弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件抗告を棄却する。
         理    由
 本件抗告の趣意は,違憲をいう点を含め,実質は単なる法令違反の主張であって
,刑訴法433条の抗告理由に当たらない。
 なお,所論にかんがみ,職権で判断する。
 【要旨1】刑法26条1号の規定による本件刑の執行猶予言渡しの取消請求手続
において,被請求人(成人)から刑訴法349条の2第1項に基づく求意見に対す
る回答を含む一切の権限の委任を受けたとする被請求人の母親は,刑訴法355条
にいう「原審における代理人」に該当せず,本件刑の執行猶予言渡しの取消決定に
対して,被請求人のため即時抗告を申し立てる権限はないと解すべきである。また
,反対意見が指摘するように,【要旨2】被請求人の母親は,上記委任とは別に,
被請求人から即時抗告に関する権限の委任を受けているが,上訴について,弁護士
以外の者による委任代理は明文の規定がない以上許すべきではないから,母親のし
た本件即時抗告の申立ては,この委任に基づくものとしてみても,不適法である。し
たがって,これと同旨の原判断は正当である。
 よって,刑訴法434条,426条1項により,主文のとおり決定する。
 この決定は,裁判官泉徳治の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見による
ものである。
 裁判官泉徳治の反対意見は,次のとおりである。
私は,被請求人の代理人Aによる本件即時抗告の申立ては適法であるから,原決定
を破棄し,原々決定を取り消して,被請求人に対する刑の執行猶予言渡しの取消請
求を却下すべきであると考える。その理由は,次のとおりである。
 1 原決定は,本件即時抗告の申立人は被請求人の母親であるAであるところ,
Aには即時抗告の申立権がないから,本件即時抗告の申立ては申立権のない者によ
ってなされた不適法なものであるとして,刑訴法426条1項の規定により本件即
時抗告を棄却した。しかし,本件即時抗告の申立人は,被請求人本人である。福岡
簡易裁判所から原々決定である刑の執行猶予言渡しの取消決定の送達を受けた被請
求人は,「私は,Aを代理人と定め,刑の執行猶予言渡取消決定に対する即時抗告
に関する一切の権限を委任します。」との委任状をAに交付し,Aは,この委任状
を添えて,被請求人を抗告人,Aを抗告人代理人と表示した本件即時抗告の申立書
を福岡簡易裁判所に提出した。Aは,被請求人の本件即時抗告の申立てを代理した
者にすぎない。刑事訴訟においても,当該行為が代理を許してならないものでない
以上,正規の弁護士を代理人として代理名義で訴訟行為をすることができるもので
あることは,当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和23年(れ)第37
4号同24年1月12日大法廷判決・刑集3巻1号20頁)。そして,即時抗告の
申立ては,代理に親しむ行為である。問題は,弁護士資格を有しない一般人が即時
抗告の申立てを代理することができるか否かということであるが,少なくとも,刑
の執行猶予言渡しの取消決定に対する即時抗告の申立ては,一般人が代理できると
解するのが相当である。刑の執行猶予言渡しの取消手続において,被請求人にとり
最も重要な行為は,刑訴法349条の2第1項の規定により意見を述べることであ
るが,同項は,一般人が刑の執行猶予の言渡しを受けた者の代理人として意見を述
べることを認めている。このように,刑訴法が,刑の執行猶予言渡しの取消手続に
おいて,最も重要な部分で一般人の代理を認めていることからすれば,刑の執行猶
予言渡しの取消決定に対する即時抗告の申立てについても,一般人の代理を許容し
ていると解するのが相当である。本件においても,母親であるAが,入院中の被請
求人の代理人として委任状を添付の上,刑訴法349条の2第1項の規定による意
見書を提出し,福岡簡易裁判所は,同意見書の提出により被請求人の意見を聴いた
ものとして,原々決定である刑の執行猶予言渡しの取消決定を行っているのであり
,被請求人において,同決定に対する即時抗告の申立てもAを代理人として行える
ものと考えたとしても,無理からぬものがあるというべきである。
 2 上記の理由により,本件即時抗告の申立ては適法であるというべきであり,
これを不適法とした原決定を破棄しなければ著しく正義に反すると認められるので
,刑訴法411条1号の規定を準用し原決定を破棄するのが相当である。そして,
被請求人の刑の執行猶予期間は既に経過しており,刑の言渡しは効力を失っている
から,原々決定を取り消し,被請求人に対する刑の執行猶予言渡しの取消請求を却
下すべきである。
(裁判長裁判官 島田仁郎 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉
 徳治 裁判官 才口千晴)

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