弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人に金員の支払を命じた部分を破棄する。
     右部分につき本件を広島高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人原定夫の上告理由について。
 原審において上告人が提出した抗弁は、本件委任契約においては、上告人が被上
告人から売却の委託を受けた田・山林の売却代金をもつて、(一)被上告人の債務
を弁済し、(二)売却、負債整理の費用を支弁し、(三)被上告人のため約二町歩
の薪炭林を購入すること、右売却代金から、右(一)ないし(三)の約定に基づき
支出した金員ならびに別に被上告人に引き渡すべき七万円を控除した残額は、すべ
て委任事務処理の報酬として上告人の所得とすることとの特約があつたから、被上
告人に対し右残額の引渡義務を負わないというのであり、その趣意とするところは、
上告人が受くべき報酬の限度においては、売却代金残額の支払義務を負わない旨の
特約があつたと主張するにあると解するのが相当である。されば、上告人主張の報
酬額に関する特約の事実を認定できないからといつて、その一事によつて直ちに抗
弁を排斥すべきではなく、報酬の特約そのものを認定しうるかぎり、当事者の意思
を忖度し諸般の事情勘案して相当な報酬額を認定したうえ、前記売却代金残額から
該報酬額を控除し、もつて、残額引渡義務の有無ないしその金額を判断すべきもの
といわなければならない。
 しかるに、原判決は、上告人の抗弁が前記のような趣意を含むことについて顧慮
した形迹がなく、そのため、「被控訴人は委任当時控訴人に対し報酬を支払う旨暗
黙に約したことが窺われないではない」と判示して、報酬の特約があつたことを認
定しながら、単に上告人主張のような報酬額に関する定めは肯認できないとするの
みで、進んで、当事者の意思および諸般の事情を審究して相当報酬額を認定するこ
となく、直ちに上告人の抗弁を排斥し、もって本件の場合真に上告人において引き
渡すべき金額を確定しなかつたのは、当事者の主張を正解しないことによつて審理
不尽理由不備の違法に陥つたものといわなければならない。論旨は理由があり、原
判決中上告人に対し金員の支払を命じた部分は破棄を免れない。
 よつて、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介

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