弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 被告は、原告に対し、金六八八万〇三八二円及びこれに対する昭和六〇年五月
二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とす
る。
四 この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金八九九万七〇〇〇円及びこれに対する昭和六〇年四月
一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和二三年八月一日、訴外清水水産株式会社(以下、「清水水産」と
いう。)と雇用契約を締結し、同社に勤務していたが、昭和四七年四月一日、同社
から、同社との雇用契約を継続したまま被告への出向を命ぜられて、同日から被告
に勤務した。そして、原告は、昭和五三年九月三〇日、清水水産から出向を免ぜら
れたため、同社との雇用契約はこれにより終了した。
2 次いで、原告は、同日、被告との間で雇用契約を締結し、以来被告に雇用され
てきたが、昭和六〇年三月三一日をもって被告を退職した。
3 清水水産の退職金支払基準は、退職時における基本給と物価手当を加算した額
に勤務年数を乗じ、更にそれに勤務年数に応じた係数を乗じて算出するというもの
であって、原告が清水水産を退職した昭和五三年九月三〇日の時点では、原告の基
本給一三万五三〇〇円、物価手当四万五五九〇円、勤務年数三〇年二か月、係数は
一・五であるから、これに基づいて算出すると、清水水産が原告に支払うべき退職
金は八一八万五二七二円となる。
4 清水水産は、昭和五三年九月三〇日、原告の出向を免じた際、その時点におい
て同社が原告に対して支払うべき退職金相当額を被告に支払い、被告に右退職金支
払義務の履行を委託した。
5 被告会社の退職金支払いの基準は、清水水産のそれと全く同一内容であって、
原告が被告を退職した昭和六〇年三月三一日の時点では、原告の基本給一三万五三
〇〇円、物価手当五万一〇〇〇円、勤務年数六年六か月、係数は一・一であるか
ら、これに基づいて算出すると、被告が原告に支払うべき退職金は一三三万二〇四
五円となる。
6 原告は、被告に対し、昭和六〇年五月二五日、右3及び5の退職金の合計額を
支払うよう請求した。
7 よって、原告は、被告に対し、清水水産からの委託に基づいて原告に支払うべ
き退職金八一八万五二七二円、原告の退職に基づき被告が原告に対して支払うべき
退職金一三三万二〇四五円の内金八一万一七二八円及びこれに対する弁済期経過後
である昭和六〇年四月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損
害金の各支払いを求める。
二 請求原因に対する認否及び被告の反論
 請求原因1のうち、原告と清水水産との雇用契約の締結の日時は知らない。その
余の事実は認める。同2ないし5はいずれも否認する。同6は明らかに争わない。
 被告は清水水産との間で、原告が主張するような退職金支払の履行の委託を受け
たことはないから、被告が原告に対し清水水産に代わってその退職金を支払うべき
義務はない。
 また、被告は、昭和五六年一一月二五日、当時被告の業務課長であった原告を、
粉飾決算に関与して被告に相当な損害を与えたことに基づき、就業規則六九条二項
により懲戒解雇し、次いで被告は同年一二月一五日、改めて原告を採用したもので
ある。そして、原告は昭和五九年一二月三日停年となったが、被告は昭和五九年一
二月四日原告を嘱託社員として雇用したものである。したがって、昭和五六年一二
月一五日から昭和六〇年三月三一日までが被告が原告に対して退職金を支払うべき
期間であり、これについて被告が原告に対して支払うべき退職金は、被告の退職金
規定及び退職金支給特例の定める退職金支払基準によれば、原告の右就職した昭和
五六年一二月一五日から停年の昭和五九年一二月三日までの二年一一か月は、基本
給一三万五三〇〇円、係数は〇・五であるから一九万七三一二円となり、停年後の
昭和五九年一二月四日から退職の昭和六〇年三月三一日までの嘱託社員としての期
間四か月は、基本給一三万五三〇〇円、係数〇・五として計算した額の三分の一で
あるから七五一六円となる。そして、被告は原告に対し、昭和六〇年五月一五日に
これらを合計した二〇万四八二八円を支払済みであり、しかもその際右計算につい
ては原告の異議がなかったもので、もはや被告が原告に対して支払うべき退職金は
存しない。
       理   由
一 原告は従来清水水産と雇用契約を締結し、同社に勤務していたこと、昭和四七
年四月一日、原告は同社から同社との雇用契約を継続したまま被告への出向を命ぜ
られて、同日から被告に勤務したことは当事者間に争いがない。そして、原告本人
尋問の結果(第一回)によれば、原告が清水水産と雇用契約を締結したのは、昭和
二三年八月一日であったことが認められる。
二1 甲第一、第二号証及び証人a、同bの各証言、原告本人尋問の結果(第一
回)に弁論の全趣旨を総合すると、被告は、昭和二八年に設立されたが、その後ま
もなく経営不振に陥り、清水水産の子会社としてその支配下に置かれることとな
り、そのため、清水水産の代表取締役が被告の代表取締役を兼務するほか、清水水
産から被告に社員が出向することもあり、原告も昭和四七年四月一日に被告に出向
を命ぜられて、同日以降被告に勤務していたこと、被告は、昭和五三年九月三〇
日、清水水産から独立したが、それまで清水水産から被告に出向していた者は、本
人の希望によって、清水水産に戻るか被告に留まるかを選択することになり、原告
はこのとき被告に留まることを望んだので、清水水産から出向を解かれて同社を退
職するとともに、以後被告の社員として被告に勤務することになったことが認めら
れる。
2 被告は、昭和五六年一一月二五日、当時被告の業務課長であった原告が粉飾決
算に関与して被告に相当な損害を与えたことを理由に懲戒解雇し、その後同年一二
月一五日、再び原告を採用し、原告はその後昭和六三年三月三一日まで被告に勤務
した旨の主張をしており、被告代表者本人(第一、第二回)はこれに沿う供述をす
る。しかし、甲第六、第八、第九、第一一号証、乙第一ないし第一五号証、第一六
号証の一ないし三、第一七ないし第二四号証、第三八、第三九号証ならびに証人
a、同c、同bの各証言及び原告本人尋問の結果(第一、第二回)によれば、原告
は昭和四八年当時被告の業務課長の地位にあり、当時の被告の総務課長bから、被
告の対外的な信用のためにはどうしても決算で黒字とならなければならず、そのた
め決算書に添付する架空の棚卸表を作成する必要があるから協力して欲しい旨の申
入を受け、以後昭和五三年に現在の被告代表者に知られるまでこれに協力していた
ものの、原告はこれを自己の不正行為の隠ぺい、あるいは役員の不正な賞与の取
得、蛸配当などのために行ったわけではなく、もっぱら会社や従業員の利益のため
にはやむをえないと考えて行なったものであること、また、原告は、被告が原告を
解雇したとする昭和五六年一一月二五日当時、被告から懲戒解雇の通知を受けてい
ないこと、原告には就業規則第六九条二項を根拠に懲戒処分が発令されたとされて
いるが、同条項は無断欠勤を理由とする解雇を定めるものであって原告の場合には
あたらないこと、原告は昭和五六年一一月、一二月にはその前後と変わりなく被告
から給与の支払いを受け、また社会保険の関係でも被告との雇用が継続していた形
となっていること、原告は、昭和五六年一二月になって、被告の求めにより、被告
に対し、「始末書」、「詫び状」、「誓約書」といった書面を提出しているが、こ
れらの書面は雇用主が従業員を引き続き雇用する場合に要求する性格のものである
と考えられ、これらの書面が原告の解雇を前提として徴求されたとするのは不自然
であること、被告は昭和五八年七月一七日に開催した創立三〇周年記念式典におい
て、原告を勤続一〇年以上の者として表彰していることが認められ、これらの事実
によれば、被告が原告を有効に懲戒解雇した事実があったものとはいえない。
3 以上によれば、原告は、昭和五三年九月三〇日から昭和六〇年三月三一日まで
の間、被告との間で雇用関係にあったものと認めるのが相当である。
三 甲第三、第四、第一一号証、乙第四〇、第六七、第六八号証及び証人a、同d
の各証言、原告本人尋問の結果(第一、第二回)によれば、原告が清水水産を退職
した昭和五三年九月三〇日当時、清水水産の退職金規定が定める退職金支払基準
は、退職時における基本給に勤続年数(一年に満たない期間は月額により計算し、
一か月に満たない期間は切り捨てる。)を乗じたうえ、それに勤続年数一年以上か
ら三〇年未満までを七段階に区分した勤続年数に対応する支給率を乗じて算出し、
本人の都合で退職する場合にはさらにこれに所定の割合を乗じて減額し、また、三
〇年以上については右に準ずる額において会社で決定支給するという内容であった
こと、退職当時の原告の基本給は一か月一三万五三〇〇円であったことが認められ
る。そして、原告は昭和二三年八月一日から昭和五三年九月三〇日まで清水水産と
雇用関係にあったことはすでに認定したとおりであるから、これによれば原告の清
水水産への勤続年数は三〇年二か月となるものであるところ、清水水産が原告につ
いての退職金額をどのように定めたか明らかでないが、少なくとも勤続年数三〇年
未満の場合を下回ることはなかったと認めうるから、支給率を勤続年数二六年以上
三〇年未満の場合の一・五を適用して原告に支払われるべき退職金額を計算する
と、六一二万二三二五円となる。
 なお、甲第四号証は清水水産の退職金規定であり、そこには、退職金の支払基準
としてその計算の基礎には、基本給に「物価手当」を加える旨の記載があるが、右
退職金規定が効力を有していた時期が不明であるうえ、これを除いた前記各証拠に
よれば、清水水産と退職金計算の方法を同じくする被告では、退職金の計算の基礎
となるのは基本給に限られていること、また、清水水産も後述のように、被告と退
職金負担の調整をする際、その前提としてやはり同様に基本給のみを計算の基礎に
考えていたことが認められるから、甲第四号証の右記載が前記認定を妨げるもので
はない。
四 甲第三号証、第七号証の二、乙第四九、第六八号証ならびに証人a、同c、同
bの各証言及び原告本人尋問(第一回)、被告代表者尋問(第三回)の各結果によ
れば、被告が清水水産から独立する昭和五三年九月三〇日以前においては、清水水
産から被告へ出向している社員が出向中に停年を迎えた場合には、清水水産で勤務
していた期間は清水水産が、被告で勤務していた期間は被告がそれぞれ負担し、清
水水産から当該退職社員に退職金を支払うようになっていたこと、清水水産は、被
告が昭和五三年九月三〇日清水水産から独立した際、被告に対し、昭和五三年一〇
月一二日付けの「SGK退職金明細」と題する書面(甲第三号証)を送付したが、
これには清水水産から被告へ出向していた者について、被告に留まることを望んだ
者(原告を含む四名)と清水水産に戻ることを望んだ者(八名)について、当時の
時点での退職金額を計算し、前者について清水水産が負担し、被告に送金すべき分
と、後者について被告が負担し清水水産に送金すべき分とを合計し、その両者の差
額を清水水産が被告に送金する旨の記載があること、また、右書面に記載されたe
は、原告と同様清水水産から被告に出向し被告に留まることになった者であるが、
その退職金として記載された清水水産分五二二万円、被告分一一四万三〇〇〇円の
合計六三六万三〇〇〇円は、昭和五四年一月二五日に被告から右eに支払われた退
職金額と一致すること、さらに、右書面に記載された原告の退職金合計額は六一二
万三〇〇〇円であるが、これは前記計算によって算出した六一二万二三二五円とほ
ぼ一致することが認められる(なお、清水水産が作成したと認められる乙第六八号
証には、原告の退職金を計算した結果として六一二万二三二五円との記載があ
る。)。右認められる事実によれば、昭和五三年九月三〇日に被告が清水水産から
独立する際、清水水産と被告との間で、清水水産から被告に出向していた者のう
ち、以後被告の社員として勤務することを希望した者については、その退職金のう
ち清水水産で勤務していた期間に相当する部分は清水水産が、被告で勤務していた
期間に相当する部分は被告がそれぞれ負担することにし、その合計額を被告から被
告を退職する際に当該社員に支払う旨の合意があったものと認めるのが相当であ
る。
 なお、右合意は清水水産と被告との間のものであり、これにより直ちに原告が被
告に対する退職金相当額の請求権を取得するものとはいえないが、右合意は退職金
の支払を受けるについて利益を有する原告のために行われたものであるから、民法
五三七条以下の定めるいわゆる第三者のためにする契約にあたるものであると解さ
れるところ、原告は昭和六〇年五月二五日ころ、被告に対し右金額を含め退職金を
支払うよう請求しているのであるから(被告はこれを明らかに争わないので、自白
したものとみなす。)、原告はこれにより被告に対し民法五三七条二項の意思表示
をしたものということができ、結局、原告は被告に対し、右六一二万二三二五円の
支払請求権を有するものというべきである。
五 すでに認定した事実に、甲第七号証の二、第一四号証、乙第四〇、第四二、第
四三号証及び証人a、同d、同bの各証言、原告本人尋問の結果(第一回)及び弁
論の全趣旨を総合すれば、原告は昭和五九年一二月四日に被告の定める停年に達
し、以後自己都合により退社する昭和六〇年三月三一日まで嘱託社員として被告に
勤務したこと、昭和五九年一二月四日当時、被告の退職金規定は清水水産のものと
同様であったこと、原告が被告に社員として勤務したのは、昭和五三年九月三〇日
から昭和五九年一二月四日までの六年二か月であったこと、これに対応する支給率
は一・一であること、また昭和六〇年三月三一日当時、被告の退職金支払特例によ
り、停年以後の退職金計算は、退職時の基本給の三分の一を支給することとされて
いたこと、退職当時の原告の基本給は一か月一三万五三〇〇円であったことが認め
られる。これらに基づいて被告が原告に対して支払うべき退職金の額を計算すれ
ば、昭和五三年九月三〇日から原告が停年に至るまでの分は九一万七七八五円、原
告の停年後の分は四万五一〇〇円で、合計九六万二八八五円となる。そして、証人
dの証言及び原告本人尋問の結果(第三回)によれば、原告は被告から、昭和六〇
年五月一五日に退職金としてすでに二〇万四八二八円の支払を受けていることが認
められるから、結局、原告が被告に対して請求しうるのは七五万八〇五七円であ
る。
六 以上によれば、原告の本訴請求は、六一二万二三二五円と七五万八〇五七円を
合計した六八八万〇三八二円を求める限度で理由がある。また、原告のする遅延損
害金の請求のうち、右六一二万二三二五円については、原告が被告に対し、民法五
三七条二項の意思表示をした日の翌日である昭和六〇年五月二六日以降の分を求め
る限度で、また、七五万八〇五七円についても、右請求権が原告の退職によって当
然に遅滞に陥るものであることを認めるに足りる証拠はないから、原告が被告に対
して現実に退職金の支払を請求した日の翌日である昭和六〇年五月二六日以降の分
を求める限度で理由がある。
 よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 磯部喬 伊藤紘基 濱口浩)

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