弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被上告人総理府恩給局長に関する部分につき本件上告を棄却する。
     被上告人内閣総理大臣に関する部分につき本件上告を却下する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人上田誠吉、同荒井新二の上告理由第一点について。
 恩給裁定についての審査請求が法定の期間経過後になされた不適法なものである
場合には、右審査請求は本来裁決で却下を免がれないものであつて、たとえこれに
対し実体審理のうえ棄却の裁決がなされたとしても、右裁決は、恩給法一五条ノ二
所定の「審査請求ニ対スル裁決」にあたらないものと解するのが相当である。そし
て、本件審査請求が法定の期間経過後になされた不適法なものであることは、後に
第二点について判示するとおりであるから、本件の棄却裁決は前記の「審査請求ニ
対スル裁決」にあたらないものというのほかはない。それゆえ、本件裁定取消しの
訴えは、前記の「審査請求ニ対スル裁決」を経ないもので不適法であり、これと同
旨の原審の判断は正当である。
 論旨は、ひつきよう、独自の見解に立脚して原判決を論難するものであつて、採
用することができない。
 同第二点について。
 本件審査請求が、本件異議決定のあつたことを知つた日の翌日から起算して恩給
法一四条一項所定の六か月の期間を経過した後になされたものであることは、原審
の確定するところである。ところで、所論は、被上告人総理府恩給局長(以下局長
という。)が行政不服審査法(以下行審法という。)四七条五項(五七条とあるの
は上記の誤記と認める。)の規定に違反して本件異議決定書に審査請求期間を教示
しなかつたから、上告人に対し審査請求期間徒過の不利益を課しえない、と主張す
る。本件記録によると、本件異議決定書に右の教示がなされていなかつたことは所
論のとおりであるが、行政庁が異議決定書に記載すべき審査請求期間の教示を怠つ
た場合に、審査請求期間の進行が妨げられるものと解すべき根拠はなく、なお、本
件記録によると、本件裁定書には、処分のあつたことを知つた日の翌日から起算し
て一年以内に異議申立てができる旨の教示がなされていることが認められるところ、
仮に、上告人が、本件異議決定書に審査請求期間についての教示がなされていなか
つたことから、本件裁定書に教示されていた異議申立期間がそのまま審査請求期間
にも妥当するものと誤信したために、法定の期間内に本件審査請求をしなかつたこ
とが、行審法一四条一項ただし書所定の「やむをえない理由」に該当すると解する
余地があるとしても、本件記録によると、上告人は昭和三九年八月二三日に本件審
査請求をなしうる期間が本件異議決定のあつたことを知つた日の翌日から起算して
六か月であることを知つたこと、それにもかかわらず、上告人が本件審査請求をし
たのは昭和三九年九月一日であることが認められるから、本件審査請求は、同条二
項所定の期間経過後になされたものといわざるをえず、したがつて、同条一項ただ
し書の規定を根拠にして、これを適法なものと解することはできない。それゆえ、
上告人の本件審査請求は、法定の期間経過後になされた不適法なものというべきで
ある。なお、所論は、本件審査請求が行審法五八条の不服申立てに該当すると主張
するが、それによつて、いかなる法的効果を主張しようとするのかが不明であるの
みならず、本件審査請求を右不服申立てと解する余地は全くない。
 論旨は、ひつきよう、独自の見解に立脚して原判決を論難するものであつて、す
べて採用することができない。
 同第三点について。
 本件審査請求の適否は、本件裁定取消しの訴えの適否に関するものであつて、職
権調査事項に属するから、局長の主張のいかんによつて、その判断が左右されるも
のではないことはいうまでもない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用するこ
とができない。
 なお、原判決のうち、上告人の被上告人内閣総理大臣に対する本件裁決取消しの
訴えに関する部分については、上告人は、上告の理由を記載した書面を提出してい
ない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、三九九条の三、三九九条、三九
八条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸   上   康   夫

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