を,その指定商品について使用するものであり,本件商標権1及び同2
を侵害するというべきである。
イ被告は,被告商品にとって最も識別力の強い商標は,缶表面の
「!」の上部に付された「」の欧文字からなる商標で
あり,これについて原告は商標権を有していない旨主張するが,損害論に係る寄
与度の主張としてはともかく,本件商標権1及び同2の侵害を否定すべき事情で
はない。
また,被告の主張は,被告標章1及び同2について,独自の識別力を発揮して
おらず,商品の特徴を補完して説明するにすぎないとする点において,商標的使
用を否定する趣旨と解されなくもないが,別紙正面視商品写真のような被告標章
1及び同2の外観及びその位置,大きさなど,さらに被告標章1については,原
告が,平成14年以降,「!」又は「プライムセレクト」の文
字商標が付されたノンアルコールビールを継続的に販売してきた(枝番を含めて
甲6~10,26)という取引の実情からして,商標的使用であることを否定す
べき理由はない。
いずれにせよ,商標権侵害を否定する被告の主張は採用できない。
ウまた,被告は,原告が当初「」の欧文字も商標登録して
いたが,カイザードーム社からの無効審判請求において,不正の目的(商標法4
条1項19号)によるものと認定の上で無効とされていることから,本件商標権
1及び同2の権利行使は権利の濫用に当たる旨主張する。しかし,別商標に関す
る事情により,本件商標権1及び同2の権利行使が制限される理由はなく,その
主張は失当である。
(2)本件商標権3侵害の有無
本件商標3は,「"#"$"!」の欧文字を横書きしてなる商標である。
この点,別紙梱包ケース写真のとおり,被告商品の梱包ケースには,元々本件
商標3と同一の文字標章が付されていたが,原告自身が主張するとおり,被告が
被告商品を販売するに際しては,同標章部分にシールが貼付され,需要者が視認
することはできない状態にあったのであるから,シールを貼付した後は,同標章
を使用したとはいえない。
他に被告が被告商品の販売において,本件商標3と同一又は類似する商標を使
用したと認めるに足りる証拠はなく,本件商標権3の侵害があったとする原告の
主張は採用できない(なお,被告がカイザードーム社から原告商品を購入したこ
とが輸入に当たるとしても,同行為により,原告が主張する損害が発生するわけ
ではなく,原告自身,被告がシール貼付後の販売行為による損害を主張してい
る。)。
2争点2(原告の損害)について
(1)商標法38条1項又は2項によって算定される損害
原告は,被告が本件商標権1及び同2の侵害品である被告商品5130カート
ンを販売したことによる損害額につき,商標法38条1項又は同条2項による算
定のうち,いずれか高い額による旨主張するので,以下双方の算定をする。
なお,被告は,原告において,原告商品を追加的に販売することができる状況
にはなかったため,損害発生の前提を欠くかのような主張をするが,被告が被告
商品を販売していた当時も,原告は原告商品を販売していた(甲11の8・9,
23)のであるから,かかる主張は採用できない。
また,被告は,「」の商標登録が無効とされたことから,原告が販
売利益を得ることはなかったと主張をするが,上記商標だけが,被告商品を識別
するものとしてあるわけではなく,後記ア(オ)のとおり,本件商標1,2による
識別力がある以上,かかる主張も採用できない。
ア商標法38条2項
(ア)収入
前記前提事実記載のとおり,被告商品5130カートンの販売によって被告の
得た収入は,店頭販売分295万5042円(999円×2958カートン),
卸販売分137万8944円(957.6円×1440カートン)及び通販サイ
ト販売分109万0680円(1490円×732カートン)の計542万46
66円である。
(イ)仕入
証拠(甲24)によれば,被告は,平成23年11月,被告商品を1カートン
当たり2.82ユーロで仕入れたものであることが認められ,同月当時の為替レ
ートである1ユーロ=105.16円(甲25)で計算すると,被告の販売した
5130カートン分の仕入総額は152万1307円となる(被告もこの算定額
を特段争うものではない。)。
(ウ)その他の費用
被告が被告商品を販売するに当たっては,以下の①から③までの費用も生じた
ことが認められるが,これら費用はいずれも売上数量に伴って変動する性質のも
のといえるため,その合計額である108万8421円(=12万5661円+
77万9760円+18万3000円)は,被告が被告商品の販売によって得た
利益を算定するに当たって控除するのが相当である。
①シール製作代金
別紙側面視商品写真及び別紙梱包ケース写真のとおり,被告は,原告商品を仕
入れた後,輸入者が被告であることなどが記載されたシールを貼付して被告商品
とすると共に,その梱包ケースにも被告の会社名などが記載されたシールを貼付
したものであるが,そのシール製作代金として17万4163円(乙18,19)
を支出した。
ただし,これは被告商品7110カートン分に係る支出額であるため,販売に
至った5130カートン分に対応する費用は,12万5661円(=17万41
63×5130÷7110,1円未満切捨て)である。
②シール貼付作業代金
証拠(甲4,5,乙20)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,上記①記載の
シール貼付作業を外注し,その代金として1カートン当たり152円の費用を負
担したものと認められ,販売に至った被告商品5130カートン分としては,7
7万9760円(=152円×5130カートン)を支出したといえる。
③国内での配送料金
被告は,通販サイト販売分につき,その配送料金として18万3000円(=
単価250円×732カートン)を負担した旨主張する。この点,被告がかかる
配送料金を負担したことを直接示す証拠は提出されていないが,被告が開示する
通販サイト販売分に係る2カートン当たりの販売代金2980円(1カートン当
たり1490円)は,送料込みの価格とされており(乙5),被告が配送料を支
払ったと認めるのが合理的である。そのため,前記(ア)のとおり,通販サイト販
売分に係る収入を1カートン当たり1490円として計算する以上,被告が配送
料金18万3000円(1カートン当たり250円)を負担したとするのが整合
的かつ相当といえる。
一方,被告は,店舗販売分についても,配送料金11万8201円(=単価3
9.96円×2958カートン)を負担した旨主張するが,被告がかかる配送料
金を負担したことを示す証拠はない上,一般に配送料金を売主と買主のいずれが
負担するかは両者間の合意内容によるものであり,被告がこれを負担したかは定
かでない。よって,店舗販売分の配送料金も費用として控除すべき旨の被告の主
張は採用できない。
(エ)被告の主張するその他の費用
①外貨運送申請料,コンテナ運送料,通関手数料,取扱手数料及び
食品届出手数料
被告は,被告商品の元になった原告商品7110カートンを仕入れるに当た
り,標記の費用として,それぞれ1万5300円,6万円,3万5400円,
4万5000円及び6000円の合計16万1700円(実際に販売された5
130カートン分に対応する額としては11万6669円)を負担した旨主張
し,上記費用を直接証明する証拠がないため,代わりに別の機会の見積書(乙
21)を提出する。
しかし,一般に飲料品を輸入するに当たって,被告の指摘するような費用が
生じることは確かである一方,これを売主と買主のいずれが負担するかは両者
間の合意内容によるといえるから,原告商品についても,買主である被告が負
担したかは定かではない。
そのため,被告が上記各費用を負担したと認めることはできず,被告の主張
は採用できない。
②コンテナ出入出庫料及び保管料
被告は,被告商品のコンテナ出入出庫料として1カートンにつき8円,保管料
として1カートンにつき20円(=5円×4期分)を負担した旨主張する。
しかし,被告商品の数量などからして,一般には,コンテナ出入出庫料及び保
管料が発生するであろうことはうかがわれるものの,被告は,その費用の負担者
及び額を直接証する証拠を一切提出せず,代わりに別の機会の見積書(乙22)
を提出するのみである。このことに加え,被告が,カイザードーム社からの要請
を受けて被告商品を引き取った経緯(乙5)を考慮すれば,被告が上記費用を負
担していない可能性も否定できず,他に,これを認める証拠はない。
③積み戻した1980カートン分の被告商品に要した費用
被告は,原告からの警告を受けて,カイザードーム社に積み戻した被告商品
1980カートン分に係る輸出手数料(乙23),保管料等の費用も控除すべ
きである旨主張する。
しかし,被告自身が主張するとおり,それら費用は,被告が実際に販売して
収入を得た被告商品5130カートン分に要した費用ではないから,被告が被
告商品の販売によって得た利益を算定するに当たり,控除するのが相当でない
ことは明らかであり,被告の主張は採用できない。
(オ)寄与度減額
被告は,被告商品を識別する際に最も重要な商標は,「」の文字商
標であるから,本件商標1及び同2の寄与度は極めて小さく,損害額の算定に
当たっては大幅な寄与度減額がされるべき旨主張する。
この点,被告商品における「」の文字標章は,その外観,位置,
大きさなどに加え,登録商標を意味する「®」が付されていることから,商標的
に使用されているといえる。そして,「」は,日本国内における被告
商品の需要者にとって,特定の観念を生じさせるものではなく,相応の識別力を
有していること,原告も原告商品の宣伝広告において,商品名を「プロシュテル
ピュアアンドフリー」とし,「」の片仮名表記を含めていたこと(枝
番を含めて甲11)も考慮すれば,一定の寄与度減額をすべき必要性は否定でき
ない。
しかし,「」の商標が,日本の需要者の間で広く認知されていたこ
とを認めるに足りる証拠はなく,その需要喚起の程度は定かではない。一方,別
紙正面視商品写真のとおり,被告商品において,正面中央に最も大きく,目立つ
態様で商標的に使用されているのは,「」の文字標章ではなく,被告
標章2である。また,原告は,平成14年以降,合計7種類の外国産ノンアルコ
ールビールを継続的に販売しているが(そのうち「」の標章を付した
ものは原告商品を含めた2種類である。),いずれの商品にも本件商標1を構成
する「!」又は「プライムセレクト」の文字商標を付しており
(枝番を含めて甲6~10,26),本件商標1は,被告商品の需要者の間で相
応の認知度を有していたといえる。
このような事情に照らせば,被告商品において,「」の文字標章が
商標的に使用されていることを理由に大幅な減額をすべきではなく,30%の減
額が相当である。
(カ)小括
以上より,被告が本件商標権1及び同2の侵害品である被告商品の販売によっ
て得た利益は,売上げの542万4666円から,仕入額152万1307円及
びその他の費用108万8421円を控除した281万4938円であり,同額
からその30%に当たる84万4481円(1円未満切捨て)の寄与度減額をし
た197万0457円が,商標法38条2項により算定される原告の損害額であ
る。
イ商標法38条1項
原告は,被告商品の競合品である原告商品の単位数量当たり利益は19.09
円であり,これに被告商品の販売数量である12万3120缶(=24缶×51
30カートン)を乗じた235万0360円が,商標法38条1項によって算定
される損害額である旨主張する。
しかし,前記ア(ウ)で検討したところによれば,商標法38条1項による算定
においても,30%の寄与度減額は避けがたいため,原告商品の単位数量当たり
の利益について原告の上記主張を前提にしても,原告の損害額は164万525
2円となる。
ウ小括
以上によれば,原告商品の単位数量当たりの利益に関する原告の主張の採否に
かかわらず,商標法38条2項によって算定された197万0457円の方が,
同条1項の算定額よりも高くなるため,197万0457円をもって,被告によ
る被告商品の販売によって生じた損害額と認められる。
(2)値下げによる損害
原告は,被告商品の販売による前記(1)の損害のほか,被告が原告の得意先で
あるはまゆう物産に対し,被告商品を1缶15円から20円,さらには10円で
の取引を働きかけたため,平成24年2月16日,当時,原告商品の販売単価が
平均56円であるにもかかわらず,はまゆう物産に対しては,20円まで値下げ
して計6400カートンを販売せざる得なくなったとし,同値下げ分も商標権侵
害によって原告が被った損害である旨主張する。
しかし,被告がはまゆう物産に対してそのような働きかけをしたとの主張に沿
う証拠は,はまゆう物産の代表取締役からその旨聞いたという原告代表者の陳述
書(甲26)があるにとどまる。しかも,前記(1)で検討したところによれば,
被告は被告商品12万3120缶(=24缶×5130カートン)につき,26
0万9728円(=仕入額152万1307円及びその他の費用108万842
1円)の費用を負担しており,1缶当たりの費用は約21円であるところ,はま
ゆう物産に対し,当初からその費用を下回る単価での取引を働きかけたとは考え
にくい。
また,仮に原告の主張するような事実関係があったとしても,原告は,はまゆ
う物産との取引があったとする平成24年2月16日の前後を通じ,他の業者に
対しては,平均して50円程度の単価で原告商品の販売を継続しており(甲2
3),原告商品の市場価格そのものが下がったわけではないし,また,直ちに原
告商品を売り切らなければならないような特別な事情も認められないのであるか
ら,被告の行為と原告が単価20円で原告商品を販売したこととの因果関係を認
めることはできず,はまゆう物産が大口の取引先であることがこの判断を左右す
るものではない。
したがって,値下げ分も被告の商標権侵害による損害とする原告の主張は採用
できない。
(3)まとめ
したがって,被告の商標権侵害によって原告が被った損害の額は,前記(1)で
算定した197万0457円である。
3争点3(信用回復措置(商標法39条,特許法106条)の必要性)につ
いて
本件商標権1及び同2を侵害して販売された被告商品の数量や前記2で認定の
損害額に加え,被告が原告からの警告書受領後,比較的短期間に被告商品の販売
を中止したこと(乙2~5)など,本件における諸般の事情を考慮すると,損害
の賠償に加えて,信用回復措置(商標法39条,特許法106条)を命じる必要
性は認められない。
第5結論
以上の次第で,原告の請求は主文掲記の限度で理由があるから,これを認容し,
その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決す
る。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官山田陽三
裁判官松川充康
裁判官西田昌吾
別紙
謝罪広告目録
1掲載の内容
謝罪広告
当社は,株式会社パナバック(___________________
_______)所有の「PRIMESELECTプライムセレクト」登録商標
(登録番号第3272479号)及び「ピュアアンドフリー」
登録商標(登録番号5385550号)の登録商標を付したノンアルコール
ビールテイスト飲料を平成23年12月から輸入して販売しましたが,その
際上記製品の梱包ケースに付された「"#"$"!」登録商標(登録番号第5
216613号)部分を覆い隠して販売し,
株式会社パナバックの上記商標権を侵害すると共に,同社の製造販売にかかる
「PRIMESELECTプライムセレクト」登録商標及び「ピュアアンドフリー
」登録商標を付したノンアルコールビールテイスト飲料と誤認
混同を生じさせ,株式会社パナバックの業務上の信用を害する結果となりま
した。
当社の不注意から株式会社パナバックに多大な御迷惑をおかけしたことは誠
に申しわけなく,ここに謹んでお詫び申し上げます。
平成年月日
株式会社德岡
2掲載の要領
(1)広告の大きさ縦2段幅15センチメートル
(2)使用活字
表題(見出し)18級(12ポ)ゴシック体活字
名義人・名宛人16級(11ポ)ゴシック体活字
本文13級(9ポ)明朝体活字
日付・住所12級(8ポ)明朝体活字
なお,広告文中空欄となっている年月日については新聞掲載日を表示する。
3掲載の新聞及び掲載場所並びに掲載回数
名称日本経済新聞全国版広告欄
所在東京都中央区
発行者株式会社日本経済新聞社
掲載回数1回
以上
別紙
商商商商標標標標目目目目録録録録



以上

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛