弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一 原告
1 渋谷税務署長のした左記各処分に対する原告の審査請求について被告が昭和四
六年四月二七日付でした各裁決を取消す。
(一) 昭和四四年一一月二七日付でした原告の昭和三八年一一月一日から昭和三
九年一〇月三一日までの事業年度以降の青色申告書提出承認の取消処分
(二) 昭和四四年一一月二九日付でした原告の昭和三八年一一月一日から昭和三
九年一〇月三一日までの事業年度および同年一一月一日から昭和四〇年一〇月三一
日までの事業年度の各法人税についての各更正(四次)処分
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文同旨
第二 当事者の主張
一 原告の請求原因
1 原告は、渋谷税務署長より青色申告書提出承認を受けていた株式会社である
が、昭和三八年一一月一日から昭和三九年一〇月三一日までの事業年度および同年
一一月一日から昭和四〇年一〇月三一日までの事業年度の法人税について確定申告
したところ、渋谷税務署長は、昭和四四年一一月二七日付で原告の昭和三八年一一
月一日から昭和三九年一〇月三一日までの事業年度以降の青色申告書提出承認の取
消処分をするとともに、昭和四四年一一月二九日付で原告の前記二事業年度の法人
税についての各更正(四次)処分をした。そこで原告は、同年一二月二四日渋谷税
務署長に対し、右各処分について異議申立てをしたところ、右異議申立ては昭和四
五年一月一三日をもつて審査請求とみなされ(以下、本件審査請求という。)、被
告は、担当審判官および参加審判官の議決に基づき、昭和四六年四月二七日付で、
右取消処分にかかる審査請求については棄却の、右更正(四次)処分にかかる審査
請求について原処分一部取消しの各裁決(以下、一括して本件裁決という。)を
し、その裁決書は、同年五月一二日原告に送達された。
2 しかし、本件裁決の基礎となる議決は、つぎに指摘する事由により違法である
から、本件裁決もまた違法といわなければならない。
(一) 構成面の違法
東京国税不服審判所所属の国税副審判官であるAは、本件審査請求につき、担当審
判官の命を受け、調査、審理の事務を補佐し、事務の整理にあたつた。しかし、同
人は、つぎに述べる理由により、右職務を担当するについて欠格者というべきであ
るから、本件裁決の基礎となる議決には、それをなす合議体の構成員に欠格者を参
加させたばあいと同視すべき違法がある。
渋谷税務署長は、本件審査請求の対象とされている前記処分をなす以前に、いずれ
も昭和四二年一二月二六日付で、原告の昭和三六年一一月一日から昭和三七年一〇
月三一日までの事業年度以降の青色申告書提出承認の取消処分および請求原因1記
載の原告の二事業年度の法人税についての各更正(二次)処分をした。そこで原告
は、昭和四三年一月二四日右各処分に対して異議申立てをしたところ、右異議申立
ては、同年二月二二日をもつて審査請求とみなされ(以下、第一次審査請求とい
う。)、東京国税局長は、協議団の議決に基づき、昭和四四年九月一〇日付で原処
分取消しの各裁決をしたものであるが、当時東京国税局協議団所属の協議官であつ
たAは、担当協議官として右協議団の議決に関与した。
ところで、国税不服審判所が創設される以前に存在した協議団は、国税局の附属機
関であり、執行機能を有する国税局長の指揮下にあつてその強い影響を受け、国税
庁長官通達と異なる解釈をすることは困難であつたから、実質的には執行機関とみ
るべきものである。
したがつて、Aは、かつて右のような執行機関の一員として第一次審査請求の議決
に関与したことになるから、協議団制度とは異なり、執行系統の機関から完全に独
立した第三者的な審査機関として設けられた国税不服審判所制度の趣旨を生かし、
予断を排して裁決の公正さを保つためには、本件審査請求において、当然に、前述
した職務の担当から排除されるべきであつた、といわなければならない。
(二) 手続面の違法
本件裁決の基礎となる議決には、その事実認定の公正さを疑わせる資料収集手続上
の違法がある。
Aは、つとに第一次審査請求において、主としてB名義の預金の発生原因につき、
原告代表者およびBから詳細な事情聴取をしている。しかし、右調査の法的根拠
は、収税官史と同様な質問検査権(法人税法一五三条)であり、このような協議官
の有する調査権は、国税不服審判所制度のもとで国税審判官およびその補助者たる
国税副審判官に対して認められている審理のための質問検査権(国税通則法九七
条)とは根本的に異なる。すなわち、担当審判官らは、審査請求人および原処分庁
を対等にみて、第三者的立場で独自の質問検査権を行使するのであり(協議官のよ
うに、国税局、税務署の当該職員に調査を嘱託することはできない。)、審査請求
人らが質問に応じなかつたとしても、罰則の適用はなく、ただ裁決手続において不
利益な扱いをするにとどまる。昭和四五年法律第八号による国税通則法の一部改正
が行なわれた際、衆、参両議院大蔵委員会は、国税不服審判所の職員の質問検査権
の行使につき、それが納税者の権利救済の趣旨に反しないよう十分配慮すべき旨決
議している。このように、法的性質を異にする調査権を同一人が同一事案について
行使したのであるから、本件裁決の基礎となる調査は、それに先だつて行なわれた
右の調査の結果に強く左右されたと疑うに足りる十分な理由があり、したがつて、
本件裁決もその事実認定の公正さが疑われる点において違法というべきである。
3 よつて、原告は本件裁決の取消しを求める。
二 請求原因に対する被告の認否および主張
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の(一)の事実中、Aが本件審査請求において原告主張のような職務を担
当したこと、本件審査請求に先だつて、原告主張のような経緯で第一次審査請求が
なされ、Aが原告主張のように協議団の議決に関与したこと、協議団が国税局の附
属機関であつたことは認めるが、その余の点は争う。
3 同2の(二)の事実中、Aが第一次審査請求において、原告主張のような調査
をしたことは認める。協議官および担当審判官等の質問検査権が根本的に異なると
の点ならびに本件裁決の基礎となる調査に公正さを疑われる違法事由が存するとの
点はいずれも争う。
4 構成面からみた適法性
国税不服審判所設置以前には、国税局長は執行機能と事後の補正機能とを併せて持
つていたもので、国税局には執行機能をはたす賦課徴収部門と、補正機能を専門的
に担当する審査部門としての協議団とが、それぞれ別の組織として設置されていた
ものである。
すなわち、協議団は内国税に係る不服申立てについて審理し、議決に関する事務を
つかさどつていたものであり(国税庁協議団及び国税局協議団令一条一項)賦課徴
収を行なう執行機関とは全く別の系統に属する納税者の正当な権利を救済するため
に設けられた審査機関であつた。
したがつて、形式において、協議団が国税局長に所属していたことをもつて、直ち
に協議団を実質においても執行機関と断定し、これを前提として展開された原告の
主張はすべて理由がない。
のみならず、国税副審判官であるAが本件審査請求において原告主張のような職務
を担当したことが適法であることは、つぎに述べる点からみても明らかである。
(1) 一般に、審査請求事件の調査、審理については、国税通則法七九条二項に
より「国税審判官は、国税不服審判所長に対してされた審査請求に係る事件の調査
および審理を行ない、国税副審判官は、国税審判官の命を受け、その事務を整理す
る」と定められ、さらに、昭和四六年二月一五日国管(管)一三四(例規)審査事
務提要第四節二三により「担当審判官としては、合議体の中心となつて調査、審理
を推進する職責を有するのであるから、問題解決の重要な鍵となるべき要調査箇所
等については、自ら実地に調査に臨むよう配意するとともに、常に調査の進ちよく
状況をは握し、また、参加審判官と連絡を密にして、適時に合議を開き、問題点に
ついての意見の交換を十分に行ない、審理を尺くすように努める。」と定められて
いる。
すなわち、事件の調査、審理は、担当審判官が中心となり参加審判官と十分連絡を
とり、適時に合議を開き、意見の交換を行ない、審理を尺くしているもので、その
過程において必要な調査事項について担当審判官等は補助者に命じ、調査を行なわ
せ調査資料を提出させているものである。
これを本件審査請求に関する調査、審理について述べると、Aは、昭和四五年五月
一二日に担当審判官より当該事件について補助者となることを命ぜられたため、同
年一〇月八日原告事務室に担当審判官とともに臨場して、原告の代表者Cと面接の
うえ事情聴取を行ない、また、その翌日、担当審判官より調査事項の指示を受け、
その指示に基づいて原処分庁および原告等より提出された関係書類について書面審
理を行なつている。その後その調査結果により、同月二二日に担当審判官および参
加審判官二名の三名による第一回の合議が行なわれ、その結果、原告の会長である
Bより事情を聴取する必要が認められたため、Aは、担当審判官の命により、その
翌日同人と面接して、要調査事項について事情聴取を行なつている。そして、その
結果を検討するため、同月二七日第二回目の合議が行なわれたが、その際、さら
に、参加審判官より東京国税局直税部の意見を聴くようAに指示があり、その結果
を得たところで同月三〇日に最終合議が行なわれ、国税通則法施行令三五条による
議決が同日行なわれたものである。
以上述べたとおり、事件の調査、審理は担当審判官が中心となつて参加審判官と意
見を交換し、適時合議を行ないながら審理を尺くしているもので、補助者が予断、
私情をさしはさみ、これが議決に影響を及ぼすおそれはないのである。
ちなみに、本件議決の合議体の構成は、担当審判官D、参加審判官EおよびFと指
定され、この三審判官をもつて合議体が構成された。
(2) Aは、原告の第一次審査請求を審理した当時は東京国税局協議団所属の協
議官であつたが、昭和四五年五月一日国税通則法の一部を改正する法律(昭和四五
年法律第八号)゛により、協議団にかわり国税不服審判所が創設され、協議団が廃
止されたので、これに伴い東京国税不服審判所の国税副審判官に配置換えとなつた
ことから、原告の本件審査請求の事務の整理にあたつた時は、東京国税不服審判所
所属の国税副審判官となつていたものである。
ところで、協議団も国税不服審判所も、ともに納税者から提出された審査請求を取
り扱う機関であり、その間に上級庁下級庁の関係はないのであつて、第一次審査請
求の審理等を担当したものが、第二次審査請求の審理等に関与したからといつて、
なんら違法とはいえない。むしろ、本件審査請求については、事情に精通している
Aを担当審判官の補助者として調査、審理の事務を補佐せしめることは、審査請求
人等の便宜の点および事務の能率上等の見地からして当然の措置である。さらに、
原告が渋谷税務署長に対し、のちに本件審査請求とみなされた異議申立てをなした
際、原告の代理人Gは、同署の異議事務を専担していた上席調査官Hに対し「新担
当官に再び始めに戻つて説明を操り返す手数を省略するため、国税局協議団で審理
されることを希望する。」旨述べ、昭和四五年一月一三日付で異議申立てを審査請
求として取扱うことの同意書を同署長に提出している。
以上の事情に照らしても、本件第二次の審査請求についての担当審判官の補助者と
しては、Aが最適任者であり、同人を担当審判官の補助者としたことについてなん
ら違法はない。
5 手続面からみた適法性
本件裁決は、前述のとおり、適法に構成された合議体の議決に基づき、国税通則法
九八条の定めるところにより、適法に行なわれており、その審理手続になんら違法
はない。
協議団当時の協議官は、法人税法その他の各税法の質問検査権により審査請求の審
理に必要な調査を行なつても、それは課税のためではなく、あくまで納税者の正当
な権利救済のため行なわれたもので、法人税法等の質問検査権の規定が、この目的
のもとに行なわれる調査には適用されないとする理由は全くないし(異議申立てに
ついては現在もこれによつている。)、また、それによつて収集された資料が、第
三者的立場から逸脱して収集されたものと疑われる理由もない。
なお、国税不服審判所を創設するにあたり、審理のための質問、検査等の規定が、
新しく国税通則法に設けられるに至つたが、それは、法人税法その他各税法の質問
検査権の規定が、本来国税不服審判所の審理に適用さるべきものでないという理由
によるものではない。その理由は、審査請求の審理のための調査権は審査請求人の
権利の救済を図るために行使されるものであるから、法人税法等における質問検査
権のように審査請求人等に罰則を科することは相当でなく、審査請求人等が調査に
協力しない結果、審査請求人の主張を明らかにすることが著しく困難になつたとき
は、その主張を採用しないこととすれば十分であるとの考え方にたつて、国税通則
法九七条四項においてそのような場合には審査請求人の主張を採用しないことがで
きる旨を規定するとともに、罰則は、審査請求人およびその特殊関係者以外の第三
者について適用するに止める等規定の改善を図つたものである。したがつて、原告
のこの点の主張も全く理由のないものである。
さらに、本件裁決に関する資料収集について附言するならば、右裁決は、審査請求
人の提出した諸資料、原処分庁より提出された処分の理由となつた事実を証する書
類および協議団ならびに国税不服審判所において調査した課税要件事実に関する資
料等のすべての関係資料により、合議体が慎重に審理し、議決したところに基づい
てなされているもので、公正さを疑われる余地は全くなく、その手続においてもな
んら違法はない。
三 被告の主張に対する原告の反論
1 構成面からみた適法性(被告の主張4)について
かりに、協議団が国税局長の有する補正機能のみを担当する審査機関であつたとし
ても、その権限、組織において、国税不服審判所とは本質的差異があることを決し
て看過することはできない。多数の国税副審判官(定数一三三名)がいるにかかわ
らず、「事情に精通している」との理由で、Aを本件審査請求の調査担当者に指名
したことは、右のような制度的差異に対する根本的な認識を欠き、予断をもつて審
理、議決したことを自認するものである。なお、被告が主張する原告の代理人Gの
発言は、国税不服審判所発足前のことであり、本件裁決とは関係がない。
2 手続面からみた適法性(被告の主張5)について
協議団当時の協議官が各税法上の質問検査権を審査のためにのみ行使するといつて
も、この点について、担保するものは何もない。そして、本件審査請求の調査にあ
たつては、第一次審査請求の際に調査した事項以外に新たな事実は全くなかつた。
したがつて、本件裁決は、形式上国税不服審判所制度上の議決に基づいてなされて
いるが、実質上は、旧協議団と同種の議決に基づくものといえる。
第三 証拠(省略)
○ 理由
請求原因1の事実、すなわち、原告の本件審査請求について、被告が、担当審判官
および参加審判官の議決に基づき、昭和四六年四月二七日付で本件裁決をし、その
裁決書が同年五月一二日原告に送達されたことは当事者間に争いがない。
そこで、本件裁決の基礎となつた右議決について、原告の主張するような違法事由
が存するか否かについて判断する。
(構成面について)
本件審査請求については、東京国税不服審判所所属の国税副審判官であるAが、担
当審判官の命を受け、調査、審理の事務を補佐し、事務の整理にあたつたこと、と
ころが、右Aは、本件審査請求より以前に原告から提起された第一次審査請求にお
いては、東京国税局協議団所属の担当協議官として、東京国税局長が昭和四四年九
月一〇日付でした裁決の基礎となる協議団の議決に関与したことは、いずれも当事
者間に争いがない。
ところで、原告は、協議団制度とは異なる国税不服審判所制度の趣旨を生かし、予
断を排して裁決の公正さを保つためには、右Aは、本件審査請求において当然にそ
の職務の担当から排除されるべきであり、これに反した前記議決には、それをなす
合議体の構成員に欠格者を参加させたばあいと同視すべき違法がある、と主張する
ので、この点について検討する。
国税副審判官は、国税不服審判所またはその支部に置かれ、国税不服審判所長に対
してされた審査請求にかかる事件の調査および審理を行なう国税審判官の命を受
け、その事務を整理することを本来の職務とし、国税不服審判所長の指名があつた
ときに限り、参加審判官として議決に関与するものであるが(国税通則法七九条一
項ないし三項、九八条三項、国税不服審判所組織令一条、国税不服審判所組織規程
四条)、国税不服審判所の組織、手続を定めている国税通則法およびその関係附属
法令の中には、国税副審判官が、具体的な事件において、一定の事由があるばあい
に、法律上当然に、または一定の手続を経たうえで、右の職務の執行から排除さ
れ、または右の職務執行から回避することができる旨を定めた規定は全く存しない
から、法は、国税副審判官のうちのいかなる者を当該事件の担当者(いわゆる分担
者)として指名するかは、全くこれを担当審判官の便宜裁量に委ねているものと解
せられる。したがつて、右のような裁量の範囲においては、場合によつて不当とな
ることがあつても、違法となることはないといわなければならない。本件について
みると、証人Aの証言によれば、本件審査請求は、東京国税不服審判所において審
理されたところ、昭和四五年五月中頃同所長によりDが担当審判官として指定され
たこと、D審判官は、その所属する第一部に配置されている二名の国税副審判官の
手持ち事件数、その進ちよく状況を勘案し、所長の同意を得て、Aを本件審査請求
の分担者として指名したことが認められるのであつて、Aが本件審査請求を担当し
たことはなんら違法ではない。
ちなみに、訴訟もしくはそれ以外の裁判またはこれに準ずるものに関与する裁判
官、裁判所の職員その他の者については、法律上除斥、忌避および回避の制度がも
うけられているが(民事訴訟法三五条ないし四四条、七九二条、非訟事件手続法五
条、民事調停法二二条など)、これは、これらの手続が、司法権の作用として、独
立かつ公正な第三者である裁判所で行なわれるものであり、これにあたる者の職務
執行の公正さを図り、これに対する国民の信頼感を維持することが必要であるとい
う制度本来の要請に基づくものであるから、多かれ少なかれ争いの当事者である行
政庁自らが、行政権の作用として、簡易迅速な略式の手続によつて争いを解決し、
このことによつて国民の権利利益の救済を図り、あわせて行政運営の適正化を確保
することを目的とする行政不服申立て手続(国税不服審判所においては、国税不服
審判所長が国税局の執行系統の機関からは独立して裁決権を行使し、国税庁長官通
達には拘束されない等の点においては、従前の協議団制度と異なる面もあるが、行
政不服申立て手続内の裁決機関であることには変わりはない。)について、右の規
定を準用もしくは類推適用する余地がないことは当然である。
これを要するに、原告の主張は、全く独自の見解であつて、とうてい採用すること
はできない。
(手続面について)
つぎに、原告は、A副審判官は、かつて担当協議官として、国税不服審判所制度の
もとで認められている審理のための質問検査権とは異なる収税官吏と同様の質問検
査権により原告を調査しているのであるから、本件裁決の基礎となる調査が右のよ
うに法的性質を異にする調査結果に強く左右されたと疑うに足りる十分な理由があ
り、前述した議決には、その事実認定の公正さを疑わせる資料収集手続上の違法が
ある、と主張するので、この点を判断する。
国税不服審判所における審査請求の審理手続については、行政不服審査法に対する
特別規定として、国税通則法九一条以下の規定がこれを定め、ひろく職権主義を採
用しているが、国税副審判官については、担当審判官の嘱託により、またはその命
を受け、審査請求人もしくは原処分庁または関係人その他の参考人に質問するこ
と、あるいはこれらの者の帳簿書類その他の物件を検査することが認められている
のである(国税通則法九七条二項)。本件においては、証人A、同Gの各証言によ
れば、A副審判官は、D審判官の指示にしたがい、本件審査請求の調査のため、二
度にわたり、原告の事務室および原告代表者の母であるB宅で代表者およびBらか
ら事情聴取をしたほか、参加審判官の指示に基づき、原告の役員報酬について東京
国税局直税部の意見を徴したことが認められ、これらの行為が、右のような法定の
権限に基づく適法なものであることはいうまでもない。Aが、つとに、第一次審査
請求において、担当協議官として原告代表者およびBから事情聴取をしていること
は当事者間に争いがなく、証人Aの証言によれば、Aは、本件審査請求において、
東京国税不服審判所の管理課に保管されている右第一次審査請求の事件記録を検討
していることが認められるが、このことは、なんら国税副審判官に認められている
前記調査権の範囲を逸脱するものではなく、むしろ、審理、調査の目的に適うもの
と考えられる。そして、その他本件裁決の基礎となる議決の資料収集手続上に、そ
の公正さを疑わせるような点は、証拠上全く窺われない。
したがつて、原告の右主張もまた採用することはできない。
よつて、本件裁決が違法であるとして、その取消しを求める原告の本訴請求は、理
由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用し
て主文のとおり判決する。
(裁判官 高津 環 上田豊三 篠原勝美)

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