弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主         文
 1 1審判決(ただし,本件差戻しに係る部分。)を次のとおり変更する。
  (1) 1審被告が1審原告に対し平成2年8月2日付けで前渡金出納簿及び領収
証書についてした非公開決定(平成3年7月22日付け決定により一部取り消され
た後のもの)のうち,次の部分を取り消す。
   ア 前渡金出納簿のうち,1審判決別紙(2)残高欄の前渡金出納簿欄に○印が
記載され,かつ,同欄の番号欄の番号が31,34,123,127,222,2
77,297,337,386,526,528,536,562,568,59
8,604,620,623,680,705,799,813,831,83
7,971,998,1071であるものの各支出情報部分(いずれも年月日,摘
要及び支払高の各欄をあわせた各横一行)を非公開とした部分
   イ 1審判決別紙(2)残高欄の領収書欄に○印が記載されたもののうち,同欄
の番号欄の番号が34,123,222,297,337,386,536,56
2,568,598,604,620,623,680,705,813,83
1,971,998,1071であるものの領収書を非公開とした部分
   ウ 支払証明書のうち,1審判決別紙(2)残高欄の支払証明書欄に○印が記載
され,かつ,同欄の番号欄の番号が31,127,526,528,837である
ものの各支出情報部分(いずれも支払年月日,金額及び内容の各欄を合わせた各横
一行)を非公開とした部分
  (2) 1審原告のその余の請求(ただし,本件差戻しに係る部分。)を棄却す
る。
 2 本件差戻しに係る部分の訴訟費用は,第1審,差戻前の第2審,上告審及び
差戻し後の第2審を通じ,これを5分し,その3を1審原告の負担とし,その余を
1審被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
 1 1審原告
  (1) 1審判決中,以下の部分を取り消す。
    1審被告が,1審原告に対し,平成2年8月2日付けで前渡金出納簿及び
領収証書についてした非公開決定(平成3年7月22日付け決定により一部取り消
された後のもの)のうち,
   ア 1審判決別紙(2)残高欄の前渡金出納簿欄に○印が記載され,かつ,別紙
1の「№」欄に記載された番号に対応する各支出情報部分(いずれも年月日,摘要
及び支払高の各欄を合わせた各横一行)を非公開とした部分
   イ 1審判決別紙(2)残高欄の領収書欄に○印が記載され,かつ,別紙1の
「№」欄に記載された番号に対応する領収書を非公開とした部分
   ウ 支払証明書のうち,1審判決別紙(2)残高欄の支払証明書欄に○印が記載
され,かつ,別紙1の「№」欄に記載された番号に対応する各支出情報部分(いず
れも支払年月日,金額及び内容の各欄を合わせた各横一行)を非公開とした部分
  (2) 上記取消しにかかる部分につき,1審被告が1審原告に対してなした上記
非公開決定を取り消す。
  (3) 訴訟費用は,1審被告の負担とする。
 2 1審被告
  (1) 本件控訴(ただし,本件差戻しに係る部分。)を棄却する。
  (2) 訴訟費用は,1審原告の負担とする。
第2 事案の概要
 1 本件の経緯
  (1) 本件は,1審原告が名古屋市公文書公開条例(以下「本件条例」とい
う。)に基づいてした名古屋市長(以下「市長」という。)の交際費に関する書類
の公開請求に対し,1審被告が,上記書類の一部である前渡金出納簿及び領収証書
について,本件条例上公開しないことができる文書に該当するとしてこれを非公開
とする旨の決定をしたため,1審原告がその取消しを求めた事案である。
 1審判決は,平成7年2月24日,1審判決別紙(2)残高欄の前渡金出納簿欄に×
印の記載された番号に対応する各支出情報部分を非公開とした部分(主文第1項
1),同別紙(2)残高欄の領収書欄に×印の記載された番号の各支出に対応する領収
書を非公開とした部分(主文第1項2),同別紙(2)残高欄の領収書欄に○印の記載
された番号の各支出に対応する領収書のうち,交際の相手方以外の者が発行したも
のを非公開とした部分(主文第1項3),支払証明書のうち,同別紙(2)残高欄の支
払証明書欄に○印の記載された番号の各支出に対応する各支出情報部分以外の部分
を非公開とした部分(主文第1項4)については,非公開決定を取り消し,その余
の請求については棄却した。
  (2) これに対し,1審原告は,①同別紙(2)残高欄の前渡金出納簿欄に○印の
記載された番号に対応する各支出情報部分を非公開とした部分,②同別紙(2)残高欄
の領収書欄に○印の記載された番号の各支出に対応する領収書のうち,交際の相手
方が発行したものを非公開とした部分,③支払証明書のうち,同別紙(2)残高欄の支
払証明書欄に○印の記載された番号の各支出に対応する各支出情報部分を非公開と
した部分の取消しを求め,また,1審被告は,④1審判決のうち主文第1項3の部
分の取消しを求め,それぞれ名古屋高等裁判所に控訴した。
 同裁判所は,平成8年12月12日,①のうち,摘要欄に購読と記載された番号
に対応する各支出情報部分を非公開とした部分,③のうち,摘要欄に購読と記載さ
れた番号に対応する各支出情報部分を非公開とした部分については,非公開決定を
取り消し,1審判決主文第1項3にかかる上記②④については,同別紙(2)残高欄の
領収書欄に○印の記載されたもののうち,摘要欄に購読と記載された番号の各支出
に対応する領収書を非公開とした部分及び番号841,1030の各支出に対応す
る領収書を非公開とした部分を取消すのが相当であるとして,その旨の変更判決を
した。
  (3) これに対し,1審原告は,最高裁判所に上告をしたところ,同裁判所は,
平成14年2月28日,(ア)1審判決別紙(2)残高欄の前渡金出納簿欄に○印が記載
され,かつ,摘要欄に接遇,賛助,生花,記念品又は賞品と記載された番号の情報
が記録されている前渡金出納簿中の部分を非公開とした部分,(イ)同別紙(2)残高欄
の領収書欄に○印が記載され,かつ,摘要欄に接遇,賛助,生花,記念品又は賞品
と記載された番号(番号841及び1030を除く。)の情報が記録されている領
収書を非公開とした部分,(ウ)同別紙(2)残高欄の支払証明書欄に○印が記載され,
かつ,摘要欄に接遇,賛助,生花,記念品又は賞品と記載された番号の情報が記録
されている支払証明書中の部分を非公開とした部分について1審原告の控訴を棄却
した差戻前の控訴審判決を破棄し,本件訴訟を原審(当裁判所)に差し戻し,1審
原告のその余の上告を棄却する旨の判決をした(以下「本件最高裁判決」とい
う。)。
  (4) 破棄差し戻された上記(ア)の部分は,同別紙(2)残高欄の前渡金出納簿欄
に○印が記載され,かつ,別紙1の出納簿欄に○印の記載された番号の文書であ
り,同(イ)の部分は,同別紙(2)残高欄の領収書欄に○印が記載され,かつ,別紙1
の領収書欄に○印の記載された番号の文書であり,同(ウ)の部分は,同別紙(2)残高
欄の支払証明書欄に○印が記載され,かつ,別紙1の支証書欄に○印の記載された
番号の文書である。
 2 前提事実
  (1) 本件条例9条1項は,「実施機関は,第6条の規定による公開の請求があ
った公文書に次の各号の一に該当する情報(以下「非公開情報」という。)が記録
されているときは,当該公文書の公開をしないことができる。」と規定し,同項1
号は「個人の意識,信条,身体的特徴,健康状態,職業,経歴,成績,家庭状況,
所得,財産,社会活動等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を
除く。)であって,特定の個人が識別され得るもののうち通常他人に知られたくな
いと認められるもの」と,同項6号は「試験,契約,争訟,交渉,監視,取締り,
立入検査,統計,職員の身分取扱いその他の本市の機関又は国等が行う事務事業に
関する情報であって,公開することにより,当該又は同種の事務事業の目的の達成
が損なわれるおそれがあるもの,公共の安全及び秩序の維持に支障を生ずるおそれ
があるもの,情報を保有する第三者との信頼関係を著しく損なうおそれがあるもの
その他本市の行政の公正又は円滑な運営に支障を生ずるおそれがあるもの」と規定
している。(争いがない)
  (2) 名古屋市における市長等の交際費の支出については,資金前渡の方法が採
られている。前渡金受領者に指定された秘書課長は,毎月初めに支出見込額に相当
する現金の前渡しを受け,必要に応じてこれを支払に充て,その都度,相手方から
領収書を徴するか,領収書の徴収が不適当又は困難な場合には支払証明書を作成し
た上,前渡金出納簿に支出に係る事項を記載している。(1審証人B)
  (3) 別紙1の出納簿欄に○印の記載された番号の文書は,文書が存在し,交際
の相手方が識別され得るものであり,×印の記載された文書は,文書が存在し,交
際の相手方が識別され得ないものである
 また,別紙1の領収書欄に○印の記載された番号の文書は,文書が存在し,番号
841及び1030の文書2件を除いた文書は,交際の相手方が識別され得るもの
であり,×印の記載された文書は,文書が存在し,交際の相手方が識別され得ない
ものであり,-印の記載された番号の文書は存在しないものである。
 さらに,別紙1の支証書欄に○印の記載された番号の文書は,文書が存在し,交
際の相手方が識別され得るものであり,×印の記載された文書は,文書が存在し,
交際の相手方が識別され得ないものであり,-印の記載された番号の文書は存在し
ないものである。(1審及び差戻前の控訴審における証人A)
  (4) 前渡金出納簿は,年月日,摘要,前渡受高,支払高,戻入高,残高の各欄
からなっており,摘要欄には,支出項目,支出又は交際の相手方,支出又は交際の
趣旨が記載されている。
 支払証明書には,支払年月日,金額及び内容の各欄からなる支払明細書の欄があ
り,前渡金出納簿の記載内容と同様の記載がされている。
 前渡金出納簿の各支出の記載1行に対しては,領収書又は支払証明書のいずれか
が対応している。(1審証人B,同A)
  (5) 別紙2は,1審被告が,後記本件最高裁判決の判示に従って,別紙1の文
書を類型別に分類し,その内容,相手方等について整理をしたものである。(弁論
の全趣旨)
 3 審理の対象
   本件最高裁判決の差戻しにより,当裁判所の審理の対象となったのは,上記
のとおり,1審判決別紙(2)残高欄の前渡金出納簿欄に○印が記載され,かつ,別紙
1の出納簿欄に○印の記載された番号の文書,同別紙(2)残高欄の領収書欄に○印が
記載され,かつ,別紙1の領収書欄に○印の記載された番号の文書,及び同別紙(2)
残高欄の支払証明書欄に○印が記載され,かつ,別紙1の支証書欄に○印の記載さ
れた番号の文書である(以下「本件審理対象文書」という。)。
 4 本件差戻しの理由
   本件最高裁判決において,本件審理対象文書が差し戻されたが,その理由の
要旨は以下のとおりである。
  (1) 市長の交際は,本件条例9条1項6号にいう交渉その他の事務に該当する
と解される。そして,市長の交際事務は,相手方との間の信頼関係ないし友好関係
の維持増進を目的として行われるものであるところ,相手方を識別し得るような文
書の公開によって相手方の氏名等や支出金額が明らかにされることになれば,不満
や不快の念を抱く者が出ることが容易に予想される。そのような事態は,交際の相
手方との間の信頼関係あるいは友好関係を損なうおそれがあり,交際それ自体の目
的に反し,ひいては交際事務の目的を達成することができなくなるおそれがある。
 また,これらの交際費の支出の要否やその内容等は,支出権者である市長自身
が,個別,具体的な事例ごとに,裁量によって決定すべきものであるところ,交際
の相手方や内容等が逐一公開されることとなった場合には,市長においても上記の
ような事態が生ずることを懸念して,必要な交際費の支出を差し控え,あるいはそ
の支出を画一的にすることを余儀なくされることも考えられ,市長の交際事務の公
正又は円滑な運営に支障が生じるおそれがある。
 したがって,本件各文書のうち,交際の相手方が識別され得るものは,原則とし
て本件条例9条1項6号により公開しないことができる文書に該当する。
 もっとも,市長の交際事務に関する情報で交際の相手方が識別され得るものであ
っても,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されている
もの,すなわち,交際の相手方及び内容が不特定多数の者に知られ得る状態でされ
る交際に関するものなど,相手方の氏名等を公表することによって上記のおそれが
あるとは認められないようなもの(以下「6号の例外要件」という。)は,例外と
して同号に該当しないと解するのが相当である。
  (2) 本件条例9条1項1号は,私事に関する情報のうち,性質上公開に親しま
ないような個人情報が記録されている公文書を公開しないことができるとしている
ものと解されるところ,市長の交際相手となった私人としては,その具体的な費
用,金額等までは通常他人に知られたくないと望むものであり,そのことは正当で
あると認められる。
 したがって,このような交際に関する情報は,その交際の性質,内容等からして
交際内容等が一般に公表,披露されることがもともと予定されているもの,すなわ
ち,交際の相手方及び内容が不特定多数の者に知られ得る状態でなされる交際に関
するもの(以下「1号の例外要件」という。)を除いては,本件条例9条1項1号
に該当すると解するのが相当である。
  (3) 本件各文書に記録されている交際の相手方が識別され得る情報のうち,
   ア 接遇費に係るものの中には,市長が公式に開催する定例の会合,市長が
公に表彰するに際して行う祝宴等のように,相手方及び内容が明らかにされても,
通常,これによって相手方が不快な感情を抱き,当該交際の目的に反するような事
態を招くことがあるとはいえないもの,すなわち,6号の例外要件に該当するもの
が含まれている蓋然性が高い
   イ 賛助金に係るものの中には,会費のようにその性質上相手方が一定の金
額を定めるのが通常であり,市長が市と相手方とのかかわり等を斟酌して個別に金
額を決定するようなものでないものがあり,また,市長がポスト指定として団体等
の会員となっている場合やその会合に出席する場合等,市長の団体等への加入や会
合等への出席が不特定の者に知られ得る状態で行われることも少なくないと考えら
れるもの,すなわち,6号の例外要件及び1号の例外要件に該当するものが含まれ
ている蓋然性が高い
   ウ 生花代のうち,葬儀の際に弔意を表すために贈られるものは,市長の名
を付して一般参列者の目に触れる場所に飾られるのが通例であり,これを見ればお
およその価格を知ることができるものであるから,贈呈の事実及びその内容が不特
定多数の者に知られ得ると考えられるのであって,このような場合の生花に係る交
際に関する情報は,本件条例9条1項1号及び6号のいずれにも該当しない。した
がって,生花代に係るものの中には,6号の例外要件及び1号の例外要件に該当す
るものが含まれている蓋然性が高い
   エ 記念品や賞品は,贈呈者である市長の名を付して公表,披露され,これ
を見ればおおよその価格を知ることができることも少なくないから,贈呈の事実及
びその内容が不特定の者に知られ得るものであることも少なくないと考えられるの
であって,このような場合の記念品及び賞品に係る交際に関する情報は,本件条例
9条1項1号及び6号のいずれにも該当しない。したがって,記念品代及び賞品代
に係るものの中には,6号の例外要件及び1号の例外要件に該当するものが含まれ
ている蓋然性が高い
  (4) 1審被告としては,本件各文書に記録されている交際の相手方が識別され
うる情報のうち,上記アないしエに係るものについては,具体的な類型を明らかに
した上で,これが6号の例外要件及び1号の例外要件に該当しないことを主張立証
すべきである。
 5 当審における争点
   当審における争点は,本件審理対象文書である別紙1記載の各文書の非公開
部分について本件条例9条1項1号及び6号の非公開事由があるか否かである。
 6 争点に対する当事者の主張
  (1) 接遇のうち懇談会にかかる文書について
   ア 同文書のうち,地方公共団体の長等が相手方で公表することなく開催し
た会合に関する文書(別紙1,2の②)について
   (1審被告)
    (ア) これらの懇談会は,国・県への予算要望,地域経済・市民への影響
が大きいような重要な施策の実施などにあたって,正式な要望や公表以前に内々に
意見を求めるために,名古屋市が主催し,交際の相手方に対し出席の依頼をしたも
のである。
 すなわち,市長が他の地方公共団体の長等との間で,協力関係を維持,発展させ
るために公式に開催する定例の会合といったものではなく,市政に関する率直で忌
憚のない意見を交換するために開催されたものである。このように懇談会を開催す
るかどうかは,必要に応じて,随時,相手方と個別に協議して決定したものであ
り,市長がこの懇談会に出席してその費用を負担した事実は,不特定多数の者に知
られ得るものではなく,また,一般的にいって,このような会合が,不特定多数の
者に知られ得る状態でなされることは考えられない。
 したがって,別紙1,2の②の文書は,本件条例9条1項1号又は6号に該当す
るから,非公開とされるべきである。
    (イ) 1審原告は,食糧費に関する最高裁第三小法廷平成6年2月8日判
決によれば,上記文書は公開されるべき文書に該当する旨主張する。
 しかし,首長が交際費を財源として行う懇談会と,行政内部の一機関が実施する
ものとは次元が異なるものであって,同一に扱われるべきものではない。このこと
は,本件最高裁判決において異なる判断がなされていることからも明らかである。
   (1審原告)
    (ア) 1審被告の主張によると,これらの懇談会は,相手方に要した費
用,会場費も含め,懇談経費の全てを名古屋市が負担したものである。
 したがって,別紙1,2の②に該当する文書は,食糧費を財源とした懇談に関す
る最高裁第三小法廷平成6年2月8日判決の射程に属し,同判決の趣旨によれば,
公開されるべき文書に該当する。
 すなわち,同判決は,「もともと本号(大阪府公文書公開条例第6条1項9号)
によって,非公開とすることが正当化されるためには,①これらの懇談が用地買収
予定地の個々の地権者等に対する事前の意向打診,個別折衝等を目的とする場合等
であって,②「企画調整等事務又は交渉事務にあたり,しかも,それが事業の執行
のために必要な事項についての関係者との内密の協議を目的として」なされた場合
でなければならないと判示し,非公開処分の取消を命じている。そして,食糧費も
交際費も自治体予算中,総務管理費に属する点において,款,項を共通にするもの
であり(地方自治法216条),地方自治法上,相互に流用の許される予算につい
て,食糧費を支出した場合と,交際費を支出した場合とで,出席者名の公開による
行政運用上の支障の生じるおそれについて別異に解する理由はない。また,支出の
実態からみても,本件の交際費が支出された平成元年度の時点においては,1審被
告において,食糧費を地方公共団体の公務員や特別職公務員,公職選挙法に定めの
ある公職者,経済界関係者らを相手方とする懇談(いわゆる「官官接待」)に支出
していたことが公知の事実となっており,1審被告において,食糧費か交際費かと
いう財源の相違に応じて懇談の相手方や懇談内容に差異を設けていたわけではな
い。
 したがって,上記最高裁判決は,別紙1,2の②の文書にも適用があり,1審被
告主張の懇談会は,正式な要望や公表以前に内々に意見を求めたものというだけで
あって,儀礼的もしくは単純な意見聴取的なものにすぎず,企画調整等事務又は交
渉等事務にあたり,しかも,それが事業の執行のために必要な事項についての関係
者との内密の協議を目的としてなされたものではなく,行政運用上の支障を生じる
おそれがあるとは認められないから,公開すべきである。
    (イ) 仮に,別紙1,2の②の文書が本件最高裁判決の射程に属するとし
ても,72件中の25件は,相手方欄に「団体」との記載があるから,この25件
については,団体名の記載がなされているに止まる公算が大である。団体名が記載
されている場合には,団体名の公開で個人が特定されるものではなく,相手方の記
載はそもそも本件条例9条1項1号の個人情報に該当しない。
 また,これら72件の懇談は名古屋市が主催した懇談であることから,会場入口
などに「名古屋市と○○との懇談会」などの形の案内看板や案内表示が設けられて
いることが通常であり,懇談会の存在自体,公知のものになっているはずである。
 したがって,交際の相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でなされる交
際に関するものなど,相手方の氏名等を公表することによって市長の交際事務の公
正又は円滑な運営に支障を生じるおそれがあるとは認められないようなもの(6号
の例外要件)に該当する。そして,個人情報に該当するものであっても,交際の相
手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でなされる交際に関するもの(1号の
例外要件)に該当する。
 したがって,仮に72件の懇談の相手方の公開が本件最高裁判決の射程に属する
としても,6号及び1号の例外要件に該当するから,公開されるべきである。
   イ 同文書のうち,手土産に関する文書(別紙1,2の⑤)について
   (1審被告)
     手土産は,市長が国・県への予算要望,地域経済・市民への影響が大き
いような重要な施策の実施などにあたって,正式な要望や公表以前に内々に意見を
求めるために政財界人等を訪れた際,もしくは政財界人が訪問に赴いた際に御礼の
気持ちを表すために贈ったものである。
 一般的にいって,このような内容の話が,不特定多数の者に知られ得る状態でな
されることは考えられず,交際の相手方に手土産を贈呈した事実が,不特定多数の
者に知られ得ることはない。
 なお,手土産を贈るかどうか,あるいは,その際に幾らの物を贈るかは,市長が
手土産の相手方とのかかわり等を斟酌して,個別に決定したものであり,贈答した
品物やその金額等,交際の内容についても,不特定の者に知られ得るものであると
いうことはできない。
 したがって,本件条例9条1項1号又は6号に該当するから,非公開とされるべ
きである。
   (1審原告)
     手土産と記載されているように,贈り物それ自体に意味があるのではな
く,懇談等の際に付随的に贈られる儀礼的・形式的なものに過ぎず,接遇という目
的からみれば,いわば従たる支出といえる。そうだとすれば,それ自体が直接的に
名古屋市とのかかわりの濃淡を示すものとは言い難く,相手方や金額が公開された
としても,相手方が不快な感情を抱き,当該交際の目的に反するような事態を招く
ことはあり得ないはずである。
 また,贈呈の相手方も公務員か財界,報道,市政運営協力者などの著名人であっ
て,手土産をもらったことが公開されたからといって相手方が不快の念を抱くこと
はない。
 したがって,6号及び1号の例外要件に該当するから,公開されるべきである。
  (2) 賛助について
   ア 賛助のうち会費について
    (ア) 会費のうち,構成員であり,かつ,ポスト指定のものにかかる文書
(別紙1,2の⑦及び⑩)について
    (1審被告)
     a これらは,政財界人等で構成され,市長がポスト指定(規約におい
て,「会員は…及び名古屋市在住の官公庁等の長とする。」とか「賛助会員及び特
別会員中…市長 年額  円」などのように市長が会員となることが記載されてい
るもの。)で構成員になっている組織であって,主催者との関係から,加入した方
が今後の市政運営が円滑に進むものと判断した会に加入したときの年会費又は主催
者との関係から,加入した方が今後の市政運営が円滑に進むと判断したもので,か
つ,出席の機会を活用して名古屋市の施策に関する意見や情報を求めることがで
き,今後の市政運営が円滑に進むものと判断した行事に出席したときの会費であ
る。
 しかし,その組織は,市長がポスト指定で加入するものではあるものの,市長が
その組織に加入し,出席することが法令等によって義務付けられているものではな
く,また,その組織の存在及びその行事の開催は,例えば報道機関等によって取り
上げられるような一般に公表・披露されているものでもない。
 また,その行事に出席するかどうか,あるいは会費の額は,市長が相手方とのか
かわり等を斟酌して個別に決定したものであり,行事に出席し,会費を支払った事
実及びその金額は不特定の者に知られ得るものではない。
 本件最高裁判決は,情報が,1号及び6号の例外要件に該当するか否かを判断す
るにあたって,「市長がポスト指定として団体等の会員となっている場合やその会
合に出席する場合等,市長の団体等への加入や会合等への出席が不特定の者に知ら
れ得る状態で行われることも少なくない」と考えられ,「このような場合の会費に
係る交際に関する情報は,本件条例9条1項1号及び6号のいずれにも該当しな
い」としている。
 しかしながら,ポスト指定といっても,加入,出席が法令等により義務付けられ
ているものもあれば,加入,出席について,そういった義務付けがなされておら
ず,市長が相手方とのかかわり等を斟酌して,加入,出席を決定するものもある。
市長を始め,団体等の設立趣旨に賛同した者同士が任意で団体等を結成し,歴代の
市長は会員として参加することとした場合,少なくとも当該団体の設立時には,市
長が団体等に加入するかどうかは,市と相手方とのかかわり等を斟酌して個別に決
定しているし,団体の設立後にあっても,市長は当該団体等から任意に脱退できる
ものであり,会合への出席,会費の支出に当たっては,市と相手方とのかかわり等
を斟酌して金額も含めて個別に決定しているというべきである。
 そして,上記のように親睦を深める等の目的で任意に設立した団体等において
は,そのメンバーが不特定多数にわたることはなく,メンバーが,その団体等の存
在や,会合への出席を外部に公表・披露することは,通常あり得ないものである。
 したがって,本件最高裁判決のいう「ポスト指定」の会合とは,法令等によって
加入,出席が義務付けられている会合であるというべきであって,「ポスト指定の
もの」のうち,「加入に裁量があるもの」に分類した会費については,これに該当
しないというべきである。
 したがって,本件条例9条1項1号又は6号に該当するから,非公開とされるべ
きである。
b 1審原告は,市長,愛知県知事,在名官公署幹部が「一八会」と称して毎月1
8日に昼食会を催していることは公知の事実である旨主張する。
 1審被告は,平成12年1月4日分から中日新聞に市長の日程を情報提供するこ
ととしたことにより,同紙では,前日の市長の日程が「名古屋市長の一日」として
掲載されることになった。また,1審被告は,同年4月分から市長の交際費の支出
内訳を自主的に公表することとした。
 しかし,本件公文書公開請求が行われた平成元年当時,一八会に市長が参加して
いること及びその会費の額が公知であるとか,不特定多数の者に知られ得るものと
いうことはいえないことは明らかである。
    (1審原告)
     a 総論
       1審被告は,ポスト指定であっても加入に裁量のあるものは,不特
定の者に知られ得るものではないので,本件条例9条1項6号及び1号のいずれに
も該当しない旨主張する。
       しかし,ポスト指定であるものは本件最高裁判決によれば市長の団
体への加入や会合等の出席は不特定多数の者に知られ得る状態で行われていること
になるから,6号及び1号の例外要件に該当し,公開されるべきである。
 そして,類型別に検討しても,以下の文書はいずれも6号及び1号の例外要件に
該当するから公開されるべきである。
     b 一八会に関する文書について
       市長,愛知県知事,在名官公署幹部が「一八会」と称して毎月18
日に昼食会を催し情報交換をしていることは公知の事実であり(新聞紙上の記事
「知事の一日」の中に記載されている),会場となるホテルも明らかであるから,
1人当たりにかかる費用もおおよその見当が付く。このような会への参加や,支出
金額が明らかになっても,メンバーや会の性質からみて,不満や不快の念を抱く者
が出て交際事務に支障を及ぼすとは全く考えられない。
 したがって,一八会に関する文書はすべて公開されるべきである。
     c 一八会以外の官庁関係連絡会に関する文書について
       官庁関係連絡会に市長が会員として参加し,交際費から年会費を支
出している事実や行事の参加費用を支出している事実が明らかになったとしても,
市長の交際目的が害されるおそれはない。
 これら官庁関係連絡会への市長の加盟は社会通念上,一般的であり,かかる官庁
連絡会への参加や行事参加は一般人から見ても当然に予想されるものだからであ
る。
 したがって,これらの官庁関係連絡会に関する文書はすべて公開されるべきであ
る。
     d 経済界関係者・団体,その他の市政運営協力者・団体に関する文書
について
       これらの団体については様々なものがあるが,市長の団体への参加
や団体主催の行事への参加が報道されている場合には,それらの情報は不特定多数
人が知り,公知となっている事実に該当するから,6号及び1号の例外要件に該当
し,公開されるべき情報ということになる。
 報道されていない場合であっても,構成員が経済界の関係者で構成されている団
体への会費や行事の参加については,市長が経済界関係者の団体に参加したり,こ
れらの主催する行事に参加することは,社会通念上当然に予想されるものであり,
団体加盟や行事への参加が特に秘密裡に行われたという事情がない限り,公開され
るべき情報である。
 また,「行事」への参加についても,当該行事に不特定または多数の者が参加し
ている場合については,市長の行事への参加は公知のものであり,公開されるべき
情報に該当する。
 そして,これらに年会費を支出している事実や行事に参加し,会費を支出してい
る事実が明らかになったとしても,市長の交際目的が害されるおそれは全くない。
 よって,6号及び1号の例外要件に該当するから,公開されるべきである。
 なお,1審被告は,別紙2の支出項目「賛助」欄中の類型⑧及び⑪の件数には,
規約上ポスト指定がないもの及び規約が不明なものが含まれているとするが,規約
が不明なものはポスト指定に準じるものとして扱うべきである。
    (イ) 会費のうち,構成員であるがポスト指定ではなく,加入・出席に裁
量があるもの(別紙1,2の⑧及び⑪)について
    (1審被告)
      政財界人等で構成される組織であって,主催者との関係から,加入し
た方が今後の市政運営が円滑に進むものと判断した会に,加入したときの年会費又
は主催者との関係から,加入した方が今後の市政運営が円滑に進むものと判断した
もので,かつ,出席の機会を活用して名古屋市の施策に関する意見や情報を求める
ことができ,今後の市政運営が円滑に進むものと判断した例会等の行事に出席した
ときの会費である。
 その組織の存在又はその行事の開催は,例えば報道機関等によって取り上げられ
るような一般に公表・披露されているものではない(なお,別紙1,2の⑧につい
ては,一部には組織の存在が一般に知られ得るものも含まれている。)。
 また,その組織へ加入するかどうか,その行事に出席するかどうか,あるいはそ
の会費の額は,市長が相手方とのかかわり等を斟酌して個別に決定したものであ
り,行事に出席し,会費を支払った事実及びその金額は,不特定の者に知られ得る
ものではない。
 したがって,本件条例9条1項1号又は6号に該当するから,非公開とされるべ
きである。
    (1審原告)
      経済界関係者・団体及びその他の市政運営協力者・団体については様
々なものがあるが,市長の団体への参加や団体主催の行事への参加が報道されてい
る場合には,それらの情報は不特定多数人が知り,公知となっている事実に該当す
るから,6号及び1号の例外要件に該当し,公開されるべき情報ということにな
る。
 報道されていない場合であっても,構成員が経済界の関係者から構成されている
団体への会費や行事の参加については,市長が経済界関係者の団体に参加したり,
これらの主催する行事に参加することは,社会通念上当然に予想されるものであ
り,団体加盟や行事への参加が特に秘密裡に行われたという事情がない限り,公開
されるべき情報である。
 また,「行事」への参加についても,当該行事に不特定または多数の者が参加し
ている場合については,市長の行事への参加は公知のものであり,公開されるべき
情報に該当する。
 そして,これらに年会費を支出している事実や行事に参加し,会費を支出してい
る事実が明らかになったとしても,市長の交際目的が害されるおそれは全くない。
 よって,6号及び1号の例外要件に該当するから,公開されるべきである。
 なお,1審被告は,別紙2の支出項目「賛助」欄中の類型⑧及び⑪の件数には,
規約上ポスト指定がないもの及び規約が不明なものが含まれているとするが,規約
が不明なものはポスト指定に準じるものとして扱うべきである。
    (ウ) 会費のうち,行事等出席の会費(別紙1,2の⑫)について
    (1審被告)
      政財界人等が開催する講演,祝賀会,記念行事等の会のうち,出席の
機会を活用して名古屋市の施策に関する意見や情報を求めることができ,今後の市
政運営が円滑に進むものと判断した行事に出席したときの会費である。
 その行事の開催は,その大半は不特定の者に知られ得るものではないが,その一
部には一般に知られ得るものも含まれている。
 しかし,その行事等に出席するかどうか,あるいはその会費の額は,市長が相手
方とのかかわり等を斟酌して個別に決定したものであり,行事等に参加し,会費を
支払った事実及びその金額は,不特定の者に知られ得るものではない。すなわち,
一般的に,このような行事等においては,名目は「会費」であっても,相手方から
提示される会費の額は,標準的な額としての意味であることが多く(主催者から金
額を提示されない場合もよくある。),市長は,相手方とのかかわり等を斟酌して
その金額を決定しており,必ずしも提示された額面どおり持参しているわけではな
い。
 したがって,少なくとも交際の内容までが不特定の者に知られ得るものというこ
とはできない。
 よって,本件条例9条1項1号又は6号に該当するから,非公開とされるべきで
ある。
    (1審原告)
      1審被告によると,講演,祝賀会,記念行事等の会への出席会費との
ことであるが,このうち「等」が何を示すか不明であるが,少なくとも,講演,祝
賀会,記念行事については,いずれも参加者が不特定または多数人であり,市長が
参加し,賛助している事実は不特定多数の者が知り,又は知ることのできる情報で
ある。すなわち,講演,祝賀会,記念行事への市長の出席は公知であることが通常
である。
 また,会費もそれ自体市長が市と相手方とのかかわり等を斟酌して個別に金額を
決定するものでない場合に該当する。
 したがって,6号及び1号の例外要件に該当するから,公開されるべきである。
   イ 賛助のうち,各種大会,講演,行事等の賛助(別紙1,2の⑬)につい

   (1審被告)
     各種大会,講演会及び行事等の協賛金については,その性質上,名古屋
市と相手方とのかかわり等を斟酌して支出の要否や金額等が個別に決定されるもの
であり,贈呈の事実はともかく,具体的な金額等が不特定の者に知られ得る状態で
行われることは通常考えられないから,これらの交際に関する情報は,少なくとも
本件条例9条1項6号に該当すると解するのが相当である。
 これらの賛助金は,スポーツ関係,講演,会議やセミナーなどの行事等の活動に
対し,求めに応じて,その活動の振興・奨励に協力したものであり,これらの協賛
金の類は,交際の相手方が千差万別であり,すべての求めに応じて協賛を行ってい
るわけではなく,その対応の内容である具体的な金額等も,相手方に応じて異なっ
ているのである。
 そして,特定の者のみが参加して行われる行事等の活動については,市長がそれ
に対して賛助を行った事実を知り得るのは,交際の相手方及びその活動に参加した
者等,限られた者のみであることはいうまでもない。
 また,行事等の活動が,不特定多数の者に知られ得るか否かにかかわらず,交際
の相手方が市長の協賛を受けていることを外部の者に表示する等,交際の事実につ
いて不特定の者が知り得るところとなったとしても,市長が賛助した金額等までが
不特定の者が知り得るところとなることは通常考えられないところである。
 したがって,少なくとも,交際の内容までが不特定の者に知られ得るものという
ことはできない。
 よって,本件条例9条1項1号又は6号に該当するから,非公開とされるべきで
ある。
   (1審原告)
     これらはいずれも不特定多数人が参加する行事に対する賛助であって,
行事への参加を特に秘密にしていたという特段の事由がない限り,市長の賛助の事
実は,不特定多数の者が知り又は知り得ることのできる情報である。
 また,「その他の市政運営協力者・団体」が相手方の行事も含めて,行事への参
加が不特定多数の者が知り得るものではなかったとしても,これらの会合に市長が
参加したということが明らかになることで,通常,相手方が不快な感情を抱くとは
到底考え難い。
 したがって,6号及び1号の例外要件に該当するから,公開されるべきである。
  (3) 生花について
   ア 生花のうち,供花,慰霊祭献花,祝花の一部(別紙1,2の⑭)につい

   (1審被告)
     これらは,市長等の名を付して一般者の目に触れる場所に飾られたもの
であり,本件条例9条1項1号又は同項6号のいずれにも該当しない。
   イ 祝花,見舞(別紙1,2の⑮)について
   (1審被告)
     祝花は,相手方に祝の意を表するものとして贈ったものであるが,供
花,慰霊祭献花のように不特定の者の目に触れるように飾られる形態のものではな
く,また,贈呈の際は,周囲に不特定多数の者が同席していないような状況で相手
方に対して直接贈ったものであり,贈呈の事実及び生花の金額は,不特定の者に知
られ得るものではない。
 また,見舞は,病気療養中である者に対して贈った生花であり,贈呈の事実は,
不特定の者に知られ得るものではない。
 したがって,本件条例9条1項1号又は6号に該当するから,非公開とされるべ
きである。
   (1審原告)
     祝花の渡し方が内々であることと,市長からの祝花であることが不特定
多数の者にわかるように飾られるかは別次元である。このような点からみれば,生
花中,公職選挙法に規定する候補者に対する祝花や芸能人等が劇場や楽屋に飾る祝
花は,通常,市長からの祝花であることが不特定多数の者の目に触れる形で飾られ
るものである。
 したがって,6号及び1号の例外要件に該当するから,公開されるべきである。
  (4) 記念品(別紙1,2の⑰)について
  (1審被告)
    これらの記念品は,会議や表敬訪問などの場において,名古屋市を宣伝す
るために,名古屋市にちなんだ品物を内々に渡したものであり,例会等行事におい
て相手方に対して記念品として贈呈したり,政財界人等を訪ねた際,または政財界
人等が訪問に訪れた際に記念品として贈呈したものである。
 例会等行事において贈呈した記念品は,その会場で出席者全員に贈呈したもので
はなく,あくまで市長が相手方とのかかわり等を斟酌して,特定の者のみを対象に
して贈ったものであるとともに,贈呈の際は,相手方のみがいて,不特定の者が多
数同席していない場合には,贈呈の事実及び記念品の内容は,不特定の者に知られ
得るものではない。
 また,政財界人等を訪れた際,または政財界人等が訪問に訪れた際に贈呈した記
念品は,贈呈するかどうか,あるいは幾らの物を贈るかは,市長が相手方とのかか
わり等を斟酌して,個別に決定したものであるとともに,贈呈の際は,不特定の者
の目に触れる状態ではなく,相手方に対して直接贈ったものであり,贈呈の事実及
び記念品の内容は,不特定の者に知られ得るものではない。
 したがって,本件条例9条1項1号又は6号に該当するから,非公開とされるべ
きである。
  (1審原告)
    名古屋市にちなんだ品物を渡されたことが公開されたとしても,贈られた
側(交際の相手方)に不快な感情を抱かせるものとは言い難い。とりわけ,名古屋
市にちなんだ品物を贈る場合には,当該品物の価格が重要になるのではなく,当該
品物を贈られたことそれ自体が重要なのであるから,情報の公開により,たまたま
品物の価格差が明らかになったとしても,そのこと自体は名古屋市による相手方の
格付けとは関係しないはずである。例えば,ある交際相手には七宝焼を,ある交際
相手には有松絞りを贈った場合に,七宝焼と有松絞りに価格差が生じるのは同一商
品ではない以上当然であるが,その結果たまたま高額な商品を贈った相手方をより
高位に位置付けていることにはならないのである。
 したがって,名古屋市にちなんだ記念品を贈呈したことが明らかになったとして
も,相手方に不快の念を生じさせないことはもとより,相手方の格付けが明らかに
なるものでもなく,市長の交際事務を害することはない。
 よって,6号及び1号の例外要件に該当するから,公開されるべきである。
  (5) 賞品
   ア 公表・披露して贈呈したもの(別紙1,2の⑱)について
   (1審被告)
     これらは,公表・披露して贈呈したものであるから,本件条例9条1項
1号又は同項6号のいずれにも該当しない。
   イ 公表・披露することなく贈呈したもの(別紙1,2の⑲)について
   (1審被告)
     これらの賞品は,政財界人等が賞品の授与を伴うような私的な行事を開
催した際に,相手方の求めに応じて,市長が相手方とのかかわり等を斟酌して,賞
品を提供したものである。
 市長が賞品を提供した事実は,その行事の参加者には知られ得るものであるが,
参加者は人数的に小規模のいわば限定された者であり,賞品が提供された事実及び
賞品の内容は,不特定の者に知られ得るものではない。
 したがって,本件条例9条1項1号又は6号に該当するから,非公開とされるべ
きである。
   (1審原告)
     高額の賞品や現金であればともかく,通常は記念品程度の安価なものを
提供するのであって,これらの賞品の交付が明らかになったからといって,相手方
が不快感を感じるはずはない。
 したがって,6号及び1号の例外要件に該当するから,公開されるべきである。
第3 当裁判所の判断
 1 接遇について
  (1) 接遇のうち,懇談会で,地方公共団体の長等が相手方で公表することなく
開催した会合(別紙1,2の②)について
   ア これらの懇談会は,国・県への予算要望,地域経済・市民への影響が大
きいような重要な施策の実施などにあたって,市政に関する率直で忌憚のない意見
を交換するために開催されたものである(1審証人B,弁論の全趣旨)。
 このような懇談会は,名古屋市における重要な事業の施行のために必要な事項に
ついて市長自らが関係者と内密に協議を行うことを目的として開催されたものであ
るから,懇談の相手方が明らかになると,相手方において不快,不信の念を抱き,
また,会合の内容等につき様々な憶測等がされることを危惧し,その結果,以後会
合への参加を拒否したり,率直な意見表明を控えたりするおそれがある。
 したがって,このような文書が公開されると,当該又は同種の交際事務の目的の
達成が損なわれるおそれがあるから,市長としてはこれを公にすることはないもの
と認められる。
 よって,本件条例9条1項6号の非公開事由に該当する。
   イ 1審原告は,別紙1,2の②に該当する文書は,食糧費を財源とした懇
談に関する最高裁第三小法廷平成6年2月8日判決の趣旨によれば公開されるべき
文書に該当する旨主張する。
 しかし,上記事案の文書は,当該文書を公開することにより当該又は同種の事務
の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすような不都合な事態が生ずることは考
え難い懇談会等に関する文書であるのに対し,別紙1,2の②に該当する文書は,
いずれも市長の交際事務に関する文書であり,事業の施行のために必要な事項につ
いての関係者との内密の協議を目的として行われたもので,これを公開すると,相
手方との間の信頼関係を損ない,市長の交際事務の目的を達成することができない
おそれがあるもの(上記最高裁判決参照)であるから,懇談会の性質・内容等を異
にし,上記最高裁判決の趣旨を考慮しても,別紙1,2の②に該当する文書は,公
開すべき文書には該当しない。
 したがって,1審原告の主張は理由がない。
   ウ 1審原告は,懇談会については,会場の入口等に看板や案内表示が設け
られていることが通常であるから,懇談会の存在自体,不特定多数の者に知られ得
るものとなっている旨主張する。
 一般の懇談会については会場となっている建物の入口等に案内の看板が設置され
ていることが多いことは1審原告主張のとおりであるが,本件の場合は,内密の協
議を目的とする懇談会であり,仮に看板が設置されていたとしても,看板に必ずし
も市長や相手方の名前が記載されているとは限らないから,看板内容から市長が懇
談会に出席しているという事実及び懇談の相手方を不特定多数の者が知り得る状態
であったとは認め難い。
 したがって,1審原告の主張は理由がない。
  (2) 接遇のうち手土産(別紙1,2の⑤)について
   ア 手土産は,市長が,国・県への予算要望,地域経済・市民への影響が大
きいような重要な施策の実施などにあたって,正式な要望や公表以前に内々に意見
を求めるために政財界人等を訪れた際,もしくは政財界人等が訪問に赴いた際に御
礼の気持ちを表すために贈ったものである(1審証人B,弁論の全趣旨)。
 そうすると,手土産の上記性質・内容からすると,市長は,名古屋市と相手方と
のかかわり等を斟酌して支出の要否や金額等を個別に決定するのが通常であると認
められるから,市長としては,手土産を贈ったことを公表すると取扱いの差異が明
らかになって,不満や不快の念を抱く者が出ることが予想される以上,手土産を贈
った事実を公にすることはなく,ましてその具体的支出額が不特定多数の者に知ら
れ得るものであったとは通常考えられない。
 よって,本件条例9条1項6号の非公開事由に該当する。
   イ 1審原告は,手土産は接遇という目的からみれば従たる支出であり,そ
れ自体が直接的に名古屋市とのかかわりの濃淡を示すものとは言い難く,贈呈の相
手方も公務員か政財界人等であるから,これを公開しても相手方が不快な感情を抱
くことはない旨主張する。
 しかし,市長が手土産を贈呈するということ自体,市長の交際目的を果たすため
に重要な役割を担っていることは明らかであって,1審原告の主張するように従た
る支出とみることはできない。
 そして,これが公開された場合,取扱いの差異が明らかになって,不満や不快の
念を抱く者が出ることは容易に予想されるところである。
 したがって,1審原告の主張は理由がない。
 2 賛助について
  (1) 賛助のうち,構成員としての年会費
   ア ポスト指定であるが加入に裁量があるもの(別紙1,2の⑦)について
    (ア) これらの年会費は,政財界人等で構成される団体のうち,規約にお
いて,「会員は…及び名古屋市在住の官公庁等の長とする。」とか「賛助会員及び
特別会員中…市長 年額  円」などのように市長が会員となることが記載されて
いるが,加入に裁量のあるものについての年会費である(弁論の全趣旨)。
 当該団体がその目的・性格に照らし,市長をポスト指定の構成員として迎え入れ
ることが必要かつ重要であると考える場合に,ポスト指定としての入会を依頼し,
これを受けて,市の関連部局がその必要性等を検討して,市長に具申し,市長が,
当該団体の目的・性格及び構成員(在名官公庁の長や地元の大企業の社長あるいは
全国規模の大企業の支店長等が構成員であることが多いと推測される。)等を考慮
して,自らがポスト指定の会員として入会するか否かを決定していると推測され
る。
 したがって,この事実からは,加入は強制ではなくとも,市長をポスト指定とし
て迎えることのできる団体は,市長の地位及び職務の重要性を考慮すると自ずから
限られるから,当該団体は,名古屋市にとっても市政運営等の観点から加入するこ
とが当該団体の目的・性格及び構成員を考慮すると重要なものであって,特に支障
がない限り市長は加入しているものと推測される。そして,市長がポスト指定とし
て加入していることを積極的に公表したり,報道機関等によって取り上げられなく
とも,官公庁の長や経済界の重鎮等が構成員であり,構成員間の情報交換や親交を
深めることを目的に定期的に活動している以上,その活動を特に秘密にするもので
ない限り,団体の存在及び活動が不特定の者に知られ得る状態で行われていること
が多いものと認められる。
 そして,このようなポスト指定の団体における年会費については,一般的に相手
方とのかかわり等を斟酌して個別に決定するようなものではない。
 そして,他に団体の存在及び活動を特に秘密にしているという事実が窺えない以
上,これらの文書については,本件条例9条1項1号及び6号のいずれにも該当し
ない。
 したがって,別紙1の文書のうち,類型№欄に⑦の番号の付された文書について
は公開されるべきである。
    (イ) 1審被告は,ポスト指定であっても市長が相手方とのかかわり等を
斟酌して加入を決定するものであり,団体設立後にあっても任意に脱退できるもの
である上,構成員が団体等の存在を外部に公表・披露することは通常あり得ないか
ら,不特定多数の者に知られ得るものとはいえない旨主張する。
 しかし,加入に際し相手方とのかかわり等を斟酌し,また任意に脱退できるもの
であるとしても,団体に加入中は,団体の構成員が団体の存在や加入の有無を積極
的に公表・披露していなくとも,上記のとおりその活動を通じて不特定多数の者に
知られ得る状態となっていると認められる。したがって,加入に際し相手方とのか
かわり等を斟酌し,また任意に脱退できるものであることは,上記結論を左右する
ものではない。
 よって,1審被告の主張は理由がない。
   イ ポスト指定ではなく加入に裁量があるもの(別紙1,2の⑧)について
    (ア) これらは,財界人等で構成される組織(団体)であって,主催者と
の関係から,加入した方が今後の市政運営が円滑に進むものと判断した会に加入し
た時の年会費である(弁論の全趣旨)。
 したがって,名古屋市には同種事業を行っている数多くの団体があるから,これ
ら多数の団体のすべてに入会できるものでもないので,多数の入会依頼の中から当
該団体の事務に関連する部局が,市政運営の観点から必要性を検討し,市長に相談
し,市長が相手方とのかかわり,加入の必要性等を総合考慮して,入会の可否を決
定しているものと推測される。
 そうすると,これが公になると取扱いの差異が明らかになり,不満や不快の念を
抱く者が出ることが容易に予想されるから,市長がこれを公にすることはないもの
と認められ,また,一般的に当該団体の存在及び市長が構成員として加入している
ことが不特定多数の者に知られ得ることは少ないものと認められる。
 そして,当該団体の存在等が不特定多数の者に知られ得るものについても,会費
等については,主催者自身が市長と一般会員とを区別した取扱いをしたり,市長も
相手方とのかかわり等を斟酌して個別に決定している(例えば,団体からは1口の
基本金額のみが示され,支払口数は会員の判断に委ねられるものといった形態な
ど。)と推測されるから,市長がこれを公にすることはなく,これが公開・披露さ
れることがあれば,市長の交際事務の公正かつ円滑な運営に支障が生じるおそれが
あると認められる。
 よって,本件条例9条1項6号の非公開事由に該当する。
    (イ) 1審原告は,構成員が経済界の関係者から構成されている団体への
会費や行事の参加については,市長が経済界関係者の団体に参加したり,これらの
主催する行事に参加することは,社会通念上当然に予想されるものであり,団体加
盟や行事への参加が特に秘密裡に行われたという事情がない限り,公開されるべき
情報である旨主張する。
 しかし,市長をポスト指定としている団体については,その性質上数がある程度
限定されるから,これらについては不特定多数の者に知られ得るものとなっている
と認められるものの,それ以外の団体については,団体の存在や市長の加入の事実
は,不特定多数の者に知られ得ることは少ないものと認められる。
 したがって,1審原告の主張は理由がない。
    (ウ) 1審原告は,市長の団体への参加や団体主催行事への参加が報道さ
れている場合には,それらの情報は不特定多数の者が知り得るものとなっている旨
主張する。
 しかし,上記のとおり,市長が団体への参加を自ら公にすることはないと認めら
れるし,仮に,市長の参加の事実が報道されることがあったとしても,市長が年会
費を公にすることはないから,年会費までも報道されたとか報道により予想するこ
とができるとは考え難い。
 したがって,1審原告の主張は理由がない。
    (エ) 1審原告は,行事に不特定又は多数の者が参加している場合は,市
長の参加は不特定又は多数の者に知られ得るものとなっている旨主張する。
 しかし,市長が行事に参加していることを不特定又は多数の者に知られ得る状態
であっても,上記のとおり,市長は会費等については,相手方とのかかわり等を斟
酌して個別に決定し,市長がこれを公にすることはないと認められるから,会費等
の額が不特定又は多数の者に知られ得るものとなっているとはいえないし,これが
公開・披露されることがあれば,市長の交際事務の公正かつ円滑な運営に支障が生
じるおそれがあると認められる。
 したがって,1審原告の主張は理由がない。
    (オ) また,1審原告は,ポスト指定であるか不明のものはポスト指定に
準じて扱うべきである旨主張する。
 1審被告は,規約等をもとにポスト指定のものとそうでないものとを区別し,規
約が不明なものはポスト指定でないものに分類した(弁論の全趣旨)ものと認めら
れるところ,ポスト指定の団体の場合には,ポスト指定の取扱い等の観点から規約
を作成しているはずであり,規約の存在が確認できないためポスト指定としていな
いものは,ポスト指定でない蓋然性が高いと認められる。
 したがって,ポスト指定であるか不明なものをポスト指定に準じて扱う理由はな
い。
 したがって,1審原告の主張は理由がない。
  (2) 賛助のうち構成員としての例会等行事出席の会費
   ア ポスト指定ではあるが出席に裁量があるもの(別紙1,2の⑩)につい

    (ア) これらの会費は,政財界人等で構成される団体のうち,規約におい
て,「会員は…及び名古屋市在住の官公庁等の長とする。」とか「賛助会員及び特
別会員中…市長 年額  円」などのように市長が会員となることが記載されてい
るが,例会等行事の出席に裁量のあるものについての会費である(弁論の全趣
旨)。
 上記(1)のとおり,市長がポスト指定として出席していることを積極的に公表した
り,報道機関等によって取り上げられなくとも,官公庁の長や経済界の重鎮等が構
成員であり,構成員間の情報交換や親交を深めることを目的に定期的に活動してい
る以上,その活動を特に秘密にするものでない限り,団体の存在及び活動が不特定
の者に知られ得る状態で行われていることが多いものと認められる。
 そして,ポスト指定の団体に出席する会費については,一般的に相手方とのかか
わり等を斟酌して個別に決定するようなものではない。
 そして,他に団体の存在及び活動を特に秘密にしているという事実が窺えない以
上,これらの文書については,本件条例9条1項1号及び6号のいずれにも該当し
ない。
 したがって,別紙1の文書のうち,類型№欄に⑩の番号の付された文書について
は公開されるべきである。
    (イ) 1審被告は,ポスト指定であっても市長が相手方とのかかわり等を
斟酌して参加を決定するものであり,構成員が団体等の存在及び会合への出席を外
部に公表・披露することは通常あり得ないから,不特定多数の者に知られ得るもの
とはいえない旨主張する。
 しかし,上記(1)のとおり団体の構成員が団体の存在や会合への出席を積極的に公
表・披露していなくとも,その活動を通じて不特定多数の者に知られ得る状態とな
っていると認められる。
 したがって,1審被告の主張は理由がない。
   イ ポスト指定ではなく出席に裁量があるもの(別紙1,2の⑪)について
    (ア) これらは,政財界人等で構成される組織(団体)であって,主催者
との関係から,出席した方が今後の市政運営が円滑に進むものと判断した例会等に
出席した時の会費である(弁論の全趣旨)。
 したがって,上記のとおり,名古屋市には同種事業を行っている数多くの団体が
あるから,これら多数の団体から案内・出席依頼のあった行事のすべてに出席する
ことはできないから,市長は相手方とのかかわり等を斟酌して,裁量により個別に
出席する行事を選択していると推測される。
 そうすると,これが公になると取扱いの差異が明らかになり,不満や不快の念を
抱く者が出ることが容易に予想されるから,市長がこれを公にすることはないもの
と認められ,また,一般的に当該団体の存在及び市長が構成員として行事に参加し
ていることが不特定多数の者に知られ得ることは少ないものと認められる。
 そして,当該団体が不特定多数の者に知られ得るものであったとしても,会費に
ついてはポスト指定の場合と異なり,年会費と同様,市長が相手方とのかかわり等
を斟酌して個別に決定しているものと認められるから,市長がこれを公にすること
はなく,これが公開・披露されれることがあれば,市長の交際事務の公正かつ円滑
な運営に支障が生じるおそれがあると認められる。
 よって,本件条例9条1項6号の非公開事由に該当する。
    (イ) 1審原告は,構成員が経済界の関係者から構成されている団体への
会費や行事の参加については,市長が経済界関係者の団体に参加したり,これらの
主催する行事に参加することは,社会通念上当然に予想されるものであり,団体加
盟や行事への参加が特に秘密裡に行われたという事情がない限り,公開されるべき
情報である旨主張する。
 しかし,本件記録によっても,1審原告が主張する上記加入や会合等への参加
が,市長がポスト指定として団体等の会員となっている場合やその会合に出席する
場合等と同様,不特定の者に知られ得るものであったことをうかがわせる事情は見
当たらない。
 したがって,1審原告の主張は理由がない。
    (ウ) 1審原告は,市長の団体への参加や団体主催行事への参加が報道さ
れている場合には,それらの情報は不特定多数の者が知り得るものとなっている旨
主張する。
 しかし,上記のとおり,市長が行事への参加を自ら公にすることはないと認めら
れるし,仮に,市長の参加の事実が報道されることがあったとしても,会費につい
ては上記のとおり市長が公にすることはない以上,会費までも報道されたとか報道
により予想することができるとは考え難い。
 したがって,1審原告の主張は理由がない。
    (エ) 1審原告は,行事に不特定又は多数の者が参加している場合は,市
長の参加は不特定又は多数の者に知られ得るものとなっている旨主張する。
 しかし,市長が行事に参加していることを不特定又は多数の者に知られ得る状態
であっても,会費等としていくら支出しているのかは上記のとおり予想することは
困難であり,かつ,会費等は市長が相手方とのかかわり等を斟酌して個別に決定し
ていると認められるから,それが公表・披露されれば,市長の交際事務の公正かつ
円滑な運営に支障が生ずる恐れがある。
 したがって,1審原告の主張は理由がない。
    (オ) また,1審原告は,ポスト指定であるか不明のものはポスト指定に
準じて扱うべきである旨主張する。
 しかし,上記(1)のとおり,ポスト指定であるか否か不明のものについては,ポス
ト指定である蓋然性は低いと認められるから,ポスト指定であるか不明なものをポ
スト指定に準じて扱う理由はない。
 したがって,1審原告の主張は理由がない。
  (3) 賛助のうち,行事等の出席の会費(別紙1,2の⑫)について
   ア これらは,政財界人等が開催する講演,祝賀会,記念行事等の会のう
ち,出席の機会を活用して名古屋市の施策に関する意見や情報を求めることがで
き,今後の市政運営が円滑に進むものと判断した行事に出席したときの会費である
(弁論の全趣旨)。
 このような政財界人等が開催する講演,祝賀会等は極めて多数あり,市長がこれ
らの講演,祝賀会等への出席を依頼される場合も相当数に上るから,市長は相手方
とのかかわり等を斟酌して,出席する講演,祝賀会等を個別的に決めているものと
推測される。
 そうすると,これが公になると取扱いの差異が明らかになり,不満や不快の念を
抱く者が出ることが容易に予想されるから,市長としてはこれらの講演,祝賀会等
への出席を公にすることはなく,また,講演,祝賀会等自体,主催者及び会の性格
上,多くのものは不特定多数の者に知られ得るようなものではないと認められる。
 また,不特定多数の者に知られ得るようなものであったとしても,市長は主催者
とのかかわり等を斟酌して個別に出席の有無を決めているから,会費についても指
定された金額はあくまでも目安に過ぎないものとして,主催者とのかかわり等を斟
酌して会費に代えて祝い金等の名目で金額を個別に決定していることが多いと認め
られる。
 そうすると,会費の支出の事実はともかく,具体的な金額等が不特定多数の者に
知られ得る状態で行われるということは通常考えられない。
 したがって,本件条例9条1項6号の非公開事由に該当する。
   イ 1審原告は,講演等は不特定多数の者が参加する催しであって,市長の
参加は不特定多数の者に知られ得るものである旨主張する。
     しかし,上記のとおり講演等の行事の多くは不特定多数の者に知られ得
るものであるとは認められないし,市長の参加が不特定多数の者に知られ得るもの
についても,上記のとおり市長は相手方とのかかわり等を斟酌して個別に金額を決
めているのであるから,これを公にすることはなく,それが公表・披露されれば,
市長の交際事務の公正かつ円滑な運営に支障が生ずる恐れがある。
 また,1審原告は,会費それ自体が相手方とのかかわり等を斟酌して個別に金額
を決定するものでない場合に該当する旨主張する。しかし,上記のとおり市長は相
手方とのかかわり等を斟酌して個別に金額を決めているものと認められる。
 したがって,1審原告の主張は理由がない。
  (4) 賛助のうち,各種大会,講演,行事等の賛助(別紙1,2の⑬)について
   ア これらの賛助金は,各種大会,講演会及び行事等の協賛金であって,市
長が求めに応じて,その活動の振興・奨励に協力するために支出したものである
(弁論の全趣旨)。
 このような各種大会,講演会等の行事は名古屋市内において極めて多数開催され
ているから,市長に対する賛助の依頼も相当数に上り,市長としては,関係部局の
意見も聞きながら,相手方とのかかわり等を考慮して,支出の有無及び協賛金の額
等について,個別的に決定しているものと推測される。
 したがって,市長としては賛助の有無を公にすると,取扱いの差異が明らかにな
り,不満や不快の念を抱く者が出ることが容易に予想されるから,市長がこれを公
にすることはないものと認められ,大会や行事等の性格・規模によっては,市長が
賛助金を支出した事実は特定の少数人に知られるにとどまることも多いと推測され
る。
 もっとも,市長が賛助金を提供して大会や講演会等の振興に協力していることが
主催者等により明らかにされてその事実が不特定多数の者に知られ得ることもある
と推測される。
 しかしながら,賛助の事実はともかく,賛助金の具体的な金額等までが不特定の
者に知られ得る状態で行われるということは通常は考えられない。
 したがって,本件条例9条1項6号の非公開事由に該当する。
   イ 1審原告は,一般に相手方が「公職選挙法に規定する公職者」「報道出
版関係者」「労働関係者」の場合の「スポーツ関係,講演,会議やセミナーなどへ
の行事」への参加はそれ自体,不特定多数の者が知り得るものがほとんどである旨
主張する。
 しかし,上記のとおり,1審原告が主張する上記の会合の全てに市長が協賛金を
提供しているとは認められないし,大会の性格・規模によっては,特定の少数人に
知られるにとどまることも多いと推測され,一般的に市長が賛助金を提供している
こと及びその金額が不特定多数の者に知られ得るものであるとはいえない。
 また,1審原告は,市長の行事への参加が不特定多数の者に知り得るものではな
かったとしても,市長の参加が明らかになることにより,相手方が不快な感情を抱
くことはない旨主張する。
 しかし,これが公開された場合,取扱いの差異が明らかになって,不満や不快の
念を抱く者が出ることは容易に予想されるところである。
 したがって,1審原告の主張は理由がない。
 3 生花について
  (1) 供花,慰霊祭献花,祝花の一部(別紙1,2の⑭)について
    これらは,市長の名を付して一般者の目に触れる場所に飾られたものであ
る(1審証人B,弁論の全趣旨)。
 したがって,不特定多数の者に市長が贈呈した事実が知られ得るものであり,ま
たこれを見ればおおよその価格を知ることができるものであるから,本件条例9条
1項1号及び6号のいずれにも該当しない。
 したがって,別紙1の文書のうち,類型№欄に⑭の番号の付された文書について
は公開されるべきである。
  (2) 祝花,見舞(別紙1,2の⑮)について
   ア 祝花は,相手方に祝いの意を表するものとして楽屋などで贈ったもので
あり,また,見舞は,病気療養中の者に対して贈った生花である(1審証人B,弁
論の全趣旨)。
 このような祝花は,市長が相手方とのかかわり等を斟酌して特に贈ったものであ
り,これが公にされると取扱いの差異が明らかになって,不満や不快の念を抱く者
が出ることが容易に予想されるから,市長がこれを公にすることはないものと認め
られ,それ故,楽屋などで贈られたものと推測される。
 したがって,このような祝花は,楽屋などの室内に飾られ,また楽屋などは不特
定多数の者が立ち入る所でもないから,贈呈の事実を不特定多数の者に知られ得る
ものとはいえない。
 また,見舞については,市長が相手方とのかかわり等を斟酌して特に贈ったもの
であり,そもそも病気に罹患していること自体相手方としては他人に知られたくな
い情報である上,これが公にされると取扱いの差異が明らかになって,不満の念や
不快の念を抱くものが出ることが容易に予想されるから,市長がこれを公にするこ
とはないものと認められ,それ故,病室にて贈られたものと推測される。
 したがって,このような見舞については,仮に病室等に飾られることがあったと
しても,不特定多数の者が立ち入る所ではないから,贈呈の事実を不特定多数の者
に知られ得るものとはいえない。
 したがって,本件条例9条1項6号に該当する。
   イ 1審原告は,公職選挙法に規定する公職者に対する祝花や芸能人が劇場
や楽屋に飾る祝花は,通常市長からの祝花であることが不特定多数の者の目に触れ
る形で飾られるものである旨主張する。
 しかし,上記のとおり市長が贈呈した祝花は楽屋などの屋内に飾られたものと認
められ,これらが劇場の入口など不特定多数の者の目に触れるような状況で飾られ
たとは認められない。
 したがって,1審原告の主張は理由がない。
4 記念品(別紙1,2の⑰)について
  (1) これらは,会議等の行事あるいは表敬訪問などの場において,名古屋市を
宣伝するために,名古屋市にちなんだ品物を相手方に記念品等として贈呈したもの
で,贈呈の相手も会議の出席者又は表敬訪問者の全員ではなく,特定の者のみを対
象としている(弁論の全趣旨)。
 名古屋市で開催される会議の出席者又は表敬訪問者の数は極めて多数に上り,市
長は,これら多数人の中から,相手方とのかかわり等を斟酌して贈呈の可否及び記
念品の内容を個別に決定していると推測される。
 したがって,これが公になると取扱いの差異が明らかになって,不満や不快の念
を抱くものが出ることが容易に予想されるから,市長がこれを公にすることはない
ものと認められる。
 したがって,贈呈の事実及びその金額が不特定多数の者に知られ得るものであっ
たとは通常は考えられない。
 したがって,本件条例9条1項6号に該当する。
  (2) 1審原告は,名古屋市にちなんだ品物を渡されたことが公開されたとして
も,交際の相手方に不快の念を生じさせることはないし,相手方の格付けが明らか
になるものでもない旨主張する。
 しかし,これが公開された場合,取扱いの差異が明らかになって,不満や不快の
念を抱く者が出ることは容易に予想されるところである。
 したがって,1審原告の主張は理由がない。
 5 賞品について
  (1) 公表・披露して贈呈したもの(別紙1,2の⑱)
    これらは,公表・披露して贈呈されたものである(弁論の全趣旨)。
 したがって,不特定多数の者に市長が贈呈した事実が知られ得るものであり,ま
たこれを見ればおおよその価格を知ることができるものであるから,本件条例9条
1項1号及び6号のいずれにも該当しない。
 したがって,別紙1の文書のうち,類型№欄に⑱の番号の付された文書について
は公開されるべきである。
  (2) 公表・披露することなく贈呈したもの(別紙1,2の⑲)について
   ア これらは,政財界人等が賞品の授受を伴うような私的な行事を開催した
際に,相手方の求めに応じて,提供したものである(弁論の全趣旨)。
 このような賞品の提供の依頼に対し,市長は,相手方とのかかわり等を斟酌して
贈呈の可否及び賞品の価格を個別に決定しているものと推測される。
 したがって,これが公になると取扱いの差異が明らかになって,不満の念や不快
の念を抱くものが出ることが容易に予想されるから,市長がこれを公にすることは
ないものと認められる。
 また,贈呈も私的な行事の中で行われるものである以上,贈呈の事実及びその具
体的支出額を不特定多数の者に知られ得るものであったとは通常は考えられない。
 したがって,本件条例9条1項6号に該当する。
   イ 1審原告は,賞品は記念品程度の安価なものを提供するのであって,こ
れらの賞品の交付が明らかになったからといって,相手方が不快感を感じるはずが
ない旨主張する。
 しかし,別紙1のとおり,賞品の金額は,5000円,9800円,3万200
0円と違いがあり,これが公開された場合,取扱いの差異が明らかになって,不満
や不快の念を抱く者が出ることは容易に予想されるところである。
 したがって,1審原告の主張は理由がない。
 6 小括
   以上のとおり,別紙1の文書のうち,類型№欄に⑦,⑩,⑭,⑱の番号の付
された文書は公開されるべきものである。
 したがって,
  (1) 1審判決別紙(2)残高欄の前渡金出納簿欄に○印が記載されたもののう
ち,同欄の番号欄の番号が31,34,123,127,222,277,29
7,337,386,526,528,536,562,568,598,60
4,620,623,680,705,799,813,831,837,97
1,998,1071であるものの各支出情報部分(いずれも年月日,摘要及び支
払高の各欄をあわせた各横一行)を非公開とした部分
  (2) 1審判決別紙(2)残高欄の領収書欄に○印が記載されたもののうち,同欄
の番号欄の番号が34,123,222,297,337,386,536,56
2,568,598,604,620,623,680,705,813,83
1,971,998,1071であるものの領収書を非公開とした部分
  (3) 1審判決別紙(2)残高欄の支払証明書欄に○印が記載されたもののうち,
同欄の番号欄の番号が31,127,526,528,837であるものの各支出
情報部分(いずれも支払年月日,金額及び内容の各欄を合わせた各横一行)を非公
開とした部分
は,いずれも取り消されるべきものである。
第4 結論
   よって,以上と異なる1審判決を変更することとし,主文のとおり判決す
る。
    名古屋高等裁判所民事第3部
        裁判長裁判官   青   山   邦   夫
           裁判官   藤   田       敏
           裁判官   田   邊   浩   典
(別紙省略)
  

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