弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人稲村良平の上告理由一について。
 所論は、上告人の本位的請求に関する訴を却下すべきものとした原審判断に法令
違背があるというのである。
 よつて案ずるに、上告人は、被上告人を相手とし、本位的請求として、仙台地方
裁判所昭和四〇年(ケ)第七一号不動産競売事件につき同裁判所が作成した交付表
の変更を求め、予備的請求として、不当利得の返還を求めたのに対し、被上告人は、
本位的請求につき第一次的に訴却下、第二次的に請求棄却の判決を求め、予備的請
求につき請求棄却の判決を求めたところ、一審は、本位的請求につき訴を却下し、
予備的請求につきその一部を認容しその余の請求を棄却する旨の判決をしたのに対
し、被上告人が予備的請求に関する敗訴部分につき控訴したのである。したがつて、
控訴審である原審においては、上告人の本位的請求部分は、審判の対象とはなつて
いないのであつて、原判決が、右請求に関する訴は不適法であると判示したことは
その必要がなかつたもので、主文に影響するものではないのであるから、所論は、
原判決の傍論を非難するにすぎず、採用することができない。
 同二について。
 所論は、上告人の予備的請求に関し不当利得の成立を否定した原審判断に法令違
背があるというのである。
 所論の点に関し原審が確定した事実関係は、(1)上告人は、昭和三九年九月訴外
D工業株式会社から当時農地であつた第一審判決添付別紙目録記載の土地(以下「
本件土地」という。)を買い受けてその所有権を取得した後、これを宅地に造成す
ることとし、訴外有限会社E建設に請負わせて同年一二月から昭和四〇年一月ごろ
までの間埋立工事をして宅地とし、その請負代金として合計一二〇〇万円を支払つ
た、(2)本件土地には上告人がその所有権を取得する以前に訴外D工業株式会社を
債務者とし、被上告人を債権者とする根抵当権(仙台法務局昭和三九年一月一八日
受付第一五四〇号)等が設定されていたため、昭和四〇年六月二一日本件土地に対
して抵当権の実行による競売手続が開始され(仙台地方裁判所昭和四〇年(ケ)第
七一号事件)、昭和四三年九月九日訴外株式会社F商会外一名に対し代金六四八〇
万円で競落許可決定がされた、(3)一方上告人は、本件土地につき前記の宅地造成
のため一二〇〇万円の有益費を支出しているとして右競売代金六四八〇万円から右
の有益費の償還を受けるため競売裁判所にその配当要求をしたが、それが競落期日
の後になされたものであつたため、結局昭和四四年一月二一日同裁判所において右
配当要求金額が計上されない第一審判決添付別表第一のごとき交付表が作成され、
右競売手続上は右有益費が上告人に交付されず、右有益費に相当する金員が被上告
人らに配当されることになつている、というのである。
 上告人は、右事実関係のもとにおいて、被上告人が右別表第一の交付表どおりの
交付金を受領するときは、被上告人は、上告人が右競売代金から優先償還を受けう
べき金員のうち被上告人に対する配当分に相当する金額を上告人の損失において不
当利得することになると主張して、被上告人が右交付金を受領することの条件のも
とに右不当利得の返還を求めたところ、原審は、これに対し、右の場合に利得をう
けるのは、そのため余分の債務消滅の利益を受ける債務者(訴外D工業株式会社)
であり、また、被上告人の利得には法律上の原因がないものとはいえないとして、
上告人の右請求を排斥したのである。
 しかし、抵当不動産の第三取得者が、抵当不動産につき必要費または有益費を支
出して民法三九一条にもとづく優先償還請求権を有しているにもかかわらず、抵当
不動産の競売代金が抵当権者に交付されたため、第三取得者が優先償還を受けられ
なかつたときは、第三取得者は右抵当権者に対し民法七〇三条にもとづく不当利得
返還請求権を有するものと解するのが相当である。けだし、抵当不動産の第三取得
者が抵当不動産につき支出した必要費または有益費の優先償還を受けうるのは、そ
の必要費または有益費が不動産の価値の維持・増加のために支出された一種の共益
費であることによるものであつて、右償還請求権は当然に最先順位の抵当権にも優
先するものであり、したがつて、抵当権者は、右第三取得者に対する関係において
は、その第三取得者が受けるべき優先償還金に相当する金員の交付を受けてこれを
保有する実質的理由を有しないというべきであり、また、誤つて競売法三三条によ
り抵当権者に右金員の交付がなされたとしても、その交付行為は抵当権者がその交
付を受けうる実体上の権利を確定するものではないからである。もつとも、抵当権
者に右の交付がなされた場合、一見抵当権者の債権が消滅し債務者が債務消滅の利
得を得たかのような外形を呈するが、そうであるからといつて、交付を受けた抵当
権者に利得がないとはいえないから、これを理由に抵当権者の不当利得を否定する
ことはできない。
 してみれば、これと異なる見解のもとに上告人の被上告人に対する不当利得返還
請求権を排斥した原審の判断には、法令違背があり、その違法は原判決の結論に影
響を与えることが明らかである。よつて、民訴法四〇七条一項により、原判決を破
棄し、本件は上告人に認容さるべき金額等につきなお審理を必要とするからこれを
原審に差し戻すこととし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸   上   康   夫

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